ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~ 作:生まれ変わった人
神父をギリギリまで生かしたままカリフたちは部室まで戻って来た。
アーシアとカリフは魔法陣によるワープができなかったため、そのまま徒歩で戻った……はずだった。
なのに、なぜかリアスたちがワープして戻ってくると、カリフたちも何事も無かったかのように戻って来ていた。
その時のアーシアは目を回し、カリフはそんなアーシアを担いでいたという奇妙な状況になっていた。
もう突っ込むのを止めた面子はとりあえず各々がすべきことに取りかかった。
朱乃と小猫は鬼畜家の護衛に、木場はカリフと共にアーシアから話を聞きだすため……
そして、リアスはイッセーの傷を癒すために部室内のシャワー室で二人一緒に裸になって入っていった。
そんな中、カリフと木場と対面しているアーシアといえば……
「……(ガタガタブルブル……)」
「……」
目の前で不機嫌オーラを全開で垂れ流すカリフに脅えていた。
体を小刻みに震わせて生まれたての仔犬みたいに涙目で必死に恐怖に耐えている。
だが、それでもカリフは容赦することなく、テーブルに足をドカっと乗っけて凄みを利かせる。
「つまり、だ……お前はあの時は何も知らず、これから鬼畜家を狙うことも知らされてなかった……と?」
「は、はい……あんなことしてるなんて知らなくて……」
「……」
「ほ、本当なんです! 信じてください!」
何も言わずにただ不機嫌な表情をし続けるカリフだが、分かっていた。
目の前のシスター・アーシアは何も知らなかったのだと……
こういった人の良すぎる人間はいつだって利用され、捨てられてきた。
そして、今回の神父も含め、あのドーナシークとかいうのしか集まっていない堕天使勢
いくら喧嘩っぱやいカリフでも人は見る。そして、罰する人間を選んで裁きを下す。
無関係な人間を痛めつけても気分は晴れないし、後味も悪くなる。なにより、生前のブルマたちとの約束でもあったのだから。
そして、アーシアが誤解しているのはカリフが自分に対して怒っているのではない。
真に怒っているのは自分の信念を乱そうとしている墜ちた天使たちにだ……
「カリフくん……」
「あ?」
「……彼女は何も知らなかったんだ……彼女の前だけでも少しは機嫌を治してあげなよ……脅えてる」
「……」
木場の言う通り、少し感情的になりすぎたと思ってカリフは少し気持ちを落ち着かせて緊張を解いた。
それと同時にアーシアと木場も緊張から解放されてようやく一息つけることとなった。
冷静を装っていた木場も実は相当に参っていたのがよく分かった。
少しだけ和らいだ部屋の中を魔法陣の光が照らす。
そして、そこから現れたのは朱乃と小猫だった。
「どうですか? 何か分かりました?」
「……速かったな、家は?」
「使い魔に見張らせてるから大丈夫」
「……」
小猫の答えにカリフはその手があったあと言わんばかりに頭を抑えた。
そうだ、自分には結構強めのペットがいたな……と。
とりあえずは二人のおかげで家の方も安心した。
あくまでもポーカーフェイスを決め込むのだが、木場にはバレているのか少し笑われた。
そのことを不服に思っていると、シャワー室からイッセーとリアスが出てきた。
「アーシア」
「イッセーさん!」
二人は嬉しそうに見つめ合うが、それをリアスが制した。
「感動の再会中に悪いんだけど、今後のことを決めさせてもらうわね?……あなた、アーシアといったかしら?」
「は、はい……」
いきなりの悪魔の親玉にあたる存在の登場によってアーシアの緊張が高まる。
拾い犬のように縮こまるアーシアにリアスはふっと笑った。
「そんな緊張しなくていいわ……なにも取って食おうって訳じゃないから」
微笑んでみるも、アーシアの様子は変わらず震えていた。
「あの……部長」
「なに?」
「……俺と話させてもらえませんか?」
その提案にリアスは難色を示すのも一瞬、すぐに首を縦に振った。
「分かったわ……だけど無理は……」
「ありがとうございます……」
リアスに一言礼を言ってふらつきながらもアーシアの横に座って見つめ合う。
「イッセーさん……よかった……」
アーシアはイッセーが無事だということを改めて認識して安堵する。
だが、そんな彼女にイッセーは申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんアーシア……俺、悪魔なんだ……騙すつもりはなかったんだ……だけど……」
何を白々しい……結局俺はアーシアの期待を裏切ったじゃないか……
俺が罪悪感に胸を満たしていると、そんな俺にアーシアは優しく諭してくれた。
「いいんです……私、イッセーさんにまた会えて嬉しいですから……」
「でも、そんな俺をアーシアは庇ってくれたのに……」
「私が堕天使だと知ってイッセーさんは私のために怒ってくれました……私、すごく嬉しかったんです」
まるで天使の頬笑みとも言える笑顔を向けられてイッセーは内心で自己嫌悪していた。
(違う……俺は何もできず、ただアーシアに守られてただけだったんだ……俺はただ皆に迷惑かけただけだ……!)
