ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~ 作:生まれ変わった人
やっと……やっと大学院の試験が終わったぁ!
これで来年ニートになる心配はなくなったのでひとまずは安心できます!
ですが、未だに大学のテストも控えているので油断はできません。これからすぐに続きを書くのは時間がかかってしまいます。
とりあえず、今回の章はこれで無・理・矢・理終わらせることにしました!
今日久しぶりに執筆したので場面が飛んでいるとか勘弁ください……
知っている人もいるでしょうが再度通知させていただきます。
今現在、なのはの小説では『前半部が特定の作者の人とダブっている』という声が多くありましたので急遽、改めて書き直そうと非公開状態にさせていただきました。
その件はその作者さまご本人とお話しさせていただいていたのですが、やはり私はオリジナルと自作小説のお決まりパターンを壊す方向で現在進めております。
よってもうしばらくお待ちください。
長くなってしまいましたが、それではどうぞ!
パーティーが終わった次の日はなんとなくだが気分が乗らなかった。
理由は分かっている。
中途半端な怠惰、言わば不完全燃焼という奴だ。
今まではイッセーたちの稽古、サーゼクスたちの依頼、そしてリアスやソーナからの仕事の依頼で保ってきたテンションも尽きかけていた。
黒歌の襲撃が一時の興奮を目覚めさせたのも束の間、事情を知るや否や戦意が失せた。
何故こんなにも倦怠感を抱いているのか……
「カリフ。そろそろ」
自室のノックと共に聞こえてくるゼノヴィアの声に思考が現実に戻る。
ベッドに寝転がっていた身体を起こして返す。
「分かった。先に行っててくれ」
「あぁ、では待っているぞ」
遠ざかっていく足音を確認していつもより重い体を動かす。
「……ダリぃ」
だが、こんな表情を見せるのはこれから戦おうというリアスたちにはさすがに失礼だと分かっている。
頬を叩いて表情を引き締める。
これによって表情は引き締まったが、同時に新たな疑問が浮かんだ。
何故、ここまで他人に気を遣わなければならないのか……
「……ちっ、朝から最悪だ」
いつになく迷っている自分を嘲笑しながらイッセーたちの元へと向かう。
本日は晴天、グレモリーとシトリーのレーティングゲームには絶好のゲーム日和だ。
◆
カリフたちが試合会場に着いた直後、カリフは欠伸しながらリアスたちと別れる。
「随分と急いでるのね。私たちに激励とかは無いのかしら?」
リアスが茶化すような口調で言ってくる。
黒歌襲撃の時の軽口を根に持っているのか。
「お前はオレが暇に見えんのか?」
「「「……」」」
「おうコラ。言いたいことは言っても良いのよ? ん?」
こいつらは普段からオレをどう見ているのか。
失礼極まりない。
優しく問いかけているのに目を逸らす行為も頂けない。
減点だ。
「今から席取っとかねえと立ったままの観賞になっちまうからできるだけ早めに行きたいんだよ」
「あら? 魔王様と一緒にVIPルームで観戦の筈じゃあ……」
「断った。つまみが出るのは良いが、こういう泥臭い試合を見るには違和感があり過ぎる」
「はは……君が言うと今回の試合が本当に荒れそうに思えるんだけど……」
「縁起悪いですぅ……」
木場とギャスパーが苦笑したり脅えもするが、それくらいは当然だろう。
むしろお節介というものだ。
「いい気になっているようだが忠告しといてやる。お前らは仲間同士のスペックが高いアタッカータイプだが、ソーナは察するに知略で弱点を補うテクニックタイプだ。となると、パワーの使い所を考えながら戦え。ただしゼノヴィア、テメーはダメだ」
「予想はしてたけど失礼だね」
「どうせいつものように振り回してのゴリ押し狙ってんだろ? 深く考えて動きが悪くなるよりは初っ端からカマした方がマシだ」
ゼノヴィアならそう考えて行動したほうがいい。
そんな考え方はお前とイッセーだけで十分だ。
「パワーの使いどころを考えろってことだ。既に相手側の情報は掴んでいるのだろう? オレは全く知らんからそこは何とも言えん」
「えぇ、一人一人の実力は私たちのほうが上……ですが、相手側には特異な神器もあるので……」
朱乃が再び思案するが、この先は本人次第。
時間が長引きそうだから占めの有難い激励を送ってやる。
「まあ、お前らは夏休み前よか大分マシになった。だが、それは相手も同じ。油断してっと手痛いもん喰らうから、ま、頑張れや」
取り敢えず言ってみると、こういうのは性に合わない。
慣れないことはするものじゃない。
そう思っていると、イッセーたちからも返された。
「ふふ、ありがとね」
「見てろよ! 今回に備えての新技もあるんだ! 見て驚けよな!」
「じゃあ行ってくるよ」
「ここで良いとこ見せてポイントを稼げばデートも充実するのかな?」
「が、頑張りますぅぅ!」
笑って行く辺り、リラックスしてると言えばいいか、どこか自信が過ぎるのか、悩むところだがここは黙っておく。
深い意味のないため息とともに会場に向かっていくリアスたちを見送るのだが、この場にはオレの他にも朱乃と小猫だけが残っていた。
表情は俯いているが、どうせ考えていることは手に取るように分かる。
そう思っていると朱乃が手を、小猫が背中から体を密着させてきた。
「あの……」
「……」
「今回……光の力を使ってみせます……」
「ふ~ん」
「あなたが見てくれるのなら……きっと、ううん、絶対使えるようになるから……だから今だけは勇気を頂戴……あなたの温もりから……」
握られた手から体温と震えが伝わってくる。
