ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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戦闘校舎のフェニックス
動きだす日々


 

アーシアの入学とほぼ同じ時期に決まったカリフは今、生徒会室で話を聞かされていた。

 

「すみません。こちらの発注ミスで大分遅れそうなのですが……」

「いい。服は身を包めればなんでもいい」

「そうですか……すいませんがしばらくはそのままの格好でお願いします」

 

今、カリフと話しているのは駒王学園生徒会会長である支取 蒼那。

 

厳格そうな彼女は未だに届かないカリフの制服に謝罪するが、カリフのそれを気にしていない様子に安心するのか薄く笑った。

 

だが、一方でカリフはそんな彼女の姿にデジャヴを感じていた。

 

「……あんた、どっかで会ったこと……ないな、うん」

「? まあとりあえず、後の話は……」

 

自問自答して納得するカリフに首を傾げるが、すぐにいつも通りに戻る。

 

だが、その表情はどこか変わって瞳が妖しく光る。

 

その変化にカリフは動じることなく続ける。

 

「後は分かっている。悪魔家業のことか?」

「はい。話が早くて助かります」

 

カリフは生徒会室に来たときから既に気付いていた。

 

全員の『気』の質が既に人間の『ソレ』とは違うことに。

 

それを告げた時の生徒会メンバーの驚愕は動揺は忘れられないほど痛快だった。

 

「なに、討伐のときはオレ一人でやりてえから時々紹介してくれるだけでいいんで」

「それくらいはこちらとしてもありがたいのですが……本当にお一人で討伐を?」

「オレは他人の動きに合わせて動くことはできる。だが、『チームプレイ』など協調性を最重要視する戦法は難易度が高過ぎる。オレは独りだからこそ力を発揮できるんだ。それに、『戦い』は独り占めしたい物だ」

 

自信満々にそう言うカリフに蒼那、いや、ソーナ・シトリーは少し渋った。

 

だが、リアスたちからも事前に聞いたように実力は指折り、不足は無い。

 

「分かりました。そこについても検討します」

「よろ」

「それでは教室に案内しますね。匙」

「はい!」

 

元気よく立ち上がる一人の男にカリフは鋭い眼光を向ける。

 

匙と呼ばれた男子はその眼光に少し怯むが、また持ち直す。

 

「カリフくんを教室に案内して差し上げなさい」

「わ、分かりました! ほら、行くぞ」

 

ソーナに立派な敬礼をしてカリフに声をかけて生徒会から出て行った。

 

カリフもそれに付いて行くことにした。

 

匙たちが出ていくのを確認したソーナは一人、思考に没頭する。

 

(……以前にレヴィアタンさまがおっしゃった婿最有力候補の男の子……名前はカリフくん……)

 

アニメ製作でも度々出てくるその名前。

 

嬉々として姉が口にする名前が編入者の書類に書かれているのを見た時は本当にビックリした。

 

そして、他人の空似だと思うことにしていたのだが、すぐに確信した。

 

あの洞察力や威圧感から言って間違いなく、彼が魔王を見染めさせた人間だと。

 

だからこそ、ソーナはこのことをレヴィアタンこと、セラフォルーに言うべきではないと決めた。

 

(今は魔王である故、そんなことでお手を煩わせる訳にはいかない……なにより……)

 

ソーナは頭を抱えて溜息を吐いた。

 

(あの人なら魔王業務をほったらかして来るに違いない……)

 

破天荒な姉だからこそ予想は容易い。

 

この情報は他言無用にしなければと心の中で密かに誓うソーナであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、カリフを引率している匙といえば……

 

「……」

(……なんか背中に見えない威圧感が当たってチクチクする……)

 

カリフの無意識な迫力に絶賛圧迫されていた。

 

(こっちの発注ミスとはいえ、なんでこの番長スタイルがここまで似合ってるんだよ……長ランだしなぜか鎖付いてるし……本当に年下かよ……)

 

後ろで最強の不良が付いてきているので、匙のプレッシャーもピークに達していた。

 

「おい、あれは?」

「はい!? あぁ、あれは図書館です……だな(なんで後輩に呑まれてんだ俺はあぁぁぁぁぁぁぁ!? 相手は年下なんだぞ!? 俺が引率してんのにこっちがびびってどうすんだよ!)」

