理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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九十一話 光の柱

 夕日がだいぶ傾き、夜がすぐそこまでやって来ていた。誰もがロボの優勢に苦しい戦いを強いられつつも、持ち前の元気で押し返そうと頑張っていた。そのイベント参加者の群れから少し離れたところで、熱海数多の姿があった。数多は大量にやってくるロボを殲滅しつつ、あるものを探していたのだ。

 

 

「あの野郎が出てくると思ったが……、姿形はおろか影すらねぇ……」

 

 

 数多が言う”あの野郎”とは、昨日戦ったコールドと言う男のことだ。あの男は”この程度では我々を止めることは出来ない”と言った。つまり、何かしらの組織で動いているということをほのめかしていた。だから数多は、コールドと言う男がこの戦いに参上し、攻撃してくることを警戒していたのだ。

 

 だが、この戦いではコールドと言う男はまったく姿を現さなかった。このロボ軍団が何者かの攻撃だとしても、それとコールドとは関係ない可能性があると、数多は考え始めていた。それはそれで、かなり危険なことだと、数多は考えマズイと思っていた。

 

 

「まあいいか! んならこいつらをぶっ潰すだけだ!!」

 

 

 しかし、居ない敵を探しても仕方がない。確かに懸念する材料ではあるが、それなら目の前の敵を倒した方がよい。逆に考えれば強敵が減ったのだ。どこかで現れるかも知れないが、今戦う必要がないなら、それに越したことはないだろう。そう結論に達した数多は、目の前のロボを悠々と倒し始めた。

 

 そんなロボ軍団の攻撃を避けつつ、突撃をかまして戦う数多に近寄る一人の少女が現れた。イベント用の杖を握りしめた焔だった。焔はイベント用の杖を持ちながらも、イベントとは関係なく、ロボ軍団を倒していたのだ。

 

 

「兄さん、怪我してるというのになんと無茶な……」

 

「焔じゃねーか! 別にこの程度なんてことねーさ!」

 

 

 数多は昨日の戦いで怪我を負っていた。重症と言えなくもないそこそこ深い傷だ。その状態にもかかわらず、こんな場所で元気に戦う数多を、焔は多少心配して声をかけたのだ。だが、心配する焔に数多は、この程度の傷は問題ないと笑顔で語り、ガッツポーズをしてみせた。なんというタフなのか、ただのバカなのかはわからないが、とにかく問題なさそうだった。

 

 また、この二人、一応ロボ軍団が敵であると説明を受けていた。メトゥーナトがアスナから情報を得た時、それを伝えられた形だった。焔はさらにアスナから個別に話を聞いていた。その時にひっそりと、このイベント用の杖を貸してもらったのである。

 

 

「と言うか、傷ならギガント様に直してもらうか、来史渡様から薬を貰えばよかったものを……」

 

「おっちゃんたちは忙しそうだったから、話しかけられなかったのさ」

 

「この状況だからか」

 

 

 その数多の発言とポーズに、若干呆れた焔はそれを露骨に表情に表していた。また、怪我ならばギガントならすぐに治してくれるだろう。ギガントは治療に長けた魔法使いだ。頼めば治療してくれたはずだと、数多へと話しかけた。加えてメトゥーナトは普段から治療のための薬を常備している。それを貰えば傷など治っただろうと、焔は考えたのである。

 

 そこで数多は、自分も同じことを考えギガントやメトゥーナトへ会いに行ったが、なにやら多忙な様子だったので、諦めたと理由を話した。それを聞いた焔は、確かにこんなロボ軍団だらけの状況だ、忙しくても仕方がないと考えた。

 

 

「ところで、そっちの状況はどうなんだ?」

 

「特には……。ただ、敵の数が減らないのが気になるところだ」

 

 

 そこで今度は逆に数多が、焔のことを聞いてきた。焔はふと考えたが、別に特に何かがあった訳ではないと考えた。ただ、敵の新しい攻撃で、参加者がかなり減ってしまったことを懸念するぐらいだと思っていた。が、それ以上に気になることがあった。それは敵の数が一向に減らないことだ。事実、多くのロボを倒したはずなのに、ロボの数は均衡を保っていたのだ。

 

 それは地下でロボが生産されているからなのだが、数多も焔もそれを知るよしはなかった。というのも、このイベントが敵の攻撃だということは教えられたのだが、ロボが工場で生産されているということは、二人に伝えられていなかったのである。

 

 

「確かにまったく減らねぇな……。まるで増えてるかのようだぜ」

 

「あながち間違えではないかもしれない……」

 

 

 敵の数が減らない。それを聞いた数多は、敵が増えているのかもしれないと考えた。それが事実なのだが、そのことを知らない数多は、そのことを冗談っぽく言っていたのだった。しかし、焔は敵が増えるということに、当たっているかもしれないと考え、少し考え込む素振りを見せていた。

 

 

「まあ、それならそれで倒し続けるまでだぜ!」

 

「現状を考えるならば、粘るしかないか……」

 

 

 そうだ、それなら倒して倒して倒しまくる。ただそれだけだと、強く発言する数多。焔もこの現状、こちらがやられないように戦い続けるしかないと考え、数多の言葉を肯定していた。

 

 

「つーか、そっちも無茶すんなよ? 命の危険がないとは言え、何が起こるかわからねーからな」

 

「別に問題はない。この杖ひとつあれば十分だ。それに、今なら”炎”を出せる」

 

「ああ、世界樹の魔力でか」

 

 

 そこで数多は、こっちの心配もいいが自分の心配もした方がいいと、焔へと注意した。一応イベントと言う扱いで一般人も戦っている。それゆえ命のやり取りはない。だが、それでも何が起こるかわからない、万が一だって存在すると話したのだ。

 

 しかし、焔は問題ないと断言した。それは、イベント用に使われている杖を使えば、大抵のロボは機能停止に追い込めるからだ。さらに今なら世界樹が放出する魔力により、魔法適正があがっている。それにより、炎を操ることが可能なのだ。

 

 数多はそれを聞いて頷いて納得していた。そこで世界樹の魔力が満ちる時、焔はいつも快適そうにしていたのを思い出したようだった。

 

 

「そうだ。おかげで()()()に居るのとあまり差を感じないのだ」

 

「そうなのか。俺は魔法ってやつが使えねーんでよくわからんがよ」

 

「……魔法よりもある意味すごい力だと思うのだが……」

 

 

 世界樹の魔力により、今の焔は魔法世界に居る時と同じぐらいの調子を取り戻していた。旧世界へ来たために、低くなってしまっている魔法適正もほぼ戻っており、絶好調の様子を見せていたのである。ただ、数多は魔法使いではないので、そういう部分はあまりよくわからなかった。それでも、焔の調子がよさそうなのを見て、笑みを浮かべたのだ。しかし数多がそうは言うが、彼自身の能力は魔法よりも特異でとんでもないものだと、焔は呆れた表情で言葉にしていた。

