ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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すいません、どうやら今回は相当に疲れているみたいです……

なお、先程も言いましたがあと数話くらいでドラゴンボールキャラのフラグを立たせます。

色々と忙しいので感想の返しも滞るかもしれませんが、要望、意見、誤字指摘はチェックするのでお願いします。それと、誤字があればどの話かを教えてください。


戒め

小猫が過労で倒れてから一晩があっという間に過ぎた。

 

そんな大事件が起こった朝でもカリフは普通にグレイフィアたちとレッスンに勤しんでいた。

 

「……」

 

はずだったが、カリフは一言もしゃべらずに黙々と食器を掴んではへし折り、再び新たな食器をへし折る行為を繰り返していた。

 

グレイフィアもヴェネラナもあまりの酷さに止めさせようと思い、止める。

 

「はい、手を止めてください」

「あー聞いてる聞いてるー」

「どうやら完全に上の空の様子ですね」

 

カリフはよく口にする『あー聞いてる聞いてる』は完全に意識がここにあらずという証だということは既に皆の常識となりつつある。

 

いつものように集中しすぎて逆に声をかけづらくなってしまうカリフの影はどこにも無く、明らかに気が抜けているどころかなんだかやる気さえもが消えて行っている印象さえ感じる。そこでヴェネラナが気になっていることを聞いてみた。

 

「やっぱり彼女が心配?」

 

その言葉に上の空だったカリフも反応し、普通に会話を交わす。

 

「……容体は?」

「大分回復して今はぐっすり眠ってます。“どこかの誰かさん”が夜通しで気を分けてくれたので体力的には完治、いや、もしくは以前よりも体力面は向上されたくらいです」

「なんのことかな?」

 

その惚け方からして自白しているようなものだ、と苦笑しながらも「はいはい。不思議ですね」と顔を立ててやる。

 

だが、それでもカリフの表情は晴れなかった。

 

「あいつは若いから身体の面では全く問題は無い……問題は……」

「精神……ですか」

 

グレイフィアの言葉に頷き、カリフは自嘲する。

 

「本来なら心身ともに健全な状態になるようサポートするのがオレの役目だった……なのにオレはあいつには向いていない指導方針を押し付けて放置した挙句に暴走させて……」

「優れた選手を作ろうと無理難題を押し付けるという指導者はよくいます。今回のあなたのように」

「返す言葉も無い。そんな正直な所結構好きだよオレぁ」

 

あまりに耳の痛い言葉だが、カリフはそれをすんなり受け入れる。普段の彼なら皮肉をさらに返すと言うのに今回は相当に堪えている様子だった。

 

「今回の合宿で分かったことがたくさんあったさ。いかに自分が矮小でちっぽけで愚かなガキだったってな……あいつ等よりもオレの方が実力的に高次元にいるということは今でも変わらない。だけど、それが“強さ”かと言われればまた別の話だ」

 

二人は黙って話に耳を傾けてやる。

 

「イッセーに負けた時からずっと思っていた……一人一人、生きとし生けるものがそれぞれ無限の可能性を持っている。奴らやシトリーの匙、それに他の奴らでも本気を出せばオレを倒す策など幾らでもある……オレだけが特別じゃない」

「……」

「それにオレはあいつの“力に負けた”んじゃない。ただ、“心がオレに勝った”んだ。だから奴は肉を切らせ、オレの骨を絶ってきた」

「ご自分の心が弱かった……それが敗因だと?」

「周りから最強だなんだとさんざん謳われてきたんだ。知らずに感化されていたんだ……!」

 

再び怒りの表情を浮かべるが、今回のことは事情が事情なだけに“ここでは”なんとか理性を保つ。

 

「イッセーとの戦いで分かった。あいつ等は少しずつだけど、オレの知らない所で成長してオレに近付いている! それにオレは気付かなかったが故の過失……! あいつ等の本質を見抜けなかった弱さなのだ!」

「それがあなたの答え……なのですね?」

 

ヴェネラナに向き合うカリフは堂々としていた。仕事で重大なミスをした社員のように過ぎたことを悔いて引きずっているような悲壮感などない。むしろ、這い上がろうと覚悟を決めた物の目そのものだった。

 

(この歳でそこまで自分を客観的に見れるとは……大した子です)

 

ヴェネラナは顔には出さないが、この目の前の少年の決心、そして“強さ”と責任感には感服させられていた。だが、同時にある不安も大きかった。

 

「オレはもう逃げねえさ。こうなったら進むしかない」

「それでは……行くのですね?」

「生憎、“待つ”なんてまどろっこしいことは嫌いなんでね」

 

