ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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囚われのヴァンパイア

「あれ?」

 

俺はいつの間にか意識を失っていたのか気が付いて起きたらミカエルさんは窓の外を覗き、サーゼクスさまとグレイフィアさんがなにやら真剣に話し合っている。

 

「お、赤龍帝のお目覚めか」

 

アザゼルが俺に気付くと同時に皆も俺に気付いたようだ。

 

見渡すとサーゼクスさま、レヴィアタンさま、グレイフィアさん、ミカエルさん、アザゼル、白龍皇以外の皆が動きを停めていた。

 

部員では―――

 

「眷族では祐斗、ゼノヴィア、イッセーと私しか動けそうにないわね」

 

周りを見回すと朱乃さん、小猫ちゃんにアーシア、さらには会長まで停止させられている! あの朱乃さんまで停められているなんて……

 

「イッセーは赤龍帝の力、祐斗はイレギュラーなバランスブレイカー、ゼノヴィアはデュランダルの力を解放して停止の力を相殺したのよ」

「力の逃れ方はカリフのを参考にさせてもらった。停止のタイミングに合わせてデュランダルを出現させたのだが、上手くいってよかった」

 

あんな神業を実現なんてこの娘もスペック高いな……あれ? でもそうしたらカリフは?

 

「どうだ? 外は」

 

探し回っていると、会議室にカリフが入って来た。外へでも行ってきたのだろうか?

 

そう思っていると、カリフは何かを引きずり、部屋の中へ放り込んできた。

 

「うわ! だれだこれ!?」

 

床に血みどろになったローブを被った人物が俺たちの前に転がって来た。

 

それも一人じゃなくて二人か、いや、三人も

 

状況が分かっていない俺にミカエルさんが答えてくれた。

 

「単刀直入に言えば我々は攻撃を受けています。相手は魔法使いです」

「攻撃!?」

「分かりやすく言えばテロだ」

「テロォォォォォ!?」

 

なんだか俺が寝ている間にとんでもないことが起こっていたようだ! するとこのローブ姿の人たちは……

 

「魔法使いだよ。三人とも実力で言えば中級悪魔級の強さだから気を付けて」

 

木場が魔聖剣を構えて警戒する。マジか! こいつら素の俺よりも強いのかよ!

 

皆が警戒する中、カリフはズカズカと近付いて三人を気で掴んで壁に叩きつけた!

 

「ぐは!」

「げほ!」

「ごぼっ!」

 

ショックで起きたと同時に三人は吐血して床に血を撒き散らした。

 

「これは、なんですか?」

「カリフ曰く、捕虜だそうだ。さっきまであいつは隠密に拉致ってきたんだ」

 

アザゼルの言葉に俺はなんとなく納得できた。まあ情報は大事だけど、ちょっとノリノリじゃないか? カリフの奴……

 

苦悶の声を上げながら魔法使いたちは見えない力で壁に押し付けられてもがいている所へカリフが近付いて来る。

 

「初めまして。オレはカリフだ」

「な、なんだきさグハァ!」

 

噛みついてきた魔法使いの顔を何食わぬ顔で殴って黙らせる。殴る瞬間、顔色をまるで変えないカリフに部長たちと一緒に寒気を覚えた。

 

「必要なこと以外は喋るな。素直に喋るというならすぐに解放してやる。どうだ?」

「ふん! だれがそんな真似を……!」

「そうか、じゃあもういいわ」

「……へ?」

 

その瞬間、カリフはポケットから取り出したのはどこにでもあるようなホッチキス。そのホッチキスで魔法使いの唇を……閉じた。

 

「むぐううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

「カ、カリフ!」

 

突然の行動に俺は思わず叫んでしまった。そりゃそうだ……俺もあんな生々しい……身近な物でも凶器にするカリフの冷徹さを垣間見た瞬間だった。

 

「悪いが急いでいる。何も喋らない口はいらないんだよ」

「その残忍な行動……貴様、まさか『神殺し』のカリフ……」

 

魔法使いの一人が恐怖からかそう言った瞬間、カリフは喋った相手を頭突きを繰り出した。

 

