遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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邪神との決闘4

「クライマックスだと? くだらん。ここからはただのエンドゲームでしかない。貴様は終わりなのだ人間」

ずいぶん強気だな。

「俺にはまだ3枚の伏せカードがある。これを突破するのは少々厳しいんじゃないのか?」

「ふ、笑わせるなよ人間。貴様の目論見などお見通しだ。貴様の3枚の伏せカードはどれも儂のモンスターに影響力を与えるカードではあるまい」

「へえーーー」

こいつは驚いた。まさか読まれてるとはな。腐っても邪神様というわけか。

確かに奴の言う通り、俺のデッキに入ってるトラップはDP不足のため、どれも癖の強いカードばかりだ。聖なるバリアミラーフォースのような安定した強さが見込めるカードは入ってない。

俺はこのターン。レシェフの5体のモンスターの攻撃を全て受けるしかないのだ。

「貴様はこのターンで終わりだ。故に儂は1つだけ聞きたいことがある」

「なんだ?」

「なぜ儂に決闘を挑んだ? 貴様のその身体は決闘が出来る身ではあるまい」

「……」

『え、マスターどういうことですか?』

気付かれていたか。流石は邪神様と言うべきか。

『マスター! 答えて下さい!!』

バニラが俺に詰め寄ってくる。ち、流石にもう隠しきれないか。

「少しばかり体調が悪いだけだ。気にするな」

『気にします!! どうして言ってくれなかったんですか!?』

本気で怒っているバカ娘に俺は肩をすくめた。

「聞かれなかったからな」

『マスター!』

まだ何か言ってくるバニラを俺は無視した。

「それで? 俺に聞きたいってことはそれだけか?」

「そうだな。まあ、大方の予想はついているがな」

「へえ。なんて予想したんだ?」

邪神がどういう予想をしたのか少し興味がある。

 

 

 

 

「貴様ゾークの娘に惚れているな?」

 

 

 

 

 

「貴様ゾークの娘に惚れてるな」

「え?」

 思わず私は声を出してしまいました。黒乃様が雪乃様のことをお慕いしている?

 ですがそれならあの身体でレシェフ様に決闘を挑んだ理由も説明がつきます。

 決闘を始まりとなったのはレシェフ様が雪乃様を挑発され、それに雪乃様が激昂しそうになっていたからです。もしあの時黒乃様がレシェフ様に決闘を挑まなければおそらく雪乃様はレシェフ様に手を出し、その立場を悪くされていたでしょう。

 それを避けるために先に黒乃様がレシェフ様を挑発したということは分かっていました。

 しかしそんな想いを黒乃様が秘めていたとは、分かりませんでした。

 ちらりと、どうしても雪乃様がどんな表情をしているのかが気になり、雪乃様の表情を伺ってみましたが、

「……」

 雪乃様は完全に無表情……いえ、興味のなさそうな顔をしていました。隣にいるゾーク様も同じです。

 良かった。もしかしたら先程の時のようにまた黒乃様の好感度が上がってしまうかと思って心配でしたが、杞憂だったようですね。

 ですが普通はこっちの方で好感度は上がったりするものですが、二人共いたって冷静ですね。

 良かったです。流石に私としてもあの顔芸さんが雪乃様と恋仲になられるのは少し抵抗があります。雪乃様ならもっとまっとうでいい人を見つけられるはずです。

 黒乃様に視線を戻すと、黒乃様は顔を俯かせていました。

 もしかしたら照れてるのか? と思っいましたが、私は次の瞬間思い知らされることになります。

 黒乃様がどういう男性なのかを。

 

 

 

 

「くくく、くはははははははは!!!」

 

 

 

 

 大爆笑。多分表現するならそれが一番適切でしょう。

 顔を上げた黒乃様は腹を抱えて笑いはじめました。

 えと、ここまでのくだりで笑うところってありましたっけ?

「何がおかしい!?」

 レシェフ様がお怒りになります。すいません。今回ばかりはレシェフ様がお怒りになるのもわかります。

「バカかお前は? 俺が雪乃に惚れてる? 的外れもいいところだ!」

「な、なに!?」

「意外とロマンチストな邪神様には悪いが、むしろ俺はあのエロ娘が嫌いだ。ここまで振り回されまくってるからな」

 笑いながら黒乃様は断言しました。って、流石にそれは言い過ぎじゃないでしょうか? いくらゾーク様と雪乃様でもこれは怒られますよ!

