遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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雪乃の謝罪

 ゾークとの対談を終えた俺は目が覚めた時と同じ部屋に案内されていた。

 案内役のルインが言うにはこの部屋を自由に使っていいらしい。

「後で食事をお持ちいたしますので、それまではお休みください」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 流石にゾークとの対談は疲れた。話された内容が内容だからな。

「……あ、でもタンスの中は開けないでください。開けても小さなメダルはありませんので」

「……あんた、本当にドラ●エ好きだよな」

 部屋を出て行く寸前にネタ発言をするルインに、俺はもう呆れるしかなかった。 

「やれやれだ……」

 ルインがいなくなり、ベットの上に寝転がる。

(改めて考えると、まじでとんでもない超展開になって来たな……)

 ブラック・マジシャンを探すためにGXの世界に来た時から、遊戯王特有の超展開は覚悟していたが、二日目でゾークと遭遇とは、流石にやりすぎだ。初めからクライマックスにしても難易度がハードすぎる。

(まあ、決闘盤の消し方が分かったのはまじで助かったな)

 今俺の左腕にあの決闘盤はない。ゾークからシュヴァルツ・ディスクの使い方を簡単だが、説明してもらったからだ。

「デュエルスタンバイ」

 試しにワードを言ってみると、シュヴァルツが左腕に出現した。

「デュエルエンド」

 そしてゾークから教わった消す時のワードを言うと、シュヴァルツは消えた。

「……なんなんだろうな、これ」

 考えてもまったく分からない。唯一の頼みの綱である雪乃が言っていたこの決闘盤の本来の持ち主であるゾークさえ分からなかったのだ。この決闘盤は完全に謎の存在だった。

(さて、これからどうするか……)

 ブラック・マジシャンを探すことが第一の目的だが、この決闘盤のことも無視できない大事だ。

(こんな大事な時に限って、バニラはダウンしてるしな)

 まったく本当に俺の精霊はバカ娘だと、苦笑しようとしたその時だった。

「……先生いる?」

 部屋の扉がノックされたのは。

「雪乃か? ああ、いるぞ」

「……入っていい?」

「ここはお前の家だろう? なんで一々俺に許可を求める?」

「……それもそうね」

 上体を起こすと、ちょうど部屋に入ってきた雪乃と目が合う。

「っ!」

 だが雪乃はすぐに俺から目をそらしてしまった。

「どうした? その反応は地味に傷つくぞ?」

 まあ、理由はなんとなくわかるがな。

「あの、その。わたし……」

「はあ……とりあえず落ち着け。深呼吸でもしてみろ。それじゃあ会話にならん」

「深呼吸……分かったわ」

 って、本当に深呼吸するのか? なんかずっと俺のペースを乱していた雪乃とは思えない素直さだな。

「すーはーすーはー。うん。落ち着いたわ」

「そうか。それで、何しに来た?」

「それはその……」 

「?」

 

 

「ごめんなさい!!」

 

 

 

「……はあ?」

 俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 雪乃が、あの雪乃が、俺に対して頭を下げていたからだ。

「ごめんなさい! 私、やっとシュヴァルツの所有者になれる人を見つけられて舞い上がってたの!! そのせいで先生のことを巻き込んでしまって、本当に悪いと思ってる!! あげくの果てには先生に怪我までさせてしまって……」

 おいおいおい。まじで誰だこいつ? こんな雪乃は知らないぞ? 雪乃というのは、もっとこう、人を手玉に取る感じのエロ娘だろう? こんな平謝りしてくる奴だったか?

「本当にごめんなさい!」

「おい。落ち着け雪乃」

 その時。俺の第六感が告げた。このまま雪乃を喋らせてはいけないと。何かとんでもなく面倒なことになってしまうと。

「この償いは---」

 だが俺の勘が教えてくれたのは少しばかり遅すぎた。

 

 

 

 

「身体で払うわ!!」

 

 

 

 

 瞬間。雪乃が動いた。

 流石は半分精霊だと、思わず感心したくなるほどの速度で俺をベットに押し倒した。

「え、ちょ、待て! これはどういうことだ!?」

 まるで意味がわからんぞ!?

「私をもらって先生」

「待て待て待て待て。お前、ちょっと色々混乱してるだろう? 確かにお前がやったことはとんでもないことだが、流石に身体を差し出す必要なんてない!」

「大丈夫。私、新品だから」

「聞いてねえよ!!」

 ちょ、振りほどけない!? こいつ腕力も俺を遥かに上回ってやがる!

「まじで落ちつけ。話をしよう」

「大丈夫先生。天井のシミを数えている内に終わるわ」

「ちょ! それ台詞逆!! 女のお前がいう台詞じゃないから!!」

 って待て。この状況は俺が頂くんじゃなくて、頂かれる方じゃないか?

