ついに出たか竜姫神サフィラ。
儀式モンスターの中でもかなりのスペックを秘めているドラゴン。
実際に見るとここまでふつくしいものなんだな。
「竜姫神サフィラで坊やの疾風の暗黒騎士に攻撃---」
サフィラが片腕を天に上げたかと思うと、掌の中に光のエネルギー弾が生まれ……
……いや違う。あれはエネルギー弾とかいう生易しいレベルのものじゃない。
小さな太陽だ。
「さあ、私からのお仕置きを受けなさい……ジャッジメント!」
太陽が疾風の暗黒騎士に放たれる。正面からまともに受けたガイアは為す術なく、光の中に消えていった。
大地LP4000→3800
ああー、うん。明らかにお仕置きレベルの攻撃じゃないよな。問答無用の死の執行を下したあの攻撃は、モンスターの中で結構上位クラスに入るんじゃないのか?
『……がくがくぶるぶる』
その証拠に、さっきまでうるさかったバニラが急に冷や汗を流しながら静かになっている。本当にわかりやすいなお前。
「ターンエンドよ」
そしてお楽しみのエンドフェイズかあいつの効果が発揮するな……いや、流石はサフィラさん。えげつない。
(同じレベル6なのに、どっかのバニラとはえらい違いだな……)
『……た、たかが攻撃力が500違うだけじゃないですか!』
意外にもバニラが噛み付いてきた。なんだ? 対抗意識でも燃やしてるのか?
だとしても、残念ながらバカ娘よ。効果という点ではお前はあいつの足元にも及ばないぞ。
「そしてエンドフェイズにサフィラの効果が発動するわ」
『……え? 何か効果があるんですか?』
そりゃあるさ。それもかなり強力な奴がな……
「サフィラは儀式召喚したターン。もしくは手札、デッキから光属性モンスターが墓地に送られたターンのエンドフェイズに3つある効果の内、1つを選ぶことが出来る」
『み、3つもあるんですか?』
お、なんか軽く落ち込み始めたなバニラの奴。そうだよな。片や1個しかなくてしかも正直しょっぱい効果のお前と、上手く使えば毎ターンのエンドフェイズに強力な3つの効果の内のどれかを使用できる雪乃。
はっきり言ってその差は歴然だ。悔しいでしょうねえ。
「私は第一の効果を発動。デッキからカードを2枚ドローし、その後手札を1枚捨てるわ」
『しびれるー。雪乃さんの手札が増えました』
完全に棒読み口調になったバニラ。完全に思考を放棄してやがるなこいつ。
……しかし、今捨てたカード……あれ、ネクロガードナーだったよな? 本当にどこまでも鉄壁のフィールドを作りたいみたいだなあのエロ娘は。
「お、俺のターン! ドロー!!」
「うふふ。この瞬間私は墓地のネクロガードナーの効果を発動するわ。このモンスターをゲームから除外することによってこのターン。坊やの攻撃を1度だけ防ぐことが出来る」
『え!? ネクロガードナーさんって、攻撃宣言時にしか発動出来ないんじゃないんですか!?』
バカ娘よ。お前は本当に俺の予想を裏切らない奴だな。主に悪い意味で。
(ネクロガードナーの効果は相手のドローフェイズからバトルフェイズのバトルステップ開始時までなら、発動可能なんだよ。そのせいで1度墓地に落とされたら、除去しにくい厄介なカードでもある)
『……あれ? でもおかしくないですか? 今除外しても大地君がモンスターを引くとは限らないから、単なる無駄になるんじゃ……』
(……星邪の神喰)
『あ!』
バカ娘でも理解したか、あれは間違いなく星邪の神喰の効果を発動するためだ。
……となると、墓地に送られるのは---
「私の墓地のモンスターが1体のみ除外されたので星邪の神喰の効果発動---除外されたのは闇属性……よってデッキから光属性のADチェンジャーを墓地に送るわ」
「……光属性がデッキから墓地に送られたってことは、サフィラの効果がこれで発動出来るってことだよな?」
「ご名答。いい子ね坊や」
……しかもADチェンジャーか。あれもまた、墓地から除外して効果を発動するカード。
なるほど……そういうデッキか。
「だけど雪乃!俺はまだ諦めないぜ!!」
「うふふ。そう。ならいらっしゃい」
正直絶望しかないこの状況でサレンダーしない大地の精神力は大したものだとは思う……
それともあのドローした1枚が逆転のカードなのか?
