「承知した」
マスターと鳥さんの決闘に本当の決着が着きました。
世界の移動と、連戦で正直疲労困憊な私でしたが、不思議と気分は高揚していました。
鳥さんの封印を止めただけでなく、彼の仲間の剣闘獣を解放したマスターの行動がとても嬉しかったからです。
(私の選択は……間違っていませんでした)
自分でも分からない程、何度も幾つもの世界を巡りお師匠様を探していましたが、その果てにマスターという心強く自慢のマスターに出会うことが出来、彼を自分の主に出来たことを、私はモンスターとして誇りに思います。
(……ちょっと、意地悪ですけどね)
唯一私を虐めてくる所が不満だが、それはこれから改善して行ったらいい。
(そうです! 『お前がいないと俺はダメなんだよ。バニラ』とマスターが言うぐらいに、マスターのエースモンスター……否、『特別』になるんです!!)
これがお師匠さまを探す以外での私の当分の目標だ。
「マス---」
その為にマスターとコミュニケーションをもっと……
「マスター!?」
取ろうとした私の目は見てしまいました。
マスターの身体がぐらりと傾き、倒れようとしている様を。
考えてみれば当然です! 精霊の私でさえ、疲労が大きいのに、人間であるマスターが疲れていないはずがありません。
それこそ、突然意識を失ってしまっても不思議なことではありません!!
「黒乃!?」
鳥さんも手を伸ばしますが、届きません。近くにいる私も実体化するには時間も、体力も足りません!
ダメです!! 落ちてしまいます!!!
「あらあら、世話が焼ける人ね」
聞こえた声と倒れようとしたマスターを抱きとめた相手が意外すぎて、私は呆気に取られてしまいました。
少し前に初めてマスターと出会い、鳥さんの決闘の発端となった決闘盤をマスターの腕につけた少女---雪乃さんが、唐突に現れたのです。
「でも、そういう所が可愛いわね」
艶っぽい笑みを浮かべながら、雪乃さんが気を失ったマスターの頬に指を這わせます……なんでしょうか? 変なことをしているわけではないのに、なんだかえっちぃです。
って、違います! 今重要なのはそんなことではありません!!
『雪乃さん! あなたは一体……』
「あら、マジシャンの子猫ちゃん……いたの?」
『いましたよ。最初から!?』
というか、一時もマスターの傍から離れていません!!
って、違います! 違います!! 今はそんなことを言いたいのではありません!!
「雪乃さん。あなた、本当に人間ですか?」
どうしてか、藤原雪乃さんから私達モンスターの精霊と同じ気配がします。それもかなり上位の。
「その問には半分YESで、半分NOと答えるわ」
「はぐらかさないで下さい」
「ご主人様がそんなに大事?」
クスクスとマスターを抱きしめながら笑う雪乃さんに、なんだかモヤモヤしたものを感じます。今すぐにでも二人を引き離したいようなそんな衝動に駆られてしまいます。
「まあ、いいわ。そうね。経緯とか長くなりそうな話は先生が起きてる時に一緒に話すからいいとして---」
「結論だけを話すと」と、そう言った雪乃さんの背中から純白の翼が現れました。
「私人間と精霊のハーフなのよ」
真紅から黄金に変わった瞳で、雪乃さんはそう言って、微笑んだ。
雪乃さんが何の精霊なのかは、皆さんすぐにお分かりになるかもしれません……