麻帆良祭も終わりに近づいてきていた。辺りは少しずつ暗くなり、夕日が沈み始めていた。そんな中、イベント参加者やヒーローユニットの大半が、強制時間跳躍弾の攻撃で消えてしまった。この状況は非常に不利。この先どうなってしまうか、誰もが不安を感じ始めていた。
「さあ大変なことになってまいりました!」
この絶望的な状況でさえ、元気に実況する和美。大きな声でハキハキと、この状況を解説していた。しかし、和美はこの戦いの敗北の意味を教えられているため、若干の焦りを感じていた。
「敵の圧倒的な火力差を前に、世界樹前広場が敵の手に落ちようとしています!」
敵の数は未だに減らず、増える一方だ。だが、戦闘員であるイベント参加者は数を減らす一方だった。このままでは広場を選挙され、敗北してしまうだろう。ただ、イベント参加者の敗北とは、賞金などが手に入らないというところが心配であり。特に敗北を気にすることはない。それでも負けず嫌いの麻帆良の生徒や住人は、敗北など許すはずも無かったのだ。
「さあどうする、学園防衛魔法騎士団!?」
今叫んだことは、自分が一番疑問に感じて居ることなのだろうと、だから、そう和美は考えた。和美はこの状況、参加者がどう動くのか気になった。このままでは敗北は免れない。非常に危険な状況だ。この状況を打破する一手は、何なのか。誰もが考えることだった。
「お前ら! 味方が随分減らされたぞ!!」
「……おのれ強制時間跳躍弾め!」
「わかっていただろうに……」
だが、この状況をはっきり理解するものがいた。それはやはり転生者たちだ。転生者たちは、こうなることをあらかじめ知っている”原作知識”持ちが存在する。そういった彼らは、強制時間跳躍弾での蹂躙が行われることを知っていたのだ。しかし、知っていたからと言って、対処できるとは限らない。倒せど倒せど減らぬロボ軍団に手間取り、強制時間跳躍弾を防ぐことや、対処することが出来なかったのである。
「しかし、消えてしまった人はどこへ行ったんだ?」
「このままじゃジリ貧だぜ……」
「あぁ……。何とかしなきゃならねぇ」
そんな中、消えた参加者がどこへ言ったか知らない一般人は、困惑の色を見せていた。消えてしまってどこへ行ったのかもわからない上に、随分人数を減らされてしまった。このままではゲームオーバーになってしまうと、焦りを感じていたのである。
「くそったれー! ならば俺が本気でかたをつけてやる!」
「待て、ここでアレを使えば麻帆良が吹っ飛ぶぞ!?」
「問題はない、手加減はしてやる! 食らえ!!」
ならばこの状況、打破してやろう。そう豪語する転生者が現れた。この転生者はすさまじい特典を持っているらしく、本気を出せば麻帆良を吹き飛ばすことも出来るらしい。しかし、そんなことをすれば、こっちも無事ではすまない。と言うか、護るべき麻帆良を破壊しては元も子もないだろう。そう窘める別の転生者が、彼を抑えようと話していた。それなら火力を抑えて戦えばいい。そう考えたこの転生者は、特典を発動しようとしたのだった。
「ここで突然ですが、一部ルール改変のお知らせをいたします!」
「何!?」
が、しかし、そこに和美のアナウンスが流れた。転生者は出鼻をくじかれ、特典の発動を停止していた。そこで他の転生者が取り押さえ、なんとか特典を使わせんと彼を押さえつけていたのだった。
「えー、今までの状況を考え、魔法騎士団側が有利となっておりました」
また、和美のこのアナウンスは、新ルールの提案だった。そもそも強制時間跳躍弾で消えた人間が、どこへ行くのか、どうなっているのか説明がなかった。それは非常に不安を呼ぶ要素だ。参加者には安心して戦ってもらう必要がある。でなければ実力が発揮できないからだ。だから、ここで戦闘に投入された強制時間跳躍弾も、このゲームのルールの一つとすることにしたのだ。