「先に言っておくけど坊や。儀式召喚に使用した儀式魔人の効果で、サフィラは今効果の対象にならないし、あなたはモンスターを特殊召喚出来ないわ」
『……』
バニラは既に物言わぬ屍となった。まあ、あれを見せられたらそうなるわな。南無。
「だけど対象に取らない効果なら大丈夫だろ! 俺は手札から地砕きを発動!!」
『う、上手いです! これなら、対象を取らずに雪乃さんを破壊---』
(……と、思うじゃん?)
『え?』
「うふふ。墓地の祝祷の聖歌の効果発動。墓地のこのカードをゲームから除外することによってフィールドの儀式モンスターの破壊を防ぐことが出来るわ」
寸前まで迫った大地の礫が聖なる防壁によって防がれる。
結果。サフィラには触れることさえ出来なかった。
「……へ?」
「残念だったわねぼ・う・や。サフィラ自身には破壊耐性はないけど、祝祷の聖歌のお陰で擬似的な破壊耐性をもってるのよ……ということを、うっかり言い忘れてたわ」
お前。絶対それあえて言わなかったんだろう雪乃。本当にいい性格してるなあいつ。
(ん? どうしたバニラ?)
と、隣にいたバニラが俯き、肩を震わせてることに気がついた。
『……イ』
(い?)
『インチキ効果も大概にして下さいいぃぃぃ!!!!』
遂にバニラがキレた。でも耳元で叫ぶな。正直うるさい。
『じゃあ、なんですか!? 今、雪乃さんは破壊耐性持ちで、カードの効果の対象にならなくて、モンスターの特殊召喚も封じるモンスターになってるってことですか!?』
(そうなるな)
『下手したらオシリスさんとかよりも強いんじゃないですかね!?』
まあ、確かにドジリスよりも強い部分はあるな。オネスト回収出来るし。少なくともヲーよりは確実に強い。
「ターン、エンド……」
「ならこの瞬間にサフィラの効果発動。デッキから2枚ドローして1枚捨てるわ」
『……わかってたんですけど、相手ターンでもあの効果使えるのって鬼畜ですよね』
その意見には同意するぞバニラ。あれでカウンターに使ったエフェクトヴェーラーやオネストを回収できるからな。
……しかし改めて思うが、この勝負。もう決着はついたな。
「私のターンドロー。手札からアームズホールを発動するわ」
……はは、さよなら大地。多分これで詰みだ。
「デッキからカードを1枚墓地に送って、装備魔法を1枚デッキから手札に加える」
デッキから墓地に送ったのは……オネストか。あのエロ娘。ちゃっかり光属性をデッキから墓地に送って自分の効果発動条件を満たしてやがる。
「手札に加えるのは、リチュアル・ウエポンよ。ただしこのターンアームズホールのデメリット効果で私はモンスターを通常召喚出来ないわ」
リチュアル・ウエポン……確かレベル6以下の儀式モンスターに装備出来、攻撃力を1500上げるカードだったな。
サフィラのレベルは6。攻撃力は2500……
ということは---
「攻撃力4000!?」
『ついに、神様レベルの攻撃力になっちゃいました!?』
大地のライフは……いや、考えるまでもなく、ジ・エンドか……
ガイアデッキとは面白いデッキだったが、いかんせん相手が悪すぎた。
「サフィラでダイレクトアタック」
サフィラが腕に装着された弓矢を天に掲げる。
「ジャッジメントレイ」
放たれた弓は、空中で分裂し、雨あられとなって大地に襲いかかった。
「うわああああああああ!!!」
大地LP3800→0
「嘘、だろ? コスト以外で雪乃にダメージの一つも与えられなかった?」
がっくりと膝をついた大地に雪乃は、微笑み、言った。
「竜姫神の名は伊達じゃないわ」
それがどうしてか、俺には少し寂しげに聞こえるのだった……
「あ、圧倒的じゃないか」
……の勝負でした。