ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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今回はテスト空けということで遅くなってしまった上に終わり方も微妙になってしまいましたことをあらかじめお詫び申し上げます。
こんな作品でも楽しむことができたら皆さん凄いです


閑話休題・身体測定

『悪魔だ……』

 

違う……

 

『宇宙の悪魔だ!』

 

違う……!

 

『制御の利かなくなったお前は足手纏いだ』

 

……止めろ

 

『可哀そうだが……よ…………』

 

止めろ

 

それはオレじゃない!

 

 

その先を……言うな……

 

黙れよ……

 

『お前もこの星と共に……』

 

耳障りだ……黙れよ……!

 

止めてくれ……それはオレじゃない……!

 

 

 

 

『死ぬのだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙れぇっ!!」

 

ベッドの上から大音量の叫びを上げてカリフは起きた。

 

汗でびっしょりに濡れた顔はいつもよりも真っ青に変色していた。

 

「はぁ……はぁ……くそ……いてぇ……」

 

朝っぱらから嫌な夢を見たせいか、偏頭痛に頭を垂れた。

 

これがカリフのコンプレックスの一つでもある。

 

半年、いや、三か月に一回のペースで自分の記憶にない夢を見てしまう。この偏頭痛は元の世界にいた時から全く変わることなく、十年以上も続いている。

 

原因は言わずもがな、『オリジナル』の影響がカリフに流れていることである。どう言う訳か分からないが、クローンであるカリフの遺伝子にブロリーの情報さえも受け継がれたのではないか……そういった仮定でしかこの病気は説明できなかった。

 

明確な治療術も無いまま今に至り、この治らないでいた。

 

「今……やべ……九時か……」

 

時計をチラっとだけ見ると、休日の時間としては大寝坊だった。

 

生活リズムを崩すのはトレーニングのスケジュールとしては痛恨のミスであり、客観的に見ても不自然なことだった。

 

頭痛自体は朝飯と時間が治してくれるのだが、その間がもう苦行である。

 

いつもより重い足取りで自分の部屋を出て行く。と、ここでいつもと家の構造が違うことを思い出した。

 

「……あ、そういえば昨日リフォーム終わったんだった……」

 

気だるそうに広い豪邸の中をトボトボと歩いて行く。今思ったことだが、所々にセラフォルーのセクシーショットを模した石造があるのがとても憎らしい。

 

色々といつもの姿、はたまたメイド服やチャイナ服、セーラー服にブレザー制服やスーツ姿、果てにはきわどいV字型のブラジル水着や手で胸と秘部を隠すセクシーショットの全裸姿を模ったセラフォルー石造の並ぶ通りまであるくらいだ。

 

「……」

 

カリフは果てまで続く馬鹿丸出しロードを一瞥した後、何も無かったかのようにその通りを露骨に避けた。頭痛が一層増したのは絶対に気のせいじゃない。

 

何も見なかったようにまた別の場所を歩いていると、やっと知っている気を察知した。

 

複数集まっている上に、我が家に同棲していない者……つまりはオカ研全員の気配を察知していた。

 

(……まだいるのか……)

 

しかも、今日に限ってはさらに大人数で我が家に集結しているのを感じる。

 

気配はソーナ率いる生徒会メンバーだった。

 

休日とはいえ、豪華メンバーが家に集結しているこの状況にカリフは首を傾げた。

 

食卓を後回しにカリフは玄関前のホールの二階テラスから一階を見下ろすと、そこには全員が集結していた。

 

休日とはいえ、もう全員私服姿でそれぞれ談笑していた。

 

遠巻きに眺めていると、アザゼルがカリフに気が付いて呼びかける。

 

「よぉ! 今日は随分と寝坊だな!」

 

アザゼルに釣られて皆の視線が未だ寝巻姿のカリフに集まる。

 

「あらあら、おはようございます。今日はどうなさいましたの?」

 

いつもの生活リズムを乱したカリフに朱乃が心配そうに聞くと、カリフはそれほど気の入らない声で返す。

 

「今日は……まあ調子が悪かっただけだ」

「風邪か? お前が?」

 

イッセーが訝しげに聞く反応にカリフは手を振ってそれを否定する。

 

やっぱり様子がおかしい……いつもより勢いが無い。

 

皆はどこか拍子抜けするような感じに囚われる中、アザゼルが呆れた様子で聞いてきた。

 

「おいおい……お前、今日の測定は大丈夫かよ?」

「測定?」

 

カリフが訝しげに聞くと、アザゼルは呆れて溜息を吐く。

 

「お前……今日はお前の身体能力を計る日だろうが」

「…………あ」

 

そこまで言われてやっと思い出した。そういえば放浪時代に自分の成長を客観的に見ようとアザゼルと一緒にそんなこともしてたな……と

 

だが、腑に落ちない点もあった。

 

「なんでオカ研と生徒会がいるんだよ? 巻き込まれても知らねーぞ」

「それは私たちからの希望よ」

 

アザゼルの代わりにリアスとソーナが豊満な胸を張って前に出てきた。

 

「人間でありながら強靭な体と戦闘力を誇るあなたの身体能力の数値化には興味があったの」

「私もリアスと同様です」

 

淡々と話す二人に表情も変えず、アザゼルに目配せすると、その意思を読み取ったアザゼルは再び語る。

 

「まあ、要は少しでもお前の実力の一部を把握したいってことだ。なにせ、お前たちの学園は今や超常現象と様々な力のオンパレード、更に言えば三勢力の同盟を結んだ聖地とも言える。そんな校舎で今後戦闘が起きた時、学園を渦巻く力の波動が暴走する恐れがある」

「……それを防ぐためにオレの強さを数値化するってか?」

「そうだ。場合によっちゃあ学園の力がお前の力に触発されて暴走するってのもあり得るからな。その対策として今日の測定がある」

 

そんなことを聞かされては受けるしかないと思い、カリフは気だるそうに返す。

 

