ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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今回はフラグだけ立てる話です。
そろそろオリレギュラーキャラを投入させようと思います。オリキャラは他作品から引っ張ってきますので。
そして最後に……主人公の性格と持ち味を戦闘描写で思い出してあげて下さい。



閑話休題・生意気黒猫と堕天使巫女

 

 

コカビエル襲撃事件から数日が経った。

 

カリフはいつもの修業を終えて街中を散策していた。

 

「暇……か……」

 

しばらくは色々あったからのんびりしていなかったが、こうして歩いてみると昔からあまり変わってない。

 

「変わってないというより進歩が無いというか……」

 

口ではそう言いながらも少し、昔に戻った気がして色々とホっとさせられていた。

 

とは言っても、今では状況も大分変わって小猫、朱乃自体も家庭環境も変わっていた。

 

散策し続けていると、その昔に朱乃と最後に行った花見会場の公園

 

桜も散り、夏に向けて葉桜となっている。

 

「コカビエル……ね。帰ったらはっきりさせるか」

 

あのとき、コカビエルの言った言葉でカリフもあることを決心した。

 

この散策の後で“あること”をやろうと思いながら再び散策しようとした時だった。

 

「……」

 

そのことを胸に秘めてまた散策しようとした時だった。

 

カリフは足を止めた。

 

少し目を瞑って再び目を開けると、そこは既に異次元だった。

 

周りの懐かしい風景はそのままだが、代わりに雰囲気が変わり果てた。

 

「にゃー……」

 

そして後ろから黒猫が一匹現れたが、その尻尾は二つに別れていた。

 

カリフは振り返ることなく感慨深そうに口を開いた。

 

「面白い技を覚えたなぁ……えっと……黒歌だっけ?」

「にゃはは、覚えててくれたんかにゃ♪」

 

猫が笑うと猫の姿から人の姿へと成り変わってくる。

 

やがて、猫は胸元を惜しげなく露出する着物を着た妖艶な美女へと姿を変えた。

 

「あ~あ……ひっでぇ服。もっと己をベールに包んだ服を着ろ。ピチっと決めて来い」

「え~、君を喜ばそうと思って選んだ服にゃのに~。私も気に入ってるんだけど駄目かにゃん?」

「決めるのはお前だ。お前がいいならそれでいい。つーかどうでもいい」

「つれないのは変わらないにゃ~」

 

親しげに二人は近付いて話こむ。カリフと黒歌が並ぶと若干、カリフの背が低いのは些細なことだ。

 

「ふふ……にゃふふふ……」

「……なんだその笑みは? 気持ち悪っ」

 

しばらくはにやけていた黒歌カリフに満面の笑みでカリフに跳び付いた。

 

「にゃふふ~! だっこにゃ~!」

 

そのまま豊満な胸を押し付けて抱きつこうと思っていたのだが、カリフは反射的にその抱擁を綺麗に避け、逆に足払いを仕掛ける。

 

「え? にゃ!」

 

気付いた時は既に遅く、黒歌はバランスを外して頭から地面に転んだ。

 

「ヘブっ!」

 

アスファルトに鈍い音を奏でながら黒歌は涙目で訴える。

 

「なんで避けるのよぉ! 久しぶりなんだからハグしてもいいじゃない!」

「これは反射的だから百歩譲って詫びはいれるが、こんな外界とも離されたとこに無理矢理連れてきた奴がナマ言ってんじゃねえ! 何が目的だてめえ!」

 

カリフは怒気を込めて黒歌に凄むと、黒歌は体を震わせた。

 

「貴様……オレの問いに正直に答えろ……少しでも嘘吐いてみな? たとえ小猫の姉だろうが昔のよしみだから殺しはしないが、五体満足でいれると思うな?」

 

明らかにこの空間を操る術は外法そのもの。昔とは違って雰囲気も気も変わった黒歌にカリフは殺気を叩きつける。

 

