ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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映画『神と神』見に行きました! ある意味ベジータさん注目の回でもありました。

それにしても最初はビルスを見て『何? この……え?』と思いましたが、キャラ的には結構好きでした。充分にカリフとも相性よさそうなので暇があれば出してみたいと思っています!
今回はあまり進みませんがそれでも見てください!


若手悪魔たちの会合

波乱の混浴騒動から一日が明けた。

 

「ん……」

 

ホテルのある一室のベッドでロスヴァイセが寝ぼけ眼を擦ってベッドから起きた。

 

(あれ……私はなんでこんな所に……)

 

なんで、どうして、ここは一体……カリフと会って夕飯を食べた辺りから記憶が曖昧になっていることに疑問を抱きながら少し考える。

 

(えっと……確かカリフくんとマナさんとご飯を食べて……そうだ! あの時から鬱憤を吐きだして……!)

 

自分のタガが外れて荒れる自分の光景を思い出して恥ずかしくなってしまった。

 

彼と話していると不思議と隠し事や素の自分を出してしまう。こういう点ではまさに相談相手としては適任者と言えるのだが、今回はそれでロスヴァイセは墓穴を掘ってしまった。

 

あまりに女らしくない一面を晒してしまった羞恥心がロスヴァイセの心を覆った。

 

(うぅ……折角……折角会えたのに変な所見せちゃった……)

 

後悔で頭を項垂れるほどの後悔を見せるロスヴァイセはここでまた気付いたことがある。

 

スーツ姿でベッドにくるまって眠っていたこと。

 

寝巻にも着替えずに眠りこけていたであろう自分の姿を思い返して思った。

 

―――だらしがない

 

多分、仕事の疲れが溜まっていたであろう、あの後眠りについた自分はここまで介抱された……益々だらしがない。

 

「いや……お嫁に行けない……」

 

自分の醜態に呆れを通り越して悲しくなってくる……周りを見渡すとカリフは少し離れたソファーの上で眠っている。ソファーの下にはツインテールの女性が弾き落とされながらも眠っている。そして自分と同じベッドでは自分の隣にマナが可愛らしい寝息を立てて眠っている。

 

見覚えのない女性は気になるが、今はそんなことどうでもいい。今は早くこの場から離れたい。

 

ロスヴァイセは一人も起こさないようにゆっくりと起きてベッドを降りる。

 

適当な紙を見つけ、持参していたボールペンを用いてスラスラと書いていく。

 

―――御迷惑をお掛けいたしました。私は仕事の関係で先に行きます。このような形で別れの挨拶を交わすことをお許しください。それと、皆さんには大変な御迷惑をおかけしました。すみません

 

そうとだけ書くとロスヴァイセはそのまま部屋のドアを開ける。オートロック式なので一度出ればもう入ることはできない……また会う機会はあるかもしれないが、今は気まずくてとてもじゃないが話すことは無いし、話したくない。

 

「……」

 

切なさを秘めた表情を浮かべてソファーの上で眠るカリフを一瞥し、ロスヴァイセは部屋から一歩出た。

 

 

ドアが……

 

 

ゆっくりと閉まった……

 

廊下からコツコツと足音が聞こえるも、音は遠ざかって小さくなっていく。

 

それを確認した時、カリフは目を開けた。

 

「……」

 

ロスヴァイセが起き上がった時のベッドの布擦れの音で起きていたカリフはロスヴァイセを静かに送っていた。

 

わざわざ眠ったフリまでして……

 

今のロスヴァイセの心情を理解した上での行為だということは言うまでも無かった。

 

 

それから間もなく、セラフォルーたちも次々と目を覚ましていくのだった。

 

 

 

ホテルの玄関前でカリフはマナと一緒にセラフォルーを見送りに外に出ていた。

 

ソーナたちは既に新人悪魔の会合向かい、セラフォルーは悪魔の集まりの主賓として今から向かう予定である。

 

「じゃあね。一晩だけだったけど楽しかったよ☆」

「また顔合わせることになるけどな……」

「マナちゃんもありがとう☆ 新しい仲間として頑張ろうね☆」

「は、はい……」

 

セラフォルーの言葉を理解したマナは顔を紅くさせてカリフから顔を背ける姿にセラフォルーは笑って見届ける。

 

その後はすぐに詠唱で魔法陣を展開させ、始終笑顔で手を振りながら魔法陣の中へと姿を消した。

 

セラフォルーの転移が完全に終了し、マナと二人きりになった所でカリフは気付いた。

 

「なんで姿が変わってるんだ? 確かガガガだっけ?」

「え、前に皆に話したと思うんだけど……」

 

首を傾げるカリフに呆れていたマナの姿はいつものような姿とは違っていた。

 

以前、ギャスパーと共に魔法使いたちを追い詰めた際にセイクリッド・ギアの『触らずの魔法(ドント・タッチ・マジック)』を使った時のマジシャンズ・ヴァルキリアことヴァルの姿となっていたことと同じ状況となっている。

 

ただ、今度はヴァルではなくて姿形は思念体で姿を表したガガガガールことガガの姿となっていた。

 

いつもの金髪ロングはセミロングとなっており、いつもより露出度は少ないものの体のラインにフィットした格好もすごくエロくて可愛いものだった。

 

だが性格はそのままのマナの人格のままとなっている。

 

「いつ?」

「……この前の部活の時なんだけど……はぁ……」

 

人の話を聞いていなかったと溜息を吐いて目的地へ向かいながら説明する。

 