 

もう中身もテンパってきたのを自分の中で拒否する。

 

「そうか……」

 

カリフもそこから何も喋らずに帽子を深く被る。

 

(早く送り届けよう……)

 

匙は必死にこの謎の威圧感と戦い、無事に役目を終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、え~っと……今日から新しいお友達が入ります……皆さんも仲良くしましょ~……」

 

朝のHRの時間、一年のある教室は静寂に包まれていた。

 

教師もその空気を感じ取ってどこか棒読みだった。

 

その原因とされる黒板前の番長カリフに教師は勇気を振り絞る。

 

「あの……それでは紹介……」

「……」

「あの、自己紹介……」

「あ?」

「ひぃ~っごめんなさいごめんなさい!」

 

学帽の隙間からの眼光に教師も悲鳴を上げるも、カリフは続ける。

 

「……鬼畜カリフ……これ以上に言うことは?」

「あ、ありません……」

「なら席はどこだ?」

「そ、それは……」

 

教師と目を合わせないように全員が目を逸らす。

 

うん、名前からして言い得て妙だ。なんだか鬼畜って響きがよく似合っている。

 

誰もこの新入生の威圧に参っているのが目に見えて分かっていた。

 

ただでさえ、共学になったばかりで女子生徒が多いとは言っても、目の前の存在はその情勢さえも塗り替えてしまうと思われるほど漢すぎる。

 

もうこのまま拮抗すると思われていた時だった。

 

「私の隣、いいですか?」

 

予想できなかったまさかの立候補に全員が目を向けると、そこにはクールに手を上げる学園のマスコットこと、小猫だった。

 

この時、クラス全員の脳裏に過去の光景が甦った。

 

マスコットの小猫と二大お姉さまの片割れである朱乃が番長を引率していた風景を

 

全校の二人のファンに衝撃を与えたあの時の光景は今や話題になっていた。

 

色んな推測が飛び交い、その度に何かの間違いだと否定し続けていた事態が急に現実味を帯びてきた。

 

色んな感情に包まれた教室の中で、教師はまるで、砂漠のオアシスを見つけたように表情を緩ませた。

 

「それでは塔城さんの隣の席でお願いします……」

「ちっ……毎朝家の中で引っ付いてるだろうがよぉ……」

『『『!?』』』

 

舌打ちして呟く爆弾発言にクラスに何らかの衝撃が奔った。

 

「それとこれとは別……それに毎朝起こしてる」

「……ま、その点は素直に感謝してる」

『『『!!??』』』

 

小猫からの更なる核爆弾宣言に全員が席をガタっと揺らした。

 

「え!? 塔城さんと鬼畜さんってどういう関係……!?」

「住んでるの!? 一つ屋根の下で!?」

「まさに美女と野獣……いや、美少女と魔獣……」

「そ、そんな……これは夢だ……悪夢なんだ……はは……」

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……」

 

半ばカオスとなりつつあるクラスを見てカリフは思った。

 

「にぱぁ……」

 

カリフは邪悪な笑みをクラスに振りまいて恐怖のどん底に落としながら小猫の席の隣に座った。

 

(……生徒じゃなくて用務員の人として入った方がよかったかな……?)

 

ポーカーフェイスの下で密かにカリフは何か道を外したのかと思った小猫だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきは助かりましたぁ。ありがとうございますイッセーさん」

「いやいいよ。まあ、アーシアはこんなにも可愛いからあれだけの質問攻めもいい傾向なんだろうけどな」

「そんな、可愛いだなんて……」

 

明らかに照れながらアーシアは顔を赤くさせているのにイッセーは微笑ましく見ていると、そこへ一人の影と合流した。

 

「あ、イッセーくん、アーシアさん。こんにちは」

「おー木場、ウッス」

「こんにちは木場さん」

 

学園随一のイケメンであり、男子の敵である木場はイッセーたちに爽やかな挨拶を送る。

 

それにはイッセーもアーシアも何気なく返すと、周りからは様々な声が

 

「うそ!? 木場きゅんが兵藤なんかとお昼を!?」

「そんな!? 木場くん×兵藤は実在してたなんて……うそよ!!」

「くそっ! なんで兵藤がアーシアちゃんと……爆発しろ!」

「死ね!!」

 

なんだか俺に対する怨嗟の声しかないんですけど!? て言うか女子はそんな話してて楽しいか!? そんな気持ち悪いこというんじゃねーよ!!