 

 

「それにアーティファクトも使えば問題ないだろう」

 

「親父と契約したヤツ?」

 

「そうだ」

 

 

 また、焔にはアーティファクトがあった。それは義父たる龍一郎と契約したものだった。数多も焔が龍一郎と仮契約していることは知っていたので、それかと思い腕を組んでいた。だが、そのアーティファクト、効果が自分の能力を高めるタイプのものだった。だから魔法適正が下がっている状態では使えなかったのである。それでも今は世界樹の魔力が溢れている。この状態ならば、そのアーティファクトも使用可能というワケだったのだ。

 

 

「だが……」

 

「ウオッ!?」

 

 

 そう会話していた焔は、不意に数多へ杖を向けて呪文を唱えた。一体どうしたというのか。敵はロボ軍団のはずだが、杖は数多へ向けられていた。数多はその行動に驚き、とっさに首を横へと傾けかわす仕草をしたのだった。

 

 

「別に使わずとも、平気だ」

 

「おいおい、後ろに敵が居たなら言ってくれよ!?」

 

 

 今の焔の行動、別に数多を狙ったわけではなかった。数多の後方で攻撃態勢となったロボへと、その杖を向けていたのだ。数多はそれに気がついたからこそ、首をかしげてそれをかわしたということだったのである。

 

 焔は敵のロボへと今の攻撃が命中したのを見て、したりと言う顔で唇を片方に吊り上げていた。しかし、そんな焔へと数多は文句を飛ばしてたのだ。何せ数多も一瞬何事かと思ったので、多少焦ったからである。

 

 

「兄さんなら勘付くと思ったし、それに避けただろう?」

 

「信用してくれんのはありがてーけどよー!」

 

 

 そんな数多の文句に、しれっと答える焔。焔は数多が自分の考えに気がつき、避けてくれると思ったのだ。そして確かに数多はそれを察し、しっかり避けたのである。ただ、このイベント用の杖から発せられる魔法の光は、人体に影響がない。焔はそれを知っているからこそ、このような行動をしたのである。

 

 数多も焔からの厚い信頼を受けていたことに、非常に嬉しい気持ちになっていた。それはたとえ血がつながらずとも、いや、むしろ血がつながっていないからこそ、兄として、妹から信頼されるというのは嬉しいものだからだ。だが、数多も流石に無茶だと思ったようで、それでももう少しやり方ってものがあるだろうと、焔を窘めるように話していた。

 

 

「むっ、また敵が増え始めたようだぞ」

 

「おう、敵さんは休ませてくれねーみてーだな……!」

 

 

 そう二人が会話しているところへ、さらなるロボ軍団が現れた。二人は出現したロボ軍団の方へと向きなおし、グッと手に力を入れていた。しかし、焔はあまりの敵の数に、少し呆れた表情で、よくもまあ、こんなに用意したものだと思っていた。逆に数多は更なる敵の出現に、熱い気持ちになっていた。それは表情に表れており、眼から火が出る勢いだった。

 

 

「おっしゃっ! 俺は先に行くぜぇ!!」

 

「傷が治ってないんだから気をつけるんだぞ」

 

「ハッ! そっちもな!!」

 

 

 そこで数多は先制して、ロボ軍団の増援へと突撃して行った。そんなバカみたいに元気な数多に、焔は怪我しているのだからと注意を促していた。数多も同じく焔へと、敵の攻撃に注意するよう呼びかけていたのだった。そうして兄妹のひと時の会話は終わり、再びロボ軍団との戦いが始まったのである。

 

 

…… …… ……

 

 

 カズヤはロボ軍団との戦いで、敵がまったく減らないことに疑問を感じ始めていた。かなりの数のロボを蹴散らし砕いてきたはずだが、敵の数は常に一定だったからだ。そこで敵の数が減らないことに苛立ちを感じ、そのことを法へと文句を言うように叫んだのだ。

 

 

「おい! 敵の数が一向に減らねぇぞ!!」

 

「あのロボどもは工場で生産され続けているらしい」

 

「何!? それじゃ減るわけがねぇじゃねーか!」

 

 

 ロボは工場で今も生産され続けている。その生産されたロボが増援として現れる。これではいくら倒しても数が減らない。確かにいずれは材料の枯渇などで生産が止まるかもしれない。だが、それを待って居るだけの戦力は、こちらにはもう残っていないのだ。

 

 それをカズヤへと法が教えると、大声で叫びながらも納得していた。アレだけの数のロボを倒しても、なお底が見えないのだから当然だ。

 

 

「チィッ、他の連中も結構疲弊してきてやがる……。このままじゃ埒があかねぇ!!」

 

「だが、我々はロボを倒し続けるしかないだろう!?」

 

「ハッ! 何言ってやがる!!」

 

 

 また、周りを見ればイベント参加者たちは多少なりに疲れを見せていた。敵は減らないが仲間が減るこの状況では、精神的にも肉体的にも疲労するのは当然のことだった。このままではマズイとカズヤは考えるも、法はこのままロボを倒し続けるしかないと判断していた。しかし、ああしかし、カズヤは違った。強気の表情で、今の法の言葉にアホ抜かすなと叫んだのだ。

 

 

『おい! おっさん! 工場の場所を俺に教えろ!! 知ってるんだろ?!』

 

『何!? 確かに知っているが一体……』

 

『いいから教えろ!』

 

 

  カズヤはおもむろに通信機でアジトへと通信すると、突然エリックへとその工場の場所を乱暴に聞き出した。確かにエリックはその工場の場所を知っていた。しかし、それを聞いてどうするのか、まったくわからなかった。それでもカズヤは教えろと、強く叫んでいたのだ。

 

 

『教えるぐらいは出来るが、工場の入り口はロボの警備が厳しい上に、狭く入り組んでるんだぞ!?』

 

『そっちじゃねぇ! 工場がある場所の真上だ!』

 

 

 ならば答えようと考えたエリックは、その質問に”工場へ通じる通路”の場所を教えようとしていた。ただしそこは敵地ゆえに、非常に警備が厳重だとカズヤへと話した。しかも迷路のように入り組んだ下水を通り、地下深くにある工場まではかなりの距離があった。エリックが工場の場所を聞いて、何をするのか理解出来なかった理由はそこにあったのである。

 

 だが、カズヤが聞きたかったのはそこではなかった。カズヤは”工場が存在する場所”そのものが聞きたかったである。それは単純に言えば、地下に存在する工場の真上、その地表の地理だった。

 

 

『真上!? 地図上での位置のことか!? しかしそれでどうするというのかね!?』

 

『真上から叩き潰す!』

 

『そんなことが可能なのか!? 第一相当深い場所に工場は建設されているんだぞ!!?』

 

 

