ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~ 作:生まれ変わった人
今回は割と短いです。
「なるほど、つまり黒魔法とは自然界のエレメントをさらなる攻撃力に費やした魔法ということですか」
「そう。そしてそのエレメントを合成、もしくは接触作用の結果を利用するのが黒魔法です」
現在、俺たちはオカ研の 部室に集合している。
授業が終わった後、先生に呼び出されて今日の悪魔営業は全て休んで関係者は全員この部屋に集められた。
もちろん、イリナやロスヴァイセさんはもちろん生徒会メンバーも揃ってる。
「いいかアーシア。桐生が言うには日本には女同士で胸のマッサージをし合って胸の発育を促す儀式があるらしい。これをこの国では『乳繰り合う』とのことだ」
「そ、そんな儀式が!? もしそうだとしたら部長さんみたいになってイッセーさんを……」
「イッセーならすぐに振り向くはずさ。私は来たるべきカリフとの子作りのためにこの胸を発育させてお乳が出るようにしないといけないな」
「自らの身体を作り変えて新たな命を育む……なんという自己犠牲! 主よ! この迷える子羊に慈悲をください。アーメン」
「「アーメン」」
というのも、呼び出されてからしばらくの時間が経ち、軽く緊張していた皆もいつの間にか普段の様子でトークを始めていた。
マナとロスヴァイセさんは魔法のことについて議論していたり協会三人組は何やら間違ったガールズトークを繰り広げていた。
こんな感じで俺たちは先生が来るまでの間は各々自由に過ごしていた。
そして、魔方陣が現れると皆は作業を中断して注目する。
「よぉ、待たせて悪かった」
魔方陣から出てきたのはいつもの砕けた口調のアザゼル先生。
片手には山ほどの資料が整頓されてない状態で抱えられていることから急いで来たのだとすぐに分かった。
それに対してリアスとソーナは特に咎めることなく尋ねる。
「何があったの? そんなに慌てて」
「いやなに……少し資料を整理してただけだ。結構ギリギリまで粘ったけどな」
何だか慌ただしい様子のアザゼルに容量を得ることができない。
「時間もそんなにねえから手短に話す。お前たちに解決してほしい事件があるんだ」
その言葉に全員の表情が引き締まる。
「はぐれ悪魔が出たんすか? それともカオス・ブリゲートが何か起こしたとか」
気になって俺が聞いてみると、先生はどちらの答えに対しても首を横に振った。
どちらも違う? じゃあ事件と言うのは……
悩んでいると、ロスヴァイセさんが心当たりがある口調で言った。
「そう言えば北欧の神々の中には三大勢力の和平に非協力的だったという報告があります。オーディンさまは和平には協力的ですが、他の神さまたちは北欧神話の介入に反対していたとか……」
「どこの神々も自分の神話体系が一番だと考えているのですから仕方がありませんね」
「もしかしたらヴァンパイアかしら?」
ソーナ会長と部長は溜息を吐きながらアザゼル先生に目配せをして確認するが、予想外にもその答えにも首を横に振った。
「残念ながらその線も薄い。そもそも今回の任務はそんな単純な話じゃねえんだ」
「何が起こっているんですか?」
木場が聞くと、先生は俺たちに資料を渡してきた。
この資料……行方不明者のリスト?
そこには種族別の行方不明者のリストと俺たち人間社会で出回っている新聞の見出しだった。
俺と同じように皆も訳が分からない様子で首を捻っていたが、先生がここで説明をくれた。
「今、世界各地に生息している人型の異種族、又は人間が謎の集団失踪をしている。女子供とか関係なしの無差別失踪だ」
「失踪って……どこかに住処を変えたのではなくて? オークやエルフといった種族は少しの環境の変化でも住処を移し替えて生きながらえてきたのよ?」
「いなくなった……だけで済めばよかったんだがな。問題はその失踪した種族の死体が大量に発見されたことだ」
『『『!?』』』
死体って、ただ事じゃねえじゃねえか!
匙が緊張した声で質問を投げた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! その言い方だとまるで……!」
「あぁ、はっきりと殺された形跡まであった」
ま、マジかよ!
そんな大事が俺たちの知らない所で起きてたなんて!
でも、それが本当だとしたらカオス・ブリゲートしか……
「それならカオス・ブリゲートの線が強いはずですが、それを否定した根拠はなんですか?」
朱乃さんの言う通り、そこの所だけが分からない。
種族の失踪だなんて大がかりなことは組織くらいしかできないはずじゃあないのか!?
「いや、この一連の犯行はカオス・ブリゲートとは手口が全く違うんだ」
「手口? どんなことですか?」
「話は変わるが、何度かカオス・ブリゲートと手合せしたお前らなら分かるかもしれんが聞くぞ。奴らはどんなタイプが多かった?」
そういえば最近この町に襲ってくるテロリストも増えてきてたっけ……共通点か……
「自己中心……とか?」
何となく思ったことを言ってみる。
ヴァーリが裏切った時のことを振り返ってみると、ギャスパーを人質にした魔法使いも急魔王派のレヴィアタンも自分の血筋のことしか考えていないイメージが強い。
俺の中ではカオス・ブリゲートはそういう集まりなのだと固定されたからだ。
すると先生は頷いた。
え? こんな単純なことでいいんだ
「少し言い方はアレだが間違っちゃあいねえ。奴らは自分の種族が最強だと妄信してる奴等ばっかだ。そんな奴らが人間なんて相手にすると思うか?」
「確かに……我々三勢力及び、カオス・ブリゲートは『表側』には絶対な隠密を心がけています。人間が『裏側』を知ってしまえばたちまち未曾有のパニックが起きます」
「どんなに弱い種族でも人間は俺たちにとってはなくてはならない存在だ。そして、その人間たちが混乱してしまえばあっという間に戦乱の火が広がるのは当たり前……カオス・ブリゲートでさえもそうなったら面倒臭いということくらい承知済みなのさ」
「カオス・ブリゲートには人間を生かすメリットは無い……ということですね? だけど一連の事件では……」
「そう。一連の事件では死体も出ているが、圧倒的に行方不明者の方が多い。奴らは無差別なのさ」
何のためにそんなことを?