「なので、先ほどの弾に命中すると、その場で失格とさせていただきます!」
このことは最初から予定されていたことだった。あのビフォアが強制時間跳躍弾を使用することは、すでにわかったことだったからだ。そのためアスナたちは、その攻撃が始まったならば、麻帆良の住人に説明するように和美に話しておいたのだ。
「また、先ほどの弾が命中したものは、特殊な部屋にて強制送還され、待機となりますので、充分ご注意ください!」
「なんだー、新しいルールかー」
「おいおい、こりゃきついぞ!?」
また、その攻撃を受けた相手は特殊な部屋で待機することになると、和美は説明した。だが、本当は違うのだ。実際は3時間後に飛ばされており、そう言った部屋は存在しないのだ。それでもそう説明したのは、攻撃で死ぬことはないと言うことを伝え、安心させるためだ。
案の定説明を聞いた参加者たちは、安堵の声を漏らしていた。ただのルール増加なら、危険が無いとわかったからだ。ただ、この現状はあまりよろしくない。むしろ危険な状況だった。だから厳しいという声も、ちらほら見て取れた。
「んん!? なんか違うぞ!?」
「お前もそう思うか……」
しかし、転生者たちはこの解説に戸惑いを感じていた。何せ本来ならば、こういう形で説明されなかいからだ。そのため転生者たちは、別の意味で不安げに感じ、どうなってしまうのかを悩むものもいたようだ。
「まあ、敵がいることには変わりねぇ!」
「やるだけやるしかねぇぜ!!」
「よし、花火の中へ突っ込むぞ!!」
だが、すでに”原作知識”などあまり役に立たないと感じた転生者たちは、あまり気にしていない様子だった。むしろ敵を全滅させることの方が重要だと思い、戦うことに燃えていた。ロボ軍団を殲滅するのはこの俺だ! そう叫びながら、転生者たちはロボの海へと突撃して言ったのである。
…… …… ……
ネギたちは敵を殲滅しつつ、広場の方へと急いでいた。だが、その敵の数は圧倒的に多く、流石のカギですらタジタジだった。と、言うのもカギ自身、力をセーブして戦うことに慣れてない。そのため、力を抑えるのに苦労しているのである。ただ、やはり敵の数が多いのが、一番苦労している部分だ。
「チクショウ! 敵が多すぎるぜ!」
「工場で生産されているみたいですから……!」
敵の数が多いのは、地下の工場で生産されているからだ。それは直一が持ち帰った情報により、わかっていたことである。それを何とかしたいところでもあるが、その場所へたどり着くには時間がかかりすぎるのだ。だから、広場の守りを固めようと、必死に戦っているという訳だ。
「この手際のよさ、明らかにまだ見ぬ協力者が居て間違えないネ……!」
「本当多すぎでしょ!! うわっ! また来た!!」
このロボ軍団を開発した協力者が居ると、超は考えていた。あのビフォアがこれを全て、自分だけでやったとは到底思えなかったからだ。また、どんどん増えるロボ軍団に、いい加減多すぎると叫ぶハルナだった。そんな叫んでいるところに、またしても増えるロボ軍団。そこへ、さらに巨大ロボまで飛んできたのだった。
「巨大ロボまで!!」
「巨大ロボなど相手になるかぁ!! ”
巨大ロボは確かにほんの少し未来の世界で見ていた。しかし、それが複数も飛んでくると、やはり違って見えるようだ。ハルナはロボ軍団の数と複数の巨大ロボを見て、驚くことしか出来なかった。そこでカギは、巨大ロボを相手にしようと、自慢の
「援護に参りました」
「先に行ってください」
「ファッ!?」
「お前たち!」
そこに駆けつけたのは茶々丸の姉妹機であった。彼女たちもまた、この戦いに身を投じるために参上したのである。そして姉妹機たちは超に挨拶すると、そのまま敵のロボ軍団を攻撃し始めたのだ。