 真上と聞いてエリックも、そのことを理解した。しかし、それでどうするのかがまったくわからなかった。そこでカズヤは真上から叩き潰すと、叫びに似た声で断言したのだ。エリックはそんなことが出来るはずがないと考え、非常に驚いた様子を見せていた。ロボ工場は地下の地下、相当深い場所に存在する。それを真上から強引に地面を掘り進むなど、到底不可能だと思ったからだ。

 

 

『んなこたぁわかってる! いいから教えろ!』

 

『しかし!』

 

『今もこうやって居るうちに、ロボは増え続けてやがる! そうやってまごついてる間に、状況が悪くなるってのがわかんねぇのか!!?』

 

 

 それでも、それでもカズヤは教えろと叫ぶ。今こうしている間にもロボは増え続け、味方の数が減っている。このままではジリ貧だ。状況は悪化するのみで、まったく良い方向に進まない。だからこの状況を打破するには、それしかないと考えていたのだ。

 

 

『まさか……、そんなことが本当に可能なのか!?』

 

『出来るとか出来ないじゃねぇ! やるんだよ!! でなきゃこっちが負ける!!』

 

 

 エリックはそう叫ぶカズヤに、そんなことが出来るのかと驚きつつ質問していた。確かにカズヤの能力は強力だ。自信があるからそんな策を実行するのだろうと思ったのだ。しかし、カズヤにもそれが出来るかはわからなかった。ただ、やれることもしないでに慌てているだけじゃ、何も解決しないと強く思っていた。やりもせずにウダウダしているのなら、やった方がいい。カズヤはそう考えていたのだ。

 

 

『……わかった、教えよう』

 

『うれしいねぇ!』

 

「カズヤ! 何をするつもりだ!?」

 

 

 エリックはカズヤの覚悟を聞いて、その場所を教えることにした。カズヤはそのことに表情を緩ませ、エリックがその場所を話すのを待っていたのだ。また、法は今の会話を遠くで少し聞いていた。それで法は、カズヤが何をしようとしているのかを聞き出そうとしたのである。

 

 

「決まってんだろ? 敵の工場とやらを真上から叩き潰す!!」

 

「馬鹿な……!? そんなことが……!」

 

「止めるなよ! ここでやらなきゃこっちが押し潰されちまう!」

 

 

 法の質問に力強く答えるカズヤ。このまま工場を叩き潰すと宣言してみせた。法はそれに多少驚きを感じたが、カズヤがやりそうな手だとも思った様子だった。こんな無茶なことを言い出すなど、と思いながらも、カズヤだからこそ出る言葉だと、そう法は考えていた。そこでカズヤは、法がそんな無茶を許すはずがないと考え、止めるなと叫んだのだ。

 

 

「……いや、俺も行こう。どの道このままでは、全員疲弊しきってしまうだろう」

 

「なんだ、アンタも来るのか! だったら遠慮なんていらねぇな!!」

 

『ブレインさん、俺にも工場の位置を教えてほしい』

 

『わかった、今教えるぞ!』

 

 

 だが、法はその作戦に乗り出した。この悪い状況をひっくり返すには、もうそれしかないと思ったのだ。カズヤはそんな法の意外な言葉に驚きながらも、ならば遠慮なく本気を出せると考え、唇の端を吊り上げていた。法もそれならばと、エリックへ工場の場所を教えてほしいと頼んでいた。エリックはそこで、二人に工場の場所を教えたのだ。

 

 

「へっ! あっちか! んじゃ本気を出すぜ!! シェルブリットォォォォオオオォォッ!!!」

 

「ああ、こちらも本気でかかるしかあるまい! 絶影!!!」

 

 

 その場所を聞いたカズヤは、雄たけびをあげて本気の本気を見せようとしていた。地面が抉れ虹色の粒子となり、腕は一度分解され再構築されていく。そして、右腕のある場所に巨大な黄金の腕が現れたのだ。中央にジグザグに入った筋、手の甲にはシャッターのようなパーツ、背中には一枚羽のプロペラ。これがカズヤのアルター、シェルブリットの本気の姿だ。

 

 また、法も本気を見せていた。人型の絶影の半分隠れた頭部が全て露となり、突如銀色に輝きだした。両腕の拘束をとくように体が肥大化し、巨大な尾が長々と伸びる。そして銀色の光がガラスのように砕けると、そこには真なる絶影の姿があった。大蛇のような尾、拘束をとかれた両腕、さらにその脇に生える二つのドリル状の剣。これこそが法のアルター、絶影の真の姿だ。

 

 カズヤは拳を人差し指から小指へと順に握り締め、その強く握った拳を地面へとたたきつけた。するとその衝撃で、高く上昇したのである。そして背中のプロペラを回転させ、銀色の粒子を噴出させ加速したのだ。法も絶影の尾へと立ち、そのままスケートボードを操るように、上空高く舞い上がった。両者はエリックから教えられた目的地へ目掛け、一直線に飛んでいったのである。

 

 

「あそこか! 行くぜェェェェェッ!!」

 

「打ち砕くッ!!」

 

 

 その場所は特に何も無い場所だった。多少木々が生えてはいるが、完全に開けた場所だった。この地下に敵のロボ工場がある。カズヤと法は真上から一直線に、地面へと突撃したのだ。

 

 と、そこで二人が輝き始めた。すごい力が体を駆け巡り、それが発光という現象となって現れたのだ。カズヤは黄金の輝きを、法は銀色の輝きを発していた。その迸る力とともに、二人は地表へと落下していったのだ。さらにカズヤは最大の力を発揮するべく、封印されるかのように手首に装備された銀色のバンドを引きちぎり、拳の甲を展開し、圧縮された空気を放出し加速していった。

 

 すさまじい衝撃が大地を揺らす。カズヤの拳が地面へと刺されば、爆撃以上の破壊力でその地面を砕きまわりの大地を浮かしたのだ。法も同じく地面に衝突すると、同じく大地を抉り深々と大地に突き刺さった。

 

 

「輝け! もっと、もっとだ! もっと輝けぇぇぇぇ!!!」

 

「ウオオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 二人は地面に衝突しただけだはなかった。そのまま大地をまばゆい光と共に打ち砕き、どんどん地下へと掘り進んでいったのだ。なんと無茶なことだろうか。二人は叫びと似た大地を砕く音とともに、叫び声をあげて地下へと進んでいった。

 

 しかし、その時異変が起きた。二人のそのおぞましい力が、ついに新たな現象を生み出してしまったのだ。それは光の柱となり、天を貫き雲をも突き破り、大気圏へと到達したのである。なんということか、その現象は麻帆良中から見ることが出来た。そして、誰もがその光へと視線を移したのだ。

 

 

…… …… ……

 

 

 その巨大な光の柱は、麻帆良の人々を驚かせるには十分なものだった。誰もがその光の柱を驚きの眼で、あるいは興味の眼で眺めていた。それほどまでに、高く高く伸びる光の柱が、すさまじい光景だったのである。

