ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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悩みと答え(タイトルにはそんなに意味は無い)

イッセーたちと戦った翌日の朝

 

カリフは広い自宅を闊歩していた。寝ぼけ眼を擦りながら。

 

「腹減った……」

 

眠気はそんなに感じはしないけれど起きた時の空腹に意識を乗っ取られたような感覚を覚えていた。

 

結構歩いてキッチンに来てみても、今日が休みだからか誰も起きていないのかキッチンは薄暗いままで誰も居なかった。

 

キッチン周りの棚を漁っても昨晩の残りもなければインスタント食品さえもない。朱乃たちの同居が始まってからは母と主に朱乃がローテーションで料理を作っていたのだから仕方のない話かもしれない。

 

何だかここで朱乃か母のどちらかを起こすのはプライドが許さない。何もできない、と思われたくないというのが本音である。

 

カリフはカリフなりに料理の心得くらい持っている。そのため料理はできないわけではない。

 

「えっと……味噌と、出汁、油揚げか……これでいいか」

 

冷蔵庫を漁って無難に味噌汁を作ることにした後に行動に移す。

 

袋に入っていた油揚げを手刀で程よいサイズにカットした後にそれを置いて鍋に水を入れて出汁の元を入れて火をつける。沸騰した所へ油揚げを全部入れる。

 

ある程度にまで温まってきたらお玉に味噌を入れて菜箸で少しずつ溶かしていく。

 

「ふぅ」

 

簡単に作った後に油揚げを入れて弱火にしてしばらく温める。

 

その間何をして時間を潰そうかと考えていた時、気配を感じた。

 

「昨日の今日でよくやる」

 

そのまま気配を追って屋敷を歩き、たどり着いた先は修行用の部屋だった。

 

ドアを開けてみると、そこには案の定といったように竹刀を構えたゼノヴィアがいた。既に朝早くから相当に鍛錬していたのか汗の飛沫がキラキラと光っていたのが見えた。

 

しばらく素振りしている様子を見ているとゼノヴィアがカリフに気付く。

 

「カリフか、おはよう。早いね」

「お前の方がな。邪魔したか?」

「いや、私も素振りだけで少し物足りなかった所だ。軽く打ち合ってくれないか?」

「ん~……飯作ったから五分だけな」

「充分だ」

 

ゼノヴィアからの誘いによって軽く打ち合うことになったカリフはゼノヴィアの前にまで出る。軽やかに構えるカリフに比べて対するゼノヴィアは竹刀を構えて対峙する。

 

「せやあ!」

「ふっ」

 

先にゼノヴィアが仕掛けるがカリフは手刀で容易に受け止めて弾く。

 

そこから二人は手刀と竹刀で軽く打ち合って互いに身体を温めている。

 

「ほう、前に修行した時よりは鋭くなったんじゃないのか?」

「そうか? これでも合宿の時以来からずっと朝に鍛錬を続けてきたんだ」

「なるほど」

 

そのまま打ち合っているとゼノヴィアの表情に影が指すのが見えた。

 

「私は木場よりも弱いからな」

 

自嘲するゼノヴィアにカリフは手を止めて頭を掻いた。ゼノヴィアは落ちる時はとことん落ちるということをここで思い出させられた。

 

ゼノヴィアは木場がゲームの時に自分よりデュランダルを上手く扱えていたことを知った時は表面には出さなかったが悔しがっていたのは知っている。多分、それから鍛錬を積んできたということくらいすぐに分かる。

 

「それだけじゃないんだけどね」

「……だろうな」

 

そして予想通り昨日のことを多少は引きずっていたのだとこの言葉で確信する。

 

「自惚れかもしれないけどこの合宿で君に少しでも近づけたのだと思ったよ」

「……どう思った?」

「遠いな……いや、背中すら見えてなかった」

 

一介の戦士であるゼノヴィアにも多少の自信があったに違いない。それを夏休みの間に疑問を持ち、止めは昨日のカリフとの一戦

 

全力の一撃をたった5%の力で一蹴されたという事実は予想以上にゼノヴィアに付きまとっていた。

 

「当たり前だ。お前等は確かに強くなっている。だが、オレは更に早く強くなっているのだからな」

「そうだね……」

 

やっぱり自分たちはただのお荷物なのか……カリフの一言でさらに気落ちする時、別の言葉が返ってきた。

 

「でも、お前はこうやって鍛錬しているのだろう? 何故だ?」

「な、何故……」

 

急に質問で返されたゼノヴィアは咄嗟には答えられなかった。

 

「オレに追いつくことか? それとも仲間のためか?」

「それは……」

 

しばらく考えた後ですんなりと答えを出した。

 

「どっちもかな」

 

