ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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今回の設定はもう一つの作品にも起用している設定なのでご了承ください。

それではどうぞ!


乗り越えるべき壁

若手悪魔の会合から一晩が経った朝、皆はグレモリー家の庭に集合していた。

 

今回は会合のこともあるが、同時に強化合宿に来たのだから当然だろうな。

 

カリフ以外の皆は既にジャージに着替えて待機している。捕捉ではあるがマナもこの合宿に参加している。

 

「いいか、今度は非公式ではあるがシトリーとグレモリーがゲームで親善試合をすることになった。今回の目標はそれに勝つつもりで修行するぞ」

 

先生は資料やデータらしきものを取り出して言った。

 

「あらかじめ言っておくが、これから渡すメニューは将来を見据えたものだからすぐに効果が出る奴がいれば長期的に見なければならない奴もいる。だがお前等は成長中の若手だからな。方向性を見誤らなければいい成長を見せるだろう。まずはリアス、お前だ」

 

そう言うと部長にメニューらしきものを渡しながら付け加える。

 

「お前は最初から最初から才能、身体能力、魔力ともにハイスペックな悪魔だ。このまま普通に暮らしていれば将来上級悪魔と任命されるのは確実だが、今強くなりたいそうだな?」

「えぇ、正直、これまでの戦いでの勝ち星は全て私の力じゃないわ……だから強くなりたいの」

 

部長の言う通りだ。本来、俺たち悪魔がカリフ……人間と言った第三者の手を借りるということはあまりないことらしい。そもそも俺たちは少しカリフという存在に依存してきているというのも部員全体としての反省でもある。

 

いつもカリフが一緒という訳ではないし、何より彼は眷属ですらないからな。前のレーティングゲームもライザーからの逆指名と言っても過言じゃなかったし。

 

「そういうことなら了解した。これがお前のやってもらうトレーニングだ」

 

先生も納得したのか部長にトレーニングメニューが書かれているであろう紙を広げて眺めていると部長は首を傾げる。

 

「それほど凄いメニューとは思えないのだけれど?」

「それはカリフと俺が共同でこしらえたメニューだ。王であるお前は基本的な練習だけで能力を高められる。だが、王は力だけでなく頭も必要となってくる。レーティングゲームは喧嘩じゃねえ。力が弱くても『知』で昇りつめた悪魔がいることくらい知っているはずだ。お前は期限までにゲームの記録映像やデータ、ルールを頭に叩きこんで来い。お前…すなわち王に必要なことはどんな状況も打破できる機転と思考、そして判断力だ」

「そして王はネガティブ思想を持ってはならない。眷属に実力はあろうが上に立つものが少しでも不安に駆られればその不安はたちまち眷属にも伝染するはずだ。馬術でも乗り手の気持ちが馬に伝わるくらいだからな」

「つまり、勝つと信じていればいいのね?」

「後は自分を信じた行動を取れれば一級品と言えるだろう。王は部下のやる気を起こすことも強みの一つだ」

 

先生とカリフの説明には根拠があり、思わず『やろう』とかじゃなくて、『やらなければ』と思わせるくらい説得力がある。

 

「次は朱乃」

「……はい」

 

先生に呼ばれる朱乃さんはなんだか不機嫌だ。朱乃さんは自分に流れる堕天使の血にコンプレックスを感じているようだから先生が苦手なのもそれが原因なのかな?

 

「お前は自分に流れる血を受け入れろ」

「!?」

 

ストレートに言う先生に顔を顰める朱乃さんだが先生は構わずに続ける。

 

「ライザー戦でのお前と相手の女王との戦いを見せてもらったが、一度も堕天使の力を使わなかったな? あれさえあればもっと効率よく、かつライザーにも有効だったというのになぜ使わなかった?」

「あんな力に頼らなくても……」

「自分の力を否定してどうする。その否定がお前を弱くしている。自分自身を認めることができない奴は強くなんかなれない。雷に光を加えろ。この合宿で『雷の巫女』から『雷光の巫女』になってみせろよ」

「……」

「でないとこの先ずっとお前はリアスの……カリフのお荷物になっちまうぞ?」

「!? いやっ! それだけは……!」

「それが嫌なら俺の言ったこと忘れるな」

「ぅ……」

 

複雑そうな表情を浮かべていた朱乃さんもカリフの名前が出た瞬間に普段では考えられないほどに動揺を見せた。多分、先生も朱乃さんの気持ちを分かってこんな風に誘導したのだろう。

