理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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スピードワゴン財団があることを忘れてはいけない
転生者が多く麻帆良に住んで居ることを忘れてはいけない


八十四話 祭り

 学園長は木乃香と刹那、そして覇王の報告を聞いて、教会内部で魔法使いを集めて緊急会議を開いていた。また、報告と同時に聞いた作戦を、魔法使いたちに説明していたのだ。

 

 ビフォアの計画は全世界に強制認識魔法を使い、魔法を感づきやすくするというものだった。ただ、その計画で”未来”で確認されただけでも4000を越えるロボの軍団が迫ってくるのである。ビフォアが数を増やしたのは、やはり転生者の存在があるからだ。転生者は強力な特典を持つものが多く、広域破壊を得意とするものも多い。だからビフォアは倒されても減らぬほど、ロボの数を増やしたのだ。

 

 また、4000を越える数の敵を、一般人に魔法が知られぬよう戦うのは不可能に近い。そういうことを考えても、カギが”原作知識”を使って立案した計画は理にかなったものだったのだ。

 

 

 さらに地下に封印されていた6体の巨大な鬼神を改造し、魔力増幅装置として使うという情報もあった。しかし、学園都市には結界が張られており、高位の魔物・妖怪の類は動けないはずなのだ。それを何とかクリアして、動かそうというのだろうが、どういう手を使うかまでは、学園長も魔法使いたちにもわからなかったようだ。

 

 ……ところで吸血鬼たるエヴァンジェリンが、この結界で平気で動いているのは、それを反射する障壁を体を覆うようにして纏っているからである。

 

 

 説明を聞いた魔法先生たちは、確かに麻帆良の生徒たちはお祭り騒ぎが大好きで、結構やるかもしれないと考えたようだ。だから反対意見を唱えるものは、一人としていなかった。

 

 そこで説明を聞いていたアルスも、とうとう始まったのかと思っていた。アルスは一応原作知識がある転生者。こうなることはある程度予想していた。だが、あのビフォア相手に、この作戦を使えるのかと、疑問も感じていたのだった。それでもそう決まったのなら、フォローに回るしかないだろう、そう決意を新たにするアルスであった。

 

 さらにそこで話を聞く転生者がいた。それは錬であった。錬も麻帆良を警備する一人であり、こういう作戦には参加させられていたのだ。錬は機械人形を倒すだけのつまらん任務だという認識だったが、それでも他の転生者が邪魔をしてくる可能性を考慮していた。それゆえ手に力を入れ、この作戦に全力を注ぐことを決めたのである。

 

 

…… …… ……

 

 

 時間が経ちイベント開始前の準備が始まり、カモミールが用意させた魔法具を、参加者に配り始めていた。また、配られた魔法具を試し撃ちする人も現れ、花火のような音が世界樹広場前に広がっていたのである。

 

 

 そしてアスナは和美へと説明しているところへ、カモミールが一人で現れた。このカモミール、とてもアスナが苦手である。何せファーストコンタクトの時に、アスナに握り殺されかけたからだ。だが、ビビってられない事情がある。カギの作戦のために、カモミールはアスナへ話しかけ、それを実行させたのだ。

 

 

「エロオコジョ……。なんで私が仮装する必要があるのかしら……?」

 

「こわっ!? ちょ、殺気抑えてくだせー! カギの兄貴がそう言ったんですぁー!!」

 

 

 その作戦とはただの衣装替えだった。そして、アスナの今の格好は騎士のような装備を身にまとい、とても不満そうな顔をしていた。カギはこの場面でアスナたちが衣装を身にまとって戦うことを思い出し、そうさせようと思ったのだ。まあ、ある程度理由はあるが、半分はカギの遊びである。そこでアスナは律儀に着替えた後、その文句を指令を下したカモミールに怒りをぶつけるように言ったのである。

 

 

「カギ先生が……? じゃあカギ先生をボコればいいのね」

 

「なんでそーなるんっスか!? 理由ならしっかりあるからまずは聞いてくれよ!」

 

 

 カモミールが言い訳のように、これはカギからの命令だと話すと、アスナはならばカギを殴ろうと思ったのだ。それは流石にカモミールも困るので、理由があると身を震わせながら話していた。

 

 

「どうせ碌な理由でもないでしょう……? まあいいわけなら聞いてあげるわ」

 

「そ、それでもいいか……」

 

 

 しかしアスナは、その理由もくだらないことに違いないと思ったらしく、やれやれという仕草であきれていた。さらに悲しいかな、カモミールは理由があると言ったのに、アスナに言い訳だと言われてしまったのだ。まあ、それでも聞いてくれるのであればありがたいと、その蟻ほど小さな慈悲に感謝し、理由を語りだしたのである。

