バニラの下着が盛大に披露されたことは置いておき、これであのクソ鳥のフィールドはがら空きだ。
今なら直接攻撃が可能だが、奴の場には伏せカードが1枚ある。
あれが攻撃反応型トラップである可能性もある。
……だが
(まあ、いいか。どうせ破壊されるのはバニラだし)
『ひどいですマスター!?』
「ブラック・マジシャン・ガールでダイレクトアタック!!」
『発動しませんように! 発動しませんように!!』
ブツブツ言いながら、恐る恐ると言った風に攻撃するバニラ。
さて、この攻撃は---
「ぬぅ!」
ベソトロリイLP4000→2000
(ち、通ったか)
『ちょ、マスター!? どうして攻撃が無事に通ったのに、舌打ちするんですか? そんなに私にやられて欲しかったんですか!?』
(それも半分ある)
『半分あるんだ!?』
もう半分はあの伏せカードが想像よりもヤバイ奴の可能性が高くなったということだ。
考えられる可能性で最も高いのは、剣闘獣が自分の場にいる時、発動したモンスターの効果を無効にし、破壊する『剣闘獣の戦車』
そしてもう1枚はモンスター展開の……
「……俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」
「私のターン!ドロー!」
ベストロウリィにターンがまわる。そして俺の手札を見ると、何故か腕を組んだ。
「小僧。貴様の手札は現在1枚だな」
「ああ、それがどうした?」
「私の手札は今5枚だ。この状況どちらが不利かは明白だな?」
「まあな」
『LPが上のマスターの方が圧倒的に有利ですね!』
「……」
「……」
『あれ? 鳥さんとマスター二人して、どうしてそんな呆れ切った目で私を見るんですか?』
「……どうやら小僧、貴様苦労しているようだな」
「わかるか?」
「ああ」
初めてクソ鳥がいいやつに見えた。俺たち二人を見て首を傾げているバカ娘はもう無視することにした。だから俺たちに呆れられるんだよ。
「その手札では、満足に決闘できまい……そこで私はカードを2枚伏せ、手札より天よりの宝札を発動する」
「なに?」
天よりの宝札だと? OCGでは最悪のドローカードと名高いカードだが、あの言い方だと、まさかアニメ効果か?
「天よりの宝札は互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにカードをドローする……すなわち私は3枚」
「……俺は5枚ドローする」
『え、じゃあマスターの方が凄くお得なんじゃ……』
今回ばかりはバニラの言う通り、ベストロウリィのここでの天よりの宝札は悪手だ。
原作のアニメ効果の天よりの宝札は確かに強力なドローカードだが、相手にもドローさせるため、使いどころが重要なカード。
少なくともこういう場面では絶対に使ってはいけないカードだ。
「どういうつもりだ?」
「貴様に情けをくれてやった……のではないぞ。これが私のやり方なのだ」
そう言うと、ベストロウリィは俺をその鷹の目の視線で真っ向から射抜いた。
「私にとって決闘とは、互いが全力を尽くし合い、勝敗をわけるもの……相手の手札事故などという無粋な勝ち方を私は敗北以上に嫌悪する」
「……クソ鳥」
なるほど。それがあんたの決闘スタイルってわけか。元の世界……現実なら、ベストロウリィを意味不明、舐めプだと罵る奴がいるだろう。
「お前バカだな」
ああ、俺も実際バカだと思う。決闘は結局の所ゲーム勝敗があって初めて意味があるものだという想いの方が高い現代決闘者だ……
「だけどな……」
心の底から思う。
「俺はバカな奴は嫌いじゃない」
アニメの決闘者のそういうバカな所を俺は心の底から尊敬する。
「来い。ここからは俺も全身全霊で相手をしてやる」
敵となる青年の雰囲気が変わった。これまではどこかふざけた部分もあったが、今は抜き身の剣のような鋭く、そして冷たい印象を受ける。
「ようやく本気というわけか……」
そうでなくてはな! こちらも全力を出す意味がない!
「行くぞ小僧! 私はレスキューラビットを攻撃表示で召喚する!」
「きゅう!」
天空のフィールドに一匹の兎が現れる
「!? きゅーーーーーーーーーーーーー!!!!」
……が、飛行能力がない兎はすぐさま、地面に落ちていく。
「そして効果発動! 1ターンに1度このモンスターをゲームから除外し、デッキからレベル4以下の同名通常モンスター2体をフィールド上に特殊召喚する! 来い同志よ! 剣闘獣アンダル!!」
兎はもう見えなくなった。除外されたんだよな? 紐なしバンジーしたわけじゃないよな?
