ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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テストも終わって早々なのですが今度は二週間くらい合宿免許なので更新速度は遅くなります。そこの所は御了承ください。


冥界合宿のヘルキャット
強化合宿とちょっとした昔話


朝焼けの日差しがうっすらと照らすだけなのに外は暑い。

 

夏特有の猛暑が始まったこの時期、駒王学園は夏休みに入った。

 

蝉の鳴き声が響く外とは違い、カリフの屋敷の中は快適に冷房まで効いていた。

 

リビングでは早朝の特訓を終えた面々が何やら荷造りしていた。

 

「冥界か……この前までの私なら絶対に行かざるべき所だと思っていたが……」

「ですが、仕方ありませんわ。今回は冥界で強化合宿とレーティングゲームがありますから」

「まさか私も冥界にお邪魔できるなんて……凄いなぁ……」

 

実はこれから悪魔として一大イベントが夏休みに開かれるという。

 

~今年の夏は冥界で過ごすわよ~

 

このリアスの一言で今回の夏の予定は埋まった。本当ならカリフは来なくてもいいのだが面白そうなので付いて行くことにした。

 

そのためにも今回、若手悪魔たちは冥界へ行かなければならなくなったので、ついでにリアスたちの敷地内で強化合宿しようとの話になったのである。

 

ゼノヴィアとマナが初めての冥界に胸を躍らせているのだが、鬼畜家に厄介になっている面子の中では小猫、そしてカリフがいなかった。

 

小猫は未だに地下に籠って特訓、カリフはというと……

 

「全く、たかだか冥界に行くだけでこの浮かれようは何だ? あそこでするのは強化合宿なんだが?」

 

少し遅れてカリフがリビングにやって来た。ついでに言えばその後ろに特訓を終え、合流していた小猫もそこにいた。

 

小猫は既に整えていた自分の荷物を持ってきていた。

 

そしてカリフはというと……

 

「いや、君が一番浮かれてないかい? そのアロハシャツとかカメラとか……」

「何を言う? ちゃんとおやつは千円までとレートで決めてきたから問題は無い! ただバナナはおやつとした!」

「遠足!?」

 

サングラスをかけ、派手なアロハシャツとデジタルカメラを構える辺り、本当に合宿だと認識しているのかと疑いたくもなる。いつもの言動からしてまず忘れてるってことはないだろうけどやっぱり不安だった。

 

「そう言えばお義母さんとお義父さんとはちゃんと話したのかい? この家のリフォームのこと」

「あぁ、最初父親は泡吹いて倒れたっけな。母親はビックリした程度にしか見えなかったけど話したら納得した」

「それよりもいつあなたの義父と義母になったんですの? ゼノヴィアちゃん」

「こういうのはまず形からですよ。朱乃さん」

「いや、ツッコましょうよ! こんな劇的ビフォーアフターをよく納得したよね!?」

 

ゼノヴィアと朱乃の間に何やら見えない戦いが繰り広げている間に入ってカリフは話を進める。マナだけがツッコミを入れて頑張っていた。

 

だが、そんな輪にも入らずに小猫だけが黙々とトランクに荷物をしまっていくだけだった。

 

周りは少し旅行気分で浮かれている中、小猫だけがどこかやる気に満ち溢れている様子だった。

 

そして、カリフだけがいつもより気負う小猫に気付きながらも何も言わない。今はまだこれでいい……

 

「冥界ね……」

 

それよりもカリフはこれからの旅行のことで頭が一杯になっていたのだった。

 

荷物をまとめながらこれからの悪魔+人間の夏休み合宿に想いを馳せるのだった。

 

 

真昼間の地元の駅で部員たちと待ち合わせて集合する。

 

皆は学園の夏服姿で集まっていたのだが……カリフだけは逞しい腕を剥きだしたタンクトップ姿で来ていた。ちなみにアロハシャツもちゃんと持参している。

 

「あなた……こういう時くらいは強調性くらい見せてもよくて?」

 