対する小猫も小さい身体を震わせている。
「……私も……猫又の力をもう一度だけ使おうと思う」
「昨日の今日で急だな」
「……今回は昨日より無茶するつもりはないから最悪の事態もある程度は回避できる筈……だけど……」
「ま、そりゃあ怖いだろうな」
二人がしばらく無言で引っ付いた後、オレから離れる。
「もう良いのか?」
「……うん。もう大丈夫」
「お時間取らせて頂いてありがとうございます」
「お前らはこういうジンクスを重んじるのだろう? それでさっきのような辛気臭い顔を消せるなら安いものだ」
近頃、こいつ等の表情一つ一つにオレの気分までもが左右され始めてくるようになった。
それが妙にオレを苛立たせる。
自分でも分からない感情を抱くというのはここまで苛立つことなのか……
その苛立ちをこいつ等には見せないようにさっさと送り出そう。
「これで満足か? だったらさっさと行ってしまえ。んでもって、あんま無様な姿を見せんな」
「あらあら、私たちを応援してくださるんですか?」
「スカタン。これでもオレ自らが態々教導してやったのだ。オレの庇護を受けた奴等が負けるってのはつまり、オレの顔に泥を塗るということだ。それ以外に他意はない」
そうとだけ言うと、朱乃はもちろん、小猫までもが笑みを浮かべた。
そういう所も気に食わない。
「もう行く。精々見てやる」
「えぇ、それじゃあ試合の後に」
「……また後で」
オレたちは別の方向へと向き直って別れる。
そして、オレはそのまままだ余裕のある会場の観客席へと向かう。
試合でも見たらこの苛立ちも紛れるだろう。
◆
中に入ってみるとやはりというか、まだ人は少なかった。
広いドーム状の席であるが、今の時間は誰もいない。
朝早くから来てみたのだが、やっぱり客の入りはチマチマだった。
「カリフー! こっちこっち!」
ここで遠くの小さい人影がピョンピョン跳ねながら手を振っている。
普段の長く反り返った後ろ髪が特徴の金髪がダークブラウンの短髪となっている。
そして肌も褐色になっているが、見間違えることはない
本来の姿のマナだった。
ランダムに変わる姿も、今回は別人格の姿にはならなかったようなので、少し珍しい現象だとも言えた。
「年甲斐もなくはしゃぐな。席が奪われるってことはねーからな」
「年言うなー! 乙女に向かってなんたる口の聞き方! 成敗してくれる!」
学園でのマナを見比べたら誰もがギャップを感じるだろう。
クラスでは年相応におしゃべり好きな女子高生という平凡な顔を持ち合わせている。
可愛らしい容姿とサバサバした性格の彼女も学園の活発系アイドルとして人気が高い。
だが、そんな彼女にも欠点はある。
「買い溜めしておいた飲料水は?」
「いや~、それがあそこでひっくり返しちゃってあ痛い!」
窺うように恐る恐ると液体が漏れるボロボロのビニール袋を出した瞬間に軽く握った拳で優しくゴツンしてやった。
「普段から歩くときは気をつけろと言ったろうに……」
「うぅ~……ゴメン……」
シュンと謝ってくるマナに力なく嘆息した。
恐らく足に躓いて中身を自身の身体で潰したのだろう。
さっきからマナの衣服が濡れて体にピッタリと張り付いているのが気になっていたが、その理由が分かった。
「相変わらずの運動音痴だな……流石に同情しちまった……」
「好きで音痴になったんじゃないやい……」
「拗ねるな。取り敢えずそのびしょ濡れの姿は一部の物好きには目の毒だ」
「!? きゃあ!」
ピッタリ衣服が張り付いて体のラインがクッキリと表した自分の姿に気づき、顔を紅くさせて腕でブラジャーまで透けている胸を隠す。
「も、もうっ! 見たでしょ!?」
「白のブラなど今は問題じゃない。とりあえず近くのコンビニで拭くもの買ってくる。同伴者があまりにみすぼらしいと流石のオレでも恥ずかしくなってくる」
「白って言うな! みすぼらしい言うな! 迷惑かけてゴメン!」
「よろしい。ここで待ってろ。またこけて埃まみれにでもなられたら迷惑だ」
辛辣な言葉に多少の優しさもあるから何とも言えない。
マナは頬を膨らませて座席に座る。
それを確認したカリフは再び外へ出る。
そして、何気なく呟いた。
「……濡れた服もやぶさかではない」
◆
「いらっさーせー」
朝早くで何でも売っているコンビニは素晴らしい。
カリフはコンビニでタオルやら代わりの飲料水を探そうとコンビニに入った時だった。
「ふむふむ、悪魔の雑誌も中々いい線いっとるのう……」
快適な涼しさに身を委ねていたというのに、今度は暑さとは別の嫌な汗をかくこととなった。
聞き覚えのあるこの声の主は間違いない。
「やはりこうして見るといかにヴァルキリーが堅物か思わされるのう……一度だけ発行したオリジナルの薄い本も発禁喰らったし……とりあえずこの本は今後のヴァルハラの創作文化の礎として……」
「何してんだエロジジィ」
「うごぉ!」
懐に本を忍ばせようとした隻眼の老いぼれの頭を掴んでダンクシュートをかます。
アダルティーな本棚は音を立てて崩壊し、老人は散乱した本の中に顔を突っ込んで気絶している。
その情けない姿を一瞥して黙々と目当ての物をカゴに詰めていった。
目当ての物はありふれた物だったからすぐに目的を達成し、コンビニから出ようとした時、老いぼれが足を掴んできた。
「これこれ、こんな年寄りに乱暴していくのは感心せんのう……あいたた! いかん、腰の持病が……」
「ほーら、マッサージ」
「いだだだだだ! 年寄りの腰を足蹴にするでない!」
カリフは眩暈がしたせいか目頭を押さえて溜息を漏らす。
それもその筈、今目の前で足蹴にされている老人こそが北欧神話の主神、オーディンだと誰が思うだろうか?
