ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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修業の果てにある物

 

「うぅ……いてて……」

「大丈夫ですか? イッセーさん」

「あぁ、ありがとなアーシア……だけどなんでこんなに体が痛むんだ?」

 

修業が始まってから既に一日目の朝は経過した。

 

なぜだか知らんが、俺、兵藤一誠の中で昨日とは明らかに違う感覚が動いていた。

 

なんというか……周りのあらゆる存在を敏感に察知することができている……

 

まあ、修業する分には進歩があっていいことなんだけど、なんだか思い出したくないって気もするんだけど……

 

ていうか結局、カリフに独自メニューを受講しに行ったのは覚えてるんだけど、その後にどこかで俺は寝てしまったらしい……朝起きたらベッドの中に入っていた。

 

なにやら後頭部に赤い液体がうっすらと滲んでいたから包帯は軽く巻いて朝食を食べている今に至るという訳だ。

 

「あ、部長。カリフが来たようです」

「え? どこに?」

「ここだよ」

「きゃっ! もう! いきなり背後に現れないでちょうだい!」

 

今、やっと食堂に全員が揃ってテーブルに座った。

 

カリフはさっきまでなんか用があって部屋にいたらしくて遅れていた。

 

いの一番に朝食に来なかった時は珍しいと思っていたんだけど……

 

そう思いながらシリアルを食べていると、部長や木場、それに朱乃さんや小猫ちゃんが俺を見て驚いていた。

 

「どうした?」

「あ、いや、イッセーくんって成長が早いんだなって思って」

「は?」

 

木場の嘆息しながらの言葉に首を捻るが、すぐに小猫ちゃんが補足に入った。

 

「……カリフくんは気配を殺してこの部屋に入って来たんです。それなのにイッセー先輩は気付くことができました」

「しかも、私たちの中で一番早く認識しましたもの。やっぱり勘はこの中でもダントツかもしれませんわね。うふふ……」

「そ、そうすかね……はは」

「すごいわイッセー。あなた、伸びしろがあるんじゃないかしら」

 

そんなに実感は湧かないけど、褒められてるって思っていいんだよな?

 

昨日は全然いい所なかったからまたここから挽回していきますか!

 

「三回の心肺停止から蘇生させてまで苛め抜いたんだ。それくらいできなきゃ修業の意味はないだろ」

「え? なんか言った?」

「別に」

 

う~ん、やっぱカリフにとっては幼稚なことなのかな……なんだか出来て当然って感じで何か呟いてたな。

 

「す、すごいですイッセーさん! 私も頑張りませんと!」

「ははは、なら、このまま強くなってアーシアを完全に守れるようにしないとな」

「イッセーさん……」

 

顔を赤くさせて微笑みかけてくるアーシアに骨抜きにされてしまう俺。だれもアーシアの上目遣いを見たら頭がとろけること間違いなしだって!

 

「それなら今日は何回殺せばいいかな? 逃げの訓練から今日は防衛の訓練に変えるか」

「あらあら、何の話ですの?」

「めんどいから言いたくない」

 

以前変わりなく、朱乃さんと話すカリフの意味不明な言葉……なぜだろう、背筋がキリキリと凍るように痛いんだけど……

 

「さ、午前は皆で授業よ。講師はアーシアとカリフで参考のために悪魔祓いの知識とカリフの戦闘スタイルを学ぶわ。イッセーは後で悪魔、堕天使、天使に関する授業を行うわ」

「はい! 頑張ります!」

「やる気があってよろしい」

 

部長からの笑顔に今日からのやる気を振り絞りながら謎の悪寒を振り払う。

 

よし! 今日もとことんやってやる!

 

 

 

 

 

 

午前中の授業は体を動かす修業とは違う疲労が凄まじかった。

 

というより、頭脳労働は元々苦手なのだから三大勢力の幹部や魔王さまを覚えるのだって結構骨が折れるのに……

 

ひとまず、俺の授業が終わると、次にアーシアの講座の時間に入った。

 

「コホン。それでは僭越ながら私、アーシア・アルジェントが悪魔祓い(エクソシスト)の基本をお教えます」

 

皆の前に出て話を始めるアーシアに拍手のエールを送る。

 

その瞬間に赤面してしまった。可愛い反応ありがとう。

 

「え、えっとですね。私が属していた所では二種類の悪魔祓いがありました」

「二種類?」

「一つはテレビや映画にも出てくるように、聖書を読んで聖水を使って人々の体に入り込んだ悪魔を追い払う『表』のエクソシストです。そして、悪魔にとって脅威になるのが『裏』のエクソシストとなっています」

 

そこから部長が続けた。

 

「イッセーも出会っているけど、最悪の敵は神、あるいは堕天使に祝福された悪魔祓い師よ。彼等とは歴史の裏舞台で長きに渡って争ってきたわ。天使の持つ光の力を借りて常人離れした身体能力を駆使して全力で私たちを滅ぼしにくる」

 

脳裏にあの時のイカレ神父を思い出した。

 

