ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~ 作:生まれ変わった人
『『『リアスお嬢様、おかえりなさいませ!』』』
列車が駅のホームに着いた瞬間、花火が上がり、大勢のメイドや執事が手旗を振ってリアスたちを迎える。
初めてグレモリー家に来たイッセーたちは口を空けてポカンとし、ギャスパーは怯えてイッセーの後ろに隠れる。
その様子を列車の中から頭を出して見ていたカリフもこれには舌を巻いて驚いた。
「これはまた壮観だな。オレたちには関係ないけど」
「そういえばお前は悪魔じゃないから別の所で入国審査だっけ?」
「別にいらねえだろメンドくせえ」
カリフが不機嫌そうに吐くと朱乃がなだめるように言い聞かせる。
「仕方ありませんわ。折角のセラフォルーさまの御好意なのですから受けないというのも失礼ということです」
「ぐ……」
流石にそこを突かれると何も言えなくなってしまう。普段は騒がしくてやかましいだけなのだが、カリフはそこまで嫌っていることはない。むしろ感謝すべき場面が何度もあったくらいだ。
ここだけの話、カリフは従来の義理堅さゆえに物事に深く干渉しすぎてしまうコンプレックスを抱いている。
なんか自分がどんどん甘くなってきたとゲンナリするくらいに
言葉に詰まった朱乃はそれが面白かったのか、または可愛らしく思ったのかカリフのほっぺをつんと突いて笑っていた。
「ふふ……あなたのそういう所も大好きですよ」
「うっせぇ。速く行け」
シッシと指を払いながら追い返すと、朱乃はいつもの様子で笑いながら手を振って別れた。
「後は……入国審査か……」
「さっきのイッセーたちみたいにそう時間はかからないと思うよ? えっと隣……いいかな?」
「どうぞ御勝手に」
全員が豪邸に向かって行くのを見送ったマナとカリフは互いに同じ席に座る。とはいっても対面席ではなくマナはカリフの横にたどたどしくも腰かけてきた。
「……おい、近いぞ」
「……迷惑……かな?」
赤面しながらも彼の腕に朱乃やリアスほどではないが、充分に豊満といえる胸を押し付ける。だが、今まで男経験のないマナはいかに自分が恥ずかしいことをしているかを自覚して顔が照れと羞恥でより一層紅くなる。
『おぉ、前の晩に言ったことを本当に実現させるとは……やるようになったねえマナっちも』
『だけどこれってあざとすぎない?』
『普通の男ならともかく、今の相手にはそんなに通用しないと思います。残念でしたね』
「一人くらいは応援くらいしてよ!!」
自分の頭の中で好き勝手言ってくる人格者たちに思いっきり怒鳴りつける横でカリフは大きくあくびをかいた。
昨日まで何気にテンションが上がって眠れなくなっていた反動が今になってきたらしい、ということは本人だけの秘密である。
カリフはそのまま座席と水平の横方向に身体を向けて体を倒した。
だが、今はマナと隣り合って座っていることもあるので……
「え?」
念話で喧嘩していたマナは自分の太ももの感触に気付いて目を向ける。
そして見たのは自分の太ももをを枕代わりにして眠っていた。俗に言う膝枕状態である。
「え、えと……何を……」
急なことで狼狽するマナにカリフは目を閉じながら小さく告げた。
「この感触は中々にいい……邪魔だと思うならどかしてもらっても構わん」
「あ、そういうんじゃなくて、ちょっとびっくりしただけだから気にしないで?」
「そうか……なら……着いたら起こし……て……」
カリフは眠気に負けて完全な眠りに着いた。
スヤスヤと穏やかな寝息を立ててマナの上で眠るカリフの寝顔に思わず生唾を飲み込む。
(ちょっと……可愛いかも……)
いつもはたくましく、力強い印象を受けるカリフの顔も今ではまるで寝息をたてる赤ん坊みたいに安らいでいる顔で眠っている。純粋無垢な彼の姿にマナの気持ちが膨れ上がる。
(……ちょっと覗くだけなら……)
自分でも疑ってしまうような言い訳を心の中で繰り返しながらゆっくりと互いの顔の距離を縮まらせる。
ゆっくりと無防備な愛しい寝顔が眼前に近付いて来る。
「……ん……あん……」
彼の寝息が濡れた唇に敏感に反応して艶めかしい声を洩らしてしまう。それと同時に自分が何をやっているのか自覚させられるような羞恥といつアザゼルとカリフが起きてしまうか、といったスリルを味わっていた。
「はぁ……はぁ……ん……」
