理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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九十六話 上空での決戦

 もはやピンチ。そんな状態のネギに、無情にもロボ軍団は攻撃をやめるなどしなかった。むしろ敵を倒すチャンスとして、複数のロボがネギへと攻撃を仕掛けてきたのである。万事休すか。ネギは必死に杖へと登ろうとするが、それが終わる前に敵の攻撃が自分へと命中することを感じていた。もう駄目なのかと、一瞬諦めかけた時、何かがロボの攻撃を防ぎ、周りのロボを破壊したのだ。

 

 

「この程度の雑魚相手にだらしないで! ネギ!」

 

「コ、コタロー君!?」

 

 

 ネギがロボの爆破音を聞き周りを見渡せば、そこには見知った少年が浮いていた。影を足元で凝縮回転させる浮遊術を使い、空中で立ちつくしていた。その少年は小太郎だった。小太郎はこんな雑魚(ロボ)程度を相手に苦戦しているネギに、情けないと叱咤していた。ただ、その表情は怒りではなく穏やかであり、余裕がある様子であった。

 

 まさかここに来て小太郎が現れるとはネギも思っていなかったようで、驚きの声を出していた。そして、ネギはとりあえず姿勢を戻し安定させると、さらに別の場所からロボの爆破音が聞こえたのである。

 

 翼で羽ばたく音と同時に、研ぎ澄まされた刃での鋭い斬撃。荒波のように押し寄せるロボが、瞬間的に切り裂かれ、爆発した音だった。

 

 また、鉄を切り裂く音はひとつだけではなかった。先ほどの斬撃より鋭さに欠けるが、力強く風を切る音だった。風とともに切り裂かれたロボは、二~三等分に切り裂かれ、その場で爆発して四散した。

 

 さらに、このタイミングで麻帆良祭で行われる花火が打ちあがり、夜空を照らしていた。そのおかげで爆発は花火に紛れ、一般人からはカモフラージュされていたのである。

 

 

「……待ちくたびれたヨ、せつなサン、明日菜サン!」

 

「間に合いましたね」

 

「一時はどーなるかと思ったけどね」

 

 

 なんとその音の方向には、アスナと刹那が居たのだ。だが、その方向を見ずに、超は二人の名を当てたのだ。まるでここへ二人が来ることを知っていたかのように、待っていたかのように、超は二人の名を呼んでいた。

 

 刹那はビフォアの儀式発動前にこの場に来れたことに、安堵の笑みを浮かべながら白い翼をはためかせ、空に浮かんでいた。その近くで飛翔しながら、ロボ軍団を切り裂くアスナも、刹那と同じく余裕ある表情をしていた。ただ、ビフォアにやられた時は、流石に危うかったと言葉にしていたのだった。

 

 しかし、アスナは刹那のような翼がなければ、ネギのような飛行魔法が使えない、超のような浮遊する装備もない。そのため、虚空瞬動にて空中を飛び回らなければならず、空中で停止していることはできなかったようだ。

 

 そこで、さらに別の場所からも爆発音が聞こえてきた。一切音のない不可視なる攻撃。いや、それは特別なものしか見ることのできない力。その力を操るその少女は、美しく空を舞い、踊るようにしてロボを破壊していたのである。

 

 

「ウチもおるえ?」

 

「こ、このかさんまで!」

 

 

 その少女はなんと木乃香だった。木乃香のO.S(オーバーソウル)は白い翼をモチーフにした白烏。翼という形状ゆえに、飛行することが可能だったのである。木乃香は自分もこの場で戦っていることをアピールするように、周りのロボを破壊していた。そして、気がついたネギの横へやってきて、ニコリと笑って見せたのだった。ただ、ネギは木乃香まで来ているとは思っていなかったようで、若干の戸惑いを感じていたのであった。

 

 いや、だがそれだけではない。なんと突然美しい装飾が施された槍や剣などの武器が、大量に空に放たれていた。その武器たちは、まるで暴風雨のようにロボ軍団へと突き刺さり、粉々に砕いていったのである。

 

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)!!!」

 

「これはまさか……!?」

 

 

 それは紛れもなくヤツの技だった。その最古の英雄王が世界の財を集め、それを宝庫から放つ技、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)。その真名を高らかに発する少年が、黄金の船に乗りながら空を自由に優雅に飛んでいた。

