ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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次元の違い

突然の発言に皆は目を見開いて固まる。その視線の先にはラフな格好で拳をポキポキと鳴らすカリフがいた。

 

「本気なの?」

 

リアスもさっきまでの怒りは彼方に飛び去って完全に険しい表情へと変わっている。それはソーナも同様だった。

 

主の緊張が下僕にも伝わっているようで、この中で誰一人さっきまでの余裕を維持している者はいなかった。

 

「なに、最近気の張っているお前たちの緊張をほぐそうとオレが考案したレクリエーション……」

「そ、そうですよね! 凄く真に迫った演技だったからビックリしたよ~!」

「はっはっは!」

「あはは……!」

 

カリフとアーシア、そしてギャスパーが互いに朗らかに笑い合い、異空間に浸透して響いていた時、目つきが瞬時に鋭く尖った。

 

「そんな訳ないだろ」

「え?」

 

ギャスパーが間の抜けた声と共にまるで自分の時間だけが止まるように固まる。ただでさえ臆病なギャスパーに満面の笑顔から眉間に皺を寄せた睨みのシフトチェンジにギャスパーは笑顔のまま顔を青くさせた。

 

イッセーが訴えるかのように叫ぶ。

 

「お前、俺たちが信用できないってどういうことだよ!」

「そこから説明しないと駄目なのか?」

 

うんざりした様子で溜息を吐くと鋭い目つきでリアスたちを射抜いた。

 

「この夏休みはここにいる全員のレベルが上がり、有意義なものになったのは確かだ。イッセーはバランス・ブレイカーに至り、小猫と朱乃もまたありのままの自分を受け入れて本来の実力を遺憾なく発揮できるようになった。シトリーに至っても戦術を駆使すれば強敵相手にもかなり善戦できるものだと素人目でも見て分かる……ゲームに限ってはな」

 

前半での褒め称えにリアスたちはある程度覚悟はしていたが、後半になってからの一言に全ても持って行かれた。

 

カリフは半目で見据える。

 

「まだまだお遊びの範疇を超えていない、実力も伴ってない、成長途中のお前等を連れて行けなんて言われた。正直言って責任は持てないし、持つ気など毛頭にない!」

「なんだとこの野郎!」

 

そこまで言い切った所で匙が我慢できずに怒鳴る。

 

ソーナはこれに注意を促す。

 

「匙、お止めなさい」

「すいませんが聞けません! あいつ、俺たちを見下してるんですよ!? ここまで言われて黙ってなんかいられませんよ!」

「ほう? やけに自信があるようだが?」

「決まってんだろ! こっちはいつだって死ぬ覚悟はできてる!」

 

匙の威勢のいい言葉にカリフの口の端が吊り上った。

 

「そこまで言うなら。今日はお前の“覚悟”とやらを見せてもらおう。そのつもりで来てもらったのだからな」

「見せてもらう……て」

「戦うんじゃないのか!?」

 

イッセーの問いかけにカリフはヒラヒラと手を振る。力を抜いてリラックスしているのがよく分かる。

 

「戦う? アザゼルがどう伝えたのかは知らんがそんなことはする気はない。お前ら相手じゃあ勝負にならないからな。もし万が一にもお前らを同行させることを考えれば無駄な怪我をしてもらっても困る。時間もそんなに無いからな」

「じゃあどのように覚悟を査定するつもりですか?」

「オレに誰でもいいから攻撃して見ろよ」

 

ロスヴァイセの問いに意外な答えで返す。

 

リアス、ソーナ共に驚愕して目を見開かせる。イッセーたちもその提案に驚愕を表す。

 

「それだけかよ!」

「それだけだ。時間的に五分、オレに傷を付けることができたら合格とする」

 

イッセーたちに関しては拍子抜けしこともあって少し安堵してしまった。肉弾戦を予想していたので肩すかしになることは無理が無かった。

 

それに伴って嘗められてると思うに至る。

 