「あ~分かった……飯食えば頭痛は消えるからその後で……」

「おう、早くしろよ。あ、それと……!」

 

アザゼルが途中まで何か言いかけたと思いきや、カリフにとって捨て置けないことを言った。

 

 

 

「お前の部屋の前の石造……どうだ?」

「……やっぱてめえか」

 

ニヤケ声に反応してカリフがアザゼルを鋭い視線で射抜く。

 

迫力ある睨みにイッセーたち生徒組は震えあがるが、アザゼルだけは揺るがずにニヤニヤしながら続ける。

 

「セラフォルーにはお前の好みを教えといた。その様子から察するにあったようだな~♪」

「……なんのことだ?」

「ま~たまた~……本当は嬉しいんだろ? この制服萌え」

 

アザゼルの言葉に周りの皆は大いに驚き、あのソーナでさえも目を丸くして驚愕していた。

 

「え? 先生……カリフが……その、制服って……」

「あ? あぁ、お前たちは知らなかったんだな」

 

未だに面白そうに話すアザゼル。本来なら一気に距離を詰めて一発捻り潰す所だが、今は頭痛のせいでそんな気も起きない。

 

別に知られてもそんなやましいことは無いとカリフは溜息を吐いて食堂に向かう。

 

それを了承したと捉えたアザゼルはニヤついてイッセーたちを集める。

 

「あいつな、実はスクール制服とチャイナ服とかに萌えるんだと」

「マ、マジっすか!?」

 

イッセーと同じ気持ちなのか皆は意外そうに息を吐く。その中でもオカ研の反応が特に顕著だった。

 

それもそのはず、あの恋愛に興味所か女と男をも容赦なく殴っては制圧する残虐非道な後輩に性欲があったとは……そう思わざる得なかった。

 

「は、初めてだわ。そんな攻略法があったなんて……」

「これはひょっとしなくてもチャンスじゃないか?」

「えっと、スクール制服とチャイナ服……」

「ちなみにあいつは軍服とかスーツとかブラウスとかブレザーネクタイとかの傾向が顕著だな。できる女系かおしとやかで上品な女のような格好、もしくはラインがくっきり表れるタイト系も好きだな」

「え? 本人はあんな狂暴で我儘なのにおしとやかで上品な人好み?」

 

なんだかあまりにギャップの大きすぎるぶっちゃけ話に恋する乙女は一字一句洩らすことなく話しを聞いてメモを取る。イッセーや匙は無言で握手を力強く交わす。

 

(結構可愛いところもあるんだね。彼……)

 

唯一、木場だけが苦笑しながらも意外と自分たちと同じような趣味を持ってたことに安堵する。

 

(憎しみや野望だけの人生だなんて寂しいからね……)

 

一度は外れかかった自分を見つめ直し、いかに自分が愚かだったか思い知ったのも最近の話。

 

確かにカリフは強い野望と欲望を持ってはいるが、彼はこの世界を充分に楽しんでいる。仲間が灰色の人生を歩んではいないことに安堵できた。

 

「……なんでそんなことが分かるんですか?」

「だってあいつ自分からベラベラと喋ってくるんだもん」

「『もん』って……よく喋らせることができましたね」

 

イッセーがそう言うと、アザゼルは得意気にイッセーたちの知らない情報を教えてくる。

 

「頭の回転速くて驚異の身体能力を誇るあいつだが、実はアルコールはめっっっちゃ弱いんだぜ?」

「え?」

「いや~、俺も初めて知った時はマジで驚いたぜ。あいつチューハイ一杯目からグデングデンになって絡み上戸になるから笑いが止まらなかったのなんのって」

「ええぇぇぇぇ!? あのカリフが絡み上戸!?」

 

いくらなんでもその情報は難易度が高すぎた。

 

あの無愛想で無骨なカリフが酒の席では他人に絡んではお喋りキャラになってしまうという事実は驚愕的だった。

 

「今度やってみろよ。お前ら相手になら甘えてくるかもよ?」

「先生。生徒に飲酒を勧めないでください」

 

キラっと目を光らせるソーナの傍では朱乃、ゼノヴィア、マナが肩を組んで会議していた。

 

「今回の成果はあまりに大きかったですわ……だけど……」

「ああ、だがそんなファッションのことなど私は無知に近い。すまない……」

「……一応は制服やバニーガールの衣装までは持っているんだけど……どうでしょうか?」

「あらあら、マナちゃんはなんでそういうのを持っているのかしら?」

「アニメコスプレは魔法使いの嗜みですが……何か問題でも?」

「「いや、GJ(です)」」

 

ビシ、バシ、グッグと息の合ったハイタッチを三人で交わす。

 

小猫はそんな三人の輪をチラチラと横目で見つめながら気になっている様子。

 

そんな三人が面白かったのかイッセーも面白がって口を吊り上げる。

 

「先生! カリフってエッチの拘りとか持ってるんですか!? 好みはおっぱいだとかどうとか!」

 

元気よく挙手するイッセーにアザゼルは表情を引き締めてイッセーを視線で射抜く。

 

「俺がそんなベラベラとあいつの情報を喋ると思うのか? 本人が嫌がるかもしれないことを……」

「そ、それは……すいません」

 

アザゼルは項垂れるイッセーを一瞥して溜息を吐いた後、真顔で言い放った。

 

 

 

 

 

「あいつは着衣プレイが好みだ」

「マジっすかwwwwww」

 

アザゼルもキリっと悪ノリに走り、イッセーと共に大きく笑い声を上げる。もはや最低で下劣だった。

 

「しかも、聞けよ。あいつってばあの時も……!」

「え? なんすか? 落ち着いて喋ってくださいよ」

 

中学二年生のノリで面白がってカリフの暴露話に花を咲かせる二人に周りもジト目で見つめる。

 

「イッセー。その辺にしないと後が恐いわ……よ……」

 

