『マスター!? 突然叫んでどうしたんですか!?』
どうしたもこうしたもあるか! 融合主体のHEROとシャドールなのに、なんで融合が2種類しか入ってないんだよ!? しかも片方は最弱のエルシャドールと来た! これサレンダーしても現実なら誰も文句言わねえぞ!
「どうした、お前のターンだぞ? 戦士として闘いに高揚するのは分かるが、少しは抑えろ小僧」
「てめえは黙ってろクソ鳥!」
後、高揚なんてまったくしてないからな! あるのは絶望だけだからな!?
「とりあえず、E・HERO エアーマンの効果でデッキからE・HERO フェザーマンを手札に加える!」
「ほお。フェザーマンか? なるほど……フェザーウィンドによるフェザーパーミッションをする気だな」
そんないいカード入ってねえよ! デッキの中に風関連のカード入ってるからもしかしたらと思ったけど、現実はそんなに甘くなかった。
「俺はカードを……」
さて、問題はここだ。ここで俺が伏せて意味があるカードは2枚。
(だが……)
そう。忘れてはならないのは、俺の対戦相手がベストロウリィのクソ鳥だということだ。
となると、この後の展開はおそらく---
「---1枚伏せてターンを終了する」
奴がカードの精霊と言うのなら確実に1ターンで『あのカード』を出してくる。
「私のターンだ! ドロー」
俺の伏せカードとエアーマンを見たベストロウリィはにやりと笑った。
「小僧。それで私の風を防げると思うなよ」
ああ、うん。このノリはやはり来るか?
「私は手札からE・HEROプリズマーを攻撃表示で召喚する!」
『E・HERO!?』
バカ娘が驚くが、俺は驚かない。あのコンボは結構有名だからな。手札2枚消費であのチート融合モンスターを出せるっていう鬼畜コンボ。
「プリズマーの効果! エクストラデッキから私の進化した姿……剣闘獣ガイザレスを小僧に見せ、デッキから私自身---剣闘獣ベストロウリィを墓地に送る! これでプリズマーはこのターン名前を私として扱う!」
プリズマーの胸にカードが1枚入り、光を放つ。光が消えるとそこにはクソ鳥がもう1体立っていた。
しかし、エクストラデッキーーーか。融合デッキとは言わないんだな。
「そして私は手札よりスレイブタイガーを守備表示で特殊召喚する!このモンスターは私のフィールドに剣闘獣がいる時、手札から特殊召喚が出来るのだ!」
『え? でも、鳥さんのフィールドにはプリズマーしかいませんよね?』
(ダメだな。バカ娘君は)
『のび●君みたいな言われ方されました!?』
お前本当にそれでもカードの精霊か?
(奴の場にいるプリズマーは今自身の効果で剣闘獣ベストロウリィになっている)
『え、ああ、そうか! だから特殊召喚出来たんですね! ……あれ? でもそれだったら普通に鳥さんを召喚した方が簡単じゃないですか?』
(本当にダメだな。バカ娘君は)
『めちゃくちゃ呆れられてます!?』
(見てろ。その答えはこれからあのクソ鳥が教えてくれるさ)
「そしてスレイブタイガーのモンスター効果! 自身をリリースすることで自分フィールド上に存在する剣闘獣をデッキに戻し、デッキから剣闘獣を特殊召喚する! そしてこのカードの効果で特殊召喚した剣闘獣は剣闘獣の効果で特殊召喚した扱いとなる! 私がデッキから特殊召喚するのは、我が同胞! 剣闘獣ダリウスだ! そしてダリウスが剣闘獣の効果で特殊召喚に成功した時、墓地に存在する剣闘獣1体を効果を無効にし、特殊召喚する! よって墓地より私自身を蘇生する!」
『な、なにが起こってるんですか~?』
効果の処理に、目を回しているバカ娘。ああ、うん。クロノスの時のデッキ見て分かってたけど、こいつ複雑なコンボとか分からないんだろうな。
「ただし、この効果で特殊召喚したモンスターはダリウスがフィールドから離れた時、デッキに戻る!」
『え、ああ、じゃあマスター簡単ですね! あの馬さんを倒しちゃいましょう』
(はぁ……)
『何か重々しいため息つかれました!?』
呆れて何も言えない。そんな簡単な話なわけないだろう。
