ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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今回、ロスヴァイセさんの登場に深い意味はございません。ロスヴァイセファンの人にはお詫び申し上げます。
それとこれからもまだまだ忙しくなっていくので投稿頻度は落ちていくのでお許しください。
それとですが、なぜ映画版「神と神」のベジータは一体どうしたのか……あれはきっとビルスの洗脳かなにかなんですよ。


魔王さまの心労

憧れの勇者と長い年月を経て出会ったカリフとロスヴァイセと再会したのはつい一時間も前のこと。

 

そんな二人は昔の思い出話に華を咲かせている

 

 

 

……はずだった。

 

「だから言ってるじゃないですかー! あなたが私を置いて行った後は本当に大変だったんですよぉ!?……聞いてます?」

「あー聞いてる聞いてるー」

 

思い出話……

 

「散々周りから『昔は昔ー』とか『引きずる女ー』とか挙句の果てにはオーディンのじじい専属の『介護ヴァルキリー』だなんて言われてるんですよー!? どうしてこうなんったんですかー!?……って聞いてます?」

「あー聞いてる聞いてるー」

 

現在、カリフは冥界の個室付きの防音加工された料亭の一室でマナとロスヴァイセと一緒に食事を採っていた。

 

来た最初の頃はというと……

 

『ここではなんだ、これから冥界散策するけどお前はどうする?』

『え? でも……』

『オーバーな奴だ。大分雰囲気も変わったようだし、そこら辺の話なら暇つぶし程度にはなるからな』

『じゃ、じゃあ御一緒……させてください』

 

最初は嬉々として恥ずかしながらもカリフたちと同行し、途中まで二人だけで昔話から今に至る話で盛り上がっていた。

 

だが、その横でマナは面白くなさそうに顔を顰め続け、そっぽを向きながら二人に付いて周っていたことは本人しか知らない。

 

そして、小休止としてグレモリー系列の料亭で腰を降ろした時、このカリフの何気ない一言がきっかけで今に至る。

 

『お前、最近になってストレスを感じてないか? どこか疲れている感じがするし肌のハリが若干弱い。しかも白髪が一本光ってる』

『なん……だと……?』

 

そこからのロスヴァイセの崩れようは凄まじく、急にキャリアウーマンが大声張り上げて泣きながらテーブルに突っ伏した。そのギャップにマナは目を丸くしてびっくりし、カリフでさえもここまでストレスが溜まっていたなどとは予想していなかったのか泣き崩れた瞬間は流石に引いた。

 

他人のフリをしようと思っていたけれどもロスヴァイセに捕まり、名前を連呼してきたので逃げ場を無くし、止む無く防音仕様の個室に移してもらったのだ。

 

まさにダムが崩壊し、流れ出る洪水のような感情の捌け口としてカリフは捉えられてしまった。

 

もうメンドくさくなったカリフは思い切ってロスヴァイセの水に軽くアルコールを“盛った”のが最大のミスだったといえる。

 

徐々にアルコールを増やして酔いつぶれるかと期待していたギャンブルは裏目に出てしまい、たった一滴ていどのアルコールで絡み酒モードになってしまった。

 

思わぬ悪手に悩まされて今に至る訳だ。今回のことはマナでさえカリフを簡単に見捨てていた。

 

本人は頬杖を付いて上の空だというのに酔いが回ったロスヴァイセは悩みを独白していく。完全にストレス社会の被害者へと変貌してしまったということだ。

 

マナはそんな彼女に諭すように言い聞かせる。

 

「あの~……お仕事に戻らなくて大丈夫……ですか?」

「ふえ? いいんれすよー! どうせ明後日までフリーなんですから好き勝手させてもらいますー! あっちも私がいなくなって羽を伸ばしているでしょうし!」

 

完全にやさぐれた酔いどれ状態のままカリフの膝の上に頭をのせて……膝枕状態となった。

 

「おい、何してんだコラ」

「ん~……これもすごくいいですね~……もう、このままずっと……」

 