「まったく……年寄りに平気で暴力を振るう若者が出てくるとは世も末じゃな」
「コンビニのエロ本漁る神が出るとは世も末だ」
皮肉を返し合いながらオーディンは指を鳴らす。
指の鳴らす音が響いた後、散乱した本や本棚がひとりでに動き出して元の陳列された本来の姿に戻る。
服の埃を払っていると、今度はロスヴァイセが入ってきた。
「オーディンさま! またこのような所で道草喰っていらしたのですか!」
「店の中ぐらい静かにせんかい。少しくらい構わんじゃろ」
「三度目です! 少しは主神としての自覚をですね……」
「あ~あ~、小言は年寄りには毒じゃから遠慮願いたいわい。そういうのは客人の前ではしないものじゃ」
オーディンの含みのある言葉に首をかしげると、その後ろに立っていたカリフに気が付いた。
「え!? なんで!?」
「いや、こっちの台詞……ってそう言えばジジイの介護してるって言ってたっけ?」
「その言い方は非常に遺憾です!」
軽い冗談の後に買い物カゴを見せつける。
「これから知り合いが試合するからその観戦に来てんだよ」
「そ、そうですか……」
ロスヴァイセのどこか気まずそうな雰囲気に少し首を傾げていると、オーディンがわざとらしく咳払いする。
「ここではなんじゃからそろそろ行こうかの。年寄りは冷えすぎるのはよくないからのう」
「それならこんな所で一人にならないでください」
「それじゃあわし等はこれで失礼するぞ」
こめかみを押さえながら自分勝手な主神に怒りを抑えるロスヴァイセをスルーしてオーディンはコンビニを出る。
その様子をカリフは呆れながら見ていると、傍にいたロスヴァイセはカリフに頭を下げる。
「すみませんでした! オーディンさまがご迷惑をおかけ致しました」
「ま、そこは別にいい。あういうジジイだということはよく知ってる。それよりも早く行っとけ。また見失うぞ」
「そうですね……それではまたの機会にお会いしましょう!」
そう言い残したロスヴァイセはオーディンの後を追ってコンビニを後にした。
嵐のように急に現れては去って行った知り合いの後ろ姿を呆然と見つめては一言。
「いいねぇ、充実してる奴って……」
自覚できる程にテンションが下がっている自分に言い聞かせるように呟いたカリフはすぐにスタジアムへと戻って行った。
◆
其れからというもの、オレにはそこから先の記憶があまりない。
別に記憶喪失だとか意識を失ったからとかそういう意味ではない。
「あ、もう始まるんだ!」
「嬉しそうだな」
「うん! 悪魔のやっているレーティングゲームって話に聞いてただけだからちょっと楽しみ!」
マナは何だか楽しそうだった。
両親がサッカー試合を楽しみにするようなそんな感覚なのだろう。
こいつの何でも楽しめる性分はこの時だけ羨ましくなってくる。
「……」
買い物に行った後から大分人も集まり、オレ等のような見学者への注意事項やお知らせのアナウンスが終わり、遂に巨大なスクリーンの向こう側でゲームが始まった。
そして、そのフィールドは駒王学園の近くのデパートだと分かった。
「あ、あれって近くのデパートだよね?」
「見りゃ分かる。互いに地の利を発生させるための平等な考慮なんだろうよ。強さを競うには良い判断だな」
多分、サーゼクス辺りが提供したのだろう。
「それと特別ルールがどうって言ってたけど……何だろう?」
特別ルールか……そのルール如何によってはシトリーかグレモリーのどちらかは必ず損害を被るだろう。
しかし、ルールとは一体何だ?
そう考えていると突如として後ろから声をかけられた。
「ルールは至ってシンプル! 『デパートの中を破壊しつくさないこと』、『兵士のプロモーションは敵陣にのみ可能』、そして『フェニックスの涙は一つずつの配給』らしいわ」
「へ?」
「む?」
振り返ってみると全身ボンテージ姿のツインテール痴女がドヤ顔で喋っていた。
何だこいつ?
「カリフくんだったわね! 久しぶり!」
無駄に高いテンションで何か言っている。
オレの知り合いにこんなのいたっけ?
