ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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女の誇り

 

ライザーの意識はすぐに戻った。

 

グレイフィアの優秀な介抱と応急手当が功を奏して大事には至らなかった。

 

それどころか、事態は結構深刻なものだった。

 

「オレ……なにがあったんだっけ?」

「OH……」

 

なんと、頭を強く打ちつけた後遺症で数分間の記憶が綺麗に消えてしまっていた。

 

さすがのリアスでもこれには冷や汗をかいたが、すぐにライザーによって婚約の話に戻った。

 

「キミの家も我儘で……」

 

またさっきの話を得意気に話すライザーに全員が辟易していた。

 

まるでビデオを再生しているかのような感じだが、もう無視するしかないと思って放っておく。

 

そして、やっとさっきまでの話に辿り着いた。

 

「実はですね、この件にて一つ提案しにきました」

「提案?」

 

ここに来てやっとグレイフィアが口を開いた。

 

「これは最終手段でしたが、この状況なので提案させてもらいます。……『レーティングゲーム』で決着をつけさせてもらうというのはいかがでしょう?」

「!?」

「レーティングゲーム……たしか前にも聞いたな……」

 

驚愕する部長とは別にイッセーがボソリと呟くと、木場が何気なくフォローしてくれた。

 

「爵位持ちの悪魔たちが行う下僕同士を戦わせるゲームだよ」

「あぁ、前にチェス方式に戦うって言ってたっけ……」

 

二人で話していると、グレイフィアさんが続けるように説明する。

 

「公式なレーティングゲームは成熟した悪魔しか参加できません。しかし、非公式の純血悪魔同士のゲームならば半人前悪魔でも参加できます。その大半が」

「身内同士、または御家同士のいがみ合いよね」

 

嘆息しながら言う。

 

「つまり、お父様方は最終的にはこれで婚約を決めさせるハラなのね?……どこまで私の生き方をいじれば気が済むのかしら……っ!!」

 

相当な苛立ちを見せて拳を作るリアスにグレイフィアさんが冷静に続ける。

 

「それでは拒否すると?」

「いえ、こんな好機はないわ。いいわよ。ゲームで決着をつけましょう。ライザー」

 

挑戦的なリアスの口上にライザーは口元をにやけさせた。

 

「へー、受けちゃううのか? 俺は別に問題は無いし、むしろ大歓迎。成熟して公式なゲームも何度かやっていて勝ち星も多いが、本当にいいのかい?」

「いいわ。あなたを消し飛ばしてあげる!」

「いいだろう。そちらが勝てば好きにすればいい。だが、俺が勝てば即結婚だ」

 

睨み合い、他者の横入りを許さないようなムードを作りだす。

 

「承知いたしました。お二方のご意思は私、グレイフィアが確認させていただきました。ご両家の立会人として私がこのゲームの指揮を執らせていただきます。よろしいですね?」

「ええ」

「ああ」

 

グレイフィアの提案に二人も了承する。

 

「分かりました。ご両家の皆さんには私がお伝えします」

 

グレイフィアが頭を下げると、途端にライザーは当惑しているイッセーを見て嘲笑する。

 

「ところでリアス。キミの下僕はそれで全員かい?」

 

その一言にリアスも片眉を吊り上げる。

 

「そうよ。カリフだけは違うけど、それがなに?」

 

そう言うと、ライザーはクスクスとおかしそうに笑う。

 

「これじゃあ話にならないんじゃないか? キミのクイーンである『雷の巫女』でしか俺の可愛い下僕に対抗できそうにないな」

 

そう言ってライザーが指をパチンと鳴らすと、部室の魔法陣が光り、そこからまた多数の人影が現れる。

 

そこから出てきたのは十五人の女性であった。

 

チャイナ服、ターバン、踊り子など様々な様相の女性がライザーの周りを囲った。

 

イッセーはそれを見て驚愕しているが、カリフに至っては拍子抜けという感じだった。

 

(なんだ……どいつもこいつも並ってとこか……)

 

気と出で立ちやその他色々の挙動で強さを計ったカリフはくだらないと言わんばかりに無視を決め込む。

 

だが、イッセーはライザーに怒りと嫉妬を交えた視線をぶつけ、同時に涙する。

 

「な、なぁリアス……この下僕くん俺を見て大号泣してるんだが……」

 

引き気味のライザーにリアスも困り顔で額に手を当てる。

 

「その子の夢はハーレムなの……多分、ライザーの眷族の子を見て感動したんだと思うわ」

 

そう言うと、周りから非難の声が上がる。

 

「キモーイ」

「ライザーさまー。このヒト気持ちわるーい」

 

容赦無い台詞にイッセーは唇を噛みしめて堪えるが、ライザーは女性の体を撫でまわして慰める。

 

「そう言ってやるな。上流階級の者を羨望の目で見てくるのは下賤な輩の常さ。あいつ等に俺とお前たちが熱々なところを見せつけてやろう」

 

そう言ってライザーが眷族の一人の女性と濃厚なディープキスを始めた。

 