「ぶはっ!」

 

鼻血を噴き出す男の額に指を突き刺して怒りをこめて叫んだ。

 

「だれが呼び捨てでいいつったあぁぁ! 『さん』を付けろこのデコ助野郎ぅぅぅぅぅ!!」

「は、はひいいぃぃ!」

 

魔法使いたちが恐怖で表情を歪ませたのを満足そうに見届けた後、カリフはまたポケットから注射器を三本取り出した。

 

中には透明な液体が入っているのが見えた。

 

不穏な雰囲気を纏うその物質に魔法使いたちも俺たちも固唾を飲みこんだ。

 

「ヘビは毒を持つ個体がいればそうでないものもいる。そして毒には主に三種類……たとえば出血毒という血液の凝固作用を妨げる毒とか……どの毒にしろ大抵は十分で死にいたる」

 

その瞬間、校内に曲が流れ始めた。

 

なんだ! 敵か!?

 

「これ……お前か?」

「ああ、サンバだ。ブラジル、チリといった南国のエネルギッシュな音楽は好みだ。ボサノバも捨てがたい」

「うがああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

アザゼルに答えた通りなら、カリフは放送室に行ってCDを流したに違いない。

 

何気に答えながらカリフは三人に注射を刺した!

 

中の液体をうち終わった後、空の注射器を捨てて割った。魔法使いたちは身をよじって恐怖と葛藤している。

 

「あひひいいいいいいいぃぃぃぃ!」

「助けてえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「むがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

三人の命乞いを無視してカリフは曲に合わせて軽やかなダンスと共にステップを披露する。

 

「むがああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

一人が絶叫を上げる中、カリフはポーズを決めて一言

 

「ギャスパーとマナを盾に人質紛いなことした目的、親玉を吐かねーっつうならよぉ~……『十分』経ってオレのダンスも終わっちまうぜぇぇぇぇ? 『何もかも』な」

 

あの人を見るというより動物を憐れむ目は魔法使いたちにも相当に堪えているのだろう。

 

直接に『十分以内に答えなければ死ぬ』よりも不気味さを増す遠回しな言い方も神経をすり減らしているのかもしれない。

 

魔法使いたちはホッチキスで口を塞がれた奴以外が我先にと口を開いた。

 

「き、吸血鬼とブラックマジシャンガールはセイクリッド・ギアを使う兵器として旧校舎に監禁している! 指揮しているのは旧魔王派のカテレア・レヴィアタンだ! 頼む! 助けて!」

 

早く解放されたいが故に率直に、簡単に自白した内容に皆が驚愕した。

 

「そんな……カテレアちゃん……」

「冥界での確執も本格的になったな。悪魔も大変なことだ」

 

旧魔王派? 新参の俺には分からない話だけどセラフォルーさまがショックを受けている限り奥が深い問題なんだろうな。

 

それにギャスパーと他の人質は旧校舎か……速く助けに行かねえと!

 

「は、早く解毒剤を!」

 

カリフに命乞いする魔法使いたちにカリフは笑いながら言った。

 

「解毒? なんのことだ?」

「私たちに打った毒を取ってくれ! もう知っていることは吐いた! これ以上は知らない!」

 

カリフはしばらく考えて思い出した後、普通に言い放った。

 

「ああ、あの注射の中はただの水だけど?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「……え?」」」

『『『はい?』』』

 

え? ここでなんかしょぼい答えが帰って来たんだけど……

 

「お前たちの体に何か異常を感じるのか? 本物だったら今頃は呼吸が止まっているか痛みで悶えているはずだ。そもそも十分経ってれば『とっくに』死んでいるってことだぜ?」

「た、たしかに……何も感じは……」

「たりめーだろ? 毒みてえな高ぇモンを……」

「「「ハッ(ムグッ)!?」」」

 

カリフは魔法使いの顔面に足の裏を向けて……

 

「てめえ等に使うわけねーだろボゲ!!」

「「「レゲェ!!」」」

 

魔法使いの頭を蹴って壁にめり込ませた……最後の最後まで容赦ない尋問がここで終わった。

 