だが、黒歌はカリフの殺気に脅えるどころか悲しみの表情を浮かべる。

 

「だって……二人で……せっかく二人になれたんだからゆっくり話したかっただけなのに……」

「だからってこんな外法使うか? オレの目ぇ見ろ!」

「え? にゃん!」

 

俯く黒歌の顔を無理矢理自分の眼前にまで近付けてじっと眼を見る。

 

黒歌は自分でも対応できないほど力強く、素早い行動に戸惑うと同時に互いの吐息がかかるまでアップされて顔を紅くさせる。

 

「にゃ……にゃあ……」

「……確かに嘘は無さそうだが……」

「ひぅ……」

 

じっと光を含んだ真っ直ぐで力強い眼に見つめられている黒歌の鼓動は段々と速くなっていく。

 

そして、しばらく見つめ合った後にカリフは少し警戒を解いて離れる。

 

「確かに、嘘を付いている眼では無い……どうやら少し神経質になりすぎたようだ……」

「にゃあ……だ、だからそう言ってるにゃん……」

 

なんだか妙に色っぽい深呼吸で胸を抑えながらも気丈に返そうとしている黒歌だったが、様子がおかしい。

 

(やっばい! 今のやっばいにゃ! あんな不意打ちは反則もいいとこにゃ! 平常心よ黒歌! 術を使う時みたいに平常心で、いつもの大人な私を思い出すのよ黒歌! そう! 相手はただ気に入ってるにゃ! しかも私の方が年上! 余裕を見せるんだにゃ!)

 

黒歌の荒い息使いで深呼吸を続ける姿にカリフは冷めた目で見ている。

 

(時間って人をアホにするんだな……あ、妖怪だった)

 

心の中でも遠慮の知らないカリフに、黒歌は未だに頬を染めながらも話を続ける。

 

「それで、本当に久しぶりだからちょっと昔話しようかって思ったからこうして術で二人だけの世界を創ったんだにゃ」

「ふ~ん……まあそれくらいはいいだろう」

「にゃはは……」

 

黒歌はやっと平常に戻り、カリフを肩を掴んで座らせてカリフの膝枕を……

 

「何してる? コラ」

「こうした方が楽なんにゃ。しばらくお願いにゃ」

「なんでオレが……」

「さっき意味も無く疑ったからこれくらい当然にゃ」

 

プンスカと擬音を上げながらそっぽ向く黒歌に毒気を抜かれると同時に正論を言われて溜息を吐く。

 

「それに、旅立ちで色々と手伝ってくれたのは誰かにゃ~?」

「……くそったれ、あまり動くんじゃねえぞ」

「やった♪」

 

あまりに自分らしくなく甘い自分に嫌気がさしながらも黒歌の頭を膝の上にのせてやると黒歌の黒い猫耳がピコピコと動く。

 

「にゃはは~……これはいいにゃ~」

「で、何話に来たんだ? さっさと用済ませろ」

「いや、今日は時間までこのままでいいにゃ~」

「寝言は寝て言え。長時間もこんなこと耐えられるか」

「そんな心配しなくてもいいにゃ。残念だけど長い時間はここにいるわけにもいかないのにゃ。もうすぐ離れるにゃ」

「あっそ……何しに来たんだお前は……」

 

女の考えることは本当に分からない……そんな思いとは別にこんなことしている自分にも若干の頭痛を覚えて仕方ない。

 

どこでこんなに自分は変わってしまったのか、本気で過去を振り返ろうかと思っていると、黒歌は上目遣いでカリフを見上げていた。

 

「今度は何だ……」

「うんにゃ。ただ昔よりも男らしくなったって思っただけにゃ」

「ふん、当然のことだ」

「にゃはは。やっぱり変わってないにゃ」

 

ケラケラ笑う黒歌にカリフはもう考えるのを止めてそれからは適当に話を聞いてそれとなく返すだけとなった。

 

