ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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遅くなりましたが投稿します!
この章が落ち着いたらリリカルなのはと火拳の投稿を再開しますので長い目で見てください。


人生相談

「停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)?」

「そう、それがギャスパーの持つセイクリッド・ギアであり、時間を止める能力を持つのよ」

「そんな反則な……」

「あなたの倍加の力も白龍皇の半減の力も充分反則よ?」

「もっと反則級なのが後輩にいますが……」

「それは……」

 

現在、ギャスパーからの術から解き放たれた俺たちは部長からギャスパー・ヴラディの真実を告げられていた。

 

ここまで説明させられた項目は以下の通りだ。

 

・ギャスパーは人間とヴァンパイアのハーフである

 

・人間の部分でセイクリッド・ギアを受け継ぎ、人間の魔術に秀でている

 

・人間のハーフなので血は十日に一度くらいの補給で済む

 

・そんなギャスパーを眷族にできたのは『変異の駒(ミューテーション・ピース)』という複数の駒を使う場面を一つの駒だけで済ませるバグのようなものによる

 

・そして、ギャスパーは日中でも活動できる『デイ・ウォーカー』と呼ばれるヴァンパイアだということ

 

そして……

 

「日の光は嫌いですぅぅぅぅぅぅぅ! 太陽なんて無くなっちゃえばいいんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

日中は動けるのに日の光は嫌いだわ……

 

「僕はこのダンボールの中で結構です! 外界の空気と光は外敵なんだあぁぁぁぁぁ!」

 

とんでもない引き篭もりだわ……

 

「血なんて嫌いですぅぅぅぅぅぅ! 生臭いのもレバーも嫌いですぅぅぅぅ!」

 

血が嫌いなヴァンパイアってこれは酷過ぎる……

 

そんなダメダメ引きこもりヴァンパイアに最も業を煮やしているのが……

 

「なんでもかんでも駄々こねてんじゃねえこのスカタン! その腐りきった根性を叩き直してやるぞボゲェ!」

「いやああぁぁぁぁぁ! この人怖いぃぃぃぃぃぃぃ!」

 

ギャスパーの駄目っぷりにカリフもイライラが溜まっていたのか怒りで詰め寄ろうとするも何とか俺たちで抑えて宥めている。だけど、今回ばかりはしゃーないと思っている。

 

「……へたれヴァンパイア」

「うわぁぁぁぁぁん! 小猫ちゃんもいじめるぅぅぅぅぅ!」

 

吐き捨てるような小猫ちゃんの一言に大泣きするギャスパーに部長も苦笑してしまっている。それでも部長は行く所があるようでカリフが少し落ち着いたのを確認して話を続ける。

 

「私はこれから朱乃と一緒に三すくみトップ会談の会場打ち合わせに行ってくるわ。それと祐斗はお兄さまからバランス・ブレイカーのことについて話を聞かせて欲しいそうよ」

「はい部長」

 

そういえば木場の聖魔剣だっけ? あれって相当なイレギュラーだから魔王さまも調べたいんかな?

 

「それじゃあ後の皆はギャスパーくんの教育だっけ? 後はお願いイッセーくん」

「任せとけ!……って言いたい所だけどあいつがどう出るか……」

 

言わずもがなカリフのことを口にすると木場も苦笑する。ちくしょう! 苦笑まで爽やかな上に最も厳しい仕事から抜けやがって!