あっけらかんと答えるゼノヴィアにカリフは思わず噴き出した。それに対してゼノヴィアは意外そうにしながらも困惑した。

 

「? 何か可笑しかったか?」

「いや、考えなしのお前らしいとな……」

「馬鹿にしてないか?」

「してるに決まってんだろ」

 

心外そうに頬を膨らませるゼノヴィアの問いにカリフは高々と笑いながら答える。だが、その後に穏やかな笑みに戻る。

 

「だけどそれでいい。しばらくはそのテンションを維持してれば嫌でも強くなる」

「君が言うと馬鹿にしているようにしか聞こえないけど」

「そう言うなよ。折角の有難いアドバイスだからな」

(自分で言うことなのか?)

「しっかりと強くなれや」

 

やけに自信満々なカリフにゼノヴィアは溜息を吐く。そんなゼノヴィアにカリフは向き合う。

 

「お前らは当分、禍の団(カオス・ブリゲート)のことだけ考えろ」

「え?」

 

再びカリフと向き合うが、カリフが視線を外して周りを歩き回る。

 

「多分、その組織とお前等はぶつかり合う機会が多くなる。その度にオレがいるとは限らねえからな」

「……」

「もしかしたら避けられない格上相手との戦闘もあるかもしれないからな」

「まさか、私たちにその時のために昨日……」

 

ゼノヴィアの言葉を最後まで聞かずに出口に向かう。

 

「今はこれで上がりだ。オレはこれから使い魔の森に行くために体力を使う訳にはいかんからな。それに飯もできてることだろう」

「あ、あぁ……」

 

いつもこうだ、彼はそうやって何かを伝えようとしているのに肝心な所だけは教えてはくれない。

 

その所為で人から誤解されることもあるだろう。

 

天邪鬼ではあるけれど、しっかりと自分たちに残す物は残そうとしている。

 

この中でも先を見越し、自分たちを戦える状態にまで仕上げようとしてくれている。

 

「全く……私よりも不器用なのではないのか?」

 

溜息を吐いて呆れるところだろうが、ゼノヴィアは意に反して笑ってしまった。

 

カリフと自分たちの差は天と地の差まであるのは明らかであろう……それでも彼は最低限、自分たちを見捨てるようなことはしていない。

 

聞いても恐らくは適当にはぐらかされるくらい予想できている。

 

それでも彼ははるか後方にいる自分たちを見てくれている。

 

「……よし!」

 

それなら勝手に『自分にはまだ見込みがある』とでも思っていよう。それでもその差は一生埋まることは無いのかもしれない。

 

それでも……後方から向かってくる敵は代わりに私たちが打ち滅ぼす。

 

君に救われた命……それくらいに使ってもいいだろう?

 

自分の頬を勢いよく叩いて気合を入れ直し、先を行くカリフの横に並ぶ。

 

「カリフ」

「?」

「きっと、いや、絶対に強くなる。絶対にだ」

「……そうか」

 

さっきまでの暗い気分は消えはしないけど、先程よりも気分は軽くなった気がした。

 

「そういえばまだ朱乃副部長は寝てる時間だね」

「あぁ」

「君が料理したのかい?」

「一人の時が多かったからな。嫌でも調理しなければならない時があったんだよ」

「興味あるね。食べてもいいかい?」

「……朱乃と違って味はただ食えればいいってくらいだ。それに中々思い通りの物も作れてるって訳でも……」

「いいじゃないか。今日は全員でその朝食にしよう」

「……後で文句垂れるなよ」

 

カリフは少し恥ずかしいのかゼノヴィアから視線を外して呟く。

 

その行動に普段からみせない可愛さが滲み出て一瞬だけ抱きしめようと思ったが、理性で抑え込んだ。

 

「それじゃあ皆に知らせよう。皆も喜ぶと思うぞ(結婚しよ)」

 

表面ではクールに言うが内では欲望に塗れた思考を秘めていた。

 

 

 

そして皆が起き始める時間にゼノヴィアがそれぞれの部屋に行って朝食のことを伝えた瞬間、この家の住人が目の色変えてパジャマのままキッチンへと向かって行った。

 

「こ、ここここここここれは収めねば……普段九割ツンの貴重なエプロン姿ーー!」

「あらあら……後でそのカメラの焼き回しを私にお願いいたしますね。これで多少は夜の寂しさも紛れますわ」

「……マナ先輩。私にもその焼き回しをください」

「待て待て。このことを伝えた私に最も有用な利益を与えるべきだ。とりあえず抱き枕を」

「お前等出ていけ。でないと頭を吹っ飛ばすぞ」

 

