ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~ 作:生まれ変わった人
それと内容も少し増やしたのでまた見てください。
皆諦めていた。
もう何もできない所だった。
「まったく……手のかかることで」
だけど、目の前に突然、本当にどこからともなく現れた後輩にこの場の全員が目を見開いた。
「カリフ……なんで……」
部長が苦しげに闖入者……カリフに聞いた。
本人は小猫ちゃんの肩を掴んだまま俺たちを油断なく見据えていた。
「カ、カリ……」
「おいおい、普通はお涙頂戴のシーンのはずだろ?……なーにしてんだこの泥棒猫ぉ」
小猫ちゃんの姉であり、第一級はぐれ悪魔である黒歌がさっきまでとは違って驚愕して目を見開いている。
黒歌も突然のカリフの出現と共に小猫ちゃんから距離をとったにも拘らず明らかに空気が変えたのが俺でも分かる。
「あ……ぅ……」
カリフに身を任せていた小猫ちゃんが目を覚ました!
よかった……何だか落ちついているようだ。
黒歌が更なる驚愕を隠さずに聞いた。
「意識が戻ってる!? あの大量の悪の気を一瞬で!?」
「気は長年オレとともにある力でね……小猫の内に渦巻く不純物を探って排出させるくらい容易い」
やっぱり、さっきまでの小猫ちゃんの異常は仙術の副作用……それを取り除いたのはカリフだったのか。
そこまで聞いた黒歌は再び笑みを見せるが、それは皮肉を込めるように挑戦的な笑みだった。
「まさか私と本当に戦うのにゃ? その子の姉である私と……」
「そうさ殺しはしない……曲がりにもお前には一時的でも世話になった恩があるし」
恩? そういえば小猫ちゃんは昔からカリフの家で世話になってるって言ってたっけ……まさか黒歌ともその時に。
考えていると、カリフが仕返しと言わんばかりに挑戦的な笑みを見せる。
「だが、お前如きなら殺さずとも無力化なり黙らせるなりどうとでもできるんだぜ?……それを知らんお前ではあるまい?」
「くっ!」
黒歌が歯ぎしりして悔しがる。
その後、黒歌が悲しそうに表情を歪ませる。
「これはかな~りマズいにゃ……」
あの黒歌が悲愴を漂わせる姿に俺たちはまた驚かされる。
力に魅入られてはぐれ悪魔たちは皆、狂気しか見せてこなかった。
だけど、黒歌は今までのはぐれ悪魔とは違う……何だか人間らしいとさえ思った。
悲しそうに訴える黒歌にカリフは笑みを止めて真剣な表情で返す。
「悪いがこれはオレの意地だ……小猫はお前と共に行くことを拒んだ。今のオレはこいつの監督なんでね、教え子をむざむざ渡すこともなければ最大限にこいつの意思を尊重してやるのさ」
「……それが答えなの?」
「あぁ……これでもお前には罪悪感を覚えているよ」
互いに睨み合う二人
そこで、小猫ちゃんが目を覚ました。
「う……ん……」
「おはよう。随分と無理をしたものだ」
カリフの姿を捉えた小猫ちゃんは驚いて目を見開いた。
「あれ……私……え? カリフくん何でここに……?」
「……まあそこは後でいいだろ。うん」
何だ? 急にカリフの様子が変わって目を逸らした……
まさかとは思うけど……
「お前……そういえば部長の宅に待機だったはずだったと思うけど……」
「あなた……もしかし」
「さて、とりあえず大体の事情は分かった」
誤魔化した!? 部長の言葉を遮って状況分析を始めやがった!