なぜか自分の動悸が激しくなるのを波打つ胸の鼓動で感じ、余計にマナの心に加速を付ける。
イケない気持ちに歯止めが利かず、マナはその一歩を踏み出そうと顔をより一層近付ける。
一線を越えてしまう二……一ミリの所で頭の中に声が響いた。
「………」
『あら、意外と可愛い寝顔ね』
「ひゃっ!」
急に静かだった別人格のマジが念話で声をかけてきたおかげで一気に目が覚めた。いや、覚めたというかどちらかと言えばショック療法で本来の理性に引きずり戻されたということだった。
「ふぅー……ふぅー……!」
『あら~? お楽しみの途中だった~?』
『いや~、マナっちエロかった……なんだかこっちまで変な気持ちになってきちゃった……』
「し、知りませんよそんなこと!」
顔を紅くさせてからかってくるマジにマナは顔を紅くさせて照れ隠しに大声を張り上げる。
だが、マジとガガのからかいはエスカレートしていき、本格的に羞恥で泣きそうになるマナにヴァルが救いの手を差し伸べる。
『止めなさいみっともない。二人だってマナとの精神リンクで嫌らしい顔してましたから人のこと言えません』
『あら? そういうあなただって蕩けた顔で悦に浸ってたじゃないの』
『し、仕方ないでしょう! マナと私たちは皆で一つの存在。精神でリンクされるのはと、当然なのですから!』
『でもヴァルさんが一番欲情してましたよね。息使い荒かったし』
『そんなこと……!』
『ねえ、なんか下に垂れて……』
『嘘!? さっき拭いた……あ……』
『…………え?』
『まさか本当に………あ~あ……』
『な、なんですか……』
『あなたとマナのエロさは同等だということが』
「『そんなことない!』」
なにやらヒートアップしていく念話はやがて外部からでもまる聞こえになるほどの口論になってもカリフは起きる気配は無い。
「おやおや、お若いですね」
レイナルドは年寄り独特の穏やかな笑い声を上げる。
(バレバレだっつーの。こりゃ面白いこと聞いたわ)
すぐそこで途中から起きてタヌキ寝入りをこいていたアザゼルが笑いを堪えながらもマナのやり取りを念話ジャックで聞いていた。
だが、その他にもアザゼルは気になったこともあった。
マナの膝に頭を乗せて眠るカリフを見る。
(まさかお前が他人の前で“眠る”なんてな……以前のお前だったら考えらんねえよ)
思い起こされるのはまだ過去のカリフの光景
誰も信じず、誰にも頼らず、やることといえば誰かを利用するのみだった狂気
その狂気を帯びた笑みは当時のアザゼルでさえも戦慄し、本能的に“勝てない”と痛感させられるには充分過ぎた。
(随分と大人しく……いや、優しくなったものだな)
狂気に満ちていたあのカリフに現れた明らかな変化。周りから見たら普通のことかもしれないけどカリフにとってはとても大きな意味であり、同時に致命傷とも言えた。
だが、それが逆にアザゼルを不安にさせることにもなる。
今まで他人を頼らなかったのに今ではその“他人”に頭を密接させて眠りこけている。それはつまり、その人物に対する“信頼”と同時に“油断”とも取れる。
―――戦いの記憶が薄れている?
本来なら喜ぶべきなのだろうが、カリフの事情を多少なりと知っているアザゼルは嬉しい半面、どこか危惧を抱かざる得ない。
しかし、今の自分ではどうしようもなく、今の場面では必要なことだと割り切って目的地に着くまでずっと目を閉じていたのだった。
◆
しばらくして列車は目的地に着いたのを確認したカリフは列車の揺れ具合で察知してその場から起きた。
目覚めはいきなり目が開くほど快眠だったようだ。ただ、目が覚めた最初の視界でマナがゲンナリとして心なしかやつれていたようにも見えた。
「……なんだその酷いツラは?」
「いや、ちょっとね……」
これ以上深入りしてもメンドクサそうだからそれだけ聞くと頭を上げてマナの膝枕から離れる。
そして、外を見るとすぐ目の前に城とも言えるほどの屋敷がそびえ立っているのが見える。列車の窓から見上げただけでは城の天井部さえも見えないほどに。
「ここでお前らの入国審査をしてもらう。悪魔以外で冥界の入国が厳しい中でのお前等は人間(笑)と魔法使いとして稀なケースだから厳重に審査させてもらうってことだ」
「ふん、入口も分かったのにこんなことをしなければならんのか? 本当に入国というのは面倒だな」
「そう言うな、パスポートがないだけ気楽だと思え。……あまりやらかさなければ、な……」