「元々私は一人の『マナ』という存在、ただの魔法使いだったけどいつかに話した魔法使い同士の魂の共鳴・融合の実験が行われた」

「そこでお前、いや、お前たちはマナの体をベースに融合を果たしたが故にマナの体に四つの人格が住みついた……容姿もベースであるお前に似たんだっけ」

(そこまで分かってるのにどうして聞かないのよ)

 

心の中でマジシャンギャルことマジが突っ込むのに対してマナは同意しながらも説明を続ける。

 

「条件としては魔力量がほぼ同値だということ……それを満たした私たちの融合は成功したんだけどね……」

「全員がセイクリッド・ギアの持ち主だったということも覚えているぞ」

 

それに対してガガ(の姿をしたマナ)は頷いた。

 

「そう。しかも全部が凄く強力な物であって、定義としてはロンギヌスじゃないんだけど充分に使いこなせれば神をも倒せるほどに」

「そこからだな。オレが分からんことは。どんなセイクリッド・ギアだ?」

「うん、私は『聖なる鏡(ミラー・フォース)』といかなる攻撃もそのままの威力で返すカウンター系、ヴァルさんが前に見せたように『触らずの魔法(ドント・タッチ・マジック)』という任意の魔法をメインに戦う人への攻撃を受け流す、これについてはガっちゃんの『零の受信(ゼロ・ゼロ・テレフォン)』と同じだね」

「どんな攻撃も威力を無くす……とんでもない代物だな」

「確かに強いけどこれらは一度使うのに膨大な魔力が必要になるから乱発はできないんだけどね」

 

それはそれで面白い物だとカリフが思っている間もマナは続ける。

 

「そしてマジさんのは『魔性の脳(ブレイン・コントロール)』と相手を短時間だけど操ることのできる操作系のセイクリッド・ギアだね」

「恐ろしい物を持ってやがるな……オレを操ることは?」

「結論から言えば無理だよ。これは相手の実力差が均衡、もしくは自分より弱い相手にしか発動できないんだ」

「やっぱ美味しいもんばかりじゃないってことか」

 

歩きながらも嘆息するカリフだが、やっぱりどう考えてもそのセイクリッド・ギアは強大だと思わざる得ない。

 

洗脳、反射、攻撃の無力化……たとえ戦闘で使える回数は限られていても使い方を間違えなければ一発逆転が可能となる。

 

(こいつも光る原石……ということか)

 

正直、ドラゴンの特性とか言い伝えなんて鵜呑みにしてはいなかった。

 

もう伝説にでも何でも縋らなければ強者には出会えなくなるだろうと思っていた……『退屈』は『忘却』へと変貌して生きる意味さえも奪っていく……『退屈』は『敵』だった。

 

だが、マナにしろ朱乃やリアス、ゼノヴィアや木場に小猫といった逸材が次々と現れてくる。

 

やっぱり平穏よりもこういった混沌の生活の方が自分に合っていると自覚させられることとなった。

 

「どうかしたの? なんかシミジミしてたようだけど」

「気のせいだ」

 

人に言うほどのことでもないから自分の胸の内にだけ留めておくことにした。

 

「そろそろ時間だ。少し飛ばしていくぞ」

「ちょ、ちょっと! 速い速い! 私が走るスピードにまで抑えてよ!」

「オレに付いて来れるか?」

「無理だから言ってんでしょう!」

 

結局、本当に時間が危なかったのでマナはそのまま担いで一気に目的地へと向かうこととなった。

 

生身でマッハを軽く超える超スピードを体験したマナはしばらくの間意識が混濁していたとかいなかったとか……

 

 

 

「意外と速かったな……ほらマナちゃんと歩け」

「うぅ~……目が回って気持ち悪い……」

「まったく……そもそもなんで勝手に目なんか回してんだ?」

「君のせいですが!?」

 

漫才を続けながらカリフは辿りついた立派な屋敷の中を練り歩いていた。

 

そんな中、マナはカリフにもたれる形で同行している。

 

「て言うか今日は何しにここに?」

「ん? まぁ、魔王たちからゲストとして呼ばれただけだ。若手悪魔ってのも見たかったから黙って同席する条件でな」

「へぇ~……」

 

意外そうにカリフを見下ろしてくるマナの視線に少しムっとしながら返す。

 

「なんだ」

「え? いや、なんて言うか……カリフってこういうことはマメだなって思って……」

「?」

「あのね、カリフってすっごい強いから若手とかじゃなくて魔王とか神とかそういうのにしか目を向けないと思ってて……」

 

言葉を選びながら話すマナにカリフは溜息を吐いて仕方なさげに答える。

 

「分かってねえな。相手が若かろうと風評だけでそいつを測れるものじゃない。こういうのは自分の目と耳で確かめることが大事なんだよ」

「噂は信じないってこと?」

「少なくとも鵜呑みにはしない。そういった先入観は視野を狭くするからオレは嫌いだな。今のお前だって傍目からしたらただのチャラいJKにしか見えてないぞ?」

「それとこれとは違うと思うけど……ていうかJKって……」

『でも分かりやすい先入観だよね……』

 

自分のスカートや髪を弄るマナやガガにも気にせずにカリフは続ける。

 

「先入観なんてそんなもんだ。本当のお前はそこらの女たちよりもお人好しで穏やかなのにな」

『「ぶっ!」』

 

まさかの不意打ち。マナとガガは思わぬ優しい言葉に吹いてしまった。

 

「甘っちょろい考えだけどお前は自分なりの善悪をはっきり分けて行動できていると思う」

「え、あの……どうしたの?」

「おっちょこちょいでトロいけど悪い子ことすれば反省できる物分かりがある、そう言う所は好感持てるんだが」

『いや、ちょ……やめて……このギャップはやばいから……』

『鈍感もここまで来ると見事ですね……変な感じになってきました……』

『あら、女には興味ないって思ってたけど嬉しいこと言ってくれるじゃない……ほら! マナも照れない!』

 