「何してんのお前!? いくらなんでもこれは無茶苦茶すぎんだろ!」
「……すんなりと引き下がったと思ってたら……」
「カリフ……あなたって人は……」
俺たちから総スカンを喰らわされているにも拘わらずにカリフは腕を組んで我関せずだった。
「それにしても前に一度だけしか見せたことのないかめはめ波をいきなり使うとはな……もう随分と弱っただろうに」
「いや、まずはこっちの話をだな……!」
俺たちの方は見ようともせずに淡々と話していく。
分かりやすい棒読みで
「そして無様に転がっている王(笑)と成長の止まった変態ドラゴンか……マジワロす」
「……後で覚えておきなさい……」
毒に苦しみながらもカリフに対して怒気を含んだ声を投げかけるもカリフは無視して俺の方を向き直った。
「で、お前は何してんだ? 小猫一人に戦わせて……」
「い、いや、それが……」
俺は今までのことを簡単に説明した。
神器が動かなくなった訳を話す。
話し終えるとカリフは溜息を吐いた。
「お前ねぇ……神器の本質を忘れてねえのか?」
「本質……?」
首を傾げる俺に呆れてさっきよりも深い溜息を吐く。
「今お前がすることは何だ? ウジウジと戦えないことを悔やむことか? それともいらん義務に押しつぶされることをいうのか? どうせ『後輩が戦ってるから俺が~』とか思ってんだろうが」
自分でも充分に自覚していることを責められて叫び返す。
「じゃあどうしろってんだ!」
「簡単だろ! ヒーローにもなれねえお前ができることが一つあることを忘れたのか!? 『何をしなけれならないか』なんて考えんな! 『自分がどうしたいか』を考えろ!」
「!?」
自分が……どうしたいか……
「神器は持ち主の欲望に呼応して姿形を変える代物だ……なら、お前はお前のしたいことをしてみろ!」
俺の……したいこと……
押し付けや義務じゃない、俺がやりたいこと……
そうか! そういうことなら!
「おら、さっさとしろ。あのロンギヌスで名高いブーステッド・ギアのバランス・ブレイクを一目見てみたいからな」
「……あぁ、言われるまでもねえ! 見せてやるよ!」
俺は欲望に身を任せることにして部長の元へと駆け寄った。
◆
走っていったイッセーを見送り、カリフは再び黒歌と向かい合う。
だが、再び顔を合わせてみると黒歌は先程までの悲観した表情は消え、どこか納得したかのように見えた。
「どうかしたか?」
「いんや、すっごい久しぶりだったから忘れてたんだけど、さっきのやり取りを見て思い出したにゃ」
「あ、そう?」
カリフはよろめく小猫をゆっくり立たせてから離す。
「お前はイッセーんとこに行ってろ。このじゃじゃ猫の見張りは受けてやるよ仕方なく」
「で、でも……」
「オレ以外でこいつを見張れる奴はいねえだろうが。ほら、さっさと行った行った」
「……気を付けて」
小猫にもそんなことは分かっている。
それでも不安になってしまうのは仕方が無いことだ。
カリフは敵にはとことん容赦がないのだが、身内に少し甘い面が見られるから黒歌相手に油断とかしないかどうかが不安だった。
だけど、ここはカリフの戦士としての素質を信じるしかないと思ってイッセーたちの元へ向かう。
「あ、そうだ。一つ言っておくことがある」
「……なに?」
「えぇ……まぁ……さっきのは訓練もせずにいきなり仙術っつーのは関心しねえけど、まあ、センスはそれなりにあるっつーか……なんだ……」
「? 何が言いたいの?」
疲労でおぼつかない足取りで戻る小猫を呼び止め、目を合わせずに背中合わせで要領得ない口ぶりに可愛らしく首を傾げている。
不思議に思っていると、苛立ったのか自分の髪をボサボサと掻き乱す。
「要するにだな! お前にしてはよくやったってことだ……」
大きい声がだんだんと小さい声になっていくが、小猫にははっきりと聞こえた。
多少乱暴ではあるが、あのカリフが認めてくれた……
「用はそれだけだ! 速く去れ!」
「う、うん!」