 

 ネギはこの攻撃をどこかで見たことがあった。この技で窮地を救われていた。そうだ、これは、まさか。そう思いながら、黄金の船に腕を組んで仁王立ちする少年を、驚きながらも目にしたのだ。

 

 

「よッ!」

 

「兄さん!? それとなんですか、その黄金の船は!?」

 

 

 当然その少年こそ、ネギの兄(てんせいしゃ)のカギだった。カギはマルクを倒した後、すぐさまここへ駆けつけるため、真名や楓と別れ、この黄金の船に乗り込んだのである。上空ではロボの大群が待ち構えていることを覚えていたので、それを倒すためにやってきたのだ。

 

 ――――この黄金の船はヴィマーナと呼ばれるものである。これも王の財宝の中に眠る、ひとつの宝具なのだ。空を飛ぶことができるこのヴィマーナなら、魔力や体力を消耗せずに、簡単に上空へ飛ぶことができるというものだった。

 

 また、アスナがこの上空までやってこれたのも、この船のおかげだった。アスナは空を飛べなかったので、カギが用意したこの空を飛ぶ船に乗り込んできたのだ。いや、この場に居る全員、このヴィマーナに乗って体力を温存し、この上空で暴れまわっていたのである。

 

 そしてカギはネギと視線が会うと、軽快な挨拶を行なった。しかし、ネギが一番気になっていたのは、カギが乗る黄金の船だ。一体どこからそんなものが出てきたのか、非常に気になったのである。だからカギがこの場にいることより、黄金の船が何なのかをカギに質問していたのだった。そんなネギの後ろで、派手だがどんな機構で浮いているのかと考える超の姿もあった。

 

 

「はっ、俺の財に不可能はない!」

 

「え? はあ……」

 

 

 だが、ネギの質問にカギは、堂々とした態度で、答えになっていない答えを言葉にしていた。それは一体何なのかと聞かれているのに、自分の持ち物に存在しないものはない、出来ない事はないと答えたのである。そう言うことが聞きたかったわけではないネギは、少し呆れた表情で、生返事を返すのが精一杯だったのであった。

 

 

「あのー、私が居る必要あるのかなー?」

 

 

 そして、みんなから少し離れた場所で、杖にまたがり空を飛ぶ少女が一人、まるで取り残されたかのように、ポツリと存在した。それは美空だった。美空はアスナや刹那がこの場所へと行くということで、勢いに釣られてついてきてしまったのだ。

 

 ただ、周りが人外過ぎる戦闘を行う中、臆病な美空は、自分がここに居る意味がないのではないかと、悲しい疑念を感じていた。まあ、戦力は多いほうがいいので、美空もいないほうが良いという訳ではないだろう。しかし、そこで美空が戦う意思を見せなくとも、周りが勝手にロボ軍団を破壊しつくすだけである。

 

 また、このイベントの内容を知る転生者たちも、ここぞと現れた。空を飛べる転生者に限られたが、ソコソコの人数が集ったようだった。どいつもこいつも好き勝手にロボ軍団を破壊しながら、思い思いにこの状況をかみ締めていた。ロボの中に茶々丸の姉妹機がいないことに愚痴るもの。神から貰った特典を久々に使い、喜ぶもの。普段は抑制してきた高い力を解放し、暴れるもの。さらには超がこの場でネギの仲間になっていることに驚くものもいた。しかし、誰もがこの麻帆良を守ろうと戦っていたのである。

 

 

「ネギ先生、ビフォアは強大です……。覇王さんの話どおり、私とアスナさんと二人がかりでさえ、歯が立ちませんでした……」

 

「それほどですか……」

 

 

 刹那はネギへと近寄り、ビフォアがいかに強いかを話し、忠告していた。アルスとタカミチが二人がかりで敗北し、さらには自分とアスナ二人で挑んだのにも関わらず、ダメージすら与えられなかったのだ。それほどの強敵であるビフォアは、かなり危険な存在だということを、刹那はネギに伝えておきたかったのである。

 

 ネギも刹那の話しに、予想以上だと感じていた。麻帆良武道会でアスナと刹那が戦っていたのを見ていたネギは、その二人が同時にビフォアへ戦いを挑んで敗北するなど、予想できるものではなかった。だからこそネギは、声こそ低く静かだったが、内心戦慄していやな汗をかいていたのだった。

