ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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そろそろと思って新たなオリ展開のフラグも何気に立ててみました。

そろそろ作者自体が混乱している様子になっていますが、それでも見てくれたら嬉しいです!

そして感想返さなくてすみません! この前の誤投稿で皆さんからの数多くの報告に恥ずかしくも嬉しくなってしまいました! 皆さんからの声でモチベが上がった所でまたリアルに戻ります! 亀更新ですがこれからもこの作品をよろしくお願いします!

カリフのスタイル=グロ→デレ→大暴れ→デレのように、目標はベジータ系男子に育てることです!


白猫の悩み

「全く、貴方ときたら……」

「いやー反省反省(棒)」

 

グレモリーの誇る最高の技術と最高の設備が揃った医務室の中で目が覚めたカリフはヴェネラナのお叱りを受けていた。

 

だが、カリフは反省することもせずに棒読みで耳をほじりながら聞き流す。あからさまな態度にヴェネラナも溜息を吐く。

 

「お見舞いに行ってなんで怪我人になるのですか……リアスからは相当な問題児だって聞いてたけど予想以上でしたよ……」

「オレを常識で測ろうとするからこうなる」

「何で嬉しそうなんですか? 褒めてませんよ」

 

口調が少し怪しくなってきた辺りでカリフは冗談を止める。

 

「奴らは?」

「居間で修業の成果の発表の後にそれぞれのお部屋に……」

「そうか。暇だから……散歩するか」

「瀕死の状態でお昼を食べただけで回復する人は初めてですよ……しかも数時間で意識を取り戻すくらいの回復なんてのもおかしい“はず”ですが……」

「何を言う。寝すぎたくらいだ」

「その回復速度で言いますか? ポテンシャルは人間のそれを大きく超えていますよ……」

 

ヴェネラナはカリフのことをある程度理解し始めていた。簡単に言えば“お前本当に人間?”としか思えない。

 

目の前のデタラメな存在に苦笑を浮かべる中、本人は平常運転でマイペースだった。

 

「流石は悪魔の技術、手の孔も塞がってやがる」

「一応はレーティングゲームのこともあるので医療技術は元・人間でも妖怪でも治療可能です」

「じゃあ行っても問題は無かろう?」

 

口で要求しながらも身体は既にベッドから降りる。脳と身体がそれぞれ別の生き物のように同一したいないカリフの行動に今日で何度目かも分からない溜息を吐くしかない。

 

「少しなら構いませんが、あなたも小猫さんも一応は患者なんですよ? “一応”は」

「分かったよ全く、五月蠅いな……」

 

ヴェネラナはとりあえずは少しの外出を許可する。カリフも手を上げて応えながら部屋を出る。

 

 

 

 

夜の屋敷を歩いてみてもさっきから誰とも合わない。

 

さっきまで寝ていたせいで時間間隔も曖昧になっている。本当はもう皆寝てる時間かもしれないのに……

 

後が五月蠅くなるかもしれないが、少し修業して疲れてから寝ようと屋敷の外へ出ようとしたときだった。

 

「カリフくん?」

「? あ」

 

振り向いてみるとそこには小猫が立っていた。流石のカリフも寝起きとかで気を張っていなかったために気付かなかった。

 

今の小猫は普段の制服姿ではなくて猫耳フードの付いた可愛らしいパジャマ、普通の人からしたらとても愛くるしい姿なのは間違いない。

 

だが、カリフは特別な劣情さえも抱くこと無く軽く手を上げる。

 

「よぉ、お前寝ねえの?」

「……私もちょっと眠れなくて歩いてたらカリフくん見かけて……ダメ?」

 

上目遣いで見上げてくる可愛らしい小猫にカリフは少し考えて再び向き合う。

 

「丁度いい。少し話そうぜ」

「え?」

「言ったろ? オレはもうお前……いや、お前らからは逃げないってな……」

 

少しバツが悪そうに話してくるカリフに少し胸が締め付けられるような感覚を覚えながらも、小猫は嬉しく思った。

 

「うん……私も話したかったから……」

「よし、じゃあ外に行くぞ。風に当たりたい気分だ」

 