「いちいちうるさいなテメーは!」
そうは言うが、アザゼルはもちろん、マナもこの超ド級の問題児が何かしでかさないかと内心ではドキドキしている。何せモンスターがそのまま人間の皮を被ったような存在なのだからだれもその思考もこれからの行動も理解できないのだから不安に思うのも無理は無い。
何度も母親が子に言い聞かせるように二人はカリフに「静かにしていろ」と何度も繰り返して手痛い苛立ちをぶつかられるのは入国審査五分前だということは御愛嬌である。
「ふん、本当にあっさりと終わったな」
入国審査は十分どころか一分くらいですぐに終わった。内容は人間であるかの有無を確かめる質疑応答とイッセーたちと同じように機械を用いた方法だったので予想していたよりも時間が空きが出たのは嬉しい誤算と言える。
アザゼルは堕天使の代表ということでそのまま会合に直行し後ほど、リアスたちと合流ということになっている。その間、マナと二人っきりで冥界の観光で時間を潰すこととなった。それにはマナも鼻唄混じりで浮かれるほど機嫌が良かった。
「あ、カリフ」
「やっぱ終わってたか。よし、どこ行くか?」
「そ、そうだね……一緒に決めない?」
平然を装うもやっぱり嬉しいものは嬉しい。頬も少し染めながら観光用のパンフレットを広げてカリフの横に寄り添う。
当の本人も思惑通りパンフを見ようとマナに密着するようにパンフを見つめていた。
「ほう、貴族街とやらはあまりめぼしいものは無いが、一般の街だと色々ありそうだ」
「あ、ここの広場の写真もかわいい~……ここも行こうよ」
「それもあるが、三勢力の戦争時に造られたこの宮殿にも行ってみたい。近くに美味いものもあるそうだからな」
「ここでは人間界では扱わないような食べ物ばかりではなさそうだね……」
「戦乱時代の記録館もあるのか? ここも行ってみたいものだ」
期待が膨らむ二人は互いに寄り添いながら駅のホームに向かって行く途中で列車はやってきた。
いいタイミングだと思ってそのまま乗り込もうとしていた時だった。
(ん?)
列車の中の気に気付いてその場で足を止めてしまった。
「? どうしたの?」
その場に止まったカリフに疑問を抱いて声をかけるもカリフは首を傾げるだけで返してこなかった。
前方の列車が停車し、プシュー、と音を立てて扉が開くとそこから一人の女性が降りてきた。
「これが冥界の国交省ですね……全く、オーディンさまのヴァルキリーも楽ではありませんね……」
スーツ姿で長い銀髪のサラサラなロングヘアー、容姿端麗のキャリアウーマン風の女性が降りてきた。
(綺麗な髪……)
まるで絹のような髪と相まった容姿のおかげでマナも見とれるような美女と言っても過言ではない。
マナは容姿に見とれているようだったが、カリフは別の理由でその女性に見とれていた。何せドッグとウルフが相棒になったきっかけともなった女性であり……約束は忘れることは無いカリフには分かっていた。
すぐに女性の前に躍り出て声をかける。その女性もいきなり前を塞ぐ少年に怪訝そうな表情を作る。
「よぉ、オレを御存じだろ?」
「……あの……急になんのことやら……(これって……ナンパ?)」
ナンパされたことに上機嫌ながらも今は仕事のためクールに装って断ろうと髪をかきあげながら改まって少年の顔を見てみた。
「!?」
すると、何か電撃を受けたかのような衝撃と共に曖昧な記憶が中途半端に呼び起こされたのを感じた。
(あれ……この子どこかで……)
「おら、まさかいい歳して難聴なんてねえよなぁ?」
「ちょ、カリフ!」
マナからしてみればカリフが一方的にお姉さんにいちゃもんをつけているとしか思えず止めようと諌める。だが、銀髪の女性は思い出すのに必死でカリフの暴言など耳に入っていない。
もどかしく思ったカリフが溜息を吐いた。
「自分の“勇者”のことも忘れたのか?……ロスヴァイセ」
「……!? ま、まさか……こんな……」
銀髪の女性は“勇者”の単語に反応して手に口を驚愕と共に抑え、同時に一筋の涙を浮かべる。
長年の憧れの男(ひと)を一度でも忘れたことはない。だが、もはや会えるのかどうかさえ曖昧になっていた人物が前触れも無く現れたのだ。溢れてくる感情を隠すことなく恐れながら、期待を抱いているように名を呼んだ。
「カリフ……くん?」
「ふん、今頃か」
過去に紡いだ数々の絆という繋がり
まるで二人の再会を祝福するかのように列車の発車音が辺りに響いたのだった。