剣闘獣アンダル
通常モンスター
星4/地属性/獣戦士族/攻1900/守1500
高い攻撃力で敵を追いつめる、隻眼の戦闘グマ。
恐るべきスピードと重さを誇る自慢のパンチを受けて倒れぬ者はいない。
『攻撃力1900のモンスターが同時に2体ですか!?』
ブラック・マジシャン・ガールの驚いた声が木霊する。
だが、まだだ。この程度で驚いて貰っては困る。
「更にトラップ発動 ハンディキャップマッチ! このカードは剣闘獣が特殊召喚された時に発動することができる!! 手札またはデッキから剣闘獣モンスター1体を特殊召喚する!! 現れよ同志 剣闘獣ラクエル!!」
剣闘獣ラクエル
星4/炎属性/獣戦士族/攻1800/守 400
このカードが「剣闘獣」と名のついたモンスターの効果によって
特殊召喚に成功した場合、このカードの元々の攻撃力は2100になる。
このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時に
このカードをデッキに戻す事で、デッキから「剣闘獣ラクエル」以外の
「剣闘獣」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。
『3体も!?』
「来るか。ならば、このタイミングで永続トラップ スピリットバリアを発動する」
「このタイミングで発動……どうやら小僧。貴様は我ら剣闘獣の最強の結束の姿を知っているようだな」
「ああ、有名だからな」
「それは光栄なことだ」
ならば、最早問答無用!
「私は、フィールドのラクエルと、2体のアンダルをデッキに戻し、融合!」
『3体融合!?』
「刮目せよ! 我らの最強の結束の姿を! 融合召喚!! 剣闘獣ヘラクレイノス!!!」
剣闘獣ヘラクレイノス
星8/炎属性/獣戦士族/攻3000/守2800
「剣闘獣ラクエル」+「剣闘獣」と名のついたモンスター×2
自分フィールド上の上記のカードをデッキに戻した場合のみ、
エクストラデッキから特殊召喚できる(「融合」魔法カードは必要としない)。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
手札を1枚捨てる事で、魔法・罠カードの発動を無効にし破壊する。
最強の剣闘獣がフィールドに降臨する。背から羽を広げ、フィールドに降り立つその姿は絶対的な強者の姿であった。
「行くぞ小僧! ヘラクレイノスで貴様の小娘に攻撃!!」
ヘラクレノスがブラック・マジシャン・ガールに襲いかかる。
「ならば俺はこの瞬間にエルシャドール・ウェンディゴのモンスター効果を発動する!」
「なんだと!?」
相手ターンでも発動できるモンスター効果だと!?
「自分フィールド上のモンスター1体を指定し、そのモンスターはこのターン特殊召喚されたモンスターとの戦闘では破壊されない! ウェン子!」
『うぃんど・うぉーる!』
ウェンディゴが杖を振ると、ブラック・マジシャン・ガールを守る風が彼女を包み込む。
「その幼女にそんな効果があったとはな! だが戦闘ダメージは受けて---」
「既に俺は永続トラップ スピリットバリアを発動している。このカードの効果で俺のフィールドにモンスターが存在している限り、俺は戦闘ダメージを受けない!」
「やるな小僧。ヘラクレイノスは既に発動しているカードには影響を及ぼせない! 私はカードを1枚伏せてターンを終了する」
ヘラクレノスの攻撃は宙を切り、マジシャンの少女も、そしてその主も無傷で終わった。
クロノ
LP4000
手札6枚
ブラック・マジシャン・ガール (攻/2000 守/1700) 攻撃表示
エルシャドール・ネフィリム (攻/200 守/2800) 守備表示
伏せカード 1
永続トラップ スピリットバリア
ベストロウリィ
LP2000
手札4枚
剣闘獣ヘラクレイノス (攻/3000 守/2800) 攻撃表示
伏せカード 1
「俺のターン、ドロー!」
引いたカードを確認した青年は不敵な笑みを浮かべた。
(仕掛けて来るか!)