「えっと……カリフのお知り合いですか?」
「えぇ! 前に一度だけ共に協力してエクスカリバーを使った陰謀を止めた仲間よ! でしょ?」
エクスカリバー……ちょっと待て、そう言えば……
「……ゼノヴィアの相方だっけ?」
口に出すとそのツインテールが不思議そうに見つめてくる。
「そうだけど……えっと、名前覚えてる?」
「いや全然」
「ひどっ!」
そう言えばいたなそんな奴。
ゼノヴィアのキャラの方が濃かったし、戦い方も奴の方が派手だったから印象としてはあいつの方が濃い。
それに二度と会わないと思ってたから名前と一緒に存在そのものがオレの頭から消えてた。
「私は紫藤イリナ! イッセーくんの幼馴染!」
「……少し思い出したぞ。確かその幼馴染を信仰がどうとか言いながらエクスカリバーで笑顔で斬りかかった危ない女だな?」
「い、嫌な覚え方しないで! そりゃあの頃の私はちょっとおかしかったかもしれないけど!」
「おまけにコカなんとかって雑魚に早々にリタイヤさせられてたから正直忘れてた」
「あの頃よりも強くなったもん! そうやって私を舐めてられるのも今の内よ!」
確かにコイツ……もとい紫藤イリナの気は人間とは別物になっていた。
しかもこの気はミカエルとかの物に似ている。
強くなったというのは確かに本当のようだな。
まあ、それでも目を見張るほど強いって訳でもなさそうだ。
「で? お前はここに何しに来た?」
「えへへ、実はミカエルさまの付添で来たんだけど、そのミカエルさまが魔王さまや各国の首脳の方々と一緒にVIPルームで観戦することになっちゃって。そこには付添の人たちは入れなかったからこうして客席で見ようとしてた時にカリフくんと初めて見るそちらの人を見かけたってこと!」
「ふ~ん。で?」
「一緒に観戦してもいい? 一人で見るよりも皆で見た方が楽しそうだし!」
「……好きにしろ」
見るだけなら構わんか……こいつのことだから追い返そうとすると喧しそうだし。
「あなたが黒魔法を使う魔法使いの人でしょ? 私は紫藤イリナ。イッセーくんやゼノヴィアがお世話になってます!」
「えっと、こちらこそよろしく。紫藤さん」
流石のマナでも紫藤のテンションに押されているか。
隣で握手しているのを見た後に再び試合に意識を向けようとした時だった。
『リアス・グレモリーさまの「僧侶」一名、リタイヤ』
……は?
ちょっと待て、今さっき始まったゲーム……え?
「え、今見てなかった……」
「イッセーくんの所がやられたの!?」
二人も見てなかったのか状況が分からない様子だった。
状況を整理すると、開始直後に小猫とイッセー、木場とゼノヴィアが二手に分かれて進撃。
リアス、朱乃、アーシアは本陣で待機しているのがスクリーンに映されている。
考えに耽っていると、また新たな声が聞こえた。
「ここ、よろしいですか?」
全員が振り返るとそこにはスーツ姿のロスヴァイセが立っていた。
「ロスヴァイセさん? なんで?」
意外な訪問者にマナが反応すると、ロスヴァイセは微笑んで返す。
「オーディンさまの護衛だったのですが、各勢力の指導者が集うVIPルームに入られました。私は入れてはもらえませんでしたので客席からゲームを見ようとしていたのですが」
「そこで私たちを見つけたんですね?」
「はい。こういうのは独りよりも知っている顔があれば楽しくなりますしから。辛いですよ……独り身……フフ……」
「あ、あの……」
突然に自嘲するロスヴァイセにマナはどう反応すればいいかオタオタしている所にカリフが聞いた。
「ロスヴァイセはゲーム見てたのか? 急にリタイヤが出たんだが……」
「あぁ、見てましたよ。確か、グレモリー眷属のギャスパー・ヴラディが食品売り場で索敵していたら何やらニンニクの匂いに怯んだ、という具合でした」
「酷い……」
思わず頭を抱えてしまった……あの引きこもりめ。
少なからず目をかけてやったのに、あまりにも残念な醜態だ。
「てか、んなもんでやられてんじゃねえよ! ニンニク美味しいだろ!」
「何だか的が外れてるわ!」
紫藤が何か言ってるが気にすることなく試合に意識を向ける。
ギャスパーの処遇についてはまた後で考えよう。
「そういえば貴女は?」
「あぁ、初めまして! 私は大天使ミカエルさまのお付きとして今回のゲームを観戦させていただいております! 紫藤イリナと申します!」
「私はオーディンさまの護衛を承っている戦乙女のロスヴァイセと申します。その様子ですと貴女も私と同じ事情のようですね」
「はい。カリフくんとは知り合いだったので一緒に観戦させて頂いておりました。それとイリナでいいですよ。マナさんも」
静かに観戦したいのに……
女三人集まると『姦しい』と言われるが、本当だった。
隣の女たちの世間話などどうでもいいから離れて観戦に徹する。
すると、事態は二面同時に動いていた。
「ほう、定石過ぎるカードだ」
一方のデパート内のイッセーと小猫が匙と生徒会の一年。
