「準備はいいか雪乃!」
「いつでもいいわよ。来なさい坊や」
「坊やじゃねえ!!」
さて、雪乃の宣戦布告通り、二人は決闘することになった。決闘中は認識阻害の結界とやらを張れなくなると雪乃が言ったので俺としては勘弁して欲しかったのだが、二人共聞く耳持たなかった。
一応説得するために努力はした。二人共決闘盤を持っていなかったので、そこを指摘し、なんとか諦めさせようとしたら
「このレストランで借りればいいわ」
と、さらっと言ってのけられた。いや、流石に無理だろうと思っていた俺だが、ここの店長……どうやらアイドルの雪乃のファンらしく、すぐに二人分用意しやがった。
客寄せ効果も期待してのことかもしれないが、それでいいのか店長? ……後、俺を射殺すような目で見るのはやめてくれ。代わって欲しいのなら喜んで代わってやる。
まあ、そんなこんなで、大地と雪乃の決闘はなんの問題もなく始まってしまった。
「決闘!」
「決闘……」
雪乃LP4000
大地LP4000
「先行は俺だ! ドロー!!」
「うふふ。頑張ってね坊や」
「坊やじゃねえ!!」
……先行は大地か。どんなデッキを使うのか、少し楽しみだな。
「俺は熟練の青魔道士を召喚する!」
「なに?」
フィールドに現れた青い魔道士に、流石に少し驚いてしまう。
「こいつは攻撃力は1800だが、お互いのプレイヤーが魔法を使う度に魔力カウンターを1つ置くことが出来る。そして魔力カウンターが3つ乗ったこのモンスターを生贄にすることで、手札、デッキ、墓地から伝説のモンスター暗黒騎士ガイアを特殊召喚することが出来る!! どうだ黒崎!」
なぜか対戦相手の雪乃ではなく俺の方を向く大地。
「これが俺の持つ力だぜ!!」
……え、あ、うん。どうしよう……あんな超ドヤ顔されると、まともな意見を返せないんだけど……
『すげえ。暗黒騎士ガイアだって!?』
『あの武藤 遊戯が使ってた伝説のモンスターが見れるのか?』
『やばいんじゃないのかユキノン!?』
しかもいつの間にか集まった見物人達も口々絶賛してる。
そんなにすごいか? ガイアって?
『いいなー。私もあんなサポートモンスターがいればもっと活躍出来るんだけどな……』
そして本気で羨ましそうな顔をするなバニラ。お前呼ぶために三回魔法を唱えるなんてアド損以外の何物でもない。
……と。まあ、ここは無難な返しをしておくか。
「お前の力は分かったから、今は目の前の決闘に集中した方がいいと思うぞ?」
「む。確かにそうだな」
てっきり反発してくるかと思ったが、意外にも大地はすぐに従った。もしかしたら根はいい奴なのかもしれないな。
「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ! 次のターンで伝説を拝ませてやるぜ雪乃!!」
周りからどっと歓声が漏れる。そんなにガイアが珍しいのか。まあ、確かに就職試験決闘の時もバカ娘を出しただけでテンション上がってたからな。遊戯の使ったカードはこの世界ではかなりのレアカードに分類されているんだろうな。
「さて、私のターンねドロー」
雪乃のターンになった瞬間に、先程の大地以上の歓声が起きた。流石はアイドルって所か。
しかし、本当に目立ってるな。これは決闘が終わった後が大変そうだ。
『マスター。どっちが勝つと思いますか?』
(ん?)
と、隣にいるバニラが真剣な目で尋ねて来たので、俺は肩をすくめた。
(さあな。雪乃のデッキによるな)
ガイアデッキは俺の元いた世界ではファンデッキだったが、ステータス重視のこの世界では多分、結構闘えるだろう。
あの大地の力量しだいでは化ける可能性は十分にある。
『雪乃さんが負けるでしょうか?』
(……何か若干嬉しそうに言うなお前)
『そ、そんなことないですよ!? マスターとイチャイチャして羨ましいから、ちょっと負けて欲しいなーなんて欠片も思ってませんよ!?』
それと本音が漏れてるぞバカ娘。
(イチャイチャなんてしてないだろ)
『あれをイチャイチャと言わずに何と言うんですか!? 近くで見せられた私の身にもなって下さい! 口から砂糖吐きそうでした!!』
(知るか……)
なんだこいつ、いっちょまえにジェラシーでも感じてるのか?
