ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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たいっへん! お待たせいたしました! 最近はリアルの方での試験が忙しくてあまりインできなくなっていたのが原因となっています!

今回の事情は将来に関することなので今回の投稿もできて奇跡というくらいです。なので、皆さまに申し訳ありませんが、もうしばらく作品の投稿は滞りますのでご了承ください!

誠に申し訳ありません!


心に光を……

小猫が猫又としての姿を現す。

 

それはまさに過去との決着を意味する。小猫の真意を知ったリアスたちは小猫に叫ぶ。

 

「小猫! あなた……!」

「大丈夫です! 何とか……何とかしてみます!」

 

口ではそういうものの、やはり怖いのだろうか身体を震わせている。

 

仙術は小猫だけでなく黒歌の人生を狂わせた元凶そのもの。それを使う代償は確かに怖い。

 

だけど、それから逃げても何も始まらない。

 

それが小猫の答えだった。

 

「へぇ……我が妹のことだから使わずに封印していたかと思っていたにゃ」

 

黒歌が面白そうに黒い霧を出しながら呟くと小猫は黒歌を見上げる。

 

「……確かにこんな力はいらない……なんでこんなに怖い物が私の中にあるんだろうって思いました……皮肉ですね。姉さまや私を狂わせたこの力を使わないと私は……グレモリー眷族のお荷物になってしまうんですから……」

「小猫……」

「小猫ちゃん……」

 

自嘲する小猫にリアスとイッセーは複雑な心境の小猫に何も言えないでいる。だが、黒歌だけは小猫の考えていることが分かった。

 

自嘲しているはずなのにどこか悟ったように雰囲気が穏やかだったから……そしてその疑問はすぐに解けた。

 

「姉さま……私は悪魔の戦車……戦車の特性は極限にまで攻撃力と防御力を高めること」

「……」

「なら私はこの力をねじ伏せます! 考えるよりも使ってから後悔します!」

 

黒歌は淡々と返す。

 

「もし暴走したらどうするにゃ? 威勢がいいのは良いけど弱けりゃそれまでにゃ」

「大丈夫です」

 

黒歌の言うことももっともだ。少なくともリアスは黒歌の言葉に衝撃を受けたが、小猫本人は小さく笑う。黒歌やリアスたちはその表情に首を傾げる。

 

「何でそう言い切れる?」

「言われました……私が暴走したら殴ってでも正気に戻してくれる……この世の悪意なんか吹っ飛ばすような規格外な人がいますから」

 

言われた……内容は横暴で現実味のない苦し紛れな慰めにしか聞こえない。

 

だが、黒歌は知っていた。そんな横暴をどんな困難があろうと押し通す人物がいると。それはリアスたちも思い至った。

 

不可能を容易く可能にしてしまう、摩訶不思議でありながら雄大な存在感を兼ね備えた超戦士のことを……

 

黒歌は乾いた笑みを浮かべる。

 

「にゃはは……やっぱりあの子の無茶苦茶は健在かにゃ……通りであの小さかった妹がこんなにも好戦的になるわけだにゃ」

「……好戦的というのは不本意です」

 

気を練り上げていく小猫に対して黒歌は再び邪悪な笑みを浮かべる。

 

「だ・け・ど、ビギナーがしゃしゃった所で仙術を使いこなせる訳がにゃいのよ? いや、それですらも私との力量差は埋まらないにゃ」

「それは……」

「俺を忘れんなよ!」

 

小猫に並ぶようにイッセーがブーステッド・ギアを装着しながら臨戦態勢に入る中、黒歌は目を丸くした。

 

「その神器……あ~、もしかして君がヴァーリを退けた赤龍帝にゃ?」

「そうだ! これでこっちは二人だ!」

 

小猫はイッセーを意外そうに見つめながら声をかける。

 