「流石に私たちを侮り過ぎだ。私たちがいつまでも君の後ろでくすぶっている訳ではない」

 

流石のゼノヴィアもカリフの物言いに素直に従う気にはなれなかった。

 

そんなゼノヴィアにカリフは少し吹き出した。

 

「じゃあ受けてみるか?」

「当然だ!」

「ゼノヴィア!?」

 

デュランダルを異空間から出して構える……なんてすることなく意表を突かんとカリフに迫った。

 

騎士の特性で強化されたスピードで一秒の間にカリフとの遠い距離を詰めてデュランダルを振るった。聖のオーラを纏ったゼノヴィア渾身の一撃をスピードに乗せてカリフに当てる。

 

オーラが大爆発を起こし、突風が吹き荒れるのをイッセーたちは驚きを見せた。

 

「ゼノヴィアの奴、デュランダルの威力が段違いに上がってねえか!?」

「まずはデュランダルのパワーを最大限に引き上げる修行を始めてたんだよ。そのおかげで真羅先輩にリタイアさせられてしまったんだけどね」

 

木場がゲームのことを思い出して頭を抱えた。苦い経験を味わったというのに相変わらずのゼノヴィアの愚かともとれる素直さに苦労している様子だということが分かる。

 

だが、その豪胆さが彼女の強みだということも知っているので対応に困っている……と言いたげだった。

 

「短時間であの威力のオーラを練るなんてやるじゃねーか。こりゃ上級悪魔でも致命傷は間違いねーぞ」

「でもあんな攻撃じゃあまずいですよ! いえ、もしかしたら死んじまったのかも!」

「ひいぃぃぃ!」

 

イッセーとギャスパーはあまりの爆発の規模にカリフの身を心配してしまうが、アザゼルだけはこの場の全員に比べて慌てず達観している。

 

「お前等はまだまだカリフを分かっていない。あいつは……人外蔓延る裏の世界をたった一人で生きてきた奴だぞ?」

「それは一体……」

「!? 部長! あそこ!」

 

リアスの疑問を遮って小猫が叫んだ。気が付けば彼女は既に猫耳と尻尾を生やした猫又状態となっていた。

 

そんな小猫が爆心地を指差した時、爆炎が突風によってかき消された。

 

『『『!?』』』

「馬鹿な!」

 

強大なオーラを纏ったデュランダルは確かにカリフの顔面に届いていた。

 

だが、そこには血の一滴すらも流さずに悠々と立ち尽くすカリフの姿

 

「ほんなほのは(そんなものか)?」

 

全てを切り裂くと伝えられるデュランダルの刃を口に咥えて受け止めている姿に誰もが衝撃を覚えた。

 

服だけが爆炎で燃やされたにも関わらず本人にはダメージさえ通っていない。最大出力を用いた攻撃が粗末なやり方で防がれたのにはゼノヴィアの動揺が大きすぎた。

 

動揺のまま後方に退こうとしたが体が動かない。

 

「この!」

 

正確には噛まれているデュランダルが動かない。ゼノヴィアは動かせないデュランダルを両手持ちに変えて腰を低く、思いっきり引っ張る。

 

それでもデュランダルは離れない。

 

(噛む力が私の全力を上回っているというのか!? カリフといえどもそんなこと……!)

 

焦りを振り払うかのようにゼノヴィアは歯を食いしばり、目を瞑ってデュランダルを引っ張る。

 

「うあああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ゼノヴィアの足場の土が盛り上がっていくのに対してカリフの足元には何の反応も無い。明らかに異様な光景だった。

 

「うそ!? ゼノヴィアの馬鹿力が効いてない!?」

「ゼノヴィアの悪魔になった身体能力ではルークに引けをとらないのよ……こんなのって!?」

 

イリナとリアスの驚愕が木霊する。シスターだった頃と悪魔になったゼノヴィアをそれぞれ知っている彼女たちもゼノヴィアのパワーの凄さは理解している。

 