なんの覚悟も無くただ浮かれ、夢ばかり見て現実と向き合わずにしてきた“ツケ”がここにきて現れた。
それを痛感する一件でイッセーはより一層の強さを求めるようになった。
そんな拳を握るイッセーの手をアーシアは優しく包み込んだ。
「それに、私……あの人たちから離れようと思ってましたから」
「……え?」
その一言にイッセーだけでなく、他の面子も若干驚いたようだった。
「人を簡単に殺してしまう所になんかもう戻りたくありません……こう言っては失礼でしょうが、イッセーさんが勝っても負けてもこうしたんだと思います」
微笑みながら言うが、その瞳には悲しみも混ざっている。
当然だ。
今まで信じてきたものに裏切られたんだから……
「これはきっと、主の試練なんです……私は駄目な子ですから……」
俺では到底、アーシアの心は分からない……
沈痛な空気が部室を支配する中、急に立ち上がったのはカリフだった。
「なら、今日の所はこのくらいでいいだろ? オレはもう寝たいし」
呑気に欠伸しながら背伸びすると、皆の視線を集める。
だが、その後にカリフはオレたちに指をさしてきた。
「イッセー……今、お前が成すべきこと……分かってるな?」
「!?」
俺の考えていることを見透かしたことに驚いていると、次にアーシアに向き直った。
「おい、アーシアとやら……」
「は、はいぃ!」
完全に脅えて背筋を伸ばすアーシアだが、カリフは続けていった。
「お前はまるで世間知らず、不器用でトンマだ」
「……」
痛烈な中傷にアーシアはまた悲しそうに俯くが、カリフの言葉は終わっていなかった。
「だからこそお前はこれからの生き方を選択できる……一度素っ裸になって考え直してみろ。全てをかなぐり捨ててみるのもまた一つの道だ」
「は、はぁ……」
素っ頓狂なアーシアを見るなり薄く笑い、部室の窓を開ける。
冷たい夜風が入りこんできた。
「今日はイッセーはアーシアの面倒を見ろ。それで分かる道もあるかもしれんからな」
「え? それってどういう……」
「じゃ、オレはやることがある」
そうとだけ言うと俺の問いを無視してカリフは窓から一気に跳び去った。
「お、おい!!」
「きゃあ!」
跳びたった時の衝撃で窓枠が木端微塵になり、耳を貫通するような轟音に俺とアーシアは耳を塞いだ。
他の面子は俺たちとまではいかないが、驚愕はしているようだった。
部長だけを除いて……
「……とりあえずは彼の言う通り、そのシスターはイッセーの家で匿いましょう」
「ぶ、部長……それじゃあ堕天使が報復に来るんじゃあ……」
「大丈夫よ、そう簡単に奴らも攻めてこない……あれだけ相手の悪魔祓いを痛めつけたのだから当分はあっちも警戒するはずよ」
「そ、そうですか……」
とりあえずは心配事は無しか……それなら俺が拒否する理由も無いな。
「あの、イッセーさん?」
「あ、ごめん、ぼっとしてた……」
「いえ、それはいいんですが……なにも私を無理に家に招かなくてもよろしいんですよ?」
「大丈夫、大丈夫! これでも男だ! 女の子を守るのがお仕事ですから!」
それに部長もアーシア自体が害にはならないと認識してくれてるようだし、何よりカリフから言われたことだ。やらないと殺される!