 

実は俺たちは部員全員集まってお昼を食べようと集まっている訳だ。

 

さっきまでアーシアに質問攻めの嵐が巻き起こって対応に困って慌ててたアーシアを半ば強引に脱出させた。

 

まあ、なんとか悪友の松田、元浜、桐生の三人から離せたことは不幸中の幸いだった。

 

そんな感じでさっきまでの光景を思い出していると、前方から二人の好奇なオーラを発する二大お姉さまの部長と朱乃さんがいた。

 

「部長! 朱乃さん!」

「あら、イッセーも今終わったの?」

「あらあら、丁度いいタイミングでよかったですわ。うふふ……」

 

優雅に挨拶してくるお二人もお弁当片手に挨拶してきた。

 

「ま・た・あのエロ後輩がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「リアスお姉さまから離れろエロ猿!!」

「朱乃お姉さまが汚されるわ!!」

 

うん! もう罵倒の嵐がめっさハンパなくて泣きそう!!

 

「あの、イッセーさん、私はどんなことがあってもイッセーさんの味方ですから!」

「ありがとう……君が救いだよ……」

 

傷ついた心にアーシアの優しさが沁み渡る。

 

「これで大体揃ったわね、後は小猫とカリフだけ……と……」

 

部長は待ち合わせ場所であるこの場所でキョロキョロと辺りを探すが、二人の姿が見えない。

 

まあ、まだ時間じゃないし授業も真っ最中なのかな?

 

「はうぅ……今日こそカリフくんと仲良くできればいいのですが……」

「そっか、アーシアはカリフのこと嫌いだったよな」

「いえ、嫌いじゃないですし、むしろ感謝してるんです……けど……なんだか怖くて……」

 

ウチのアーシアちゃんはちょっとしたカリフアレルギー……というか苦手な様子です。

 

そりゃあ、あの変態神父や大型車を教会に突っ込ませたり、レイナーレの時の戦いを見たら普通の人はトラウマになるわな……ありゃ怖い。

 

「イッセーくんもシゴくってお誘い受けてたよね?」

「木場ぁぁぁぁぁぁぁ!! 嫌なこと思い出させるんじゃねぇぇぇぇ! 俺がブーステッド・ギアの持ち主だからって鍛えてやるとか言ってんだぞ!! あの時の目は本当に今でも夢に出てるから!!」

 

そう、レイナーレの件が終わった後、カリフが俺の神器に興味持っちゃったのが運の尽き……俺を鍛えるとかマジな目つきで詰め寄って来てたのは一生忘れられない悪夢となるだろうな……ヘビに睨まれたカエルの気持ちが分かったよ……

 

「あら、素敵な申し出じゃない。彼、どうやら戦闘のプロらしいから鍛えてもらって強くおなりなさいな」

「イッセーくんが羨ましいですわ。彼を独り占めなんて、うふふ……」

「洒落にならないから止めてください! そんなことになろうものなら真っ先に殺されますよ俺!!」

 

というかカリフの投げた大型車三台で教会を爆破した件……見事にニュース沙汰となり、新聞の一面を飾っちゃいました~♪

 

どうも、世間ではテロの線が強いということで事件は終結しそうなんだけど……それを引き起こした張本人に俺は狙われています……

 

「やべぇ……俺、生きてハーレム作れるかな……」

「ふふ…頑張りなさい。強くなったら私が御褒美あげるから」

「マジっすか!?」

 

も、もしかしてあ~んなことやこ~んなことなご褒美かな~?……ゲヘヘ、これは頑張るっきゃねえ!