悪魔はもちろん、悪魔と関わった人でさえ簡単に殺す。もう、関わり合いたくない。

 

そう思っているとアーシアはバッグから小瓶やら何やらたくさん出してきた。

 

その小瓶を汚い物のように摘まむ部長と指で小瓶をクルクル回すカリフ。

 

「これが聖水か……」

「はい、これから聖水と聖書の特徴を教えたいと思います。まずは聖水ですが、悪魔が触ると大変なことになります」

「ならばお前も持つとやばいんじゃないのか?」

 

カリフの言葉にアーシアはショックを受ける。

 

「作り方も後で教えます。カリフくんなら聖水もへっちゃらですし、使う時があるかもしれませんから。製法はいくつかあります」

「それはいいな……いくつかあの白髪神父からギってきたのもあるし、役に立ちそうだな」

 

満足そうにカリフが言う。お前、あの神父から盗んでたんだ……抜け目のない奴……

 

ハキハキと答えるアーシアを心の中で応援して次に進む。

 

「次は聖書です。小さいときから読んでいたのですが、今は一節でも読むと頭痛が凄まじくて困っています」

「悪魔だもの」

「悪魔ですもんね」

「……悪魔」

「うふふ、悪魔は大ダメージ」

「そろそろ独り立ちしな」

「うぅぅ、私……もう聖書も読めません!」

 

部員全員とカリフの辛辣な一言に涙目のアーシア。

 

というか読んでたの!? 危ないから止めなさい! メッ!

 

「でもでも、この一節は私の好きな部分なんですよ……ああ、主よ。聖書を読めなくなった罪深き私を……あう!」

 

おーい! もう止めなさい! 今の君は悪魔なんだから!!

 

「さて、次はオレの講座かいね……」

 

頭痛でふらつきながらも場所を譲るアーシアに代わってその場に立つと、カリフは堂々と告げた。

 

「そうだな、オレはあまり教えるのは得意じゃねえがやってみっか……まず、なにが聞きてえ?」

 

頭をかきながらそう言うと、部長が手を上げた。

 

「早速だけど、前に部室でライザーを倒した時のことを教えてもらいたいわ。あそこに今回の勝敗を決めるきっかけがあるかもしれないし」

 

そう言うと、全員が興味津々にカリフに視線を向けてきた。

 

カリフは「あぁ……あれね」と呟きながらアーシアを呼んだ。

 

「よぉ、アーシア……なんかいらねえでかい瓶ってねえか?」

「え? あ、はい。どうぞ」

 

アーシアから空の瓶を受け取ると、瓶をテーブルの上においてレクチャーが始まった。

 

「今回のフェニックスのことは聞いた……傷は一瞬で治り、再生する……聞くだけならそいつは不死身なのかもしれねえ……だが、今回はそいつを『倒す』のが目的であって、『殺す』ことじゃない。そう考えれば今回のゲームで勝つ見込みは……充分にある」

 

はっきりと言い放つカリフに部長たちも生唾を飲み込んだ。

 

「まず、奴の傷も一瞬で治すようだが……ならばそこを突けばいい」

 

そう言いながらカリフは奇妙な動きを見せた。

 

まるで、力を抜いた時のように全身をプラプラさせて……

 

「力んで駄目なら力を緩めればいい……柔らかい筋肉は殺傷能力を落とし、相手に名状しがたき『痛み』を与える……」

 

完全に脱力した瞬間、

 

思いっきり自分の腕を振るって瓶を切り裂いた。

 

「……え?」

 

俺は何が起こったのかと思い、声に出していた。

 

それは皆も思っていたことだったのか同じ様にして瓶を凝視した。

 

そして、皆は言葉を失った。

 

その瓶はまるで鋭い刃にスッパリと切られていたのだから……

 

「くくく……どうだ? 見ても分かる通り、この圧倒的な鋭さが相手に想像を絶する『痛み』を植え付ける……表情からも緊張感が消え失せて相手を油断させる秘拳……鞭打という技だ」

 

そう言うと、カリフは先程振った手から瓶の斬り抜いた部分をテーブルの上に戻すと、さらに瓶を細かく切り刻んだ。

 

瓶はまるでダルマ落としのように綺麗に切れていき、壁にぶつかっていく。

 

そして、瓶が全て終わった時、カリフは首やら手首やらをコキコキと鳴らして言った。

 

「傷が治り続けるが故に、痛みは際限なく襲ってくる……オレにとっては女子供の護身技でしかないが、不死の奴にとっては際限なく鋼の鞭を振るわれる拷問みてえなもんだ」

「たしかに……未だに拷問方には鞭打ちなんてあるほどらしいし……」

「命に別状がない傷でもショック死する可能性も高いって聞くわ……たしかにこれならライザーの精神を折ることはできるかもしれないけど……」

 

部長と木場の言う通りだとしたらこれほど見事な技はないだろう……素人目でも今のは達人級だということが分かる。

 

だけど、これを実際に扱えるのだろうか……答えはNOである。

 

いや、いくらなんでも後四日でそんな高度な技術を使える様にはなれないだろ!?