……まさかな。アホなことを話すより雪乃達の決闘の方をちゃんと見るとしよう。
『ますたー』
と思った矢先に、なぜか唐突に俺の目の前にウェン子が出てきた。お供の海豚を付けずに一人だけなのでなんかレアな光景だな。
「なんだ?」
『わたしのかんがいってるからいうね……』
「?……ああ」
なんのことかはさっぱりだが、ちゃんと聞いてやることにしよう。
ウェン子は大きく息を吸い込むと、びしっと天を指さした。
『うえからくるぞ。きをつけろ!!』
それだけ言うと、満足したのかウェン子は消えてしまった。
「……え?」
いや、うん。まったくもって意味が分からないのだが? 一体、あの幼女は何が言いたかったのだ?
と思っていた時が俺にもあった。
「大地の坊や……」
その声を、雪乃が発したのだと一瞬分からなかった。
それほどまでに冷え切った、感情のこもらない声だった。
「1つ、言い忘れてたけど、私って結構独占欲が強いのよ」
「? ああ、それがどうした?」
「さっき、あなた先生に触れたでしょう?」
触れた? ……ああ、胸倉を掴まれた時か……
「え、ああ……触れたけど、それが?」
「……私、実はあれで結構ジェラシーを感じてたのよ」
「え?」
「はい?」
『ふえ?』
上から大地。俺。バニラの順に思わず戸惑いの声が漏れてしまった。
……え。だってあれだよ? 胸倉掴まれただけだよ? それだけでジェラシーって普通感じる?
「子供みたいだけど……先生に触れていいのは私だけ……そんな気持ちが溢れてきてしょうがないのよ」
……気のせいだろうか? 雪乃の背後からドス黒いオーラが見えるのだが?
いや、はは、気のせいだ。多分気のせいだ。だってあいつサフィラだぜ? 半分は光属性モンスターの精霊だそうだし。流石にそんなことは……
『マ、マスター!! 雪乃さんの背中からドス黒いオーラが見えます!!』
やめろよぉ! せっかく見て見ぬフリしてたのに、台無しじゃねえか!!
え、何? 何が起きるの? 大地くん見てよ。何か黒いオーラに飲まれて、超ビクビクしてるよ!?
「手札からマジックカード青天の霹靂を発動」
瞬間。空が清々しいほどの青空になった。
って、ちょっと待て! 青天の霹靂だと!? あのチート魔法か!?