 

まあ、今回は事情が事情なだけに仕方ないのだけど、問題児“二人”の制御から逃れた木場が羨ましい。

 

「ギャスパーくん。そろそろお外に慣れないといけませんわよ?」

「朱乃お姉さまあぁぁぁぁぁ! そんなこと言わないでくださいいいいいぃぃぃぃぃぃ!」

「あらあら、困ったわね。カリフくん、イッセーくんもお願いね?」

「任せてください! 朱乃さんの頼みとあらば!」

 

とは言うものの、背後で拳をポキポキ鳴らすカリフに不安しか感じない。

 

「まあ、とりあえずはこいつを鍛えるとしよう。軟弱な男はだめだ。まずはカリフみたいな益荒男に仕上げたいと思う」

「いや、あれは無理があるかな~。スポーツ選手でもそれは無理じゃないかな~」

 

ひもを括りつけたダンボールを引きずってゼノヴィアはデュランダルを担いでノリノリのようだ。

 

「いやぁぁぁぁぁん! 聖剣デュランダルの使い手だなんて嫌ですぅぅぅぅ! 滅せられるよぉぉぉぉぉぉぉ!」

「悲鳴をあげるな。なんなら十字架と聖水にニンニクも付けてあげようか?」

「ガーリックはらめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

おい、悪魔のきみが悪魔祓いしてどうする、ダメージ受けるぞ?

 

う~ん、今回はカリフとゼノヴィアに出会ったことがこいつにとって最も不幸なことなのかもしれないな。

 

 

 

「ほら、走れ。デイウォーカーなら日中でも走れるはずだ」

「ひぃぃぃぃぃぃ! 殺されるよぉぉぉぉぉぉ!」

「……ギャーくん。ニンニクは体にいい」

「いやああぁぁぁん! 小猫ちゃんまでえぇぇぇぇぇぇ!」

 

現在、夕陽に染まる旧校舎の近くでギャスパーはゼノヴィアと小猫に追い回されていた。まるでチェンソーのように音を立てて聖のオーラを放出するデュランダルはギャスパーにとって何よりも怖いんだろうな。必死で逃げてるし。

 

ゼノヴィアもどこか生き生きしているように見えるのは気のせいじゃないと思う。

 

「普段の欲求がここにきて爆発してるなありゃ。ああいうのは止まらんぞ?」

「それに小猫ちゃんまでニンニクを持って……部の中で一番イジられてるのかな?」

「それよりも助けませんか!? ギャスパーくん本当に死んじゃいますよ!?」

 

アーシアがノホホンと眺めるイッセーとカリフに抗議するも、なんだかそんな気は全く起きない。カリフに至っては後もう少しで鬼ごっこに参加しようとも思っているほどなのだから。

 

「おー、やってるな」

「お、匙か?」

 

背後から匙が暴れ回るゼノヴィアたちを見据えて洩らす。

 

「よう兵藤、最近に解禁された引き篭もり眷族ってのを見に来たぜ」

「あぁギャスパーか。今、ゼノヴィアに追いかけられてるのがそうだ」

「おいおい、ゼノヴィア嬢、伝説の聖剣を振り回してるぞ。大丈夫か? ってか女の子か! しかも金髪!」

 

嬉しそうだね匙。だけど残念だよ。

 

「残念だけど、あれは女装野郎だそうです」

 

それを聞くと頭を項垂れて落胆する匙と苦笑するアーシア。

 

「さ、詐欺だ……ていうか引き篭もりで女装癖って……なんの需要があるんだよ……」

「だよなぁ、誰かに見てもらいたい女装ならまだ分かるんだが……」

 

そんな感じで二人でトークしている中、アーシアは置いてけぼりって感じだったのかカリフに話を振っていた。

 

「あの、今日はお静かですね……」

「あぁ、今日は珍しい、昔馴染みの客が来てるからな……」

「客……ですか?」

「ほら、そこの校舎の角の影の奴だよ」

 

寝転びながら示す言葉に俺たちの視線が集まる。

 

そこにいたのは―――

 

「相も変わらずバケモノしてんな。気配消したっつーのによ」

 

和服姿のワルそうな男……俺はその姿に戦慄した。

 

「アザゼル……っ!」

「よー、赤龍帝。あの夜以来だな」

 

怪訝そうに第三者を見ていた皆の目が瞬時に鋭くなり、空気も変わる。

 