 

 また、それを聞いた超も、同じ気持ちを感じていた。超もカシオペア防衛のために一度ビフォアと対峙している。だが、ビフォアの謎の能力により、あっけなく負けてしまったのだ。今はビフォアの能力も種明かしがされ、大体理解出来てはいたが、それを突破することは非常に困難とも考えていた。実際ビフォアの能力は完璧であり、容易に突破など出来ないのだ。

 

 

「だが、俺よりはチャンスがあるはずだぜ?」

 

「……ですね」

 

 

 しかし、そこへカギがネギを激励するかのように、自分よりは勝ち目があると言葉にしていた。ネギにも転生者という言葉を隠しつつ、やんわりとビフォアの能力を話してあった。そして、それによりカギではビフォアに勝てないことも話してあったのだ。それゆえカギは悔しさを感じていたが、それでもネギならチャンスがあるとも考え、お前なら出来るとネギを応援したのだ。

 

 ネギもカギがビフォアに勝てないことを知っていたので、カギの今の言葉がどういう心境で出てきたのかを理解できた。そして、カギの分までビフォアに勝たなければならないと、気を引き締め勇気が湧いたのである。もはや迷いはない、ただ、ビフォアを倒すことを考えるのみだ。

 

 それは超とて同じことだ。たとえビフォアに勝ち目が99%無くとも、1%あれば戦うのみ。ビフォアを倒さなければ麻帆良に未来などないのだから。さらに、ここで未来での因縁の決着をつけようと、闘志を燃やしていた。超はそんな闘志を燃やす自分をらしくないと感じながらも、それでも志気は湧き上がる一方だった。

 

 

「ところでその本人はどこかしら……?」

 

「下で戦っとるよーやね。何か引っかかることがあるんやって」

 

「そう……」

 

 

 そこで、ビフォアの能力を説明したはずの覇王がこの場にいないことに、アスナは疑問を感じたようだ。一体どこで何をしているのだろうかと、言葉がもれてしまっていた。その言葉に木乃香が反応し、覇王なら地上で今も戦っていることを、アスナへと話したのだ。また、その理由としては、何か気になることがあると、付け加えていた。

 

 覇王は未だに登場しない鬼神の存在が気がかりだった。だから上空のロボは木乃香たちに任せ、地上に残って戦っているのである。木乃香の話を聞いたアスナも、それなら納得だと小さく返事をしていた。いれば戦いが楽になるが、地上が手薄になるのも危険だと、アスナも考えたようだった。

 

 ただ、それだけの理由で覇王が上空に来ない訳ではない。覇王の本気、それはO.S(オーバーソウル)S.O.F(スピリット・オブ・ファイア)黒雛だ。その最大火力は鬼火だ。それを上空に浮かぶ飛行船を向ければ、簡単に破壊できるだろう。

 

 だが、それだけだ。術式もビフォアも倒せない。それではなんの意味もないし、むしろ仲間をまき沿いにしかねない。燕返しも使えるが、ビフォアには有効ではない。ならば、地上で鬼神を迎え撃つのが最善だと、そう覇王は考えていたのである。

 

 

「ここは俺達に任しとけ」

 

「そういうこった! んで野郎の顔を歪ませて来い!」

 

 

 ここは任せて先に行け、小太郎はそう自信を持ってはっきりと言った。この程度の相手など、気にならないと言いたげに、先に急ぐようネギへと言った。カギも同じ考えだったようで、小太郎の言葉に同意していた。さらに、自分は殴ることの出来ないビフォアの顔面を、殴り飛ばして来いとネギを激励したのである。

 

 

「応援しとるえー!」

 

「気をつけてください、二人とも!」

 

「とりあえず、ガツンと一発殴っておいて!」

 

 

 木乃香は普段と変わらずふわふわとした物言いで、ネギたちを応援していた。こんな状況にもかかわらず、普段どおりニコニコしながら手を振っていたのだ。しかし、そんな暖かな応援だからこそ、緊張がほぐれると言うものだろう。ネギは木乃香のゆるい応援で、自然と柔らかな笑みを浮かべていた。

 