壁に張り付いたまま床に倒れる男たちを見て股間がスーっと冷めていく恐ろしさを感じたけどなんとか耐えた。

 

うちのアーシアちゃんが見てたら卒倒するか泣くかの酷い光景だったしな。アーシアが停められたことは幸いだったかもな。

 

倒れた魔法使いに目もくれずにカリフは鼻を鳴らした。

 

「イッセー、お前のことだ。どうせギャスパーの所に行こうと言うのだろう?」

「あ、あぁ! 当たり前だ!」

「じゃあオレも付いて行こう。今回の奴は気に喰わんからな」

「私も行くわ! 私の眷族が兵器として利用されているのよ……こんな侮辱は他に無いわ!!」

 

我がお姉さまも愛する眷族を利用されてお冠らしい。今回もカリフが全面的に味方になってくれるっぽいから頼もしい!

 

だけど俺だってそろそろ活躍したい! こいつにさんざんリンチみたいな地獄特訓を受けたんだ、力試しってことで暴れてやる!

 

意気込んでいる俺たちにサーゼクスさまも同意を見せる。

 

「我が妹ながら言うと思っていたよ。して、どうやって行く気だい?」

「部室に未使用の『戦車』の駒が残っているのでそれを使おうかと……」

「なるほど『キャスリング』か。それなら相手の虚を付けるな」

 

キャスリング……たしか瞬間的に『王』と『戦車』の位置を変えるレーティングゲーム特有のルールだったな。流石部長、全てにおいて無駄な部分がねえ!

 

内心で感心していると、カリフが急かし始めた。

 

「案が決まったなら早くしろ。早く奴らに地獄見せてやりたい」

 

明らかにイラついてるカリフにアザゼルが珍しそうにしている。

 

「へぇ、お前も感情的になってんのか?」

「ギャスパーか……本来なら奴が死んでも問題はねえんだがよぉ……『人質』などと三流まがいなやり口がまったくもって気に入らんし、あそこまで手塩にかけて育てたんだ、簡単に死なれたら目覚めが悪くなるしな」

 

やっぱこいつって基本的に世話好きな所もあるし、卑怯な手を嫌っているから怒っているのか。

 

まあ、こんなことカリフじゃなくても怒るけどな……

 

「すぐに送ろう。リアスもギャスパーくんが心配だろう?」

「はい、お願いします!」

「リアスちゃんもカリフくんも赤いドラゴンくんも気を付けてね!」

 

セラフォルーさまから激励された。これは何が何でも勝たなきゃ申し訳ないな!

 

俺たちは頷いて転移しようとした時だった。

 

「おい赤龍帝」

 

突然、アザゼルが俺に手にはめるリングのような物を投げて渡してきた。

 

 

 

旧校舎の一室、そこにギャスパーはイスにロープで括りつけられていた。

 

その周りを魔法使いが取り囲んでいた。

 

恐怖と自分が部員に迷惑をかけたことを自覚し、震えて涙を流している。

 

「うぅ~……部長~……先輩……」

「プッ」

「クスクス……」

 

泣いているギャスパーを周りの魔女たちは笑みを浮かべる。

 

友達と笑い合うような『微笑み』などではなく、人間の汚い一面を如実に表した『嘲笑』を浮かべるかの違いではあったが……

 

「うく……ひぐ……」

 

泣いているギャスパーの元に何やら足音が近づいてきた。

 

「座りな」

「あぁっ!」

 

魔女たちに手足を拘束された金髪の美少女がギャスパーの前に突き飛ばされた。

 

地面に叩きつけられた美少女はギャスパーと同じように魔女たちに見下ろされる。

 

「まさかあなたが内部告発なんて馬鹿なことするなんて……とんだ恥さらしだわ。マナ」

「……無理矢理に私をテロリストに入れた人がそんなこと言えるの?」

 

カリフが以前に保護した美少女のマナ

 

稀代の天才魔法使い『ブラックマジシャン』の素質と二つ名を受け継ぐ『ブラックマジシャンガール』

 

