遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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黒乃の災難

 雪乃があの竜姫神サフィラの精霊だということは分かった。

 だが、俺にはまだ知りたいことが山ほどあった。

 ブラックマジシャンのこと。

 シュヴァルツ・ディスクという訳の分からん決闘盤のこと。

 なのに……

 

 

「決闘しろ!! 俺が勝ったら、雪乃と関わるのはやめてもうぜ!!」

 時刻はちょうど昼のランチタイム。今日が休日ということがあってか、かなりの賑わいを見せる人気レストランで、俺は何故か決闘を挑まれていた。

 相手の名前は岩越(いわこし) 大地(だいち)

 アニメでも、TFでも見たことのない主人公顔のイケメン少年だ。

 

 

 さて……まるで意味がわからんぞ! なこの状況を整理するため、少し今回の事の発端を思い出してみようか。

 

 

 

 

「悪いけど、先生にはある人に会ってもらうわ」

 自らがサフィラの精霊だということを明かした雪乃。更なる質問をしようとした俺を遮るように、雪乃は一方的にそう言ってきた。

「それは必要なことなのか?」

「ええ。だってあなたが今腕に着けているシュヴァルツ・ディスクの本来の持ち主ですから。聞きたいこと色々あるんじゃないの?」

「なに?」

 シュヴァルツ・ディスクの本来の持ち主? 確かに色々聞きたいことは山ほどあるが……左腕を見てもあの悪趣味な黒い決闘盤はない。なら、優先度的には低……

「あ、先生。注意しておくけど、シュヴァルツはあなたの腕からなくなったわけではないわよ?」

「なに?」

 いや、どう見ても腕には装着されていないんだが?

「デュエルスタンバイ……っ言ってみて?」

「なぜに?」

「いいから」

「はあ……」

 なんでそんな初代遊戯王の次回予告みたいなノリのセリフを言わなければならないんだと思いながら、渋々言ってみる。

「……デュエルスタンバイ」

 

 

 すると、次の瞬間俺の左腕から閃光が走った。

 

 

「眩しっ!?」

 思わず目を閉じる。おい。なんだこれは! なんでこんな仮面ライダーの変身アイ●ムみたいなノリの異常現象が起きるんだよ!!

「はーい。装着完了よ」

「え?」

 恐る恐る瞼を開くと、左腕にはあの忌々しいポンコツ決闘盤が装着されていた。

「……おい。説明しろ」

「説明も何も……言ったでしょ? それは死ぬまで外せないって」

「ふざけるな! お前、これなんとかしろ!」

 このままずっとこの決闘盤と付き合えと言うのか? 俺はごめんだぞ!!

「うふふ。まあ、そう怒らないで。ああ、一応その決闘盤の姿を消すことの出来るワードがあるけど、聞きたい?」

「言え。今すぐ速攻で!!」

「ワードは……」

 このまま付けたままなんて流石に恥ずかしすぎる。決闘バカってまる分かりじゃないか!?

 

 

 

 

「雪乃愛してる。結婚してくれ---よ」

 

 

 

 

「……ふえ?」

 いやいや待て待て。何を言うこの女は?

「だから雪乃愛してる結婚してくれ……こう言わないとそれは消えないわ」

「んなわけねえだろ!? 明らかにさっきのデュエルスタンバイと関連性ゼロじゃねえか!!」

「先生が寝てる間に適当に私がワードを設定させてもらったからよ」

「なにいらんことしてくれてるの!?」

 おい、まじか? まじなのか? まじでそんな台詞を吐かなければいけないのか!?

「さあ、言わないと先生一生そのままよ? それでもいいの?」

「ぐ、ぐうううう……!!!」

 くそがぁ。言いたくないが、背に腹は変えられない!!

「雪乃愛し、てる。結婚して、くれ?」

「ちゃんと言わないと反応しないわよ」

「……」

 ……わかったよ。もう覚悟を決めるよ。言えばいいんだろう! 言えば!!

 

 

 

 

「雪乃愛してる。結婚してくれ!!」

 

 

 

 

 言ったぞ。ほら言ったぞ!!

 これで文句はないだろ!? さあ、さっさと消えやがれポンコツ決闘盤!!

「…………あれ?」

 おかしいな。全然消えないんだけど? なんで? 

「うふふ……」

「……おい、エロ娘まさかお前……」

 雪乃はにっこりと微笑みながら言った。 

 

 

 

 

「嘘よ」

 

 

 

 

「てめぇの血は何色だぁぁぁぁぁ!!!」

 生まれて初めて女を殴りたいと思った。

 

 

 

 

 そんなことがあって、俺は渋々……本当に不本意ながら、雪乃と行動を共に、外に出ていた。

 そうしなければ、この決闘盤を消す本当のワードを教えないと言われなければ断っていただろう。

 ……まあ、いいさ。雪乃の親がどんな奴なのかは知らないが、このシュヴァルツディスクの本来の持ち主なら、ブラック・マジシャンのことも何か知ってるかもしれない。

 ある意味でこれがベストな選択だったのかもしれない。

「先生。はい、あーん」

 ……そう思っていた時が私にもありました。

「……おい雪乃。これはどういうことだ?」

「どうって、あなたに私がパフェを食べさせてあげようとしているんだけど?」

「……」

『マスター。落ち着いてください! 怒りのせいか頬がヒクヒクしてますよ!?』

 ああ、大丈夫だ。落ち着いてる。まだ俺は落ち着いてるさ。一応俺は歳上。小娘に一々キレてたらダメだな。ここは大人の余裕という奴は……

「ちなみにさっき私も食べたから、間接キスよ先生!」

「知るかぁぁぁぁ!!!!」

 ごめん無理。こいつに対しては何故か、イライラが収まらない!!