 

カリフはこれに対して黙認を続ける辺り先生と同じ意見なんだろうな、とすぐに分かってしまう。あいつはそう言う奴だ。

 

朱乃さんが渋々だが分かってくれたようで俺たちの列に重い足取りで戻って来た。

 

「次は木場」

「はい」

「お前はバランス・ブレイカーの持続時間を一日にまで伸ばしてみろ。それができたら実戦の中でバランス・ブレイカーを一日持続させるんだ。剣術系のセイクリッド・ギアの扱いについては俺がマンツーマンで教えてやる」

 

流石、自称セイクリッド・ギアマニアと呼ぶだけあってそこら辺のアドバイスは得意なのか?

 

「剣術については師匠にもう一度習うんだっけか?」

「えぇ、昨日カリフくんに相談してみたら『基礎を怠りがちだ』と言われまして……この際だから師匠に一から鍛え直してもらおうと思いまして」

「あぁ、それなら俺も同じ意見だ」

 

お、早速カリフに相談したのか。やっぱ木場はマジメだからなぁ~。また強くなるんだろうな。

 

「次はゼノヴィア」

「はい」

「お前はもちろん、デュランダルを使いこなすことが一番の近道だ。だから今までの修業を続けてもらいたい。その代わり、今回からはもう一本の聖剣にも慣れてもらおうと思う」

「もう一本の聖剣?」

 

ゼノヴィアは首を傾げて先生に聞き返すが、先生は笑って返すだけで済ませると次はギャスパーに向き直る。

 

「次はギャスパー」

「は、はいぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

おいおい、まだ修業が始まってすらいないのにそんなに緊張して大丈夫か?

 

「そんなに緊張すんな。これからお前にはその引き篭もり癖を治してもらう。元々からセイクリッド・ギアとヴァンパイアの魔法共に僧侶としての能力は相当なものだ。だが、それらは全て『心』に左右される。お前のその弱気がセイクリッド・ギアと魔法の力を押さえつけちまってるんだよ。専用の『脱・引き篭もり計画』を立ててやったからそれを基に心身ともに強くなれ。少なくとも人前でアがって動きが鈍らなくなる程度に仕上げて来い」

 

確かにギャスパーはいい物を持っているのにそれを使いこなせてない所が目立つからな。それはそれでいい特訓だと思う。

 

「で、でも僕なんかができますでしょうか……?」

「安心しろ。お前はカリフと話すことができたんだ。あの猛獣と話せて他の奴らと話せない道理なんてグボォッ!」

「ひいぃぃぃ!」

 

ギャスパーを励まそうとしていた先生はカリフの拳に顔面を殴られて宙に吹っ飛んだ。ギャスパーもそれには悲鳴を上げてダンボールの中に入ってしまう。この中で最も不安な奴だ……大丈夫か?

 

なんとか正気を保っていた先生はすぐに起き上がって頬を腫らしながら何事も無かったかのように続ける。

 

「次はアーシア」

「はい!」

 

ウチのアーシアちゃんは気合が入っているようで先生のシュールな姿を気にすることなく返事する。

 

最近、戦いで役に立っていないなんて相談されたけどそんなことは無いと思う。ゲームでの怪我を治せるのはアーシアだけだし、そもそもそんなことにならないように戦っているのだからアーシアの出番が少ないのも当然だ。それが一番いいんだと思う。

 

回復役が後方に付いているってだけで皆は安心して存分に戦えるんだから役立たずってことは間違っても有り得ないんだ。

 

「お前は体力と魔力、それとセイクリッド・ギアの強化に励め」

「アーシアのセイクリッド・ギアをさらに強化ですか? 今の時点でもアーシアの回復は速くて凄いと思うんですが……」

 

率直な感想を言うと、そこでカリフが先生の説明を引き継ぐ。

 

「確かにアーシアの回復力には目を見張る物があるのは確かだ。だが、そのことを当然の如く敵が理解してないはずが無い。もっとも、回復役というのは敵からしてみれば真っ先に潰したい対象なのさ。この中で最もリスクが大きいのは言わずもがなアーシアだ。何よりアーシアの回復は『怪我するのを確認→アーシア近付く→患部に触れる→治す』と言った手間がある」

「えーっと、つまりアーシアが接近しないと回復できないという危険性がある……ってことか?」

「そうだ。ただでさえリスクが大きいアーシアを前線に立たせるのは危険極まりないからな」

 

確かにそうだよなぁ。この面子の中でアーシアが一番運動能力が低いからいざって時に逃げ遅れる可能性も高いしな。

 

「だから、俺の言うアーシアの強化とは回復速度のことじゃなくて『回復範囲』の拡大のことだ」

「そんなことが可能なの?」

 

部長の疑問ももっともだ。それが本当に可能ならアーシアのポジションはとんでもなく重要になるんじゃないの?