そう言いながらレッスン道具の食器を片づけ、テーブルから降りてゲストルームの出口へまっすぐと向かう。

 

普段ならなんとも逞しいはずなのに、逆にヴェネラナはその姿に不安を覚える。

 

(心身ともにここまで充実しているわね……だけど、あまりに心が強すぎる……)

 

子供ならば怖いことだって多いはず。だが、この少年からはそんな恐怖など欠片も感じない。むしろ自信と覚悟を感じさせるほどに……

 

(その一度決めたら最後まで貫き通す心が……悪い方向へ向かなければいいのだけれど……)

 

いつだって強すぎる力は妬まれ、蔑まされてきた。過去に起こった魔女裁判がまさにそれの典型的な例だと言ってもいい。生きている物は自分よりも優れている者を恐れるからこそ攻撃する。それは悪魔でも堕天使でも同じこと。

 

そしてその謂れのない悪意が戦いを生みだしていく……彼がその争いの引き金となる可能性は充分過ぎるほどにある。

 

彼の噂には多少の尾ヒレも付いて畏怖されており、同時に上級悪魔にとっては面白くないことであろう。いずれは命を狙われるかもしれない。

 

彼は既にそんな過酷な運命を背負っている。そして、それを受け入れて戦うだろう。

 

どんなに過酷な戦いだろうと迷うことなくその渦中に飛び込んでいくのだろう……そうとしか考えられない。

 

(あまり、無茶をしなければいいのだけれど……)

 

種族は違えども、子供を心配せずにはいられなかった。

 

そして、ヴェネラナの不安は間も無く的中することとなるとは思ってもみてなかった。

 

 

 

医務室の前、カリフは小猫の気を辿ってここまで来た。

 

気で少し中の様子を探り、小猫だけとなっているこの状況だけを見計らってきたのだ。

 

これから自分がやろうとしていることを誰かに知られればたちまち大騒ぎとなるのだろう。だから医者たちも休憩に入るこの時を見計らってきた。

 

(これからオレは自分でも卑怯だと思っていることを“あえて”やろうとしている……こんなことすれば幾らあいつ等でもオレをまともに見ることなどないことと知って……)

 

密かに覚悟を決めるカリフだが、その歩みを止めることなど彼の中では有り得なかった。

 

(だが、自分の体面を気にして……約束を違えちまったら恰好悪いだろうが! 両親と……あいつ等と誓ったことだけは果たしてやる! 必ずだ!)

 

自分に喝を入れながらドアノブを掴み、扉を開ける。

 

(オレはもうあいつ等から逃げるわけにはいかない! どんな手を使ってでもここで決着を付ける理由がある!)

 

部屋に入ると、大きなベッドに横たわる小猫の姿を捉えた。

 

部屋の装飾には目もくれず、来賓客用の椅子とテーブルを一つずつ持ち出してベッドの横に据え付ける。このタイミングでゆっくりと閉じていたドアが大きな音を立てて閉じた。

 

「……ん…」

 

その音にやっと小猫が目を覚ました。

 

小さく、可憐な声と共にゆっくりと目を覚まして起き上がる小猫にカリフは内心でガッツポーズを取る。

 

(顔色は良好、起き上がりも悪くは無い……気の譲渡と悪魔の医療のおかげで全快に近い状態にまでコンディションはクリアだな)

 

その方が何かと都合がいい。そう思っていると小猫が部屋を見渡していた時にカリフの姿を捉えた。

 

「あ……」

「よう、大分お疲れだったようだな」

「え?……え?」

 

イスに座るカリフの姿を捉えた小猫に手を上げて会釈するカリフだが、当の小猫には状況が分かっていないのかキョロキョロと部屋の様子とカリフの顔を交互に見合わせていた。

 

(ここは部屋じゃない……それに何でカリフくんが……いや、そもそも昨日は何を……)

 

この様子からして自分に何が起こったのだろうとも覚えていないだろう。混乱している様子の小猫に腕を組んでその旨を伝える。

 

「その様子だと覚えていないようだな。お前、昨日の夜遅くに過労でぶっ倒れたんだが?」

「過労……あ……」

 

ここで初めて小猫は全てを思い出した様子を表し、同時に小猫は委縮してしまう。

 

今回のことはメニューを過剰に取り組んだことが原因で起こった不祥事。カリフからの言いつけを破っただけでなく色んな人に迷惑をかけてしまった。

 

「あ……の……これ……」

 

ずっと自分を見つめてくるカリフが恐ろしかった。怒られること、呆れられること、そして失望させられることを小猫は恐れ、身体を震わせた。

 

今までカリフと過ごしてきた小猫はある程度の行動が読めていた。

 

こんな時、カリフは自分に深い失望を覚えて見捨てるのだろうと……

 

「……っ!」

 

小猫は一気に溢れ出る涙をベッドの毛布に顔をうずめて必死に隠す。

 

(絶対怒ってる! もう私のことなんてどうでもよく思ってる! 私が無茶やって何もかもをぶち壊しにして……!)