「ふ、清々しく潔いな。男はああでなくては……」

 って、なんかまたゾーク様の黒乃様に対する好感度が上がってます!? え、どうしてですか!? 普通娘があんな言い方されたら怒りますよ!?

 ……は、雪乃様は!? 雪乃様はどんな反応を!? 流石に自分のことが嫌いと言われれば怒られ……

 

 

 

 

「先生……」

 

 

 

 

 なんかトキめいてらっしゃるーーーーーー!!!???

 なんで? どこにそんな反応をする要素がありましたか!?

「先生の中に男を見たわ……」

 どこに!? どこにそんなところありました!? 

 え、これわたしがおかしいのでしょうか!? 

 誰でもいいから答えて欲しいです! 私が異常なんでしょうか!?

 

 

 

 完全に的外れなレシェフの読みに俺は笑い死ぬところだった。こちとらけが人なんだ。あんまり壮大なボケは勘弁してもらいたいものだ。

「ならば何故、決闘を挑んだ!?」

 分からないと言うふうに、叫ぶレシェフに俺はため息を吐いた。

「簡単は話さ。俺は借りは返さないと気が済まない主義ってだけだ」

「なに?」

 借り……一泊の借りと各食事は雪乃のために巻き込まれたここまでのことでほぼ帳消しになるが、一つだけまだ借りが残っている。

 

 

 

 

「あいつには肉まん一個分の借りがあるからな。これはそれを返すための決闘だ」

 

 

 

 

「……」

 邪神が沈黙した。それどころか、隣にいるバニラさえ、呆然と俺を見ている。

 なんだ? 俺、変なこと言ったか?

『マスター……』

(なんだ?)

『その、失礼を承知で言いますが……』

 

 

 

 

 

『マスターはバカですか?』

 

 

 

 

「お前よりはましだ」

 だが、バカであることは否定しない。よく言われるしな。

「……ふざけるな」

「ん? どうした邪神様よ? よく聞こえなかったぞ?」

「ふざけるなと言ったのだ!! 貴様、まさか邪神たるこの儂をたかが肉まん一個分の価値で決闘を挑んだというのか!?」

「十分すぎるだろ?」

 邪神様の相手はそれだけでもお釣りが返ってくる。

「貴様は完膚なきまでに、叩き潰す!! バトルフェイズだ!!」

 どうやら邪神様の逆鱗に触れてしまったようだ。こいつは少々まずいかな?

「ラビードラゴンで貴様に直接攻撃する!!」

「俺に少しでも多くの苦痛を味あわせるために、攻撃力5000のF・G・Dではなくあえてラビードラゴンで来るか……」

 

 

 だが少々甘いな。

 

 

「俺はこの瞬間に墓地のトラップ幻想騎士団シャドーベイルの効果を発動する」

「なに!? 墓地からトラップだと!?」

「直接攻撃を宣言された時、このモンスターを攻撃力0守備力300の通常モンスターとしてモンスターカードゾーンに守備表示で特殊召喚する。ただし、フィールドから離れた場合、このモンスターは除外される」

 俺のフィールドに文字通り幻の騎士が現れる。

「く! だが所詮は1体! そんなもの大した壁にはならんぞ!!」

「その通りだ」

 一体ならな。

「ところで邪神様よ。幻想騎士団って言うのに、騎士が1人しかいないのは少しつまらないと思わないか?」

「どういう意味だ?」

「せっかくだから騎士団を招集しようってことだよ。トラップ発動」

 言いながら、俺は伏せておいた1枚のカードを発動する。

「マジカルシルクハット」

「マ、マジカルシルクハットだと!?」

 レシェフが驚愕の顔で俺を見る。いいねその反応だ。それを見たかった。確かに普通ならこのカードは特殊なデッキ以外はあまりデッキに入らない。

 だが、このカードこそ俺のデッキの守りの切り札(ジョーカー)だ。

「マジカルシルクハットは相手のバトルフェイズ中にのみ発動できる。デッキから魔法またはトラップカードを2枚選び、モンスターカード扱いとして自分フィールドの表側表示モンスター1体と合わせてシャッフルして裏側表示でセット出来る」

「っ。だが甘い! たとえ3体に壁を増やそうとも儂のモンスター2体の攻撃は防ぎきれん!!」

「どうかなそれは?」

「なに!?」

 言ったはずだぞレシェフよ。騎士団を招集するってな!