止めに入ったリアスだったが、すぐに方向転回してアザゼルたちから露骨に離れていく。

 

「……遅かった……」

「ひいいぃぃぃぃぃ……先輩~……」

「……残酷かもしれませんが一つ言わせて下さい。―――自業自得です」

 

他のメンツもリアスと同様に冷や汗を流してその場から後ずさって離れていく。

 

そんな周りのことも知らずにアザゼルたちの悪ノリは未だに続く。

 

「あいつなぁ……ああ見えても実はな……」

「ほうほう、それでそれで?」

 

二人は知らなかった。

 

今まさに自分たちの背後に『静かに怒れる般若』が自分たちをロックオンしていることに……

 

その般若、気配を殺しながら小柄な体を筋肉で膨張させて異形と化していた。体が肥大化し、全身くまなく浮きあがる血管の筋と怒りに震える体。

 

その全てを要約、理解したリアスたちにはもう彼らを救うことなどできない。

 

朝食を終えて頭痛が治ったかと思ったら玄関先で必要以上の個人情報を暴露するだけに飽き足らず笑いの種にまでしている。

 

普通の人でもこれは許し難い行為だということはバカでも知っている。そして、今回の相手が最悪だということも……

 

そんなバカ共にカリフの堪忍袋の緒はもう限界を迎えてしまった。

 

 

 

 

プチッ

 

マヌケで呆気ない音だったが、これが彼の我慢の限界を突破とバカ二人の地獄行きが決定した瞬間だった。

 

確かに耳にしたリアスたちはもう考えるのを止めた……

 

ゴキ、バキャ、メリ……

 

「「?」」

 

後ろからの異音にアザゼルとイッセーは何事かと後ろを見た瞬間、本当にあっという間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の目の前に硬く、硬く握られた拳が迫って来た光景を最後に何かが潰される音と激痛と共に二人は意識を手放した。

 

 

「で、これどうするのよ……」

「知るか」

 

見事に顔面が陥没したアザゼルとイッセーを縄で縛りあげているカリフは苛立ちを隠さずに吐き捨てる。

 

先程の弱々しい姿は身を潜め、いつものカリフに戻ったのだと安堵した。

 

がっちりとイッセーたちを拘束したカリフは縄を持って家の中へとアザゼルたちを引きずっていく。

 

「……兵藤っていつもあんな感じなんですか? よく死ぬ~、てボヤいてたのは知ってるんっすけど」

「……今日はまだ序の口かしらね……いつもは十字架を溶かして加工したナイフや聖水を用いるよりはマシな気がするわ……」

 

リアスの返しに匙たち生徒会メンバーは血の気が引いたのを感じた。幾らなんでも悪魔相手に……なんて思いこみがいかに甘っちょろいかを悟られた。

 

だが、普段の彼の素行から充分に有り得ることだと納得もできる。

 

しばらく進んでいくと、豪邸の地下に入っていくこととなった。

 

階段を下りていつまでも続く細い道を歩いて行く。

 

しばらく歩き、痺れを切らした匙がカリフに尋ねる。

 

「なあ、今日はお前の能力測定って聞いたんだけど、なんでこんなとこに……」

 

訝しげに聞く匙。と、ここでカリフ一行は大きくポッカリと空いた空間に出た。

 

今までの細く狭い道とは違って広々とした空間とドーム状の空間に出た。

 

「多分、設計図ではここでいいと思うんだけどな……」

「ここで何をするの?」

 

リアスが聞くと、カリフは笑みを浮かべて答える。

 

「ここはセイクリッド・ギアの力を倍増させる機能を備えた部屋だ。ここでオレのセイクリッド・ギアを使う」

 

その答えに全員が目を見開くも、リアスたちはどことなく嬉しそうだった。

 

「そう言えばあなたもセイクリッド・ギアを保有してたんだったわね。今日でやっとお披露目と考えていいのね?」

「まあな。これは実戦で使わないということで後天的にアザゼルからもらった物だから機能も若干の不備があるんだよ。オレの結界具現化系は最大人数はオレを含めた二人だけ、だとか」

 

それで今まで披露することはしなかったのか……要は見せないということもあるけど一気に見せられないから今日までカリフのセイクリッド・ギアを体験することがなかったのだとリアスは考える。

 

一通りの説明を終えた所でカリフは縛り上げていたアザゼルとイッセーを地面に置いて……

 

「おらァァァァァァァァァいつまでも寝てんじゃねえぇぇ! さっさと起きろこのハナクソ野郎どもぉぉぉぉぉ!」

 

怒声を上げながら気絶していた二人の顔を蹴り上げた。これには他の面子もビックリ仰天して体を震わせた。

 

「ちょっ! おま……!」

 

いきなりの凶行に匙は情けない声を出してカリフを諌めた。

 

「おおぉぉぉ……」

「ぬおおぉぉぉぉお……」

 

当然、アザゼルとイッセーは痛みで意識を取り戻したものの苦痛に悶える。そんなアザゼルの首根っこを摘まみ上げて互いに向き合う。

 

「おら、早くセイクリッド・ギアの発動方法吐け」

「その前に謝罪とかはねえのかよ……制服萌え」

「そんなこと言わねいで教えてくれてもいいじゃないかぁ」

「だぁぁぁぁぁぁぁ! ち、千切れるっ! 鼻、鼻、……止めてそれだけはっ!」

 

申し訳なさそうに返すカリフだが、反対にアザゼルの鼻に二本指を無理矢理突っ込んで体を持ち上げようとしている。鼻に自重量がかかる痛みにアザゼルはカリフの腕を掴んでもがいている。

 

流石にこれ以上は見ていられなくなったのか木場はそろそろ暴走気味のカリフを諌める。

 

「と、とりあえず僕は早くカリフくんのセイクリッド・ギアを見たいな~……ねえ部長?」

「え、えぇそうね……カリフ……」

「……まあいい。とにかくさっさとやっちまおう」

「ぐおっ!」

 