その間もずっと黒歌はカリフの膝枕を受けてご満悦な様子だったが、カリフはさっさと黒歌をどけたくて仕方ないと言った様子だった。

 

そんな黒歌も不意に声のトーンを落として聞いた。

 

「ね、白音はどうしてる?」

「白音ね……今じゃ小猫ってなってるとこを見るとなんかやったなお前……」

「ん……まあ色々と事情があるんだにゃ。話すにはちょっと長くなるから次回のお楽しみってことで」

「あまり詮索をする気はないがな……一応世話になったんだ。少しくらいは話は聞いてやる。で、話だが、まあ元気っちゃあ元気だな」

「うん……それならいいにゃ」

 

カリフは何も詮索することもなくそのまま黒歌が満足するまで無言で膝枕を続けてやった。対する黒歌もそれに甘んじて心地よい雰囲気に身を任せて眠ってしまいそうになるが、そうもしてられない。

 

「う~ん……残念だけどもう時間だにゃ」

「やっとか、急いでるならはよ帰れ」

「そんな邪険にしないでほしいにゃ」

 

背伸びする黒歌をシッシと手で追い払おうとするカリフに少し拗ねながら何やら術を行使する。

 

黒歌が帰り支度する中、カリフは声をかける。

 

「なぁ」

「? なに?」

「……一度だけ親に会わないか? 今は記憶は改ざんされているけどお前のことは忘れたわけじゃなさそうなんだが……」

 

ここで分かる通り、実はカリフの現・両親は黒歌のことを覚えている。

 

理由は聞いても聞かなくてもどっちでも良かったからとりあえず聞いてはいないが、今では『小猫の姉である黒歌は一度だけ養子に送りだされたが、引き取り手が死亡。そのため黒歌は出稼ぎに出て小猫だけ止むなく戻ってきた』と、両親の中ではそうなっている。

 

本当なら全部忘れた方がいいはずなのに、わざわざ複雑な設定に書き換えて……

 

「う~ん、関係者全員の記憶は消せるんだけど……下手に全て消して悪魔関係者に怪しまれないためだと思うにゃ。忘却術は普通の人間に使う程度にしか普通使わないにゃ」

「ふ~ん……まあいいけど、返事はどうする?」

 

黒歌はにゃはは……と苦笑しながら頬をポリポリと掻く。

 

「知ってるかにゃ? 私の今の立場……」

「SSランクのはぐれ悪魔だろ? 旅先で結構、その名を聞いた」

「……私が行ったらあそこは色々と面倒になるにゃ……それに白音も……」

「タイミングは合わせてやる。ただ予定を横流しするだけだから手間はない」

 

俯く黒歌だが、誘い続けるカリフに疑問が湧く。

 

「私をなんとも思わないの? 私は主を殺してはぐれになったって言うのに……」

「……」

「その上私は白音を君に任せて好き勝手やって……白音でさえも私を憎んでるのに……どうして昔みたいに接することができるの?」

「……」

「ねぇ……どうなの?」

 

不安を孕ませ、黒歌は非難を覚悟していたがカリフはまるで呆れたかのように溜息を吐く。

 

「聞きたいことはそれだけか?」

「え? うん……」

「オレがどう思ってるだと? 簡単だ。昔からあまり変わってねえじゃじゃ馬……じゃじゃ猫ってとこだ」

「……それだけ? 他には……」

「なんだお前、そんなに卑下されたかったのか? とんだドMに成り果てたな」

「違うの! もっと真面目に……!」

「オレはいつだって真面目だ。オレがお前を怖がる理由も卑下する理由も持っていないということだ」

「……え?」

 

憤慨する黒歌を制して放った言葉は黒歌を黙らせるのに充分だった。それだけカリフの考えは異質だった。

 

「十年以上前に初めて出会ったときのことを今でも覚えてるさ。ボロボロになったお前の目に宿っていた“生きる”ことと小猫を“守る”と言った言葉に信じさせるに値する輝き……」