普段は憎まれ口か罵声しか言わないカリフからの真っ直ぐな好意にマナは内心で恥ずかしさで顔を真っ赤っかにしていた。そしてその感覚はマナの人格者にも伝わり、他の三人も恥ずかしくなっていた。

 

やっぱり気になる男から褒められると嬉しいと思うのが女の子である。

 

そんな彼女が笑っていいのか恥ずかしがっていいのか混乱している中、カリフの後ろから近付いて来る影があった。もちろんカリフも気付いてはいたし、気付かれるのを承知して近付いていたのだが。

 

「もし、そこの御仁」

「ふん……もしかしなくてもオレだな?」

「やっぱり気付いていたか。流石は人間最強だ」

 

マナがその声に気付き、近付いてきた人物を見上げる。

 

長い体躯に逞しい体つき、瞳は紫の野性的なイケメンは好意的に近付いてきた。

 

その様子にカリフもようやくその人物の顔を見上げるとすぐに思ったことがあった。

 

「サーゼクス?」

 

率直に言いながら首を傾げるとその人物は少し目を丸くした後で大いに笑う。

 

「はっはっは! 中々愉快な奴だ! 天然で核心を突かれてしまった」

「あぁ、やっぱ従兄とかか」

「その通りだ。こうもすぐに自分のことを看破されるとは思ってなかった」

 

感じ良さそうに笑いかけてくる青年は握手を求めると、対するカリフも少し笑って返す。

 

「ふん、今時珍しく清々しそうな奴だ。お前みたいなのは嫌いじゃない」

「それは嬉しい限りだ」

「あの……あなたは……?」

 

マナが訝しげに聞くと青年は頭を掻きながら笑顔で応じる。

 

「あぁ、これは失礼した。俺はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期頭首だ」

「バアル……!」

「ほう」

 

バアル……魔王の次に権威がある大王家の子息の紹介に二人はそれぞれの反応を示す。

 

それほどまでにその名が知られているということもあるが、カリフは別の意味で関心を示していた。大元はリアスから事前に聞いていたホープの情報からだった。

 

「そうか、通りでそこいらのバ金持ちとは違う気配を漂わせている訳だ」

「ほう、俺のことを知っている口ぶりだな」

「リアスの従兄でありながら滅びの魔力はおろか戦闘で役に立つとは思えない魔力量しか受け継ぐことができなかった所謂典型的な“落ちこぼれ”むぐぐ……」

「カリフっ! いえ、その、すいません! この子はあまり世間を知らないばかりにこんなこと言ってしまうんですが決して悪気とかじゃなくて正直すぎるだけで……」

 

カリフの口を塞いで必死にサイラオーグに頭を下げるマナだが、以外にもサイラオーグは気にしていないように笑いながら咎めることはしなかった。

 

「いや、本当のことだから気にしてはいない。むしろお前の遠慮のなさには清々しささえ感じる」

「ほう、随分と余裕だな」

「こんなことで目くじらを立てていてはキリがないからな。魔王になろうものならなおさらだ」

 

それでも握手を求めてくるサイラオーグにカリフは認識を改める。

 

見た目もそうだが、纏っている気合からして既に周りとは別格ということは明らか。しかも物腰からして落ちついている。

 

 

 

悪戯心に火が点いた。

 

「ほう、そんな大口叩けると?」

『『!?』』

 

その瞬間、カリフからの威圧にサイラオーグとマナはカリフの覇気に身体を強張らせた。マナは腰を抜かしてへたり込み、サイラオーグは一瞬で立ち直って同じ様に威圧で返す。

 

「うわ!」

「ひぃ!」

「は、柱が!」

 

覇気と覇気のぶつかり合いで二人を中心に発せられた衝撃が周りに伝わっていく。

 

大理石の柱や床がひとりでに亀裂を刻む中でカリフはいつもと変わらない調子で言った。

 

「臨戦態勢に入るのに0.5秒かそのくらいか……15回は死んでいたな」

「く……これはまた手荒い挨拶だな……鬼畜カリフ……確かに最強を謳うことはある……」

 

笑って平常に返そうとしているが、今の自分がどれだけ腰を引かせているのか想像もつかない。

 

このサイラオーグは本来持っているはずの滅びの魔力も無ければその魔力さえもそんなに持っていない。周りからは“落ちこぼれ”と呼ばれ、よく折檻を受け、母にも迷惑をかけてきた。

 

その母は自分が打ちのめされて帰って来る度にこう言った。

 

「あなたには魔力なんて無くてもその体があるではないですか」

 

それからこの体を鍛えに鍛え、負けに負けてきた。そして勝負というものを知り、魔力に変わる闘気も増やして強くなっていった。

 

やがては周りから若手ナンバーワンと呼ばせるほどにまでなっていた。

 

自惚れてはいないが、ある程度の修羅場などこの身と気合で切り抜けられる。

 

 

さっきまではそう思っていたが、再び思い知らされた。

 

―――才能の壁

 

今、自分の目の前の小さい少年は自分に握手を求めて差し伸べてきた。だが、同時に感じる彼からの威圧は次元その物が違っていた。

 

今までこれほどの覇気や迫力を持ち合わせた相手などいなかったし、これほどまでの力の差があるのだと知らなかった。彼の手は実際よりも遥かに重く、それでいて大きい。

 

そんな手から造られる拳は一体どれほどの物か、今の自分がこの手にどこまで通用するのか……

 

