遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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ついにユキノンのオヤジさんが登場です


雪乃の父との対面

「……」

 重い瞼が開く。

「……ここは、どこだ?」

 一瞬。朝と同じ展開だったので、またホテルで目が覚めたのかと思ったが、違った。ホテルではなく、どこかの一室のようだ。キングサイズではない1人用のベットに俺は横になっていた。

「目が覚めたようですね……」

 落ち着いた女の声が聞こえたので、そちらに目を向けると、そこにいた相手に俺は驚いた。

「破滅の女神ルイン……か?」

 遊戯王の儀式モンスターの中でアイドルモンスターの一角である破滅の女神様がそこにいた。何故かメイド服着用で。

「違う……と言いたいところですが、その通りです。私は破滅の女神ルイン。デュエルモンスターズの精霊の1体であり、藤原家に仕えるメイドです。以後お見知りおきを……」

「はあ……どうも」

 ルインがメイド。おいおい。なんだ? なんかとんでもないノリになってきたな。

「……ところで、一つ聞きたいが、一応俺の精霊であるマジシャンの小娘はどこにるんだ?」

「バニラ様でしたら、あなたの治療に魔力を全て使われ、今は休養をとってらっしゃいます」

「……治療? って、ああ、そうか……」

 そういえば、俺刺されたんだったな。確か、左胸の心臓をこうぐっさりと---

「……あれ? ならなんで俺は生きてるんだ?」

 普通心臓刺されたら死ぬよな? 自分の身体を見ると、まず服が変わっていた。病院の患者が着るような服を着せられている。

 それをまくり、胸を見る。

 しかし、どこを見ても傷なんてどこにもなかった。

「……これはお前達がやったのか?」

「はい。私達の力で傷を一時的に治しました」

「そうか……って、おい待て」

 今あのメイドさらっと、とんでもないことを言わなかったか?

「一時的……だと?」

「はい。あなた様の傷は見た目は完全に完治していますが、残念ながら一時的にすぎません。ここ数日は激しい運動や負担が多いことはしない方がよろしいかと思います。決闘なんてもっての他です」

「……ちなみに、した場合は?」

 

 

 

 

「死にます」

 

 

 

 

「……まじかよ」

 まさかの異世界来て二日目で「やめろお前の身体は決闘の出来る状態じゃない!!」というある意味でお約束の状態になってしまった……

「あー。それで? 確かあの場に雪乃はいたよな? 今あいつはどこにいる?」

「……怒らないのですか?」

「あん?」

 なにに怒れってんだ? 

「あなたが怪我をしたのは雪乃様が原因です。普通は怒るなり、憎むなりすると思いますが?」

「……ああ、そのことか」

 確かに俺を刺した奴は雪乃のファンみたいだった。ニュースで俺のことを見て、逆上し、雪乃と二人でいた俺を刺した……まあ、確かにどうみても原因は雪乃にあるな。

 だがまあ、ぶっちゃけると---

 

 

「正直どうでもいい」

 

 

 これが俺の偽りない本心だ。

「どうでもいい……ですか?」

「ああ。たかが俺が刺されたぐらいのことだろう?」

「……それは、あなたはご自身の命に価値がないと思っているということでしょうか?」

「バカか。俺だって自分の命は惜しい。これで死んだら化けて出てたかもしれないな。だが、今俺はこうして生きてる……なら、なんの問題もなくないか?」

 刺された俺も助かってるし。

「すいません。無礼を承知で聞きますが……よろしいですか?」

「ああ……なんだ?」

 

 

 

 

「あなた、頭大丈夫ですか?」

 

 

 

 

 その問いに俺は苦笑するしかなかった。

「よく言われる……それに雪乃に怒りを抱かない理由はもう一つあるぞ?」

「……なんでしょうか?」

「どうも違和感(・・・)を感じるんだよ。話が少しおかしいと思ってな」

「どういう意味でしょうか?」

 こちら見るルインはどこか俺を試すような視線を送っていた。

「なに、簡単な話だ。まず一つ目。俺の事が報道されてからそんなに時間が経ってないはずなのに、いきなり俺を殺しにきたあいつがおかしい」

「なにがおかしいのですか?」

「何もかもだな。俺を刺したナイフはそこらへんで売ってる安っぽい物じゃなかった。初めから俺を殺すために準備したとしか思えない。しかもどうしてあのタイミングなんだ? 後を追われてた? だが、あの決闘が始まるまで、俺達には認識阻害の結界が張られてたらしいぞ? ならば偶然か? いやいやそんな出来すぎた偶然なんてありえない」

 そんなものは偶然ではない。ただの必然だ

「俺を殺すために、誰かが動いている……しかも、認識阻害の結界とやらが効かない相手……そう、例えばあんたのような精霊みたいな奴らが関係している……違うかな?」

 ルインは何も喋らなかった。だが、俺からすればそれが、俺の違和感の答えを証明してくれていた。

「どうやら当たりみたいだな」

「……雪乃様があなたを選んだ理由が分かったような気がします。怖いと感じるほどの洞察力をお持ちですね」

「半分は当てずっぽうだ。大したことはない」

「面白い人ですね」

 なぜか笑われる。ん? なんか俺面白いことでもしたか?