ゼノヴィアはデュランダルを構え、小猫ちゃんもファイティングポーズをとる。アーシアも俺の後ろに隠れ、匙も驚愕しながらデフォルメ化したトカゲの頭のセイクリッド・ギアを右手の甲に出す。

 

「兵藤! アザゼルって……!」

「マジだよ。何度も接触したから分かる!」

 

俺のマジの反応に匙も戦闘態勢に入る。

 

だが、アザゼル自身は苦笑しながら手をフルフルと振るだけだった。

 

「やる気はねえよ。構えを解けって下級悪魔くんたち。俺には弱い者いじめする気はねえし、この中で俺に勝てる奴なんざ限られてるくらい分かるだろ? ちょっと散歩がてらに約束解消と聖魔剣使いを見に来ただけだ」

 

確かに殺気は無いし、隙だらけだから敵意も無いように見えるけど……だからといってそう簡単に信用できるわけねえだろ! ってか木場狙いか!

 

「木場ならいねえし、いてもお前に渡すか!」

 

そんな俺の叫びにアザゼルは終始笑顔を向けたままだった。

 

「その気迫はとても素晴らしいことだ。だが、力の差くらいは感じているはずだ……」

『『『!!』』』

 

その瞬間、アザゼルから発せられる膨大で、しかも強烈なオーラに俺たちは動けなくなってしまった。

 

「もし、俺が最初から聖魔剣使いを力づくで奪いに来るなら……この今頃お前たちは学園ごとオダブツだぜ?」

 

そう笑いかけてくるアザゼルにうすら寒いものを感じた! それは俺たちの『勝てる』自信を根こそぎ刈り取り、力の差を誇張するには充分過ぎるほどだった。

 

やべえ! こいつの言ってることは冗談なんかじゃねえ! 何となくだがあいつにはそれが呼吸するくらい容易く、それができることくらい分かってしまう。

 

周りを見れば完全に皆も体を強張らせて委縮してしまっている様子より、俺と同じ結論に至ったようだと分かる。

 

言い知れぬ恐怖で震える俺たちを見てアザゼルは悪戯っぽい笑みを向けてきた。

 

「まあ、そんな訳だから今日は何もしねえっていうのは本当だ。今日は聖魔剣使いがいないから別の用事を済ませに来ただけだ。お前も寝てないで何か言えよ」

「早くしろ」

「人呼び出しといてその言い草かテメェ……」

 

なんだ? アザゼルとカリフは互いに知り合っている雰囲気で喋っているんだけど……

 

「今日はお前のセイクリッド・ギアのメンテの日だ」

「へいへい」

 

気だるそうにアザゼルはカリフの胸に手を添えると、そこから光る球みたいなのが出てきた。おい、まさかそれってセイクリッド・ギアか!?

 

「何してんだお前! それはカリフのセイクリッド・ギアだぞ!」

「だからメンテだっつってんだろ。それに、元々は俺の作ったセイクリッド・ギアだ。こいつのメンテは俺の役だ。つーかお前が事前に話してばここまでややこしいことにはならなかったんだぞ」

「ふん」

 

混乱する俺たちを余所に二人は親しげに話し、アザゼルはセイクリッド・ギアをいじくりながら木の木陰に指差す。

 

「そこのヴァンパイア」

 

いつの間にか木陰に隠れていたギャスパーは体を震わせる。

 

目を合わせずに話しているとはいえ相手は堕天使の幹部だ。たとえ人見知りじゃなくてもあの反応は当然だ。

 

「停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)か。強力なセイクリッド・ギアだが、コントロールできずに暴走させると危険極まりない代物だ。かといって悪魔はセイクリッド・ギアの研究が進んでいないから補助具で制御もできてねえのか……おいそこの! 黒い龍脈(アブソーブション・ライン)の所有者!」

 

匙は自分に振られてその身を震わせた。

 