トーンが小さくなっていったと思っていたら既に深い眠りに着いていた。スウスウと寝息を立てるキャリアウーマンの姿にカリフとマナは溜息を吐いた。

 

「なんだか不思議な人だったね……」

「大分溜まってたようだな……まるでオヤジだな。オヤジヴァルキリー」

「本人の前でそういうのは言わない方がいいんじゃないかな?」

 

苦笑しながらロスヴァイセを起こして背中に担いでやる。

 

「その人はどうするの?」

「今日はグレモリー邸の出入りは無理っぽいしセラフォルーから少し興味深い案件預かってるからこのままどっかのホテルに泊まれれば都合がいい。朝一ならこの酔いどれもすぐに帰れるだろう」

「そっか。じゃあホテルはどうするの?」

「レヴィアタン系列の指定ホテルを取りつけてもらったから問題はねえ」

「じゃあ……今日はもう……」

 

二人は頷き合って渡された地図を片手に印の着けられたホテルへと向かったのだった。

 

 

 

 

途中でシトリー眷属と鉢合わせながら

 

「む」

「お前、カリフとマナさん……だよな?」

 

匙の問いにカリフはすぐに納得したかのように聞き返す。

 

「お前らもこのホテルか?」

「はい。明日の会合場所だと実家では遠いですから。そういうあなたたちはリアスたちと一緒じゃないんですね?」

「悪魔じゃないから入国も大変でね」

 

困った、と仕草で表すとソーナは納得して話題を切り上げた。だが、匙はカリフの背中にしがみついているロスヴァイセがどうしても気になっていた。

 

「えっと、そのおぶさっているお姉さんは誰?」

「信じられない様ですが……オーディンさまのお付きのヴァルキリーだそうです」

「はぁ!? 超重要な人じゃん! なんでお前と、しかもそんな酔いつぶれてんの!?」

「五月蠅いからアルコール盛っただけだ。別に問題は無かろう?」

「大アリだよ!」

 

相変わらず言葉が足りないカリフの会話を捕捉するかのようにマナが事情を説明するといった感じで雑談し、同じホテルに入っていった。

 

今日だけシトリー眷族と過ごすこととなった。

 

 

 

 

とはいった物の基本的にシトリーとカリフたちは別の団体なので部屋まで一緒ということはない。

 

マナとカリフ、そしてベッドに放り投げたロスヴァイセと同室となっている。

 

「なんだかあっという間に今日という日が過ぎたな……大半はこいつの愚痴と接待になっちまったけどな」

「うん……相当に溜まってたみたい……」

 

二人は気持ち良さそうにベッドにくるまって眠るロスヴァイセに苦笑しながら幸せそうな寝顔を見つめる。ちなみに彼女は日帰りだと考えていたのか着替えは持ってきておらず、出会った当初のスーツ姿で眠っていた。

 

このまま朝まで寝てればいいのだが、寝たのが夕方だったから早めに起きそうな予感がしていた。その前にカリフにはやりたいことがあった。

 

「ふぅ……もうこのまま風呂に入るか」

「え、でもここって……」

 

そういうマナだが、実はこのホテルには大浴場が無い。しかし、代わりに各個室に備えられているプライベート露天風呂が備え付けられている。捕捉だが、セラフォルーがカリフに進めたホテルだけあって内装はとても豪華である。個室にシャンデリアは常識、広さも改築前の自宅以上の広さだった。

 

「もちろんオレとお前は別の所で入る。ソーナの所なら入れてもらえるだろう?」

 

遠回しに出て行けと言うカリフの提案にマナは項垂れながらもどこか納得してしまう。

 

最近、知ったことだが、カリフはこういった性関係の事例に関しては意外とキッチリしている。

 

雰囲気に流されることや無理矢理手篭にするような方法はもってのほか。そう言う点では“暴力以外の力”でしかどうにもならないことと考えている。

 

野性的なカリフは生物の持つ生理的欲求が飛び抜けて強い。

 

食欲、睡眠欲、排泄欲、そして征服欲と性欲も例外ではない。

 

そんな彼だからこそこういったルールを敷かなければ“余計”な関係を作ってしまうからだ。

 