姉妹機たちは握ったライフルなどを使い、巨大ロボを殲滅する。たとえ巨大ロボとて間接などの貧弱な部分は存在する。そこを狙って攻撃し、巨大ロボを破壊して見せたのだ。また、巨大ロボを倒したならば、次は普通のサイズのロボ軍団だ。姉妹機たちは目標をそちらへと変更すると、ライフルやミサイルを一斉発射したのである。
みるみる破壊されるロボ軍団だったが、やはりなかなか数が減らない。倒される数と同じぐらい、増援が駆けつけてくるからだ。さらに、またしても巨大ロボが複数飛んで来て、ネギたちを阻むのだった。
「まだまだ巨大ロボが増えてきてるー!?」
「敵も必死みたいですね……」
増えるロボに驚くばかりのハルナ。増えるロボの数に呆れるネギだった。なんという数だろうかロボ軍団だけでなく、巨大ロボまで増えてきたのだ。これほどまでに戦力を投入してくるとは、敵も本気なのだとネギは思っていた。
「システムチェーンジ!!」「システムチェーンジ!!」
だが、そこへ更なる味方の増援が登場した。それは赤いはしご車に、青いクレーン車だった。すさまじい速度で走ってきたその二台の車は、突如として車体が持ち上がり、人型へと姿を変えたのである。そう、それはまさしくビーグルロボである炎竜と氷竜だったのだ。
「オラァ!」
「みなさんご無事で!!」
「な、なんでこいつらが居んだよ!?」
「麻帆良を守護する赤いロボに青いロボ!?」
炎竜は巨大ロボへと殴りかかり、それを吹き飛ばした。氷竜はフリージングガンを使用することで、周りのロボ軍団を氷付けにしたのだ。その姿を見たカギは、なぜこの二体のロボが存在するのかと、度肝を抜かれていた。まさかネギまの世界で、ガオガイガーのビーグルロボを見るなど思ってなかったからだ。また、ハルナはその赤と青のロボを見て、麻帆良を防衛していると噂される二体のロボだと考えたようだ。
「すまないネ、炎竜に氷竜!」
「この麻帆良を防衛するのが私たちの使命!」
「こんな奴らの好き勝手されてたまるかってんだ!!」
超は二体へ申し訳ないと話すと、二体はこれこそが自分たちの使命だと強く言い放った。炎竜も氷竜も麻帆良の防衛用として作られた経歴があり、まさにこの場面で戦えることは名誉なのである。さらに、炎竜は他のロボなんぞに負けたくないという気持ちが強いようで、巨大ロボを次々に攻撃していた。
「先に進んでください! ここは私たちにお任せを!」
「僕たちの力を見せてやるぜ!」
「助かるヨ。なら、ここは任せたネ!」
超たちへと、ここを任せて先に進むよう冷静に話す氷竜。自分たちがいかに強いかを、見せてやると力強く唸る炎竜。この二体を頼もしく感じつつ、超はそれなら任せようと考えた。そして二体に感謝しつつ、さらに先へと進むのだった。
「なんか俺の出番が無くなってるんだが大丈夫か?」
「兄さん、もしものために力を温存しておきましょうよ」
「それが一番ヨ!」
「お、おう……」
だが、カギは微妙に不満げだった。自分の最強の能力を、まったく見せる機会が無かったからだ。まあ、力が温存できるに越したことは無い。ネギはそれをカギへ言って窘めていた。同じく超も、それが一番重要だと言葉にしていたのだった。そう二人から言われてしまったカギは、何も言えずに返事を返すことしか出来なかったようである。
「だが敵が多すぎる! ここまで多いとは思ってなかったぜ……!」
「僕もこれほどとは思ってませんでした……」
「またくヨ。ここまで用意されていたとはネ……」
そうのんきに考えるカギだったが、先に進むごとに敵がまたしても増える現状に、予想以上だと思っていた。ネギも同じ意見だったらしく、額に汗を流しながらもロボ軍団を倒しながら、敵の数に圧倒していた。これほどの数のロボを用意し、生産し続けるビフォアには、あきれるばかりだと超も思っていたようだ。しかし、そこへ別の場所から新たなロボが出現した。