 続いて刹那は気をつけるよう二人へ言葉を述べていた。。自分たちではかなわなかったビフォアを、あの二人が倒せるかはわからない。だが、なんとしてでもビフォアを倒さなければならないのには変わりない。だから、そんな安直な言葉しか出なかったが、二人を心配ながらも勝って欲しいと願っていた。

 

 アスナも同じく、二人へ叫んでいた。自分はビフォアに何度か挑んだ。それでも傷一つつけることすら出来なかった。ビフォアの能力がなんであれ、アスナにとって非常に屈辱的なことだった。ゆえに、自分の分までビフォアを殴って欲しいと、一発ぐらい当てて来いと叫んでいたのだ。

 

 

「行くヨネギ坊主! ビフォアはあそこネ!」

 

「はい!」

 

 

 そして、再びビフォアの居る飛行船へと、超は飛び始めていた。ネギへと先を急ぐよう叫びながら、今度こそ逃がすまいと、超はグングン加速して行った。ネギも超の言葉に勢いよく返事し、同じように加速していった。再度覚悟を決め、ビフォアを倒すと心に決め、飛行船を目指したのである。

 

 

…… …… ……

 

 

 飛行船の真上、その中央に巨大な魔方陣が展開されていた。その真ん中に、ビフォアが両腕を広げて立っていたのである。儀式はもう完遂間近、ビフォアは野望達成に近づいていく今を、愉快な気分で感じていた。

 

 

「時は来た! ついにこの俺が、この麻帆良を支配する時が来たのだ!!」

 

 

 もうすぐ麻帆良は自分のものとなる。まだ計画は完遂されてはいないのにもかかわらず、すでに達成感を感じていたビフォア。その欲望めいた感情が、空気の振動となって表へと発せられていた。もうすぐ待ち望んだ瞬間がやってくると考えただけで、ビフォアの顔はニヤニヤと薄ら笑いを浮かべてしまう様子だった。

 

 

「さて、そちらは順調かね?」

 

「クッククックックックク、ジュンチョーですよォ、ビフォアさんよォ」

 

 

 一人闇に染まった空へと目掛け、演説を終えたビフォアは、クルリと後ろを向き少し痩せた感じの白衣の男へと、計画の進行状況を聞いたのだ。すると白衣の男も不気味に笑いつつ、問題がないことを告げ始めた。

 

 ――――――その白衣の男もまた転生者で、ビフォアの協力者でもあった。そう、この白衣の男こそ、ビフォアの科学技術を支える存在だったのだ。地下の工場からロボ軍団を作り出したのも、全てこの白衣の男なのである。

 

 

「地上12箇所の聖地および、月との同期はすでに終わってィるゥ! もう最終段階さァ!」

 

「そうか、ならば始めろ!」

 

「ヒヒッ、お任せあれェ!!」

 

 

 そして、すでに計画の準備はほぼ整っていた。後は最後の仕上げを行うだけ。白衣の男はそう愉快そうに述べていた。その言葉に満足そうな表情をするビフォアは、ならば最後の仕上げを始めろと白衣の男へと命じたのだ。白衣の男は待っていたといわんばかりの恐ろしい笑みを浮かべ、最後の仕事を始めようとしたのである。

 

 

「……来たようだな」

 

「何ィ?」

 

 

 しかし、ビフォアは突然独り言を小さく言葉にした後、ビフォアは何か不審な気配を感じ取ったのか、周りを見渡すように歩き始めていた。突然のビフォアの言葉に、白衣の男は聞き返していた。一体何が来たのか、どうしたのだろうかと思ったのだ。すると飛行船の腹のすぐ横で、空中を浮遊する二つの人影をビフォアは見た。それは少女と少年の影だった。

 

 

「ビフォア、お前の野望はここで終わりネ!」

 

「麻帆良を乗っ取ろうなんて、絶対にさせません!」

 

 

 その影は、やはり超とネギだった。超とネギはビフォアへ指を指し、宣戦布告の言葉を叫んでいた。全てのケリをここでつけるため、麻帆良を守るため、二人はとうとうビフォアの目の前までやってこれたのだ。

 

 

「ハッハッハッハッハッ、お前からそのような言葉が聞けるとは思わなかったぞ! 超とやら!」

 

「何?」

 

 