アザゼルに保護されていたはずのマナはギャスパーと共に拘束されていたのだ。

 

「あなたがアザゼルに捕まったと聞いた時は冷や汗をかかされたけど、堕天使の包囲網をくぐって救出できたのだからよかったのだけど」

「……」

「あなたの力が必要なのよ……魔法使いが再び返り咲くためにもあなた力が……」

「必要なのは私じゃなくて私のセイクリッド・ギアだけでしょう?」

 

マナが睨み上げると、魔女の一人は態度を一変させて侮蔑の表情を浮かべる。

 

「四つもセイクリッド・ギアを有しておきながら碌に御しきれない。そんな中途半端な使い手よりも上手く使ってあげられるのよ? 嬉しくないのかしら?」

 

マナは上目遣いで睨むのを止めない。

 

「それで罪も無い人たちを傷つけるくらいなら使いたくないのよ」

「ふん、まだそんなくだらないこと言ってるのかしら? 魔法は自分たちを押し上げる至高の力なの。どうして分かってくれないの?」

「違う! 魔法はそんな邪なことに使っていいものじゃない! これ以上魔法を汚してはいけないんだ!」

 

その瞬間、マナに魔力の球がぶつけられた。

 

「うぐっ!」

 

爆発はせず、まるで固い鉄球を当てられたような痛みがマナを襲った。

 

「う……が……」

「いつまでそんな綺麗事言っているのかしら? 耳障りよ」

「あぁ!」

 

倒れていたマナのアゴを掴んで無理矢理見上げる姿にした。

 

「魔法は人間が人外を倒すために与えられた力そのもの。守るなんてことはできないわ」

「そんなこと……ゲホッ!」

「あなたたちは魔法使いの中でも愚かな師弟だわ」

「ッ!」

 

マナは痛みも忘れ、怒りを目の前の魔女にぶつける。

 

「何も知らないお前が師匠を悪く言うな! お前みたいに自分のことしか考えない奴がいるから魔法使いはっ……う!?」

 

言葉はそこまで

 

マナは髪を掴まれ、振り回されてまた投げ飛ばされた。

 

部室の家具に身体を打ちつけられ、床に崩れた。

 

「己の可愛さに寝返った裏切り者が言うじゃない。少し躾ける必要があるようね」

 

マナに杖を付きつけて魔女は薄ら笑いを浮かべて見下している。

 

(酷い……人ってこんなに汚かったの?)

 

マナは恐怖と共に見下してくる魔女の醜さに絶望していた。

 

もう今の魔法使いに誇りもあったものじゃない……マナは何も出来ぬまま嬲られる。

 

そう思って次に来たる痛みに耐えようと目を瞑った時だった。

 

 

部室の中に転移魔法陣が展開されたのだった。

 

 

そこからリアス、イッセー、カリフが現れた。

 

突然の出来事に魔法使いの面子は驚愕する。

 

「悪魔め!」

「こんなところにまで来たのか!」

 

杖や術式に魔力を溜める魔法使いの面子を気にすることなくリアスはギャスパーに呼びかける。

 

「ギャスパー! 良かった、無事だったのね」

 

カリフはボロボロにされたマナを見つけても無言を貫く。

 

「あ、カリフ……」

 

マナはさっきまでの暴力から解放され、会いたがっていた人との再会に感極まって涙を流していた。

 

それを余所にギャスパーも涙を流していた。

 

「部長……僕、もう嫌です……もう死にたいです……今もこうして操られて皆さんを苦しめる兵器にされて……」

「馬鹿なこと言わないで。あなたを見捨てられる訳ないでしょ。言ったじゃない、私の眷族になった以上、自分が満足できる生き方を見つけて生涯を全うしなさいって」

「結局見つけられませんでした……皆さんに迷惑かけるくらいなら……」

 

そこまで言うと、カリフが口を出した。

 

「それ以上言ったら首をねじ切るぞ。ギャスパー・ヴラディ」

 

静かに透き通る声が部室に響いた。リアスもイッセーも何事かとカリフを見据えるも、イッセーだけはカリフの意志を理解した。

 