「イッセー先輩……これは私の……」

「いいや、これはもう小猫ちゃんだけの問題じゃない。君がいなくなったら今のグレモリー眷族はグレモリー眷属じゃなくなっちまう。そんなこと俺は我慢できない!」

「でも、先輩にご迷惑を……」

「いいさ。嫌がる後輩を守るのは先輩の努めだからね!」

「……ありがとうございます」

 

自分は恵まれている。嫌なこと、怖かったこともたくさんあったけど、それがあったからこそ今の仲間に出会えた……

 

姉と自分との違いはそこにあるのだろう。

 

小猫は一人じゃない、だからこそ困った時に助けてくれる人がいる。

 

自分だけじゃどうにもできない時、頼れる人がいてくれる心強さが今の小猫の原動力となっていた。

 

「それに、俺は小猫ちゃんのお姉さんに気になることがあるんだ!」

「何か掴んだの!? イッセー!」

 

リアスと小猫が気になってイッセーの顔を見つめる。そしてイッセーは黒歌を指差して

 

「あの人を是非ドレス・ブレイクで生まれた時の姿を拝みたい!」

 

 

 

 

 

 

 

「何言ってるのかしら?」

「部長! その黒いオーラを閉まってください!」

「……変態の駆逐作業を開始いたします」

「小猫ちゃんも拳を鳴らしながらこっち来ないで!」

 

緊張したムードを壊されたリアスたちは笑顔から一変、己の力を介抱してイッセーへとジリジリ詰め寄る。

 

イッセーはそれでも命乞いの格好しながら弁明する。

 

「お言葉ですが、相手が女の子であれば俺はパワーアップできます! ブーステッド・ギアも俺のイメージで進化してきたのを見てきたなら分かるはずです!」

『その度に俺がどんなに惨めな想いをしてるのか分かってるのか……? あははは……』

「愚痴なら後で聞いてやるから今は黙っててくれ! 本当ごめんね!」

「にゃははは! ヴァーリの言う通り赤龍帝は聞いてたより面白いにゃ!」

 

壊れかけるドライグに謝っているイッセーの姿に腹を抱えて笑う黒歌。そんな黒歌に現実に引き戻されたリアスたちは身構えるも黒歌は妖しく笑って余裕を見せる。

 

「だけど、もう手遅れにゃ」

「なんだと!? 手遅れって……」

「あ……」

「くっ……身体が……」

 

黒歌の真意が分からないイッセーの傍では小猫とリアスがよろめきながら地面に倒れる。

 

「部長! 小猫ちゃん!?」

「あらあら、赤龍帝だから効果が無いのかしら? さっき出してた霧は妖怪と悪魔に聞く毒の霧にゃ」

「なんてことをしやがる! それならお前を倒して小猫ちゃんと部長を!」

「……いえ、私も……いきます……」

 

よろめきながら立ち上がる小猫にイッセーは驚愕し、黒歌は面を喰らったような顔へと変わる。

 

「小猫ちゃん! 大丈夫かい?」

「はい、何とか今は気でエネルギーを保っている状態です。私は行けます。ただ……」

「へぇ……初心者にしてはいいスジだにゃん。だけど、魔力は使えないはずだから戦力とは呼べないにゃ」

 

カラカラ笑う黒歌の言葉に歯を噛みしめるが、すぐに気を取り直してイッセーに耳打ちする。

 

「姉さまの言う通りですが、身体は動きます。ですから先輩は私が姉さまを引きつけている間に力を……」

「だ、だったら俺が……」

「いいえ、これが今の最善策です。部長は逃がそうにも動けない。なら私が……」

「どっちでもいいから速く来ない? 退屈にゃ~」

 

退屈そうに欠伸する黒歌に視線を向ける二人。それに小猫がいち早く動いた。

 

「小猫ちゃん!」

「近接格闘なら鍛えられています!」

 

イッセーの制止の声も聞かずに小猫は木の上の黒歌に向かいながら気を拳に宿す。鍛えられた剛拳と相まってとてつもない凶器と化し、黒歌に振るう。

 

