『マスター! 大丈夫なんですか!?』
バニラが心配そうにこちらを見てくる。
まあ仕方がないことだ。相手は大邪神。心配するなという方が無理な話だ。
俺は笑ってやった。
(安心しろ。今俺のディスクにセットされているデッキは俺が作った正真正銘俺のデッキだ)
『え? いつ作ったんですか?』
(ゾークにこのシュヴァルツディスクの使い方のレクチャーを受けた時だ)
『その決闘盤って、そんな機能もあるんですか?』
シュヴァルツディスクーーーこれには精霊を封印する力だけでなく、既存のカードでデッキを組むことが出来る機能があった。
俺の元いた世界的に言えば、遊戯王のADSに近いだろうか?
『ということは、今回マスターが使うデッキはマスターが考え抜いた最強デッキってことですか! なるほど! なら安心---』
(いや、残念ながらそうでもないんだよ)
『へ?』
この決闘盤はそんな良心的なものではなかった。確かにこの決闘盤には既存のカードのデータが全て揃っており、それを俺のカードとして使用することが出来る。
だが、それらのカードには全てロックがかかっていた。
『ロック……ですか?』
(ああ。どうやらロックを解除しないと、カードは使えないらしい)
しかもロックを解除するにはDPというポイントが必要だった。
これは決闘をすれば稼げるらしいのだが、俺がゾークの所でDPを確認したときは、微々たるものしかこの決闘盤には残っていなかった。
これはゾークも首を傾げていたが、俺には覚えがあった。
『推奨出来ません。戦力の大幅なダウン。DPの激減……マスターにメリットはありません』
おそらくだが、剣闘獣を解放した時にこの決闘盤にあったDPを消費してしまったのだろう。
後悔など微塵もしないが、これで俺は満足の行くデッキ構築が出来なくなってしまった。
エクストラの融合モンスターなんて必要なDPが高すぎて1体しかアンロック出来なかった。
『マスター……それってまずくないですか?』
(問題ない)
むしろ俺は今、堪らなくこの状況を楽しんでいる。
子供の頃、まだ親から与えられる小遣いだけで遊戯王をしていたときは、限られた資金で限られたカードを購入し、自分のベストのデッキを作っていた。
その時の新鮮な気持ちを俺は今感じている。久しく忘れていた感覚だ。
(それに、俺がこの世界で決闘した時に使ったカードは既にアンロックされていたから、いいカードもかなりある)
E・HEROのサポートカードと最強カード---ミラクルフュージョン……エクストラにはTORNADOしかE・HEROいないが。
シャドールのサポートカードと最強カード---シャドールフュージョン……エクストラにはウェン子しかシャドールいないが。
それらで組んだ今俺が作れるベストデッキ。
初相手が大邪神とは腕がなる。
「やめて先生! 先生は決闘の出来る身体じゃ……」
私はルインから聞いて知っていた。先生の身体はまだ傷が完治しているわけではないことを。
決闘なんてすれば、本当に命が危ない。今すぐにでもやめさせなければ---!!
「よせ雪乃」
しかし、やめさせようとする私をお父様は制した。
「お父様! 先生は決闘できる身体じゃないのよ!?」
「知っている」
「なら!!」
止めるべきではないかと、言おうとした私はお父様と視線が交錯した。
「だが、それを一番よく知っているのはお前でもなければ、我でもない。黒崎自身だ。奴が決闘すると言っているんだ。ならばそれに水を差すような真似はするな」
「! ……それは闇の支配者としての言葉かしら?」
考えたくもないが、お父様も先生が死んでもいいという考えがあるのではないかという疑心からの問いに、お父様は笑った。
「いいや、1人の男としてだ。黒崎を見ていると、若い頃の我自身を思い出す」
お父様が心の底から愉快そうに笑っていた。長い間親子として一緒にいたが、初めてのことだった。
「信じてやれ。お前が主としてもいいと判断した男は、そんな簡単に死ぬ脆弱者なのか?」
「……危なくなれば絶対止めに入るわ」
「いい子だ」
私は……本当に不本意ながら、先生の決闘を見守ることにした。
私が認めた先生が負けるなんて考えられないが、私はひどい不安を感じていた
相手はレシェフ。なにか、卑怯な手を使う可能性もある。
先生……どうか気をつけて……
「さて、決闘を始める……と言いたいところだが、邪神たる我が決闘するには、ここでは少し狭すぎる」
「そこで」と、レシェフが瞳を輝かせると、雪乃達を残し、俺たちだけが一瞬で移動させられていた。
移動した先は、原作の遊戯がディアハをしていたような場所だった。
古代遺跡か……流石は邪神様。決闘場所も凝ったフィールドにしたいらしい。
しかし、これで完全に雪乃達から離されたな。やれやれ自分の舞台で決闘をするつもりかレシェフ。
「では心おきなく決闘を始めるとしよう……先行は邪神たる儂が貰うぞ。ドロー」
レシェフは邪神らしく、石版で決闘をするようだ。ドローを宣言した瞬間。レシェフの上から石版が一つ落ちてきた。これでレシェフの周りには奴を取り囲むように6つの石版が立っていることになる。
さて、邪神様はどんな戦術を見せてくれるやら……
「儂は手札から終末の騎士を召喚」
レシェフの石版が表になり、そこから闇属性のお供、終末の騎士が現れる。
「終末の騎士の効果を発動。デッキから儂は儀式魔人プレサイダーを墓地に送る」
儀式魔人プレサイダー……確かあれを生贄に召喚した儀式モンスターにそのモンスターが戦闘で破壊した時に1枚カードをドローする効果を付与するカードだったな……まさか、1ターン目から儀式モンスターを出す気か?