 その二人の宣言を、大笑いをしながら受け止めるビフォア。ビフォアは超が放った言葉が面白かったようで、腹を抱えて笑い出したのだ。そんなふざけた態度のビフォアに苛立ちを覚え、さらに鋭く睨みつける超だった。

 

 

「本来ならば、この儀式自体貴様がやるべきことだったのだ。それを俺が変わりにやっているのだから感謝してほしいものだな!」

 

「……どういうことダ……」

 

 

 何が面白かったのか。それは本来(げんさく)ならば、この儀式を行うのは超だったからだ。なのに、ここでは超がその儀式の邪魔をしに来ている。原作知識を持つビフォアには、それがおかしくてたまらなかったのだ。そのことを超に嘲笑うように話すと、超は難しい顔をして、どういうことなのかとビフォアへ聞き返したのである。

 

 

「貴様に説明するには平行世界と言う言葉を使えばわかるだろう? そこではこの儀式、ひいてはロボの軍団を用いて貴様が麻帆良に混乱を齎したのだ」

 

「……それで、どうなたネ」

 

 

 超の質問に、ビフォアは超にわかるよう説明を始めた。別の世界、平行世界では、この儀式ひいては麻帆良の混乱は、超が行なうものだと話したのだ。実際はビフォアが前世で見た漫画の内容でしかないが、平行世界というものは存在するならば、間違っては居ないだろう。

 

 そこでその話を聞いた超は、何かを深く考える様子を見せながら、自分がやったという儀式は成功したのかどうかを、再びビフォアへ質問していた。ここで普通ならば、こちらを惑わそうとしていると考え切り捨てるだろうが、超は別だった。この作戦を自分で行ったならば、最後にどうなったのかが気になったのである。

 

 

「そこの少年に負け、残念ながら計画は完遂出来なかったのだよ。いや、本当に残念だ」

 

「……そうカ」

 

「それはどういうことなんですか!?」

 

 

 その超の質問にもビフォアは答えた。あざ笑うような表情で、そこの少年、つまりネギに敗北し、計画は失敗したことを告げたのだ。超はビフォアのその話を信じたようで、ネギに敗北し計画を阻止されたことを受け止めていたようだ。ただ、ネギにはこの話がよく理解できていなかったらしく、一体どういうことなのかと超へ叫んでいたのだ。

 

 

「ここと同じようで違う世界では、私が魔法の存在を世界に知らしめようとしたと言うことネ……」

 

「え? でも超さんは悪いことをしてませんよね?」

 

「この世界での私は、ネ」

 

 

 超は静かに語りかけるように、ネギの質問を答えだした。自分が今存在する世界とは別の世界が存在し、その別の世界では自分がビフォアに変わってこの計画を進めていたのだと、ネギへわかるよう説明したのだ。そこでネギは、超はまったく悪いことをしていないと疑問を感じたようで、超もこの世界では、と付け加えた。

 

 

「ふん、多少貴様自身にも、思い当たる節ぐらいあるだろう」

 

「……どうカナ? ここの世界の私は、お前の知る私ではないんダロ? なら、それもない可能性もあるんじゃないカナ?」

 

「……どうやらこの世界は”神”が言うように、色々なことで狂ってしまっているらしいな」

 

 

 ビフォアは超へ、世界に魔法をバラす心当たりがあるのではないかと、言葉にした。”原作”での超は、未来での悲劇を回避するべく、世界中に魔法をばらそうとしていたからだ。

 

 そこで超は一体どういう考えで、別の自分が魔法を世界にバラそうと思ったのだろうかと考えた。そして、それは未来人が過去を改変するに等しい行為だということも理解した。どうして、何故、自分はどうだっただろうか。自分が住む未来とは違うのだろうか。そして、エリックに会わなければどうなっていただろうか。エヴァンジェリンに会って杖を貰わなかったらどうなっていただろうか。そう考えた。

 

 だが結論は出なかった。だったら答えは簡単だ。()()()()()()()()()()()()()()とは違う。それでいいじゃないか。そう超は結論付け、強気でビフォアに話したのだ。

 

 ビフォアもまた、未来から来た転生者だ。未来がどんな状況になっているかはわかっていた。そして、それが自分の知る”原作の未来”とは異なることも知っていた。ゆえに、”転生神(かみ)”から聞いた”原作とは別物”と言う言葉を思い出して苦虫をかんだような表情をしていたのだった。