 

「理論上はな。アーシアの全身から回復のオーラを発することができれば周囲の味方をまとめて回復することも可能なはずだ。グリゴリのシミュレーションでも想定済みだからな」

 

す、すげえぇ! それが本当なら俺たちの戦力も格段に上がるんじゃねえか! 一人一人回復する手間も省けて反撃のチャンスも増える! にしても相変わらずグリゴリのデータベースってすげえな。

 

「だけどその方法には不安もある。アーシアの生来の問題がある」

「問題?」

「“やさしさ”と書いて“甘さ”だな。シスターとして育ったアーシアは本来戦いに向く性格じゃない。傷ついた奴を見たら無自覚に“治してあげたい”と思うような所があるからな。戦場においての甘さは致命的だ。正直、こいつが戦いに出るってのはどうかと思うがね」

 

うぐ……そんなアーシアを戦いに巻き込んだ俺には重い言葉だぜ……! だから俺がアーシアを守ってやるんだ!

 

ぜってーこの合宿中に何倍も強くなってやる!

 

「そこで、もう一つのプランとしては回復のオーラを飛ばすことだ」

「飛ばすってボールを投げるような感じですか?」

 

アーシアのボールを投げる仕草は可愛くて癒されるなぁ……

 

「そうだ。そうなったら回復力は落ちるかもしれんが無差別的な回復も避けられるから魔力の操作を鍛えて体力も鍛えるんだ」

「すげえじゃんアーシア! アーシアの能力でチームの戦力も格段に上がるんだ!」

 

俺は嬉しさのあまりアーシアを抱き上げてクルクルと回るとアーシアも困惑するがそれでも嬉しさで笑っている。そんな俺たちを置いて再び説明が続く。

 

「次にマナだが、お前は魔力の向上と魔法の研究、セイクリッド・ギアの研究を俺の監修の下で行う」

「そう言えば黒魔法だったわね。確か門外不出の魔法として扱われてきたから私もあまり知らないのよね。黒魔法の実態」

 

そういやマナの黒魔法ってのも相当に珍しい部類であまり知られなかったんだっけな。だけどその一族が今となってはマナだけとなったため、マナの協力の下で研究が進んでるって状況だったよな。

 

「マナの黒魔法は破壊力に関してはトップクラスだ。さらに言えば相手に毒をかけたり燃やしたり凍らせたり、または防御系もあれば相手の魔力を奪って自分で使用するパターンもあるらしい。それに加えて強力なセイクリッド・ギアまで持ち合わせているから魔法使いの中でも別格と言えるな」

 

珍しく強力な魔法に加えて強力なセイクリッド・ギアを四つか。もう反則ってレベルだと思うのは俺だけじゃないと思う。

 

「だけど黒魔法を習得するには術者本人が魔法を構築し、魔法陣を設計しなきゃならねえ上に魔法の習得も特殊だからな」

「それは?」

 

先生が球のような物を取り出し、部長が聞くとマナ本人が答える。

 

「これは『マテリアル』という特殊な技術で造られた魔法の球です。黒魔法はあまりの種類の多さに全てを扱うことが困難であるため、このマテリアルに術式をインプットさせて術者に取り込むんです。そうすれば簡単な魔力の解放でその魔法を使うことができるんです。言うなれば魔法のカートリッジみたいな感じで覚えてください」

「そのマテリアルに全ての魔法を取り込めないの?」

「それは無理です。マテリアル一つに付き魔法は一つ。マテリアルも術者のキャパシティによって取り込める数も限られてしまうんです。取り外しは可能なんですが、実戦で使うとなると時間がかかってしまうんですよね……」

 

確かに黒魔法のバリエーションが豊かでも全て頭で覚えられないほど多いってことか。しかも魔法の条件が拳銃に弾丸をこめるみたいなことしなきゃならないってなると確かに厄介だよね。