キッチンに集まってくる変態を相手にしたくないのかカリフは必死に苛立ちを抑えながら考える。もっと精神的に追い詰めてやるべきだったか……と。

 

そうこうしている内にカリフの料理は完成し、食卓に並ぶことになった。

 

入れ物の中に温かい料理が注がれて全員の口に入った。

 

「うふふ、美味しいですわ」

「……意外な特技」

「美味しい……美味しいよ!」

「うん、これはいい味だ。流石は私の夫になる男」

「ほう、息子にこんな特技があったなんてな」

「ふふ、美味しいわ。ありがとう」

 

家族を含めた全員が絶賛する中、作った本人だけが目が死んでいる。

 

そんな彼を置いて全員は称賛の声を並べる。

 

「にしてもこんな物も作れるなんてね」

「えぇ、美味しいですわ」

『『『このコーンポタージュ』』』

「味噌汁にしたかったのに……」

 

転生前から治らなかった数少ない自分の弱点が変わらないことに頭を押さえてしまう。

 

格段料理が得意でもなければ下手ということでもない。

 

ただ、狙った料理が作れない(料理下手と言う名の錬金術)だけである。

 

こうして思い描いたのとは違った朝を送り、彼は夜まで待つこととなった。

 

 

 

朝食以降は特に目立った修行をすることはせずに体を休めるためにほとんど寝て過ごした。

 

使い魔の森は案内人は夜にしか行動しないとのことで夜まで待たされる羽目になった。悪魔ではないカリフにとってはこれほどきついことはないだろう。

 

朱乃たちもそれを理解してか、静かにカリフを寝かせてやったのだった。

 

そして、夜の22時に学校の校庭に全員は集合した。ロスヴァイセやイリナ、シトリー眷属も含めた学校関係者が集まった。

 

「よし、そろそろ時間だ。さっさと送ってくれ」

「へいへい。相変わらずせっかちな野郎だな」

 

軽口を漏らしながらアザゼルは転移魔方陣を出すとそのまま上に乗っかる。

 

「あなたなら大丈夫でしょう」

「しっかりやってこいよ!」

「成功を祈って……悪魔ですから祈るというのもおかしいですわね」

「いや、私は祈っているぞ」

「怪我した時は私が治しますから!」

「……油断は禁物」

「が、頑張ってくださいぃ!」

「僕たちの分までしっかりやってきてね」

「行ってらっしゃーい!」

 

オカ研からの激励には静かに手を上げただけで応えるカリフ

 

そして、カリフは魔方陣の光と共にその場から姿を消した。

 

「はぁ~、俺たちは待機かぁ。今回はあいつ一人でも全部片付けちまうかもなー」

「そうなったらそうなったで良しとしようよ」

「そりゃあな」

 

カリフの転送を見送った後のグレモリー眷属はいつもの様子で悪魔の仕事に戻ろうとするが、匙たちの様子がおかしいことにイッセーは気付く。

 

「どうした匙? なんか暗いな」

「いやさ、昨日のことでちょっとな……」

 

匙の声が聞こえたのか周りの空気が重くなった。

 

「自惚れてた訳じゃなかったんだけどよ……この合宿で俺たちやお前の所だってすげえ力付けだろ? お前なんかバランス・ブレイカーにまで至ったし、俺だって神器の使い方をある程度までマスターしてたからもしかしたら、って思ってたんだけどよ……」

「予想以上にカリフが強かったってとこか?」

 

そこでアザゼルが横から加わった。その答えに匙は頷いた。

 

「勝てるとは思ってなかったけど、まさか遊ばれて終わるとちょっと……」

 

乾いた笑みを浮かべる匙に対してイッセーは肩に手を置いて何度も頷く。

 

「うんうん、分かるぞ。オレたちだってあいつを目指してはいたからさ、思い知らされちまった」

「……そうには見えないけどな」

 

疑いの目で見てくることに対してイッセーは清々しそうに笑う。

 

「最初はさ、すげえ悔しかったさ。負けることに慣れるなんてことはできねえ。それならもっと強くなるしかねえじゃん?」

「……そ、そうだな!」

 

イッセーの言葉に匙は何かを感じ取ったのかいつもの調子に戻った。少なくとも周りにはそう見えた。

 

だけど本当は自分が置いて行かれているような焦燥感は少なくとも残っている。

 

だけどそれを気にしてばかりでは前に進めない、だからそれを乗り越えて強くなる必要がある。

 

自分の実力と向き合い、いかに成長をしていくかが試されている。

 

グレモリー眷属もシトリー眷属にとって重要なことだとアザゼルは思った。

 