 

 

「……神?」

 

「貴様らには関係ないことだ。貴様らはここで、この俺に敗北するのだからな!」

 

 

 神、その言葉に超もネギも反応した。神とは何なのか。ビフォアの想像の存在なのだろうかと。しかし、ビフォアはそれは教える必要などないと切捨て、超とネギでは自分に勝てぬと豪語したのだ。

 

 

「クヒヒックックッ、戦いは任せたョォ。私は戦いが嫌いでねェ、野蛮なことはしたくなィんだ」

 

「わかっている。貴様はさっさと儀式を完成させろ」

 

「喜んでェー……!」

 

 

 そのビフォアの後ろで歪んだ表情でおかしな笑いをする白衣の男。この男は科学者としての能力を得たがゆえに、戦闘能力を一切持たなかった。また、本人も戦いを好まず、ただ研究がしたいだけの男だった。だから白衣の男はビフォアに、戦いは一人で任せると断りの言葉を述べていたのだ。

 

 ビフォアもそんなことは雇ったときからわかっていた。むしろ、そんなことを言う前に儀式を始めろと、体と目は超とネギへ向けつつ白衣の男へと命令していた。白衣の男もその命令を、笑いつつ承諾し、詠唱に入ったのである。

 

 

「では消えてもらうぞ!」

 

「来るネ!」

 

「わかっています!」

 

 

 消えてもらうぞ。その言葉を威圧的に放ち、ビフォアは戦闘態勢へと移行していく。それを見た超やネギも、飛行船へと移り戦闘態勢を取っていた。数秒が数分に感じられるほどの緊張感。どちらも対峙したまま動かずにいたが、先に動いたのはビフォアだった。

 

 

「くたばれ!」

 

「”連弾! 光の9矢”!」

 

「ぬっ!?」

 

 

 すさまじい速度で移動するビフォア。ビフォアはパワードスーツにより、常人の数倍の力を発揮することが出来る。さらに”戦いの旋律”という魔法により、身体能力をも上昇させているのだ。まるで暴風のように移動するビフォアへと、ネギは的確に魔法の射手を放っていた。しかし、その魔法の射手は囮であり、本命は超の行動だったのだ。

 

 

「ふん、そっちか!!」

 

「クッ!」

 

 

 そう、超の狙いは儀式を行っている白衣の男だった。白衣の男を拘束、もしくは倒せれば、儀式を中止させることが出来るからだ。だが、そう簡単にうまく行くはずもない。すぐさまそれに気がついたビフォアが、即座に超の目の前までやって来て白衣の男の防衛に回ったのだ。やはりビフォアの特典は無敵、いかなる状況でもネギと超の先手を行くことが可能なビフォアを、欺いて白衣の男を倒すことはかなり厳しかったようだ。

 

 

「おィおィ……、しっかり守護(まも)ってくれよォ?」

 

「わかっておるわ」

 

 

 不安がる様子も無く、されどビフォアへと文句をたれる白衣の男。白衣の男は戦う力がないので、ビフォアに守ってもらうしかないのだ。それにどの道儀式中は無防備、動くことすら不可能なのである。そんなことは言われずともわかっていると、ビフォアは当然だという風に、白衣の男へ理解している趣旨を述べていた。

 

 

「儀式を行うヤツを狙ったようだが、俺が居る限り無駄なことだぞ!」

 

 

 そしてビフォアは、超とネギへと儀式を行っている白衣の男への攻撃は全て自分が防ぐと宣言していた。当たり前のことだが、ビフォアはそれを完遂するだろう。そんなビフォアを冷静に、だが少し悔しそうに、二人は目を鋭く光らせていた。

 

 

「後言っておくが、この飛行船を破壊したとしても、特に儀式に影響はないことも話しておこう」

 

「……やはり、ビフォアを倒さないと儀式を中断させられないネ……」

 

「そうですね……」

 

 

 さらにビフォアは付け加えるように、この飛行船を破壊しても儀式は続行されることをネギと超に話したのだ。魔方陣さえ消えなければ問題は無い。だから魔方陣にもある程度細工がされているのだ。また、この儀式はその形式上必ず屋外で行なわなければならない。ただ、屋外ならどこでも良いので、飛行船を土台にしておく必要はないのだ。