それに対して黒歌は笑いながら軽々と木の枝から跳躍で降りて小猫の一撃を避ける。

 

小猫の拳で枝は折れ、地面に着地して黒歌と向き合う。

 

「驚いた、主さまはあの様なのに赤龍帝と白音は動けるのね? 一応、悪魔と妖怪に効く術にゃんだけど」

「……イッセー先輩は恐らく赤龍帝の力で効かないんでしょう。ですが、私は気で身体を活性化させてるだけです」

「へ~、怖がっていた割には中々味なことができてるにゃん」

「身近に気のスペシャリストがいます。その人がやりそうなことをやっているだけです」

「にゃはは、白音もお年頃ねん♪ 姉としてはとても喜ばしいにゃ」

 

驚いたり笑ったりとコロコロと表情を変えながらも毒の霧を出す黒歌の姿に小猫とイッセーは寒気をを覚える。二人が戦慄する中、黒歌は笑いを止めて怪しい眼光を光らせる。

 

「で・も……赤龍帝はともかく、妖怪と悪魔の両方の力を持った白音にとってこの毒は最も相性が悪いはず……」

「……」

「しかも仙術は長い鍛錬があってこそ真価を発揮する。今の白音じゃもって後数分て所かにゃ」

「く……!」

 

そんなことは百も承知、小猫は少しずつだるくなってくる身体、内側から這いずりまわされるような気持ち悪い感覚を覚え始めていた。

 

(気持ち悪い……これが仙術の副作用……世界の悪意……)

 

身体を弄ばれるような不快感と力を得る高揚……これこそが自分の姉を狂わせた狂気。小猫はそれを必死に抑えながら黒歌と睨み合っていると、後方のイッセーが慌てた口調で叫んだ。

 

「不味い……!」

「どうしました!?」

 

小猫の問いにイッセーの顔は青ざめている。そして最悪の一言が発せられた。

 

「セイクリッド・ギアが動かない! ウンともスンとも言わねえ!」

「なっ!?」

 

その答えに小猫は動揺を隠せなかった。

 

「原因は分からないんですか!?」

「ドライグの話だと今がバランス・ブレイカーの予兆らしいんだ! なにかきっかけさえあれば……!」

 

幸か不幸か、イッセーはバランス・ブレイカー間際にさし当ったとのこと。今回の合宿の最大の課題を迎えることができたのだ。本来は喜ぶべきなのだろうが、今の状況ではそんなに素直に喜べない。

 

それを聞いた黒歌は大声上げて笑った。

 

「厄介な赤龍帝は動けずじまい、チャンスだから撃つにゃ♪」

「!? 危ない!」

 

小猫の横を黒歌の魔力弾がすり抜け、イッセーへと突っ込んでいく。イッセーも小猫も一瞬の動揺のため動けていなかったのか、小猫は魔力弾を見逃し、イッセーは直撃を喰らった。

 

「がはっ!」

「イッセー先輩!」

「く……気にすんな! これくらい屁でもねえ!」

 

直撃して煙を上げているにも関わらずイッセーはガッツポーズで無事を伝える姿に黒歌は眉を顰める。

 

「む、案外頑丈だにゃ。結構、魔力を込めたつもりだけど」

「こちとらそれだけが取り柄なもんでね! 部長だけは死守してやるぜ!」

 

売り買い言葉を互いにぶつけ合う中、間の小猫は今でも増してきている疲労と仙術の弊害に呼吸が若干荒くなりながらも悟られないように構える。

 

「お? 今度はそっちから来るのね?」

「……行きます!」

「!?」

 

小猫の強靭なダッシュで地面が割りながら小猫は真っ直ぐと黒歌に突っ込んで拳を繰り出す。黒歌はそれに虚を突かれたように咄嗟に避ける。空ぶった小猫の拳からは途轍もないほどの風切り音が響いた。

 

「にゃ……」

「まだまだです」

「うにゃ!? ちょっ! まっ!」

 