そして別働隊として動いていた木場とゼノヴィアが生徒会の目つき悪い副会長と戦車と騎士。
パンフで名前を確認するも、やはり定石過ぎる。
「イッセーくんたちの方は兵士と戦車対決で、ゼノヴィアたちに人数を多く投入したのね」
「バランスの取れた割り振りだね」
「ですが、シトリー眷属の戦闘能力は申し分ないとは思いますが、少々分が悪いですね。というよりグレモリー眷属のスペックが高すぎるということがあるのですが」
「ソーナならそれくらい理解してるのが当然だ。何か罠張ってるな」
女たちはお喋りを止めて試合に集中していた。
力は劣るが、特殊な能力と連携でジワジワと追い詰めていくトリッキータイプのシトリー眷属に対し、リアスたちは一人一人のパワーを駆使して突っ込むパワータイプ。
純粋な強さならリアスたちの方が圧倒的に上だが、これは実戦ではなくゲームだ。
ゲームなら殺さなくても方法次第では勝ち方など好きにできる。
正直、リアスたちとはこの場において分が悪い。
「あれがブーステッド・ギアのバランスブレイカー!?」
「ゼノヴィアたちが押してるわね! それに新しい聖剣にデュランダルのオーラを纏わせるなんて凄いわ!」
「ですが、シトリーの罠もいつ出るのか気になりますね」
紫藤とマナは知り合いとしてグレモリーを応援し、ロスヴァイセは冷静に分析している。
だが、オレはこの状況からして何となく分かってしまった。
「いや、罠は既に敷かれた。グレモリーの一人ぐらいはリタイヤするだろうな」
オレの一言に三人は目を見開いて驚いた。
「でも、イッセーくんとゼノヴィアたちが押してるよ? それに小猫ちゃんだっけ? その子も相手に勝ったし」
「小猫はな。問題はイッセーと木場、ゼノヴィアだ。予想ではゼノヴィアが一番危険だ」
「何故ですか?」
「経験則」
流石にこの推測は経験から導いたことだし、可能性としての話にはなるがな。
「最初に匙の方だが、あいつは神器なり魔力なりを吸い出して弱らせるのが奴の戦法となる。予想では最初の一撃でラインを繋げたんだろう。腹部への攻撃は最初しかやってねえが、今じゃあ腹部への攻撃が見るからに減っている。ラインを付けた場所へ注意を向けないための囮だろうがな」
「なら遠くに逃げて力を奪って行った方が効率的なんじゃあ……」
「近くにいた方が魔力つぎ込んで硬化させたり、その間の透明化といった操作がしやすいんだろうよ。情に任せて殴り合いしてるように見えるが、わざわざソーナがそんな無謀させる訳がねえ。サクリファイスの精神でイッセーの力をこのゲームの間だけ力を奪い続けるラインを完成させたら最後、イッセーは間接的に強制リタイヤだろうな」
あのバカが……本来なら匙のような奴に近付くのが危険だと散々教えてやったのに。
情に任せて不利になっているのは、現在、匙を圧倒しているお前自身だ。
「じゃあゼノヴィアは? 今さっき相手に聖のオーラを魔のオーラに反転させられたことぐらいにしか見えないんだけど……」
「確かに聖のオーラが封じられたのは痛いけど、それでも木場くんたちの方が依然として有利だと思うけど」
「マナの言う通りだが、問題は反転じゃない……多分だがもっと別のがあると思う……」
そういっている間にゼノヴィアが女王である副会長に精一杯のオーラを込めてアスカロンとやらを振り下ろそうと向かっていた。
だが、それに対して嫌な予感しかしなかった。
「それは止めろ」
思わず出てしまった言葉の後にゼノヴィアは散った。
女王が何やら鏡を出してゼノヴィアの攻撃を受け止めた直後、ゼノヴィアが血みどろになって吹き飛ばされた。
「なんで!? 今、ゼノヴィアが攻撃したのに!」
「まさか、あの鏡が何かしたの!? あれも神器!?」
イリナとマナがまさかの事態に驚いている中、傍のロスヴァイセだけはゼノヴィアにではなくてオレに対して驚きを見せていた。
「カリフくん……このことを知っていたんですか? さっきも止めろって」
聞こえてたか……
残りの二人も驚いていたから種明かしでもしてみる。
「疑問に思ったのが地下駐車場だ。奴らがなぜその場所で迎え撃ったのか考えてみた」
まだ三人は分かってないようだった。
「バランス・ブレイカーの木場とデュランダルのゼノヴィアに対して生半可な戦力で足止めなんてできると思うか? 密閉された空間なら罠はかけやすいが、あまりに危険すぎる。逆にその危険を冒す行為自体があからさま過ぎる」
「相手に有利な状況にしておいて油断させる……ということですか?」
「そして、その場所がこの戦いに限り有利な場所とも言えた訳だ」
「『大規模な破壊』ですか?」
やはりロスヴァイセが気づいたか。
残念だが、聡明な奴だ。
「そう。ルールの中には『大規模な破壊は禁止』という項目がある。ゼノヴィアの攻撃力を受け流すことができれば判定勝ちを拾うことが可能だ。むしろそっちの方が可能性が高いからな」
「無意識の油断とルール活用……まさに策略ですね」
「で、でも、何で女王が危ないって分かったの!?」