『うわー。すごく綺麗な青空ですねマスター!』
(……お前はいいよなバカ娘。のんきで)
『呆れられました!?』
はしゃぐバニラに思わずため息が出る……まあ、今回ばかりは仕方ないか。
晴天の霹靂。あのカードの力は食らった奴にしか分からんだろうからな。
「青天の霹靂の効果……このカードは相手の場にモンスターが存在し、自分の場にモンスターが存在しない場合に発動が可能。手札のレベル10以下の通常召喚出来ないモンスターを召喚条件を無視して、特殊召喚が出来るのよ」
「しょ、召喚条件を無視だって!?」
『召喚条件を無視ですか!?』
大地とバニラのリアクションが被った。
うん。まあ、初見ならそりゃあびっくりするよな。
……しかし、それはそれとしてなるほど。ウェン子のさっきの「うえからくる」の意味が分かったぞ。
「手札から召喚するのは、私のお友達――天魔神ノーレラスよ」
空から一条の光の柱が落ちてくる。
そこから現れたのは、天使と悪魔。両方の性質を持つモンスターだった。
「レベル8をいきなり!?」
「うふふ。安心しなさい坊や。青天の霹靂にはその効果故にリスクもある……このターン私は他のモンスターを通常召喚も特殊召喚も出来ない……更にノーレラスは次のあなたのエンドフェイズにデッキに帰る……しかもあなたが受ける全てのダメージは0になる。安心でしょ?」
ああ、うん。確かにデメリットもでかい。強力モンスターを呼んでも、ダメージを与えられないデメリットは痛い。
「! 確かに安心だな! 残念だが雪乃!次のターン俺の最強モンスター暗黒騎士ガイアがお前を……」
「
「ノーレラスの効果を発動するわ。私のLP1000をコストに発動……チェーンして、何か効果はあるかしら?」
「え? いや、ないけど……」
あ、終わったな。この決闘……決着は分からないが、もうまともな決闘にはなるまい。
雪乃LP4000→3000
「そう……なら効果を発動――――私のお仕置きをその身で受けなさい」
天魔神が両手を広げたかと思うと、プレイヤーとフィールドを光と闇が包み込む。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
光は手札を、闇はフィールドそれぞれ覆う。
「ノーレラスの効果……それはLP1000をコストにフィールドと手札のカード全てを墓地に送るわ」
「なにいいいいい!!??」
『ええーーー!!??』
最凶の禁止カード混沌帝龍ー終焉の死者の再来と言われるフィールドリセット効果……これを受けてしまえば、まともに機能するのは墓地を多く利用するデッキぐらいだ。
当然のことながら、ガイアデッキの大地は、もうまともにデッキは機能しないだろうな……
「だ、だけど雪乃! カードが全て消えたのはお前も同じだぜ!」
「うふふ。心配してくれてありがとう。でも大丈夫よ。ノーレラスは全てを綺麗にしてくれた後、デッキからカードを1枚ドローさせてくれるから」
「うそん!?」
リセット効果の後のカード1枚ドロー。地味に見えるが、これがかなり強い。完全にガラ空きになったフィールドで妨害される可能性が少なく、モンスターや次の戦術の布石を展開することが出来るからだ。
「私は永続魔法――星邪の神喰を発動して、ターンエンドよ」
星邪の神喰か……また、面白いカードを使う……
(それにしても天魔神……か)
天使でもあり、悪魔でもある存在。
どちらでもあり、どちらでもないという不安定な神。
これではまるで……
思わず雪乃を見てしまう。
『マスター? どうしたんですか?』
「いや。少しだけあいつのことが分かった気がしただけだ」
『?』
首を傾げるバニラ。その様に苦笑を浮かべようとした俺だったが――
「ようやく見つけましたよ大地!!」
若い女――いや、少女の声が不意に聞こえた。
振り返ると、観客となっている野次馬の間を割って、眼鏡をかけた真面目そうな少女が現れた。
……どこかで見覚えがあるな。どこだったか?
「あら、多分いるだろうとは思っていたけど、ここに来てもう1人の幼馴染と会えるとわね。嬉しいわよ麗華」
「私も嬉しいです……と言いたいところですが、この事態は何なんですか雪乃?」
「なにと言われても、決闘をしてるのよ」
「その過程を聞いているのです……ってあれ? あなたどこかで……」
額に手を置き、ため息を吐く麗華の視線が俺と不意に交わる。
「思い出しました!!」
びしっと指差される。おい、人を指差すのは行儀が良くないんんじゃないのか?
てか、俺も思い出したぞ。
原 麗華。遊戯王TFに出てくる人気キャラの1人で、バーンデッキの使い手。
委員長と呼ばれる真面目キャラ。とにかく真面目キャラ。
そんな奴が俺を指差して言う台詞なんて、ろくなことじゃないものに決まってる。
「私はあなたを軽蔑します!!」
うん、やっぱりな。
後攻1ターン目のノーレラスリセット。
多分ユキノンならこれぐらい平気でやると思ったんですが、作者の幻想でしょうか?