 

 

「……どーせビフォアって野郎にはバレてそうだし、目立つ格好の方が向こうも手出ししずれーはずだぜ」

 

「本当に……? どうかしらねぇ……」

 

 

 その理由とは、ビフォアにはこのイベント自体バレている可能性が高いので、目立つ格好したほうが攻撃されにくいというものだった。だが、それがどうにも信じられないアスナは、本当にそれで大丈夫なのかと思い、目を細めてカモミールをにらんだのである。

 

 

「そ、それにこんな大それたイベントだし、役割として少しぐれー目立つ恰好した方が逆に違和感無く溶け込めるってもんよ」

 

「まあ、そこは確かに……」

 

 

 アスナの冷たい視線にさらされ、身を硬直させるカモミール。それでもカモミールは、新たな理由を話し出した。この作戦として立案されたイベントの役割として、アスナは重要なポジションを担っている。つまり、その役割の目印として、ある程度目立つ格好をしたほうが、かえって怪しまれないというものだった。その説明を聞いたアスナは、確かにそこの部分には一理あると、腕を組んで考えた。

 

 

「まーええやん。こういうのも悪くは無いと思わへん?」

 

「私はこのかほど、ノリがいい方じゃないのよ……」

 

 

 それでもふてくされた顔をするアスナへ、木乃香が笑顔で話しかけていた。木乃香も巫女服の衣装を身にまとっており、クルクル回転したりとはしゃいでいたのである。そんな木乃香の様子を見ながら、ノリがいい娘だと思うアスナだった。また、その後ろでさよも、木乃香のはしゃぐ姿を見て楽しそうに笑っていた。

 

 

「ふーん。なかなか面白い作戦だけど、そのロボ軍団に一般人が相手になるの?」

 

「そこで今配ってる魔法具の出番さ。なんとあの兄貴が思いつき、ゆえっちが魔法界の在庫を探し当てた」

 

 

 そこで和美が作戦を聞いて思った疑問を、カモミールへとぶつけていた。何せ作戦でロボと戦うのは一般人。ロボ軍団相手に一般人が立ち向かえるのか、和美は疑問に感じたのだ。カモミールはその点について、和美へ自慢げに説明し始めた。カギが”原作知識”を使って魔法具を利用することを提案し、夕映がその在り処を探し出したというのだ。

 

 

「さらに覇王の兄さんの担任のジョゼフのじーさんが、スピードワゴン財団に依頼して同じ魔法具を大量に貸してもらってくれたのさ」

 

「スピードワゴン財団……!? その人って何者なの!?」

 

 

 さらに、ここにはスピードワゴン財団が存在した。麻帆良祭の主催者たる雪広コンツェルンに協力する形で、スピードワゴン財団もこの学園祭に関与していた。そのため覇王や状助の担任であるジョゼフのつてで、スピードワゴン財団から探している魔法具と同じタイプのものを貸してくれることになったのだ。

 

 そこでスピードワゴン財団と言う名を聞いて、和美は驚きの表情を見せていた。油田を掘り当てて莫大な財産を築き上げたスピードワゴン財団は、結構有名だったからである。また、その覇王の担任であるジョゼフが、スピードワゴン財団とつながりを持っていることにも驚いていたのだ。

 

 

「まあそこは置いておくとして、その魔法具は自動人形(オートマタ)やゴーレムといった、非生命型の魔法駆動体を活動停止に追い込める専門の魔法具でな」

 

「ほう、そのような物があったのですか」

 

 

 スピードワゴン財団の力を借りれるジョゼフのことは置いておくとしてと、カもモールは話を切って本筋である魔法具のことを話し始めた。その魔法具は自動人形やゴーレムなどの、魔力を利用して動くものの活動を停止させるものだった。今のカモミールの解説に、椅子に座る和美の横に立つマタムネは、関心したような声を出していた。魔力とは違うが、マタムネもまた自らの意思で動くO.S(オーバーソウル)。自動人形やゴーレムと聞いて、何か思うことがあったのだ。

 

 

「世の中何があるかわからねーもんさ。まあ見た目はふつーの杖とかだが、能力はそれ専門で人体にも影響はない」

 

「都合のいい魔法具ねえ……」

 

 

 さらに、魔法具の能力は魔力で動く駆動体の停止専門であり、人体に影響がないという。これにはアスナもあきれた表情で、なんと都合のいい魔法具なんだろうと思ったほどである。

 

 

