ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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決着の後は……

ライザーとの一戦を終えたイッセーたちの功績は大きかった。

 

不利と思われていた状況からの大逆転劇。

 

たったの十日でライザーを倒すまでに至ったその成長力も注目の的となった。

 

そして、なによりアジュカ・ベルゼブブが一番絶賛したのはカリフであった。

 

自分の作ったルールを打ち破ったのだ、そして、ルールの裏を付いてライザー側を敗北をさせるに至った。

 

まさか、悪魔相手にここまで大立ち回りを演じた人間は流石といえよう。

 

そして、カリフに対して一つの確約が決まった

 

 

 

 

 

 

鬼畜カリフ……今後のレーティングゲーム参加を一部規制!!

 

 

「フェニックス卿。今回の婚約、こんな形になってしまい、大変申し訳ない。無礼承知で悪いのだが、今回の件は……」

「みなまで言わないでくださいグレモリー卿。純血悪魔同士のいい縁談だったが、どうやら互いの欲が強すぎたようだ。私もあなたも……やはり私たちは悪魔なのですかな」

「兵藤くんとカリフくんといいましたか……彼等には礼を言いたかった。息子の敗因は一族の才能の過信によるものです。フェニックスの力は絶対じゃないということが分からせただけでもこのゲームは意義があった」

「フェニックス卿……」

「ですが、今回のことで我々は驚かされてばっかりだった」

「えぇ、赤龍帝の力を受け継ぐ少年がまさかこちらの側にいる……そして、フェニックスの力さえも関係無く、いや、むしろ不死の特性を利用して息子を倒す人間の子……」

「……今まで表舞台に出ることも無かった二つの存在が同時に現れた……これらは何かの予兆かと思ってしまいます」

「同時に、冥界での一波乱が予想できますな」

 

 

冥界の空ってのは不思議だ。

 

空一面が紫っぽい色で覆われ、なんだか昼か夜かも分からないような空だ。

 

「イッセー……納得のいく言い訳はもちろんあるのよねぇ?」

 

こんな時、空が青かったら部長も許してくれるだろうか……いや、皆か……

 

今、俺は現在進行形で部長の前で正座させられながら必死に胃からこみ上げてくる痛みと戦っていた。

 

他の皆は別の場所へと魔法陣で移されていた。

 

多分、部長がゆっくりと俺から話を聞くためなんだろうけどさ……

 

そして、部長は話の大元である俺の変貌した手を握った。

 

そう……これこそが『強さ』代わりに支払った『代償』だ。

 

腕一本をドラゴンの腕に変えて得たのがさっきの『バランス・ブレイカー』だ。

 

「なんで……こんなバカなこと……」

「い、いやぁ……こうすれば強くなれるかなって思い至った結果ですよ」

 

おどけて言ったつもりだったが、部長は悲しみの色を出していた。部長の体温がドラゴンの手に伝わる。

 

「こんなことして……もうあなたの腕は戻ってこないのよ……?」

「それで部長の婚約は破談にできたからお得です」

「ずっとこのままなのよ?」

「それはちょっと困りますね。学校じゃコスプレなんて聞いてもらえそうにありませんから」

「アーシアも泣いてたわよ……」

 

てゆーかマジでどうするかな……最近じゃあアーシアを泣かせてばっかだしな……

 

「今回は破談にできたけど、また婚約の話が来るかもしれない。その時あなたは……」

「そうなったら次は右腕、次は目ですかね」

「イッセー!」

 

咎めるように部長が怒ってくれる。すいません、この気持ちにだけは嘘は吐けないし、吐きたくないですから。

 

「何度でも何度でも止めてやりますよ……こう言ってしまえば俺の我儘かもしれないけど、それで構いません。部長が幸せになるならこの我儘を通させていただきます」

「……どうしてそこまで……」

 

部長が聞いてきたから、俺は迷わずに答えた。

 

 

 

 

―――あなたの『兵士』であり、意地を張り通す『男』だからです。

 

 

 

 

そう言った瞬間だった。

 

俺の唇が何かに塞がれた。

 

その塞いだ物に目を向けると、それは部長の柔らかな唇だった。

 

ただ、俺と部長の唇が数秒触れ合うだけだった。

 

その後に部長は唇を離し、フっと優しい笑顔を俺に向けた。

 

……

 

 

えええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇ!?

 

い、今のって……! まさかキスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?

 

突然の出来事に俺は困惑していると、部長は少し顔を紅くさせて言った。

 

「日本の女の子が大切にしてるものでしょ? ファーストキスというのは」

「そ、そうですけど! ってファーストキス!? それを俺なんかに!?」

 

あっという間に起こった人生最大の臨界点に部長は依然として微笑みながら言った。

 

「あなたは『なんか』じゃないわ。少なくとも、私から見たら今のあなたは世界中のどんな男よりも強く、たくましく見えたから」

「で、でも……カリフなんか俺よりも強くて、男らしくて、それから……」

「……そう言う意味じゃないのに……鈍感……」

「え? 何か言いました?」

「何でも無いわよ……はぁ……」

 

部長の小声は耳に入らなかったが、後になって込み上がってくる。

 

俺……俺は今、最高に舞い上がってるぜ!!