「練習するならそいつを使ってみろ。それでセイクリッド・ギアの余分な力を吸い取らせながら発動させれば暴走も少なくなるだろう」

「お、俺のセイクリッドギアって相手のセイクリッド・ギアの力も吸えるのか?……ただ相手の力を吸って弱らせるのかと……」

 

アザゼルが溜息を吐いていたが代わりに答えたのは意外にも寝込んでいるカリフだった。

 

「お前のそれは五大竜王の一匹の『黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)』と悪名高い龍の王、そんなチャチなもんで済むかよ」

「それに、短時間の条件付きでなら他の奴や物体にもラインを繋げてパワーを流し込むこともできる。レベルも上がればラインの本数も増えて吸い取る出力も倍々ってわけだ。試すなら赤龍帝の血を飲ませてみろ一番手っ取り早くパワーアップできるぞ……よし、できたぞ」

 

律儀に説明する中でアザゼルはカリフのセイクリッド・ギアを離して体に戻している。寝ていたカリフは起き上がって体を柔軟体操でほぐしていた。

 

すっかり置いて行かれている俺たちをよそに二人は話しこんでいた。

 

「お前のセイクリッド・ギアの調整は終わったぞ」

「うむ、毎度ながら良い仕事してくれる。昔と違って稼働時間も長くなったのも流石だ」

「それならもう少し敬意を払え」

 

あまりに親しげに話すものだから俺は気になったというのもあって聞いてみた。

 

「お前、カリフのセイクリッド・ギアを奪いに来たんじゃないのかよ?」

「は、んな命知らずなことするほど酔狂じゃねえよ。親心って奴だ」

「親心?」

「俺がこいつにやったセイクリッド・ギアだからな、整備も俺にしかできねえ。まあここまでセイクリッド・ギアの可能性を見ているのも面白いからな。息子を育ててるみてえなもんだ」

 

その答えにその場の全員が目を見開いて驚愕していた。アザゼルからもらったセイクリッド・ギア……相当な物じゃねーか!

 

つーかカリフってアザゼルとも知り合いだったのか!? レヴィアタンさまだけでも驚きだってのに……

 

「じゃあ俺はもう行くけどよ、その前にお前に悪いニュースがある」

「ほう? それは?」

「……マナが拉致されちまった」

「!?」

 

二人の会話は分からないけど重要なことなのかカリフは驚愕を露わにする。

 

「お前とあろう者が、随分と下手をうったものだな」

「返す言葉もねえ……言い訳に聞こえるが、この地区はグレモリーとシトリーの管轄だから俺の行動範囲も行動も制限されちまうんだ。その隙を突かれた」

 

俺の仕事の邪魔はいいのかよ、と色々と思うことはあるけど話の腰を折ると後が怖そうだから黙っておく。

 

それにアザゼルも切に謝罪している様子に皆も驚きを隠せない。

 

そんな中でカリフは溜息を吐いてた。

 

「……まあいい、奴とて諜報部員として来ていたんだ。情報さえ洩らさん限りまだ殺されはしないだろう」

「それまではどうすることもできねえがな……マナについてはシェムハザに任せている。だが、対策は多い方がいい」

「何かあるのか?」

「また後で連絡してやる。そろそろ悪魔くんたちの主が戻って来てめんどくさそうなことになるからな」

 

そう言いながらアザゼルは踵を返しながら俺たちに告げた。

 

「ヴァーリ、うちの白龍皇が勝手に接触して悪かったな。まあかなり変わった奴だが今すぐに赤白ライバル対決するような奴じゃないさ」

「正体明かさずに俺に接触してたのは謝らないのかよ」

 

それに対してアザゼルはニっと笑った。

 

「謝らねえよ。ありゃあ俺の趣味だ」

 

そう言い残してアザゼルは去って行った。

 

一連の流れの中で呆然としていた俺たちだったが、匙の一言で動き出した。

 