「グレモリー眷属もシトリー眷属も苦労してんな」

「他人事だと思って……」

「でも、ある意味ではお互いの眷属のパワーアップに必要なことなのかもしれませんね」

「ああ、今のお前たちはカリフの足元には及ばない。だけど、その悔しさをバネにしてさらに力を付けるよう指揮を上げるか、このまま遠すぎる目標にダレるか。王としての腕の見せ所だぜ?」

 

アザゼルの言葉にリアスとソーナは頭を抱えて溜息を吐く。

 

「本当……何者なのかしらね。カリフって」

「分かっていることは、彼が誰よりもしたたかで厳しいということくらいですね。敵に回したくない相手とも言えます」

 

この時期で最大の問題である『能力の成長』という点を間接的、かつ強烈に突きつけたカリフの出鱈目さを改めて思い知ったのだった。

 

「イリナもロスヴァイセさんも彼に関わるならこれくらいのショックには慣れていただかないとこの先辛いぞ?」

「だ、大丈夫よ! 天使の底力を見せてやるわ!」

「予感はしていましたが、これくらいの障害は付き物なのですね……」

 

新人二人も辟易しながら皆と一緒に校舎へと戻って行ったのだった。

 

 

「グギャアアアアァァァァ!」

「ガアアアアアアアァァァァ!!」

「くそ! いい加減くたばれドラゴン共め!」

「ドラゴンの幼体を探せ! あの二体を逃がしたら俺たちの命は無いと思え!」

 

使い魔の森

 

様々な魔獣や幻獣がそれぞれの生態を築く魔の森の一角で二体のドラゴンが暴れている。

 

一体は白銀に輝く身体にサファイアブルーの瞳を持った巨大なドラゴン

 

もう一方は黒の身体に紅い瞳を有した巨大なドラゴン

 

二体ともそれぞれの美しさを持ったドラゴンであり、森に響き渡る鳴き声から如何に上等なドラゴンであるかが窺える。

 

だが、今の二匹からそのような美しさが奪われようとしていた。

 

「撃てー! このまま仔ドラゴンの元に向かわれても面倒だ!」

「これ以上攻撃すればこの二体は息絶えます!」

「構わん! このドラゴン共は死ぬ間際にしか子を産まないと聞く! それならここで死んでも同じだ!」

「わ、分かりました!」

 

二体のドラゴンの首にはワイヤーのような物で繋がれており、縛られている首からは血が垂れている。

 

「グオオオオオオオォォォ!!」

「うわあああああぁぁぁぁ!」

「ぎゃああああああああああぁぁぁぁ!」

「あちい! あちいよぉ!」

 

ワイヤーを掴む構成員に向かって炎を吐いて森林ごと燃やし尽くす。ドラゴンの必死の抵抗に阿鼻叫喚が森の中に響き渡るも数は一向に減る気配がない。

 

「殺せ―!! このままだとこっちが全滅だー!」

「さっさとくたばれトカゲ風情がっ!」

 

魔力弾による攻撃と徐々に体の各部に巻き付いてくる丈夫なワイヤーに二体のドラゴンも体力の限界が近付いている。

 

「キュイイイイイィィ!!」

「グオオオオオオォォン!!」

 

最初の頃の怒りに満ちた二体の咆哮はいつしか痛みによる苦痛のそれへと変化していた。

 

二匹のドラゴンが息絶えるのも時間の問題なのは誰の目にも明らかだ。

 

どこからともなく湧いてくる構成員が自分たちの勝利を確信していたその時だった。

 

 

 

 

「なんだ貴様等は?」

 

小さく、しかし周りに響くような声がどこからともなく響いてきた。構成員たちが声の方向に反応して視線を向けた。

 

「な、何だ貴様は!?」

 

そこにいたのは少々小柄な青年……カリフがこちらを睨んでいた。

 

カリフは自分に投げられた質問に頭をポリポリと掻きながらこう告げた。

 

 

 

「今夜、貴様等を地獄に叩き落とす男と覚えてもらおう」

 

拳を握りしめて鈍器を作りながら誰の目にも移ることのない速度で

 

 

 

構成員の群れに突っ込んでいった。

 

 

 

~後書き~

 

イッセーたちは気持ちの切り替えを覚えた!……という話というだけで時間かけた割にはそんなに進みませんでした。すみません

 

最後はカリフが使い魔の森に入ってからの話です。この流れに至るまでの話はまた次回にやっていきたいと思っています。

 

いきなりピンチなドラゴンは身体的特徴から『青眼の白龍』と『真紅眼の黒龍』です。もう分かるようにカードゲームのモンスターとなっております。

 

そして、次回からはあの原作敵キャラ……隠さずとも分かる通りターレスのお目見えとなりますのでお楽しみください!

 

それではまた会いましょう! さようなら!


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