「カリフ、幾らあなたでもそんなこと……イッセー?」

「部長……待ってください」

 

真剣な表情のイッセーにリアスは引き下がった。

 

以前、イッセーがコンプレックスを吐露したときに見せた瞳

 

今のカリフはただ弱気なギャスパーに苛立っている訳ではなく、真剣に怒っている時の表情そのものだった。

 

「お前が今までどんな人生を歩んできたかは知らねえがよぉ……どんな形であれ授かった命を投げ捨てることはしてはならない……生きているなら、自分の力くらい制御してやる気概くらい持て!」

 

その瞬間、魔力の弾がカリフ目がけて飛ばされたのだが、カリフは首を捻って避けるだけだった。

 

「あら避けられちゃった……訳の分からない事を言う口を塞ぎたかったのに。こんな危なっかしくて碌に扱えないハーフヴァンパイアなんて洗脳して操ればもっと評価も上がったでしょうに。旧魔王派の言う通りだったわ。グレモリー家は情愛が深くて強いけど頭が悪いって」

「この……っ!」

「イッセー……ダメ……」

 

首を横に振って諌めるリアスに納得できていない様子のイッセーだが、ギャスパーと見知らぬカリフの知り合いが人質にされているために抑えた。

 

だが、カリフはその魔女を侮蔑するような目で睨む。

 

「それがマナも殺さずに生かしている理由か?」

「ええ、この子は素質は充分だけど精神に難があるわ。だから私たちが代わりにその力を有効に使って魔法使いの繁栄に貢献するのよ」

 

それを聞いたカリフはすぐにニヤニヤし出し、魔女はその意図が分からなかった。

 

「何が可笑しいのかしら?」

「そりゃ可笑しくなるさ。お前みたいな三下が魔法使い繁栄? 伴っていない実力しかない金魚がサメに勝とうとするほど滑稽としか思えん」

「あら? ただの人間風情が言ってくれるじゃない?」

 

平静を装うにも明らかに声音は怒りに染まっている。それを確信したカリフは内心でほくそ笑んでいた。

 

「大事なのは強大な力を手に入れることではない! その『力』を恐れ、逃げ出したいという『本能』をも凌駕する『覚悟』を宿すことだ! 『力』に支配されずに夢を信じるマナの足元にも及ばねえんだよてめえ等は!」

「っ……!」

 

カリフの一言に部室の家具が全て吹き飛び、イッセーたちもギャスパーに呼びかける。

 

「ギャスパー! お前のことは誰も見捨てねえからなぁ! 今弱いならこれから皆で強くなればいい! お前にはヴァンパイアの才能と人間の勇気があるだろ!」

「やっと解放させてあげられたんだから見捨てなんてしないわ! だからもっと迷惑かけてちょうだい!」

 

イッセーがブーステッド・ギア手の甲から一つの剣が現れた。

 

その剣から発せられる特殊な気配にカリフも舌を巻き、魔法使いも警戒を露わにする。

 

その剣でイッセーは自分の掌を斬って血を滴らせる。

 

腕を振りかぶって高らかに説いた。

 

「お前の覚悟で暗闇の荒野を照らせぇ!」

 

血をギャスパーに飛ばした。その際に別の方向へ飛び散った血をカリフはスプーンで軌道を変える。

 

そしてギャスパーの口の中に入った。

 

「飲めよ。最強のドラゴンの血だ。それで男見せてみろ!」

 

鉄の味をした赤い液体を飲みこんだ。

 

その瞬間だった。ギャスパーの姿が霧散し、その場から姿を消した。

 

「なっ!? あのヴァンパイアがいない!?」

 

魔法使いたちが消えたギャスパーを探していると……天井を無数の蝙蝠が飛び交っていた。

 

「なにこれ!?」

「まさか、あのヴァンパイアの能力か!?」

 

魔法使いは大量の蝙蝠に魔法を放とうとするが、その直前に能力で停止させられる。

 

これには残った魔法使いも狼狽する。

 

「くっ! まさか蝙蝠の目で停められた!?」

「それなら撃ち落とす!」

 

