ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~   作:生まれ変わった人

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オーガとヴァルキリー

人類未踏の地と言えばいいのか……そんな地がこの地球上には幾らでもある。

 

例えば、狂暴な野生生物が住まう熱帯雨林の中……

 

動物も獰猛になり、なお且つ毒を持った動植物も珍しくない。

 

そして、生きるためにはその毒を喰らわねばならない時が必ず来る。

 

現地の人でも決して入ってから二度と出られないような場所も存在する。

 

“普通の人”ならば……

 

 

 

 

「腹減ったな……」

 

ある若者は呟いた。

 

誰も近付かないような密林の中で一人、ボロボロの布を纏った少年は呟いた。

 

風貌も異様ならば、今していることも充分異様である。

 

少年は今、狩りをして今しがた手に入れた。

 

全長十メートルもあろう丸太並のアナコンダを足だけで絞め殺して……

 

動かなくなったアナコンダの首に手刀を当てて皮一枚だけをはぎ取る。

 

そして、そこから全身の皮を剥いて桃色の肉が露出する。

 

「……そろそろ獣の相手も疲れたな……」

 

その肉にかぶりつき、骨の髄まで一噛み

 

「……北欧とやらに行くか」

 

少年・カリフ……八歳

 

未だ健在であった。

 

 

 

 

 

 

 

―――私は何もかもを失った……

 

―――母が殺され、父“だった”者から離れて私は身寄りを求めて探し回ったが、誰も私に見向きもしてくれなかった……

 

―――私が穢れた黒い羽を持っているから……

 

―――唯一の心の支えはあの日の写真……あの強かった子の姿が私に生きる活力を与えていた……

 

―――そして、そんな私に転機が訪れていた……

 

「あなた……行く場所が無いなら私の眷族にならない?」

「……あなたは?」

「私? 私は……」

 

―――この日、私は人の部分を完全に捨てた

 

「リアス……リアス・グレモリーよ」

 

 

 

 

 

北欧の地……そこの海岸沿いは穏やかな波が続いていた。

 

だからだろうか……その波とは別の飛沫が海の彼方から起こっていることがすぐに分かる。

 

それどころか飛沫というより津波……一際大きな津波が徐々に陸へと迫っていた。

 

「ぶはぁ! ぷはぁ!」

 

そして、その津波の発生点からはあどけなさが残る少年が……泳いでいた。

 

……随分とふざけた話だが、少年が一番体に負担のかかるバタフライでこちらへと向かってきている。

 

そして、着岸まで数十メートルまでに達した時だった。

 

「しゅっ!!」

 

一かきと共にバタフライの恰好のままイルカもビックリの特大ジャンプで以てそのまま高くジャンプして見事着岸した。

 

「ふぅ……舞空術で行くよりもちったぁマシか?」

 

この少年、カリフは二年を広大なアマゾンの中で生活し、先程になって北欧行き決めた。

 

二時間くらい前に

 

思い立ったら即行動のカリフはそのまま南米から北欧まで海の中でノンストップのバタフライ泳法を続けてきた。

 

……本当になにしているんだ?

 

カリフは耐水加工したバッグの中から服を取り出して着替える。

 

着替え終わると、岸壁の近くの道路に出て一人ごちた。

 

「……さて、どこ行こう」

 

ひとまずカリフは気の出所を探り、街と思われる場所の方角を向いて走った。

 

 

 

 

走ってから僅か三分の所に案の定、街があった。

 

そこからは美味そうな飯の匂いが漂い、カリフの脳を刺激する。

 

「……そういえば朝のアナコンダしか食ってなかったな……」

 

とりあえずは何か安くて美味い物が食べたい。

 

幸いにもアジアを横断した時、抗争中だったテロリストの駐屯場から色々と拝借してきて、金目のものならあった。

 

もちろん、その後に全て殲滅したのだが……

 

「北欧の名物は分からんな……とりあえずここにするか」

 

とりあえず、久方ぶりの人が調理した料理が食べたかったカリフは目の前の目に付いたレストランに入ろうとした時だった。

 

「……」

 

カリフは足を止めてどこか最果ての方向を見る。

 