リアスがどうせ無駄なんだろうな、と思いながらもカリフに言ってみるが、予想通りの答えが帰ってくる。

 

「ふん、折角の休みくらいフリーでも問題は無いはずだ。それに言うが、確かにオレは女の制服姿には一目置く。だが! オレが制服を着るというのはあまり好きじゃない。制服はその名の通り“制す服”だからな、オレが制御されている気がしてムカムカする」

「そんな深く考えることでもないでしょうに……」

「ていうかお前の口から衣服萌え発言を聞くとは……」

 

カリフのドS持論に皆が苦笑しているとリアスは気を取り直して皆にそれぞれの予定を確認する。

 

「じゃあ私たちは普通に行くとして、イッセー、アーシア、ゼノヴィアの新人悪魔組は入国審査、アザゼルとカリフとマナはまた別ルートで入国審査をしてきてちょうだい」

「んで、カリフとマナは審査が終わり次第にリアスとは宿泊先の屋敷で合流させる。オレはまたサーゼクスたちと会合があるからそっちに顔を出す」

 

一通り説明し、全員で予定を確認してから駅の中へと向かう。

 

それがイッセーたちには不思議だったらしく疑問符を上げていた。

 

「おい、なんで駅直行? まさか電車で行こうなんてじゃねえだろうな?」

 

カリフにしたらただの冗談のつもりで聞いたのだろう。次の言葉には驚かされた。

 

「ええ、この地区ではこの駅が冥界への入り口よ」

「え? 何それ?」

「百聞は一見に如かずって所よ」

 

要はその目で確かめろ、ということ。カリフは素直にリアスの後を付いて行くことにした。

 

だが、リアスが辿りついた場所は何の変哲もないエレベーターの前。通路の脇で柱の物影となっているので利用者が少ないという点を除いてはごくごく普通のエレベーターである。

 

リアスたちはエレベーターに乗り込んだが、だれもボタンを押そうとはしない。

 

その様子にイッセーは疑問を抱きながらボタンに手を伸ばす。

 

「あの何階に行くんですか?」

「あぁイッセー、ボタンはそれじゃなくてこれよ」

 

リアスはどこからか出したカードをエレベーターに備え付けられている電子パネルに添えた。

 

すると、電子音と共にエレベーターが動き出したのを感じる。

 

上にしか行かないはずのエレベーターが下に向かうのを重力で感じる。

 

「今までこの街に住んでたけどこんなのは知らなかった……」

「これが冥界へのルート?」

「えぇ、悪魔専用のルートだから普通の人間は一生辿りつけないわ。こんなルートと同じようにこの街にはまだまだ隠し通路が備えられているのよ?」

「あぁ~、それでね……」

 

カリフが何となく納得している様子に今度はリアスが首を傾げると律儀に答えてやる。

 

「この街で時々異様な力や雰囲気が漂うパワースポットを見かけるな~……なんて思ってたんだけどそれなら納得かもな」

 

カリフは前々からこの街から放たれる異質な力と雰囲気を感じ、謎に思っていた。力を感じる場所は大抵人気のない所でありながら堂々と点在する建物、もしくは何も無いような路地裏からも感じることがあった。それでもいつものことだったから放置していたとのこと。

 

それを聞いたリアスたちはその答えに納得しているとエレベーターが停止して扉が開いた。

 

そこは地下深くに作られたシェルターと言っても過言じゃないほどのスペース、そして中央に待ち構えていたのは一台の列車だった。

 

「俺の街にこんなスペースがあったなんて……」

「これまた溜めこんだものだ。これで直接家に向かえと?」

「えぇ、ここから大体一時間で行けるわ」

 

カリフもこれには少し驚きを隠せずに話しているとイッセーがキョロキョロと辺りを窺っている。

 

木場がそんなイッセーに疑問を浮かべていた。

 

「どうしたの?」

「いや、大事な行事だっていうから他の悪魔も来てると思ったんだけど……」

 