「なっ!? 死角から……!」
「ネギ?! クソ! 敵数が多すぎる!!!」
「ネギ坊主!!?」
なんとそのロボは建物の上から強制時間跳躍弾を放ってきたのだ。なんということか、それは丁度ネギの死角だったのだ。それに気づいた時には遅かった。もはや逃れられぬ状態だったのである。
それを見たカギは敵の殲滅に追われ、ネギを助けることが出来ずにいた。また、
また、超もとっさの事で判断が遅れてしまったようだ。大勢のロボと相手している現状では、ネギを助けるために動くことすらかなわなかった。だから焦った表情で、ネギの名を叫ぶことしか出来なかったのである。
「ネギ君!」
「うわっ! ハルナさん!?」
「はるなサン……!?」
しかし、そこで動いたのはなんとハルナだった。ハルナはネギへと体当たりし、ネギを庇ったのである。なんということだろうか、そのおかげでネギは助かったが、ハルナは強制時間跳躍弾の餌食になってしまったのだ。
「へっへ、まるで私がヒロインみたいじゃない!?」
「言ってる場合かー!?」
「ハルナさん! 今助けますから……!」
「……いや、こうなてはもうどうしようもないネ……!」
黒い渦に呑み込まれながらも、ハルナは笑っていた。さらに今の行動はまるで物語のヒロインだと、言葉にしていたのだ。そこへすかさずツッコミをいれるカギ。なかなかノリが良いようだ。そんなカギとは逆に、助けようと必死になるネギ。だが、この状況ではもはや救出は不可能だ。それを超は知っていたので、手の施しようが無いと残念そうな表情でこぼしていた。
「フッ! 助太刀無用! どうせ私じゃあんまり役に立たないんだから、せめてこのぐらいはね!」
「は、ハルナさん……!?」
さらに、ハルナ自身も腕を伸ばして手を開いた、待ったのポーズでネギの救助を拒んだ。何せ自分には、他のメンバーと比べて何も出来ない。ならば、せめてこのぐらいの手助けが出来なければと、ハルナは考えていたのである。ネギはそういわれたら、何も出来なくなってしまったようだ。
「んでもって、バッチリ解決よろしく!」
「あっ……」
そして最後にハルナは、この事件をしっかりと解決してくれと、握り拳に親指を立てたグッドサインをしながら、元気よく消えていった。ネギは消えていったハルナが居た、その場所を見て固まってしまっていた。
「ハルナのヤツ、カッコつけやがって……!」
「ハルナさん……」
カギもそれを見ていたようで、顔をうつむいて拳を握り締めていた。まあハッキリ言えば、ハルナは3時間後に飛ばされただけで、特に命に別状はないのだが。それでも仲間の脱落と言うのもは、悔しいものなのだ。ネギも同じくうつむき、暗い表情となっていた。
「行くヨ、ネギ坊主」
「超さん……」
「……そうだな、行くしかねぇな……!」
「兄さん……」
だが、ここで立ち止まっている訳には行かない。敵を殲滅し、先に進まなければならないのだ。超はネギとカギに背を向けたまま、先に進むと話し出した。そして、ゆっくりと前へ歩き出したのだ。それにつられてカギも、行くしかないと言い、超と同じ方向へと歩き出した。ネギはそんな二人を見て、同じく前へと歩き出したのである。
「はるなサンは別に死んだわけではないネ。それなら、私たちがはるなサンの分まで麻帆良を護ればいいだけネ」
「ああ、そのとおりだ……! だからまずやるべきことをやろうぜ!」
「……そうですね……!」
そう、ハルナは死んだわけではない。ならば彼女の分まで、この麻帆良を防衛すればよい。超はそう暗い表情から普段の表情へと戻し、言いきった。ここで暗くなっていても意味などない。カギも同じ意見だった。だからまずは、麻帆良を防衛し、ビフォアをぶっ倒すことだけを考えようと思ったようだ。ネギもその二人にそう言われ、再び元気を取り戻した。そしてより一層、この麻帆良を護ってみせると、強く誓うのであった。