 

「む~……!」

 

アーシアが可愛らしく頬を膨らませて涙目になって俺を睨んでいる。

 

そんな感じで穏やかな昼食が始まる……

 

 

そう思っていたのだが……現実は……『あいつ』が大人しくしている訳がなかった。

 

俺たちがダベっている間、突然に近くの生徒が急に倒れ込んだ。

 

「え!?」

「!?」

 

突然のことにアーシアと俺は驚いてしまうが、部長たちはすかさずに臨戦態勢に入る。

 

すげぇ、そこんところは経験の違いを感じるぜ……

 

だが、その瞬間に襲ってきた殺気の波は素人である俺やアーシアでも気付けるほどに濃かった。

 

「こ、これは……」

「イッセーくん。離れないようにね」

「……あぁ、アーシアもな」

「は、はい……」

 

まずは気配を探っていると、どうやらこの空気はこの先の廊下から……しかも一年のクラスへと繋がっている所から出ている。

 

「まさか……小猫とカリフの身に何かが……」

 

部長の一言に全員が嫌な予感を感じさせた。

 

「でも、二人は強いから……」

「ですが、部長の言う通り、万が一という可能性も……」

「そ、それでも……」

「静かに! 誰か来るよ!!」

 

木場が何かを察知したのか表情を引き締めた。

 

「……来ますわ」

 

朱乃さんと部長が金色と黒い魔力を纏わせて戦闘態勢に入る。

 

―――カツーン、カツーン

 

そして、俺でも聞こえるくらいに足音が近づき、先の曲がり角から影が見える。

 

全身から冷や汗を出して俺は神器を展開させようとした時……遂に姿を現した。

 

「……ちわ」

 

両手にとてつもなくでかい昼食を持ったカリフに……

 

「あらあら……」

 

朱乃さんを除いた俺たちは無言でその場に突っ伏した。

 

「……ドリフ?」

 

カリフの後からやってきた小猫ちゃんも絶妙な疑問を口にした。

 

違うからね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで? なんであなたは殺気を学園中にばらまいたの?」

「なんでって、そりゃ決まってるだろ?」

「いや、あなたの中でしか決まってないから」

 

現在、部室でみんなとお弁当食べる中、部長がカリフに尋問していた。

 

ちなみに、皆のお弁当は普通の高校生とさほど変わりなく、小猫ちゃんのは女の子のような小さい弁当箱ではなく、普通の男子が使うようなサイズの大きい弁当箱を持っている。

 

そして、一際おかしいのはカリフのやつだ……

 

ご飯→炊飯ジャー、おかず→十段重ねの重箱

 

一体どれだけ食べるの? と、言いたいところですが、もう驚かなくなりましたよ……何が起こっても不思議じゃない。

 

それよか、驚くのは部長との会話のことだ。

 

「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。周りの視線が鬱陶しいからつい……な」

「つい、で自分のクラスとすれ違う生徒を気絶させるほどの殺気を振り撒かないの。私たち悪魔はそういう耐性はついたからいい物の……」

 

そう、あの殺気はカリフが人避けのために本人曰く『軽く』やったらしい……『軽く』……

 

「まさか、ここまで日本人が脆くなってるとは夢にも思ってなくてな……嘆かわしいぜ……」

「全世界共通であなたの殺気は耐えられないわよ……どうするのよ? 今日はもう休校になっちゃったじゃないの……」

 

溜息出しながらガッカリする部長。そう、今日の学校は謎の気絶者が半数を越えたので授業は続行不能……昼食の後に速やかなる早退を放送で指示された。

 

「通夜が一気に葬式に変わりました」

 

小猫ちゃん曰く、カリフのクラスはまさに通夜みたいに静まり返り、物音出すだけでクラスの情勢が変わるような緊張状態だったらしい。

 

もっとも、カリフの殺気によって通夜が完全な葬式場になったらしい……クラス全員が気絶したという……

 

「か、カリフさん……やっぱり怖いです……」

「だよね~。俺もめっさ怖くてガクブルすっぞ!」

「あはは……」

 

木場が苦笑してるのに反応するのも疲れそうだ……

 

「いい? これからは殺気を出さないの。面倒になるから」

「ふむ……学園生活ってのも難しいな……いいだろう、どんな困難にも受けてたってやる」

 

五人分くらいの弁当を十数分でペロリと平らげ、愉快そうに笑うカリフに不安がよぎる。

 

……マジ大丈夫か?……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、この後の事件でそんな問題はすぐに霧散した。

 

 

 

 

「人間界か……あそこは好きじゃないが行くか……必ず連れ帰って結婚するからな? 愛しのリ~ア~ス」

 

そんな声が呟いた後、業火が辺りに飛び散って一人の影を包みこんだ……

 

 

 

一難去ってまた一難……新たなる事件はすぐにやってくる。


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