 

 しかも、ビフォアも白衣の男も飛行する手段をあらかじめ用意してあるので、たとえ飛行船が破壊されたとしても、問題などまったくないという訳だった。つまるところ、この儀式を止めたければビフォアを倒すしかないと言うことだ。また、ビフォアは自分が敗北しない、絶対に勝利できる自身があるということだ。だからこそ、超もネギも、さらに気を引き締めて、ビフォアを倒すしかないことを受け止めていたのだった。

 

 

「ならば倒すだけヨ!」

 

「はい!」

 

「それは貴様らには不可能だ!!」

 

 

 しかし、ビフォアを倒さなければならないのは変わりはない。そうだ、倒せばいい。倒すしかない。超とネギは、お前を倒すと宣言し、ビフォアへと攻撃を開始したのだ。そんな二人を見下し、不可能だと嘲笑うビフォア。ビフォアには神から貰った特典がある。それのおかげで、コレほどまでに余裕を保っていられるのだ。

 

 

「そこネ!」

 

「当たらぬわ!」

 

 

 まず超がすばやくビフォアへと近づき、右腕を突きたてた。超もビフォアとは違うものの、パワードスーツを装備しているので、魔力のブーストが無くとも人間離れした動きが可能なのである。だが、その程度の攻撃などビフォアには当たらない。ビフォアは最小の行動で超の攻撃を回避し、超へとカウンターを仕掛けようとしていた。

 

 

「こっちです!」

 

「何!? グッ!」

 

 

 しかし、ビフォアは超へ攻撃できず、ネギの攻撃を防御することになった。なぜかと言うと、突如ネギがビフォアの左側へと現れ魔法を放ってきたからだ。これには流石のビフォアも対応しきれず、とっさに防御をした形となっていた。

 

 

「ハァ!」

 

「チィィッ!!」

 

 

 その防御したビフォアへとすかさず肘打ちを打ち込む超。ビフォアが防御で動きが止まった隙をついた形となった。それでもビフォアの特典は強力であり、一瞬の差でその肘打ちはビフォアに命中しなかったのである。

 

 

「”連弾! 光の10矢”!!」

 

「なっ!? グウゥ!!」

 

 

 そこでまたしても、ネギが魔法の射手を放ってきていた。なんと今度はビフォアの真後ろへと瞬間的に移動し、攻撃したのである。流石のビフォアも回避運動中での背後からの攻撃は完全に回避できなかったようで、ネギの魔法の射手をかする形となってしまったのだ。

 

 まさか、まさかこの様な輩に最高傑作のパワードスーツに傷をつけられるなどと、ビフォアは思ってもいなかった。いや、確実に有利な立ち回りが可能な能力を持っているのにもかかわらず、この二人に若干押され始めていることの方がショックが大きかったようだ。だから非常に驚き、どうなっているのかを考え始めていた。

 

 

「どしたネ! 遅れてきてるヨ!」

 

「ほざく……なぁ……!?」

 

 

 押し始めていることを受けて、超はビフォアを挑発した。このまま押し切れるかもしれないと、そう考えたからだ。それだけではない。ビフォアを挑発することで、冷静さを失わせようという魂胆だったのである。ビフォアも謎の攻撃で多少焦りを感じていたのか、普段の余裕があまりなく、その挑発に少し乗ってしまったようだ。

 

 その隙をつき、超は瞬間的にビフォアの背後へと移動し、掌底突きを放ったのだ。その一撃はビフォアの背中を捉え、ビフォアはパワードスーツにヒビを入れられそのまま吹き飛ばされていた。なんということだろうか。ついに、ビフォアにしっかりとした一撃を入れたのである。誰もがなしえなかったことを、超はようやくやってのけたのである。

 

 

「馬鹿な……貴様らまさか……」

 

「どうだ! 僕らのコンビネーションは!」

 

「即席ダガ、結構うまくいくものだネ!」

 

 