それにはイッセーは興奮に股間を押さえ、木場は顔を紅くし、小猫は顔を紅くさせながら目を逸らし、朱乃はニコニコしながら不愉快そうな雰囲気を醸し出す。

 

「あぅあぅあぅあぅあぅあぅ……」

 

アーシアも既にグロッキー寸前。

 

その中でもリアスはおもむろに嫌悪の表情を浮かべる。

 

グレイフィアとカリフだけが表情一つ変えなかった。

 

部室にクチュクチュと音を出してキスを終えると、唾液の線がライザーと眷族の子の口を繋ぐ。

 

そして、また別の女性を呼び寄せて体を弄びながらイッセーと、何故かカリフに嘲笑的な視線を送る。

 

「お前たち下級悪魔くんや人間にはこんなこと一生できまい」

「るっせぇ! 余計な御世話だ! ブーステッド・ギア!!」

 

イッセーは挑発に乗って神器を解放するが、すぐにカリフから制止の声がかかる。

 

「止めろ。お前が行った所で眷族の女一人には勝てねえよ」

「なんだと!?」

 

流石のイッセーもこれには納得いかなかったようでカリフを睨むが、カリフは更なる怒気と威圧で以てイッセーを黙らせた。

 

「う……」

「そもそもなぜそんな簡単に挑発に乗る? 奴が何かしたか?」

「何かって……お前は悔しくないのか!? あんな濃厚なシーンを見せつけられて何も感じないのか!?」

「カリフくんは変態先輩とは違います」

 

小猫からの痛烈な突っ込みを受けるイッセーに心底不思議そうに首を傾げた後、カリフはすぐに侮蔑の視線をライザーに向ける。

 

「んなこと言われてもねえ……こんな所で唾液と唾液を交換し合って舌を舐め合って……気持ち悪いし、胸糞もわりいだけだ」

「……なんだ? 負け惜しみか?」

 

少し苛立った様子を見せたライザーの挑発。というか、本当に記憶が消えてるらしく、カリフから受けた屈辱を忘れている様子だった。

 

「いや、だってそんな『愛』の『あ』の字も見えない性行為見せられて感想言えって言われても気持ち悪いとしか言いようがない。これならまだ汚物にまみれた下水道で行われるドブネズミの交尾の方が神秘的で健全に思えるぜ」

 

見下した態度にさらに見下した態度で挑むカリフにライザーや他の眷族たちが怒りを見せる。

 

「俺がドブネズミだと!? この聖なる不死鳥の俺のことを言ったのか!?」

「あぁ、そうだ。そのトリ頭でも理解してもらえて正直ホっとしてるぜ」

 

喧嘩腰で言うカリフに眷族の女性たちの非難が飛び交う。

 

「ライザーさま! あのヒト嫌い!」

「やっつけましょうよ!」

 

だが、それすらもカリフは鼻で笑う。

 

「貴様等も貴様らだ。よくそんな簡単に自身の体を捧げられるものだ……どうやら貴様等の『女性のプライド』も墜ちに墜ちて便器にこびりつくクソみたいに低俗のようだな」

『『『なっ!?』』』

 

あまりの暴言に眷族一同は怒りを燃やす。

 

それによって全員が魔力を練って臨戦態勢に入る。

 

「ほう、貴様等にも『プライド』を貶められて怒るだけの気概があったのだな」

「当たり前だ!! そこまで言われて黙ってられはせん!!」

「なら、今の自分を鏡で見たことはあるのか? なぜお前たちはそいつに体を好きなようにさせられている?」

「ぐ……っ!」

 

仮面の女性が歯を食いしばり、言い返せない自分に苛立ちを見せる。

 

だが、カリフは腕を組んで、相手の敵意を一身に受けて堂々と見据える。

 

「悪魔でも、天使でも、堕天使でも、人間など種族は問わず、オレは女には比較的乱暴なことはしないと決めている……フェミニストだからな」

(((((いや、どこが……)))))

 

レイナーレ戦の光景を目の当たりにしていたオカ研メンバーは内心で突っ込みを入れるが、そんなことは気にしない。

 

「そりゃそうだ、女の体は新たな命を生み出すゆりかご……未来の強者を生み出すかもしれない無限の可能性だ……だからこそオレはムカつく女を除いては見てくれが悪かろうが、人見知りだろうが、バカだろうが女に本気で手を上げたことはねぇ! 何故ならオレは女を尊敬しているからだ!!」

 

いつのまにか胸に手を当てながら声を荒げて激白しているカリフに全員が気圧される。

 

「だからこそ女は自分で自分の体を死ぬ気で守らなくてはならない! その可能性を秘めた自分の体を! 愛を授けるに値する男に会うまで守り抜かなければならない! 女の素晴らしさは恵まれた体型や顔の形で決まるのではない……自分や新たな命を必死に守り抜き、愛した男を愛し続けようとする崇高で侵し難い『自尊心』で女の価値は決まるのだ!!」

 

その言葉はまさしく、カリフ自身が切に思う女の『最高条件』

 

命を宿す体だからこそ、女はそれを守り、未来を作らなければならない。

 

そうやって命は出来上がってきたのだから。

 

『『『……』』』

 