握手に応じるのがこれほど恐れ多いこととは知らなかった。

 

(なんて奴だ……この俺を雰囲気だけで威圧するか……)

 

サイラオーグはそれでもカリフから差し出された手を握って握手に応じる。その手から伝わる体温は人間では考えられないほどのエネルギーだが、そんなことも気にしている余裕も無い。

 

背丈的には見下ろしているはずなのになぜだろう……彼の“野性”の舌の上に放り込まれている気分だ。

 

そんな緊張が数秒間続いた時、カリフの方から威圧を解いた。

 

「普通ならショックで気絶するくらいにおどかしたつもりだったんだけど、刺激が弱かったか?」

 

突然の解放にサイラオーグとマナは体が軽くなったのをハッキリと感じ、サイラオーグも覇気を止めた。マナは立ち上がり、サイラオーグは冷や汗を流しながら苦笑して握手を続ける。

 

「いやいや、あんなにビビらされたのは本当に久しぶりだ……ずっと続けられていたらこっちが参ってしまうとこだった」

「どうせしばらくは暇なんだ。これくらいの遊びくらい勘弁してもらいたい」

「あれが遊びで出せる殺気か……リアスからはちょくちょく聞いてはいたが本物の規格外のようだ」

 

サイラオーグが頭を抱えて苦笑していると満面の笑みを浮かべてきた。先程とは違い、年相応の笑みとのギャップにサイラオーグは少し引き攣ってしまう。

 

そんな時だった。

 

「サイラオーグ!」

 

こちらに向かって呼びかける主……リアスが向かってきた。その後ろにはよく見知ったオカ研メンバーも勢ぞろいだった。

 

「リアスか。懐かしいな」

「ええ、時々連絡し合っていたけど直接会うのは久しぶりね」

「カリフくん。君もここへ?」

 

木場の問いにカリフは腕を組んで答える。

 

「まあ、魔王たちからゲストとして呼ばれてしまった……まあ適当に飯食って寝るだけだな」

「できるならそうしてくれ。お前が口を開くとあらゆる方面を敵に回しそうだから」

「……問題発言のオンパレード」

「失敬な。まるでオレが毎回他人を罵っているような口ぶりじゃないのか?」

『『『……』』』

 

イッセーと小猫の指摘で心外そうに顔を顰め、誰もが言葉を無くす。

 

リアスはそれに苦笑しながらもサイラオーグと話を続ける。

 

「それでどうしてここに?」

「あぁ、大半の若手悪魔は集まっているんだが、くだらなくて出てきたのだが……この二人と会ってな」

「くだらない? 他のメンバーも来ているの?」

「アガレスにアスタロト、挙句にゼファードルだ。着いた早々ゼファードルとアガレスがやり合い始めてな」

 

心底嫌そうにサイラオーグさんが溜息を吐く中、別の部屋から爆発が鳴り響いた。全員が身構える中、爆発した所へサイラオーグが向かっていく。

 

「だから顔合わせなど必要ないと言ったんだ……面倒だな……」

 

全員がサイラオーグに付いていくと、爆発の中心地で睨み合う二人の影があった。

 

「ゼファードル、こんな所でやり合っても仕方なくて? 死ぬの? 殺しても問題ないかしら?」

「ハッ! 言ってろクソアマ! これだからアガレスの女どもはガードが固くて嫌になるんだよ! せっかく別室で開通式してやろうと思ったのによぉ!」

 

片方は眼鏡をかけた冷たい雰囲気の同年代に見える女性であり、もう片方は派手にアクセサリーをちりばめたヤンキー系の男だった。

 

その片方を見たカリフは一言。

 

「Xジャポン?」

「……そういうの禁止」

 

小猫からさり気なく突っ込みをもらった所でも関わらず双方の睨み合いと魔力のぶつかり合いは続く。

 

そんな状況に耐えられずにギャスパーが服の裾を掴んできた。

 

「うぅぅ~……アニキ~……」

「引っ付くなみっともない……つか、今なんつった?」

 

何やら妙な呼ばれ方をされたのでカリフが問い詰めようとした時だった。サイラオーグが二人の元へと向かっていった。

 

「ちょっ! 危ないって!」

 

イッセーが慌てて止めようとした時、リアスがイッセーを制す。

 

「大丈夫よ。心配しないで見ていなさい。若手悪魔ナンバーワンの実力を」

「ナ、ナンバーワン!?」

 

驚くイッセーはサイラオーグに視線を向けると既に双方の間に割り込んで仲裁していた。

 

「いきなりのことだと思うが双方共静まれ。これが最初で最後の通告だ。これ以上面倒を起こすなら容赦なく拳を振るうぞ」

 

サイラオーグから大量の闘気が放出される中、カリフは予想以上のポテンシャルに舌を巻いた。

 

(そこいらの奴よりもエネルギー量が極めて大きい。それでいて立ち振る舞いには何の迷いも無い……)

 

まさに大物を釣り上げたかのように心が弾むのを感じた。

 

(これで無能? 落ちこぼれ? とんでもない! こいつはまさしく原石だ。磨けばとびっきりの代物になれるほどに)

 

そんな中でヤンキーの悪魔が青筋を立てて怒りを露わにした。

 

「バアル家の無能……!」

 

全てを言い終わる頃にはサイラオーグの拳がヤンキー悪魔の顔に叩きこまれていた。

 

悪魔でも強いと判断できるくらいの魔力を持っていた上級悪魔を一撃の拳で沈めたのだ。その力量は底知らずだと周りに思わせるには充分過ぎた。

 

『『『よくも……!』』』

 