 

 

「な、何だ!? あの光の柱は!!?」

 

「お、おい!? 一体何が起こってるんだ!?」

 

 

 一般人たちはこの光、一体何が起こったのか理解出来なかった。だが、イベント中だったので、イルミネーションか何かだと考えたようだ。それでもそれは一般人の考え、転生者たちの中にはこの現象を知るものがいたのだ。

 

 

「あの光はまさか……!」

 

「おいおい、無茶苦茶だな……」

 

 

 錬とムラジもその現象を見て、驚きを隠さなかった。二人はその減少が目に留まったことにより、一時的に戦闘を中断していた。二人が戦闘を中断するほど、光の柱に驚いていたのだ。なんとう無茶をするのか、その光が意味することを知っていた二人は、この麻帆良に何も起こらないことを心配していた。

 

 

「あの二人、一体何を……!?」

 

「なっ!? 何やってんだアイツら!!」

 

 

 また、その光は超のアジトでも見ることが出来た。それを見たエリックと葉加瀬は、その現象に目を奪われた。千雨も同じくその現象に驚き、あの二人がムチャクチャなことをやったのだと、またしても頭を抱えたのだった。二人がでたらめなのは今に始まったことではない。千雨もそんなことなど百も承知だ。だが、ここまででたらめだったとは、創造していなかったのである。

 

 

「な、なんですか、この数値は……」

 

「どうした!?」

 

 

 そこで葉加瀬がその光の柱を調べていた。そして、その結果に驚愕し、大声を出していたのだ。エリックはそれに気がつき、一体どうしたのかとそちらへ目を移していた。

 

 

「あの光の柱から、すさまじいエネルギーが感知されました……!!」

 

「な、なんということだ……」

 

 

 なんと光の柱からは、莫大なエネルギーが検出されたのだ。そのエネルギー量は半端ではなかった。だから驚いたのだ。ただ、そのエネルギーが二人が放出したものなのか、その光の柱そのものから放出されているのかまでは、葉加瀬にはわからなかった。

 

 しかし、エリックはある程度その結果が予測は出来た。エリックもまた転生者だ。その光の柱の現象を、多少なりに知っていたのだ。だからエリックは、その光の柱を眺めながら、呆然とするしかなかったのだった。

 

 

「あーあ……。やっちまったな、カズマぁ……」

 

 

 そして、その現象を最も知るものが、建物の屋根の上でたたずんでいた。腕を腰に当て、少し猫背気味な体勢で、光の柱を眺めていた。そして、ふざけた発言とは逆に、真剣な表情でこの現象を起こした張本人の名を、少し間違えて呼んでいた。それは直一だった。直一もカズヤと法が持つ特典と、同じ原典の特典を持っていた。だからこそ、その現象の恐ろしさとすさまじさを同時に理解していたのである。もはやこうなってしまってはしかたがない。後は何も起こらないことを、ただただ願うだけだった。

 

 

「な、なんじゃあの光の柱は!?」

 

「あれは一体……!?」

 

 

 さらに、その現象は学園長とエヴァンジェリンも目撃していた。あの光は一体なんだ。長年生きてきた学園長も、あのような現象など見たことが無かったのだ。エヴァンジェリンも同じく、あの光の柱は一体なんなのか、理解できずに居た。世界樹の大発光などとは違う、禍々しい光の渦に多少なりと驚愕していたのだ。

 

 

「やはりやってくれましたか。待っていた甲斐がありました」

 

「何!? まさかあれがお前の目的か!?」

 

 

 しかし、そんな時でも冷静さを失わず、むしろ嬉しそうにその光の柱を眺める男が居た。坂越上人だ。上人はさらに、その現象こそが待ちに待っていたものだと、悠々と語っていたのだ。そこでエヴァンジェリンは、上人の目的の現象があの光の柱だったことに気がついた。そして、上人がこの現象が起こることを、さも知っていたかのような態度に、多少不思議に思ったようだった。

 

 

「フフフフフ、そうです。あれこそが私がもっとも見たかった現象。そう、あの光の柱こそが、”向こう側”への扉です」

 

「”向こう側”だと!?」

 

「はい、そうです」

 

 

 上人は今の現象を見れたことがかなり嬉しかったらしく、クツクツと笑っていた。さらに、上人は今の光の柱を『”向こう側”への扉』と称したのだ。その向こう側の扉とは一体なんなのか、エヴァンジェリンにはわからない。ただ、そう言う名であることを、上人から聞かされ復唱していたのだった。上人はそんなエヴァンジェリンに、正解と言いたげな表情で、愉快に笑っていたのだった。

 

 

「その向こう側とは一体……!?」

 

「それは教えてあげません」

 

「ふん、だと思ったよ」

 

 

 向こう側、それは一体なんなのだろうか。そのことを知らぬ学園長としては、当然の疑問だった。ゆえに学園長はそのことを上人へと訪ねたのだ。あの現象が危険だとすれば、学園に影響を及ぼす可能性があったからである。

しかし、上人は意地悪な表情で、教えないと言葉にしていた。なんという憎たらしい男だろうか。それでもエヴァンジェリンは、答えが聞けるなど思っていなかったらしく、腕を組みながらやはりそうかと思っていたのだ。

 

 ――――向こう側の領域。それはスクライドにてアルター能力の起源と呼ぶべき世界。アルター使いはその向こう側へ無意識にアクセスすることにより、自分のエゴを構築し実体化させていた。そして、その向こう側には道のエネルギーが存在し、莫大なエネルギーが眠っているとされている場所でもあった。そのエネルギー量は大地を押し上げ、神奈川県ほどの大きさの島を作り出すほどなのである。

 

 だからこそ、それを知るものたちは恐れた。光の柱という形で発生する、向こう側の扉。それが開かれた時、大地を揺るがし大隆起現象が起こる可能性があったからだ。しかし、今はただ、小さな扉しか開いてはおらず、その兆候は見られなかった。

 

 また、向こう側の領域につながる扉を開けるのは、強力なアルター使いが必要だった。スクライドにてその扉を開いた存在、カズマ、劉鳳。その二人の特典を持つカズヤと法が力を最大に使えば、扉を開くことが可能なのは、必然だったのである。

 

 つまり、アルター能力が存在しているということは、”向こう側”にアクセスしている証拠。そして、アクセス出来ているならば、必ず”向こう側”が存在するということだ。上人はアルター能力を持つ転生者を見た時、それを理解したのである。

 

 上人はそれを知っていたからこそ、その二人に目をつけていた。さらに、この現象を確認するためだけに、わざわざ麻帆良へとやってきたということだったのだ。そして、この現象を起こすにはカズヤと法を追い込む必要があった。ただ、追い込むのならば何でも良かったので、最悪自らが行動して、二人をギリギリまで追い込めばよいとも考えていた。だが、その必要はなかったことに、上人は大変喜ばしいことだと感じ、ほくそ笑んでいたのだった。