その提案に頷き、カリフの後を追ってミリキャスと一緒に勉強していた庭のオープンテラスに二人は座る。

 

この時、二人のテーブルだけが月光に照らされてロマンチックな雰囲気ができ上がる。デートなら満点のシチュだが、今の二人にはそんなことは考えていない。

 

「……」

 

カリフは夜風に当たってのんびりとしているが、小猫はいつもと違ってモジモジしていた。

 

「あの……私……」

「……」

「この合宿中はどうかしてた……カリフくんのメジューを無視して……勝手に倒れて……」

「全くだ。お前も何も感じなかった訳じゃあるまい? 倒れるまでやるなど普通はしない」

「……」

 

返す言葉もなかったのか小猫は黙るも、対するカリフが口を開く。

 

「だけど……まぁ……なんだ……」

「?」

「オレのやり方を一方的に押し付けすぎた自覚はある……今回はバカ二人が勝手にバカやって起こった……要は運が無かったというか……」

「……」

「だから互いに今回は反省するってことで終わらそう。それが一番だ」

「うん……」

 

二人は見つめ合いながら今回のことを胸に刻み込む。二度と同じ過ちを起こさないように……

 

そして、反省の次にすることくらいは分かっていた。

 

「そう言えばお前、仙術……猫又になりたくない理由だが……なんでだ?」

「……」

「多分だけど、仙術は普通の気の他にもこの世の悪意も吸ってしまう……こんなとこだろ?」

「うん……」

「やっぱり……」

 

シュンとして肯定する小猫に少し考え、口を開く。

 

「とは言っても紛れも無く猫又の血はお前の中に宿っている。仙術もお前の個性だと思うんだが」

「でも……お姉さまはそのせいでおかしくなって……それが怖いの……」

 

小猫の目から涙が流れる。

 

「本当は私も分かってるよ……このままじゃあ足手纏いだって……変わらなきゃいけないって……」

「……そこは気の持ちようとしか言えねぇな」

「でも……でもだよ? 私が力に溺れて……部長や仲間を……壊したらって……そう思ったら怖くて……恐ろしくて……」

 

ポタポタと涙を零しながら独白していく小猫

 

昔のトラウマ……小猫は自分が変わってしまうことを恐れて仙術を使うことを恐れた。

 

「昔は黒歌姉さまも優しくて……皆が何の不安も無かったのに……仙術が全てを狂わせた……」

「そうか……」

「あの時は本当に怖かった……皆が私に『死ね』だとか言って……殺されるかと思って……」

「そうか……」

「ヒク……もし、私が暴走したら……グス……皆が私を……きっと嫌いになる……そう思うと身体が震えて……何もできなくなって……」

 

そして自分で“今”を壊してしまうことを一番恐れた。

 

予想以上に小猫の闇は大きく、強引な精神論は無理だとカリフはここで思い知った。

 

嗚咽を漏らす小猫にカリフは考えていた。

 

(こう言う時……どうすんだっけ?)

 

カリフは誰かに泣かれるのが一番苦手だった。故に今は小猫を泣き止ますことを必死に考えていた。

 

(ブルマが昔やったやり方……効くか?)

 

微かに覚えている知識を引っ張り出し、不安に思いながらもカリフは状況打破のために小猫に近付き、抱きしめてやる。

 

「……え?」

 

予想外な行動に小猫は涙を止める。

 

そして、滅多に口にしないような優しい口調で語りかける。

 

「怖いことは誰にでもある……お前のこれからの長い人生、こんなことの繰り返しかもしれない。オレは人生そのものを『試練』の繰り返しだと思っている」

「試練……」

「そうだ。そして時にはリアスたちに助けてもらうこともあれば自分で解決しなきゃならないこともある……そんな時、頼れるのは自分だけだ」

「……」

「こんなことを招いたオレを信じなくてもいい。だけど自分だけは信じてやれ」

 

彼の言いたいことを受け止めながら小猫はカリフの無骨な腕に手を添える。

 

「これは朱乃にも言おうと思ってるけどよ……自分を信じられなければ後が辛いだけだ……それだけは覚えて欲しい」

 

