ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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初めてのあの世?

 遥か銀河の彼方……

 

 その一つの暗い永久の闇を彷徨う惑星に宇宙船が降りていた。

 

 もはや長い航路でボロボロになっていた船にはカプセルコーポレーションのロゴ

 

 その船の傍で座禅を組んで精神統一をする人影

 

 カリフだった。

 

 地球に降り立ち、新たな力を得たカリフは涙も出せず、しばらくは自分の心の在り方が分からなくなった。

 

 だが、そんな時にカリフはすぐに地球から離れた。

 

 なんでもいい、地球から遠い遠い惑星へと向かった。

 

 まるで、地球から逃げるかのように……

 

 彼はもう二度と地球の地に足を踏み入れることはしないだろう……

 

 彼の自信、プライドが砕かれた地球へもう戻らまいと心に決めて……

 

 少し彼が落ち着きを取り戻し……近くにあった惑星へと降り立ったというわけだ。

 

(オレは……これからどうするべきだろうか……)

 

 一つの約束も護れず、一つの恩義も返せず……

 

(今まで一人で自由になることを求めていたはずだ……それなのに……それなのに何故……)

 

 こんなにも……胸が痛いのだ……

 

 自分の感じたこともなければ、自分の知り得ない心の揺らぎに苛立ちが募る。

 

 カリフの心は今、残虐なサイヤ人と親に甘える人の間で揺れていた。

 

 心も体も不安定なカリフなのでそうなることは至極当然と言えるのだが……

 

 そんな心を落ち着けようと精神統一を続け、深呼吸をする。

 

 そして、一つの答えに落ち着いた。

 

「……くだらん」

 

 これが自分の選んだ道……どんなことが起ころうと過去はリセットされはしない……

 

 宇宙に出た瞬間から生きるか死ぬかの戦いは始まっていたのだ。

 

「この力も使わなければ宝の持ち腐れだ……ケホ…」

 

 握りしめた拳を見つめ、もう一つの誓いを思い出した。

 

『強くなりたい』

 

 昔も今もその気持ちだけは変わらないし、嘘じゃない。自信を持って言える目標なのだから。

 

 そして、皆との最後の約束でもある。

 

 それなら、このまま突き進むのみ。

 

 今までと何ら変わりない。

 

「オレもまだまだだな……コホ……」

 

 こんな簡単なことに何故気付かなかったのか……カリフは己が未だに未熟だということを自覚して宇宙船に戻る。

 

 宇宙船に戻ったカリフは適当な位置の惑星へポイントを合わせて自動操縦へと切り替える。

 

(考えればオレにとっても奴等にとっても都合が良かったのかもしれなかったかもな)

 

―――ケホ

 

(血も繋がっていないオレは元々は根無し草……奴等も本来の運命や天寿を全うできたのだから)

 

―――コホ

 

(これでまたいつものように好きな物を食い、好きな所へ飛んで、不愉快な奴等を殺す……要はなにも変わってはいないのさ……)

 

―――ゲホ

 

(何も変わらない……)

 

―――ゴホ

 

 窓から離れ行く惑星を見下ろし、妙な気分を晴らすためにいつものトレーニングを始めようとメニューが張り付いている壁へと歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ゲボ

 

 

 ビチャ

 

「……は?」

 

 急に喉の奥からこみ上げてきた“何か”が口からスムーズに出てきた。

 

 その“何か”はカリフの口から出てきて不快な音を出して床に飛び散った。

 

 その“何か”が赤い液体だと認識し、それがなんなのか判明するのにそう時間はいらなかった。

 

「血……」

 

 それは生命を司る液体、生きとし生ける者に不可欠な命の源。

 

 それが何故、オレの口から出てくるのか……

 

 だが、呆然とするカリフを時間は待ってくれない。

 

「う……ゴホ! オエ…!!」

 

 ビチャビチャッ

 

 すぐにまた血が吹き出た。

 