急かされて渋々だがアザゼルをぶら下げていた手を治めると、解放されたアザゼルは痛む鼻を抑えて起き上がる。

 

「くそ……俺のセクシーな鼻になんとことしやがる……」

 

憎々しげに携帯してあった鏡で大きく広げられたと思われる鼻を眺めていた。

 

そんなアザゼルをよそにカリフは部屋を見渡してアザゼルに説明を促す。

 

「ここで発動させるだけでいいのか?」

「ああ、基本的に特殊な操作は必要とはしねえ。セイクリッド・ギアの展開と呼応してこの部屋も一緒にお前の心情世界を映し出すってことさ」

「ということは……この部屋もセイクリッド・ギアの一つ……と考えてもよいのですね」

「正解だ。理解が早くて助かる」

 

ソーナの答えに周りの皆が興味本位の眼差しで部屋とカリフを見渡す。部屋はもちろんのこと、カリフの未知のセイクリッド・ギアにも興味が湧いた感じである。

 

「じゃあ行くか」

「おう、俺も早めに終わらせたいからな」

 

そう言って部屋の真ん中にまで歩み、皆が見守る中でカリフは深呼吸をしてからセイクリッド・ギアを発動させた。

 

「永遠の素晴らしき世界《ワンダフル・パラダイス》……発動!」

 

その瞬間、カリフを中心に眩い光が辺りを照らし、リアスたちはあまりの眩しさに目を瞑った。

 

 

「お、どうやら上手くいったようだな」

「これはいい……これで訓練場所の解決にも繋がった」

 

カリフとアザゼルの比較的嬉しそうな声が聞こえてくる。

 

気になってリアスたちは目を開いた。するとどうだろう、目の前に広がっていたのは予想以上の光景だった。

 

「すっげぇ……ここって……」

「グランド……キャニオン……?」

 

リアスたちの目の前に広がるのは視界いっぱいに広がる雄大な谷だった。アメリカのグランドキャニオンを彷彿させるほどの圧倒的光景が目の前に広がっていた。ほとんどがそんな圧倒的な光景に心を奪われていた。

 

「うわぁ……さっきまで部屋の中にいたのに……」

「しかも少し暑いし、ジメジメもしていない。環境まで違う」

 

生徒会メンバーも初めて見る結界創造系のセイクリッド・ギアに感嘆の声を洩らしていた。そして、リアスたちはグランドキャニオンの中に場違いに佇む場違いな宮殿を模した休憩所、社の中に佇む。

 

そして、その社の中にはベッド、そして栄養食だけの冷蔵庫と無味簡素でありながら必要最低限の生きるためのスペースが設けられていた。

 

「この中は随分と簡素ね……なんだか異世界に飛ばされた気分だわ」

「無駄な設備を省くことで性能向上に成功したんだ。しかも、使い続けるうちに妙な機能が追加されてた」

「機能? 環境変化の他に?」

「謂わば突然変異みたいなものさ。そして、その機能にちなんでこのセイクリッド・ギア……またの名を……」

 

実を言えば、このセイクリッド・ギアはカリフの記憶から具現化された代物だった。

 

生前の世界で一度は味わった修業するだけの空間。

 

悟空たちが今までの地球の危機を切り抜けてきたのもその部屋の役割が大きい。

 

「“精神と時の部屋”とも言う」

「精神……時……? それが新しい機能という奴なのか?」

 

ゼノヴィアが疑問を口にすると、代わりにアザゼルが答える。

 

「言葉の通り、ここは心身とも鍛える……というのはもう知っているな?」

「たしかにこの環境であればカリフくん思いっきり動き回れますね」

「あぁ、知っての通りこいつの身体能力は無敵を通り越してもはや異常だ。そんなこいつが気兼ねなく動き回れるという点でこれは充分優れているが、もう一つの最も大きな利点がある」

「もう一つ?」

 

首を傾げる皆にアザゼルは笑って続けた。

 

「この中での三秒が外で一秒になる……と言えば分かるか?」

 

アザゼルの説明によって全員が相当に驚いている。

 

何せ、時間の概念を捻じ曲げるような極めてレアなセイクリッド・ギアの上、中の環境まで再現してくれるような追加機能も備えている。

 

「す、凄いですねそれ……」

「時間操作まであるなんて……レア中のレアセイクリッド・ギアじゃない……」

「というかこの中で過ごしたら他の人より歳を取るんじゃあ」

「実際にはあっちでの一秒がこっちの三秒になるように俺たちの体感速度が速く研ぎ澄まされてるってわけだ。だからこっちで一日過ごした気になっても実際は半日しか経ってないとかそんな感じだ。まだそこまで時間の理念を狂わせる技術は無理だ」

 

それでも結界系で考えれば絶霧(ディメンジョン・ロスト)には及ばないにしろロンギヌスの一つと見てもいいのではないかと思う。

 

この結界に不特定の相手を閉じこめてしまえばどうとでもできるはずだった。

 

一対一であれば間違いなく最強を誇るカリフと干渉不可能の結界内に閉じ込められる……分かりやすく言ってしまえば人間が猛獣の檻に迷い込むのと同義である。

 

連鎖的に悪寒が奔ったのを機に皆は話題を変えようと本題に入るよう促す。

 

「と、ところでここで身体測定ってどうやってやるのですか?」

「そう慌てんな。このフィールドは社に設置されているコンピュータみたいな制御装置で制御されているから調節しねえとお前らは外に出ることさえできなくなるぞ」

 

また意味深なことを言っているようだが、また後で聞けばいいかと思って皆はスルーしている中、カリフだけが柔軟運動を始めていた。

 

手首を曲げて上下に180度折り曲げたり開脚でも地面に股まで密着させて180度綺麗に足を開く。

 