「と、とりあえず俺のセイクリッド・ギアをそこの新顔くんにとりつけてやってみっか。その代わり、お前らには花壇の手伝いしてもらうからな」

 

皆もそれに頷き、ギャスパーのセイクリッド・ギアの特訓が開始された。

 

匙の黒い龍脈(アブソーション・ライン)をギャスパーに付けてみた所、マジでセイクリッド・ギアの力を吸っていた。あの総督、俺たちよりセイクリッド・ギアに詳しいな。

 

そこでギャスパーの能力で分かったことがある。

 

まず、投げたボールを停めてもらった後で色んな事を試してみた。

 

・ボールは宙に浮かんだまま停まった。

・生物ならその格好のままで停められる。

・視界に映る対象が近ければ近いほど停める時間が長くなる。

・逆に遠ざかれば遠ざかるほど捉える範囲は大きくなるが、停める時間が短くなる。

 

そして、俺たちでは分からなかったが……

 

「はっはっはっははははははは! 遂に克服したぞ!! もはや時間と言えどオレを縛ることなどできんのだぁ!」

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 停まった時間の中で動いてますぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

カリフだけだが、時間が止まるタイミングに合わせて力を解放させればセイクリッド・ギアの力の影響を受けることは無くなるとのこと。

 

ただ、そのタイミングは今の所、体で覚えたカリフにしかできない。

 

それに無意識の発動があってカリフ以外の俺たちを停めることもたまにあった。

 

その度に逃げようとするギャスパーを何度も捕まえて特訓を続けるといった繰り返しの中、部長が帰って来た。

 

「お疲れ様。頑張っているようね」

 

手にはサンドイッチを持ってきてくれた部長の言葉に俺たちは特訓を一時中断して部長のサンドイッチに舌鼓を打つ。

 

木場と朱乃さんも魔王さまとの用事さえ終わっていれば一緒に食べられたんだけどな……

 

まあ、今はこの味を堪能したいからサンドイッチをがっつく。

 

「材料も少なかったから簡単にしかつくれなかったけど……」

 

いや、それでも部長の作った物は最高っすよ! 絶妙にスパイスも効いてて最高です!

 

匙もカリフも絶賛してるし。

 

そんな中で部長にアザゼルのことを話したら部長は当然ながら大変驚いた。

 

「確かにアザゼルはセイクリッド・ギアに詳しいから信憑性はあるから試してみる価値はあるわね。それと……もうこの辺で聞きたいんだけど……カリフ」

「?」

「あなた、どれだけの人物とパイプ繋いでるのよ。それだけは聞かせて欲しいわね。主に三大勢力とセイクリッド・ギアの使用者も含めて」

 

部長も気になっていたことを聞いてみるとカリフはサンドイッチを食べながら答える。

 

「知ってるのはアザゼル、バラキエル、セラフォルーとオーディン、後の覚えているのといえば……『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』の使い手と……デュリオ・ジェズアルドとかいうエクソシストだな。奴等には随分と遊ばせてもらったからな」

 

その名前に部長とゼノヴィアは吹きだして驚き、匙と小猫ちゃんに至っては固まってしまった。

 

いや、つーかアザゼルの他にもバラキエルとオーディンって……どっちも最近勉強したから分かる超大物じゃん!

 

「ほ、北欧の主神とも繋がりが……」

「デュリオさまとも面識があったのか……」

「なあゼノヴィア、デュリオって一体……」

 

最後の名前だけは分からなかったから聞いてみる。

 

「デュリオ・ジェズアルド……今、この世界の中では間違いなく最強のエクソシストと呼ばれているミカエルさま直属の部下だよ。二番目に強いロンギヌスの『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』の使い手でもある」

「に、二番目!?」

 

と、とんでもねえ奴じゃねえか! このブーステッド・ギアを凌ぐかもしれないセイクリッド・ギアを持つ最強のエクソシスト!

 

あのフリードですら敵わねえって意味だよなそれ!