「先生、落ち着きなさい。私達の認識阻害の結界を私が張っているとはいえ、あまりに騒いだら私たちのことが周りにばれちゃうわよ?」

「ぐう……」

 歯を食いしばり、俺は着席する。

 そう。ここはあの高級ホテルではない。雪乃の言う『誰か』に会おうと、ホテルから出発した俺達だったのだが、「ちょっと寄り道しましょ。先生?」という雪乃に渋々従った俺たちは今、あるレストランに入店していた。

「確かお前は、ちょっと寄り道するって言って、ここに来たよな?」

「ええ」

「なのに、ここに来る前も服屋や、靴屋。その他諸々の所に回って自分の服や、なぜか俺の服とかも購入したよな?」

「ええ。ありがとう先生。お陰で先生の好みが色々分かったわ。服はホテルに送っておいたから、後で着てね?」

「……あげくの果てにはゲームセンターによって、数時間遊んだよな?」

「プリクラって初めてしたけど、意外と綺麗に写るのね? 先生のイケメン顔がきちんと取れてるわ」

「……」

「それにしてもすごいわね先生。私UFOキャッチャーとかも初めてだから、全然取れなかったのに、先生は一瞬で大きなのを取ってしまうんですもの」

 「ありがとう先生。大事にするわね♫」と、隣に置いていた俺がとった巨大クリボー人形を抱きしめる雪乃。

 

 

 ああ、うん。もう俺ツッコミ入れてもいいよね?

 

 

「おい、案内しろよ! なんでデートみたいなことしてるんだよ!!」

「あらあら、デートみたいな……じゃなくて、正真正銘のデートよ先生♥」

「……」

 もうやだ、こいつ……テーブルに突っ伏す。

 何なんだこれは? 俺、遊戯王GXの世界に来たんだよな? なんで俺来て二日目にデートしてるわけ? 前の世界ではネットとかの遊戯王のSSを結構見ていたが、みんな決闘ばっかりしてるだけで良かった感じだったぞ?

 どうしてこんなに落差がある?

 

 

 ……と、本格的に頭痛を感じ始めた……その時だった。

 

 

 

「おい、雪乃!? お前雪乃じゃないか!!」

 

 

 

 

 妙に耳に残るでかい男の声が聞こえたのは。

 

 

 

 顔を上げると、そこにはさっぱりした赤い短髪。そして長身のイケメン少年がいた。

 多分歳は雪乃と同じぐらいだろう。

 ……しかしこいつ。アニメでもTFでも見たことない奴だな。

「あら、誰かと思えば大地の坊やじゃない。どうしたのこんな所で?」

「坊やじゃねえよ! って、そうじゃない。お前こそこんな所で何してるんだ? ニュースで凄いことになってたぞ!?」

「うふふ。そう……それは大変……ね。先・生?」

「あ? 先生?」

 くそ。できるだけ目立たないように顔を下げていたのに、こっちに意識を向けやがって!

『マ、マスター? どうして顔を上げないんですか?』

(俺の勘が言ってるんだよ! 今顔を上げたらめんどくさいことに巻き込まれるって!!)

「待てよ……先生ってことは……まさか、てめえが黒崎っていう奴か!?」

 だが無駄だった。主人公少年は俺の胸倉を掴むと、ぐいっと持ち上げた。

「てめえ……間違いない! ニュースで言ってた黒崎だな!?」

 おのれマスメディア!! あいつら名前まで出してやがったのか!! っていうか、雪乃よ! 認識阻害の結界とやらはどうした!? 俺思いっきり認識させられているんですけど!!??

「ごめんなさいね先生。大地の坊やは私の幼馴染なの。だから効かないわ」

 俺の思考をそんなにナチュラルに読めるのなら、こうならないために何かの対応が欲しかったぞエロ娘!

「黒崎! 俺はお前に色々言いたいことがあるが、それらはあえて省略する!!」

 いや、言おうぜ!? 多分その色々なことが結構重要だと思うから!! 後、お前意外と力強いな!? 首が締まってかなり苦しいんだが?

 

 

 

 

「決闘しろ!! 俺が勝ったら、雪乃と関わるのはやめてもうぜ!!」

 

 

 

 

 ああ、うん。そんなことはどうでもいいから、さっさと手を離せ。  

 

 

 

 

「あら、それはダメよ大地の坊や」

「え?」 

 雪乃の言葉が意外だったのか。掴んでいた手から力が抜ける。

 あぶねえ。軽く意識飛びかけたぞ? 俺、今日は本格的についてないな……

 息を整えると、俺の背を雪乃の手が優しく撫で回してきた。

「この人の次の相手は私って決まってるの。そのための最高の舞台も用意している……いくら幼馴染とは言え、絶対に譲らないわ」

 「だから……」と、雪乃は言った。

 

 

 

 

「久しぶりに私が相手をしてあげるわ坊や」

 

 

 

 

 明確な宣戦布告を。


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