 

「だからマナは俺と一緒に凡庸性に富んだ魔法を選出、できれば作り出すことを目標とする。こういう分野はまさに俺の分野だからな」

 

先生は子供のように笑っていた。造るのが好きな先生だからこういうことが得意なんだろうな。そう思っていると、ここで先生は小猫ちゃんの方を見る。

 

「次は小猫」

「……はい」

 

いつものように無表情だけど声にはやる気で満ち溢れている。最近、小猫ちゃんは修業に精を出しているってよく聞くからこの合宿に力入れてるんだろうな。

 

「お前には戦車としてオフェンス、ディフェンス共に申し分ない素質を持っているが、グレモリー眷属にはお前以上にオフェンスが上なのがいる」

「……分かっています」

 

小猫ちゃんは悔しそうに表情を歪める。もしかしてそれがコンプレックス?

 

「ゼノヴィアのデュランダル、木場のソード・バースが現在のトップだ。さらにここにイッセーのバランス・ブレイカーが加われば……」

 

確かに今の時点カリフを除けば木場とゼノヴィアが抜きんでてるのかもな。たとえ俺がバランス・ブレイカーになっても木場たちに勝てるかどうかも微妙だし……

 

「今回、お前のメニューはカリフの監修の下で行ってもらう。メニューはカリフに従い、後はお前も自分の力を受け入れろ、とのことだ」

「……」

 

先生の一言に小猫ちゃんは意気消沈して落ちこんでしまった。

 

自分の力……てことは朱乃さん同様に小猫ちゃんにも何かあるんだな……励まそうと小猫ちゃんの頭を撫でようとした時、誰かが俺の手を掴んだ。

 

「カリフ?」

「……今は何もするな。惨めにするだけだ」

 

俺の手を止めたカリフはいつになく真剣な表情で俺を制止してきた。しかも気になる言葉でもあるけどこいつが言うのならそう……なんだろうか?

 

ここは小猫ちゃんの幼馴染であるカリフに従ったほうがいいってことかな。俺は手を引っ込めた。

 

ここで先生はカリフを見る。

 

「次はカリフ」

「よし」

「お前は……」

「……」

「……」

「……」

「……適当に自主練でもボグハァ!」

 

散々引っ張ったと思ったら普通に匙投げちゃった! 適当な答えにカリフは先生の顔に再度拳をねじ込んだ。

 

「え? なに? まさか俺だけ無し?」

「いてて……しょうがねえだろうが。オフェンス、ディフェンス、テクニックにパワーに加えて集中力も精神力も類稀なほどにスペックが高いお前に何するってんだ。弱点なんてねえだろうが……」

 

うん、まあ気持ちは分かる。カリフお前は誰がどう見てもチートの塊だ。これ以上強くなるっていうかこれ以上強くなる気なのかよ……

 

「弱点は把握している。だがまだ確信は無いからこの合宿中にそれを見つけていきたい。そのための教導だ。教える立場になって初めて分かることがあるからな」

「まったく、よくもまあこんな世の中にお前みたいなハングリーな奴が生まれたもんだな」

 

先生に同意するような眼差しを皆でカリフに向けるが、当の本人は決意に満ちた表情で言い放つ。

 

「『飢える』ことの何が悪い? いや、むしろ『飢え』なきゃ勝てない……気高く飢えなければ……」

 

木場のマジメさも凄いけどもっと凄いのはカリフの飽くなき向上心のほうかもしれない。昔からこんな性格だと聞くし、どんだけの努力をしてきたんだよ。

 

いや、その果てしない修業が今のカリフを作り上げたのであれば納得のいく話でもある。

 

でも、だからといって世界各地で女の子と知り合うなんてうらやまけしからん奴だ。俺と代われ!

 

「最後にイッセーだが……あともう少し待ってろ」

 

そう言って先生は時計を気にして空を見上げている。何を待っているのだろうか。つーか何が来るの?

 

俺や眷属たちも気になって空を見上げていた時だった。何かとてつもなくでかい影がいきなり現れた!