これは彼だからこそ分かること。彼の魂は半分、ブロリーの魂が定着している。そのため、時折記憶が飛んだり意図しない破壊衝動までもが発作的に襲いかかってくることもあった。今は昔ほど頻度は低くなり、理性で抑えることができたが時々夢にまで出てくる時もある。

 

まさに地獄としか言えない。何せ、今まで誰よりも多く敵を作るような壮絶な人生を送って来た彼はよく襲われることもある。

 

前世でもサイヤ人に蹂躙された種族からも怨恨をぶつけられたこともあった。

 

敵しかいない世界の中で、さらには『自分自身』までもが牙を向いて来る。

 

朝起きたら自分ではなくなっているかもしれない……それどころか次の日の朝日を拝めるかどうかも怪しい……そんな不安との戦いでもあった。

 

だからこそ、カリフはたとえ他人でもそんな人生を目の当たりにすることが我慢ならなかった。感受性の高い彼だからこそ“苦しみ”まで共感してしまうのだから。

 

「……きっと私が暴走したらきっと化物になって君まで……」

「バケモノぉ? お前が? お前はただ、今の日常を愛し、主人に尽くす飼い猫だ。飼い猫なら暴れるくらい当然だろ。お前じゃあ本物の化物には一生なれねえよ」

「だけど……!」

「もし暴走でもしたらオレが叩きのめして目ぇ覚まさせてやる」

「!?」

 

なんでもない。小猫の抱える闇をカリフは何でも無いかのように返す。

 

予想もしていない返しに小猫は目を見開いた。

 

「お前が暗黒面に落ちようもんならオレだけじゃなくてあいつらとて黙ってねえだろうがな。なーんも心配することなんてねえな」

「……」

「ま、お前のトラウマの元はカス共から脅されたことにあるんだな……まあ、これ以上は起きねえから気にすんな」

「どういうこと?」

「どう、って……決まってんだろ?」

 

カリフはそのまま、何も考えず、“当然のように”言い放った。

 

「次にお前を謂われの無いことで責めてくるような奴がいたらオレがブッ倒す……そういうことだ」

「……え?」

 

その瞬間、小猫は何を言われたのか分からなかった。と言うより予想より斜め上の回答にその情報を処理することができなかった……普通に聞き違いだとは思った。

 

だって、急に、唐突に口説かれるとは夢にも思っていなかったから防御もクソもない。完全に不意打ちで口説かれてしまった。

 

「……あ、ちょっと待て。やっぱ正確に言い直すとだな……」

 

カリフも自分で言ったことを理解したのか、今更になって恥ずかしくなって顔を紅くさせて弁明を測る。

 

しかし、時間が過ぎていくことによってその言葉が現実のものと認識できた小猫の頭の中は一気にオーバーヒートを迎えた。

 

「にゃ……にゃ……にゃあムグ!」

「お前……! こんな時に大声出すんじゃねえぞ!? 分かったか?」

「……(コクコク)」

「……よし……」

 

慌てて胸に顔を押し当てることで塞いでいた小猫の口を解放させるも、何とも微妙な空気が流れる。こんな所をアザゼルにでも見られようものならまくし立てられることは必須……殴って記憶喪失にでもしようかと思うも、小猫の恥ずかしさと気分の昂りが原因で現した猫又の姿を捉えて落ちつこうと咳払いする。

 

「オホン!……オ、オレが言いたいのはだな……何の根拠も無く因縁付けてくるような奴は個人的に腹立つからブチ殺したい、決してお前への礼だとか母親がお前たちを守ってやれと言われたとかそんな浮ついたからではない!」

「え、えっと……」

「分かったか!?」

「う、うん!」

「よーし、じゃあ次の話だ! オレばっか喋るのも何かアレだから次はお前からな!」

 

無理矢理この手の話題を終わらせたカリフに少し戸惑いながらも小猫はさっき、ふと思ったことを聞いてみる。

 

「……じゃあ一つ」

「なんだ?」

「……カリフくんにも怖いものって……ある?」

 

単純でありながら最大の疑問を遂に小猫が聞いた。カリフの性格からして聞いて欲しくないのだと思って誰も触れなかった、と言うよりも誰も思わなかった疑問を小猫は聞いた。

 