周りが信頼を寄せるパワーがただの歯によって阻まれたのはあまりに衝撃的過ぎた。

 

デュランダルを咥えたままのカリフが鋭い視線でゼノヴィアを捉えた。

 

「っ!!?」

 

睨まれた……ただそれだけでゼノヴィアの全身が強張った。

 

ゼノヴィアはカリフの瞳の中に宿る様々な力を感じ取った。

 

 

覇気と殺気

 

 

至ってシンプルであり、ましてや幼少からヴァンパイアハンターや悪魔祓いを執行してきた彼女にとってはいつもと変わらぬプレッシャーそのもののはず。

 

だが、カリフの殺気は今まで感じたことのない程濃密で、リアリティに富んでいた。

 

「づっ!!」

 

やる気が一瞬にして恐怖と言う名の『黒』に塗りつぶされたゼノヴィアはデュランダルを引っ込めて後ろに下がった。

 

「はぁっ! はぁっ!……」

「ゼノヴィア……っ!?」

 

まだ一分もかかっていない短時間でゼノヴィアの全てが壊された気がした。

 

意地、根気、怒り、覇気

 

そのどれもが一睨みで折られたゼノヴィアは腰を落としてその場に尻餅をついた。精神ダメージは確実に深いことをリアスたちは悟った。

 

そんなリアスたちを一瞥した後にカリフは余裕を見せながら一人一人指名していく。

 

「イッセー、ギャスパー、マナ、紫藤イリナ、ロスヴァイセ、匙元士郎、真羅椿姫……ってとこか」

 

指名された面々は呼ばれることに反応し、カリフの対応に緊張を見せる。

 

「名前を呼んだ奴ならオレとの相性は抜群だ。だから一気に来い」

「俺たちを一気に相手にするってのか!?」

「そうしてもらっても構わん」

 

その一言に指名された面々は一瞬だけ顔を強張らせる。自分たちなら確かにパワータイプと組しやすいが、それでも力の差は歴然……先ほど感じた威圧感だけで感じてしまったのだから。

 

指名されなかったメンバーも気持ちは同じだった。指名されなかったということは敵にならない、と見なされたのだと自覚する。

 

それを自覚しているからこそより一層悔しさが増す。

 

「イッセー、ギャスパー、マナ……いけるかしら?」

「分かりません……ですがやれるだけやってみます!」

「ふふ、その意気よ」

 

本当は不安で一杯なはずなのにいつもの笑顔で応えるイッセーに励まされる。

 

主としては複雑な気持ちだが、それがリアスの不安さえもかき消した。

 

「ぼ、僕も怖いけどやってみます……」

「私も言われっぱなしじゃあ納得できないからやってみます!……ちょっとおっかないけど」

「えぇ……期待しているわ!」

 

ギャスパーを眷属として、マナを同じ部員として毅然とする二人を誇らしく思う。

 

ソーナも隣で匙たちに激励を送っていた。

 

「匙、椿姫、相手はコカビエルや白龍皇を退けるほどの実力です。ですが、彼は最も相性の良いあなた方を指名しました。それがどういう意味なのか分かっていますね?」

「嘗められている、ってことですよね」

「えぇ、確かに相手は格上です。ですが、初のグレモリー眷属との合同戦闘ということなので存分に力を発揮しなさい……一泡吹かせてやりましょう」

「「はい!」」

 

二人は一斉に長刀と神器を構える。その顔にはやる気が満ち溢れている。

 

「私も成長したということを見せましょう」

「私を遣わせてくださったミカエル様の名誉にかけて負けはしないわ!」

 

イリナとロスヴァイセも指名されたこともあるのか妙に張り切って換装する。

 

瞬時に戦乙女の鎧、エクソシストのボンテージ姿となって聖剣を構える。

 

「こっちも行くぞ!」

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』

 

イッセーも禁手に至って鎧姿となって構える。

 