 

きっとこれから口汚く罵られて見捨てられて捨てられる……不意に昔のことを思い出してしまう。

 

―――この猫又は早急に処分すべきだ!

―――汚れた血め! 貴様の姉は主に対しての恩義を無視したのだ!

―――貴様もあの女の血縁者だ! ここで殺してやる!

 

「! いやぁっ!」

 

当時のことを思い出し、光景が鮮明に蘇ってしまった小猫は悲鳴を上げてベッドの隅に逃げるように離れてしまった。

 

この行動は流石のカリフでも予想外の出来事だった。

 

「お、おい……」

「違う……違う……私はそんなことしない……あんな力だって使わないから……許して……ください……姉さまはただ……力に飲みこまれただけで……」

 

明らかに自分と会話をしているとは思えない。

 

なら一体誰と?

 

それを考えている内にカリフは思い当たる節に辿りついた。

 

小猫が最も辛かった時期……黒歌が主を殺して“はぐれ”となった日のこと。

 

ヴェネラナからは少ししか聞かされてはいないのだが、当時のまだまだ小さい小猫は黒歌の件で相当に責められた。

 

責めに責められて小猫の心は一度は廃人直前にまで追い詰められたとか……

 

そして、小猫自身も真剣に考えていたのだろう。昔と今がごちゃ混ぜになっている。

 

(くそ……これは厄介すぎんだろうが!)

 

内心で事の重大さに舌打ちをしながら小猫を必死に抑えようとする。

 

「おい! しっかりしろ!」―――殺せ!―――

「やだ……やだ……」

 

自分に駆け寄ってくる幼馴染でさえも当時の恐怖の対象にしか見えていない。

 

意識のタイムスリップに合わせて姿形さえもが当時の猫又の姿に戻るほどに事態は悪化していた。もうカリフの言葉さえも届かない。

 

(仕方ねぇ……)

 

カリフは覚悟を決めた。

 

その瞬間のカリフの行動は落ちついており、素早いものだった。まるでその行動が必然であったかのように自然に行われる。

 

「ひっ!」

 

その前にカリフは暴れる小猫の顔を自分に向けさせて一言だけ言った。

 

「これから多少卑怯なことするから先に言っておく……悪い。そして気にするな」

 

真意の分かりかねる言葉に暴れていた小猫も動きを止めてカリフを見る。一番有り得ない言葉。謝罪の言葉に固まる小猫が少し静かになるや否やカリフは自分で置いた丸テーブルの元へ戻っていく。

 

だが、そこからの行動に違和感を覚える。その違和感の原因は……ポケットから出したペンの束

 

目の前には病人、だが、ペンを使う必要が無い。小猫はちゃんと喋れるし筆談の必要が無い。あまりに場違いな道具に誰もがこの後の行動を予想できるはずも無かった。

 

「どうしたの小猫!?」

「小猫ちゃん!」

 

小猫の悲鳴にリアスや木場、朱乃といったイッセーを除くオカ研メンバーが部屋になだれ込んだその瞬間だった。

 

誰にもその光景を推測さえする時間も与えることなく

 

 

 

カリフは自分の左手を……目一杯にテーブルに置いて

 

 

ペンの束で自分の手を貫いた。

 

それはそれは赤い血しぶきを巻き上げて……

 

 

 

何が起こったのか分からなかった。

 

僕の横にいる部長でさえもが言葉を失って身を固めてしまった。

 

当然だ。だって部屋の中でカリフくんが……自分の手をペンの束で刺し貫いていたのだから……

 

「か……く……っ」

「……え?……え?」

 

カリフくんは血が溢れてくる手をまるで小猫ちゃんに示すかのようにペンを引き抜こうともせず、力強く激痛を我慢している。だが、小猫ちゃん自身がカリフくんの奇行を理解できていない。

 

当然だ。今までの彼から考えて絶対にあり得ない自傷行為だ。見ていてとても痛々しい。

 