もちろん、マナはそんなことなど考えもつかずに単に自分に興味が無いと思われてしまって凹んでいる。

 

少し沈んだ表情で頷いた。

 

「うん……」

 

抑揚のない声にカリフは不思議に思いながらも対して深く考えることなく洗面具を持っていくマナを見送る。

 

そして、ドアが完全に閉じたことと足音が遠ざかっていくのを感じてから自分の洗面具を持った。

 

「オレも入るか」

 

そう言って服を無造作に脱ぎ捨てて露天風呂へと向かったのだった。

 

 

 

 

「ん……」

 

ベッドの中のロスヴァイセの意識が戻ったことに気付かないまま……

 

 

「はぁ~♪ こりゃいい……非常にいい湯だ」

 

湯気が立ち上る露天風呂の真ん中でカリフはじっくりと風呂を堪能していた。手ぬぐいを頭にのせ、おもちゃのアヒルを浮かばせるほどシチュエーションにも凝っていた。

 

意外にも雰囲気を楽しんでいるカリフは鼻唄を歌いながら湯に浸かっている。しばらくの間、様々な事件に巻き込まれ続けて身も心も少し疲れていたこの時に温泉はまさに救いそのものだった。

 

「このまま宿泊も延期して泊まろうかな……」

 

その場で思ったことを口にした瞬間、カリフはすぐに表情を引き締めた……と思ったら今度は呆れた様子で溜息を吐いた。

 

カリフにだけ分かる。この宿泊施設に大物の珍客が来ていたこと。

 

そして、すぐ傍でシトリー家の紋章の魔法陣が出現してそこから一人の影が現れた。

 

「やっほー☆ あなたの通い妻のセラフォフォルーでーす☆」

「来たな珍獣め」

 

光と共に横チェキで現れた美少女のセラフォルーが姿を表した。

 

いつものツインテールを下ろし、朱乃やリアスくらいではないにしろ魅力的なスタイルをタオル一枚で前だけ隠して顔を赤らめながら微笑んでくる姿を披露していた。並の、いや、大抵の男ならその姿でノックアウトされていただろうがカリフは並ではなかった。

 

「何の用だ? 重役がこんな所までバックれて」

「もちろん、疲れた夫の御奉仕だよ☆」

 

出た……満面の笑みで言ってくるセラフォルーに頭を押さえて一番に思った感想がこれである。

 

セラフォルーが苦手な理由……素直な気持ちを自分にぶつけてくる姿勢そのものだった。

 

嘘も無く自分だけにどんな姿も見せてくれることには好感は持てたが、いつもの騒がしい様子も従来のものであることも事実。

 

決して嫌いではないのだが、同時に苦手意識も持っているということで対応に困ることがたまにある。

 

だけど普段は普通に返しているので苦痛になることはなく、むしろ“らしくない”行動までしてしまうことが稀にある。

 

“今の”時点ではカリフの中で最も手強い相手と認識されている。

 

セラフォルーは風呂用の椅子と桶をもう一つずつ持ってきて微笑む。

 

「ほら、体洗ってあげるよ☆」

「いらん。それくらい自分でできる」

「背中なんて一人じゃやりずらいでしょ? ほら」

「……」

 

こうなったセラフォルーは頑固だと知っているカリフは折れて風呂から上がる。以前にも素っ裸のときに訪問してきたときがあったのだがその時に“ムスコ”も見られたこともあった。その時に歓喜した魔王少女を思い出したので前だけはタオルで隠す。

 

「あーん。カリフくんの立派だから隠さなくていいのに~」

「お前喜ぶだろ? 絶対に嫌だ」

「ぶー。イジワル……」

 

不機嫌そうに呟くセラフォルーにカリフは構うことなく椅子に座って背中を見せる。

 

セラフォルーはボディソープで手ぬぐいを泡立たせ、カリフの背中を洗ってやる。

 

ゴシゴシと背中を流してやるとカリフは少し意外そうに驚く。

 