紫藤の言葉に全員も同じ反応をするが、こればかりはこう言うしかない。
「勘」
「あぁ、勘……って勘!?」
マナは根拠のない答えに不服そうに返すが、そんなことは知らん。
「こればかりはそう言うしかない。あの女王、ゼノヴィアに対して突く程度の攻撃しかしてねえ。あからさまな挑発だと嫌でも思ってしまう」
「最初は分からなかったのに、今までの判断から考えれば確かに不自然だったね……」
始まってから数分の間にこれだけの罠を仕掛けるソーナ。
言葉の通りに言えば悪魔の頭脳と言えよう。
(楽しそうだ……)
知略とパワーがぶつかり合う緊迫した戦い。
画面の向こうではリアスたちが接戦を繰り広げている。
だけど、オレにはそれが叶わない。
本人たちには悪いが、オレにとってはこれはお遊戯でしかない。
決して死なず、ルールに守られたゲーム。
奴らはそんなゲームにすら全力をぶつけ合える。
オレもそんな戦いがしたい。
突っかかってくるのはどいつもこいつも弱い奴等ばかり。
誰もオレを本気にしてはくれない。
悟空もベジータもいないこの世界は苦痛だ。
「朱乃さん。堕天使の力使えるようになったんだ。よかったぁ……」
リアスも、イッセーも、木場も、朱乃も、アーシアも、ゼノヴィアも、小猫も……
他の奴等もどいつもこいつもが着実に強くなっていっている。
さぞ充実した一時なのだろう。
こんな気持ちの昂ぶりなんてもう長い間味わえていない。
オレ自身が戦場から離れてしまっている……
それからと言うもの、オレの頭には試合の結果と断片的な転機があったとしか覚えていない。
頭に残っているのは虚無感と無気力な苛立ち……そして羨望だけだった。
何もかもが思い通りになってしまう張りの無い人生……
何が楽しくて生きているのか……何を相手に戦いたいのか……
たった百年余りの人生をただ枯れて終わっていくだけなのか。
もっと短い人生をただ終えるだけか
結局、試合が終わるまでずっと空しい気分は晴れることなく……
それどころか朝よりも陰鬱な気分が深くなっていた。
◆
試合が終わった後、カリフたち一行は来た時と同じようにグレモリー所有の列車で帰ることとなった。
試合の結果自体は周りが予想していた通りリアスたちの勝利を飾ることができた。
だが、その勝利は決して快勝とは言えず、どちらかと言えば辛勝という他なかった。
チームの攻撃の要であるゼノヴィアとイッセー、アーシアの脱落がリアスたちに対する評価を落としていた。
そのため、リアスたちの評価は結果とは裏腹に芳しいものではなかった。
それに対してシトリー側の評価は敗退したにも関わらず上がったとのこと。
北のオーディンからは匙に対して良い評価を下し、イッセーたちに対しても精進するよう助言しに行ったくらいうだった。
試合が終わった直後にロスヴァイセはオーディンの護衛のために再びカリフたちと別れ、イリナもミカエルと共に帰って行った。
新人悪魔初の公式レーティングゲームは様々な波乱を生み出してその幕を閉じた。
そして、またしばらくゆっくりしてから地上へ帰る今へと繋がっている。
今はグレモリー邸の前で眷属たちがリアスの家族たちと別れの挨拶を交わしている。
それをカリフは列車の中から一人眺めている。
一人だけボーっとしていると、カリフの前に小さな影が駆け寄ってきた。
「ミリキャスか……」
「はい! カリフお兄さまと最後にお話ししたくて来ました!」
「はぁ……子供ってのは物好きな奴が多くて困る。オレは特に話すことは何もないぞ?」
溜息を吐くカリフにミリキャスは満面の笑みを浮かべて見上げてくる。
「僕はもっとカリフ兄さまに挨拶したくて来ました! よろしいですか?」
「そんなこといちいち……もういい疲れた。勝手にしろ」
「はい!」
特別好かれるようなことは何もした覚えは無いというのに……どうも子供相手だと無意識の内というか、非情になりきれないせいか懐かれてしまう。
この自覚できていない『子供に懐かれる』才能というのは本当に面倒だ。
叶うならそれを捨て去りたいというのに意識しない所で同じことを繰り返す。
もはやこれを本能として片付けようと諦めている自分が情けなくなってくる。
そんな中、カリフが再びミリキャスへと視線を落とした。
「えへへ……」
その瞬間だった。
ミリキャスの笑顔を見た瞬間、自分の中の“何か”が脈動を始めた。
それと同時に形容し難い嫌悪が彼を襲った。
「はっ!」
カリフは我慢できずに頭を押さえてうずくまった。
突然の異常な様子にミリキャスは表情を一変させて心配を露わにする。
「どうかしましたか!? 兄さま!」
ミリキャスの声にカリフはすぐにいつもの調子を取り戻してミリキャスに言う。
「あ、あぁ……前の怪我が尾を引いていたようでな……血が足りないかもな……」
「だ、大丈夫ですか?」
「と、当然だ。不意に感じたような微々たる物だ。時間かければ何とかなる」
「そうですか……悪魔と人間では治療の結果が違ってしまうものなのかもしれませんね」