「安心しました。あなたなら、雪乃様の父ーーー我等が主とも正面から話すことが出来るでしょう」

「もしかして、そいつがこいつの元の持ち主って奴か?」

左手を掲げ、装着されている決闘盤を指差すと、ルインはこくりと頷いた。

「はい。その通りです」

「ちなみにそいつは人間か? 精霊か?」

「精霊です」

 ……なんとなく予想はしていたが、やっぱり精霊か。これはひとすじなわでは行きそうにないな。

「そうかい。なら案内してくれ。さっさとこの決闘盤のことを何とかしたい」

「分かりました」

 やれやれ、ようやくか。しかし雪乃の父親でこの決闘盤の本当の持ち主か……流石に文句の1つでも言ってやらないとな。

 

 

 

 

 ……と、思っていた時が俺にもありました。

「あのールインさんや?」

「はい。なんでしょうか?」

「案内するってことで、いきなり地下に続く階段を降りらされたことは別につっこまない。家の中にバカみたいにでかい階段があることをもう俺は驚いたりしない。そこを降りるのに結構時間がかかったことも気にしない」

 ……だけどな?

「この禍々しい巨大な門はなんだ?」

 階段をやっとの思いで降りると、そこにあったのはRPGで出てきそうな無駄に装飾が施されたバカでかい門だった。

「ここに我等の主がいます」

「いやいや、嘘つくんじゃねえ! これ明らかにヤバイやつだよね? 中にいるの雪乃の親じゃなくてラスボスだよね!?」

 ちょ! まじ勘弁してくれ!? 俺異世界来てまだ2日目だよ? レベルで言ったら1だよ!? 装備なんて病院の患者が着るような服と、意味不明な決闘盤だけだ!

「開門します」

「おいぃ! なに華麗にスルーしてるんだ!! いやちょっと待ってくれ! せめてセーブさせてくれ! 少しでもいい俺に時間をくれ!!」

 その間に速攻でエスケープするから!!

「デロデロデロデロリーン」

「冒険の書を消すなぁぁぁぁぁ!!!!」

 無慈悲にも門が開かれる。

 中は完全な闇だった。

「ご主人様。黒乃様をお連れしました」

 隣にいたルインが一礼すると、

 

 

 

 

「ご苦労」

 

 

 

 

 

 地の底から響くような、威厳のある声が部屋の奥から聞こえた。

 と同時に、急に部屋の中に光が生まれた。

 どうやら部屋の両端にあった松明が炎を灯し始めたらしい。

「黒乃様、どうぞ前に」

「え?」

 進めと? あのー。俺一応決闘者で、勇者じゃないんですけど。もうこれ完全に魔王の所に行くノリですよ? 見てください松明の炎なんてご丁寧に紫じゃないですか。

「えい」

「って、おい!」

 完全に足が止まっていた俺をルインが突き飛ばした。そのせいで俺は強制的に部屋の中に入るはめになる。

 おい。なんかやばいぞ。明らかにヤバイオーラが部屋の奥から感じるんだけど!! もう限界だ! 俺は逃げるぞ!!

「閉門します」

「ちょっとぉぉ!!??」

 開門した時よりも段違いの早さで門が閉まり始める。

 って待てコラ! しかも俺1人か? 魔王に俺1人で挑めってのか!? 

「大丈夫です。我らの主は寛大なお方です。おそらく世界の半分はくれると思います」

「どうせ暗闇の世界だろ!? 欲しいって言った瞬間に、目の前が真っ暗になるそんなオチだろ!?」

 てか、なんかこの精霊さん意外とノリがいいよな! 実はRPG好きだったりするんじゃないか?

「ではご武運を」 

 そう告げると、門は完全に閉じられてしまった。

 俺、完全に孤立。 

 

 

 

 

「どうした。はやくこちらに来るがいい」

 

 

 

 

 いっそこのままでいようかとも考えたが、部屋の奥の魔王様はそんなことを許してくれない。

「……」

 仕方がないので、俺は歩く。

 俺が進む度に、部屋の奥の松明に火が灯り、俺の前少しだけの距離を見えるようにしてくれる。

 はは、便利だな。エコにもなるし。どうやらこの部屋の奥にいる奴は地球に優しい精霊さんのようだ。

 ってことは、多分俺の考えているような凶悪なモンスターは出てこないよな? 多分、結構優しそうな奴が来てくれるよな?

 ここまで雪乃といい、ルインといい儀式モンスター。となると、部屋の奥にいるやつもその可能性が高い。

 ドリアードとかだったらいいなー。現実でもネタデッキで作ってたし、あいつの効果って結構コンボが出来るから楽し……

 と、おや? いつの間にか部屋の奥まで来てたみたいだな。

 おー暗くてよく見えないが、前方に大きい玉座っぽい物がうっすらと見えるぞ。

 分かってるぜ。そんな感じでも実は座ってる奴はハングリーバーガーでしたーってオチだろ? はは、面白い。実に面白い。今なら腹抱えて笑ってやるから、そういうギャグ担当モンスター来い!!! 

 

 

 

 

「よく来たな。私が雪乃の父……」

 

 

 

 

 部屋の奥の松明に火が灯る。そして、現れたのは------

 

 

 

 

「闇の支配者ゾークだ」

 

 

 

 

 考えられる限り最悪の儀式モンスターだった。


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