それに……
(カリフの言うことが本当なら……俺の道が分かるかもしんねえからな……)
そう思っていたからか、横でアーシアと部長が話していたのに気付かなかった。
「アーシア、これを渡しておくわ」
「これは……手紙ですか?」
「ええ、イッセーの家に着いてから読んで欲しいの……あなたの宿す神器も気になってたし」
「は、はぁ……」
そんな感じで、今日はお開きとなった。
その場で皆は各々解散したのだった……
だけど、鬼畜家に帰って来た小猫だけは違った。
「カリフ? まだ帰って来てないわよ?」
「え? ほ、本当ですか?」
「うん、全然」
鬼畜家にいた母と父は未だにカリフは帰ってないと言う。
そんな謎の事態に小猫はどこか不安がよぎった。
(カリフくん……)
結局、この日はカリフは帰ることはなかった。
そして、事はその翌日に起こった。
「あ~あ……暇だなぁ」
「仕方なかろう……これもあの人の命令だ。愚痴るなミッテルト」
「だがなカラワーナ、ミッテルトの言葉にも一理ある。我々が早朝にこんなことする意味が分からん」
「お前もか……ドーナシーク……」
朝の五時くらいだろうか……三人の黒い翼を生やした堕天使、一人はゴスロリ、もう一人は大人の女性、もう一人は一時期にイッセーとカリフに襲いかかって来た堕天使たちだった。
三人は古びた教会の裏口を見張っていた。
「あ~あ、なんで私たちがこんな……」
「文句が言うならあの白髪の悪魔祓いに言え。奴がヘマしたおかげで警備も強化させられる羽目になったんだからな」
「まったく……だから人間は嫌なんだよ……」
三人は不平不満を吐露し合いながら時間を過ごしていく。
見張りの交代までもう少しだからこのまま喋っていよう……
そう思っていた時だった。
―――カサ
「ん?」
「どうした? ドーナシーク」
「いや、何か音がしたような……」
そう思いながら三人が耳を澄ました時だった。
―――ガサガサ
何かが間違いなく聞こえてきた。
しかも、音も近く大きくなっている。
「……野良ネコか何かか?」
「分からん……だが、昨日の今日のことだ……用心はしておけ」
「大丈夫だとは思うんだけどね」
軽口をたたき合いながらも警戒している。
いつでも光の矢を出せる態勢で警戒している。
―――ガサガサガサガサ
そして、何かが三人の目の前に現れた!!
―――ゴロン
「……え?」
思わず、ミッテルトという堕天使が素っ頓狂に目を見開く。
それと同じようにカラワーナとドーナシークも思わずこけそうになったくらいだから
「な、なんだこれ……?」
三人の目の前には……未だにでんぐり返しを続ける長ランの人影だった。
「なにこれ? 酔っ払い?」
「……分からん」
「ていうか人間……だな」
三人も扱いに困っていた時だった。
「……ぷはぁ~」
「「「!?」」」
突然、その人影……少年は気持ち悪そうに急に立ち上がった。
「ふぅ~……前転で森を彷徨うのはやってみるもんじゃねえな……帰ったらマジ寝よ」
フラフラしながら、まるで酔っ払いみたいに気だるそうにしているが、目の前の人影が目に入った。
「?」
そして、その三人の黒い翼を確認すると、やる気のない表情が急に引き締まった。
「お~……気を探っても無いのに会っちまった……ラッキ~」
嫌らしく笑いながら拳をポキポキと鳴らす。
姓は鬼畜、名はカリフ
その厚き義侠の心により、親に仇成す者を探し続け
遂に見つけた。
さぁ、止めてみろ……
これはもう決闘ではない……
懲罰だ……