「まあな……お前は気が済んだろ? ならさっさと帰りな。お前の本当の相手はリアスたちだからな」
「え、でも……」
「オレはこの通りだ……ガキに心配されるほど落ちぶれたつもりはない」
「そ、そういうことなら……分かりました……」
最後は少し棘が含まれていたからかミリキャスは少し気を落としながらもお辞儀をてその場から離れる。
時折、チラチラと遠ざかりながらもこっちを見てくるミリキャスに対してカリフは怒りではなくてどこかもどかしさを感じた。
「……」
「あ……」
遂にカリフはミリキャスの様子に見かねたのか背中を向けて一本の親指を立てて見せつける。
その手振りは人間や悪魔などの種族問わず知られている“グッドラック”のサインだった。
それを確認したミリキャスは年相応の可愛らしい笑顔を浮かべた後、急いでリアスたちの元へと向かって行った。
「あらミリキャス。どこに行ってたの?」
「えへへ……」
リアスの問いにミリキャスは笑った後、遠くから再度カリフの方を見て叫んだ。
「カリフ兄さまー! またここに来てくださーい! 僕、兄さまのこと大好きですからー!」
「ああもう、分かったから! そういうことデカい声で叫ぶんじゃねーよ!」
叫んだ後、カリフは窓と一緒にカーテンを閉めて断固受付拒否の姿勢を見せた。
傍から見たら逃げたようにしか見えないカリフの行動にヴェネラナたちは微笑ましさを覚えるが、その横ではリアスたちが呆然としていた。
(あのカリフの僅かなデレを引きずり出すなんて……流石は魔王さまのご子息……恐ろしい子!)
(これが桐生の言っていたショタコンという奴か……!?)
(カリフくんは小さい子に無意識的に甘い……チャンスは有りだ……)
各々、カリフが聞いていたら問答無用でグーで殴られるような考察をするが、間違っても口には出さない。
今ここに、子供の底力を見たとそう思った。
だが、現実はそんなに楽観的な物ではなかった。
―――カリフが彼らから見えない角度で小刻みに震える腕を必死に押さえている場面があったことを
―――その押さえている腕がまるで別の生き物のように脈動していたことなど
彼らは知らなかった。
◆
帰りの電車の俺は部長たちとこれまでの合宿を思い返していた。
「イッセー、今回の合宿はどうだった?」
「そうっすね。やっぱり色々と考えさせられる所もありました」
「私もよ。今回はソーナには勝ったけど、私からすればほとんど負けたと言ってもいい内容だった。優秀な貴方たちをリタイヤさせてしまったのだから……」
「ですが部長は最善を尽くしてくれましたよ」
「そうかしら……私じゃなくてカリフだったならもっと上手く立ち回れたと思うの……」
やっぱり気にしてたんだな部長……
後からマナから聞いたことなんだけど、カリフはある程度ソーナ会長たちの動きを先読みできていた様子だったという。
それを聞いた部長はそれから少し自信を失ってしまった。
「そんなことないですよ。俺だってチーム戦だということを忘れて勝手な行動を取って匙に負けてしまいました」
「イッセー……」
「俺は部長が主で良かったと思っています。皆もそう思っているから部長だからこそ着いて来るんですよ。まだまだ俺たちは未熟なんですから乗り越えていきましょうって」
そう言うと、部長が満面の笑みを浮かべてくれた。
「そうね。私も貴方もまだまだ修行不足……今回の合宿はそのための物だったのに。それに今回の合宿でそれ以上に貴重な物を得ることもできた。あなたや朱乃、それに小猫だって自分の壁を越えてくれた。私の予想以上の結果だわ」
「はい! これからも部長のためにどこまでも尽くしていきます!」
部長の笑顔を見ながら自分の思いの丈を宣言する。
こうして自分の決意を新たにしていると、部長の後方で小猫ちゃんが席を立ってキョロキョロと何かを探していた。
「にゃ~……」
シュンとゲーム中では立っていた猫耳を畳ませて寂しそうに鳴いていた。
まるで母猫を探す仔猫の気がして愛おしく思う。
可愛いは正義だな!
「あらあら、小猫ちゃんってばカリフくんがいなくて寂しいのですね? 小猫ちゃん。こちらへいらっしゃい」
「にゃ……」
「朱乃さん、小猫ちゃんの言葉が分かるんですか?」
朱乃さんに招かれて寂しそうに膝枕をしてもらう小猫ちゃんを見ながら聞くと、同じように朱乃さんが憂いの笑顔を浮かべる。
「うふふ……分かってしまうんですの。私もあの子……いえ、あの方の手前、勇気を出して力を使ったのですから、それくらいのご褒美があってもいいですのに……」
朱乃さんに言われるまでカリフがこの車両にいないことに気付かなかった……
普段なら遠慮もなく座席を大きく使って眠っているはずなのに、どこいったんだ?
「カリフくんならトイレに行くのを見ましたよ? 何やら調子が悪いのかもしれません」
話を聞いていた木場が朱乃さんたちに言う。
「そうでしたの……調子が悪いのでしたら仕方のないことですわ」
「にゃあ」
とりあえず、朱乃さんに同意するように小猫ちゃんも鳴く姿は可愛らしい!