普段の彼なら嫌な顔をするだろうとは予想していたのだが、彼は意外にもあっさりと答えた。

 

「ある……それはもう色々とな……」

「……聞いてもいい?」

「……」

 

プライドの高いカリフは少し口を閉ざすが、言った手前、もう道は一つだけだった。

 

「……」

「言いたくないなら……」

「怖いってより……不安なことがある……お前らのことだ」

 

やっと話してくれた内容は小猫には分かりかねた。そこでカリフは続けて話していく。

 

「最近じゃあ忘れがちかもしれねえけどオレは人間でお前らは悪魔だ。当然、オレの方がお前らよりもずっと早く死ぬ」

「そんな……!!」

 

この瞬間、小猫はカリフの腕を強く握り、半ば抱きしめる。

 

確かに失念だったかもしれない。カリフは自分たちが束になっても到底敵わない、それどころか神と魔王を相手取っても圧倒的だと言えるらしい、だからこそ忘れていた。

 

だが、そんな彼も所詮は“人間”なのだ。数百も数千年でも生きる悪魔に対し、彼の寿命は最大でもたったの百くらいしかない。

 

つまり、彼はどう足掻いても自分たちとは一緒にいられない……別れの時間などすぐにやって来るのだ。

 

「オレは……確かに約束した。お前らや……あの家に住む奴らを“家主”として守る約束が……そんなお前らを残して逝くことが怖い。今のお前らはまだまだ未熟な所があるから尚更だ」

 

彼は悲観した様子では無く、少し困った程度にしか表現していない。小猫だから良かったものの、これが朱乃だったら彼女はどんな反応をするか……それを思うと小猫は切なくなった。

 

「……悪魔に転生しようと思わないの?」

「悪魔……か」

 

小猫の提案にカリフも考え込む。

 

小猫だって彼には死んでほしくない。むしろ心情的には朱乃と共感だってできる。

 

それに小猫でなくてもオカ研メンバーなら誰だって提案するだろう。

 

小猫は縋る想いで提案し、考え込むカリフに少し希望さえ湧いた。

 

だが、次の言葉でその希望も砕かれる。

 

「確かに永遠の命……力さえあれば上にランクアップする……それを差し引いてもここでの生活は悪くないとは思った……それでもオレは転生はしない」

「なんで……なんでそんなこと……!」

 

小猫はカリフの腕を払いのけ、振り向き、普段は出さないような大声で問い詰める。

 

そんな小猫にカリフは目を丸くする。

 

「おぉ、お前のシャウトは久しぶりな気がするぜ。何だか新鮮だな」

「茶化さないでよ! またそうやって逃げるの!? そうやって自分の意見だけ言って私たちの言葉には耳も貸さないで……勝手なことばっかり……」

 

許せなかった。カリフは分かっていない。自分では自覚してないけどどれほどの人たちを導いているのか……

 

どれほどの人が期待を……希望を抱いているのか……

 

どれほどの人が慕っているのか……彼は分かっていない。自覚していない。

 

そんな人たちの期待を裏切ることに……何より自分の命を捨てているような気がした。

 

「確かに……オレの人生は自分勝手の連続だった……多分、これからもそうするだろう……分かってくれとは言わないし、そもそも言えねえ……お前の気持ちを強要はできねえからな」

「だったら……!」

「だけど……オレは自分の生き方に嘘は吐きたくない。オレは人間として生まれてきたんだからな」

「……」

 

自分の気持ちを話すカリフの眼光から強い意思を感じ、何も言えなくなる。

 

「今まで周りの意見を寄せ付けないで自分のために生きてきた……今の親もお前らも……何も言わないでくれた……それがお前らに迷惑をかけたことも自覚してるつもりだ……オレは人の力を……落ちこぼれの力を証明したいんだ」

 

 

 

「たとえ生まれた時がどんなに弱くても努力すれば天才だって越えられる」

 

 

 

「どんなに身体に恵まれなくても生きてさえいれば幾らでも強くなれる」

 

 

 

「原石のように最初は綺麗じゃなくても磨き続ければ輝きだす……オレはそれを証明してやりたいから……オレはそれを見せてやりたい」

 

 