再び一際大きい声を出して追い返すカリフだが、小猫、いや、周りからしたら照れ隠しにしか聞こえないほど声が慌てている。
不謹慎と思いながらも小猫はそのことを嬉しく思いながらもこの場を去っていった。
その様子を見ていた黒歌が優しく笑いかける。
「にゃはは……ちゃんとお兄ちゃんしてるようで安心したにゃ」
「ナマ言ってんじゃねえ……」
鼻を鳴らしてそっぽを向くカリフに黒歌は安心した笑みを浮かべる。
それを見たカリフはいつもの調子に戻って黒歌と向かい合う。
「ふん、そうやってまた本性を隠すのか?」
「なんのことかにゃ?」
「白々しいんだよ。お前如きがオレを欺けられる訳が無い」
「……」
俯く黒歌にカリフは今日で何度目かの溜息を吐く。
「これじゃあどっちが年上か分からねえな……」
「にゃはは……カリフが他の子より達観してるだけにゃ」
「でなければお前らとも生活なんてできなかっただろうが」
二人は昔を思い返しながら話を続ける。
すると、カリフから思わぬ提案を受ける。
「またいつか家にでも来いや。親たちが会いたがってるからな」
「またそれはいつかの機会にゃ。今の立場は複雑で」
「長引くようなら無理矢理首根っこ掴んで行くから心配するな」
カリフは戦意を引っ込め、目を瞑っ近くの木にもたれかかる。
「偽りの仮面を外して、素っ裸になって全部さらけ出せるような場所なんてうちしかねえからな」
「にゃはは。何それ口説いてんの?」
「口説けば来るのか?」
さっきまで敵対していたはずなのに二人の間の空気がどことなく優しい。
傍から見れば良い雰囲気なのだが、そんな空気はこの後すぐに壊されることになる。
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』
『至った! 本当に至りやがったぁぁ!』
後方から凄まじい光と共にドライグの歓喜の声が響いた。
それを聞いたカリフはフっと笑う。
「で、どうする? 教え子が強くなっちまったけど?」
「最初からそれを狙ってたんでしょうが……まあ、不利になったのは事実だからもう帰るにゃ」
「随分とあっさり帰るんだな。小猫はどうするよ?」
そこまで聞くと、黒歌は身を翻しながら言う。
「白音はそこにいた方が何かと都合がいいから預けるにゃ」
「ま、そういうことにしてやるよ」
素直に引きさがっていく黒歌にカリフはつまらなさそうに口を尖らせていた。
そんなカリフに黒歌は振り向いて気持ちいい笑顔を見せる。
その笑顔が逆にカリフの神経に障った。
「……なんだ?」
「さっき白音を褒めてた時の照れ顔は可愛かったにゃん」
「帰れ! クソ猫!」
「にゃん♪」
カリフの砲撃を軽口混じりに転移の術で避ける。
軽めとはいえ、カリフの砲撃は木々をなぎ倒して林を見事に禿げさせた。
「加勢にきたぞ!ってあれ? 黒歌は?」
「知るかあんな馬鹿猫!」
「?」
赤い鎧を着けたイッセーが何のこっちゃ?……と首を傾げていると、カリフはイッセーに振り向く。
「つーかおせえんだよ! このノロマぁ!」
「ぐぼぉ!」
八つ当たり殴られた顔面の兜にヒビが入り、イッセーは地面に大の字に倒れた。
カリフは少し気が晴れたのか倒れるイッセーを放置する。
「ふぅ……少しは気が済んだ」
「お……俺が何したんだよ……」
「何でもかんでもやることが遅いんだよ。本当に人生ナメとんのかテメェは」
「えぇ~……そんな理屈ってアリか……よ……」
殴られたイッセーはダウンして気を失う。
それを確認したカリフは少し気が済んだのか踵を返す。
「さーてと、五月蠅くなってきたしそろそろ……」
「帰れると思ってるのかしら?」
「チッ!」
後ろから肩に手を置いて引き止めるリアスに盛大な舌打ちを鳴らす。
それと同時にリアスの手も震え、力が強くなる。
「あれ? さっきまで弱ってたのに……」
「イッセーのバランス・ブレイクに至った魔力の爆発で毒の霧は全て吹っ飛んだのよ」
「あぁ、道理でさっきより視界がよくなったと思ったら、あぁ、なるほど……」
ブツブツ呟いてその場から帰ろうとするも、リアスの手はガッチリとホールドしている。