「何してるのあなたは!!」

「アーシア! 治療を!」

「はい!」

 

部長、ゼノヴィア、アーシアさんが気を取り戻し、行動しようとするが、それはカリフくんが怒号を轟かせた。

 

「誰も近寄るんじゃねえぇぇぇ! 邪魔したら頭吹っ飛ばすぞオラァ!」

『『『!?』』』

 

皆が鬼気迫るカリフくんの怒号で動きが止まった。

 

離れていても彼の気迫が届いて来るのだ。僕たちはその場から全く動けなくなってしまった。

 

そして、彼は溢れる血を気にも止めずに小猫ちゃんへと向き直る。

 

「な……にを……」

「オレが勝手にこうしただけだ……お前は何一つ気にすることは無い……何も無いんだ……」

 

小猫ちゃんが首を振って同様する中、カリフくんは汗をかきながらも小猫ちゃんに優しく言い聞かせる。けれど、心優しい小猫ちゃんがこんな状況で黙っていられることなんてできなかった。

 

「治療……治して……血がたくさん……」

「だからいいって言ってんだ! オレは……相当に頭にキてんだ……お前にじゃない……思慮が浅はかで短絡的だったこのオレが腹立たしくて仕方が無い……」

 

彼の口から出た言葉は今までから考えられなかった自虐と悔しさを帯びた感情だった。僕も未だに彼が何を言いたいのかが分からない。

 

小猫ちゃんが身を乗り出そうとしてカリフくんに手を伸ばす。

 

「意味が分からないよ! こんな馬鹿なことするなんて……おかしいよ!」

「確かに……可笑しいを通り越して滑稽かもな。だからこれは馬鹿な自分への“罰”であり、お前に見せてやれるオレの精一杯の“反省”だ……」

「反省……何を?」

 

すると、カリフくんが唐突に……頭を下げた。

 

「お前をここまで追い詰めたのはこのオレだ……オレの自論をお前に押し付けてお前に無理を押し付けたオレの責だ……だからこの怪我は“戒め”でもあるんだ……」

「え……そんな……こと……」

 

目の前の謝罪しているカリフくんに驚きながらも小猫ちゃんは言葉を失っていた。無理も無い……僕らだってこんなカリフくんは初めてだから……

 

「お前はお前だった……人はそれぞれが違う……それぞれに考えがあり、それぞれに個性があるのと同じようにお前にはお前の道がある……気持ちの整理もさせないままにお前に難題ふっかけて……なんでそんなことに気付いてやれなかったのか……間抜けな話だぜ……」

 

この数日の内に何があったのか分からない……だけど彼は本気で自分の行いを後悔している。ただそれだけは皆にも伝わっている。

 

血が失われ、顔色が悪くなっていくのにも構わずに彼は続ける。

 

「オレはよぉ……この前にイッセーと戦って……負けちまったんだ……」

『『『!?』』』

 

この言葉には皆が驚かされた。あのカリフくんが負けた……? しかも相手はイッセーくんと確かに言った……一体何が起こったんだ……

 

「オレは自分でも気付かずに有頂天になってお前らを軽く見ていた……実力ではお前らよりは強いのだと……だけどオレは……負けちまったよ……」

 

自分の負けを連呼しているにしては表情がどこか穏やかだ……君は何を思っているんだ……

 

「それで……どうなったの?」

「負けた時はそりゃムカついたぜ……怒って山ごとイッセーを本気で殺そうとしてた……」

「……」

「だけど……途中で思ったんだ。『それじゃあ何も変わらない……あいつを殺しちまったら決着を付けることもできなくなる』ってな……その時だ。昔のこと思い出してよぉ……お前らみたいな時期があったってことを思い出した」

 

……彼も僕たちのように強さのことで悩み、苦しんだ時期があったんだね……もちろんそれが当然だ。彼は人間でありながら僕たちや上級悪魔、もしかしたら魔王さまや神さえも越えるほどの実力者だ。

 

だが、生まれたころは僕らと変わらないこの上なく弱い存在だったはず……そんな彼が得た力は天の恩恵では済ませられない。その領域に至るまでに彼は多分、僕らが考えもできないほどの苦しみを背負い、耐え、そして勝ち取った。

 

そして、彼は『知らずにそのことを忘れていた』と言っているのだと僕は思う。

 

「そしてオレはお前らのことを理解しようともしなかった……この国に帰ってきてから話すくらいの時間など幾らでもあったはずなのに……」

「……」

「くそ……これじゃあ下級悪魔だとか見下しているジジイ共と変わらねえじゃねえか……お前を……他の奴らのことも理解せずに自分の常識だけで考えてよぉ……」

 

声が段々と弱ってきている……本当は止めるべきなのに、僕はこの場を見守ろうと静観している。

 

 

止められるわけがない! 僕たちが知らない所で……あのカリフくんが変わろうとしているんだ! 今だって想像を絶する痛みと出血で疲労がピークのはずなのに……彼は初めて僕たちと向き合おうとしている……敬意を示してくれているんだ! これを止める訳にはいかない!