「……妙な気だ……」

 

そう言いながらもレストランへと素早く入っていった。

 

 

 

 

 

 

カリフが気を察知した時、カリフから数百キロ先の地でたった今……爆発が起きた。

 

「くぅ!」

「大丈夫!? ロスヴァイセ!!」

「はい! なんとか!」

 

現在、何やら鎧とも見える恰好の少女たちが縦横無尽に爆発する野を駆けている。

 

そして、何も無い空間から幾つもの魔法陣が展開される。

 

「!! ロスヴァイセ! 追撃して!!」

「はい! フォローお願いします!!」

 

そう言うと、魔法陣から砲撃のような物が放たれてロスヴァイセと呼ばれる銀髪の女性へと向かってくるが、他の少女の魔法陣が盾となってそれらを防ぎ、次にロスヴァイセの魔法陣が展開される。

 

「この地に住まう精霊たちよ! 私に力を!」

 

その直後にロスヴァイセの魔法陣から夥しい量の閃光が飛び出し、その一つが魔法陣を破壊する。

 

そして、その他の閃光は各地にバラバラに散ったと思いきや各地に配置されていた不可視のトラップ魔法陣に当たる。

 

それと同時に魔法陣は次々に破壊され、野原には爆煙が充満していた。

 

その戦場のような光景に少女の一部が笑ってハイタッチをする。

 

「やった……! これでこのエリアのトラップを撃破……!」

「さっすがロスヴァイセ! 相変わらずの威力重視の魔法さまさまだね!」

「いえ、皆さんの補助があったからこその結果です。私は防御も探知系も苦手なんですから……それよりもまだ浮かれてはいけませんよ」

 

周りが喜ぶ中、ロスヴァイセだけが周りに戒めるように言うと、周りの少女からはブーイングの嵐に晒された。

 

「え~……いーじゃん別に~」

「こういう時くらい喜んでもバチは当たらないよー!」

「だから彼氏に捨てられるんだよー!」

「うるさいですよ! これが授業の一環だと忘れているでしょう!? それに今は彼氏関係無いじゃないですか~~!!」

 

急に涙目になって泣き崩れるロスヴァイセに周りがしまった的な表情に変わった。

 

「忘れてた……ロスヴァイセまた騙されて男に逃げられてたんだった……」

「この前は結構体育会系だと思ってたんだけど?」

「……あの性格だから多分、戦術とか魔術とかの話を延々繰り返して逃げられるのはデフォになってたわ」

「二人前の人は年上の人で……この前が年下の子じゃなかった?」

「あの子、勉強はできるんだけどそう言った男に対する勉強が……ねぇ?」

「というよりあの子、純情だから夢を見やすいのよ」

「「「なるほど~」」」

「うわあぁぁぁぁぁぁん!」

 

さらに泣き崩れるロスヴァイセに同僚の子たちは皆で励まし合う。

 

「まあまあ、今度は私の彼氏の男友達を紹介するから……」

「先輩たちにも協力を頼んであげるから。どんなのが好み?」

「グス……格好良くて、強くて、約束も守ってくれて、私を守ってくれるような勇者さま……」

「「「「お前より強い男はいない。諦めろ。この魔砲少女」」」」

「うわああぁぁぁぁぁぁん! 年下の子でもいいから~!」

「……もう付き合いきれない……」

 

学校面ではこれほどにない天才だと言われているのに、どこか要領の悪く、高望みをしている同僚に皆も同情を覚えている。

 

さっきまでの活躍もどこ吹く風か、同僚に慰められながら嗚咽を洩らしながら先へ進む。

 

それだから油断したのだろう……彼女たちは今が“授業中”だということを忘れていた。

 

突然、小川のほとりで密かにトラップ魔法陣が展開された。

 

それにいち早く気付いたのが少女の中の一人だった。

 

「皆!! トラップ!」

「「「「!?」」」」

 

だが、反応をするには既に遅く、魔法陣からの弾丸がグループに当たって爆発を起こした。

 

「あぁ!」

「きゃあ!」

「ぐっ!」

「わぁ!?」

 