全員の準備が整ったのを見たカリフは笑いながら手招きをする。

 

「カモーン! 一人一発で落としてやる! それまでに力の程を見せてみろ!」

「耳を貸さないで! あなたたちのペースで戦うのよ!」

 

リアスの指示に全員は承知したかのようにバラバラに散らばってカリフを囲む。

 

「む?」

「へへ! 余裕こいてるからだ!」

 

背後から繋がれた黒いラインの先で匙が挑発で注意を引いている間にギャスパーが目を光らせた。

 

「おぉ?」

「できるだけ止めてみせます! あまり時間はかけれませんので後はお願いします!」

「いいぞギャスパー!」

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

イッセーは禁手によって瞬時に力を最大限にまで溜めてイリナとロスヴァイセに向ける。

 

「イリナ! ロスヴァイセさん! すぐに撃てる準備をしておいてください!」

『Transfer!』

 

力の譲渡を行った瞬間に二人の纏うオーラが力強くなる。

 

「凄い、力が漲ってくる……」

「なるほど、これでカリフくんに集中砲火という訳ですか」

「手加減抜きで、一発で決めるようお願いします!」

 

イッセーの指示に二人は驚いた様子であったが、カリフと修行してきた面々はその作戦に感心する。

 

「なるほど、時間をかけずに一瞬で沈めることを選びましたか。良い判断です」

「えぇ、彼相手に時間をかけては不利になるだけ。だから短期決戦に持ち込む、私たちが前から考えていた作戦よ」

「奇遇ですね。私も前々から考えておりました」

 

二人は顔を見合わせて不敵に笑う。

 

「お互い考えていることは同じ……それなら」

「メンバーが違っても行きつく形は同じ、ということですね」

 

カリフに追いつきたい、その信念の元で二人の主は眷属全員で考察していた戦闘パターンがある。

 

いつまでも自分たちがイジられて終わるはずがないという思いが今、信念となっている。

 

そんなことを想っている余所で戦闘は続く。

 

「まだまだぁ!」

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

譲渡によって自身の力を底上げした後、すぐに魔力を溜める。

 

「もう、止められません!」

「もう少しだけ堪えてくれギャスパー!」

「はいぃ!」

 

全力でカリフを停めているギャスパーに早くも疲労の色が見え始めた。全力を出し続けて大量の汗を流している。

 

イッセーの激励に健気に応えるギャスパーに感謝しながら指示を飛ばす。

 

「匙! カリフをラインで雁字搦めに縛り付けろ!」

「残念だが、もう終わってるぜ!」

 

匙が残った手でサムズアップして応えると、すぐにイッセーは指示を飛ばした。

 

「このままイリナたちはフルパワーでカリフに遠距離攻撃を当ててください! 近距離攻撃で倒そうだなんて思わないでください!」

「なんだか卑怯な感じはするけど……デュランダルを歯で受け止める人に聖剣は効きそうにないわ!」

「相も変わらずデタラメな人ですね……それならフルバーストでも大丈夫なのでしょう」

 

特大の光の槍と北欧魔方陣にエネルギーが集まって力の奔流が奔る。

 

周りが衝撃で荒れ狂う中、カリフの身体は匙によって全身をラインに拘束されていた。

 

ギャスパーによって時間が停められているというのに体の一部が既に動き始めている。

 

「このまま合図したらギャスパーは目を止めて、俺とマナとロスヴァイセさんで打ち抜く! 5……!」

 

残された時間は後僅か

 

「4……」

 

数分の内に実行された全てを賭けた作戦

 

「3……」

 

このまま勝てなくても、自分たちの長所を見せつける

 

「2……1……!」

 

倒れなくてもいい……せめて

 

「ドラゴン……」

 

一泡くらい吹かせる!!