 

黒歌に近付いてはグルグルと周りを歩く。

 

「今会って見せてもらった。多少、何らかの血気も含んでいるようだが、お前の中の輝きは未だに生きている」

「輝き……」

「本物の外道に落ちたならそんな目などできはしない。十年前の小猫守って戦っていたお前はまだ死んでいないんだよ」

 

カリフの言葉に黒歌は目を丸くする。

 

「そんなお前と出会い、お前は一時的だがあそこの家で育った。大層な悪名を被ってもその事実は変わらんよ」

「それで、いいの?」

「良いも何も、これだけは変えられない事実だ。お前は間違いなく今でも鬼畜家の一員だ」

 

恐る恐る聞く黒歌にカリフはフっと笑って夕陽をバックに宣言した。

 

「親もお前に会いたがってるから一度来い。オレがいる限りはお前も、親には神だろうが魔王だろうが邪魔する奴を家に敷居をまたがせはさせねえよ」

 

昔、一度も見せてくれなかったような不敵な笑みが黒歌の心を揺さぶった。十年前にはほんのちょっとの淡い気持ちが熟し、ここで一気に開花した。

 

もう認めざる得ない感情と共に、想い人に今でも信じられていた事実に嬉しさが湧いてきた。

 

「来いって……まさか……これって……そういうこと……!?」

「ん?」

 

体を震わせる黒歌にカリフが様子を見ようと一歩近づこうとした時だった。

 

「にゃああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「!? 急に叫ぶんじゃねえコラァ!」

 

急に鳴き出してきた黒歌にカリフは珍しく気圧された。

 

「にゃああぁぁぁぁ! にゃああぁぁぁぁ!」

 

そんなことはお構いなしに黒歌はそのまま用意していた術を使ってその場から逃げるように消えて行った。

 

それと同時に周りの空間の雰囲気も元に戻っていたが、カリフだけは顔を引くつかせて思わず呟いた。

 

「……なに? 今の……」

 

しばらくは突拍子のない行動に少し不気味に思ったが、深く考えないようにしてその場から去る。

 

「かえろ……」

 

しばらくは少し放心しながらもカリフは帰路に付いたのだった。

 

まだまだ世の中には分からないことばかり……そう思い知らされた一日だった。

 

 

 

その日の夜、黒歌の様子はおかしかった。

 

「にゃふふ~……にへ……」

 

言葉の通り、本当にとろけているような顔で一人ニヤニヤして頬杖を付いていた。

 

そんな彼女の様子に周りは少し引いていた。

 

「何かあったんですか? 彼女」

「俺っちが知るかよ。女ってのは古代文字よりも難しい存在だろうが。こういう時はお前の出番だルフェイ」

「いやいや、あの様子は間違いなく恋だって言ってるじゃないですか。兄さまも美侯さまも少しは女心を理解して……無理ですね、はい」

「む、妹にそこまで言われるとは心外ですね。ということで聞いてきて下さい美侯」

「は!? 言いだしっぺのお前がいけよアーサー! なんか下手こいたら毒吸わされるか空間ごとどっか飛ばされるから嫌だぜい!」

「私だって嫌ですよ」

「自分が嫌なことを他人に押し付けんな! どう言う性格してんだおい!」

 

ギャーギャー騒ぐ男二人にルフェイと呼ばれた少女は頭を抱えた。

 

「変人と戦闘マニアに女心求めるのは無理がありましたか……」

 

騒がしい面子の騒ぎなどまるで耳に入っていないかのように黒歌は未だににやけ続ける。

 

ルフェイは人知れず黒歌のイメージを変えた。

 

(案外ウブだったんですね。黒歌さま)

 

そう思いながらも彼女を応援しようと人知れず心に決めたのだった。

 

「また来いだなんて……にゃふふ……もっと大胆になってもいいのに♪」

 

どこもかしこも本日は実に平和だった。

 