 

何だ!? 慌ててその影の全貌を確認すると、それには巨大な口と翼に四本足と生物の体を表していた。

 

ぎゃー! 怪物じゃねーかぁぁ! そう思っていた俺だが次第にシルエットが明かされていく度にその正体が明らかになった。

 

きめ細やかでありながら頑強そうな鱗で全身が覆われ、鋭い牙を持った生物を俺は『夢』の中で見ていた俺にはすぐに分かった。

 

「―――ドラゴン!?」

「そうだドラゴンだ」

 

驚く俺をよそに先生は冷静に答える。おいおい、こんなにでかいドラゴンとまた修業かよ! ライザー前の修業でもドライグに殺されかけたってのに!

 

「まあ今回はよろしくやってくれやタンニーン」

「ふっ、まさか堕天使総督から赤龍帝を宿す小僧の修業を依頼されるとは……この世の中分からんことばかりだな」

「時代ってのは変わってくもんなんだよ」

 

互いに知り合いらしいのか話しこんでいたようだが、タンニーンと呼ばれたドラゴンが俺を見下ろしてきた。

 

「今回の俺の相手はお前らしいな小僧。どんな修業か分かってての指名か?」

「え”?」

 

何だか嫌な予感しかしない……俺は先生の方に恐る恐る視線を移すと先生は親指を立てて言った。

 

「古来よりドラゴンの修業は実戦で行われる。そのため相手は強ければ強いほど修業としては精度を増すのさ」

「えっと……つまりはこのドラゴンに美味しくいただかれちゃうってことですか……?」

「まあその通りだ」

「いやあぁぁぁぁぁ!」

 

またこのパターンかよぉぉぉぉ! 修業で死にかけるなんて前の時だけでいいんだよぉぉぉぉぉ!

 

そんなこと思っていると、ドラゴンの大きな手が俺を鷲掴みにしてきた。やべぇぇぇ捕まった!

 

「それではリアス嬢。あそこに見える山を使わせてもらいたいのだが」

「ええ、よろしく頼むわね」

「もちろんだ。死なない程度に鍛えてやる」

 

しかも部長とドラゴンの商談が成立してるうぅぅぅぅぅ! 逃げたいけど全然掴んでる手が緩まることがねえ! ひぃっ! まだ心の準備ができない間に空を飛び始めた!

 

「イッセー! ちゃんと強くなるのよー!」

 

離れていく主様が死にゆく下僕を笑顔で手を振って見送る。いやだぁぁ! せめて死ぬなら部長のその胸の中で圧迫死したいよぉぉぉぉ!

 

眷属全員の姿がどんどん遠ざかって見えなくなるころには皆の姿は見えなくなっていた。

 

『言っておくがこいつはタンニーンというドラゴンでな。元龍王だ。悪魔になる前は『六大龍王』の一匹でもあり、聖書に記されているドラゴンがそいつだ。別名は『魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)』とも呼ばれ、その火の息は隕石の衝撃にも匹敵するとさえ言われている。現役の上級悪魔の中ではトップクラスの強さだ』

「止めろドライグ! そんなに俺を追い詰めて楽しいか!? お前は俺の相棒なんだろ!」

『お前は既に俺との修業を経験しているだろう? 今回も似たようなものだ』

「それならこっちとしてもやりやすい。多少は手加減しようとも思っていたが少しくらい厳しくしても大丈夫そうだな」

 

俺をドラゴンの常識で当てはめるな! 俺は弱っちい弱小の悪魔なんだよ、生まれたてのバンビなんだよ美味しくもねえんだよ! だから見逃して!

 

「あぁ、それから補足だが、お前を鍛えるのは俺だけじゃない。あそこにいた始終腕を組んでアザゼルの隣にいた小僧もたまに加わるそうだ」

 

―――

 

――

 

 

なん……だと?

 

「アザゼル曰く天界、冥界で話題の最強の人間らしいな。奴の立ち振る舞いだけでは何とも言えんが中々いい目をした奴だったな……って赤龍帝の小僧は気絶したか」

『それは見逃してやってくれ。再びあの外道に何度も地獄見せられる死のコースが確定したんだ。俺はそんな死地に向かう相棒を攻めはしない。いや、攻められるものか』

「お前がそこまで言うとはな。アザゼルやサーゼクスからは確かに問題児とは聞いていたんだが」

『奴を甘く見ない方がいい。奴に限っては最初から殺す気で向かわないと何も知らぬまま死んでいることなんて有り得ない話じゃない。いや、むしろ奴相手に勝負になりえるのかさえ怪しいものだ」

「……そ、そうか……まあ肝には銘じておこう」

 

ここまで緊迫したドライグなど初めて見たのかタンニーンも少し冷や汗をかきながら大空を飛ぶ。

 