高速で繰りだされていく拳をギリギリで慌てたように避けていく黒歌との攻防にイッセーは驚愕していた。

 

(すげぇ、合宿前と比べて攻撃が速くなってキレもよくなってる……)

 

見てるだけでも拳の一つ一つから伝わる圧力を感じて傍観する。

 

「……えい」

「どっひゃあ!」

 

静かな一言とは裏腹に地面にクレーターを形成するほどのパンチに黒歌は大袈裟に避けて回避する。その光景を見ていたイッセーは静かに決心した。

 

(……小猫ちゃんを怒らせるのは本当に止めよう……)

 

一通り避けた黒歌は態勢を立て直して小猫の魔力弾を撃つ。

 

「これでおねんねにゃ!」

「!?」

 

黒歌の速い弾には小猫も避ける暇は無く、腕をクロスさせて弾幕を受ける。小猫を中心に爆発が起きた。

 

「小猫ちゃん!」

 

イッセーから悲痛な声を張り上げて後輩の安否を気にしていると、煙越しから人影が見えてきた。

 

「……大丈夫です」

「小猫ちゃん……よかった……」

 

服は焼けてボロボロになっているが、ダメージはないのかいつものようにピンピンしている。後輩の無事を確認したイッセーとは対照的に黒歌は独りでに舌打ちする。

 

「なるほど、ルークの防御力ってわけね……こりゃ骨が折れるのにゃ」

 

苦しそうな黒歌に好機を見出した小猫はここで魔力を高めて黒歌に再び近接戦闘を仕掛ける。それでも数多に繰り出される小猫の拳を避け、受け流したりと黒歌は決定打を許してはくれない。

 

逃げる黒歌を追い掛けながら乱打する繰り返しとなり、その都度に木々や地面を破壊していく。

 

そんな凄まじい戦闘の中でも黒歌は笑みを絶やさない。

 

「にゃはは! 思ってたより強くなってるにゃ! こりゃお姉さんもビックリ!」

「そうですか。それならもっと良い物を見せましょう」

「良い物?」

 

小猫の意味深な一言に首を傾げる暇は無い物の疑問に思っていると、ここで小猫の様子が変わった。というよりも攻撃が少し変わってきた。

 

「おろ!?」

「……!」

 

パンチがメインだった攻撃に蹴りが加わってきた。下段、中断、上段どこからでも向かってくる蹴りに少し意表を突かれたものの慣れてしまえば受け流すことくらいはできる。

 

「甘い甘い♪」

「……」

 

挑発するように笑みを向けられても小猫は動じることは無い。それどころか少し速度が上がってきた。

 

「お、よ、よ、とっと……! 速いのねっ!」

「なら、もっと行きます」

「へ?」

 

その時、小猫のスピードがまた上がった。しかも蹴りまでもが速くなってきて捌くこと自体が困難となりつつあった。

 

「くっ! この!」

「まだです!」

「にゃ!?」

 

また速く……

 

「くぅ!」

 

段々と速くなっていくパンチと蹴りの嵐が黒歌の体力と精神を確実に削っていく。パワーの籠ったパンチと蹴りが嵐のように襲いかかって来るどころか一瞬の隙までも見つからない。

 

パンチと蹴りの引きを狙おうにもその速度さえもが既に常識を逸脱するほどだった。

 

(ちょ! こんなんやばい!)

 

黒歌にはもはや挑発する余裕は無く、高速で襲いかかって来る乱打を防ぐことに精一杯な状況となっている。

 

全ての攻撃が高速で敵を殴りつくす様はまさに拳と蹴りが群れで獲物を狩る獣……

 

これこそがカリフより教わった拳法……狼牙風風拳

 

小猫の小回りの効く小柄な体格と怪力で真価を発揮するとカリフが伝授させた拳法は黒歌を追い詰めていた。

 

だが、小猫が使うにはまだ修業が足りなかったのかもしれない。

 

「……つっ!」

 

拳と蹴りを高速で、しかも連続で繰りだすために筋肉、関節の節々が悲鳴を上げる。得意のポーカーフェイスも崩れかかっていることは自分でもよく感じ取れる。

 

(このままじゃ続かない……! 普段でもまだ一分でも使い続けるだけでしばらく動けなくなるのに……!)