ヤンキー悪魔の眷族がサイラオーグに向かってこようとするが、サイラオーグがもう一度拳を握って見せつける。

 

「言ったはずだ。これが最終警告だと……」

『『『……』』』

 

全員がサイラオーグを恐れ、動けなくなった。一部始終を見届けたカリフは踵を返して部屋から出ていく。

 

「どこ行くんだ?」

「これからゲストとして魔王たちと見物さ。オレはあまり発言しなくていいとのこととタダ飯食わせてもらうからこれで」

 

ゼノヴィアの質問も簡潔に答えてその場をあまり目立たないようにその場から離れていった。

 

この後の予定はしばらく悪魔同士で自己紹介してから挨拶、その後はグレモリー家に向かう。マナは一足先にアザゼルと合流ということだった。

 

カリフはセラフォルーたちのいる場所へ気を辿って向かうのだった。

 

 

「おぉ、来てくれたか」

「やっほー☆」

「おぉ、これは珍しい客だな」

「いらっさーい」

 

しばらく経った頃、カリフはVIPルームに一足先に着いていたサーゼクスとセラフォルー、そしてアジュカとファルビモウスから挨拶を交わされた。それに軽く手を上げて返すと用意された椅子の上に座って胡坐をかく。

 

「おいおい、久しぶりの再会なんだから少しくらい話しててくれないか?」

「ダメ、食ってきて眠い……」

「だから遅くなったの? 折角ゼクスちゃんと一緒にお喋りしようとしていたのに! もうすぐで式典始まっちゃうんだから!」

 

セラフォルーがプンスカと怒っている中、カリフは欠伸をして聞き流す。

 

その後すぐに式開始の音楽が式場に流れて若手悪魔たちが入場してくる。

 

サーゼクスたちの反対側の席には初老の上級悪魔たちが高そうなワインを飲んでいるのが見て取れる。

 

(どうせ抱負を聞いて終わるだけか……なんで呼ばれたんだオレ?)

 

胡坐をかいて考えるカリフには分かるはずもなくすぐに考えるのを止めた時、遂に式が始まった。

 

「よく集まってくれた。次世代を……」

 

初老の悪魔たちの声は単調でつまらなく、眠気を誘ううものであったためカリフはここらで話を聞くふりをして眠りに着いていた。

 

というのも座りながらであるためうたた寝くらいではあったが話は全く聞いていなかった。

 

「我々もいずれ……」

「サイラオーグ、確かに……」

 

言葉の断片は分かっても詳しくは聞いていない。

 

ここらで本当に眠ってもいいかなと思っていた時、サーゼクスのある言葉で少し興味を持った。

 

「最後に……目標を……きたい」

 

言葉からすぐ推測できるくらいに耳に届いたのでカリフは目を開けてそれぞれの主張に耳を傾けようとする。

 

目を開けていかにも“聞いてました”という格好でいすから身を乗り出す。

 

サイラオーグが最初なので一歩前に出て堂々と宣言した。

 

「私は魔王になることです」

『『『ほう……』』』

 

最初から飛ばしていく若手悪魔に上級悪魔たちは静かに呟いた。

 

「大王家から魔王とは前代未聞だな」

「俺が魔王になることに民が賛成するならそうするしかないでしょう」

 

迷いなく言い切ったサイラオーグのおかげでカリフの眠気はどこへやら、面白い物を見つけたかのように興味が湧いてきた。

 

「私はグレモリー家時期頭首として生き、レーティングゲームに勝っていくことです」

 

リアスは比較的保守的……いや、堅実的だった。

 

その他にも各々の目標を発表し、最後にはソーナたちの出番となった。

 

隣ではセラフォルーが鼻唄で御機嫌ムード全開にしていた。

 

「私の目標はレーティングゲームの学校を開くことです」

 

これには少し意外だったのかカリフも耳を傾ける。

 

「しかしゲームの学校なら既にあるのだが?」

「それは上級悪魔と一部特権階級の悪魔にしか許されてはいません。私は一般悪魔や転生悪魔も通えるような学校を創りたいのです」

 

……面白い

 

最初に浮かんだ言葉はまさにそれだった。

 

もしそれが実現すればもっと多くの原石が多く生み出されることだろう。

 

生まれや血でのみ判断され、有望な者が損をするなどとは正気の沙汰とは思えない。

 

少なくとも学ばせるということは現代において最も重要なプロセスだと思っている。

 

「ふっ……っ!?」

 

思わず笑みを浮かべてしまったのをセラフォルーに見られてしまった。

 

「……ふん」

「……クス」

 

慌てて表情を強張らせるも、かえって微笑ましくなってしまいセラフォルーに笑われてしまった。

 

それには恥ずかしくなってしまい狸寝入りをかまそうとしたときだった。

 

『『『はははははははははははははは!』』』

 

突然、上級悪魔たちがいっせいに大口を開けて笑った。

 

その声にはユニークに笑うなどとは程遠い、嘲るような感情が含まれている。

 

これだけで何故笑っているのかなんて推理するのにそんな時間はいらなかった。

 

「これは傑作だ!」

「無理だ!」

 

笑いながらの罵倒に苛立ちを隠さないままサーゼクスたちを見据えると、視線に気付いたサーゼクスたちが首を横に振る。

 

「おい……セラフォルーくらいは知っていると思ったんだがな……オレはこういうのには胸糞悪くなるってなぁ……」

「それは私とて同じだ。だが、今の私たちでは無闇に彼らに反発することも止める力も無いんだ……」

 

サーゼクスも悔しそうに歯噛みする所を見て気付く。

 

