ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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悪魔初仕事

そこは何も無いただの廃墟

 

だが、そこには邪悪な気が一つ動いている。

 

これからその廃墟に住まうはぐれ悪魔の討伐へと足を運んでいる所だ。

 

「はぐれ悪魔、爵位持ちの悪魔に下僕としてもらった物が、主を裏切り、または主を殺して主なしとなる事件が極稀に起こる。まあ、簡単に言えば野良犬よ。野良犬は害を出す……見つけ出し、主人、もしくは他の悪魔が消滅させることとなっているのが悪魔のルール……これは、他の存在でも危険視されていて、天使や堕天使側もはぐれ悪魔がいたらみつけしだい殺すよう命じられてるの。今回はそれを討伐するよう、大公から依頼が来たそうだ」

「説明ありがとさん」

「あなたはもう少し勉強する態度を見せて頂戴」

 

カリフは廃墟に向かっていると、なにやらさっきまで威勢よく睨んでいたイッセーが少し落ちこんでいる。

 

なにやら忙しい奴だと思いながらイッセーに聞きに来る。

 

「なんだ、辛気臭いツラひっさげて」

「え? あ、あぁ、カリフか……いや、ちょっと朝のことを思い出して……」

「朝?」

「うん……あのさぁ……」

 

そこからイッセーは話していった。

 

今朝に出会った傷を治す神器を持ったシスターのこと、だがそのシスターとはもう関われないということ、そして、ついでにイッセーの神器も発動したということが分かった。

 

「ふーん……アーシアってのは別にいいけど、お前の神器と言う奴か……堕天使が恐れたくらいだ。いかほどのものか見てみたい所だ」

「……」

 

自分が死ぬ原因となったことを指摘されて若干落ち込むが、その直後にリアスが口を開いた。

 

「ほら、二人共。そろそろ気を引き締めて」

 

部長の声に俺たちは廃屋の中に入り込むと、小猫ちゃんとカリフが不意に言った。

 

「……血の匂い」

「気付いたか……しかもこの匂いの中に腐食しかかっている血の匂いも混じってるな……大体一ヶ月前くらいからいたのは確かだな」

 

血の匂いって……二人共嗅覚がいいのかな……でも、カリフって人間なんじゃあ……

 

制服の袖で鼻を覆う小猫ちゃんとカリフがつまらなさそうに腕を組んで帽子の隙間から鋭い眼光を光らせる。

 

……たしかにここはとんでもない殺意と敵意がハンパじゃないし、震えてる。マジで怖い……

 

「やれやれだぜ……」

 

そんな中でも堂々としている部長や仲間たちがとても頼もしい!

 

ていうかカリフって人間だよな? なんでそんな平気でいられるんだ……?

 

「イッセー、それにカリフ、いい機会だから悪魔としての戦いを経験しなさい」

「マ、マジっすか!? 俺、戦力になりませんよ!」

「つーかちゃんと戦わせろよ」

 

カリフは別のことを言ってるが、部長はそんなこと構わずに言う。

 

「イッセーは今回見てるだけでいいの。カリフも小猫や朱乃の力も見た方がいいと思って……」

「……少しだけだ」

「ええ」

 

部長の言葉に渋々と言った感じで引き下がる番長を確認すると、そのまま続けた。

 

「今日は悪魔の戦いをよく見ておきなさい。ついでに下僕の特性も説明してあげる」

「特性? 説明?」

「ほう? 初耳だ」

 

カリフも意外そうに目を見開いた。

 

「主となる悪魔は下僕に特性を授けるの。……そうね、悪魔の歴史まで遡るんだけど……」

「昔に堕天使、天使、悪魔の三勢力が三つ巴のドンパチしてたってのは聞いた……それに関係してるのだろう?」

 

カリフが静かにそう言うと部長は意外そうにしながらも首を縦に振った。

 

「鋭いわね。その通り、その戦でそれぞれの勢力は激減、純血悪魔も結構な数を失ったの」

 

すると、そこで朱乃さんが引き継いだ。

 

「その戦争は終わりましたが、堕天使と神との睨み合いは続いてます。いくら互いが危ういとしても少しでも隙を見せれば危ういほどなんです」

 

部長が再び続ける。

 

「そこで悪魔は少数精鋭の制度を取ったの。それが悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」

「イーヴィル・ピース……」

 

それからも話は続いた。

 

その制度は人間界のチェスをなぞらえた物であった。主が『王(キング)』であり、そこから『女王(クイーン)』、『騎士(ナイト)』、『戦車(ルーク)』、『僧侶(ビショップ)』、『兵士《ポーン》』の五つの特性がある。

 

軍団を持てなくなった代わりに少数の下僕に強大な力を分け与えたのが始まり。

 

そこでは自身のアピールと共に下僕の自慢も含めて爵位持ちの悪魔に好評だった。

 

悪魔の間ではそんな下僕同士を戦わせるのを『レーティングゲーム』と呼んでいるらしい。

 

「私はまだ成熟した悪魔ではないから公式試合には出場できないの」

「え? じゃあ木場たちも参加したことないのか?」

「うん。もっと先のことになるだろうしね」

 