 

「それに『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』……とんでもない人物とも関わっていたのね……」

「イエスを貫く絶対の槍……カリフ、君はその使い手とデュリオさまとはどういう関係なんだ?」

 

ゼノヴィアが興味深そうに聞くと、カリフも当時を思い出すかのように物思いに耽っていた。

 

「そうだなぁ……最初はオレを人外と思って襲って来たんだが、どっちも最初は弱っちくてちっぽけな奴らだったのは確かだ。筋はあったがいっちょ揉んでやった」

「ロ、ロンギヌスを相手に生き残る所か圧倒したというの?」

「まあ、それからしばらくは面白そうな奴らだったからみっちり鍛えてやったりもした。あの時はガチで楽しかったなぁ」

 

遠い目で思うカリフにどんな表情をすればいいか分からない。

 

カリフには魔力なんてない人間だけど、強さだけ言えば既に神の領域……その経歴だけ見ても俺たちよりも遥かに格上だということを感じさせられた。

 

一応、カリフを目標にしていた俺としてはどんどん壁が険しく、高くなっていくのを感じさせられたりもしている。

 

部長たちも同じことを思ったのかサンドイッチの手を止めて溜息を吐いていた。

 

「……まあ、薄々はこういう予想はしていたけど、事実だと知ると笑えないわね。うん」

「ははははは……! そんなオレが直々に鍛えてやってんだ! 普通なら感謝されてもおかしくないのだぞ?」

「逆に考えればそうだけど……」

 

言い方に引っ掛かりを覚える俺たちだけど下手な反論は災いの元を生むから止めておこう。

 

「じゃあ、この後はギャスパーを徹底的に鍛えてやる。ある程度は匙に力抜いてもらってすっきりしたはずだからな」

「が、頑張りますぅぅ……」

「はわわ……あまり無茶しないでくださいね……?」

 

アーシアは同じ僧侶としてかギャスパーを気遣うもカリフは火が点いてテンションが上がっているのかギャスパーをダンボールに詰めて引きずって行った。

 

この後、匙とも別れた俺たちはギャスパー強化プロジェクトに勤しんだのだった。

 

 

ある日まではギャスパーの修業は順調に進んでいた。

 

匙の協力もあれば木場たちも手伝ってくれたこともあってギャスパーも最初の頃よりはイッセーたちと向き合ってくれていたかもしれない。

 

意外にもカリフもがギャスパーの特訓に協力するどころか全面的なバックアップをしてくれた。これで順調に進まない訳が無い。

 

そう思ってリアスはイッセーと一緒に悪魔家業に向かわせたのだが……

 

『ふえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!』

 

取引先で怖い目にあったことと力を暴走させたことのショックによって再び部屋に閉じこもってしまった。

 

リアスは部屋の前でギャスパーに声をかけ続けていた。

 

「泣き止んでちょうだいギャスパー。無理してイッセーと同行させた私が悪かったわ」

 

だが、ギャスパーは泣き止むことを知らずに泣き続ける。

 

あまりに重すぎるギャスパーの問題にリアスも悲しげに表情を曇らせる。

 

「またあの子を引きこもらせるなんて……王失格だわ……」

「部長は悪くないですよ……俺がいながらあいつに怖い思いさせたんですから……」

「イッセー……それでも……」

 

互いに罪悪感を引きずる中、それに見かねたカリフが溜息を吐く。

 

「これは明らかにギャスパー自身の問題だ。こればかりは奴が自分で乗り越えんとならん」

「そうは言うけど……」

 

それも分かっている。ギャスパーの問題は心にあるということ。

 

だけど、それは本人にとって相当の重荷となっているからこそ今を苦しんでいる。

 

とてもじゃないが誰かのバックアップが無いと自立できないほどらしい。

 

『こんなセイクリッド・ギアなんていらない! だ、だって皆停まっちゃうんだ! 停めると皆僕を怖がる! 嫌がる! 僕だって嫌だ! もう仲間を停めたくないよ……停まった友達の顔を見るのは……もう嫌だ……』