 その一撃は間違えなく二人のコンビネーションによるものであった。流石のビフォアも多少なりに効いたらしく、フラフラと立ち上がり、そのコンビネーションに驚きを隠せてはいなかった。何せ超もネギも、この土壇場でこのようなコンビネーションを行っていたのだ。いやはや、流石は血族と言ったところなのだろう。その絶妙なコンビネーションを誇るように、二人はビフォアへと人差し指を指し、強気の姿勢を見せていた。

 

 

「ぐぐ……、カシオペアを用いた時間差攻撃……と言う訳か」

 

「お前が返してくれたおかげヨ! 感謝してるネ!」

 

 

 そして、そのコンビネーションの鍵となっていたのは、あのカシオペアだった。カシオペアは超が作ったものだ。二台目があってもおかしくはないだろう。最初のひとつをネギへと貸し、改良したものを超がスーツに搭載していたのだ。

 

 また、ネギもカシオペアを予知の魔法と小道具を動かす魔法でしっかりと操っていた。最初に開発されたカシオペアは、手動で動かす単純な構造である。超が使っている改良型は、AIが組み込まれており、思った時に操作を自動的に行なってくれるようになっていた。だが、初期型はそうではない。ゆえに、ネギは予知と小道具を動かす魔法を用いて、カシオペアを手足のように操っていたのである。

 

 そう、二人が考え出した対ビフォア用の戦法は、カシオペアによる時間操作でビフォアの隙をつく作戦だったのだ。あのビフォアですら、時間停止や逆行を行った攻撃に対応するのは難しかった。何せビフォアの特典、”原作キャラへの有利な立ち回り”は、”有利に立ち回れる”と言う保険であり、絶対防御ではないからだ。ああ、だがしかし、この一撃がビフォアを本気にさせたのだった。

 

 

「チィ、ならばこちらも本気を出さざるをえんか」

 

「なっ!? 今まで本気じゃなかったなんて!?」

 

「ああ、その通りだ。貴様らには不要と思い、通常モードで戦っていたのだが……」

 

 

 ビフォアも一撃を入れられるとは思っていなかった。だから手を抜いていた。いや、正直言えば超とネギの相手など、通常モードで充分だと思っていたのだ。しかし、ネギと超は一撃を入れた。これにはビフォアも、本気で戦わなければならないと思ったのだ。アスナや刹那、タカミチすらも葬った、最強の戦闘モードだ。

 

 なんということだろうか。ネギと超は戦慄した。ビフォアがまさか、二人がかりだというのになめてかかってきていたからだ。本気ではなかったなどと、それは二人にとって悪夢に等しいものだった。これがビフォアの本気ならば、まだ勝機はあっただろう。だが、ビフォアがこれ以上強くなるというのなら、勝機は限りなくゼロへと近づく。

 

 

「……ファイナルバトルモード、起動……!」

 

「くっ……」

 

 

 音声入力で最終戦闘状態へと持ち込むビフォア。するとビフォアのスーツが機械音を発しながら、その機能を発動したのだ。ここからが本番か。二人は禍々しい何かを纏うビフォアを睨みながら、冷や汗を流して歯を食いしばっていた。

 

 

「こうなってしまっては、以前の俺より優しくないぞ」

 

「ダガ、こちらにはカシオペアがあるネ! さきのように行くヨ!」

 

「はい!」

 

 

 すさまじい威圧を発しつつ、ビフォアは超とネギを睨み返していた。この最終モードとなったならば、もはや手加減は出来ないと、ビフォアはゆっくりと、恐怖を煽るように言葉にしていた。また、二人には恐ろしい、おどろおどろしい力が、ビフォアを取り囲んでいるように見えた。

 

 それでもこちらにはカシオペアがある。時間操作での連携攻撃ならば、何とかなるかもしれない。超はそう考えて、ネギにもう一度、先ほどと同じ攻撃を行うと叫んでいた。ネギも元々そのつもりだったらしく、超の言葉に元気よく返事していた。

 

 

「さぁ、始めようか……」

 

 

 そんな二人を下に見つつ、ビフォアは戦闘開始の台詞を言葉にしていた。するとビフォアの頭部が機械の仮面に覆われ、完全なフルフェイスとなったのだ。それはビフォアが誰にも見せたことのない、本当の意味での最終戦闘形態。そう、この状態はアスナや刹那、さらにはタカミチを相手にしていた時以上の戦闘力を持つ、ビフォアの最後の切り札だったのだ。

 


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