 

 

「ショット!」

「はああぁぁぁぁ!」

「喰らってください!」

 

それぞれ強化された膨大なドラゴンパワー、光、魔力が大砲となってラインに絡め取られたカリフに向かってくる。その途中でやっとギャスパーの停止の力が解けたのか一瞬で何重にも巻きつかれたラインの束を力任せに引きちぎった。

 

「ちぃ!」

「なけなしの魔力をできるだけ込めて頑丈にしたはずだったんだがな……流石だよ」

 

匙はラインを引きちぎったカリフを讃頌する。まるでそうなると分かっていたように。

 

そして視界が開いた先には三つの巨大なエネルギー波が迫って来ていた。

 

「ふ」

 

だが、これを慌てることなく手からエネルギー弾を放って迎え撃つ。

 

ノータイムで放ったにもかかわらずエネルギーは巨大で、力強かった。

 

その証拠に三つのエネルギー弾を全て受け切って拮抗したのも一瞬、三つのエネルギーをかき消してイッセーたちの元へと向かっていく。

 

「うそ!?」

「やっぱり強い!」

 

カリフの実力を初めて目の当たりにしたイリナと昔からの実力を知っていたロスヴァイセはそれぞれ戦慄し、歯を噛みしめる。

 

イッセーが叫んだ。

 

「マナ! 頼む!」

「副会長! 今です!」

 

呼ばれた二人の前にそれぞれバリアが現れた。それこそがこの作戦の目玉と言える。

 

どうあがいても今の実力ではカリフに立ち向かって勝てる見込みは全くと言って皆無。

 

ならどうするか……そう考えれば自ずと答えは出てくる。

 

「聖なるバリア、反逆の鏡(ミラー・フォース)!」

「!」

 

マナの一つ目の神器、『聖なるバリア・反逆の鏡(ミラー・フォース)』。相手からの衝撃をその威力のまま跳ね返すカウンター系神器。

 

そして先のゲームでゼノヴィアを倒した真羅椿姫『追憶の鏡(ミラー・アリス)

 

自分たちの力で倒せないなら相手の力を利用して勝つ。

 

巨大なエネルギー波を二つの鏡が受け止めて拮抗する。

 

「これで!」

「いっけええぇぇぇ!」

 

そしてカリフのエネルギー波がそのまま跳ね返された。

 

「なに!?」

 

これにはカリフも驚愕の顔を示し、避けようとするが足に違和感。目を向けると自分の足に黒いラインが巻きつかれていた。

 

「こんなもの!」

「ほどいている暇なんてあんのかよ!」

 

匙の言う通り眼前には自分の跳ね返ってきたエネルギー波が迫って来ていた。

 

気付いた時には遅く、カリフの身体はその巨大なエネルギーの中に消えていった。

 

 

 

 

 

「やったのか?」

 

遠くで見ていたゼノヴィアの問いに答えられる者はいない。

 

だが、リアスたちは内心でこれほどにない手応えを感じていた。自分たちの思い描いていた最高の反撃を入れることができたのだから。

 

外面は平静を装っていても内心では期待が膨れ上がりつつあった。

 

もしや……と

 

そして、爆心地が晴れたその地には。

 

『『『!!?』』』

 

服だけがボロボロになったカリフが直立不動で佇んでいた。

 

服がボロボロでも本人自体にはダメージが全く通っていない様子だということが見て分かる。

 

「これで倒れるとは思ってなかったが……まさかここまでタフだとはな」

 

アザゼルでさえもノーダメージに歯噛みする。

 

今回の手応えはそれくらいに完璧なタイミングで入っていたのだ。

 

「……部長、カリフくんは明らかに手を抜いています」

「小猫?」

「いえ、もしかしたら私たちは彼の力を見くびっていたのかもしれません……」

「何か感じたのね?」

「……」

 

小猫は戦慄による汗を流していると、カリフは余裕の表情を浮かべて拍手を送る。

 

「いや、またまたいきなりだったから面を喰らってしまった。動きは悪くなかった」

 