「俺がデッキから選ぶのは2枚のトラップカード幻想騎士団シャドーベイルだ」

「なんだと!?」

 フィールドにいたシャドーベイルを現れた3個のシルクハットの一つが被さり、フィールドでシャッフルされる。

 すでにいた墓地から特殊召喚したシャドーベイルも1度裏側表示になったことにより、フィールドから離れた場合除外される効果は消える。これで俺の鉄壁の守りは完成した。

「さあ、邪神様。あんたの運の見せ所だ。当たりはシャドーベイル。確率は三分の一だぞ?」

「全部同じだろうが!!」

「くくく。これは失敬。俺としたことがうっかりしてたよ」

「貴っ様ぁ!!!! 」

 レシェフが俺のシルクハット3体を大邪神レシェフと二体のラビードラゴンで攻撃させる。

「シルクハットは全滅だ」

 さてさて、問題はここからだが。2体のモンスターの攻撃を残した邪神様はどういう選択をとる?

「ラビードラゴンで直接攻撃!!」

「くくく……」

 どうやら挑発しすぎたようだな。完全に怒りで我を忘れている。

「俺は墓地の3枚の幻想騎士団シャドーベイルの効果を発動する。説明は不要だな?」

「いらん!!」

「なら墓地から再び幻想の騎士団は招集される」

「3体の内、2体は戦闘破壊する!!」

「戦闘破壊されたシャドーベイル達は自身の効果で除外されます。流石は邪神様。お見事です」

「---っっっ!!!」

 おうおう。怒ってる。あの邪神様。本当に煽りに弱いな。おかげでやりやすくて助かる。

「儂はカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

「この瞬間に、リバースカードオープン永続トラップ リビングデットの呼び声。俺は墓地よりエルシャドール ウェンディゴを特殊召喚する。戻ってこいウェン子」

『わたし、ふたたびさんじょう』

 フィールドに舞い戻る俺のマスコット。

 ……これで全てのジョーカーが揃った。

「俺のターンだドロー っ!?」

 ずきりと、心臓に激痛。

『マスター! 血が!?』

 バニラに言われ見てみると、確かに左胸のあたりから血が滲み出していた。

「ふははは!! どうやら、お前の身体はもう限界のようだな! その様子ではこのターンが限界であろう!!」 レシェフが俺を嗤う。だが俺も奴のことを笑ってやった。

「くく、それだけあれば十分だ」

 既に俺の場にはジョーカーは揃っている。

「馬鹿か貴様は! 儂のLPは6700! 更に伏せてあるカードはトラップカードくず鉄のカカシだ!貴様がどんな強力モンスターを呼ぼうとも、儂をこのターンで倒すことなど不可能だ!!」

「くくく……」

「なにがおかしい!!!」

 やれやれだ。自らトラップを教えるとは……もう奴に言うことは何もないな。

 

「俺は守備表示の幻想騎士団シャドーベイルを攻撃表示に変更する」

「なに? このタイミングで雑魚を攻撃表示にするだと!?」

「そしてウェンディゴの効果を発動。1ターンに1度、俺のモンスター1体を指定し、そのモンスターはこのターン特殊召喚されたモンスターとの戦闘では破壊されない。俺はこの効果でシャドーベイルを指定する」