そこで木場は合点がいったのか面白そうに笑い、イッセーが笑われていることに顔を顰める。

 

「何がおかしいんだよ」

「ふふ、ごめんごめん。だって最初の頃の僕と同じだったからつい……ここを使うのは僕たちだけだよ」

「はぁ!? でもこれ結構豪華そうな列車だぞ!? 俺たちだけで使っていいのか!?」

「問題ないよ。ほら」

 

木場が列車に指をさし、イッセーが釣られてそこへ視線を追う。

 

「え”?」

 

その先は本当に驚かされた。同時に頭の中にグレモリー家の知名度と財力を思い出して目の前の結論と結び付けられた。

 

「グレモリー家マジパネェ……」

 

若干及び腰になったイッセーの視線の先でグレモリーの紋章を模られたエンブレムがほくそ笑むかのように金属光沢で輝いた。

 

 

 

列車に乗った俺たちは各々の時間を過ごしていた俺の隣にはアーシアとギャスパーが両隣で、そして対面するように木場と小猫ちゃんが座っている。

 

俺たちの後ろの席では先生が一人で眠りに入っている。部長も主が故に前の車両に行ってしまった。

 

そして、俺の隣の席といえば……

 

「……」

「うふふ……」

「む~……」

「……」

 

ぼんやりと外を眺めるカリフの肩に頭を置いて思いっきり甘えている朱乃さん。その対面席では不服そうに二人の様子を眺めている不機嫌なマナとゼノヴィアだった。

 

隣の方が女子率が高いのにその中の男一人が女そっちのけで外の冥界の景色に集中しているのは気に入らない!

 

そんな中、朱乃さんがカリフの手を取る。

 

「うふふ……」

「ちょっ! 何してるんですか!?」

 

朱乃さんがカリフの手をスカートの中に誘導しようとしていた所でマナが朱乃さんの手を制止する。

 

「あらあら、どうして止めるのかしら?」

「だ、だってハレンチですよこんなの!! が、学生のうちにこんな……」

『マナはこう見えても純情な所がありますからそういうのは控えてください。朱乃さん』

 

マナの人格の一つのヴァルさんが念話で俺たちにも聞こえるように朱乃さんに注意を促すが、当の本人はいたずらっぽく笑って返した。

 

「それは違うわ。こういった殿方はこれくらい積極的でないといけませんわ」

「で、でも……」

「それに互いのスキンシップは大事ですわ。これから合宿で互いに会えるのも難しくなってしまいますから今の内にカリフくん分を補充してますの」

「それはスキンシップじゃあありませんよー!」

 

朱乃さんの一方的な持論にマナは堪らず大声を張り上げた。だが、そんな朱乃さんの手を掴んだカリフはやんわりと離す。

 

「マナの言う通りだ。最近のお前は少しこういったことには軽すぎると思う」

「こういうのはお嫌い……ですか?」

 

目に見えて朱乃さんはしおらしく怯えたように委縮してしまった。だけどカリフは朱乃さんの手を握った。

 

「そういうことじゃない。お前は自分の操を軽く考えている。そういうのは……相応しい相手にしろと言っているんだ」

 

カリフは途中で恥ずかしくなったのか顔を紅くして言い聞かせてやると、朱乃さんは少し怒った感じで反論した。

 

「そう言ってくれるのはとても嬉しいです……だけど私だって誰でもいい訳じゃないって知っているはずですよね?」

「……」

「私はあなただからこうやって歩み寄れるの……あなたじゃないとダメ……」

 

カリフに対しての言葉だろうけど不覚にも聞いていただけの俺がドキっとなってしまった。朱乃さんの素の少女のような反応はそれほどまでに破壊力が高かった。カリフもそんな朱乃さんに頬を掻いて反応に困っていた。

 

「だが、今のオレはそんなことに現を抜かしている場合では無い。今は兎に角強くなる。少なくとも二十までは女を抱く気はない」

 