送ってくる讃頌が皮肉に聞こえるのは自分たちが捻くれているのか、それとも驚きが大きすぎて感性がおかしくなっているのか……今の彼女たちにはそんなことどうでもいいことだった。

 

「オレに気功弾を撃たせるために全力での殲滅攻撃を全力で撃ったのは良かった……ただ、お前たちは運が悪かった」

「運?」

「1の力を2にして、1の力を1のままに返した所で100の力には勝てない」

「!!? まさか……!」

「今回は普段の二倍の実力を出させてもらった。全体で5%ってとこかな?」

「なっ!?」

「ばっ!」

 

何気なく話した内容はあまりに現実離れした内容だった。

 

「全力の5%……あれで5%……」

「……冗談であってほしい所ですね」

 

リアスもソーナも呆然とカリフを遠目で見つめる。

 

天使とヴァルキリーとイッセーの全力をかき消すほどの砲撃、匙のラインを無理矢理引きちぎる出鱈目な腕力

 

それらを全て思い返し、それらが5%にも満たない力だった……もはや才能がどうとかの問題を逸脱している。

 

「どうやら彼は私たちが及びもできなかった以上にとんでもない力を秘めているようだ……」

「うん。格どころじゃない。次元そのものが違うのか……」

 

ゼノヴィアも木場も改めてカリフの実力を再認識する中、当の本人は飄々としていた。

 

「まあ、お前等ならオレのカウンターで来ると思ってたから防ぐのは容易だったぜ。それでもまだやるか?」

「くっ!」

 

イッセーは目の前の少年のタフさに苦悶の表情を浮かべる。

 

マナと真羅椿姫はバリアーで防いだけれどあまりの衝撃の大きさにバリア越しに突き抜けてきたダメージで身動きが取れていない。

 

ギャスパーも体力的に限界のようで倒れて肩で息をしている。それはイリナもロスヴァイセも同じだ。

 

残っているイッセーと匙ではどう頑張っても負けることしか見えてこない。

 

逃げることも勝つこともできない。実質、八方ふさがりだと実感せざる得なかった。

 

「いや、もうオレたちに手はねえよ」

「だろうな」

「兵藤!」

 

正直に手が無いことを口にするイッセーに匙が非難の声を上げる。

 

「まだ俺たちが残ってるだろ! 俺が力を吸い出してお前が……!」

「ラインを刺す前にお前が倒される……仮に力を吸い出しながら俺が戦ったとしても勝てない。それほどに力の差があるんだ……」

「で、でも……!」

「兵藤くんの言う通りです。もう充分です匙」

「会長……」

 

イッセーからもソーナからも、そして無自覚的に自分がカリフに敵わないということを悟っているからこそその場に立ち尽くした。

 

そんな彼らを差し置いてカリフはアザゼルに向く。

 

「アザゼル、やっぱこいつ等とは同行は無理だ」

「……そうか」

「そんな! アザ……!」

「駄目だ。今回はあいつに従え」

「!?」

 

アザゼルはどこか諦めたように溜息を吐きながらカリフの言葉を容認する。

 

それに異を唱えようとするリアスだが、その前にアザゼルが静かに言う。

 

「今回の任務は多大な危険が伴うかもしれねえ……カリフがお前等に合わせて実力を抑えるようなことがあっちゃならねえのさ」

「それは……」

 

何も言えない。事実だと理解しているが、自分の眷属が足手纏いだと間接的に言われているように思える。

 

眷属に対して愛情が強い所為だというのもあるが、眷属を誇りに思っている分やるせなくなる。それはきっとソーナも同じだと思う。

 

「だから今回の任務はカリフ一人に任せる……これは堕天使総督としての決定でもある」

「……分かりました」

「今回は仕方ありませんね」

 

卑怯だと思いながら自分の肩書を使って納得させられるなら、とアザゼルは命令口調にリアスに念を押す。リアスも立場上納得せねばならない物だと素直に従う。

 