「なにがしたいのだお前は!?」

 レシェフが戸惑っているのが分かる。無理もない。確かに俺でもこんな光景見たら、同じ反応をするだろう。

 だが、これが今の俺。黒崎 黒乃の決闘だ。

「そして手札より魔法カード強制転移を発動する」

「強制転移だと!?」

 レシェフの声に少しばかりの焦りが見える。

 そりゃそうだよな? 強制転移。この魔法は互いの場にいるモンスター1体のコントロールを交換するカード。

「俺からのプレゼントは当然シャドーベイル。さあ、あんたはなにをくれる?」

「儂が渡すのは……ラビードラゴンだ」

 俺のフィールドからシャドーベイルが去り、ラビードラゴンがやってくる。

 さて、これで舞台は整った。

「俺は手札からE・HEROエアーマンを召喚し、召喚時効果でデッキからHEROモンスターを手札に加える。おれはこの効果でE・HEROボルテックを手札に加える」

「なにをする気だ!?」

 もうレシェフの声は震えていた。俺が起こすであろう『何か』に恐怖しているのだ。俺は笑みを深めた。

「そして伏せていた最後のリバースカードオープン―ー伏せていたのは融合だ」

「融合だと!? しかし、どんなE・HEROを呼ぼうと、儂を倒すことなど……!」

「呼ぶのはE・HEROじゃない」

「なに!?」

 もとより今の俺のデッキに、E・HEROの融合モンスターはGreat TORNADOのみ。DP不足の中、俺がアンロックした融合モンスター。

 それは――

「俺は場のE・HEROエアーマンと手札のE・HEROボルテック、E・HEROプリズマーの3体で融合!!」

「さ、3体融合だと!?」

 

 

 

 

「その者は誰にも語らず、誰にも語られない影なる英雄。今こそ、神をも打ち砕くその真なる正義をここに示せ!!」

 

 

 

 

 

「融合召喚 現れろ! V・HEROトリニティー!!」

 フィールドに現れるは、巨大な真紅のHERO。

 俺が数ある融合HEROの中から選び抜いたこのデッキの最強HEROだ。

「トリニティは融合召喚したターンのみ自らの攻撃力を元々の攻撃力の倍にすることが出来る。こいつの元々の攻撃力は2500……したがってこいつの攻撃力は―――」

 

 

V・HEROトリニティー ATK/5000

 

 

「ご、5000……だと?」

「ご明察」

 融合召喚したターンならば、F・G・Dにも並ぶ最強の融合モンスター。俺の元いた世界ではあまり評価されていないことが多かったが、俺はこいつがHEROの中で一番好きだった。

「覚悟はいいな? バトルフェイズ! V・HEROトリニティで幻想騎士団シャドーベイルに攻撃! トリニティーミラージュ!!」

 トリニティが攻撃を行う。巨大な拳をシャドーベイルに振るう。

「トラップ発動!くず鉄のかかし! お前のトリニティの攻撃は無効だ! これで、防――なに!?」

 レシェフが驚愕に目を見開いた。見てしまったのだろう。俺のフィールドにいるトリニティーが3体に分身していることを。

「V・HEROトリニティは1度のバトルフェイズに3回攻撃することができる。もっとも相手プレイヤーにダイレクトアタックは出来ないがな」

「ば、バカな……儂の場には貴様のウェンディゴの効果でこのターン特殊召喚したモンスターとの戦闘では破壊されないシャドーベイルがいる……」

「そうだ。お前はもう詰んでいる」

 例えLPが6700あろうが関係ない。このターン奴に与えるのは10000ダメージなのだから。

 

 

「これがクライマックスだ。トリニティーでシャドーベイルに攻撃! トリニティーミラ-ジュセカンド!」

「ぐ、ぬおおおおおお!!???」

 レシェフLP6700→1700

 5000のダメージを受け、レシェフが苦悶に顔を歪ませる。

 この決闘はダメージがそのまま身体に行っているらしい。5000の攻撃力なんて想像を絶する苦痛なんだろうな。同情するな。

 まあ、だからと言って、攻撃をやめる気なんて毛頭ないけどな。

「トリニティーでシャドーベイルにラストアタック!! トリニティーミラージュサード!」

 俺の最強のHEROの拳は、シャドーベイルを捉え、

「こ、この儂が、たかが人間ごときに!? ぐ、ぐあああああああああああああああああああああ!!!!!」 

 そしてこの決闘に終焉をもたらした……

 

 

 レシェフLP1700→0

 

 

 

 

 ここに邪神との決着はついた。

「ぐ!」

 そう思った瞬間。俺は自然と膝を屈していた。

『マスター!?』

 1日に二度も意識を失うなんてある意味でレアな体験だなと苦笑しながら---

 

 

 俺は意識を失った。


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