 

 

ここでもカリフの一日は終わっていない。

 

街の散策を終えて帰ってきたカリフは自宅に帰ってきた。

 

「おいっす」

「あらあら、お帰りなさい」

 

リビングで優雅に迎えてくれたのは朱乃だった。

 

多分、自分で入れたであろうティーカップに入っている紅茶を優雅に飲んでいた。

 

「小猫は?」

「おじさまたちの護衛ついでにお買いものですわ。ここで三大勢力の会談が行われるのですから何が起こっても不思議ではないので……」

「な~る」

 

納得するカリフに朱乃は立ち上がってキッチンへ向かう。

 

「カリフくんも紅茶いります? ただ今、西洋のお菓子もありますわ」

「いただこう」

「はい」

 

ニコニコ笑いながら紅茶を慣れた手つきで淹れる。しばらくしてカリフの前に紅茶と手頃サイズにカットされたロールケーキが置かれた。

 

「どうぞ」

「サンキュ」

 

軽く礼を言われて微笑みながらその場を離れようと朱乃が背中を見せた時だった。

 

カリフが呼び止める。

 

「待て朱乃。少し話さんか?」

「私と……ですか? 珍しいですわね。いいですわ」

 

意外そうにしながらも優雅な微笑みを維持してカリフの隣に座る。

 

カリフは丁寧にフォークを使ってケーキを食べながら話す。

 

「今日なぁ、修業の帰りに暇だから街散策したわけだ。昔行った場所とかな……」

「あらあら……」

「そこで行ったよ。お前と行った花見会場跡に。花は散って葉桜になってたがな」

「……」

 

ここで微笑んでいた朱乃の表情も次第に影を帯びてくるが、ケーキを食べ終わったカリフは口直しに紅茶を一口含んでから言った。

 

「昔のことで忘れてたがよぉ……コカビエルのを聞いて思い出したよ……」

「な、何を……」

 

弱々しく聞いて返ってきた答えに朱乃は身を震わせた。

 

「バラキエル……お前の父親の名を……」

「!! そ、それは……」

「あまり人の過去は詮索しない方なんだがなぁ……オレの親と関わりがある以上、そこらへんはハッキリさせたいと思ってな……」

 

飲み終わったティーカップを受け皿の上に置いて互いに向き合う。

 

思わず目を背ける朱乃に強く言い聞かせる。

 

「こっち見て話せ。お前のこと……今、知る必要がある」

 

真正面から逃がさないと言わんばかりの眼力に朱乃はしばらく硬直したが、すぐに観念したように口を開いた。

 

「……あなたの考えている通り、私はコカビエルと同じ堕天使幹部バラキエルの血と人間の血受け継いでいます」

「それがあの時のお前の両親か……」

 

意味深そうに思い出していると、朱乃は見つめ返してきた。

 

「母はとある神社の娘でした。ある日、傷ついて倒れていたバラキエルを介抱したことがきっかけで二人の仲は進展、そのときに宿した子が私です」

 

そう言って朱乃は背中から翼を生やす。

 

だが、それはいつもの悪魔の両翼とは違って片方が悪魔の、そしてもう一方の翼は堕天使の物だった。

 

「墜ちた証である黒く濁った翼……悪魔の翼と堕天使の翼を私は持っています」

 

朱乃は憎々しげに堕天使の翼を掴む。

 

「この翼が嫌でリアスと出会って悪魔になったの……だけど生まれたのは堕天使と悪魔の翼を持ったおぞましい生き物……ふふ、汚れた血を持つ私にはお似合いかもしれないわ」

「……」

 

朱乃の自虐をカリフは黙って聞いている。

 

「カリフくんは堕天使に良い思いなんて持ってないでしょ? レイナーレにしろコカビエルにしろ……」

「ああ、レイナーレとかにはヘドが出るほど胸糞が悪くなるほどにな。コカビエルや特にバルパーに関しては奴らはやってはならないことをしてくれた」

 