「HA・NA・SE!!!!」

「先生。安心して……だってよく言うじゃない?」

「な、なんて?」

 

 

 

 

「痛いのは最初だけ……って」

 

 

 

 

 そして遂に、雪乃の唇が俺の唇に触れようとした瞬間---

 

 

 

 

『なにやってるんですか二人共ぉぉぉぉぉ!!!!!!!?????』

 

 

 

 

 耳を覆いたくなるほどの大声が、聞こえた。

 見ると、バニラが俺たちが寝るベットの上に浮いていた。どうやら休息とやらは終わったらしい。

 くそ。まためんどくさい時に出てきやがったな。

『マスターが怪我して、急いで魔力を回復して戻ってみれば、なんでこんなことになってるんですか!?』

 知るか。俺が聞きたいよ。

「あら、子猫ちゃん。残念だけど、ここからは大人の時間よ。子供はおねんねしてなさい」

『なにが子供ですか!! これでも私二人よりも結構歳上です!!』

「「!?」」

『なんで二人して驚くんですか!?』

いやだって嘘だろ? バカ娘が俺よりも歳上? こんなに幼稚な発言するのに? こんなにバカなのに? ちょっと信じられないぞ。

「永遠の10歳なのよ先生、精神的に」

「なるほど。納得した」

『私は小学4年生レベルって言いたいんですか!?』

「「その通り」」

『二人がシンクロして私をいじめるぅぅ!!』

涙目で天を仰ぐバカ娘。その様も癇癪を起こした子供のようで実に幼い。

だがバニラよ。正直お前に今助けられたよ。

「お前、さっきの純真そうなのは演技だったんだな雪乃? すっかり騙されたぞ」

「これでもアイドルだから演技は得意よ」

舌をちろりと出す雪乃は、完全に元のペースの雪乃だ った。

「でも先生に謝りたいのは本当。というわけで私を貰って?」

「そう言いながら、俺の服の隙間に手を突っ込むのはやめろ」

「つれない人」

艶っぽく笑う雪乃に、俺はため息しか出なかった。

「それにしてもお前の親父と話したが、色々とんでもない話になってるみたいだな」

「どうだった?お父様との初の顔合わせの感想は?」

「あ? お父様?」

反射的に思わず聞き返してしまった。

「なにかしら?」

「いや、すまん。なんでもない」

雪乃のゾークに対する呼び方に、なにか違和感を感じたんだが、多分気のせいだろう。

「感想って言ってもな。特にはないな」

何もかもがラスボスすぎてまじ怖かったという感想はあるが、これを雪乃に言う必要はないだろう。

「でも無事に五体満足でここにいるということは、先生はお父様に気に入られたってことよ。お父様は気に入らない相手には容赦ないから」

「……具体的にはどうするんだ?」

 雪乃は少し考えると、やがて答えた。

「これは以前にあったことなんだけど。前お父様が気に入らない人間と話した時は……」

 にっこりと雪乃はそれはそれはいい笑顔を浮かべて、

 

 

 

 

「思わずゾークインフェルノをぶち込んでたみたい」

 

 

 

 

「……」

 ……あはは、面白いなー。ゾークインフェルノってあれだろ? 全体破壊効果の技名だったやつだろ?

 それを人間に? あはは、もうゾークさんお茶目ー!

 ………………

 …………

 ……

 

 

 って思うかバカやろう!!!

 

 

 ゾークさん!? 何、思わず必殺技出してるんですか!? てか、相手確実に死んだだろう!? 肉片の一つも残らずにこの世から消滅しただろう!? 正真正銘魔王じゃねえか!?

「おい雪乃! ルインはゾークのことを寛大な人って言ってたが、どこが寛大なんだよ!?」

 慈悲の欠片もねえじゃねえか!?

「寛大よ。痛みを感じぬままに死ねるなんて優しいじゃない」

 ……先生。そろそろこの精霊達の常識について行けなくなってきたぞ。どうしよう。決闘ならまだしも。リアルファイトになったら俺、生き残る自信がない。 

(なあ、バニラよ)

『はーい。なんでしょうかマスター小学四年生レベルの私に、何の用でしょうか?』

 若干いじけてるバニラに、ため息しか出ない。そんなんだからガキだと言うんだ。

(お前、精霊同士のリアルファイトになったら、ぶっちゃけどこまで闘える?)

『えーと、異世界転移のせいで魔力が全然残ってませんから正直かなり厳しいですね……』

(わかりやすく言うと?)

『シーホースさんと相討ち。または私がやられます』

 ……つまり、モリンフェン様には勝てない。数値的に言うと、攻撃力1350もないという訳か。

 ダメだ。俺の精霊が相も変わらずダメすぎる。

 現状で藤原家の精霊のメンツとリアルファイトしたら、俺は多分特に抵抗も出来ないまま、瞬殺されるだろうな。下手に刺激するのは絶対に避けよう。

 ……だが、それはそれとして。

「いい加減俺の上からどけ雪乃」

「あら? 先生は上になる方が好み?」

 ダメだこのエロ娘。はやく何とかしないと……

「誰もそんなこと一言も言ってないだろう? というか、まじでどけ。はやくしないとルインの奴が---」

 

 

 

 

「失礼します。黒乃様お食事の準備ができ------」

 

 

 

 

 部屋に入ってきたルインがぴたりと停止する。

 その視線は完全に俺と雪乃の姿をロックしていた。第三者からではベットの上で絡み合っているように見える俺達の姿を。

「失礼しました」

「おいぃ! ちょっと待ってくれ!! これは誤解だぞ!?」

「さあ、先生。ルインが空気を読んで退出してくれたことだし、そろそろ始めましょう」

「始めねえよ! つか、待てこらルイン! 誤解だから!? カムバックルイン!!」

 俺の願いが届いたのか、もう1度部屋の扉が少しだけ開き、その小さな隙間からルインは顔を覗かせた。

「黒乃様に1つだけお聞きしたいことがあります」

「お、おう。なんだ?」

ルイんの真剣な顔に少しだけ緊張する。

「大変お聞きしにくいのですが……」

 ルインは少し迷うような素振りを見せたが、やがて意を決したのか、俺に問う。

 

 

 

 

「黒乃様は、ビアンカ派ですか? それともフローラ派ですか?」

 

 

 

 

俺はその問いに心の底からこう思った。

 

 

 

 

誰かこのド●クエバカを何とかしてくれ。

 

 

 

……と。


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