まだ魔王になったばかりのサーゼクスたちは不本意ながら旧悪魔派の力が必要である。そのため不用意な注意ができないでいる。

 

「なるほど! 夢見る乙女ということですな!」

「若いというのはいい! しかしシトリー家次期当主ともあろう者が……」

 

ここらで殺そうかと本気で考えていたのが読まれたのかセラフォルーに手を握られていた。気付けば自分が身を乗り出していたことに気付いた。

 

ここで振りほどくこともできたかもしれないが、ここでは状況が違う。どんな形であれセラフォルーには借りがあるのでここで暴れてしまっては色々と面倒になることは確かだ。

 

もっとも、セラフォルーとかがこの場にいなければ激情に身を任せて血を撒き散らせていたかもしれない。

 

(老害どもを社会的に抹殺するには今の所サーゼクスたちが必要か……)

 

なら話は簡単……どこかの諺にあったかもしれない。

 

―――イカサマはバレなければイカサマにはならない

 

カリフは密かにポケットから消しゴムを取り出し、角を千切る。

 

「下級悪魔は上級悪魔に仕え、才能を見いだされるのが……」

 

偉そうに語るその耳障りな口を……

 

「たかが下級悪魔程度に……」

 

塞いでやる

 

遠目で老害どもの気の流れを把握、注目すべきは脳の働きを司る気脈

 

脳は最も精密な働きを果たす脳に一つでも異常を来たせば当然異常が起こって動きを止める。

 

消しゴムを気で硬質化させて機動隊のゴム弾くらいの威力に調節する。後はその消しゴムで気脈を突いて失神なり昏睡させるなりどうにでもなる。

 

スナイパースタイルでのノッキング

 

一人一人の気脈はそれぞれ位置が違うので集中力を高める。

 

普通は手が震える場面でも対象のマヌケ面が闘志を湧き立たせる。

 

その薄ら笑いを浮かべた面にゴム弾を放った。

 

高速で指で弾いて初老の悪魔たちに飛ばす。

 

数回に渡って放った弾丸は目標の気脈に当たって消しゴムに纏わせた気が連鎖的に反応して反発を起こす。

 

その結果……

 

『『『う……!』』』

 

ソーナを嘲っていた悪魔たちは苦悶の声を上げた後に気を失い、手元に置かれていた料理に顔を突っ込んだ。

 

「……え?」

「ん?……」

「なんだ?」

 

異常に気付いた悪魔たちが初老の悪魔たちに近付き、状態を確認すると一気に雰囲気が変わった。

 

「あぁ……申し訳ございません。ただ昏睡状態に陥っただけです」

「それは緊急ではないのですか?」

「いえ、今皆さま方が食べていたのは『マンドラゴラのソテー』ですな。マンドラゴラは薬品として重宝されるのですが料理として熱を加えると睡眠作用を催す個体もありますので運悪く当たってしまったのでしょう」

 

一瞬だけ張りつめた空気はまた戻った。偶然に偶然が重なった結果にカリフも一息吐いた。

 

「あとカリフくん。後でお話があるので残ってもらえないだろうか?」

 

訂正、サーゼクスからのお叱りコースが決定したのを知って頭を項垂れることとなった。

 

結局、上級悪魔たちのまさかの退場により会合式は予定より早く切り上げて解散となった。カリフは本当に最後まで何も喋らずに座りっぱなしだった。

 

と、いうのもカリフが魔王たちと一緒にいることで世間で話題の“最強の人間”が悪魔サイドだと来賓客に思わせることで協定の真実性を見せつけるといった策略であったことはカリフに知られることはなくホっと一息吐いた魔王たちであった。

 

((((なんとか繋ぐことはできた……))))

 

ちなみに魔王全員にはカリフの消しゴム飛ばしは見えていたのだが、彼らの考えは同じだったのか上機嫌でそれを見過ごすことにしていた。元々から無理があった襲撃なのだから仕方ないとしか言いようが無いのだが……

 

 

会合での謎の出来事が起こった後、サーゼクスの注意を受けたカリフがグレモリー家にお邪魔しているのだが……

 

「カリフ? あなたよね? 会合でのことは……」

「……」

「本当に図星と解釈していいのね?……その様子では……」

 

再びリアスから説教を喰らっていたのだが、これは目線を逸らしてガン無視を決め込んでいる。

 

その態度がリアスの追究を肯定しているようなものだと分かっているのだろうが。

 

「ちなみにイッセーたちも全員あなたが何かしたんだと薄々は感じていたのよ? 普段の自分の行いを改めるいい機会だとは思わない?」

「……」

(落ち着くのよリアス・グレモリー……王は感情に任せて無様な姿を見せてはいけないわ……彼は冥界で右も左も分からない後輩。だから早く認めるなりやってないならやってないって言うなり反応くらいしてくれないかしら? でないとそろそろ私の理性がががががががが)

 

あくまで無視を決め込むカリフにリアスの我慢は限界を迎えようとしているのか体を小刻みに震わせて溢れそうな魔力を必死に抑える。

 

「ひいぃぃ~! 部長さんが怖いですよイッセーせんぱ~い!」

「俺に振るなよ……できれば関わりたくない」

「あれほど怒っている部長も珍しいね。無視されれば当然かもしれないけど……」

 

朱乃でさえも二人の間に入らないように距離を取っている。更に言えばグレモリー家のグレイフィアを除く執事やメイドたちがリアスから発せられる怒気と魔力に身体を震わせているのが分かる。

 

いつまでも進展しなさそうなこの状況にアザゼルが割って入っていった。

 