考えていると先生は続けた。
「しかもこの誘拐は特定の日に、しかも同時に行われている。世界各国の地から希少種族を見つけて交戦、そして拉致を成功させている……大規模な拉致事件を起こせちまう意味が分かるか?」
部長が冷や汗を流して答えた。
「巨大な組織絡み……ってこと?」
「恐らく新たなテロ組織と考えてもいい」
『『『!!』』』
俺たちは言葉を失った。
また新たな危険因子の集まり……そんなのアリかよ!?
衝撃の事実にも関わらずソーナ会長は比較的冷静に問う。
「その事実は確かなんですか?」
「この前生存者から何とか話を聞いただけだ……確証はないが可能性は大きい」
「それで私たちを集めた……という訳ね」
「あぁ、だがなぁ……ちと問題があってな」
参ったように頭を掻く先生に怪訝な表情を浮かべる。
「……何かあったんですか?」
「いやな、実はお前たちと一緒に着いてほしい奴がいるんだがよぉ……気難しい奴でな。お前たちとは組みたくないって聞かねえんだ」
「はぁ……」
こりゃ先生も参ってるなぁ……さっきから溜息しかついてないや。
「組みたくない……理由でもあるんですか?」
「……ハッキリ言うとお前らが弱いから足引っ張るのが目に見えてる……だそうだ」
その瞬間、部室全体の気温が一気に下がった気がした。
いや、それよりも部長とソーナ会長が怒りに身を震わせていた。
「私たちが弱い……ここまでの侮辱は久しぶりですね」
「えぇ、どうやら相手は私たちの力量を見極めていないか、相当の自信過剰ね」
穏やかな口調だけど主二人は声に怒気が籠っている。
そしてそれは部長たちに限った話じゃない。
「そこまでハッキリと言うのだからよほどデュランダルの一撃が食らいたいと見た」
「いい度胸ですね。分からせてあげます」
「あらあら、ゼノヴィアちゃんも小猫ちゃんも張り切ってますわね。うふふ……」
そういう朱乃さんも笑顔が怖いですって……
「誰だか知らないけどここまで言われては黙っていられないわ! ミカエルさまのA(エース)の力を見せるんだから!」
「実力も碌に見ずに判断されるのは遺憾です」
「私だって戦えるんだから!」
イリナ、ロスヴァイセさん、マナも相当にご立腹な様子だ。
でも、今回は俺も皆と同じ気持ちだ。
夏休みを返上して地獄の特訓をしてきた俺たちは強くなった。
それを『大したことない』の一言で見限られるのは俺じゃなくても腸が煮えたぎるくらいだ!
「そんなお前たちに提案なんだが、そいつを見返してみねえか?」
先生の提案に全員の視線を集める。
「今日呼び出したのは他でもねえ。相手側がお前たちの全力を見て同行するか否かを決めるそうだ」
「どんな風に?」
「そいつと戦うんだよ」
た、戦うって……そのために全員を集めたんですか?
「まさか全員で一気に袋叩き……なんてことは」
「多分それは無理だ。相手はこの任務を魔王直々に請け負う奴だぞ」
「強敵……ということですね」
「どんな奴なんですか?」
「お前らもよく知ってる奴さ」
俺たちが知ってる?
色々と思い出そうとしていると先生が魔方陣を展開させた。
「戦い方はあっちに行ってから決める。既に相手も待っていることだしな。やる気がある奴だけ来い」
そう言うと、部長とソーナ会長を筆頭に魔方陣の中へと入っていく。
そして、俺たちは光に包まれていった。
「ここは?」
皆が転移してきた場所は何もない荒野のど真ん中
水平線まで広がる途方もない大地と雲のない青い空
「今は夜なのに……ここは一体……」
「それもすぐに分かる……そら、お見えになったぜ」
皆が先生の視線を辿ると、そこには見知った顔があった。
「カ、カリフ?」
そこには最強の後輩であるカリフが首や手首を回してストレッチしながらこっちへ向かってくる。
部長がカリフに呼びかけてもストレッチを止める気配がない。
「先生……まさか……」
「もうお前らも分かってるんじゃないのか?」
先生は冷や汗をかきながら欠伸しているカリフを見据えていると、当の本人が涼しい表情で言ってきた。
「これからオレと戦ってもらおう。役立たずだと判断すれば同行は認めん。だが、戦ってみて腑抜けた様を見せるようであれば……命の保証は無いと思え」
急遽始まったこの模擬戦
俺たちが思っていたよりも衝撃的で……過酷な戦いになろうとしていた。