「そして儂は墓地のモンスターを全てデッキに戻し、手札より究極封印神エクゾディオスを召喚する」
「なんだと!?」
場に現れた巨人モンスターに流石に俺も驚きを隠せない。
エクゾディオスだと? あの厄介極まりないモンスターを使うのか?
「究極封印神の攻撃力は墓地に存在する通常モンスター1体につき、攻撃力が1000ポイントアップする効果を持っている……つまり、今の攻撃力は0だ」
『マスター。レベル10なのに、攻撃力0です!! 私でも倒せますよ!!』
(お前はやっぱりバカだなバカ娘)
『え?』
そんな簡単な話なわけないだろう。あいつの手札はまだ4枚。となると、確実にあの中の1枚は俺達の世界では禁止の『あのカード』が入ってるはずだ。
「そして儂は手札から苦渋の選択を発動する」
……やはりな。
「このカードはデッキから5枚のカードを選び、相手に公開する。そしてお前はその5枚の中から好きなカードを選ぶことが出来る。選んだカードは手札に、それ以外は全て墓地に送られる」
『なんだ、大した効果じゃありませんねマスター! 強いカードを選ばなければいいだけですよ!』
(Ωバカは黙ってろ)
『いつの間にかΩ級のバカに格上げされてます!?』
あれが大したことじゃない? ふざけるな。デッキからモンスターを1枚墓地に送るおろかな埋葬ですら、制限扱いされている俺の元の世界でのあのカードは誰もが認める禁止カードの1枚だぞ?
「儂が選ぶのはこの5枚だ」
俺の前に5枚の石版が落下してくる。
その石版は---
アレキサンドライドラゴン
アレキサンドライドラゴン
アレキサンドライドラゴン
ラビードラゴン
ラビードラゴン
5枚全てが通常モンスターだった。おいレシェフ。少しは自重しろ。
「さあ、選ぶがいい」
「……」
『簡単ですよ! こんなのレベル8の通常モンスターであるラビードラゴンを選ぶべきです!』
……確かに普通ならそうするだろう。レベル4で攻撃力が2000もあるアレキサンドライはライフが4000のこの決闘では地味に脅威になる。
だが……
「俺はアレキサンドライドラゴンを選択する」
『え! マスター。なんでですか!?』
「……よかろう。それ以外のカードは全て墓地だ」
少しだけレシェフの顔が曇るのを俺は見逃さなかった。やはり奴の手札には手札交換用のカードがあったか。奴自身の相性を考えると、おそらくトレードインって所か。
選択は正解を選べたようだ。だが、問題はここからだ。
「この瞬間、儂の墓地には通常モンスターが4体いる。よってエクゾディオスの攻撃力は4000ポイント上昇するぞ」
『い、一気に4000ですか!?』
(バカ娘。さっきお前あいつを簡単に倒せるって言ったよな? なら、召喚してやるから倍の攻撃力あるあいつを倒してくれ)
『調子にのってすいませんでした!!』
深々と頭を下げてくるバニラ。ほんとこいつブレないよな。どこまでもバカキャラを地で行ってる。まあ、おかげで決闘の緊張などを紛らわせてもらえるから、ある意味で助かってはいるのだが。
「先行は最初のターン攻撃することが出来ない。儂はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
「俺のターンだ。ドロー」
ドローしたカードは……
「よし! バカ娘じゃない!!」
『ひどいですマスター!?』
思わずガッツポーズを取ってしまった。初手でバニラがいないなんてなんて素晴らしいことだろう。一気にテンションが上がって来たぞ。
……と、その時だった。
ズキンと、軽くだが、左胸の辺りに痛みを感じた。
『マスター? どうしたんですか?』
「……なんでもない」
どうやらこの勝負。あまり長引かせる訳にはいかないようだ。