何も言えなかった。カリフの目的はあまりにスケールが大きすぎて口を挟むどころか割りこめる余地さえないほど次元が違う。

 

確かに悪魔や堕天使、そして天使は基本的に人間とは違って長生きもするし魔力もある。そして何より力が強い。

 

それに比べて人間は寿命からしても力にしても全てが人外の存在に劣る……カリフ風に言えば“劣悪種”だ。

 

だが、カリフはそんな中で宣言した。『弱い者が強い者を制す』と……

 

それがどれほどに困難で過酷なのだろう……たしかに人間の中には陰陽師だとか神器保持者もいる。しかし、それらの力があったとしても更に強い悪魔や堕天使がいる。

 

それを目の前の幼馴染は覆そうとしている。そのために人間でいなければならないのだと言う。

 

「……そんなこと、できるか分からないよ?」

「かもな、これはオレの夢へのちょっとした余興みてえなもんさ。成功するかは分からねえ」

「ちなみにその余興をどうやって達成させるの?」

「戦って勝つ! できれば世界の神々を全員殴り倒す!」

「……野蛮」

 

夢は壮大、されど行動はあまりに野蛮……小猫は決してブレないカリフの行動に溜息を洩らす。ここが冥界だからいいものの、少しでも場所を間違えれば即座に斬りかかられること間違いない。

 

「まあ、余興はどう転んでも結局は余興……大事なのは結果より“過程”だ。人間、いや、誰でも死ぬ気になれば何でもできるってことを分かってもらえればそれでいい」

「……多少強引なところもあるけど、確かにそうかもしれない」

「しっかり強くなれ。でないとオレが退屈で仕方ない。新しい玩具が欲しいんだよ」

「それが本音?」

 

カリフはカリフで戦いを求める様子に小猫は少しでも見直したことを後悔する。結局の所、あまり変わってはいない。

 

いや、以前よりは口調は柔らかいかもしれないがそれでも充分に自分勝手だった。

 

でも、そこまで変わることが無いカリフに逆に安心できた。

 

「……今でも自分の血のことが怖い」

「まあ……それは自分で解決しろ」

「うん……だけど、逃げてばかりじゃダメだとも今分かった」

「……」

「だから、もっと仙術のこと……気のこと教えて」

 

人生は試練の連続……今回の合宿でそのことを思い知らされた小猫は逃げるのを止める。問題を引きのばしてもいつかその代償が戻って来る。

 

それならカリフみたいに逃げずに現実を受け止めて立ち向かおう。

 

そんな姿勢を見せた小猫にカリフは鼻を鳴らした。

 

「大見え切った手前だ。多少はマシになるまでなら見てやる」

「うん……ありがとう」

 

小猫は未だにカリフのことを完全には理解していない。この先、どんなことをするのか不安な所がある。

 

だけど、決して根っからの悪人と言う訳ではない。

 

自分に厳しく、プライドが高いけれど人の弱さを全て受け止めてくれる。

 

こうして二人でいると何だか昔に戻ったような懐かしさと安心が少しだけ甦る。

 

もう姉はいない……だけどあの時、助けてくれた少年はここにいる。

 

「……」

「なんだ? 顔が紅いぞ?」

「えっと、その……」

「……あ、そうか。ほれ」

「にゃ!?」

 

何を思ったのかカリフは小猫の手を突然握ってきた。そのおかげで小猫も身体を震わせて驚いた。

 

「な、なに……?」

「お前、昔から怖いこととか感情が昂ぶるとこうやって手握ってきたろ? 心配せずともそれくらいの癖くらいは許容してるつもりだ」

「それは昔の話……」

「じゃあ止めるか?」

 

その手は自分よりも少し大きいくらいで普通の男性よりも若干小さいと言える。だけど、そんな手が今はどんな手よりも大きく見えた。彼は今までこんなにも小さい手に勇気を込めて困難に立ち向かってきたのだろう……本当に暖かくて大きな手だった。

 

「ううん……少し勇気が欲しいから……私、弱いから」

「……それはお前次第だ」

 

小猫は今まで胸に漂っていた胸のモヤモヤが取れた気がした。

 

どんな悩みでさえもそれらを全て包み込むような抱擁感……安心を与えてくれた。

 