「随分と手慣れたものだな」

「えっへん! これでも魔王だからね、作法くらいバッチリだよ! それに昔はソーナちゃんと背中の流し合いもやってたからね」

「だったらオレじゃなくてだな……」

「いいの! 今は今! カリフくんとのお風呂のほうがレアなんだよ☆ それに……」

「?」

 

急に声のトーンが落ちたことに疑問に思っているとセラフォルーの手が止まった。

 

「今日くらいソーナちゃんとも一緒にいたかったんだけど……ソーナちゃん、お姉ちゃんと一緒ていうのは恥ずかしいのかな……って」

「授業参観の日のこと忘れたのか?」

 

本人に自覚が無いことにカリフは若干引いてしまっているのだが、セラフォルーは気落ちしているのか背中を流す動きがゆっくりであった。

 

「『魔王』になってからソーナちゃんと会える時間も少なくなっちゃったし、会っても怒られることの方が多いから……嫌われちゃったのかなって……」

「……」

 

桶をゆっくりと置く音が響く以外に何も聞こえてこない。裸の男女二人が並んだ光景が永遠に続く、そう思わせる間があった。

 

「え? きゃっ!」

 

だが、カリフは唐突にセラフォルー腕を掴んで引き寄せて椅子に座らせる。

 

「えっと……」

「座ってろ。今度はオレがやってやる」

 

そう言って今度はカリフが手ぬぐいをボディソープで泡立たせる。

 

「いや、いいよそんなこと。帰ったらお付きの人がやってくれるから……」

「ふん、やられたことは倍にして返すってオレの主義を果たすだけだ。このままされっぱなしってのも何か納得しがたいからな。ほれ、背中」

「……」

 

セラフォルーもカリフが頑固だってことくらい分かっているのか長く綺麗な髪を手でかき集めて背中を披露する。

 

滑らかなガラス細工のように艶がある小さい背中に手ぬぐいを押し当てる。

 

「ふわぁ……あったかい……」

「ふ~ん」

 

それ以降、カリフは黙々とセラフォルーの背中を洗う。しばらく続いた時、カリフから切り出した。

 

「本当に小さい背中だ。しかも柔らかくて少しでも力を入れると壊れそうだ。ガラス細工のように……」

「そう? これでも頑丈なほうなんだよね~」

「こんな小さい背中で背負っている物はあまりにでかすぎるかもしれんな……」

「……そうかも」

「その上さらには妹が不安か? 相変わらず忙しい奴だな」

「そんなこと言わなくたって……」

 

心外そうにカリフを睨むが、以外にもカリフが口元を吊り上げて笑っていたことに少し疑問を覚える。

 

「いつものお前なら笑い飛ばしていると思うんだがな」

「む~……」

「お前はこれと決めたことにはとことん我を貫くからな。そんなお前がらしくないこと言うと不気味なだけだ」

「一言多い~。この威張りん坊」

「厨二病」

「……」

「……」

 

互いに悪態を吐いて少しの間睨み合うも、すぐに二人の表情は緩み……

 

「……ふふ……」

「ふん」

 

セラフォルーは思わず吹いてしまい、カリフはぶっきらぼうに返すも表情を緩くなっていた。

 

気の抜けた二人はまたいつもの口調に戻った。

 

「あの妹はお前と違ってお堅いかもしんねえけど、本気で嫌っている気配なんてあの時は微塵も無かった……ていうか考えたらお前が姉だからな……こんな姉がいたら憎しみとかどうでもよさそうな天然な奴が育つと思うんだがね」

「あ~、それすっごい失礼~」

「そんなありもしない仮定に悩まされるお前が悪い。過去の自分が間違ったと思っているのか?」

「そんなことないもん! ソーナちゃんは私の麗しの悪魔だもん☆」

 

やっといつもの調子に戻ったことで少し表情を緩みながら「そうかよ」と返した。

 

穏やかな声を聞き逃さなかったセラフォルーは嬉しそうに振り向いて咄嗟にカリフの顔をじっと見つめた。

 