 

人間とヴァンパイアのハーフとして生まれたギャスパーの過去は凄惨たるものだと言える。混血以外を侮蔑するヴァンパイアにとってギャスパーはまさにその対象に他ならず、しかも強大なセイクリッド・ギアと類まれな才能を秘めて産まれたのだからギャスパーへの扱いも酷くなる一方だった。

 

ついには居場所を失って路頭に迷っていた所にヴァンパイアハンターに狩られて一度は生涯の幕を閉じた。

 

そこへリアスに転生させてもらったのだが、大きすぎる力に翻弄されることとなった。そして上から封印の命令を下され、再び解禁された今に至る。

 

強いが故の苦悩をギャスパーは短い生涯の中で嫌というほど経験してきた。

 

それが分かっているからこそこの問題の解決は難しい。

 

 

 

 

 

 

 

―――だが、動かなければ何も起きない。

 

業を煮やしたカリフは少し溜息を吐いてギャスパーの部屋の前に立つ。

 

「……見えない力というのはよぉ……てめえの知らねえ所で勝手に膨らんでいくもんさ。まるで風船みてえによぉ……」

『そんなこと言ったって……』

「だけど、このまま放っておいたらいつかパンクしちまうぞ?」

『でも、こんな力を制御するなんて……』

「やるしかないいんだよ。このまま引きずればお前は後悔する。必ずな」

『え?』

 

その言葉にギャスパーはおろかイッセーもリアスも驚く。

 

「カリフ、それってどういう……」

「これがこいつの心の問題なら何でもいい、きっかけが必要だ。そのきっかけを作ってやってるんだ」

 

カリフはリアスと向き合い、強い眼差しを向ける。

 

「ここはオレに任せて欲しい。ここで終わらせるには勿体ない逸材でありながら使いこなせないでいる半端者だ。見ているとイライラするんだよ」

「……信じてもいいのね?」

「誰に物を言っている? オレが一度でも失敗したことが?」

 

それだけで強い説得力と安心感が生まれたリアスはフっと笑った。

 

「……分かったわ。これからお兄さまと仕事があったの……」

「部長はそっちに行ってください。俺も今回のことには責任がありますから」

「ええ、頼りにしてるわ」

 

そう言ってその場を去っていくリアスを見送った二人は静かになった部屋の前で仁王立ちする。

 

「さあ、ゆっくりと話そうじゃねえか……」

 

そう言って部屋の前で座り込む二人だが、先に口を開いたのはカリフだった。

 

「さっきの話の続きだが、原因はお前がセイクリッド・ギアを拒絶しているから“それ”も反発してんじゃねえのか?」

『……』

「力とはそいつ自身の強さを表すものだ。紛れも無くそのセイクリッド・ギアはお前自身でもある。ならお前が“それ”を支配できない道理などない」

『でも、そんな急に言われても……』

 

弱々しく答えるギャスパーにカリフは優しく、まるであやすように優しい口調で答える。

 

「力が怖いなら強くなれ。強くなって力を支配しろ」

 

力強く言った言葉にイッセーもしばらくは口を挟まずに聞き、ギャスパーも少し考えてから口を開いた。

 

『……カリフさん』

「?」

『できますでしょうか……こんな僕に……いつも皆さんに迷惑かけている僕なんかが制御だなんて……』

 

その言葉にカリフは少しの進展を感じたのか静かに笑いながら答える。

 

「それもお前次第だ。人ってのは少しのきっかけで化けるもんさ。明日にお前が女になってようともマッチョになってようともおかしい所は無い」

「いや、それは無理あり過ぎ」

 

堪らずイッセーが素で突っ込むと、中からギャスパーのクスクスとした声が聞こえてきた。

 

「どうした?」

『あ、すいません……今のは極端すぎた話がちょっと……』

 