ベストロウリィは身構えた。そして確信した。青年はこのターンでヘラクレノスを何らかの手段で処理してくることを。
「俺は手札から速攻魔法 帝王の烈旋を発動する……効果説明は必要か?」
「不要だ!」
その威力は先程身を持って体感したばかり。ベストロウリィに迷いは微塵もなかった。
「ヘラクレイノスの効果発動!手札を1枚墓地に送り、魔法、トラップの発動を無効にする!」
手札1枚を発動コストに相手の切り札を封じるベストロウリィ。
これこそが、剣闘獣ヘラクレノスの恐るべき効果であった。
攻撃力3000の高い攻撃力でありながら、手札を1枚捨てることで相手の魔法、トラップの発動を無効にする。つまり、対戦相手の魔法、トラップをコストがある限り何度でも無効にできるのだ。
「ならば、アーマードビーを攻撃表示で召喚!」
「アーマードビーだと!?」
青年のフィールドに一匹の蜂が現れた。
アーマードビー……レベル4の風属性昆虫族で攻撃力は1600という些か物足りないステータスだが、問題なのはその効果だった。
「効果発動! 1ターンに1度。相手モンスター1体を指定。そのモンスターの攻撃力を半分にする!!」
攻撃力3000と言えども、半分にされてしまえば、攻撃力は僅か1500。
青年のフィールドのモンスターでも十分に倒すことが可能な数値だった。
ベストロウリィとしてはその効果を発動させるわけにはいかなかった。
「カウンタートラップ発動! 剣闘獣の戦車! 自分フィールド上に剣闘獣と名のついたモンスターがいる時に発動出来る。効果モンスターの効果の発動と効果を無効にし、破壊する!!」
「やはり伏せていたか。アーマードビーは破壊される」
出現した戦車の体当たりを受けたアーマードビーは地に落ちていった。
「カードを2枚伏せてターンエンドだ」
「ふ、意味がないというのに随分伏せるな小僧? 大嵐が怖くないのか?」
「大嵐ねぇ……」
ベストロウリィとしては挑発のつもりだった。相手の動揺を誘うために出た言葉だった。
だが、青年は逆にくくく……と人の悪い笑みを浮かべた。
「お前のデッキ入ってないだろう」
「なんだと?」
動揺は顔に---出なかったはずだ。そのはずなのに、青年は大きく頷いた。
「どうやら、図星みたいだな。お前は本当にわかりやすいな」
「……なぜ、私のデッキに大嵐が入っていないと思った?」
「簡単だよ。お前の戦術、言動、そして使ったカードを見ていると、お前は剣闘獣に絶大の信頼を置いている。そのために、素早く剣闘獣を展開出来る構築にしてある。そしてデッキの魔法、トラップは基本的に全て剣闘獣のサポートカードで占められている」
「まるで見たように話すな。私達が決闘を始めてまだ僅かばかりのターンしか過ぎていないというのに……」
「その僅かばかりあれば、相手のデッキを把握するなんて容易いことだ」
「……小僧」
ハッタリなどではない。確証を持っているかのように話す青年に、ベストロウリィは心中で密かに舌を巻いた。
全て青年の言う通りだった。確かにベストロウリィのデッキは剣闘獣を高速で召喚することに重きを置いたデッキ。その為に、魔法、トラップは必要最低限にしており、あるのはそのほとんどが剣闘獣のサポートカードだった。
「貴様が何故、あの竜の姫に選ばれたか分かったような気がするぞ」
「選ばれたねえ……巻き込まれたの間違いだと思うが」
「それなら私と同じだな」
苦虫を噛み潰したように顔を歪める青年に、苦笑を浮かべ、ベストロウリィはカードをドローした。
「私はカードを1枚伏せてターンエンドだ」
(しかし面倒なフィールドを形成したものだ)
ベストロウリィは改めて青年のフィールドを見た。現在ベストロウリィの攻撃はウェンディゴとスピリットバリアの2枚により封じられている。
(だが、あのウェンディゴの効果には弱点がある)
ウェンディゴの戦闘破壊耐性を付ける効果はあくまで特殊召喚したモンスターとの戦闘においてのみだ。そのため、通常召喚したモンスターとの戦闘においては戦闘破壊耐性効果はつけられない。
だが……
(不思議と、その弱点すらあの小僧の罠のように思えてくる)
自分のデッキを言い当ててみせた洞察力。そして人間とは思えない威圧感。それらが、ベストロウリィの展開を邪魔させていた。
事実、あの2枚の伏せカード。強行突破をしようとしたベストロウリィのモンスターを抹殺するトラップである可能性もある。
(……ここはまだ勝機を待つ)
「私はターンを終了する」
「なら俺のターンだ。ドロー」
再び青年のターン。ベストロウリィの全身に緊張が走る。
どう来る? 何を仕掛けてくる?
「俺は---帝王の烈旋を発動する」
「3枚目か!?」
ここまで来ると、ベストロウリィは躊躇いもなくヘラクレイノスの力を使用した。
「ヘラクレイノスの効果により、手札1枚をコストとし、帝王の烈旋の発動を無効とする」
「くくく……」
無効にされたというのに、青年はむしろそれが嬉しそうにも見えた。
(こいつ……何を考えている?)
ベストロウリィの心に僅かばかりの恐怖心が芽生える。これまで戦ってきたどんな戦士とも、決闘者とも青年は違った。一切の理解が出来ないことによる恐怖……ベストロウリィは自らに初めて生まれた部類の恐怖に戸惑っていた。
「さて、そろそろクライマックスの為に必要な役者を舞台に上げるとするか」
「なに?」
一体何を召喚するつもりだ? ベストロウリィは吐き気すら込上がってくるような緊張を感じた。
もう……青年に対する恐怖は隠し様がなかった。
「召喚---」
そして……現れたのは意外すぎるモンスターだった。
「一撃必殺侍」
一撃必殺侍。実は地味にお気に入りのカードです。
あの素晴らしく地味に強い効果は好きなんですよ。