…… …… ……
外でネギたちが奮闘する中、アジト内でも別の戦いが繰り広げられていた。それはビフォア側から麻帆良へのサイバー攻撃、それを防ぐべく葉加瀬たちが防衛網を開いていたのだった。
「いまだに学園へのサイバー攻撃が続いています!」
「なんと言うしつこさだ! このままでは復旧すらかなわんぞ!?」
「結構ハードな状況だな」
この状況、かなり厳しいものだった。立て続けに何度も続く波状攻撃。これでは麻帆良の結界の復旧など不可能だった。そのことに対して苦虫を噛んだ表情で、苦言するエリックがいた。
また、千雨もここで葉加瀬とエリックの手伝いをしていた。ノートパソコンならいざ知らず、このアジトにあるスーパーコンピュータならば、ある程度のことが可能だからだ。それでもこの状況、かなりヤバイと感じるほどだった。
「なら俺らの出番だな!」
「おう! 行くぞ!!」
「ワシもサポートするかのう」
そんな最中、モニターを睨みつけながらキーボードをたたく三人の後ろから、男性の声が聞こえた。その声の主はあの音岩昭夫と獅子帝豪、そしてジョゼフ・ジョーテスだったのだ。
「アンタらに何が出来るんだ!?」
「まぁ見てなって! レッド・ホット・チリ・ペッパー!!」
「ハーミットパープル!!」
「エヴォリュダーの力、見せてやる!!」
千雨はそれに気がつき振り向くと、その三人が機械の方へと近づいてきていた。この三人、一体何をするのだろうと考え、何が出来るかを尋ねたのだ。ハッキリ言えばチャラい男とおじいさん、特に昭夫とジョゼフは機械が得意そうには見えなかったのだ。
だが、そこで昭夫は余裕の笑みを浮かべながら、ならば見ていろとスタンドを繰り出した。同じくジョゼフもスタンドを腕から生やし、機械へと進入させたのだ。加えて豪もすさまじい叫びとともに、機械に手を乗せ念じ始めたのである。
この三人の行動、普通の人間から見ればただの奇行でしかない。実際千雨は意味がわからないという表情で、ポカンとしていたのだった。しかし、転生者であるエリックは、その行動の意味にすぐさま気がついた。
「そうか! チリペッパーは電気となってネット内部に潜入出来るのか! そしてハーミットパープルは遠隔からの機械操作が可能という訳だな!!」
「そういうことだ!!」
「そして俺のエヴォリュダーの力で、機械の制御が可能だ!!」
そう、昭夫の
加えて同じくジョゼフの
それがわかったエリックは、なるほどと納得し、それならいけるかもしれないと思ったようだ。さらに豪が、エリックの説明がなかったので自分から説明を始めてた。豪の能力はエヴォリュダー獅子王凱の能力だ。エヴォリュダーの能力のひとつに、機械へのハッキングを有していた。手で触れただけで、機械にアクセスし、自分の体のように操れるのだ。それを用いれば、敵に乗っ取られた麻帆良の管理システムも、奪還出来ると考えたのである。
「なんだかさらに訳がわからねーことを……」
「まあ、魔法があるんですから別に驚くことではないでしょうけどね」
「そ、そうか!? そう言う問題か!?」
そんな説明を聞いた千雨は、またしても意味がわからないことだと考えた。確かに魔法というものが存在したし、あのカズヤと法も不思議な力を持っていた。それでもさらに増える謎の力に、頭がおかしくなりそうだと頭を抱えていたのだった。
そう落ち込む千雨に葉加瀬は、魔法が存在するなら驚くこともないだろうと話した。葉加瀬もあの三人の不思議な力には、多少なりに驚かされた。ただ、魔法がこの世界にあるんだから、そう言うのもあるのだろうと納得したのである。