 

危なっかしく避ける黒歌に渋い顔を向けながらも苦悶をできるだけ隠そうとする。故に、勝負を仕掛けるときはすぐにきた。

 

小猫は乱打を止めて黒歌を見据える。

 

(止まった? やっぱり限界が来たのか……)

 

黒歌が分析していると、その考えを改めさせることが起こる。

 

小猫の身体がゆっくりと傾き、前のめりに倒れているようにも見えた。

 

だが、近くの黒歌は違った。小猫の態勢は疲労だとかそんなものを感じさせない……屈んで力を溜めている……ようにしか見えない。

 

「やばっ!」

「すいませんが、打ち込ませていただきます」

「!?」

 

小猫は両の手に魔力と気をブレンドさせたオーラを溜める。

 

「す、すげぇオーラだ……なんだか不思議だけど力強い……」

「小猫……」

 

イッセーとリアスが見つめる先で遂に小猫の準備は整った。だが、いつもの小猫の姿勢とは少し違う。

 

互いの手首を合わせ、掌を黒歌に向けて構えるは、いつも身近で見てきた構えだった。

 

「かぁ……」

 

武術は模倣から始まる

 

「めぇ……」

 

一番最初に教えられた教えを忠実に守り、小猫は何も無い空間からエネルギーを作り出す。

 

「はぁ……」

 

作り上げたエネルギーを止まらせて力が溜まるまで維持するイメージ

 

「めぇ………」

 

そして、技を使う人と自分の姿をシンクロさせるイメージで……

 

 

滅多にみることのない全てを薙ぎ払う必殺の砲撃

 

その名も……

 

「波ぁ!」

 

亀仙流奥義……『かめはめ波』

 

「うあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

小猫の両手から放出された巨大なオーラをあっという間に黒歌を飲みこんだ。

 

それどころか木々を焼き払い、地面を抉りながら猛威を振るう。

 

その姿やまさにエネルギーの暴風雨

 

カリフに比べたら威力もサイズも口ほどにはないかもしれないが、それでも絶大な威力には違いない。

 

やがてエネルギーはエネルギーを失って自然消滅した。

 

「はぁ……はぁ……」

「小猫ちゃん!」

 

体力を消耗しきった小猫は息切れを起こしてその場に倒れた。

 

イッセーが小猫の身体を起こして介抱してやる。

 

「小猫ちゃん……!」

「やった……やりました。先輩……」

「あぁ……凄かったよ! 本当に……!」

 

笑いかけてくるイッセーに釣られて笑みを浮かべる。

 

だが、その後にイッセーの表情が沈むのを見て小猫は訝しげに思う。

 

「ごめん……俺、何もできなかった」

「イッセー先輩……?」

 

悲しそうに俯くイッセーを見上げる小猫は黙って聞いている。

 

「今でもバランス・ブレイカーになれるかどうかの瀬戸際だっていうのになんの変化も無いんだ……タンニーンのおっさんの修業でも、カリフとの戦いでも俺は……強くなれなかった……」

「……」

「歴戦の赤龍帝は皆早くにバランス・ブレイカーに至ったんだ……俺だけなんだよ……こんなにももたついてる奴は……ダメなんだよ、俺は……」

 

後輩を守れなかったイッセーは小猫に謝罪するかのように泣き崩れる。

 

いつものエロくて賑やかな一面とは程遠い弱々しい姿……

 

だけど、それは違う。

 

「それは違いますよ……」

「え?」

 

疲労でいつもよりも小さい声だったが、それはたしかにイッセーの耳に届いた。

 

「だって……」

 