こんな可愛い子たちのイベントをみすみす逃すとは、カリフも災難だな。
◆
列車のトイレの中、カリフは便座の上で荒い呼吸をしていた。
「はぁ……はぁ……」
腹を下したわけではない……ただ気分が悪いだけ。
汗だくとなったこんな弱り切った姿を見られたくなかった。
―――いつまでこんなママゴトを続けているつもりだぁ?
頭の中にこの世で最も忌むべき声が響く。
精神を、魂をかき乱すような様々な感情が湧いてくる。
―――自分という存在を思い出せ。“そこ”はお前のような奴が住める世界じゃない
―――黙れクソ野郎! 金魚のフンのように人の魂にへばり付くだけの存在が……!
―――その存在から生まれたのはどこのどいつだ?
頭の中で響いてくる声に対して頭の中で罵声を唱える。
ブロリーの魂からの交信はまるで酔った感じに頭の中がゴチャゴチャし、吐き気さえも催すほどだ。
苦し紛れの暴言にもう一つの魂が鼻で笑う。
―――ふん、何もお前を苦しめようとしている訳じゃない……お前は数少ない血の通った兄弟だ……
―――……
―――お前の目的は俺の目的……共にカカロットとベジータを倒す目的を持った仲ではないか……
白々しい……本能的に口先だけだと分かるこの口上にカリフの我慢も限界を向かえようとしていた。
―――分かるか? お前が死ぬということは俺も死ぬということ……困ったことがあれば力になるぞ?
―――そこまで落ちぶれた覚えはねえ……さっさと消え失せろ
―――そうカッカするな……何かあれば力くらいは貸してやるぞ?
―――消えろッ!
そうとだけ言うと、これ以降から声は聞こえなくなり、頭痛も収まってきた。
残ったのは大量の汗と疲労感だけだった。
(ここまでの干渉は今までに無かった……こりゃ笑えなくなってきたか……)
呼吸を整えながら覚悟を決める。
(とりあえず……早いとこケリつけんとやっぱヤバいだろうねぇ……)
この状態は地上に帰ってくるまで続いた。
◆
とある世界のとある場所
冥界とも天界とは違った“どこかの世界”
不気味に光る怪しげな光に包まれた夜の世界
そんな世界に一つだけそびえたつ巨大な岩の城
その中の玉座の間に“そいつら”はいた。
一人は玉座に座り、もう一人は玉座の前に跪く。
「今月の収穫は如何ほどで?」
「エルフとドワーフを捕獲後、すぐに武器製造の部門へ移しました。開発部曰く、それでもまだ人手が足りないとのことです」
「あれほど連れて来たというのにまだ催促しますか……困った人たちですね」
玉座に座る人物はもたれかかって嘆息する中、目の前の男は続ける。
「そして、パトロンへの玩具として人間とエルフの女子供を確保……抵抗する者と年寄りは勝手ながら処置致しました」
「人数的にもノルマを達成できているというのなら問題はありません。いつも通り、最低でも一人につき500万を基準に価格を付けてくださいね」
「かしこまりました」
話の内容からしてこの者たちが碌な人物ではないことが伝わってくる。
あまりに人道からかけ離れたこの会話は続く。
「人間とは実に便利な生き物です。普段は役に立たないような女子供でもこの星でならどうとでも使える……ひょっとしたら一番の稼ぎ頭なのかもしれませんよ?」
「メスを目当てに我が軍団も潤ってきます。この星の連中の性欲は天井知らず……中には子供にしか発情しないようなのもいますから」
「この星の言葉にもありましたね……“馬鹿とハサミは使いよう”だとね。ホッホッホッホ……」
小さく笑うその人物……身も心も人ではない。
「今はカオスなんとかと言うテロリスト風情にでも私たちの煙幕となってもらいましょう。各部署にお伝えください。現時点はまだ私たちが出る時ではありません、と」
「仰せのままに」
男が再び跪くと、玉座の人物は音もなく玉座ごとその場から霧のように消えた。
「そうやってふんぞり返っているのも今の内だ」
主が消えたと確認するや、男の口調は先ほどまでの丁寧な物とは打って変わって乱暴で、苛立ちが表れていた。
そして、ほの暗い暗闇の中で一瞬の間だけ男の顔が露わとなる。
「いずれ貴様を……この組織ごと俺の手中に収めてやる……」
邪悪な笑みを浮かべたその人物の腰からヒュルンと伸びる一本の尻尾
「神精樹さえ実るまでの辛抱だ……なんとしても今だけは隠し通さねば」
新たなる巨悪がすぐそこにまで伸びようとしていた。
~後書き~
分かっています……ですがせめて言わせてください。
本当に久しぶりすぎて丁寧に書けなかったんです! 朱乃の覚醒シーンとか……原作を読んでください的な丸投げだということは重々承知です! そこは自覚もしております!
そして本音を言わせてもらえば次回のオリジナル章に早めに入りたかったのです……
なので、次回から前々から予告していた『通学路のドラゴンズ』という章を敢行させていただきます。名前と内容は実質あんまり関わりはなく、どっちかと言えばスーパーバトルタイムを予定しております。
そろそろ主人公無双もネタ切れ&マンネリ化&主人公一般オリ主化しそうになってきたので思い切った確変をしようと思います。
それではまた次回、テストが終わった後に更新しようと思います!
さようなら!