その言葉の意味を深く身に沁みることになるのは修業が始まってしばらく経った時のことだとこの時のタンニーンに知る由も無い

 

 

 

皆でイッセーを見送った後、アザゼルは皆に向き直って告げる。

 

「それじゃあゼノヴィアと木場もそれぞれの場所で修業に励め」

「はい」

「あぁ」

「小猫たちはこの屋敷で引き続き自分の修業を行う」

「えぇ」

「……分かっていますわ」

「は、はいぃぃぃ!」

「よし、頑張るかな」

「……」

 

各々返事を返す中、小猫だけがカリフに聞いた。

 

「……なんで私の監修に?」

「お前は将来的に魔力と気を扱う戦いがメインになってくる。魔力はともかく気、そして体術を使うオレたちの相性は抜群ってことだ」

「……私にはあんな力必要ないよ……それなら体術を教えてもらった方が……」

「それならお前に教えることは何も無い。荷物まとめて冥界から去れ」

『『『!?』』』

 

突然のカリフの宣言に小猫だけでなく眷属全員が驚愕した。

 

「言っておくが冗談とか思うなよ? これでもお前らのことは誰よりも贔屓にしてやってんだ。本来ならお前らに肩入れする義理なんざねえんだからな」

「で、でもそんないきなり……」

「少なくとも自分を偽っている奴に教えることは何も無い。オレのやり方が気に入らないなら好きにやっても構わんがね」

「……」

 

小猫はカリフを今までにないくらいに睨めつけるが、本人はさして気にすることも無い様子だった。

 

「まあ、そこは自分との戦いという奴だな。お前にその気があるなら多少のアドバイスくらいはしてやるよ。まあ、自分の力に見切りを付けてるってんならそれで勝ってみろよ……話になるとは思えんからな」

 

冷たく、突き放すように言いながら屋敷に戻っていくカリフに皆は何も言えなくなっている。

 

その中でも小猫の様子が目立つ。

 

「……私の気も知らないで……偉そうに……」

 

小猫はやりきれない感情を残しながら誰にも聞こえないように吐き捨てる。

 

 

 

 

小猫を突き放した後、皆から離れた場所を歩いている中、ずっと思い続けていた。

 

(小猫と朱乃のことなんか言えねえよなぁ……)

 

自分の胸に手を当てて物思いに耽るカリフ。

 

さっきの一言は小猫や朱乃に対するカリフなりの荒っぽいアドバイスだったのだが、同時にそれは自分への決意として自分に言い聞かせた物である。

 

―――ここがお前の死に場所だ……

 

「……っ!」

 

嫌な記憶……自分にとって最大の元凶となる人物が頭の中で笑っている。

 

ただ純粋に破壊を楽しみ、他者を……自分をまるでゴミを見るかのような目で見てくる。

 

前世からの因縁、その血の運命、はたまたDNAが繋げた因果関係とでも言えばいいのか……

 

本来、カリフはその人物のコピーとして生み出された人工生命体

 

その人物と血や魂が似通っていたから当時のカリフに起こった不運は人間として生み出されて力が減った今でも根強く残っている。

 

前世でカリフの全てが始まった日、カリフの兄とも呼べる存在は消滅したのは確かだが魂は違っていた。体から放り出された魂の一部は当時、中途半端に生かされていたカリフの未成熟な魂に引き寄せられてしまった。魂の大半は彼自身の物であるが、その魂の一部にはカリフの兄……ブロリーの魂が紛れこんでいた。

 

偶にカリフの夢の中でブロリーが出てくるのもその魂が原因なのではないかとブルマたちは結論付けていたのを今でも覚えている。カリフはその夢を見るたびに自分という存在が乗っ取られてしまうのではないかと怒り、同時に恐れていた。

 

しかし、皮肉なことにその忌々しい記憶がこの生まれ変わった世界の中で生きていく上で自分の前世の記憶が偽物じゃないと自覚させてくれる。

 

だからといってこのまま放っておいていいものじゃない。カリフは今の小猫と朱乃を今の自分と重ねて見ているのだ。

 

「お前らにもいずれ分かる……」

 

 

 

心には光と闇が存在する

 

それらの確執を解決しない限り前には進めないのと……

 

 

 

鬼畜カリフ、十六歳の夏

 

 

新たな一歩を踏み出そうと試みる。


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