そう言って蝙蝠に魔法を放つが、その攻撃は蝙蝠に当たる直前で霧散して消える。ギャスパーにはダメージはない。

 

「これは!……またヴァンパイアの……!」

「いいえ、これは私のセイクリッド・ギア『触らずの魔法(ドント・タッチ・マジック)の能力を発動させてもらいました』

「お前は……! ブラック……いや、マジシャンズヴァルキリア!」

 

魔法使いの前には拘束から解放されたマナが既にカリフ側に移動していた。

 

だが、姿形はいつものマナの容姿ではなくヴァルの姿だった。

 

「さっきの魔法使いの女の子!? 姿が変わってる!?」

「驚いたわね……この子、黒魔法の使い手だわ」

 

イッセーとリアスが驚愕する中、魔法使いは苦虫を噛んだような表情を見せた。

 

「くっ! 魔法使いが悪魔に寝返るなど恥を知れ!」

「人の心を忘れた人に言われたくありません!」

 

そんな中、マナ以外の魔法使いの体から魔力が放出されていく。その行き先は蝙蝠たちだった。

 

「これは、魔力が吸われてる!」

「不味い!」

 

魔法使いが魔力を吸われながら抵抗を見せる中、カリフはイッセーに耳打ちする。

 

「オレの話しに割り込んだあいつだけには手ぇ出すな。代わりに他の奴らの服を全て剥がせ」

「マジで!? いいのか!?」

「やれ。許す」

 

親指を反転させて下に向けるのを確認したイッセーは歓喜した。女関係に少し慎重気味なカリフから許しが出たのならもう我慢する必要は無い!

 

「唸れ煩悩! 弾けろ妄想!! その身にまとう衣を弾かせたまえ!」

『Boost! Boost! Boost!』

 

力をチャージしたイッセーは溜める間も無く魔法使いの衣服に魔法陣を設置させて……

 

「くらえ! 洋服崩壊(ドレスブレイク)!!」

 

高らかにポーズを決めた瞬間に魔法使いの身ぐるみが弾け飛んだ!

 

「いやああぁぁぁぁぁぁっ!」

「きゃあああああああぁぁぁぁ!」

 

色っぽい悲鳴が部室に響く中、リアスは呆れ、初めて破廉恥な技を目にしたヴァル形態のマナは愕然とした。

 

「な、な、なんですかこれ……」

 

顔を紅くさせてカリフの背中に隠れるマナ。

 

だが、カリフは裸を必死に隠す魔法使いたちの間を縫って一人の魔法使いの元へ歩み寄る。

 

カリフに攻撃した魔法使いに……

 

「さて、何か言うことは?」

 

カリフが楽しげに見下す中、その魔法使いは空元気のような焦った笑みを見せる。

 

「ざ、残念だったわね! 後もう少しで私たちよりも上級の魔法使いや悪魔が押し寄せてくる! ここで私たちを相手にしてもあなたたちの敗北には変わりない!」

 

勝ち誇ったように宣言するが、既に異常は起こっていた。

 

本来ならもっと早くに人員も外から増えてくるはずなのに時間が経ってもその気配がない。

 

それどころか窓から外を見ても明らかにおかしい。既に魔法使い陣営が全滅しつつあるのだから。

 

(私たち魔法使いの兵力はこんなものじゃないはず! なのに何故……!?)

「外からの救援が来ないのか?」

『『『!?』』』

 

焦りを募らせているのがバレたのかカリフが面白がっているように魔法使いを促す。

 

「マナに街を散策させた時点で少し気になってたからな、手は打たせてもらった」

「なっ!?」

 

そこまで深くはネタバレする気もないから簡潔に済ませたが、外ではとんでもないことが起こっていた。

 

 

結界の外

 

認識阻害の結界を張っているために街の住人には魔法使いを認識できない。

 

それが凶となったのだろう。

 

「な、なんだよこれ……」

「全員離れるな! この陣形だけは死んでも崩すな!」

 

周りには魔法使いの死屍累々に赤い血で彩られた地面、その中心で生き残った僅かな魔法使い

 