「何だ?」

「ふふ……知ってる? これでも色んな人からアプローチされたりお誘い受けてきたんだよ☆ 今ならタダでこのレヴィアたんが君の物になるよ?」

「いや、すいません。いいです」

「いいのかな~? そんなこと言ってたら他の人の物になっちゃうよ~? 残念でしょ~?」

「ふ~ん」

「もう! こういう時は『オレが幸せにしてやる!』って言うものなんだよ☆ きゃっ!」

 

もう対応がメンドくさくなったカリフはセラフォルーに桶を使ってお湯をぶっかけるとその勢いに負けてセラフォルーが床に転ぶ。

 

倒れたセラフォルーはびっちりと体のラインに沿って手ぬぐいを引っ付かせながら打った頭を押さえて涙目になる。

 

「いった~~~い!」

「アホ抜かすなコノヤロー」

 

悪態吐きながら湯船に入っていくカリフに付いて行くようにセラフォルーもその中に入っていく。

 

隣り合う二人だが、セラフォルーはさらに接近してカリフの肩に頭を載せて寄り添う。

 

「は~……誘惑しに来たつもりなのにまた愚痴になっちゃった……いつもごめんね?」

「全くだ。ストレスの掃け口くらい他で見繕ってほしいんだけど」

 

そう言うカリフだが、セラフォルーはクスっと笑った。

 

「君だから言えるんだよ……君は人の夢とか悩みを絶対に馬鹿にしないで聞いてくれるからかな……だからあんなにモテちゃうんだよね……」

「知るか。オレには女の考えることが分からんからな」

「朱乃ちゃんやあのデュランダル使いの子とも付き合うっていうなら何も言わないし文句も言わない。だけど一番はこのレヴィアたんだからね!」

 

セラフォルーが立ち上がってカリフに指を指して物申す。

 

カリフにある種の宣戦布告を告げると対するカリフも不敵に笑って返した。

 

「主張は個人の勝手……だが、オレを落とす最低条件は忘れたわけではあるまい?」

 

すると、カリフは独特の動きと共に拳法の構えを取る。

 

対し、セラフォルーは膨大な魔力を解放させていつも持っている魔法のステッキを異空間から取り出す。

 

「強い子が好きなんでしょ? それならこのきらめくステッキであなたのハートを鷲掴みにしてあげるんだから☆」

 

暖かな温泉がセラフォルーの魔力で冷えていき、熱かった温泉の湯は瞬く間に冷えて氷を張ってしまう。

 

氷の魔力がカリフの体を冷やしていくにも関わらずカリフは素っ裸のまま冷気に当たっても余裕を崩さない。

 

露天風呂の真ん中で睨み合う二人。

 

「ギャリック砲!」

「くらえー!」

 

そんな二人の気と魔力がぶつかり合うのはそう時間がかかることではなかった。

 

 

露天風呂の真ん中で二つの力がぶつかり合ったのだった。

 

 

 

「はぁ……オレだけハブられて一人か~……」

 

同時刻、別の部屋の露天風呂では匙が一人で涙を流しながら湯に浸かっていた。

 

生徒会員の中で唯一の男子である匙は見事にソーナの男女分離の煽りを受けて孤独の一夜を過ごそうとしていた。

 

匙自身も仕方ないことだと理解しているのだが、これはどう考えても好機としか言えなかった。

 

憧れの会長と同じ屋根の下で一夜を明かす……まさにうってつけのシチュなのだが、それをソーナが許すはずないことも理解しているのでやるせない気分で湯船に浸かる。

 

「兵藤じゃないけど……花園ってのを見てみたいなぁ……」

 

馬鹿なことを言っていると自覚しているので余計に切なくなってしまい溜息が止まらない。

 

「もう寝よう……」

 

そう言いながら風呂から上がる時、匙は異変に気付いた。

 

「ん?」

 

桶の中に入ったままのお湯が少し波打っていることに疑問を覚えて桶の波紋をガン見する。

 

「地震か?」

 

この時はまだ感知できないほど小さい地震だと思ってあまり考えずにすっと眺め続けた。

 

ただ少し波紋が段々と大きくなっていく様子を見ていたら突然波紋が消えた。

 

「?」

 