 

「今までお前らから逃げてきたオレだから信用できるとは思わないし、しなくてもいい……」

「……」

「だけど、もうお前からは逃げない。もうお前らを格下だとは思わない。お前等はオレと同じように生きる者だ……苦しみに耐え、無限の可能性を抱く生物としてお前たちを見下すことはもうしない……同じ立場でお前たちと向き合っていこうと思う」

「あ……」

 

優しく、まるで愛でるように彼は小猫ちゃんの頬を撫でる。小猫ちゃんは驚きはしたけど払いのけることはせず、むしろ涙を流しながらそれを快く受け入れたかのように見えた。

 

「手……冷たいよ……」

「こうでもしねえと……お前と同じ土俵には上がれねえだろうが……お前からしたらオレのこと……イカレてるって思ってるだろうがな……」

「……本当だよ……こんなに大けがして……でも、それは私も同じ……君は私を鍛えてくれるって言ったのに……二人して倒れて……」

「……かもな……まだまだ……オレも……しゅぎょ……」

「カリフ!?」

 

テーブルから転げ落ちた。どうやらもう限界が来たらしい! テーブル一面に広がった血の海を見てよくもここまでの出血で耐えてこれたのかと息を飲んでしまった。量からしても出血多量だ。彼の顔色も青い。

 

「カリフくん!」

「アーシア! 治療を!」

「はい!」

 

僕たちはカリフくんの元へ駆け寄り、介抱しようとした。

 

だが、彼は僕たちを手で制して壁にもたれながら立ち上がった。

 

「こんなもん……食えば治る」

「そんな訳ないでしょう! 馬鹿なこと言ってないで治療受けなさい!」

「そんなに喚くな……頭に響くから……」

「それ見たことか!」

 

さすがに部長のお咎めに言い返す気力が無いのか、はたまた本人も悪いと思っているのか知らないがいつものように突っぱねるようなことはしない。

 

まだこれだけ見ると彼も案外余裕なんじゃないか……とも思ってしまう。

 

「ほら、早く来なさい!」

「いやだ……今日の昼はステーキ……ミノタウロスの豪華なお肉……」

「なに自分の命とお昼を天秤にかけてるのよ!」

「後生だ……昨日からあまり食ってねえんだよぉ……頭でもなんでも下げるからよぉ……」

「下がってるのはあなたの血圧ー! 普段から碌に下げない頭をこんな時だけ下げるのね!?」

 

部長が頑なに彼の手を引っ張っても彼は地面に這いつくばって動こうとはしない……なんだか駄々をこねる子供を無理矢理立たせるお母さんのような構図だ……

 

彼、変な所で意固地になるからなぁ……

 

しばらくそんなやり取りが続いたころ、遂にカリフくんが倒れた。

 

「……(カク)」

「ちょっ! カリフ! カムバーック!」

「あぁ! すぐにベッドに行くわよリアス!」

「……(パクパク)」

「アーシア! 放心しないでくれ!」

「はっ!? ゼノヴィアさん……私は一体……」

 

血をダラダラと流して痙攣まで起こし始めたカリフくんに皆はてんやわんやな状態だった。

 

「はぁ……」

 

こんな状況に病人の小猫ちゃんが溜息を洩らす。気持ちは分かるよ!

 

「小猫ちゃん! だいじょう……ってなんだこれ!?」

「うお! カリフ今度は何やったんだ!?」

 

遅れてイッセーくんと先生もやって来た。戦力は増強された! 何日かぶりにグレモリー眷属が団結している!

 

 

悪い意味で

 

「「……」」

 

マナさんとギャスパーくんはさっきから何も言わないと思っていたら二人して顔を青ざめてフラフラしていた。今にも倒れそう!?

 

「二人共、今まで耐えたんだからもう少し耐えて! ここで君たちも倒れたら収拾がつかなくなる!」

「いや、だから何があったんだよー!」

 

結局、僕たちは久々に集まってはカリフくんに振り回されていた。


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