流石は上級悪魔、回復速度も逸脱している。
「私たちを助けてくれたことには感謝しているけれど、私たちの決まりを破ったことに関しては言わせてもらうわ。今夜は私とお母様、グレイフィアのありがたいお説教を上げるから」
「はっはっは! それなら耳栓を買っていこう! 雑音があっては快適な夜も気分が悪くなるからな」
誰もが恐れる女性たちを恐れる様子も見せずに高笑いを見せる。
普段のリアスならそれだけで激怒する所だが、今回は幾らなんでも勝手が過ぎる。
それ故に彼女は普段は考えださないような策をすんなりと引っ張り出してきた。
「ミリキャスともお話するのよ♪」
「はっはっは……はい?」
この時、満面な笑みのリアスに対し、カリフの得意気な表情はすぐに瓦解し、目を丸くしてキョトンとする。
◆
結局、パーティー襲撃のことが原因でパーティー自体が中止となり、予定よりも早めにグレモリー眷属たちは戻って来た。
戻って来たイッセー達を出迎えるようにヴェネラナ自身が入口の前にまで来ていた。
「良く無事に戻ってきましたね」
「ただ今帰りましたお母様」
にこやかに親子の挨拶を交わした後、ヴェネラナは真剣な表情に引き締める。
「それで、黒歌が来たということだけれど」
「はい。彼女の狙いは小猫でしたが、小猫自身やイッセーの活躍、そしてカリフの協力の下に危機を脱しました」
「そう……それなら良かったわ」
最悪の事態が無かったことを知るとヴェネラナの表情は安堵から緩む。
実娘のリアスが襲われた、と報告を聞けばどんな親だろうと心配はするだろう。
その反応は当然と言える。
「ですがまだ気を引き締めた方がいいでしょう。お母様もお気を付け下さい」
「それくらい百も承知です。あなたが心配するようなことではありません」
「ふふ。そうでしたわ」
互いに不敵な笑みを浮かべて笑うリアスとヴェネラナ
それを眺めていたグレモリー眷属は誰もがこう思った。
何とも強く、頼もしい親子だろう……と
そう思っていると、リアスは思い出したかのように問いかける。
「そう言えばカリフはどうしていますか? 先に帰らせたのですからもう着いている……はずですが」
リアスはパーティー中止の前にカリフをグレモリー邸に帰していた。
強く言い聞かせていたのでとっくに帰っているはずだ。
むしろ帰って無かったら本気でキれていたのかもしれないが。
「彼ですか? 彼ならとっくにミリキャスからお説教貰って部屋で休んでいますよ」
ヴェネラナはその時の光景を思い出しながらクスクス笑う。
自分よりも一回り小さい子供からお叱りを受けるカリフがよほどシュールだったのだろう。
普段の彼を知るイッセーたちも苦笑する。
「あらあら、流石の彼もミリキャス様には敵いませんね。うふふ」
「うむ。子供に優しいのは良いことだな」
朱乃とゼノヴィアが想像しながら笑みを浮かべる姿に全員がその意見に同意する。
本人が聞けば怒るだろうけど。
「ふふ……あの子もこれで少しは懲りればいいのだけどね」
「……我が強いからそう簡単にはいかないと思うのですが」
小猫の言うことに皆が納得する中、皆の傍から魔法陣が出現して中からグレイフィアが現れた。
「積もるお話があるでしょうが、屋敷にお戻りください。このような所にいつまでもいたら疲れも取れませんよ」
「そうだったわね。ベッドもお風呂も準備は済ませているので明日に備えてください」
「「「はい!」」」
ヴェネラナとグレイフィアの好意に全員が気持ち良く挨拶を交わし、屋敷へと戻っていく。
こうして、彼らは一晩を明かして明日のゲームに備えるのだった。
◆
襲撃があったその夜、アザゼルは自室でサーゼクスと連絡を取っていた。
要件は例の無差別誘拐事件についてのこと。
そしてカリフが一応の形でその案件を受けたことについての報告だった。
「じゃあその事件はカリフをメインに進めるってことでいいんだな?」
『そういうことになるね。上層部も天界も賛同してくれた』