その言葉を聞いて朱乃はその場から立ち上がった。

 

「私は堕天使の血を継いでいるのに図々しくもこの家に居座って……子供の時から隠し通して……あなたに嫌われたくないからといって誤魔化して……きっと私って最低な女だわ……」

「そうだな今のお前は見るに堪えないほど最低だ」

「……!!」

 

カリフから言われる辛辣な一言に朱乃は唇を噛みしめる。

 

もちろん、あのコカビエルの件からこうなることは覚悟していた。非難され、追い出されることくらい覚悟していたはずだった。

 

だが、実際に言われると想像以上に悲しみが大きかった。

 

朱乃は瞳から涙を流さないように耐えていたとき、カリフは続けた。

 

「自分のありのままを認められん奴はどこまでいこうと最低以下の存在だ。いつものお前はそこまで弱くないはずだ」

 

カリフの率直な意見に朱乃は訳が分からなかった。

 

「それってどういう……」

「お前が自分のことを最低だなんだとか言う前に自分を振り返れ。お前が何かしたか? 違うだろ?」

「で、でも……私は堕天使でもあるの……もしかしたらあなたの両親を利用しようとしているかもしれないのよ?」

「それなら、お前の目的はオレの家庭を壊すこと。そういうことだな?」

 

カリフの問い詰めると、朱乃は心外だとばかりに叫ぶ。

 

「そんなことない! あの人たちは……行き場の無い私を迎えてくれた大切な人たち……大好きな人たちなんですもの……」

 

普段見せないような弱々しい表情で声も小さくなっていくが、カリフはそれらを聞き逃さなかった。

 

フっと笑ってソファーに身体を沈ませる。

 

「なら、そんなに負い目感じる必要ねえじゃねえか。これからもあの二人の傍にいてやりゃあよぉ……」

「……あなたは堕天使のことが憎くないの? なんで私をそこまで受け入れられるの?」

「オレが嫌いなのは堕天使全般じゃない。血筋や種族でそいつらの良し悪しを判断して、個人を見ないっていうのが一番嫌いなんだよ。それに……」

 

カリフは朱乃に身体が密着するまで近付いてくる。それには朱乃もドキっとなる。

 

「お前が『堕天使』だからなんだ? 堕天使には堕天使の事情があるかもしれんが、オレが今見ているのは『姫島朱乃』という女一人だけだ」

「!!」

 

カリフの答えに朱乃は衝撃を受けた。

 

それは、朱乃が『堕天使だから嫌われても仕方ない』と思っていた心の裏で思っていた『望んでいた答え』だったのだから無理も無い。

 

「オレが『朱乃』という人物しか見てねえがよぉ……それでもこの家にいることを容認してきたのはお前なら問題が無いということだ。オレや親はお前を信用に足る奴だと思っているのにお前が自分を信じられなくてどうする。お前は……もっと自分を知るべきだ」

 

カリフとしては見ていて煮え切らない部分があったから自分の意見を押し付ける言い方になったのだろう。

 

だが、今の朱乃にはそれくらいが丁度よかった。それらの言葉が朱乃の心に染み込んでいく。

 

「私のこと……見てくれてたの……? ずっと……」

「本当は誰よりも感情豊かだったお前だから分かりやすかったぞ。お前は『堕天使』の自分に負い目を感じて、その感情を抑えて口調を変えたりしてたがオレには通用はしなかったな。やっぱりお前はガキのころから根本的に何も変わって無かった騒がしい奴だよ」

 

カリフは続けた。

 

「今回、話せて良かったと思ったぜ。いつものニコニコ顔で本気で感情が欠落してると思ってたが、お前の泣く顔とか色んな表情見れて安心はできた。あの頃のオレを追いまわしていた時の素直なお前が見れて……」

 

カリフが話し終わる頃には朱乃は涙を流して嗚咽を漏らしていた。

 