 それも口からだけでなく、鼻、目、肛門など体中の穴という穴から吹き出ていた。

 

 おびただしい出血で床に紅い水溜りが形成された。

 

「ゴボ!!」

 

 バシャッ

 

 ついには意識がぐらつき、血溜まりの上に倒れる。

 

 鉄の匂いが鼻を刺激し、脳にまで達して吐き気を誘発させる。

 

「が……あ……」

 

 喋ることも困難になってきた。

 

 なんだか暖かくなってきた……

 

 彼は知らなかったのだ……彼が一時的に着陸した星の大気中に漂っていたウイルスの存在を……

 

 ただの核兵器程度の毒ならば耐えられただろうが、そのウイルスは核兵器の五千万倍もの殺傷能力を誇る。

 

 彼の中に侵入したウイルスは彼の体を蝕み、彼を○○していた。

 

(あぁ……そうか……)

 

 だが、カリフの心は落ち着いていた。

 

 今、彼を襲う苦痛は常人相手ならばたやすく恐怖させられるというのに……

 

 彼は直感した。

 

 自分の命もここまでだと……

 

 そして、命が消えかかる間際になって自分の運命と未来を悟り、彼は今までにないほど穏やかな気持ちになっていた。

 

(オレは……もう奴等と共に死んでいたのか……)

 

 思えば、地球に着いた日から全てが狂っていた。

 

 その綻びは大きくなり、世界を、自分の未来をも狂わせた。

 

 そんな世界で過去の異物であるオレが生きられる訳が無い。

 

 ゴミはゴミ箱へ……

 

 要はそういうことだった。

 

(今度は寒くなって……もうこれまでか……)

 

 もはや、目の機能も失われ、なぜこうなったのかも分からない。

 

 だけど、これもまた人生

 

 悲惨な最期、幸福な最期、短い人生、長い人生を送って死ぬ者さまざまがこの世界に点在していると言われている。

 

 だが、それは人が勝手に決めた価値観であり、今までの軌跡に価値を見出せるのは結局はその人自身が決めることだ。

 

 猛毒で死に近付く彼にそんな美徳を持ち込めば『くだらん』の一言で片づけ、こう言うだろう。

 

『好きなように生きてきた』……と……

 

 その証拠に彼は目を瞑っていた。

 

(今……そっちに………)

 

 まるで、無邪気に眠る年相応の子供のように……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カリフ……享年九歳

 

 

 

 

 

 彼は九年の生涯の幕を閉じた。

 

 

 主人を失くした宇宙船はもはや船ではなく、彼の亡骸を運ぶだけの棺桶として宇宙を飛び回る。

 

 これからも

 

 

 

 

 

 ずっと……

 

 

 

 

 

 

 機能が停止し、その役目を終えるまで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……ん……」

 

 何やら優しい空気に触発されたカリフは目を覚ました。

 

「……」

 

 寝起きなのか、状況が掴め切れていないカリフは頭を抑えて起き上がる。そして彼は周りを見渡す。

 

「どこだ……」

 

 悠々と広がる空は白、地面には雲が地平線まで広がる奇妙な世界……こんな幻想的な景色はどこの惑星でも見たことが無い。

 

「……次から次へと…」

 

 だが、カリフにとって景色など腹の足しにもならない。彼は自己分析をしようと起き上がって散策しようとした時だった。

 

「よう」

「!!」

 

 背後からかけられた声に驚き、構えを取る。

 

 急に気配もなく忍び寄ってきた輩がいれば警戒は一瞬にして最高潮になる。

 

 だが、振り返った視線の先には予想外な人物がいた。

 

「はは……オメエ強くなったなぁ!」

 

 

 

 

 それは見間違うことのない

 

 

 

 

 

「オマケに背も伸びたんじゃねえか?」

 

 

 

 

 

 

 父が好敵手と認め、カリフが認める数少ない人物

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、なんとか言えって。カリフ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 孫悟空だった。


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