リアスもソーナも説得した所でアザゼルはカリフに向き合う。

 

「それじゃあ、少し休んでからにするか? それとも……」

「できれば早めに行きたい」

「だと思ったよ。なら準備ができ次第送ってやる」

 

アザゼルとカリフはそのまま異空間の部屋から出ていく。

 

「……」

 

退室する際にカリフはリアスたちを横切りながら彼女たちの悔しそうな顔を目にしていく。

 

今のリアスたちに何を言うでもなく、そのまま振り返ることもせずに部屋を出ていった。

 

 

 

 

遥か遠い地

 

そこは薄暗い夜空と広大なる森林に覆われた世界だった。

 

そんな地の中で動き回る影

 

「おい、あのドラゴンは見つかったのか?」

「まだだ。この森に逃げ込んだんは確からしいからもう少し探索を続ける」

「急げよ。仕事が遅れればあの方に殺される……既に俺の部下が何人も消されたからな」

 

自然が広がる森には似合わない機械的なアーマーとヘルメットで全身を覆っている人影が何人も慌ただしく走り回っては報告を行っている。

 

「だが、そっちもしくじるなよ。もし『あの木』を枯らそうものならお前だけじゃない、俺たちがまとめて消されるって話だからな」

「そんなことは分かっている!」

 

声を荒げる人影は別の方向を見上げるように呟く。

 

「“あれ”が何なのか分からない……だが、何としてでも任務を遂行させねば……」

「……本当に何なんだろうな? あの『神精樹(しんせいじゅ)』ってのは……気味がわりいぜ……」

「さあな。あまり知り過ぎても碌な事なんかねえ」

「確かに」

 

“あれ”の差す方向

 

 

そこには悠然とそびえ立つ巨大な大樹がそびえ立っていた。

 

 

大樹の根の周りの森は枯れ果て、生物すら存在しない更地となっている。

 

 

まるでその大樹が周りの生命を吸い尽くしているように……

 

 

 

 

また別の場所

 

シンプルな部屋の中で食べ物を手掴みで乱暴に貪る人影とその男の前に跪く影の二つがあった。

 

食べ物を頬張る口が不気味に吊り上る。

 

「やっと収穫の日が来たか……ちゃんと育っているんだな?」

「はっ! 報告ですと開発部の薬が効いているようで発育の速度は遅くなりましたが、しっかりと根付いたようです。木の実の確認もとれております!」

「そうか」

「ただ、別件で追っているドラゴンも同じ場所に逃げたとのことですが」

 

食事する男に指示を仰ぐ部下が見上げると、そこには邪悪な笑みがあった。

 

「お前等で片付けろ。俺はすぐに神精樹の実を収穫に向かう」

「『ターレス様』自らですか?」

「当たり前だ。お前らが勝手に変な気を起こして実を食べられでもしたら面倒だからな」

 

笑いながら言う男から醸し出される威圧感に部下の額から汗が噴き出る。

 

「俺もたまに身体を動かしたいからな」

「そ、それではそのように準備いたします」

 

 

 

 

三勢力友好条約

 

これを機に各地でくすぶっていた危険な勢力を目覚めさせてきたのは事実

 

世界情勢は既に傾きつつある。

 

 

 

だが、それらはただの序章でしかなかった

 

この世には決して目覚めさせてはならない存在があるということを未だにこの世界は認識していない。

 

 

そして、これから起こる事件がこの先の未来を大きく左右する引き金でしかない。

 

 

運命の刻はすぐそこにまで迫っている。

 

 

~後書き~

 

今回はリアスたちの自信をへし折ってみました。

 

ここからリアスたちがどのように行動し、成長していき、DBキャラとどう関わっていくかを書いていきたいと思っています。

 

そしてこの章がその一歩としていこうと思っています。ここからが本当の戦いとなり、主人公の激闘の始まりとなります。

 

 

一応の報告も終わったことですので、今回はこの辺にて。

 

また次にお楽しみください!


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