しかし、そう言う問題なのだろうかと、千雨は考えた。千雨は普通を好む人間だ。魔法があったのなら仕方ないと考えていたが、さらに別の異常が近づいてきたのだ。
悩まないはずがないのである。
「よっしゃぁ! ネット内への進入に成功!!」
「ヴィジュアル的に海が広がっているな。電子の海とはよく言ったものだぜ」
「そうのんきにはしてられんようだぞ……!?」
そうこうしている内に、三人はネット内への進入に成功した様子だった。豪は意識をネット内へと進入させ、残りの二人はスタンドを侵入させたのだ。そのネット内の様子はまるで海で、昭夫が電子の海だと語っていた。だが、そんなところに黒い影が、その近くに現れたのである。
「ようこそ、ようこそ。クックックッ! ようやく来てくれたなぁ! 俺の独壇場、電子の海中へ!!」
「テメェがサイバー攻撃している張本人か!?」
「ヤツもネット世界にダイブ出来るのか!!」
そのネットの海の中で、胡坐をかいて腕を組む一人の男。全身黒の鎧を身にまとい、顔は隠れて見えなかった。男はまるで三人が、ここへやってくるのを待ちかねていたかのような、かなり余裕の態度を取っていたのである。
昭夫はその男を見て、こいつがサイバー攻撃している敵だとわかったようで、意識的に警戒していた。豪はこの男もネットへ進入できる力を持っていることに、多少驚きを感じていた。
「そのとおりよ! 俺はネット世界に意識をダイブさせ、その内部を支配できるのだ!! くたばれ!!」
「ちぃ! 何だこの攻撃は!!?」
この男が言うには、ネットへ進入でき、さらに内部を操ることが出来るらしい。そう説明を終えた男は、突如として背後から空間を開き、ポリゴンで形作られた生物を放出し始めたのだ。一体なんだというのか、その攻撃の意図を昭夫は考えた。
「ブレイン博士! 今度はウィルス攻撃が始まったようです!!?」
「何!? まさか学園の結界を落とすだけでなく、システムそのものまで破壊するつもりか!!?」
男が放ったポリゴンの生物、それはウィルスだった。麻帆良のシステムをウィルスで完全に破壊しようと、男が攻撃してきたのだ。まさかそこまでするとはと、エリックも焦りを感じていたのだった。
原作では結界を落とすことだけを目的としており、麻帆良への直接的な破壊行動は存在しなかった。だが、ビフォアは違う。ビフォアは麻帆良の乗っ取りが目的でり、その障害を破壊することに躊躇いが存在しない。一度破壊して、再び自分好みに改造した方が楽だと、ビフォアは考えているからだ。
「ウィルス攻撃だと!?」
「そうさ! 別に結界を落したままにしておく必要はない! システムを一度ぶっ壊し、俺が新たに作り直せばよかろうなのだ!!」
「そう言うことか!! だがそうはさせねぇぜ!! チリペッパー!!!」
ウィルス攻撃だと聞かされた昭夫たちは、これはまずいと考えた。システムをウィルスに犯されれば、完全に破壊されて復旧すら出来なくなるからである。さらに、修復には時間がかかり、それでは麻帆良の結界の再構築にも時間がかかってしまうだろう。そうなれば麻帆良を危険にさらすことになる。それはあってはならないことだと、豪も焦りながらも考えていた。
しかしビフォア側は違う。結界などの麻帆良のシステムなど、ビフォアには不要なのだ。それは一度破壊して作り直せばよいからだ。また、破壊してしまえば復旧など絶対に出来ない。そうすればビフォアは大きく有利になれるのである。それを全て担うのが、このネットへ進入できる男だ。男はネット内に進入し、麻帆良のシステムにハッキングを仕掛け、攻撃したのだ。
だが、そうはいかない。そうはさせない。昭夫はレッド・ホット・チリ・ペッパーをたくみに操り、そのウィルスへと攻撃を開始したのだった。