小猫が慈愛に満ちた表情を浮かべてイッセーの涙を拭こうと手を差し伸べた。

 

 

ドクン

 

「!!」

 

まさにその時だった。

 

小猫は自分の鼓動を感じ、それと連なるように強い不快感を感じた。

 

「小猫ちゃん?」

 

胸を抑えた小猫を心配するイッセーの返事に答える余裕までもが一瞬で消え去った。

 

 

それは突然のことだった。

 

小猫ちゃんが仙術でお姉さんを倒し、介抱している最中に小猫ちゃんの容体が急変した。

 

「はぁ……あ……あぁ……」

 

胸を抑えて息も荒くなっている!

 

「小猫ちゃん!? どうしたんだよ!?」

「小猫!?」

 

まともな呼吸もできずに俺の胸の中で苦しむ小猫ちゃんに呼びかけてもただ苦しむだけ。一体どうしちまったんだよ!

 

そう思っていると、未だに毒に苦しむ部長が何か分かったかのように目を見開いた。

 

「まさか……仙術の副作用が」

「大あたりだにゃー♪」

「「!?」」

 

部長の声の途中で別の声が紛れこんだ。そんな、だってあいつはさっきので……!

 

俺が周囲を見回している時、俺の背中に強い衝撃が襲った。

 

「がはっ!」

「イッセー!」

 

い、いてぇ……なんだよこれ……

 

小猫ちゃんを離してしまい、何かがぶつかった衝撃に前方の木に当たるまで吹っ飛ばされた。

 

激痛を感じながら地面に倒れると、視界には苦しむ小猫ちゃん……そして……

 

「あ~あ、訓練も何もしないままであんな攻撃するからこうなるんだにゃ」

 

小猫を眼前に見下ろすお姉さんがいた。目が据わってさっきまでの笑みも浮かべていない。

 

しかも上半身の着物はボロボロなのにダメージが無い。そんな、今の攻撃で無傷ってどういうことなんだよ!?

 

俺の視線に気が付いたお姉さんは少し笑みを浮かべながら口を開く。

 

まるで手品の種明かしをするように……

 

「ふふん、簡単なことだにゃ。魔力と仙術のミックスオーラを扱えるのは白音だけじゃないってこと」

「そ、それが一体……」

「仙術に関しては私が圧倒的に経験積んでるからさっきの破壊力だけの攻撃なんて防ぐことなら朝飯前にや。こんな風に全身にオーラ纏わせて防御することなんか訳ないにゃ」

 

全身から感じるオーラ……それで小猫ちゃんの攻撃を……!

 

ここで部長が口を開く。

 

「黒歌……まさか小猫は……」

「御明察。白音は加減もせずに周囲の気を取りこんだ……俗に言う悪の気ってやつもね」

 

や、やっぱりか……なんて無茶なことを、小猫ちゃんっ……!

 

俺は小猫ちゃんに対しても、また、そこまで追い詰めた自分の非力さを恨む。

 

今、小猫ちゃんは悪の気に身体を浸食されている。このままじゃあ自分さえも見失ってしまうほどに……!

 

(ドライグ! バランス・ブレイカーは……!)

(まだだ! 何かきっかけさえあればすぐにでも!)

 

きっかけって何だよ!? 仲間が苦しんでんだ! これ以上のきっかけなんて必要なのかよ!?

 

「あ~でも安心するにゃ♪ 私たちの元にさえ来れば白音も力を覚えて苦しむ必要もなくなる。あんたらも見逃してあげる。それで皆ハッピーだにゃ」

 

な、なんだと!?

 

俺は黒歌のふざけた提案に怒ろうとしたとき、真っ先に部長が俺の行動を追い抜かした。

 

「ふざけないで! そんなことさせるものですか!」

「にゃはは! そんな格好で吠えても滑稽なだけだにゃん」

 

部長の激昂にも意を介さず黒歌は苦しむ小猫ちゃんに屈んだ。

 

「白音いこ? ここにいてもなあんにも良いことなんかないにゃ。私たちとくれば私があなたを強くしてあげる」

「あぐ……! おえ! あが……!」

 

止めろ! 小猫ちゃんはそんなこと望んではないんだ!