昔に堕天使に襲われて怖かった時も、親が死に、友達が欲しくて泣いていた苦しい日々を壊してくれた

 

そして“家族”と“帰る場所”という安心をくれた

 

 

塔上小猫はカリフに対する気持ちを今日、初めて認識することとなった。

 

 

 

 

「よぉセラフォルー。こんな夜分にどうした?」

『アザゼルちゃんこんばんわー☆ カリフくんいる?』

「いるけど、今は止めとけ。あいつはそれどころじゃない」

 

暗い夜の中、小猫と密着するカリフを部屋から見て薄く笑う。

 

『そっかー、じゃあまたレーティングゲームの時に会おうって言っといて☆』

「わーったよ……それだけなら切るぞ」

 

本当に些細なことだと思って通信機を切ろうとするとセラフォルーから制止される。

 

『あーちょっと待って! ついでなんだけどもう一つ大事な案件があるの』

「案件?」

『うん。最近、種族を問わず無差別的な誘拐事件が起こってるのは知ってるよね?』

「あぁ、特にダークエルフ、エルフ、セイレーン、ハーピィに妖怪……果てには悪魔や堕天使、天使はおろか人間さえも被害が及んでいる事件だったな。主に被害者は女子供が七割だとか……」

『そのことでオーディンさまから要請があったの。この事件の解決に力を貸してほしいって』

「!? まさかヴァルキリーもか!?」

『事件の調査に向かった魔法使い、ヴァルキリーや女騎士たちも……』

「おいおい……本当に見境なしかよ。しかも女子供なんていい予感がしねえぞ」

 

最近、カオス・ブリゲートの登場に合わせたかのように発生している大量失踪事件。被害にあっている種族は人間社会に見つからないように部族単位で構成されているような種族がメインだ。当初はカオス・ブリゲートの仕業かと思われたが、構成員を幾人か尋問しても『知らない』の一点張りしかない。そのため、世界で問題視されている事案の一つとしてアザゼルたちの頭を悩ませていた。

 

『それでね……カリフくんに協力を……と思ったんだけど……』

「あいつか……間違いなく受けるだろうが、そうなるとしたら誰も手が付けられなくなるぞ? あいつ、そういう類のことは毛嫌いしてるからなぁ……」

『そう言う所も格好いいんだけどね☆』

「まあ伝えておく。それで、何か特徴はないのか?」

『残党を調べたんだけど未だに知らないの一点張り……裏も取ったから間違いないよ』

「新たな勢力かもしれねえってか……また厄介なことになってきやがった……」

『あ、そう言えば特徴になるかもしれない証言もあるの。何とか逃げ延びた目撃者からの情報なんだけど……』

「どうなんだ?」

『何か……全員が青いタイツに白い胸当てを付けた戦闘服を付けて片目だけの眼鏡で『スカウター』というのを付けてた人もいたり……』

「まだあるのか?」

 

 

 

 

 

 

『『しんせいじゅ』の苗床……とかって連呼してたんだって』

「しんせいじゅ? 苗床……名前からして樹か何かか?」

『分からない……またサーゼクスちゃんと話してみるね』

「おう、相手の戦力はまだ未知数だ。くれぐれも気を付けるようにな」

『うん、カリフくんやリアスちゃんたちにもよろしく言っておいて☆ お休みー☆』

「お休み」

 

アザゼルはグレモリー低の宛がわれた部屋の中で通信機を切り、夜の寝室の中で一人物思いに耽る。

 

「何が起こってやがんだ……」

 

この世界はどうなってしまうのか……謎の敵の出現によりこの世界が荒れることをアザゼルは暗い部屋の中で月を見上げながら思い耽る。

 

 

そして、これから起こる壮絶な戦いのことをこの時、アザゼルでも想像できていなかった……

 

 

 

決して交わることのなかった二つの世界の歯車がゆっくりと崩壊していく……『運命』と『因縁』の牙が彼らに向けられていることさえ知らずに、世界の夜は明けていく




ここで主人公無双が長引く気がしたのでここで新勢力をほのめかせてみました。

しんせいじゅ……知っている人なら知っている。

それでは次回もお楽しみに!

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