(来るぞ)
『え?』
「私は私と同志ダリウスをデッキに戻し、融合召喚を行う!」
『融合魔法を使わずに融合召喚ですか!?』
バカ娘よ。お前完全に解説&リアクションキャラになってるな。
「現れよ我が進化した姿 天空を統べる覇者! 剣闘獣ガイザレス!!」
剣闘獣ガイザレス
星6/闇属性/鳥獣族/攻2400/守1500
「剣闘獣ベストロウリィ」+「剣闘獣」と名のついたモンスター
自分フィールド上の上記のカードをデッキに戻した場合のみ、
エクストラデッキから特殊召喚できる(「融合」魔法カードは必要としない)。
このカードが特殊召喚に成功した時、フィールド上のカードを2枚まで選択して破壊できる。
このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時に
このカードをエクストラデッキに戻す事で、デッキから「剣闘獣ベストロウリィ」以外の
「剣闘獣」と名のついたモンスター2体を特殊召喚する。
現れるのはベストロウリィの1回りは大きい巨大な鳥人。
『あわわ! マスター! なんかすっごく強そうなモンスターです』
強そうなんじゃない。強いんだ……それも鬼畜なほどにな。
「我が進化した姿は、特殊召喚に成功した時フィールド上のカードを2枚まで選択して破壊する!」
『なんですかその効果! インチキ効果も大概にして下さい!』
「それだけではない! このモンスターが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時にこのモンスターをエクストラデッキに戻せば、デッキから剣闘獣を2体特殊召喚出来るのだ!!」
『む、無茶苦茶ですー!!』
そう。実の所、剣闘獣ベストロリイがかつて制限になったのは大体がこのガイザレスのためだ。比較的緩い召喚条件。特殊召喚成功時にカードを2枚も破壊する効果。
実用性のある最強の融合モンスターの1体と言ってもいい。
「くく……」
そう思うと、思わず笑ってしまった。
『マスター?』
「なにがおかしい小僧?」
「いやなに、ふと思っただけさ……」
この勝負は---
「最強と最弱の融合モンスターの勝負なんだってな」
「なんだと?」
「最強が出たんだ。なら最弱も舞台に上がらないとな!」
その為の布石は既にフィールドに準備してある。
「お前のガイザレスの効果の発動にチェーンし、俺は伏せておいた速攻魔法 エルシャドール・フュージョンを発動する」
エルシャドール・フュージョン。鬼畜魔法シャドールフュージョンには劣るが、それでも十分に強力な魔法だ。
「エルシャドール・フュージョンは手札か、フィールドからシャドール融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地に送り、そのモンスターをエクストラデッキから特殊召喚する!」
当然というか、必然的に俺が出す融合モンスターは……
「俺はフィールドのエアーマンと手札のシャドールハウンドを融合素材に、エルシャドール・ウェンディゴを融合召喚する!」
「な!? 貴様、まさかサクリファイスエスケープか!?」
気付いたか。そう、俺の狙いは---効果の対象になったモンスターをカード効果のコストなどに使用し、効果を回避する遊戯王のデュエルタクティクスの1つ……サクリファイスエスケープ!
「さあ、初陣だぞウェン子!」
どこかのバカ娘とは違い、決闘が始めったからは俺の傍で一言も喋らずに静かにしていたウェンディゴの頭に手を置く。
「ウェンこ……ってわたしのこと?」
「ああ、いやか?」
「ううん。ありがとうますたー。がんばるね」
こくりと頷くと、ウェンディゴは、俺の足場になる海豚の人形を残すと、俺達のフィールドに飛び出していった。
「よし。これで……って、ん!?」
……なんだ? 口が勝手に開くぞ!?
「闇より暗き深淵の影より現れ---全てを守護する防風となれ!!」
痛々しい召喚口上が口から勝手に出てくる。これもこのクソ決闘盤の力か! どんだけ迷惑な装備なんだ!?