何が起こっているのか訳も分からずに辺りを見回していた時だった。

 

 

 

背後の壁が派手に大破し、壁を突き破った津波が匙の背中から覆い被さった。

 

「ふぐっ!?」

 

瞬く間に津波に飲みこまれた匙は濁流の中に身体がさらわれて姿を消した。

 

そして、連鎖的にいくつもの露天風呂を貫通させた津波の元の場所では気と魔力のぶつかり合いが続いていた。

 

力の奔流の中から現れたカリフとセラフォルーは未だに暴れ回っていた。

 

「はっはっはっはっは! どうしたどうしたぁ!?」

「まだまだ―☆」

 

カリフは手加減しているとはいえ、相当に二人はハイになってバトルを止めようともしていない。

 

セラフォルーがホテルを貸し切り状態にしていたおかげで他の客に被害がなかったものの、ホテルの損害は既に度を越していた。

 

拳とステッキがぶつかり合う中、二人の元に次々と人が集まって来た。

 

「ちょっ! なにこれ!?」

「お姉さま! カリフくん! 何をなさっているのですか!?」

 

そこには慌てて来たのか、タオルで体を覆い隠したマナやソーナを筆頭とした生徒会メンバーが集まって来た。

 

「ねえ! これは一体きゃあ!」

「ぐ……分かりません。ですが二人共私たちに気付いてもらわねば」

「は、はい!」

 

力の奔流に耐えながらも二人を呼びかけようと大声を出して二人に呼びかける。

 

「カリフー! 聞こえるー!」

「お止めくださいお姉さま! 御自分のホテルを粉々にする気ですか!?」

 

そこからマナと生徒会メンバーが呼びかけていると、セラフォルーとカリフがそれに気付いた。

 

「む」

「あ……」

 

すぐに二人の動きは止まり、気と魔力を引っ込めると暴走していた温泉や氷はその場に崩れ落ちていった。

 

改めてみると始め風流な露天風呂が見るも無残に木端微塵と言えるほど大破していた。

 

佇む二人にソーナはズカズカと近付いてきて大声を張り上げる。

 

「何を考えているのですか!? こんな所で戦闘なんてどうかしてます!」

「あ、あのソーナちゃん……これはね、じゃれ合いというかなんというか……」

「そうだとしてもあなたたちは御自分の力の大きさを自覚してください! それよりも何でお姉さまがこんな所にいるのですか!? また抜けだしたんですね!?」

「あぅぅ……」

 

魔王と名高いセラフォルーも愛する妹には弱いのか、それとも図星を突かれたのか、間違いなく両方の理由から反論もできずに黙りこくってしまう。

 

「全く、お戯れが過ぎます。そしてカリフくん! あなたもどういうことですか! こんな……」

 

まだまだ言いたいことはあるが、それを後に回してカリフに言及しようとするソーナが彼に視線を向けた時だった。

 

「こんな………」

 

ソーナの口調が段々と小さくなり、それどころか顔を紅くさせて体を震わせていく。

 

他のメンバーはソーナよりも早くに理由に気付いてから何も言えなくなり、むしろ話すことさえ躊躇われてしまった。

 

なぜなら……

 

「あれ? 前を隠してた手ぬぐいは?」

「無くした」

 

さてみなさん、カリフのように体の一部を覆う手ぬぐいかタオル……それらを無くしてしまったら何が見えるか。

 

至極簡単……カリフは“生まれた当時の恰好”で堂々と佇んでいた。

 

カリフの立派な“ナニ”を彼女たち全員にバッチリと見られていた。

 

『『『……』』』

 

カリフの全身を放心状態で全員が上半身、そして下半身へと視線を行ったり来たりとしている中、視線に耐えきれなくなったカリフが一言」

 

「これどう思う?」

「すごく……黒光してます……」

 

その言葉を最後にソーナはその場で意識を手放して崩れ落ちた。

 

 

 

 

その頃、ロスヴァイセはというと……

 

「zzz……勇者さま~……ムニャムニャ……」

 

スーツ姿のくたびれた二度寝姿をベッドの上で晒していたのだった。


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