遊戯王 Black seeker   作:トキノ アユム

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プロローグ

その出会いは偶然だった。

大学の講義がはやく終わったため、行きつけのカードショップでシングルカードでも覗いてみようかと、そういう軽い気持ちが事の発端だった。

誰にでもある。カードゲーマーならよくある何の変てつもない日常だと思う。

だが、俺はその日非日常に出会ってしまった。

「う、うぅ!!」

「……」

そいつはシングルカードが置かれたショーケースの前で、泣いていた。

カードショップのシングルカードの前で涙を流す奴。あまり関わりたくない人間ランキングの上位に食い込みそうなこのあやしい奴。

そいつはコスプレイヤーだった。

しかもチョイスが凄い。遊戯王のモンスターの中でマドンナ的存在であるブラックマジシャンガールのコスプレだ。

(よく、そんな露出が高い衣装を着れるよな)

カードオタク以外はいたってノーマルな俺には到底理解できない。

(しっかし、似すぎだろこいつ)

隣に立って分ったが、コスプレの再現率が半端ない。いやむしろこれ本人じゃね? と思わず思えるほどに、ブラックマジシャンガールと瓜二つだった。

だが日中からこんな派手なコスプレをする奴と関わっても、絶対にろくなことにならない。

なので俺は完全にコスプレイヤーを無視することにした。

「いいエクシーズねえかな」

「うえーーーん!!」

 俺がメインで使っているのはみんなの嫌われ者ヴェルズデッキだ。

「うああ---ん!!」

 レベル4モンスターを1ターンで大量に並べれることからランク4エクシーズモンスターと非常に相性がよく、また専用エクシーズモンスターもどれも強力だ。

「うえ---!!」

 しかもヴェルズをサポートする専用魔法(マジック)も罠(トラップ)もどれも非常に優秀ということもあって、大会でも上位に食い込むほどのポテンシャルを---

「うえ------ん!!」

 持って------

「え---ん!!」

 ---ぷっつん。

 

 

「やかましいわこの電波系バカ娘っ!!」

 

 

 ダメだ。我慢の限界だ。色々リミットブレイクだ。

 無視しようと頑張ったがあまりにもうるさすぎる。なんだ、この女は!

「お前がどんな格好をしようとそれはお前の自由だ。だがな、腐っても社会人の一人ならモラルある行動をしろ! 具体的に言うと、喋るな! 黙れ! 静かにしろ!!」

 息継ぎしないで言ってやった。かなりきつめに。いくら頭のネジが飛んでいるバカ娘でもこれなら---

「あ、え、うそ……」

 こいつ全然こたえてねえ。怯むどころか、むしろ迷子の子供がようやく親を見つけたかのようなそんな喜色に満ちたキラキラした目を俺に向けてきた。

「私が、分かるんですか?」

「あ? お前がバカってことなら、分かるぞ」

 それも上に超がつくほどの高レベルだということも分かる。

「やった。やっと見つけた!!」

 おい、会話しろよ。一人で何勝手に盛りやがってやがるんだ。俺なんか完全に取り残されてるぞ。もうこいつとのテンションの差。スピードカウンター5つ分ぐらいの差が出来てるんじゃないのか?

「お名前を教えてください」

「はあ? なんで?」

「お願いします」

 ずいっと俺との距離を詰めてきやがる電波娘。いやもうこいつ、怪しい通り越して怖いよ。もう変質者レベルだ。こんなやつに本名なんて名乗れるわけがない。適当に相手をするとしよう。

「黒崎 黒乃だ」

 厨二病レベルMAXの嘘くさい偽名を名乗ってやる。

「黒崎 黒乃さんですね! 覚えました!」

 え、うそ。こいつ信じた? おいおい、冗談だよな? 黒崎 黒乃だぞ? どう考えても偽名っぽいだろ?

こんな名前の奴いるわけないだろ?(全国の黒崎 黒乃さんはすまん)

「黒乃さん!!」

 おい。なぜ抱きついてくる。っていうか、いきなり呼び捨てか。いや、偽名だから別にいいけどさ。

 それはともかく、顔が妙に近い。そんな鬼気迫る真剣な顔で俺を見るな。一体何を言う気なんだよ。

 

 

「あなたが、私のマスターです!!」

 

 

「……はい?」

 想像よりもぶっ飛んだ電波セリフだった。何言ってんですか、バカなんですか?

 ……すいません。ばかでしたね。

「お願いします助けてください」

 緑色の瞳をウルウルさせて懇願してくるバカ娘。

 ふむ、こういう時美少女というのは得だな。中身がどんなにバカでも電波でも絵になる。

「嫌だ」

 まあ、絵になろうが、俺の答えは初めから一つなのだが。

「まだ、何も言ってませんよ!?」

「うるさい、黙れ、喋るな」

「ひ、ひどいです」

 酷くて結構。俺は面倒事と無駄なは出来るだけ避ける主義だ。バカ娘の電波設定に付き合うつもりは毛頭ない。

「話だけでも聞いてください! あなたはこの世界で唯一今世界に起こっているイレギュラーを認識できる人なんです!」

「いや、俺にとっては目の前のお前がイレギュラーそのものなんだが?」

 主に社会からの。

「その通りです」

 肯定しやがった。自覚ある電波かこいつ。働いたら負けかなとか、悟りを開いている奴と同じ境地にでも達してやがるのか?

「私が分かるんです。あなたは、私の『お師匠さま』のことだってわかるはずです!!」

「お前の師匠?」

 こいつのコスプレ---ブラック・マジシャンガールの師匠と言えば当然------

 

 

「●●●●・●●●●●だろ?」

 

 

 口にした名。初代主人公である武藤 遊戯の切り札でもあり、遊戯王の代表モンスターの一体でもある最高クラスの魔術師の名------

 それを口にした瞬間、ぴしりと世界に何か大きな亀裂が入った……そんなありえない錯覚を感じた。

「な!?」

 そして次の刹那、俺達が立っていた床が消失した。ポッカリと空いた底が見えない漆黒の穴の中に俺とバカ娘は落ちていく。

「やった! これでやっと……」

 下に行くにつれ、意識が薄れていく。その中でも、バカ娘は興奮した面持ちで世界転移だのパラレルワールドなどの電波台詞を吐いていた。 


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