 

その子は無口で毒舌で怪力で小柄だけど、仲間や皆に優しい……今を幸せに生きている女の子なんだ!

 

なんだよクソッ! 何で俺だけが皆よりも遅れてるんだよ!? アーシアの時も、フェニックスの時も……俺は一人じゃ何もできねえじゃねえか!

 

誰かの助けが無けりゃ仲間も守れねえ……! その子を好きな人と……あいつと一緒に居させてやる力もねえのか!?

 

悔しさで溢れる涙で歪む視界では小猫ちゃんに手が迫っていく。

 

もう駄目だ……

 

 

 

俺も

 

 

 

部長も

 

 

そう思った。

 

 

 

 

 

 

「イラつく野郎だ……いつまでもダラダラウジウジとよぉ……!」

 

そんな時だった。

 

俺の耳にこの場にはいないはずの声が……

 

あの聞き慣れた力強い声が聞こえてきた。

 

 

 

気持ち悪い……

 

何かが身体の中に入って来る感じ……何かが身体の周りに纏わりついて蠢いている感じ……

 

生物だとしてもここまで気分を害させる物はそういない……それほどまでに気持ちが悪い……

 

それと同時にこのまま眠ってしまいたい欲求にも駆られてしまう。

 

それが駄目なことは頭じゃ分かってるのに……!

 

(あぁ……ひゃ……!)

 

不快な感覚と共に生じる新鮮な感触に身を委ねたい……そうとさえ感じてしまう。

 

(や……だ……こんなの……)

 

もし、この快楽に負けてしまったら私はもう“戻れない”だろう。

 

もう皆で笑い合うような日常にはもう戻って来れなくなるかもしれない……

 

(怖い……怖いよぉ……)

 

様々な負の感情が頭の中を駆け巡り、思考を犯してくる。

 

それなのに抗えど抗えどもこの悪の気は私の身体を弄ぶ。

 

弄ばれる私の身体と頭ももう限界に近付いて来る。

 

(…………フ)

 

だからだろうか……もう頭の中にはあの人の姿しか写らないよ……

 

(……リ……)

 

私の全てが始まったあの日

 

(カ…………)

 

私の全てが始まったあの場所

 

 

(カリフ……くん……)

 

こんな私に真剣に向かい合ってくれた人の姿が頭の中に浮かんで……

 

 

 

 

 

 

「おい、寝てる暇なんかねえぜ? しっかり気を保てよ!」

 

いつものように力強い声と共に暖かい手が闇に沈みゆく私の手を掴んだ……

 

「これが世界の悪ってか? ちっちぇえなぁ」

 

夢か現かも判断できないほどに意識が朦朧としている私の耳には何も声が聞こえてこない。

 

「今までサイヤ人ってだけで向けられた“宇宙の悪”ってんならこんなもん、屁でもねえ。まるで子守唄の心地だ」

 

……いつものような不敵な笑顔……だけどそれでいて安心させてくれる不思議な人……

 

「にしても、しょっぱなから“かめはめ波”とは流石のオレも恐れ入った……お前のセンスも中々なものだったんだな」

 

彼は片手に光を放ち、暗闇の世界そのものを光で飲みこんだ。

 

「だから、さっさと戻って何もかも片付けるぜ。今日だけはオレからの出血大サービスだ!」

 

それは悪魔に害する“光”とは違う

 

 

私の全てを、私の身体に巣食った“悪”を滅ぼし、私を包むような暖かさを持った“光”

 

 

心のもやは晴れ、再び湧きあがる情熱が甦る。

 

これならもう一度戻れる!

 

どこへかって?

 

 

決まっている

 

 

私の戦う場所へ……私が行きたい所に

 

 

仲間の、あの人の……元へ!


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