手札を見る。
……早速ネタで突っ込んだカードが来たか。OCGで弱体化され、アニメの時の大暴れと比べ、比較的大人しいカードになってしまったが、それでもこのカードは面白い。
……そして俺の手札はこいつの効果を活かせる最高の手札だ。
「俺はカードを3枚伏せ、ラピッドウォリアーを攻撃表示で召喚する」
フィールドに現れるのは緑色の鋼の戦士……と言っても遊星が使っていいた下級モンスターらしく、イラストが若干可愛い。
「攻撃力1200だと? ふ、そんなモンスターでは儂のモンスターを1体も破壊出来んぞ?」
「残念ながら俺が狙ってるのはモンスターじゃなくて、大将であるあんた自身だよ邪神様」
「なんだと?」
見せてやろう。俺の元いた世界では100円コーナーで売られていたがっかりスーパーレアモンスターの力を!
「メインフェイズ1にのみ、ラピッドは効果を発動出来る。このターンこのモンスターは相手プレイヤーに直接攻撃が出来る」
「なんだと!?」
相手の伏せが攻撃反応系ならかなり厳しくなるが、あの反応を見る限り、多分それはないだろう。
「ラピッドで攻撃! 攻撃名は---」
そういやこいつ。アニメで攻撃名言われてなかったな。外国版ならあるそうだが、流石にそこまでは覚えてない。
……仕方ない。ここはあの過労死さんから技名を貰うとしよう。
「ラピッド・エッジ!!」
『!?』
攻撃名を宣言した瞬間。ブースターを噴出し、レシェフに突撃していたラピッドが目に見えてバランスを崩した。
え、なんで?
『ダメですマスター!!』
突然バニラが悲鳴を上げる。
(なんだ?)
『彼には---』
『ラピッドさんには足がありません!!』
(!!)
しまった! 技名をとった過労死ウォリアーの技は足技だった! 下半身が足ではなくブースターであるそれがラピッドには出来ない!
なんてことだ! 俺はなんて無茶な注文をしてしまったんだ!!
『冗談ではない!!』
と思っていると、突然ラピッドが喋った。しかも某赤い彗星さんと似たような声だった。
「なに!?」
そして次の瞬間。俺はラピッドのガッツを目の当たりにする。
なんとラピッドは下半身のブースターを無理やり横に倒し、高速の横回転をしながらレシェフの頭を蹴りつけたのだ!!
「ぐふぁ!?」
LP4000→2800
大きく吹っ飛ばされるレシェフ。恐ろしい威力だなあれ。相手が精霊であるレシェフだったから良かったものの、生身の人間だったら確実に死んでるな。
レシェフでなければ即死だった……ってか。
『マスター! ラピッドさんがやりました!!』
(ああ、そうだな……足がないのにちゃんと奴は攻撃したんだ)
ラピッドを見ると、俺とバニラの前に戻り、踵を返したままこう言った。
『足なんてただの飾りだよ』
なんだこいつ。声がシャ●のせいか、無駄にかっこいいぞ。だがそのセリフは残念ながら●ャアが言ったわけではないからな。シ●アは言われた方だからな?
……だがまあ、とりあえずよくやった緑の彗星。
「よくも儂に傷を! だがたかが1200程度のダメージなど……」
まあ、確かにそうだよな。大したことないよな。
だがレシェフよ。なにを勝手に終わったつもりでいる?
「なに勘違いしてる?」
「ぬぅ?」
『ひょ?』
レシェフは驚き、隣にいるバニラは戸惑いの声を上げる。
なんで味方であるお前がそんな反応なんだよとも思ったが、バニラよ今回は許す。それだ。そのリアクションこそ、このカードを発動するに必要だ。
「俺のバトルフェイズはまだ終了してないぜ」
「な、なにを言ってる? 貴様はたった今バトルをしたばか……」
「速攻魔法発動!!」
さあ、今こそ……伝説よ。甦れ!!
「