オカ研メンバーには見慣れた光景だが、マナやギャスパー含め生徒会メンバーは何気なく作り上げられた柔軟性に感嘆していた。

 

その様子に気付いたアザゼルがメンバーに教鞭をとる。

 

「あいつの筋肉はたしかに力強いが、同時に柔らかくもある。柔らかい筋肉は外からの力を最大で八割にまで緩和させる。悪魔では駒の役割に関係なく重要な要素だ」

「うわ~……間近で見るとやっぱり違うな……」

 

カリフの雰囲気に匙も舌を巻き、他メンバーもカリフの気にあてられて少し緊張している中、アザゼルは言った。

 

「丁度いいからお前らもやってみねえか? 測定」

「え?」

 

アザゼルのこの言葉をきっかけに急遽としてオカ研と生徒会メンバーを加えた身体測定が開催されることになった。

 

 

 

突然のことだったので着替えはアザゼルがこういうことを見越して持ってきて置いた体操服で済ませた。

 

今回、測定してもらう面子はオカ研からは先程復活したイッセーや木場、小猫とゼノヴィア

 

生徒会からは匙とルークの由良の二人だけの参加となった。

 

後のメンバーは社の中で待機という形となった。

 

同じくストレッチも済んで体を温めている……と言っても外気温が元々高いため体をほぐす程度に動かしていた。

 

「にしても、カリフのセイクリッド・ギアだろ? ドライグや匙と木場のセイクリッド・ギアも出てくるんじゃあ……」

 

イッセーが心配している中、急にブーステッド・ギアが現れ、宝玉が光る。

 

『その心配はしなくていい。今回のこのワンダフル・パラダイス……少なくとも無理矢理具現化させられるような不備は見受けられなかった』

「そうなのか?」

『あぁ、これは推測だが、前回はお前の夢の中での発動だったから重量ある思念体となって出ることができたが、今回は現実世界での発動だからな。当然、現実世界で俺の体はもう存在しない。そこらの違いだろうな』

「へぇ~……お前にも色々あるんだな~……」

 

イッセーが呑気そうに呟いているとドライグが再び喋る。

 

『まあ今回は相棒にとっていい機会だと思うぞ?……奴を目指してるんだろ?』

 

奴……誰とは言わないが、イッセーはその意図を理解した。

 

「あぁ、全然追いつくどころか背中すら見えてないけどよ……」

『それはこの場にいる全員が同じだ。だからこそどんなに差を見せつけられても落ちこんでテンションが下がることはないだろう』

「もう充分に味わったからなぁ……俺にできることはただ昇っていくだけだよ」

『そう思っているならそれで充分だ。だが、一つ言っておくぞ相棒……』

 

急に強張った声にイッセーが疑問に思っていると、少し間を置いた時に言った。

 

『お前は仮にも赤龍帝の名を背負った者なのだ……ここいらでお前の成長を見せてやろうじゃないか』

 

ドライグが不敵そうな声で言うと、イッセーもそれに答えるように力強く返す。

 

「あぁ! でなければハーレムなんて夢のまた夢になっちまうからな!」

「それなら、僕も混ぜて欲しいかな?」

 

そう言って木場が背後からブーステッド・ギアに手をのせてきた。

 

イッセーが何か言う間もなく今度はゼノヴィアが木場の手の上にさらに手をのせてきた。

 

「これは試合前とかに『行くぞー! オー!』とか掛け声を出して気合を入れる奴か? それなら私も混ぜて欲しいな」

「……先輩だけでは空周りしてしまいそうですから私もやります」

 

そこに小猫も加わり、その様子を見ていたであろう匙と由良も加わって手をのせてきた。

 

「あれ? なんで匙に由良さんも加わるんだ?」

「硬いこと言うなよ兵藤。たまには会長に恰好いいとこみせたくてな」

「まあ、私は面白そうだからかな。こういうノリは結構好きだからね」

 

そんな二人にイッセーたちに触発された形ではあるが、笑みを浮かべた。

 

「よっしゃあ! それじゃああいつには遠く及ばねえけどせめてあいつが驚くくらいの成長を見せてやろうぜ!」

「「「おうっ!」」」

 

やる気と共に円陣での号令を響かせる面々を遠くでリアスたちは微笑んで見ていた。

 

「あらあら……青春ですわね」

「えぇ……あれならいい結果も出せそうだわ」

「ふふ……匙や由良も負けてはいませんよ?」

「あら、うちのイッセーたちも最近は凄いわよ?」

 

何やら熱くなっているリアスとソーナの間に火花のような物が弾けている。少し近寄りがたい雰囲気の所へカリフがイッセーたちとは違ういつもの恰好でアザゼルと一緒に見ていた。

 

「何だか面白いことになってきたな」

「まぁ、オレの邪魔さえしなきゃ別に構わねえよ。まぁ、あれくらいの馬鹿さがねえとこれからがきついからな」

 

そう言うカリフの脳裏には新たに現れたテロ集団のカオス・ブリゲートと白龍皇のことが思い浮かぶ。

 

これからは今までとはケタ違いの強敵と必然的にぶつかっていくのだろうと容易に想像できる。しかもここにいる悪魔や魔法使いのスペックだけ見ても相当に逸脱している。狙われる可能性は絶対にある。

 

「新たな世界のあり方に今までくすぶっていた危険因子も大手を振って暴れ出すかもな……」

「何も嫌なことだけじゃない。これを機にダークエルフと虐げられてきた被差別種族の人種差別政策の廃止……奴隷制度解体といった暗部に追いやって来た問題にも大手を振って着手できる。悪いことの次には必ずいいこともある……あいつ等見てるとそう思えてくる」

 

アザゼルがそう言うと、カリフも少し表情をフっと緩ませる。

 

「それもそうだな……だからこそ今日の身体測定には最高の価値がある」

「?……まあお前が前向きな姿勢なら助かる。今日の結果次第でこのセイクリッド・ギアもバージョンアップさせられる」

「ふ、元よりそのつもりだ……オレの新技でも一気に消化してやる」

 