そっか、悪魔の世界にも色々あるんだな……

 

そこで気になるのは俺の特性だった。

 

「部長、俺の駒、役割や特性ってなんですか?」

「そうね、イッセーは……」

 

そこまで言うと部長は止めた。

 

今の俺にでも分かる。さっきまでの殺意と敵意が濃くなったからだ。

 

「不味そうな臭いがするぞ? でも美味そうな臭いもするぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?」

 

聞いただけで分かる人ならざる声に頭が恐怖に支配されちまった……

 

「はぐれ悪魔バイサー。あなたを消滅しにきたわ」

 

部長は一切臆さずに響かせる。

 

ケタケタケタケタケタケタケタ……

 

異様な笑いに寒気が全身を奔った。

 

そして、暗がりの中からゆっくりと現れたのは上半身裸の女性だった。

 

だが、女性の巨大な獣の下半身を持ち合わせていた。

 

両手に槍らしい得物をそれぞれ一本ずつ持っている。

 

獣の部分は四足で全ての足が太い。それだけでなく鋭い爪、独立して動く蛇の尾、そして体も五メートルはありそうな巨体であった。

 

やべぇ怖い!!

 

「主のもとを逃げ、己の欲求を満たすだけに暴れ回るのは万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを消し飛ばしてあげる!」

「こざかしいぃぃぃぃ! その紅の髪のようにお前の身を鮮血で染め上げてやるうぅぅぅぅ!」

 

吼えるバケモノに部長たちは臆しない。

 

「雑魚ほど洒落のきいた台詞を吐くものね。祐斗!」

「はい!」

 

近くにいた木場が部長の命令で飛び出した。速すぎて反応できなかったぞ!

 

「二人共、さっきの続きをレクチャーするわ」

「さっきの特性……祐斗の速さか」

「そう。祐斗は騎士で特性はスピード。文字通り速くなるの」

 

部長に応えるように木場の姿がどんどん速くなって目で追い切れなくなった。

 

「そして最大の武器は剣」

 

その手にはいつの間にか西洋剣らしきものを握り締めていた。

 

バケモノの槍も掠らせもしない。

 

「次……か」

「え?」

 

カリフの一言に俺が尋ねようとした時、木場が鞘を剣から外して抜き身にする。

 

そして再び消えた瞬間、バケモノが悲鳴を響かせた。

 

「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

バケモノの両腕は槍と共に胴体から断罪されていた。傷口からの出血も激しい。

 

「これが祐斗の力。目では捉えきれない速力と、達人級の剣捌き、二つが合わさる事であの子は最速のナイトになれるの」

 

すると、バケモノの足元に小柄な人影……ってあれは小猫ちゃん!

 

「次の小猫の特性は……」

「小虫めぇぇぇぇっ!」

 

バケモノが小猫ちゃんを踏み潰しやがった!

 

ちょっと、これはヤバイ!

 

「~♪ なるほど、あれが小猫の特性か」

 

だが、隣のカリフは口笛を吹いて感嘆していた。

 

その先を見ると、バケモノの足を小猫ちゃんが持ち上げていた。

 

「戦車の特性はバカげた力と屈強な防御力。あれくらいじゃあ小猫は沈まないし、潰せないわ」

 

そして、小猫ちゃんは完全にバケモノの足をどかした。

 

「……吹っ飛べ」

 

小猫ちゃんは高くジャンプしてバケモノのどてっ腹に拳を打ち込んだ。

 

巨体が大きく吹っ飛んだのを見て思った。

 

小猫ちゃんには逆らわないようにしよう……

 

「最後に朱乃ね」

「はい部長。あらあら、どうしようかしら」

 

朱乃さんは依然としてうふふと笑いながら小猫ちゃんの一撃で倒れている元へ近づく。

 

「朱乃は女王。私の次に強い最強の者。兵士、騎士、僧侶、戦車の全ての力を備えた無敵の副部長よ」

「ぐぅぅぅぅぅ……」

 

バケモノが朱乃さんを睨めつけていると、朱乃さんは不敵に笑う。

 

「あらあら、まだ元気ですね? それならこれはどうでしょう?」

 

その時、朱乃さんが天に手をかざした刹那、天空が照り輝き、バケモノに雷が落ちた。

 

「ガガガッガッガガガガガッ!」

 

激しく感電させて焦げるバケモノ。

 

「あらあら、まだ元気そうね? ままだいけそうですわ」

 

再び雷がバケモノに直撃した。

 

「ギャァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 

断末魔を上げて感電するバケモノ。

 

だが、朱乃さんは再び雷を落とした。

 

「ぐああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

……やばい、この人冷徹な嘲笑を浮かべてるよ……

 

「うむ……人は十年で大分変わるものだな……まだまだヌルい! もっとやれ!!」

「はい!」

 

カリフの激励に朱乃さんは振り返って乙女のような可愛らしい笑顔で返してまた雷を落とす。それでいいのかお前は!?