突然の変化にカリフはギョっとするも、朱乃が悲しみで泣いてるのではないと気付いて息を吐いた。

 

「……ずるいわ。そんなこと言うなんて……そんなこと言われたら……私……」

 

泣きながら何やら呟く朱乃にカリフは若干、とっつきにくくなった。こんなところを親に見られる訳にはいかない。

 

「本当に……私、ここにいていいの?」

「くどい。オレが追い出す気ならとっくにやっている」

 

朱乃は涙を拭きながらカリフと向き合う。

 

「ねえ……ちょっとだけ胸借りていい……?」

「……親帰る前にはその顔なんとかするならな」

「嬉しい……ありがとう。『カリフ』」

 

初めて、朱乃がカリフとの間の溝を埋めた瞬間だった。

 

カリフは何を言うでもなく、ただ胸に顔をうずめてくる朱乃の成すがままにされるだけだった。

 

黒歌に続いて朱乃にも好き勝手されたことに納得はいかないが、同時に自分をここまで甘くさせる女の力に感心することにした。

 

リビングのソファーで抱き、抱かれる者が二人

 

こんなところを見られたら間違いなく面倒なことになるのは確かだとカリフは内心で危惧していた。

 

「ねえ……二人っきりの時は『カリフ』って呼んでいい?」

「名前なんて個々を識別できるなら何でもいい。好きにしろ」

「うん……やっぱりあなたのこと……」

 

それから、朱乃はずっとカリフの胸に抱きついてから数分が経った時だった。

 

廊下から何やら足音が聞こえてきた。

 

「……おいおい、マジで?」

 

廊下から感じる足音と気を感じ取ってカリフはゲンナリとした。

 

もう誰かが帰ってきたのは分かったとき、朱乃を無理矢理剥がすような気力も失せた。

 

要は『もうどうにでもなれ』とのことだった。

 

やがて、そんな色々とやばい態勢の二人しかいなかったリビングに小さな影が入ってきた。

 

「ただ今帰りました朱乃さん。おばさまたちもすぐ帰ってきますから夕飯の支度……を……」

 

小猫が要件をリビングに入りながら伝え、そして目にした。

 

リビングの真ん中で抱き合う(ように見えている)二人の姿を……

 

「……何してるの?」

 

小猫が顔を伏せてこっちに向かってくる中、カリフは少しでも状況を変えようかと思ってありのまま自分の思っていることを小猫に告げてみた。

 

「まぁ、なんつーか……」

「……」

「意外と良い匂いだな。このシャンプー」

「この……スケベ!」

 

小猫の突然のストレートをカリフは足を上げて受け止めた。

 

『戦車』の重い打撃を足で軽々と受け止められたことも流石だが、小猫も怯まずにパンチやキックを繰り返す。

 

「随分と手荒いな」

「……当たって」

「やだね。オレはそこまでMじゃない」

「……絶対当てる」

「その意気やよし。だが、ここでは場所が悪い。庭で修業がてら見てやる」

 

カリフは朱乃を降ろして挑発すると、小猫もそれに応じて庭へと出る。

 

出ていく二人を見送っていた朱乃は既に笑顔だった。

 

「あらあら、素直にならなきゃいけないのは私だけじゃないのね……もっと頑張らなきゃ」

 

意味深なことを攻防を始めた二人を見て言っていると、ここでカリフの両親が帰ってきた。

 

朱乃が両親を手伝い、夕食ができるまでカリフと小猫の修業は続いていた。

 

「さっきの小猫、威圧が半端なくて攻撃も普段より切れて重かった。あいつの感情の爆発は素晴らしい物を持っている」

 

後日、カリフはその時の小猫を絶賛していたが、しばらくの間、小猫の機嫌は治らなかった。

 

それとは別に朱乃のカリフに向ける目が艶っぽく変わり、同時に朱乃が色々とカリフに何か画策するようになったのはまた別の話


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