そう言いながらカリフはイッセーたちと同じ場所へ向かって行った。その後ろ姿にアザゼルは呟く。

 

「じじくせえこと言いやがって……」

 

その声にはどこか希望とも期待とも取れる声色が含まれていたのだった。

 

 

 

ようやく始まった身体測定

 

測定するのは今回は単純なパワー、スピードだけとなった。今回はカリフだけの予定だったのでイッセーが『耐えられる』程度の設備などまだ装備されていないのが理由である。

 

後の要素も大事なのだが、今回はセイクリッド・ギアの実験とイッセーたちの安全を考慮して力比べ以外は普通の学校方式となった。

 

スピードは50メートル走、そして、パワーの採点法はというと……

 

 

 

「この岩を力一杯殴ってこれが凹んだ距離で採点する。簡単だろ?」

「そんな簡単に言わんで下さい……なんすかこのサイズ……」

 

イッセーたちの目の前には全長30メートルくらいの巨大な大岩を見上げて絶句した。

 

人が豆粒にしか見えないほどの巨大な大岩に皆も驚いていた。

 

「じゃあ最初にゼノヴィア、デュランダルを使ってみろ」

 

アザゼルの指示に全員が驚いた。

 

「いいの? 多分だけどゼノヴィアのデュランダルがこの面子の中で最大の攻撃力を誇るわよ?」

「いいんだよ。ここの環境はちょっとの衝撃じゃあ壊れやしねえよ。だから全力でやっちまえ」

 

社の中からそそのかすアザゼルにゼノヴィアは応えるように亜空間からデュランダルを取り出した。

 

「うん、それなら思いっきりやっても構わないね」

「おいおい、いきなり全力か?」

「ここで少しでもポイントは稼いでおきたいからね。スピード勝負ではあまり目立てそうにない」

 

イッセーと話しながらゼノヴィアは力一杯デュランダルを振りかぶり、莫大な聖のオーラを溜める。

 

「おわっ!」

「くっ!」

 

オーラがイッセーたちを吹き飛ばす中、ゼノヴィアだけがオーラの嵐の中心で力を溜め続ける。

 

そして……

 

「はぁっ!」

 

力一杯にデュランダルのオーラを大岩に叩きつけると同時にとてつもない爆音と爆風が辺りの土ぼこりを吹き飛ばした。

 

だが、それらの衝撃波は結界の代わりとなる社には届かず、それどころか避けるように枝分かれしていった。

 

あらかじめ社には影響は無いと聞いていたリアスたちは安心して観戦を続ける。

 

「これが聖剣デュランダルの力……まだ成長過程とはいえ凄まじい威力ね……」

 

ソーナが感嘆を洩らし、リアスも誇らしげに腕を組みながら晴れていく砂嵐を見つめる。このカリフを除いた面子の中で最高の攻撃力を誇るゼノヴィアの一撃だ。たとえ大岩だろうと一たまりも無いはず。

 

(貰ったわ! この勝負!)

 

いつの間にかソーナと競っていたであろうリアスは晴れてきた大岩を目にして……絶句した。

 

「なっ!?」

 

なぜなら、その巨大な大岩は砕ける所か、少しの穴を空けただけで悠々とそびえ立っていた。

 

穴は空いているものの、大岩のサイズと比較したら、まるで卵の一部が欠けたくらいに微々たるものだった。

 

「そんな……デュランダルでも破壊できなかっただなんて……」

「先生! これ硬すぎじゃないですか!」

 

ゼノヴィアは最高の技を放ったにも関わらず全然砕けていない様子に自信を喪失してしまった。イッセーもあまりに非常識な設定に抗議の声を上げると、アザゼルは全く気にすることなく普通に言った。

 

「いや、その岩を大体5メートルくらいは削れたんだ! 中々いい結果だと思うぜ!」

「えぇ!? これがですか!? ゼノヴィアで五メートルのくぼみしか作れないんなら俺たちのなんてもっと取るに足りませんよ!」

「そりゃそうだろ。その大岩を一撃で破壊するには最低でも上級悪魔級のパワーが必要になってくるからな。今のお前らでは精々削り取るくらいが限界だ」

 

そんなアザゼルの答えに全員が目を丸くして驚いた。自分たちが考えていた以上に硬い岩盤を見上げる。

 

「でも判定は岩の窪みの深さで測定するんでしょ? 正直、サジはこういったパワータイプではないので砕くなどとは……」

「砕けなければその時の衝撃で力を測定するさ」

 

それなら一応、パワーは測れるだろう、そう思ったイッセーたちはとりあえずベストを尽くすことにした。

 

 

 

 

 

五人の結果が集計されたデータを見てアザゼルとカリフは意外そうに舌を巻いた。

 

まず、ゼノヴィアの記録は5m40cmとやはりパワーではトップであった。

 

その次にカリフ直々に訓練を見てもらっていた小猫が4m20cmとカリフも予想以上に小猫が成長していたことに驚く。

 

その次に由良が4mジャストと大健闘した。そして次にはなんとイッセーが3m50cmでランクインしていた。

 

「うぅ……夢と現実世界で後輩に馬車馬のように苛め抜かれて苦節二ヶ月……イケメン野郎に何でもいいから勝つことができた。

「あはは……泣くほど苦労してたんだね……」

「何爽やかに笑ってんだこの野郎! 今度お前も直々に訓練してやるってあいつ言ってたからな! お前も死ぬのだからなぁ!」

 

過去を思い返して半ばヤケクソになったイッセーに木場も頬に汗をかいて困惑している。

 

ちなみに、木場は重量系の聖魔剣を使ったのだが、本来のスタイルに合っていないことで剣を扱いきれずに健闘むなしく3m20cmと四位となってしまった。

 