どうやらイッセーとの漫才が面白かったらしい、部屋から出て来ない辺りからまだ自信は無いにしても気持ち、目標だけは定まった感じだった。

 

「じゃあオレはもう帰る。お前らと違って夜は眠くなるからな」

「おう、後は俺に任せておけ」

 

そう交わしながら帰ろうとすると、今度は意外にもギャスパーから声をかけてきた。

 

『あの……カリフさんに一つ聞いていいですか?』

「ん?」

『カリフさんは人間なのに堕天使の幹部を圧倒するほど強いって聞きました……しかも産まれつきでそんな力を持っているとも……』

「ああ、まあ、幼少のころに色々と揉まれたからなぁ……」

 

自分の小さい頃(元の世界)を思い出してしみじみとしているカリフにギャスパーは気になっていることを問いかけてきた。

 

『怖くなかったんですか?……自分だけ他の人と違うことが……』

 

そうとだけ聞かれたカリフは考える間もなく満面の笑みを見えていないはずのギャスパーに向けた。

 

「愚問だな。もしそうならオレは今の自分を殴り飛ばしていただろうよ」

 

その言葉を最後にその場を去って行った。

 

あまりにド直球な答えにイッセーも苦笑する。

 

「ああ言う奴なんだよ。信じた道はとことん突き進んで止まらない。たとえ時間を停められようともな」

『あはは……凄い人でした……初めてですよ。こんな僕に強くなれって言ってくれた人なんて』

「じゃあ散々言われてる俺と同じだな。俺とお前は仲間ってことだ」

『仲間……』

 

ギャスパーの呟きを聞き、イッセーは立ち上がって部屋に入る。

 

「そうさ。俺だけじゃない、部長にアーシア、朱乃さんや木場や小猫ちゃんやゼノヴィアだってお前の仲間さ。だから俺たちに頼ってもいいんだよ」

「でも、それじゃあ皆さんに迷惑を……」

「それが仲間だよ。迷惑かけられて、かけ合って……そういうもんだろ? 友達ってのも同じさ」

 

俺の人並みな説得にもギャスパーはダンボールの中から(つーか入ってたんだな……)顔をひょっこり出してきた。

 

それを確認した俺はギャスパーとうち解けるために俺は思い切って言ってみた。

 

「よし! それじゃあ今夜はとことん話そうぜ! お前の好きな女の子のタイプまで赤裸々にさらけ出したやる!」

「いやぁぁぁぁ! イッセー先輩に全てさらけ出されるぅぅ!」

「誤解されるようなこというんじゃねえ! じゃあ俺からな! 俺は……」

 

そこからは高校男子は皆やるであろうエロ談話で途中からやって来た木場も巻き込んで盛り上がった。

 

口では恥ずかしがっていたギャスパーだったが、始終笑顔だったのはいい兆候だったと思う。

 

―――カリフが率先したからこその結果だった。

 

だから俺は一刻も早く強くなってあいつに追いつきたい!

 

あいつみたいに後悔もなく堂々と前を見て生きていけるような悪魔になりたい。

 

俺は改めて目標を認識してその日を過ごしたのだった。

 

 

 

 

~おまけ~

 

「そういえばギャスパーくんってカリフくんに敬称付けてるよね?」

「はいぃ、だって先輩ですし、逆にあそこまでフランクに話せるイッセー先輩たちが凄いです」

「ギャスパーくん。言っておくけど彼は君と同じ一年だから」

「えぇ!? ぼ、僕と同じなんですか!?」

「おう、やっぱりあいつのほうが威厳があるのかなぁ……」

「なんだかねぇ……」

「が、頑張ってください……」

 

猥談中に肩を落とす先輩二人を慰める女装後輩の図が夜中の校舎の中で実現していたのはまた愛嬌である。

 

ちなみに初めて分かったことだが、木場はスケベだということも今回の猥談で明らかとなった。


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