 

 しかし、この現象を確認したところで、一体何をしようと言うのか。それは、上人にしかわからないことであろう。

 

 

「これで私の目的は達しました。後はビフォアが負けるか勝つか、それをひたすら待つだけです」

 

「……私は今すぐこの場から消えてもらいたいがな」

 

「まぁそう言わずに、もう少し付き合っていただきますよ」

 

 

 上人は自分の目標が達成したことで、ビフォアの勝敗などどうでもよくなっていた。いや、最初からビフォアの計画など、関係のないことだった。そんな風に余裕の態度で今の気分を満喫する上人へ、エヴァンジェリンは今すぐこの場から消えてほしいと心から思っていた。ハッキリ言えば腹が立つ。本当に人をイライラさせるのがうまいやつだと、エヴァンジェリンは上人を評価していたのだった。

 

 上人はそうエヴァンジェリンが怒りを抑えて冷静な振る舞いをする姿を見て、さらに癇に障るような態度で、もう少しこの場に残ると話していた。ビフォアの計画などどうでもいいが、一応与えられた任務は全うしようという、上人なりの義務感だったようだ。まあ、それもエヴァンジェリンや学園長には非常に迷惑なことなのだが……。

 

 

…… …… ……

 

 

 カズヤと法はすさまじい力を発揮しながら、大地を砕き掘り進んでいた。途中遺跡のような開けた空間もあったが、そんなものはお構いなしに、ただひたすらロボの工場を目指していた。そして、ついに二人は地下深くに存在する、ロボ工場へと進入したのだった。

 

 

「こいつが!」

 

「ロボの工場か!!」

 

 

 そこにはロボを生産する光景が広がっていた。無人でありながら規則正しく動く機械。組み立てられていく多くのロボ。建造される巨大ロボの数々。明らかにおぞましい光景だった。しかし、ここへ進入できたならばもう終わりだ。そう考えたカズヤと法は、即座に攻撃へと行動に移った。

 

 

「こんな真下からガンつけやがって!!」

 

「破壊する!!」

 

 

 カズヤはこのロボ工場へ、怒りを発散するかのように叫んでいた。こんな隠れえた場所から敵を増やし続ける工場が、かなり気に入らなかったようだ。法も冷静な言葉遣いをしているが、内心は怒りに溢れていた。ロボ工場があるから敵が増え続け、その敵は守るべき麻帆良を攻撃してきている。そんな悪行三昧を許す訳には行かぬと、法は思っていたのだった。

 

 

「ウルウウオォォオオォォラァァアアアァッ!!!」

 

「絶影!!!」

 

 

 カズヤは空中で数回回転すると、その拳を前へと放つ。するとそこからすさまじい拳圧が発生し、それは目の前の機械の群集へと命中し、その周囲の機械を吹き飛ばしたのだ。法もすでに攻撃へと移り、絶影の両脇に存在する第二の拳、ドリルのような、マイナスドライバーのような形状の、剛なる拳臥龍と伏龍を飛ばしていた。その二つの拳は縦横無尽に飛び回り、機械や建造中のロボを切り裂き、または貫き破壊しつくしたのだ。

 

 

「まだだ! 全部ぶっ壊してやるッ!!」

 

「砕け散れッ!!」

 

 

 それでもまだ破壊し足りない二人は、ロボ工場を最大の力を使い、粉砕していった。どれほどまでの力を使えばこれほどの破壊活動が可能だろうか。ロボ工場はまるでミサイル攻撃を受けたかのように、見るも無残に破壊されつくされていた。それでもなお、二人は徹底的に、もう二度と使えないよう破壊の限りを尽くしたのだった。

 

 その破壊活動が終わると、銀と金の光の線となり、地上へと戻っていった。だが、今の破壊活動で二人はかなりの能力を消費してしまったようで、アルターを解除して苦しそうに息切れを起こしていた。

 

 

「ハァハァ……、ウッグ……」

 

「クッ……。これが力を使いすぎた代償か……」

 

 

 二人は地上に着くと、膝を曲げて体中から倦怠感を感じていた。しかし、そこで膝を地につかせずに、なおも立ち上がろうと力を振り絞っていたのである。ここで膝を着くわけには行かないという、途方も無い執念が、二人をそうさせていたのだ。

 

 ただ、それでもカズヤは右腕を押さえ、激痛を感じているかのような苦悶の表情でこらえていた。あのシェルブリットの第二形態は、使用者に途方も無い負担がかかる。何度も使えば腕が侵食され、ひび割れたように黒い筋が腕全体に広がり続け、痛みを伴うようになるのだ。

 

 

「そんなことは、どうでもいい……。まだ敵は残ってる。全部まとめてぶっ壊す!!」

 

「カズヤ!? 貴様まだ戦うというのか!?」

 

 

 そんな状態にも関わらず、カズヤはしっかりと力強く二つの足で大地を踏みしめ、再び立ち上がったのだ。まだ喧嘩は終わっちゃいない。ロボの生産は止まったが、残ったロボの数はいまだに多く存在する。それを全て倒しつくすまで、倒れることを許さないのだ。また、法もカズヤの能力と、それを使うことによる代償のことを知っていた。だからそれでも戦い続けようと立ち上がるカズヤに、驚きを隠せなかった。

 

 

「とーぜんのパーペキよ! この喧嘩、最後まで付き合うって決めたんでな!!」

 

 

 当然戦う、そうカズヤは断言した。もはや、カズヤには腕の痛みなど関係なかった。本当はとても痛く、動かすことすら苦痛だというのにだ。それでも、それでもカズヤは戦いをやめようとしない、やめる気などさらさらない。それは千雨から呼ばれ協力を受けた時から、この()()に最後まで付き合うと決めたからだ。一度決めたら迷わない。決めたことは最後までやる。それがカズヤが一番守るべき、自分に課したルールだった。

 

 カズヤはスクライドのカズマの能力をもらった、元一般人の転生者だ。スクライドのカズマではない。そのカズマのように”抗い続ける”ことなど出来はしない。カズマのような、強く逞しく一途で、破天荒で他人に媚びない生き方など、絶対に出来ない。それは当然のことだ。環境が違う、考え方が違う、生き方が違う、進むべき道が違う。何よりも、ただの一般人だった転生者が、その作品のキャラクターに完全になりきれるなど、到底不可能だからだ。

 

 それでも、そうなりたいからこそ、その能力をもらったのがカズヤだった。そのカズマに成り代わることは出来ないが、心を強く持つことは出来る。だからこそ、自分が決めたことならば、最後までそれを貫き通す。せめてそのぐらいは、やり通したかった。チンピラのように生きてきたが、それでもカズヤは必死だった。自分より強い相手と、何度もぶつかっていった。自分に負けぬよう、努力してきた。そして、それをやり通すぐらいに、強くなったのだ、ひたすら前に進むために。