「何言ってんだよ……お前らなんて岩砕けただけでも大したもんじゃねえか……どうせ俺なんて欠片すら壊れなかったよ……」

「壊れたのわ自分の拳だね……」

「あの、大丈夫ですか?」

 

そして普通の男子学生より力強いだけの結果を出した最下位の匙は今、砕けた拳をアーシアに治してもらってすすり泣いて不貞腐れる。

 

そんな匙をイッセーたちも一緒に慰めている時だった。

 

「サジ、悔しがるのは後になさい……やっと出てきましたね」

「えぇ、少しでもあの子の力の程を理解しなくちゃね。イッセーたちもしっかり見ておきなさい」

「私たちもこのことをよく見ておきましょう」

『『『はい!』』』

 

ここで本日本命のカリフが社の中から出て来た。

 

コキコキと拳を鳴らしてイッセーたちが空けた穴でボコボコになった計測用の大岩をペシペシと軽くたたいた後、大岩に指一本を軽く添えて……

 

ただ“押した”だけ。

 

もう一度言う。指一本で岩を押しただけだった。それなのに大岩には指を中心に罅が瞬時に入り、爆ぜるように大岩が砕け散った。

 

「!?」

「え!?」

『『『はぁ!?』』』

 

あまりに圧倒的過ぎる力量差にまともな言葉を発する者はいなかった。

 

だが、そんな叫びも無視してカリフは指を鳴らした。

 

「そうだな……これのサイズと硬度は最低でも二倍は欲しい」

「じゃあ硬度も五倍増にしておく」

 

そう言いながらアザゼルが手元のリモコンらしき物で操作すると、十秒も経たない内に新たな大岩がカリフの前に構築されてでき上がる。

 

そして皆は息を飲んだ。その大岩は先程の岩よりも倍のサイズがあり、もうカリフと比較しても恐竜とアリといったサイズの差が見て分かる。

 

だが、カリフはそのサイズ差に臆することも無くカリフは拳を鳴らして岩の前に腰を下ろし、腕を振りかぶる。その途中で異様に肥大化する筋肉を見てリアスたちはその光景に見覚えがあったのか感嘆する。

 

「あの構え……いきなり釘パンチ!?」

「釘? なんですかそれは?」

 

ソーナを筆頭に生徒会メンバーとまだ技を目にしていないギャスパーとマナも首を傾げる。

 

それに対してアザゼルが「見てりゃ分かる」とだけ言ってギャラリーをカリフに集中させた。

 

初めての技を目にしようと皆がカリフを見つめる中、アザゼルは面白そうに言った。

 

「あいつの持ち技である釘パンチってのは一秒未満に出せる限りのパンチを連続で繰りだし、時間差で釘を打ちつけるイメージで相手を破壊するえげつねえ技だ……去年の測定であいつは何発かましたと思う?」

「え……三……五発くらいじゃないんですか?」

「それはお前等が本気で打ちこんだ時を見てねえからだ。その時の結果じゃああいつは片手だけで……五十はいってたかな?」

 

アザゼルが説明する中で、カリフは腕に蓄えた力を目の前の大岩に……叩きつけた。

 

その瞬間、大岩を中心にとてつもない衝撃波が発生し、周りの断崖絶壁が衝撃波に耐えきれずに崩壊していった。

 

社の中ではアザゼルのおっかなびっくりの答えと目の前の突発的災害に皆は顔を引き攣らせていた。

 

「ぎゃー! なんだあれえぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「ひいいぃぃぃぃぃぃ!」

 

轟音にびっくりしたのか匙とギャスパーがパニックを起こし、ギャスパーが慌ててダンボールの中に入ろうとするもダンボールは突風に煽られてあえなく飛ばされていった。

 

「いやあぁぁぁぁぁん! 僕のオアシスぅぅぅぅぅぅぅ!」

「ほら、目を背けんな。これはこれで勉強になるぞ?」

 

パニクるギャスパーを抑えて面白そうに首を固定させて目を背けさせないようするアザゼルだが、彼以外の面子にとって目の前の現象は衝撃的過ぎた。

 

「1……2……3……」

 

目の前で聖剣デュランダルでも削るのがやっとだった大岩が巨大な窪みを作りながら形を歪ませていく。

 

カリフが目の前でカウントする中、その大岩はついに釘パンチの衝撃で独りでに宙に浮いた。

 

「すげぇ……まだ続いてる……」

「しかも一発一発がデュランダルの一撃を大きく上回っている。あんな芸当滅多にできないよ」

「はは……」

 

何気に驚きながらも普段から見ていて慣れているイッセーと木場はそれに感心に近い感想を洩らし、ゼノヴィアに関しては乾いた笑みを浮かべるしかない。

 

その間にも巨大な地球儀見たいに整っていた球の形は宙に浮いたままひしゃげ、面積の半分が凹んで潰れてしまっている。もうここまでくると釘パンチの回数には頭が回らなくなっている。

 

やがて、十五メートルくらい浮いた所で大岩は轟音と共に木端微塵に砕け散った。降りかかる大岩の破片も気にしない様子でカリフはパンチを放った腕をさすっている。

 

あまりに衝撃的過ぎた光景に生徒会メンバーはソーナを含めて絶句する中、その後ろではアザゼルが空間に浮かぶディスプレイのような物に目を向けて嘆息した。

 

「何かあったの?」

「あぁ、はっきりとあいつの成長が見れた。去年の最高記録を大きく上回った96発だ」

 

そう言ってアザゼルがデータを見せるとリアスたちは仰天してしまった。一秒未満に高速でパンチを繰り出すことやその一発の莫大な破壊力を考えて肝が冷えた。

 

デュランダルを遥かに凌ぐ一撃が高速、しかも連続で90以上も喰らったりしたら……そこまで考えてリアスたちは首を振った。

 

アザゼルはすぐに素に戻ってカリフの結果を紙にまとめた後、アザゼルはカリフに叫んだ。

 