 

部長も皆も逆にお前の規格外さに表情を引き攣らせているからね!?

 

「え、えっと……じゃあライザーさんを気絶させたのは……」

「あぁ、あれはオレも教えてもらったばかりの『空道』って暗殺拳だ……とは言っても聞いてある程度見よう見まねでやった技だからな~……」

 

おお! 見よう見まねでできる技もあるのか!? それならまだ小猫ちゃんのような格闘技のスペシャリストに教えてモノにできるんじゃないのか!?

 

 

 

 

 

 

と、そう思っていた時期が私にはありました。

 

カリフは適当な小さな紙を取り出してテーブルの上においてそこに手をかざす。

 

すると、カリフの手に紙が吸いついてきた。

 

傍目からどれだけ凄いことか分からないけど、構わずにカリフは続けた。

 

「人は酸素無しでは生きられない……多分悪魔もだろ?」

「えぇ、それは当然よ」

「だからこそ、人も悪魔も酸素がいかに重要かということが分かる……酸素が少なくなれば体から不調が現れ、人によっては意識が混濁することもある……下水道で呼吸し続けると気分が悪くなるような状態のことだな」

 

分かりやすい例を上げながら、今度は壁の方へと歩いて行く。

 

「そして、人は最低でも6パーセントの酸素がなければ嘔吐や吐き気を催す……なら、その比率が下回った場合、それを吸うとどうなるか……」

 

壁に手を当てる。

 

「答えは単純、一呼吸するだけでたちまち意識を失ってその場に崩れる。ビニール袋で呼吸できないようにするのとは違う『真空』……酸素の量をとことん少なくした『真空』だ……例えるなら宇宙空間で呼吸しようとするようなものだろうな。やったことないけど」

 

それだけでなんとなくだが、相当に危険で、高度な技だということを思い知らされた。

 

「そして、原理は吸盤みたいなものだ。中を真空にすれば物に吸いついて簡単に引き抜けない……それを一気に引き抜けば……」

 

そう言って触っていた手を壁から離した時……

 

ボコ

 

鈍い音と同時にカリフの手が覆っていた部分の『壁』だけがくっきりと穴を空けた。

 

まるで、吸盤を無理矢理引張って壊れたように……

 

「どんな固い物でもこれで簡単に穴くらいは空けられる……もちろん、これは難しいから説明もし辛いし、習得にも一日はかかったからな」

 

……いや待て、今何て言った?

 

一日!? 一日で暗殺拳なんて物騒なもんを習得したのかよ!!

 

つーか説明しなくても一目瞭然だよ!! つまりは手の中の酸素を限りなく少なくした空気をライザーに嗅がせたってわけだろ!?

 

「どんだけー!?」

「いや、これは流石に……」

「もう、ここまで来るとどう言っていいのやら……」

「会得は困難ですわね」

「……もう人間を越えてます」

「カリフくんってすごいんですね~……」

 

アーシアさん!? そう言うレベルの話じゃないんですよ!?

 

もうアーシア以外の全員が呆れたような絶句したような感じでカリフを見ていた。

 

そんな視線にカリフは満面の笑みで言った。

 

「どうだ、簡単だろう? お前たちも練習するか?」

「無理!!」

 

俺は手を×に交差させて叫んだ。

 

そんなことしてたら修業が終わっちまうだろうが!!

 

「まあ、どっちにしろ今回の合宿はイッセーの強化を七割にして進めてるんだ。そんな時間は正直ないのは知ってる。冗談だ」

「俺の練習量に力入れ過ぎだろ!! もっと木場や小猫ちゃんたちの方も見ろって!」

「今回の合宿はほとんどお前の強化がメインだ。今回ばかりはお前を徹底的に鍛えてやるから覚悟しな。木場や小猫たちのほうはその後からでも遅くないし、欠点さえ治せば遅れはとらんだろう。とにかく、一番弱いお前を徹底的に鍛えるだけだ」

「うわぁぁぁぁん! 部長~!!」

 

やっぱり一番弱いのは俺かよ……もう分かった!! それなら徹底的に耐えきってやる!!

 

生き残ってライザー戦でこのフラストレーションを解消させてやる!

 

今考えている新必殺技も喰らわせてやるからな!!

 

「おぉ、なんだかイッセーくんにやる気が湧いているね」

「……ほとんどやけくそ」

 

ああ、その通りだ木場、小猫ちゃん! 俺の場合はその両方だ!!

 

「いいだろう! なら存分に相手してやる!! 早速だから飯までにみっちりしごいてやる!」

「ちくしょー!! やってやんよー!!」

 

訳の分からないテンションに身を任せて俺は再びカリフの特訓に励むこととなった。

 

こんな生活が後四日か……

 

その時までに俺は強くなれるかな……

 

 

 

 

 

そう思っていたことももう過去の話……

 

今、再びベッドの中に入るのだが……この日だけは少し俺の気分も違っていた。

 

 

 

なぜなら、明日でようやく五日目の朝を迎えるのだから……


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