 

 

「フフフッ、そうか……。ならば俺も戦わねばならないな」

 

 

 その強い意志を秘めたカズヤの眼、それを見た法はカズヤから視線をはずし下を向いて笑い出した。そうか、この男は強くなろうと強がっているのか、あがいているのか。そして、そうであるために、今も痛みに耐えながらも、信念を貫き通そうとしているのか。そう考えた。

 

 正直言えば、法はこの状態で戦いなど厳しいと考えた。カズヤほどではないにせよ、能力の使いすぎで体がうまく動かないのだ。それでも隣の男は、自分以上に苦しい体を押してでも、再び戦場へと立とうとしている。なら自分も戦わなければならないだろう。ここでこの男に負けることは、絶対に許されないことだ。そう、法は強く思った。

 

 法もまた、スクライドの劉鳳のようになりたかったからこそ、その特典を選んだ男だ。それでもやはり法は劉鳳にはなれなかった。いや、最初からわかりきったことだった。それでも自分なりに、そうであろうと振舞ってきた。そうであろうともがいてきた。しかし、しかしだ、そんなものは上っ面でしかない。表面だけが似ていても、意味なんてないのである。法はカズヤと出会うことで、それに気がついた。気がつけたからこそ、今の法がここに居るのだ。だからこそ、法はひたすら前に進めるのだ。

 

 ――――横の男はなおも立ち上がる。自分はもう駄目だ。苦しい、逃げたい。そんな弱気な思考が頭をよぎる。しかし、横の男は自分以上の苦痛と戦っている。今にも折れそうな気持ちと足を、信念で固めて立ち上がっている。ならば自分はどうする。今ここで折れてしまえば、二度とこの男と肩を並べることなど出来ない。ライバルにはなれない。そうだ、ここで自分に負けていては、この横の男に顔向けなど出来るはずがない。

 

 まだ終わっていない。麻帆良は安全ではない。ならばどうする。そんなことは決まっている。麻帆良を守るために、全ての敵を断罪し殲滅する。ただそれだけだ。そうだ、それなら立ち上がらなくては。法は折れそうだった心と足を、奮い立たせて立ち上がった。カズヤと同じく力強く、大地を踏みしめ立ち上がった。

 

 

「別にテメェは休んでいてもいいぜ?」

 

「そうも言ってられん! この麻帆良を蹂躙せんとする敵を、壊滅させなければ気がすまない!」

 

 

 折れそうだった法を見透かすかのように、カズヤは挑発的に休んでろと言葉を放つ。だが、法は折れなかった。立ち上がった。だからこそ、麻帆良を蹂躙するロボを殲滅し、再び平穏を取り戻すと宣言したのだ。その言葉を聞いたカズヤは、静かに、法に気づかれないように、小さく笑った。そうだ、それでいい。それでこそ自分が認めた、競い合った男だと、そう言いたげな表情をしていた。

 

 

「そうかい……。だったら行くぜ!!!」

 

「ああ、行くぞ!!」

 

 

 だったら戦おう。戦場に再び赴こう。カズヤは法へ言葉を投げかけ、再びアルターを発現させる。周りの物質をアルター粒子と呼ばれる虹色の物質へと変換し、腕ごと再構成して巨大な黄金の腕へと変化させた。法も再び絶影を作り出し、即座に真なる絶影へと変化させた。そして、両者ともすさまじい衝撃とともに、ロボ軍団が迫り来る戦場へと戻っていったのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 ロボ工場は破壊された。それはすぐさま超たちに伝えられた。ロボ工場がなくなれば、ロボが増えることはもう無い。今度はこちらが追い上げる番だと、誰もがそう思ったようだ。

 

 

「むっ、ロボ工場が破壊されたようだぜ」

 

「あの二人、無茶するネ……」

 

「でもこれで敵はもう増えませんね」

 

 

 ロボ工場がなければ、もはやロボは有限だ。残ったロボを全滅とは言わずとも数を減らせばこちらが有利に傾くはずだ。カギとネギはそう考えながら、さらに魔法を撃つ速度を上げていった。また、超は二人が無茶をしたことに、よくやったと思うと同時に、少しやりすぎだろうとも考えていたようだ。

 

 

「ダガあの光はいったい……」

 

「すさまじい光の柱でしたね…」

 

「いやな予感しかしねぇ……」

 

 

 しかし、超もネギもあの光の柱が気がかりだった。すさまじい光が天を貫く光景を、ここに居た三人もしっかりと目撃していたのだ。一体何が起こったのか。超もネギもそれがわからなかった。ただ、転生者であるカギだけは、あの光景を知っていた。記憶していた。

 

 

『聞こえるか、二人とも』

 

「うおお!? 今の声、聞こえたか?」

 

「兄さんも!?」

 

 

 そんな時に突然カギは謎の声が頭に入り込んできて驚いた。その謎の声の主はあのエヴァンジェリンだった。カギは今の声がネギにも聞こえたかを尋ねると、ネギも声が聞こえていたようだ。

 

 

「一体どうしたネ……?」

 

「いや、突然エヴァンジェリンが念話してきやがったんだ」

 

「エヴァンジェリンサンが!?」

 

 

 ただ、超には届いていなかったようで、カギの言葉が理解出来なかったようだ。だからそれを聞くと、エヴァンジェリンが念話で話しかけてきたことに、多少驚きがあったようだ。エヴァンジェリンと超は協力と言う関係を結んでいる。それはビフォアを倒すために超がエヴァンジェリンに頼んだことだった。

 

 しかし、エヴァンジェリンに従者として渡した茶々丸は、協力のためのプレゼントと言う意味だけではなく、未来で貰った杖の恩返しの意味も含まれていた。そして、超はエヴァンジェリンのことを信用しているので、音沙汰が無かったことに、何かあったのではないかと思っていたほどだったのである。

 

 

『聞こえているかと聞いている! 聞こえているなら返事をしろ!!』

 

『な、何だ!? 一体どうしたんだ!? というかどうして念話が出来るんだよ!?』

 

 

 そこでエヴァンジェリンは、二人の反応がなかったことに、少し怒気を含んだ叫びを念じていた。エヴァンジェリンは、先ほどから近くで不快にニヤつく上人の相手で、少し苛立ちを募らせていた。なのでカギたちに、少し強く当たってしまったようだった。それに今自分の現状やらを早く伝えたかったので、声を大きくあげたのだ。その頭に響く大声に驚いたカギは、一体何がどうしたのかとエヴァンジェリンへと聞いたのだった。

 

 さらにカギは念話してきたことにも驚いていた。この今の現状なら、明らかに念話妨害がされている可能性があったからだ。それでもエヴァンジェリンが普通に念和してきたことに、カギは何したのかと思ったのである。