「カリフ! じゃあ新技とやらの測定に入るぞ!」

「うし、どんとこい」

 

拳を上げてOKサインを出すカリフと再び大岩を作り出すアザゼルにリアスたちは意外そうに首を傾げた。

 

「新技? どういうこと?」

「あいつ、思いつきで考えた技があるらしいからそれの強さも見て欲しいんだと」

「へぇ……あいつの新技か~」

「ま、またさっきのように凄いのがあるんですか~?」

「さっきのもトンデモ無かったのにね……」

「……ギャーくん、マナ先輩もカリフくんはデタラメと規格外を体現した存在だと思った方がいいです」

 

その言葉にイッセーたちは興味津々なのか全員がカリフに視線を向ける。そんな中、カリフはリラックスしたように深呼吸を二、三度繰り返す。

 

しばらくストレッチをした後、カリフは既にモーションに移っていた。

 

両手の関節を自分で外し、気を腕に集中させていた。

 

ブランとぶら下がった両腕に朱乃は思わず口を手で押さえた。

 

「腕が……!?」

「あんな腕で一体なにを……!?」

 

ソーナやアザゼルでさえも予測できなかった行動の真意が次の瞬間に明らかになる。

 

関節を外した両腕をそれぞれ回転、二回転くらい腕を回し続けた。

 

限界まで捻った腕を大岩に向け、そして大きく足を踏み出して叫んだ。

 

「これが歯車的嵐の小宇宙……ミキサーテンペスト!」

 

ねじ曲がった両方の腕をそれぞれ逆方向に回転させながら両腕を付きだした。

 

その瞬間、出現した嵐は周りの砂埃や砂利を巻き込んで一つの竜巻として大岩に向かって行く。

 

大岩と竜巻が拮抗するのも一瞬、竜巻が大岩に喰いこみ、ドリルのように大岩を掘り下げていく。

 

そして、そのまま大岩を削り、貫いた。

 

だが、竜巻は止むことなく、大岩を貫通させた後も縦横無尽に砂利を巻き込みながら遠くの崖さえも削り取りながら突き進み、それを阻む崖さえも掘り進んでしまう。

 

やがて自然消滅することなく彼方にまで消えた嵐を見てカリフは舌打ちした。

 

「威力は申し分ないが、制御が難しいしモーションも長いな……改善の余地は充分」

 

そう呟くカリフを余所に皆は呆気に取られていた。

 

カリフの謎の行動が急に無差別的破壊を生みだしたことが最大の原因であり、その技の原理も分かりかねていた。

 

だが、アザゼルとマナはカリフの技を記録映像でリプレイしていた。

 

「す、凄い……本当に腕が回った……」

「恐らく気で関節を外す時の痛みを緩和しているからできた芸当だ。だが、この技の正体はなんとなく分かった」

 

アザゼルの答えに全員が目を見開くとアザゼルはどこからかホワイトボードを出して説明する。

 

「あいつはこんな風に腕を捻じ曲げることでこの筋肉の強靭さと弾力の特性を最大限に引き出し、それによって生み出された回転力をぶつけるのが今の技だ」

「え、でもあの突風はなんなんですか?」

「あれはあいつの回転する両腕から生まれた真空波から生み出された副産物と言っていいだろう。こんな感じで右腕を左回転、左腕を右回転させて噛み合う歯車みたいな動きから生まれる気流を発生させているんだ」

「な、なんて横暴な理論……」

「その横暴をやってのけるのがあいつの馬鹿力だ」

 

あまりに非現実的な無茶苦茶にソーナは頭痛を起こしかけていた。痛む頭を抑えながらアザゼルの話に耳を傾ける。

 

「あいつはあいつの持ち味を活かして日々努力を怠ることはいない。それがあの強さの源だと言っても過言じゃねえ」

「ま、まぁそれはあれ見たら分かるけど……」

 

言いたいことは分かるけど何だか今回の身体測定は一部のプレッシャーを植え付けられた感は否めない。

 

 

そんな感じでスピード測定もしたのだが……測定事態がもう圧倒的過ぎた。

 

あの木場でさえもカリフの素のスピードには追いつけずに二位という苦汁を飲まされてしまった。

 

たった二つの測定だったのに匙たちやイッセーたちは途方も無いほどの力の差に肩を落としてしまった。

 

「ル、ルークなのに素の人間に負けた……」

「はは……分かってていてもスピードで負けるとなにか来るものがあるよね……はぁ……」

「俺……良いとこなかった……兵藤にすら負けた……」

 

由良、木場はある程度覚悟はしていたのかイッセーにスピードとパワー負けで本気で落ちこむ匙よりは軽傷だった。

 

「はぁ……部長……」

「ほらイッセー。分かったから落ちこまないの」

「だけど、愛する男の背中すら見えないなんて……これも天の試練なのだろうか……アーメン」

「あらあら、ゼノヴィアちゃんも重症ですこと」

「で、でも先生とカリフくん仰ってましたよ! ゼノヴィアさんもイッセーさんも中々いい結果だって!」

「アーシアぁ……」

「ド、ドンマイですぅ……」

 

こっちも何気に心のケアが必要なイッセーとゼノヴィアを部員が総出で慰めていた。

 

だが、そんな輪の中に入らずに遠くで立ちつくす影が一つ。無言で拳を硬く握りしめて震わせる小猫だった。

 

「……これじゃあ……駄目だ……!」

 

自分の不甲斐無さを吐き捨て、焦りが心を包んでいく。ギリっと歯を食いしばる小猫の拳は白く変色していった。

 

「……」

 

そんな小猫をカリフは腕を組んで見つめるくらいしかできなかった。




今回の新技のミキサーテンペストはジョジョのワムウを真似てみました。これで楽しんでくれたら幸いです。
さあ! 次は小猫中心のエピソードとなります! そして遂にあの人が……!

また見てね~!

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