カリフが老害と称した上級悪魔までもがカリフの行動を容認した……これはこれで一つの障害が消えたと言える。
恐らくはセラフォルー辺りが強く勧めたのだろう。
もっとも、未だに襲われているのはエルフやダークエルフ、もしくは下流層の悪魔とかが被害の対象となっていることも原因の一つだろう。
それに上級悪魔もいたら面子を気にして余計なことをしてたかもしれない。
『基本的には彼とリアス、そしてシトリー眷属が動くかもしれないな』
「そうか……何か変わったなあいつは」
基本的に今のカリフはシトリー、グレモリーなどにはそれなりの信用を見せている。
その姿は当時、旅に出ていた頃のカリフをよく知る者たちからしたら想像もつかないのだろう。
「今のカリフを見たらオーディンのじいさんは目を疑うのが頭に浮かぶぜ」
『今よりも凄かったのかい?』
サーゼクスが興味本位で聞く半面、アザゼルは眉をしかめながら口を開いた。
「昔のあいつなら『お前らのイヌではない』といって突っぱねるのが当然だった。だけど、あいつは割と素直に受け入れた。それに、さっきもミリキャスから黙って説教を喰らっていた」
『はは。彼は子供が苦手だとグレイフィアから聞いたよ』
「確かにあいつは子供には比較的甘い方だ。だが、最近のあいつはなんだか大人しすぎる……」
微笑ましいサーゼクスとは別にアザゼルは今のカリフの事態をどこか複雑な心境で思っている。
小さい頃からのカリフを知るアザゼルとしては今のカリフの姿はあまりに弱々しかった。
「多分、あいつは宙に浮いたまんまだ。有り余る力を吐き出せずに鬱憤だけが溜まっていってるんだろうよ」
『この前はカテレア、さらにはコカビエルとも戦ったのにかい?』
アザゼルはサーゼクスの質問を鼻で笑う。
「あいつにとってはそれ等は戦いですらなかった。いや、もしかしたら暇つぶしにもなって無かったんだろうな」
『……』
「この前にイッセーに負けたことを聞いて少しは変わると思ってたけどなぁ……結局それも空周りってやつだ。あいつはこれで油断することも無くなっただろうけど」
通信機を持ったまま自分のベッドに横たわる。
「生まれた時から既に生物の頂点……十年ちょっとでこの世の命運さえも帰られるような強大な力を手に入れた代わりにあいつは『目標』を失った」
『だが、聞けば彼には勝ちたい相手がいると……』
「俺の推測だけどよ、そいつ等はカリフにとってとても大きい……大きすぎる相手だろうな。目標が大きすぎて逆に虚無感に入っちまった。いつぞやのヴァーリみてえにな。いや、まだヴァーリの方がマシだな。あいつにはちゃんとライバルがいる」
昔を想い浮かべながらまるで思い出のように話していく。
「学校のテストみてえに絶妙な目標が無いあいつはやる気を……牙を失いかけた獣にしか見えねえ。宙ぶらりんだ」
『だがアザゼル……』
「分かってるよ。本当はあいつみたいな敵が現れないことが一番いいことだ。あいつにとっては苦痛かもしれねえが」
戦いがあるから生きた心地がする……以前にカリフから聞いた言葉だった。
だが、今のカリフはその生きがいに滅多に巡ってこない。
三勢力が協定を結んでからというもの、戦意を維持させるような戦いがあまり起こらない。
その現状がカリフにとっては苦痛であるのだろうとアザゼルは考えていた。
「まあ、あいつのことは俺に任せてくれ」
『あぁ、それじゃあまた仕事に戻るとするかな』
「おう、こんな時間までご苦労だったな」
『それじゃあ』
ブツッと切れた通信機を寝台の横にある小さなテーブルの上に置き、暗い部屋の中でこれからのことについて考える。
「お前はどこまで行っても問題児……てか。どうするかなぁ……」
とりあえず、なるようにするしかない。
そう無理矢理自分を納得させた後、目を閉じて眠りに入ったのだった。
~後書き~
次回もまた遅くなりますが、試験が終わればまた再びアップします!
書いてて分かりますが、最近の主人公の心情の変化を書かないと読み手の人も誤解したままになってしまいますので。
それではまた会いましょう!