カリフの言葉に誰一人何も言えなくなってしまい、敵意も僅かに薄れていく。

 

中には思い当たる節があるのか、悔しそうに歯を噛みしめる者もいた。

 

「誇りを取り戻せ。女たちよ……お前たちはいつからそんなことも忘れたのだ?」

「そ、それは……」

 

甲冑を着た女性が顔を俯かせていた時だった。

 

 

 

 

 

「貴様ぁ!! 俺の眷族に妙なこと吹きこむんじゃねえっ!」

 

今まで無視されていたのが気に入らなかったのか、ライザーは尋常でない熱量の炎を集めていた。

 

「ライザーさま!!」

 

甲冑の女性が制止しようとし、リアスたちも再び臨戦態勢に入るが、カリフは溜息を吐いて片手を動かした。

 

その動きは優しく、柔らかな挙動であり、まるで傷つけずに包みこむようなしなやかさと繊細さを帯びていた。

 

そして、手の形はまるで水をすくい取る時の形だった。

 

「食儀……『スプーン』」

 

静かに、それでいて俊敏に腕を動かした瞬間

 

 

 

 

 

 

部屋を燃やさんとする業火が

 

 

 

 

 

 

一瞬で消えた。

 

 

 

 

「こ、これは……!」

 

リアスたちを含めた全員が驚愕した。

 

その中でもライザーの反応が顕著だった。

 

「バ……バカなぁ……!!」

 

ライザーはさっきまで炎と風で以て縮小の太陽を作り上げていたはずだった。

 

だが、それが自分の元から消えた。

 

そして、その行き先も全員の目に見えて明らかだった。

 

「お、俺の炎が……我が業火がなぜ貴様のような人間に……!!」

 

それはカリフの掌の上で盛る……

 

「“奪われる”んだ!?」

 

小さくコンパクトに圧縮された疑似太陽があった。

 

カリフは優しくフっと息を吹きかけて炎を消して言った。

 

「そんなことはどうでもいい……今、一番許せないのはお前だ……このトリ頭がっ!」

 

今度は手を添えてライザーに手の平を向けながら怒気を放った。

 

「貴様はこいつ等の『女としてのプライド』を奪い去り、さらには『男としてのプライド』まで忘れた性欲の権化にまで墜ちた!! これ以上フェニックスの、聖獣の名を汚すんじゃねえよゴラァ!!」

「な、俺がいつ誇りを忘れたなどと……!!」

「なら、今回のゲームで思い知らせてやろう!」

「!?」

 

眼前から急に消え、背後からの声にライザーも振り向くと、その瞬間に手の平を向けられた。

 

「十日だ。十日の期限を以てオレたちはお前を完膚無きまでに叩き潰す……格下相手にちょうどいいハンデだと思うだろ? お前のその家の名誉を守らんとする『反発心』さえなければここでもう一度『土の味』を堪能させてやるんだがなぁ……どうだ?」

「あ、あぁ。いいだろう!! 後悔しても知らんぞ!!」

 

完全にカリフに呑まれているが、それを悟られないように反発すると、不意にカリフの手の平がライザーの顔面を覆った。

 

「このゲーム……やるからには勝たせてもらう……首を洗って待っていろ!! このママっ子野郎!!」

 

そう言った瞬間、ライザーは白目を剥き、その場に倒れた。

 

――ゴキッ

 

頭を打って鈍い音を部室内に響かせるライザーにまたもや全員が驚く。

 

「な!?」

「こ、これは……!」

「一体……」

 

部屋が混沌に包まれる中、カリフはグレイフィアに声をかける。

 

「おい、日程は分かってるな?」

「は、はい……先程言質はいただきました……」

「なら、今日はこれで終わりだ。そいつ連れてさっさと帰れ!」

「で、でも……ライザーさまは……」

 

グレイフィアの一言にカリフは鼻息を鳴らして言った。

 

「こいつが散々バカにした人間の使う武術、『空道』と呼ばれる技を試しに使っただけだ。心配せずとも死んでねえよ」

「そ、そうですか……」

 

グレイフィアの常識さえも上回るカリフの言動にグレイフィアは思っていた。

 

(人間にしてこの豪胆さに、この威圧感……そして達観した物の考え方……彼は一体……)

 

そう思いながらもグレイフィアは目の前の仕事をやり遂げようと眷族の女性にライザーを任せた。

 

「それでは、今日から十日後、ライザーさまとリアスさまとレーティングゲームを行います。双方共に万全に整えてくださるよう」

 

お辞儀して魔法陣の光で消えていくグレイフィアやライザー一同を見送る。

 

光が止むと、そこにはオカ研メンバーしかいなくなっており、静かな状況が続いた。

 

そんな時、カリフはゆっくりと皆の方へと振り返った。

 

「さぁ……今すぐ支度しな……」

 

目を光らせて獣のような歓喜を見せるカリフに全員が引き、イッセーが恐る恐る聞いた。

 

「あの……ちなみに俺たちに拒否権は?」

「特にない」

「ですよねー」

 

こうして、何故かカリフが締めるムードで部活はお開きとなったのだった。


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