カリフは外を見つめながらいつもよりも強い眼差しで冥界の景色を眺めるカリフに疑問が浮かぶ。皆も俺と同じことを思ったのか不思議そうにしていると意外な人が俺たちの代わりに聞いてくれた。

 

「どうしてそれ以上に強くなりたいの?」

 

前の車両から戻って来た部長が通路を歩きながら聞いてきた。話も前から聞いていたようで聞かせる必要も無いって感じだった。

 

でも確かに部長の疑問も尤もだ。今のカリフは間違いなく人類最強なのは誰もが認めざる得ない。

 

その上、未来予知の域にまで達する動物的第六感に加えて上級悪魔を越えると言われるほどの腕力を持っている。

 

その強さは既に神クラス、もしくはそれ以上だと先生でさえ太鼓判を押すほどなのにまだそんなに強さを求めるカリフが不思議だった。

 

そんな俺たちにカリフはようやく景色から目を離して俺たちの方を見てきた。

 

「いえ、ごめんなさい。少し突っ込み過ぎたわ……」

「……昔、オレには師と呼べる存在がいた……二人、正確には三人か……」

 

部長の言葉を遮ってカリフが口にしたのは意外な内容だった。初めて本人から聞かされるであろう過去の話に俺たちは耳を傾ける。

 

「そいつらに戦いの全てを、武術の何たるかを、人としての礼儀を叩きこまれる内に思い知らされた圧倒的な力の差……オレはそいつらを越えたい」

「……」

「越えたいと思っていてもそいつ等の強さは無敵を通り越して明らかに異常だった……オレは稽古中でも屈辱的なハンデを背負い、手加減していた師には手も足も出せずオレを徹底的に打ちのめした。一番オレが荒れて、寝込みを襲ったり暗殺まがいに襲ってもそいつらはまるで昼休みにコーヒーを飲んで一呼吸するかのようにオレをいなし、歯牙にもかけてもらえなかった」

「―――っ」

 

全員が息を飲んだ。今、目の前にいる後輩はこの世界で最も強いと思っていた。

 

そんな後輩から直接聞かされた弱気にも自虐にも聞こえる昔話に圧倒されてしまった。

 

コカビエルや白龍皇にドライグ、堕天使総督でさえ凌駕するカリフにそこまで言わしめる師匠はどんだけ強いんだよ!

 

皆もあまりに壮大な話に息を飲んでいた。

 

「今でも奴らの一割には全然及びもしない……だけどオレはそいつ等を越えたい……越えて、初めてオレは一人の男として高みに登れると信じているからだ」

 

無意識の内に硬く握りしめた拳を握りしめて見つめる。だが、その表情はいつもよりも穏やかで優しい表情になっていた。

 

朱乃さんたちがそんなカリフに見とれていた時、別の声が車両内に聞こえてきた。

 

「いやはや、今の時代にそのような覚悟をお持ちの御仁に出会えるとは……やはり長生きはしてみるものですな」

 

そこで白いあごひげの初老のおじさんが朗らかに笑いかけてきた。恰好からして車掌さんなのだろうけど。

 

オレやゼノヴィア、アーシア以外の皆は知っているのか頭を下げて挨拶を交わす。

 

「あの、この人は……」

「彼はレイナルド。グレモリー専用列車の車掌をしているレイナルドよ」

「あ、ぶちょ―――リアス・グレモリー様の兵士、兵藤一誠と申します! よろしくお願いします!」

「アーシア・アルジェントです。僧侶をやらせていただいております! よろしくお願いします!」

「ゼノヴィアです。騎士、今後ともよろしくお願いします」

「マ、マナです! 眷族ではありませんが部員として、魔法使いとして来ています! よろしくお願いします!」

「……カリフ」

「以後、お見知りおきを。と、ここでついでですが皆さんの入国許可を確認させてもらってもよろしいでしょうか?」

 

レイナルドが懐から金属探知機みたいな機械を取り出して俺たちに向けてきた。

 

こうして俺たちは入国審査を受けている間に目的地に着いていたのだった。


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