 

 

『ああ、念話妨害のことか』

 

『そうだぜ! 妨害されてんだろ!?』

 

『多分な。だが、そんなことはどうでもいいんだよ』

 

『ど、どうでもいいって……』

 

 

 念話妨害がされているのに何故。その疑問にエヴァンジェリンは答える気すらなかった。まるでそこは重要ではないみたいに、どうでもよさそうに言葉を返していた。実際、エヴァンジェリンは特に何もしていない。念話妨害されているのなら、妨害を跳ね除けているだけだった。

 

 念話は文字通り言葉ではなく直接頭に響きかけて会話する魔法だ。念話妨害とは単純にその魔法のみを妨害するものである。でなければ妨害されている領域内で、魔法自体が使えないはずだからだ。

 

 ならばどうやって妨害をかいくぐるかなのだが、エヴァンジェリンは別に面倒なことなどしてはいなかった。エヴァンジェリンは強い魔力を使って無理やり念話をしているだけなのである。さらにちゃんと相手が受け答え出来る様に、念話を飛ばしていたのだ。吸血鬼の膨大な魔力と、世界樹から放出される魔力をブーストすれば、そのぐらい簡単にやってのけてしまうのだ。

 

 まあ、そんなことなどどうでもよいエヴァンジェリンは、さっさと報告するために、カギの質問と驚くネギの声を全て流し、強制的に話の流れを戻したのだった。

 

 

『それよりもだ。坂越とやらが私の前に現れた。思ったとおりだったがな』

 

『えっ!? あの人がそっちに?!』

 

『おいおい!!? 大丈夫なのかよ!?』

 

 

 上人が自分の前に現れた。エヴァンジェリンはまずそれを伝えた。超たちが恐れ警戒していた存在、それが坂越上人だったからだ。だから上人が自分の目の前にいるのならば、多少は大丈夫だろうという旨趣を伝えたかったのだ。だが、カギやネギはその言葉に度肝を抜かれていた。あの上人がエヴァンジェリンを狙って現れたのなら、危険ではないかと考えたからだ。

 

 

『案ずるな。それにヤツは”ビフォアの勝ち負け”などどうでもよさそうだしな。だから念話したのだが……』

 

『なんだそりゃ!? アイツの味方じゃなかったのか!?』

 

 

 そこで二人の心境を察したのか、エヴァンジェリンは安心するよう言葉にしていた。何せあの上人は、戦う気がまったくないらしい。さらにビフォアが勝っても負けても、どうでもよさそうな様子まで見せていた。まあ、そんな態度だからこそ、エヴァンジェリンは隙を見て報告しようと考えたのだが。

 

 エヴァンジェリンの説明を聞いて、カギは上人が一体何を考えているのかわからなかった。ビフォアの味方として存在しているはずの上人が、ビフォアなどどうでもよいと言ったからだ。

 

 

『さあな、あの男が何を考えているかはわからん。だが、ヤツの目的は達成されたらしい……』

 

『目的? 一体なんでしょうか……?』

 

 

 そんなことはエヴァンジェリンにもわからなかった。あの上人の考えなど、考えてもわかるものではない。それに、理解しようとしたくもないとエヴァンジェリンは思っていた。しかし、上人は自分の目的が達成したことを、ご丁寧に話してくれた。その目的が達成されたと聞いたネギは、それが一体何なのか少し考えてからエヴァンジェリンへと尋ねていた。

 

 

『先ほどの光の柱、アレがヤツの目的だった』

 

『先ほどのって、もしかしてあれのことか!?』

 

『……知ってるのか?』

 

 

 上人の目的、それは光の柱のことだ。あの光の柱”向こう側”への扉の確認こそが、上人の目的だった。それを聞いたカギは、さらに驚きの声をあげていた。ただ、それはその現象を知っているかのような物言いだったので、エヴァンジェリンはカギへ知ってるのかと尋ねていた。

 

 

『詳しく話すと長いから後で説明するぜ。つまり坂越とか言うヤツは、もう戦う気はないんだな?』

 

『そのように見えるが、何をしでかすかわからん』

 

 

 カギはあの光の柱を知っていた。転生者たるカギは、やはりあの現象を知っていたのだ。だが、それを説明している時間はあまりない。説明は後回しにして、とりあえず上人が戦う気が無いことを、エヴァンジェリンに確認したのだ。

 

 エヴァンジェリンも説明が長引くならば仕方ないと考え、上人は戦う気がないように見えると答えていた。ただ、あの上人は戦わないという保障などどこにも無い。ゆえに上人が突然何か行動を起こす可能性は存在することを、ある程度ほのめかした物言いとなっていた。

 

 

『やはりエヴァンジェリンさんは、そこに居てもらうしかなさそうですね……』

 

『そうだな、ヤツも私がここに居れば満足のようだし、今はまだ動けそうにない……』

 

 

 上人がエヴァンジェリンを見張っている形であり、エヴァンジェリンが上人を見張っている形でもある。この状況を無理に崩す必要はない。ネギはエヴァンジェリンに、引き続き上人の相手をしてもらうしかないと思ったようだ。エヴァンジェリンも当然そのように考えていた。上人は自分が動かなければ、何もしようとしない様子だったので、ヘタに動くことが出来ないと思っていたのだ。

 

 

『なに、なんだかよくわからんチート野郎が動かんならやりやすくなったぜ!』

 

『確かに、そう考えればそうですね……』

 

 

 しかし、あの上人が動かなければ動きやすい。カギはそう考えた。何せ上人がビフォアの雇った人物の中で、一番強いと考えてきたからだ。それはつまり、ビフォアの切り札でもあると考えられた。ならば上人が動かなければ、それを警戒する必要がなくなるということだ。ネギもそのとおりだと、腕を組んで頷いていた。

 

 

『……とりあえずヤツは私が監視しておく。うまく立ち回れよ』

 

『おう、サンキュー!』

 

『ありがとうございます』

 

 

 エヴァンジェリンは上人の監視を引き続き行うとし、二人に激励の言葉を述べていた。その言葉にカギもネギも、感謝の言葉で返してたのだ。そして念話が途切れ、カギとネギはより一層気を引き締めたのだった。

 

 

「エヴァンジェリンサンはなんと?」

 

「坂越とやらとにらみ合いしてるとよ。そんで動けないらしいぜ」

 

「フム、やはりヤツはあちらに現れたカ……」

 

 

 超は二人がエヴァンジェリンとの念話を終えたことを察し、何を話していたのかを尋ねた。カギはその質問を素直に答え、それを聞いた超はやはりかと言葉をこぼし、納得した表情をしていたのだった。

 

 

「よし、俺は一度戻る! お前ら二人で戦ってくれ!」

 

「え? 兄さん一体何を……!?」

 

 