 

やった! やった! やったぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

もうこの気持ちを抑えることなんてできねえ!

 

それくらい俺は幸せだということが自覚できる!

 

「まあいいわ…早く戻ってその腕のことを考えましょう」

「はい!! 分かりました! どこまでもあなたに付いて行きます!!」

 

本心からの俺の言葉に部長は笑顔を浮かべた。

 

そうだ、俺はこの笑顔を取り戻せたんだ! これだけでも腕を払った価値はそこにある。

 

下心が無いと言えば嘘になる。

 

だけど、俺は部長と……好きな女性をあらゆる災厄から守っていきたい。

 

これからもずっと……

 

そのためにも強くなってやりますよ……部長

 

 

 

(ここから大分盛り上がってきそうだな)

 

一方で、カリフは気配を消して一人思っていた。

 

(この件でイッセーはまた一段階の覚醒を経た……あれくらいの気概なら木場や小猫に追いつくのもそう遠い話ではなくなってきた……)

 

そして、カリフは再び笑う。

 

(そして、悪魔の伝統を多少なりとも踏みにじったこともプラスになる日が必ず来る! 悪魔特有の高いプライドが俺という『人間』が『悪魔』の上に君臨するのを許す訳がない……)

 

これも全て暇つぶしの延長戦

 

こうして自分に試練を課すことも目的の一つだった。

 

(楽しみだ……強まる龍の力で戦いは加速する……いずれ白龍皇とやらも鍛えてやるのも悪くない……)

 

こうやって試練は強くなっていく。

 

そのままカリフはリアスたちの元へと帰って帰る準備をしに歩き始めた時だった。

 

「ちょっとお時間よろしくて?」

「?」

 

気が抜けてたのか声の主の接近を許していたカリフは振り返ると、そこには日傘を優雅にさしたレイヴェル・フェニックスがいた。

 

「帰れハゲ」

「その返しは失礼ではありませんか!? というよりハゲてません!!」

 

ウンザリとした様子で辛辣な一言を告げるカリフにレイヴェルは叫んだ後、すぐに咳払いして気丈に振る舞う。

 

「心配しなくてもそう時間は取りませんわ。こっちは伝言だけですので」

「なら早くしろ。さっさと今日は帰りたいんだけど」

「えっとですね、『息子に色んなことを教えてくれたことに感謝している。またいつか息子を鍛えに家に招待しよう』と、お父様からですわ」

「……」

 

その内容にカリフの表情がいつもの感じに戻った。

 

何も言わずにカリフはレイヴェルの話を聞く。

 

「お父様から聞きましたわ。あの十字架は悪魔を殺す効力が薄い奴だと……あなたは最初からお兄さまを消滅させる気などなかったのでは?」

 

後から聞いて少し意外だった。

 

あの鬼畜に相応しいカリフなら兄の消滅もしかねないくらいの勢いだった。

 

それなのに、カリフにはライザーを消す意志が見られなかった。

 

なぜ?

 

その事実をレイヴェルが聞いた時だった。

 

「……お前たちフェニックスの才能は戦闘においては遥かに優勢……まさに反則級だと言えるほどに……だからこそ惜しい」

「惜しい……とは?」

「才能とはその持ち主に絶大な力をもたらす代わりに、時として毒ともなり得る……才能はそいつの目を曇らせ、またある時はそいつ自身の生き方さえも束縛する鎖ともなり得る……才能を持っていることはそれ相応のリスクにもなる」

「……まさかそれを兄に……」

「奴は心が弱かった……戦闘においては心を折るだけでも死に直結する……今回は奴の心を折るだけで済んだが、これが敵だったら間違いなく奴は死んでいただろうよ」

 

レイヴェルは意外そうにしながらも多少驚いていた。

 

まさか、こんな所でゲーム中の残忍な表情の他にも目の前の見守るような目をしていたのだから。

 

「奴もまた強くなれる逸材だ……ここで亡くすにはちと惜しいからな」

「……そういうことでしたの」

 

どうやら、自分を含めた悪魔たちは目の前の人間を誤解していたようだ。

 

意味の無い殺生はしない、ちゃんと芯の通った人物なんだと再確認した。

 

「話は終わりか? それならオレはこれで帰る」

「えぇ、もう結構ですわよ。時間を取らせましたね」

 

フフと優雅に笑うレイヴェルに背を向けて帰っていった。

 

そして、レイヴェルからは見えない建物の影では……

 

「…………」

 

カリフと存外、楽しそうに話していたレイヴェルに黒い感情を抱く小猫が拳を握っていた。

 

(なんで……なんだか嫌な感じ……)

 

それは今までに味わったことのない胸の痛み。

 

そして、不快な痛みだった。

 

(……なんなんだろう……これ……)

 

悲しさと怒り、切なさがブレンドしたかのような感覚。

 

小猫は胸をキュっと押さえてしばらくはその場に佇むだけだった。

 

こんなこともあったが、無事、ゲームは幕を下ろした。

 

これにより、カリフの存在、カリフの一部のゲーム参加規制が悪魔の間で知られていくこととなるのはそう遠くない話ではないかもしれない。


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