「融合召喚! エルシャドール・ウェンディゴ!!」
風が吹いた。新しい海豚の人形に乗り、俺たちの前にウェン子が陣取ってくれた。
「がんばる」
ぐっと胸の前で握りこぶしを作るが、ウェン子よ。お前攻撃力200だよな。とりあえず大人しく守備表示でいてくれ。
「しょんぼり」
いじけて膝を抱えてしまった。まあいいか。決闘には影響ないし。
「いいぞ小僧! だがその程度の幼女など我ら剣闘獣の前では無意味だ!」
余裕そうだな。まあ、それもそうか。剣闘獣には『あいつ』がいるからな。
せっかくだし、ここらで『揺すり』をかけて見るか。
「クソ鳥。お前の次の起こすアクションを当ててやろうか?」
「なんだと?」
「ガイザレスでウェンディゴに攻撃し、その効果で自身をデッキに戻し、デッキから2体の剣闘獣を特殊召喚。そしてその片方のモンスターを剣闘獣ムルミロにし、その効果でウェンディゴを破壊する……」
「……」
「図星みたいだな」
さっきまでうるさかったクソ鳥が黙っている。あいつ、どうやら駆け引きとかは苦手そうだ。
『マスター。ムルミロってなんですか?』
お前、本当に何も知らないんだなバカ娘。
(剣闘獣ムルミロはレベル3の水属性魚族のモンスターだ。そのままなら、貧弱なただのキモイ魚だが、剣闘獣の効果で特殊召喚された場合、フィールド上の表側表示モンスターを破壊する効果を持っている)
『え、じゃあウェンディゴちゃんは……』
(破壊されるな)
ウェン子は破壊効果による耐性なんてもってないからな。
『ぶるぶる』
『マスター。ウェンディゴちゃんか泣きそうな顔で震えてます! 何とかならないんですか!?』
(もう既に手はうってある)
『え?』
言うと、俺の墓地から耳をつんざく犬の遠吠えが聞こえた。
「なんだこの犬の鳴き声は!?」
耳を抑えながら、苦悶の声を出すクソ鳥に、俺は笑みを浮かべた。
「融合素材に使用したシャドール・ハウンドの効果だ。こいつはカードの効果で墓地におくられた場合、フィールドに存在するモンスター1体の表示形式を変更する」
「なに!? ではまさか……」
「そのまさかだ。俺はこの効果をお前の進化した姿---ガイザレスに使う」
巨大な鳥人は脳を直接揺らす犬の遠吠えに、苦しみ、悶えながら、守備表示になった。
「これで、お前はバトル出来ない」
「く!」
俺を睨みつけてくるベストロウリィ。悔しいでしょうねぇ。せっかくモンスターを出したのにこんな方法で攻撃を封じられて。
でもな。正直に白状するぞ。こんな奇策みたいな方法しないと勝てねえんだよ! まともに闘えるデッキなら俺も普通に闘うわ!
剣闘獣のように何かのテーマでバランス良く作られているわけではないし、あるもので闘うしかねえんだよ!
「私はカードを1枚伏せてターンを終了する」
「俺のターンだ。ドロー」
引いたカードは……悪くない。この意味不明なデッキで数少ないまともに使える魔法カードだ。
「俺は手札から速攻魔法 帝王の烈旋を発動する」
発動と同時にフィールドに突風が巻き起こる。
「帝王の烈旋だと!?」
「くく、知っているようだな」
そうだよクソ鳥。このカードは俺がアドバンス召喚をする際、1度だけリリースするモンスター1体を自分フィールドのモンスター1体の代わりに相手モンスター1体をリリースすることが出来る。
「貴様に最大の屈辱を与えてやるよクソ鳥ぃ!!」
『マスター!? 顔芸マリクさんのような極悪顔になってますよ!?』
「ガイザレス!!」
俺が指差すと、風がガイザレスを拘束する。
さて、これで生贄を確保した。
「クソ鳥!! 自分の進化した姿が、ただの脂肪の塊をぶら下げたバカ娘になるのをその目で拝めぇ!」
『マスター! 私、そろそろ泣きますよ!!』
「やめろおおおおおおお!!」
「剣闘獣ガイザレスを生贄に---現れろ! ブラック・マジシャン・ガール!!」
ブラック・マジシャン・ガール
星6/闇属性/魔法使い族/攻2000/守1700
このカードの攻撃力は、お互いの墓地の「 」
「マジシャン・オブ・ブラックカオス」の数×300ポイントアップする。
『色々納得いきませんが、がんば---ってきゃあ!!』
バニラが現れた瞬間。帝王の烈旋によって発生した風の為に---
なんとバニラのスカートが大きくめくれた。
真っ赤な顔で慌ててスカートを押さえるバニラ。かと思うと、背後を振り返り、俺の顔を見ると恐る恐る尋ねてきた。
『マ、マスター見ましたか?』
「……なんのことだ?」
今にも湯気が出そうな勢いのバニラに、俺は肩をすくめてみせる。
『い、いえ。見てないんならいいんですよ! さあ、頑張りますよ私!!』
「時にバニラよ」
『はい、なんでしょうかマスター』
「お前、ブラック・マジシャン・ガールなのに、下着は黒じゃなくて白なんだな?」
『って、思いっきり見てるじゃないですかマスターのバカーーーーーーーー!!!!!!』
バニラの絶叫が天空に木霊した。
さあ、みんなも帝王の列旋を使って満足しようZE!!