 ならばもう抑えるのはやめだ。ここからは本気で攻撃しよう。そう考えたカギは、一度戻ると言い出した。一体どういうことなのだろうか。ネギは理解不能と言う表情で、カギに何をする気なのかを聞いていた。

 

 

「俺は龍宮軍曹と長瀬へ加勢しに行く! 後でまた合流しようぜ!」

 

「ちょ、ちょっと兄さん!?」

 

「もう行てしまたネ……」

 

 

 カギはそれなら、今メガネと苦戦している可能性がある真名と楓の下に駆けつけ加勢した方がよいと考えた。あのメガネは明らかに麻帆良アンチ転生者。何を仕出かすかわからないからだ。あの二人ならば大丈夫だと思うが、それでも不安はぬぐえ切れていなかったのだ。

 

 だから二人の無事を確認し、あのメガネを叩き潰そうと考えたのである。だが、ネギや超にはそんな説明などまったく無く、すぐさま飛び去ってしまったカギ。残されたネギと超は、半分あきれた表情で、飛び去ったカギの方向を見るしかなかったのだった。

 

 

「でも、確かにそれならその方がいいかもしれないネ。あのメガネはかなりヤカイな相手だと思うヨ」

 

「そうですね……」

 

 

 ただ、超もあのメガネのことは気になっていた。メガネの男マルクの攻撃、それが非常に厄介なものだと、超は考えていたからだ。と言うのも、超にもO.S(オーバーソウル)が見えていない。

 

 超は”魔法使い”と言うよりかは、”魔導士”よりの人間だからだ。杖も未来でエヴァンジェリンから貰った、ストレージデバイスと呼ばれる機械の杖。魔法をプログラム的に解釈し、使用者のサポートをするタイプの杖だ。生粋の魔法使いではない超に、O.S(オーバーソウル)は見えなかったのだ。

 

 ネギも超がそこまで言うなら、と考えた。それに、確かにあのメガネはかなり危険な人物だと言う事も、自分が襲われたのでよく理解していた。あのメガネの男は他人の命を奪うことに戸惑いが存在しない。まったく持って、殺すことに躊躇がない男だった。ならば相手をしている真名と楓が危険だとも思っていた。だからカギがあの場へ駆けつければ、少しは安心できると思ったのである。

 

 

…… …… ……

 

 

 麻帆良湖。そのほとりで一つの戦いが終盤を迎えていた。一人は電気を纏った槍を握り、頭がとんがった少年、錬。もう一人は光の剣をマイクから出す、黒い逆毛とサングラスの男、ムラジ。どちらもほぼ互角の戦いを、何時間も繰り広げてきていた。そして、両者とも、そろそろ決着をつけなければならないと考えていたのだった。

 

 

「いいねェ、こういう戦いは」

 

「ふん、キサマもそう思うか……」

 

 

 どちらもこの戦いに、随分と楽しそうだった。これほどの強敵、これほどの戦闘、味わったことの無い緊張感。どれをとっても最高のものだったからだ。それほどまでに、両者とも強者に飢えていた。能力の高いシャーマンとのファイトを渇望していたのだ。

 

 

「だが、話になんねェな」

 

「何!?」

 

 

 だが、それでもまだ足りないと、錬を煽るような言葉を吐くムラジ。するとその言葉を述べた瞬間、突如ムラジが錬の目の前に現れ、錬のO.S(オーバーソウル)をまたしても砕いたのだ。それには流石の錬も驚き、数歩下がって何が起こったのか理解しようとしていた。

 

 錬のO.S(オーバーソウル)、”武神魚翅”は甲縛式と呼ばれるO.S(オーバーソウル)として構築してある。甲縛式はすさまじい防御力と燃費のよさを追求したものだ。その甲縛式を一撃で破壊すると言う行為を見れば、ムラジのO.S《オーバーソウル》のすさまじさがわかるというものだ。

 

 ムラジは媒介としているマイクに全ての巫力を一転に集中させている。また、パッチソングなる歌により、巫力強化を施している。そのおかげで、こうも簡単に甲縛式O.S《オーバーソウル》を砕くことが出来るのだ。それはシャーマンキングにおいて、ムラジが選んだ特典の人物、ラジムが行った行動でもあった。

 

 

「ほらみろ、やっぱり話になんねェ……」

 

「クッ……!」

 

「このままじゃお前の巫力はそこを突くぞ? どうするつもりだ?」

 

 

 O.S(オーバーソウル)を砕かれた錬の口から、苦悶の言葉が漏れる。やはりこの目の前のグラサン、かなりの強敵だ。そして、錬のO.S《オーバーソウル》を砕いたムラジは、この程度では俺は倒せないと、そう言いたげな表情でさらに挑発的な言葉を述べる。加えてこのまま何度もO.S(オーバーソウル)を砕かれ続ければ、巫力が尽きると断言した。この戦いで錬は、すでに何十回とO.S《オーバーソウル》を破壊されていた。

 

 巫力はO.S《オーバーソウル》を構築するのに使用し、それが破壊されれば失ってしまう。それだけに、何度もO.S《オーバーソウル》を破壊された錬は、この時点でかなりの巫力を消耗していたのだ。しかし、錬はムラジの今の姿を見て、フッと笑いを溢していた。

 

 

「キサマこそ何を言っているんだ? 随分とボロボロだぞ」

 

 

 ムラジもまた、すでに全身傷だらけだった。特に雷の攻撃によるやけどが目立っていた。錬のO.S(オーバーソウル)は雷を操ることが出来る。その攻撃は甲縛式O.S《オーバーソウル》をも砕く光の剣でも、防ぎようの無い攻撃だ。それを何度か受けていたムラジは、すでに体中ボロボロだったのだ。

 

 

「……んなら、この戦いは楽しいが、そろそろ終わらせねぇとならんようだな」

 

「そういうことだな……!」

 

 

 ムラジは全身の傷により、徐々に手から感覚が失われつつあった。対する錬も、傷こそ少ないが巫力が底をつきかけていた。もはや戦いを長引かせることは出来ない。このままでは決着がつかずに終わってしまう。どちらもそれだけはゴメンだと思っていた。ならばここは大技で攻め、押し勝つ以外ないだろう。両者はそう考え、最後の一撃に全てを賭けることにしたのだ。

 

 

「”プラチナムソード”!!」

 

「”エレキBANG”!!」

 

 

 ムラジは巫力を最大に使い、ペリカンのくちばしのような形状へとO.S《オーバーソウル》を変化させた。そのまま呑み込み倒そうという、ムラジが持つ最高の大技だった。錬も同じく最大の技でそれに挑む。それはビッグバンにも相当する究極の自然の技。すさまじい雷の力。両者とも、今残る巫力のほとんどを、その技へ全て注ぎ込み、この一撃に全てを賭けた。そして、その最大級の雷が怒号と共に落下し、ムラジの大技と激突したのだった。

 

 


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