「まあいいじゃねえか。こいつが何も問題さえ起こさなきゃいいってぼやいてたのはお前だろ?」

「それはそうだけど……だけどこの子ってばバレなきゃいいなんて言ってるのよ!? 到底身過ごせることでは無いわよ!」

「いや、俺から言わせてもらえば相当に成長したもんだ。少し前までのこいつならあの瞬間に会場の全員が木端微塵になってたんだからな」

 

笑いながら言うアザゼルに頭痛を感じながらも今回は引き下がるしかないと歯噛みする。

 

色々と言ってやりたいことはあるのだが、今回の件は原因もリアス自身が納得してしまったためこれ以上怒れる自信が無い。それにサーゼクスたちの面目を潰さない配慮に免じてこれで終わろうと考えていた。

 

ちょうどその時、今まで控えていたグレイフィアがタイミングよく割って来た。

 

「今日はこの辺でもいいでしょう。皆さんもお疲れの様子なので温泉に入ってもらうのがよろしいかと」

「お、温泉あるんですか!?」

 

イッセーの嬉しそうな問いにグレイフィアは笑いかけながら頷く。

 

アザゼルもその報告に嬉しそうにしていた。

 

「グレモリーの温泉を堪能しとけ? 結構評判いいからな」

「って先生嬉しそうですね」

 

子供みたいにはしゃぐアザゼルに全員が苦笑していると、アザゼルがカリフの背中を叩いて呼びかけている。

 

それに気付いたかのようにアザゼルに向き直るカリフ

 

「これから温泉だってよ! さっさと入ろうぜ!」

「……?」

「あ、そうか」

 

首を傾げるカリフにアザゼルが耳を指差してカリフに何かを伝えようとしている、そんな光景に部員たちが不思議に思っているとカリフは自分の耳に指を突っ込んで取り出した。

 

 

耳栓を

 

「なんだって?」

「これから温泉だ。行くぞ」

「なんだと?……すぐ済む」

 

唖然とする部員を余所にカリフはアザゼルと一緒に風呂に向かう。

 

「あいつ……ずいぶんと大人しいと思ってたら耳栓かよ……まああいつらしいっちゃあらしいよなぁ……ひぃ!?」

 

恐る恐る愛する部長を見やるイッセーはすぐに恐怖に身を震わせた。紅髪をゆらゆらと逆立て、滅びの魔力を溢れさせて怒気を撒き散らすリアスにイッセーだけでなく全員がその身を震わせた。

 

「あ、あの、ぶちょ……」

「行かない方がいいイッセー。もう彼女は部長じゃない。今の彼女は怒りに身を任せた本物の悪魔そのものだ」

「いや、なんだかそれ以上の存在にも見えるんだけど……」

「ふふふ……そう……私の話、そんなにつまらなかったかしら?……それとも本当に馬鹿にしているのかしらねぇ?」

 

もう色々と限界なのかリアスの声のトーンが一気に下がった。

 

「こっちは年上として指導してあげようとしていたのにそういう態度? えぇいいわよ。そっちがそういう方法でくるならこっちにも考えはあるわよ?」

 

そう言って去っていく二人の後ろ姿目がけて手を添えて魔力を解放、狙いを定めて……

 

「待ちなさいこの問題児! 今日こそ先輩の威厳を見せてあげるわ!」

「おぉ怖い怖い」

「俺も巻き込むなよ」

 

魔力を撃ちながらカリフたちを全力疾走で追いかける部長に対し、カリフたちは余裕そうに魔力を避けながら逃げて行った。

 

しばらくして三人の姿を見送ったイッセーたちは何だか微妙な空気が流れていたのを感じていた。そんな状況を打破しようとイッセーはとりあえず言った。

 

「と、とりあえず温泉に行きましょうか?」

『『『……』』』

 

黙って頷いた後、先の方で騒音やら爆発やら怒っている混沌の通路に向かっていったのだった。

 

 

しばらく時が経った時、部員全員はグレモリー私有地内の温泉に浸かっていた。

 

その中でアザゼルは黒い羽を広げてご満悦の様子だった。

 

「旅ゆけば~♪」

 

その一方でカリフたちは頭に手ぬぐいをのせてくつろいでいた。

 

「あのアマぁ、ばかすかと魔力撃ちまくりやがって王の素質って器量じゃなかったか?……そこんとこどうなんですか王さんよぉ!」

『あんなの容認するのは器量とは呼ばないわよ!』

「ていうか話くらい聞けよ」

「大体怒ってる理由なんて分かる」

「そういう問題じゃないと思うんだけど……」

 

聞こえていたのか女風呂のほうからリアスに怒鳴られるカリフはさして気にしていなさそうな様子だった。

 

そんな中、カリフの目にチラチラ写る姿が気になっていた。

 

入口付近でギャスパーがうろうろするだけで入ってこようとしてこない。それを煩わしく思ったイッセーはギャスパーの元へ向かって腕を掴む。

 

「何してんだよ。温泉なんだから入らなきゃダメだろ?」

「キャッ!」

 

タオルで胸を覆った女の子っぽい姿と女の子っぽい悲鳴にイッセーは思わず意識してしまう。

 

(だ、ダメだ! こいつは男なんだ……! 意識すんな!)