この魔法使い、実力だけ言えば上級悪魔とも渡り合えるほどの実力を備えている。

 

そのため、今回の三勢力のクーデターに加わることとなったのだが……

 

「なんで……北欧の化物がこんな所に……」

「呑まれるな! 精神を乱すと魔法が荒れるぞ!」

 

だが、平静を装えという方が無理な話なのだ。

 

目の前には仲間の死体を喰らい、口を血で濡らす巨大な狼の姿が映る。

 

白い毛皮で覆われた白いフェンリルのドッグ。

 

魔法使いの死体を一通り食べ終えた所でドッグは生き残っている魔法使いに狙いを定める。

 

「く、来るぞ!」

「くそおぉぉぉぉ!」

 

次に殺される恐怖に発狂して魔法をドッグに撃つが、ドッグは全てを置き去りにするほどのスピードで弾幕を避ける。

 

その場から消えたドッグに再び警戒を高める。

 

どこから襲われても円陣の連携なら最悪な事態は多少防げると思っていた。

 

―――グオオオォォォォォ!

「来た!」

 

前方に姿を現したドッグに戦闘態勢を取った。

 

しかし……

 

「任せろ! これでもくら……ギャッ!」

『『『!?』』』

 

突如、後方に控えていた仲間が巨大な足に踏み潰されて絶命した。

 

生き残りがその方向に目を向けると、そこにはもう一匹のフェンリルのウルフが見下ろしていた。

 

―――グルルルルルルルルルル……

「あ……ぁ……」

「二匹……」

 

絶望に染まる魔法使いたちを両眼で捉える。

 

「助け……喰われ……」

 

双方の狼はそれぞれ主の命をこなしているだけに過ぎない。魔法使いの命乞いに耳を貸すことなく唸る。

 

―――オオォォォォォォォォン!

「ひいぃぃ! あぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!」

 

二匹同時に吼え、魔法使いの元へ駆け出し、牙を突きたてた。

 

魔法使いの恐怖の悲鳴はやがて絶命の断末魔へと変貌した。

 

圧倒的な魔力と体格差に抵抗は虚しく終わり、逃げることさえできない。

 

「ああぁぁっ! あひいいいぃぃぃゃぁぁぁぁ!」

「いだっ!……たしゅけ……っゲボッ!」

「ひぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

肉が噛み千切られて骨が折れる音と共に悲鳴が響く。

 

その悲鳴が消える頃になっても二匹の狼は獲物にかぶりつき、その見事な毛皮を血飛沫で赤く染めても捕食を止めることは無かった。

 

 

「馬鹿な……一体何が……」

「分かったか? 自分の状況が……」

「!?」

 

旧校舎の一室でテレパシーを試みた魔女が一部だけ外の状況を理解した。

 

仲間が正体不明の化物に殺されたとしか分からない。

 

「お前は既に孤立無援の袋の鼠……残念でした」

「ま、待って! 取引しましょう! カオス・ブリゲートならあなたの望む物はなんでも……!」

 

遂に後ずさって命乞いを始めた魔女にカリフは感慨深そうに笑みを止めて神妙な表情に変わる。

 

「弱ったな……お前のような奴の命乞いを見ると……」

 

一縷の希望が湧いた。もしかしたら女である自分の命乞いが情けを湧き起こしたのか。

 

それならこれ以上に泣きながら体でも差し出して性欲を刺激すれば助かるかもしれない。

 

そう思うや否や魔女が口を開いた瞬間―――顔面を掴まれた。

 

「?」

 

何が起こってるのか分からない状況の中、何やらカリフが邪悪な笑みを浮かべて何か呟いたのが見えた。

 

 

―――お前みたいな奴を見ると

 

 

 

 

―――非常に殴りたくなる

 

読唇が終わったころには既に掴まれた顔の力が強まり、体が浮遊した。

 

ある程度、振り回された直後に

 

 

部室の食器棚の中に魔女の顔面を力一杯突っ込んだ。

 

棚のガラスが破片を撒き散らした。


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