 

「朱乃は魔力で雷や水、炎といった自然現象を起こして攻撃するの。そして究極のSよ」

「Sってレベルじゃないですよ! まだあんなになるまで……!」

「ああなったら興奮が終わるまで止めないわね」

「……怖いっす……朱乃さん」

 

そう話していると、朱乃さんは悦に浸った顔で攻撃を止めた。

 

「うふふ……まだまだ足りないけど、カリフくんもやりたがってるからここまでにしてあげる……」

「おい、もうそいつ怪しいぞ? 大丈夫か?」

 

カリフが焦げたバケモノの近くで覗くと、朱乃さんと小猫ちゃんがカリフに近付いてきた。

 

「うふふ……どうですか? 私たち強くなりましたわ」

「昔とはもう違う……今度は私たちが守るから……」

 

昔? 二人は昔に何かあったのかな?

 

そんな二人はカリフを優しく見守りながら続けた。

 

「貴方は人間です……今まで何してたか分かりませんが……」

「できるだけ関わらない方がいい……この前は人間だと甘く見てたから次はああはいかない」

 

朱乃さんはさっきの様子と一変して心配そうにカリフの目線にまで同じになる様に屈み、小猫ちゃんも強めに言いながらも心配そうに胸で手を握る。

 

……なにやら根深いことがありそうだね……あまり詮索しない方がいいのかな?

 

美女二人に心配されるカリフはというと……

 

「……だからお前等は強くなった……と言う訳か……」

 

物静かに呟いていた時だった。

 

「この虫けらどもがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「「!?」」

 

黒焦げになっていたバケモノが急に起き上がってカリフたちになにやら黒い球を口から形成させていた。

 

「魔力の弾!?」

「危ない! あれじゃあ直撃する!!」

 

部長と木場が慌てて駆けつけようとするが……

 

「止めい!」

「「「「「!!」」」」」

 

突然の大音量のカリフの声に全員の体が硬直させてしまう。

 

そして、カリフは臆することなく片手をバケモノに添えた。

 

その瞬間、カリフの手が一瞬消えたと思った時、バケモノが後方へと吹っ飛んだ。

 

「ゴバアァァァァァァァッァァァァァァ!!」

 

口から血ヘドを吐きながら廃屋の壁を貫いてしまった。

 

……今のって、カリフが……?

 

「ぶ、部長。何かしました?」

「い、いえ……祐斗は何か見た?」

「はい……カリフくんの手が消えた後にバイザーが血を吐いて飛んでいったとしか……」

 

俺たちだけでなく、朱乃さんと小猫ちゃんも一様に驚愕していた。

 

な、これって……

 

「その心がけは殊勝だと言っておこう……確かにオレには魔力などない人間さ……」

 

カリフは拳を握ったまま話を続けた。

 

「だが、代わりにこの腕力を育て続けた……戦いのため、約束を守るためでもある……」

 

カリフはポケットに手を突っ込んで二人に向き合った。

 

「オレは守られるために帰って来たんじゃない……それだけは忘れるな」

「……はい」

「……うん」

 

戒める様な声色に二人は居心地悪そうに沈んでしまったが、後にカリフはなぜか笑った。

 

「だが、お前たちもよく成長したな……」

 

その言葉に二人は再び顔を上げる。

 

「理由はどうあれ、あの時のガキがここまで成長した……それが見れただけでもここに来た意味があったと不覚にも思ったぞ」

「あ……」

 

そう言ってカリフはフっと比較的優しく笑いながら長ランをたなびかせて廃屋から出る。

 

「先に帰る……今日は中々いいものを見れたぞ……礼を言おう。リアス・グレモリー」

 

そう言いながら闇の中へと消えていった……最後の最後まで謎の多い奴だった……

 

朱乃さんと小猫ちゃんはどこか嬉しそうにしながら俺たちに顔を見られないようにしていた。

 

「……まさかあそこまでだったなんて……あの子なら……」

「部長?」

「……いえ、何でも無いわ。祐斗、バイザーは?」

 

部長は木場に尋ねると、いつの間にかバケモノに近付いていた木場は首を横に振った。

 

「だめですね。絶命してます」

「そう……」

 

あ、あのバケモノを一撃で……カリフってもしかしたらとんでもなく強いんじゃあ……

 

「今回は私の出番は無かったからまたいつか私の力も見せてあげるわね?」

「は、はい……でも部長」

「なに?」

「……俺の特性って一体……」

 

ここまで来ると嫌な予感しかしなかった。

 

人であるカリフがあそこまで強いってことは俺がここの中で最弱ってことだよな……それでも縋りたい気持ちがあったので聞いてみると……

 

「兵士よ。イッセーは兵士なの」

 

我が部長は微笑みながら俺をどん底へと突き落としたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

(悪魔になれば力の底上げも半端じゃないな……)

 

夜道を一人、カリフが歩く。

 

(クククク……あの弱っちかった奴らがあそこまで化けたのだ……これからはもっととんでもない奴が出るだろうよ……)

 

そう言いながらカリフはオカ研メンバーを思い出す。

 

(……時間が経ったら誰か一人……つまみ食い程度なら文句ないだろう)

 

これからの成長に胸を躍らせるのであった。

 

(強くなれ……そしてオレを快楽で一杯にしてくれ! そのためだけに強くなってくれさえすればいい……)


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