 

じっくり見てしまう。本人の中ではギャスパ=男の定理を思い出して理性を保っているとギャスパーはその視線に気付いて顔を紅くする。

 

「あの……そんなに見られると恥ずかしいです……」

「し、仕方ないだろ! お前普段から女装してんだから意識しちまうんだよ! ていうか男なら胸なんか隠すな!」

「イッセー先輩は普段から僕をそんな目で見てたんですか!? 身の危険を感じちゃいますうぅぅぅぅぅぅ~!」

「うっさい!」

 

何かを誤魔化すようにイッセーはギャスパーを抱きよせて風呂の中に放り込んだ。

 

いきなり熱湯に晒されたギャスパーは湯から顔を出して絶叫する。

 

「いやぁぁぁん! あっついよぉぉぉぉ! イッセー先輩のエッチぃぃぃぃ! うわぁぁぁぁんアニキぃぃぃ!」

『イッセー、あまりギャスパーにセクハラしちゃだめよ?』

「止めて部長! 俺にそんな趣味はありませんから!」

 

女子風呂から聞こえるからかいと周囲の笑い声にイッセーは羞恥に顔を隠す中でギャスパーは涙目でカリフの元へ向かおうとするも顔面をホールドされて進もうにも辿りつくことは無い。

 

そんな様子に木場は疑問に思っていたことを聞いてみた。

 

「ねえギャスパーくん。その“アニキ”っていうのは?」

「そういえば今日も言ってたが、いつからオレがお前のアニキになったんだ?」

「そう言えばそうだな」

 

イッセーは何とかさっきまでのことを忘れようと便乗し、落ちついたギャスパーもそれに応える。

 

「だ、だってア、アニキは誰よりも男らしくて強くて……女性の方にも人気ですし……」

「まあ気持ちは分かるけど……お前ら同学年だぞ?」

「だけどクラスの中でも一番男らしさが伝わってくるんです。女々しい僕にしてみれば憧れちゃいます……それに……」

 

ギャスパーの表情が少し緩んだことにカリフたちは首を傾げる。

 

「クラスでも僕によく着き添ってくれたり小猫ちゃんや僕の悩みも聞いてくれて……なんだかお、お兄ちゃんみたいだなーって……」

「傍でお前が絡まれてナヨナヨしてんのがムカつくだけだ。勘違いするな」

「いやん! そんなこと言わないで! これでも頑張ってるんですよ! 『アニキ』のほうが男っぽいし」

「発想が安易だな」

 

口では否定するもいつもより口調が優しいことから本心では無いと容易に想像できる。

 

イッセーも木場もそれには頬を緩める。

 

「へぇ、意外だな。お前結構良い所あるじゃん」

「そういえば知り合いの女子も君に相談したりしてる子がいるっけ。最近カリフくんの風当たりがよくなったのもそれが原因かも」

「最近になって増えたんだよクソ……誰かが広めてんのは確か……」

「あぁ、それは俺だよ」

「先生?」

 

一人でくつろいでいたアザゼルも会話の輪に入って来た。だがカリフは恨めしそうにアザゼルを睨む。

 

「てめえか……何のつもりだ?」

「お前学園で結構なレッテル張られてたからそれを払拭する意味合いでな。悩める生徒を救済するのも教師の役目だからな」

「余計な……」

「それに相談とか結構お前向きじゃねえか。お前なんだかんだ言って悩みとか聞いたりアドバイスもするって評判いいぞ?」

「ふん!」

 

どこか面白くなさそうにそっぽを向くカリフにアザゼルは表情を緩める。

 

「それにお前の前ではなーんか隠し事なんてできないんだよなー……全て話して楽になろうって思っちまうくらいだしな……魅力の一つなんだろうよ」

 

それにはギャスパーも同意だったのかうんうんとカリフの横に寄り添っていた。

 

「はぁ……意外な一面だな。今度はオレの悩みを聞いてくれよ」

「それじゃあ僕のも頼むよ。ね?」

「はぁ……」

 

イッセーと木場の依頼にカリフは頭を押さえて溜息を吐く。だが、それでも否定しない限り本人も一人や二人増えても一緒だと考えて無理矢理納得する。

 

「イッセーは女にもてたいってだけだろ? それならもうすべきことは決まっている」

「な、なんだと!? 俺はどうしたら……!」

「簡単だ」

 

すると、後ろからアザゼルがイッセーの腕を掴んで……

 

「先生? 何を……」

「お前は次のステージに進め。カリフと同じ舞台にな!」

「え、ちょっ、まさか!」

「男は黙って混浴だぁ!」

「だああああぁぁぁぁぁ!」

 

イッセーの体はいとも容易く投げ飛ばされて女子風呂のを隔てる壁の向こうへと落ちていった。

 

絶叫が向こうの湯に落ちる音と共に消えたと思ったら、その直後に悲鳴が聞こえてきた。

 

「きゃあああぁぁぁぁぁ!」

「ぎゃああああぁぁぁぁ!」

 

声からしてマナだろう、魔力が爆発したと同時にイッセーの悲鳴も木霊した。その後から女子風呂が慌ただしくなる。

 

『イ、イッセー! 大丈夫!?』

『イッセーさん!? 待っててください! 私が治しますから!』

『ご、ごめん! つい……!』

『あらあら、マナちゃんは純情ですわね。うふふ……』

『うん、イッセーも来たんだ。カリフ! 君もこっちに来ないか!?』

「うっせぇぇぇ! 大人しく風呂に入らせろやぁぁ!」

 

ゼノヴィアからの誘いと五月蠅くなってきた騒ぎを逃れるように温泉から出ていく。

 

「もういいの?」

「こんな五月蠅い中で入ってられるか……部屋で休む……」

「あはは……お休み」

「お休みなさい。アニキ」

「相変わらずノリ悪い奴だな」

 

なんだか今日一日中色々とあって疲労が溜まる一方だと思わせられた。

 

(問題も山積みだな……はぁ……)

 

この合宿中での課題の多さもプラスしてカリフの疲労は増えていく。

 

また明日から苦労する日になるだろうと思いながら温泉を後にしたのだった。


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