弾丸自体にはそれほど威力は無く、ただの炸裂だけで怪我はなかったのだが、その中の一人だけは違った。

 

「いやあぁぁ!」

「ロスヴァイセ!!」

 

一番油断していたロスヴァイセが一番吹っ飛ばされて小川に放り込まれてしまった。

 

しかも、急な出来事だったから彼女は酸素が不十分のままだった。

 

故に、息継ぎが満足にできなかった。

 

「トラップを中止してください!!」

「ロスヴァイセ!! 泳いで!!」

 

同僚たちが流されるロスヴァイセを追いかけるが、ロスヴァイセはまともに声を上げることができない。

 

しかも、足まで攣ってしまって泳ぐこともできず、次第にもがく力さえも奪われていく。

 

(いや……)

 

心が折れそうになった時、ロスヴァイセは巨大な水流の中に飲み込まれた。

 

「ロスヴァイセぇ!」

 

同僚の声も空しく、一人の戦乙女の体は沈んでいく。

 

「がぼっ!…ごぼごぼ……」

 

やがては水まで飲み込んでしまい、寒さに体力も限界を迎えようとしていた。

 

(やだ……まだ彼氏も……運命の人にも出会ってないのに……)

 

朦朧とする意識の中、今までの後悔が頭の中に流れ込んでくる。

 

(もし、勇者さまがいたなら助けてく……れる……の…に……)

 

口から大量の空気が漏れて肺に水が溜まっていく。

 

少女の体は冷たく、力が抜けてくる。

 

生きるためにもがいていた体も言うことが聞かなくなってきた……

 

(たす……け……)

 

彼女は最後の力を振り絞って手を伸ばした。

 

その時だった。

 

 

 

 

 

誰かが彼女の手を掴んでいた。

 

そして、その力強い手はしっかりと離さないように彼女の手を握りしめて一気に引き上げる。

 

そして、次の瞬間、彼女は日の光の下に出た。

 

「けほ……!」

 

ロスヴァイセは少量の水を吐き出すも、動ける様な状態ではない。

 

それでも彼女の体は水には落ちない。

 

それどころか浮遊感と包容感が彼女の体を包みこんでいた。

 

朦朧としながらも彼女は荒い息使いのまま目を開ける……

 

すると、そこには人影があった。

 

日の光で顔は見えないけど確かに、今こうして自分を抱いてくれている。

 

「はぁー……はぁー……」

 

自分の呼吸音しか聞こえない。

 

だが、自分を抱きとめている人が自分に呼びかけているのが何となく分かった。

 

極限の疲労感の中に、包まれている暖かさを感じ、思わず口にしていた。

 

「勇……者さ……ま……」

 

その言葉を機にロスヴァイセは気絶したのだった。

 

 

 

 

レストランを出てカリフは憤慨していた。

 

値段の割に量が少なかったから。

 

ほとんどイラつきを抑える感じで先程感じた気を頼りに舞空術でそちらに向かう。

 

上空から気の持ち主を探していると、そこで小川を発見した。

 

カリフの腹の虫が鳴ったから降りて魚でも捕まえようと思い、小川の中に入った。

 

そして、そのまま水に浸かって熊のように魚を取っていると笑いが止まらない。

 

だが、そこで何やら魚にしては大きく、しかも小さくなっていく気を察知してその気を好奇心で辿る。

 

そして、川の深い場所でその正体を拾い上げると……

 

「……なにこいつ?」

 

なにやら銀髪の女が釣れた。

 

途中まで起きていた女は途中で意味不明なことを言って気を失ってしまった。

 

「……戻した方がいいか」

 

さすがのカリフもこれには虚を突かれ、再び水に沈めようかと思ったのだが、また別の所から大人数の気を察知した。

 

しかも、その気の一つ一つが普通の人間とは異なっていた。

 

動きを止めたカリフはグッタリとする少女を腕で抱きかかえて動きを止めた。

 

「これが……お約束って奴か?」

 

森の中で少年の声が木霊した。

 

このことが彼にとって辟易か、それとも喜ぶべきことなのか。

 

そう思うのは今後の彼次第


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