「話を聞くに、現在の敵のロボは世界樹の魔力で動いているみたいだからな。効果絶大ってワケだ」

 

「世界樹の魔力で?」

 

 

 そして、何故そのような魔法具でロボ軍団と渡り合えるかと言うと、麻帆良祭最終日に投入されるロボが、世界樹の魔力で動いているからだった。世界樹の魔力放出は麻帆良祭最終日、ピークを迎える。それを利用して、ロボを操ろうというものだった。だが、ロボが世界樹の魔力で動くという言葉に、和美はどうしてなのかと思ったようである。

 

 

「おうよ! 敵のヤツは量産しやすいように動力源をケチってるみてーだからな。今日攻めてくるロボ軍団は最終日の世界樹の魔力を利用したヤツで来るようだ」

 

「何かみょーに俗っぽい敵だねー……」

 

 

 また、最終日に投入されるロボ軍団は、生産性を上げるために動力源を世界樹の魔力に依存するものだった。地獄めいた未来の麻帆良で使用されていたロボには、しっかりとした動力源が取り付けられていたが、この日に使われるロボにはそのようなものは搭載されていないようだったのだ。だからこそ、その魔法具でロボ軍団を倒すことが出来ると、カモミールは話していたのである。そのカモミールの話に和美は、敵の妙なケチっぷりに肩の力を落としていたのだった。

 

 

「だから点を突けば、一般人にもロボを相手に出来るってことさ」

 

「しかし、この作戦、相手が一般人へ危害を加えぬことが大前提となっているようだが……?」

 

 

 ビフォアのケチった部分を弱点として、一般人にロボを撃退させる。それこそが作戦の一つだった。だが、その作戦はビフォアの操るロボ軍団が、一般人への殺傷を行わないことが前提になるだろう。マタムネはそのことに引っかかりを覚え、それをカモミールへと聞いたのである。

 

 

「確かにそこが賭けになっちまってるのがな。まあ、信頼できる情報(未来の出来事)ではカタギに触れちゃいねーみてぇだし、何かあればすぐ引かせることにはなってるさ」

 

「こっちも戦力が足りない今、それしか手が無かったのよね……」

 

 

 カモミールもまた指をアゴに当てながらも、それだけはやってみなければわからないと、頭を悩ませていた。ただ、未来の情報にてビフォアは一般人へ危害を加えていない。それを賭けてこの作戦を決行したのだ。さらに、何かあれば一般人を保護し、すぐに逃がす算段だとカモミールは話していた。

 

 アスナも一般人に戦わせることに、少し迷いを感じていた。しかし、相手は多勢に無勢。自分たちだけで何とか出来ない以上、この手を使うしかなかったと悔しそうにしていたのだった。

 

 

「相手の数は未知数だからな……。情報以上の戦力を有してる可能性がある。いや、絶対に存在すると考えたほうがいいぐらいだ」

 

「なかなかどうして。覇王様が言うほどはあるということですな」

 

 

 また、敵の数は未知数。何せビフォアは麻帆良の地下にロボ工場を建造していた。生産が続く限り、いくらでもロボが湧いてくるのである。その工場さえ破壊できればよいが、それもなかなか難しいだろうと、超たちも頭を悩ませていたのだ。何せあっちには強力な存在である、あの坂越上人がいるのだから。だからこそ、ただのロボを相手にする分には一般人を使い、戦力は多いほうが良いと考えたというのもあったのだ。

 

 

「そういえば、この作戦を立案したのってカギ君だよね? よく思いついたなーって思うんだけど……」

 

「なあに、兄貴も色々あったし成長してんのさ! 少し複雑そうな顔してたけど、俺っちもよく言ったって思ったぐれーだぜ!」

 

 

 そこで和美は、この作戦を考えたのはあのカギだということを思い出していた。チャランポランで少し不真面目、さらにバカっぽいあのカギが、このような大胆な作戦を考えられるとは和美も思っていなかったのだ。

 

 だが、そんな和美へとカモミールは誇らしげにカギを褒めていた。銀髪との戦いなどで成長したカギだからこそ、そういう作戦が立てられたのだと。さらに、カギもこの作戦を話した時、少しだったが影が差した表情を見せていた。そのことにカモミールは、カギがかなり成長したのだと思ったのである。

 

 ただ、カギがそんな表情を見せたのは、本来ならばネギが立案するはずの計画を、自分が話したという罪悪感からくるもので、カモミールが考えて居るようなことではなかったが。

 

 こうしているうちに、ビフォアの麻帆良侵略の時間が刻一刻と迫っていた。計画を余裕を持って進行させるアスナたちだったが、この先どうなるかまでは予想がつかないで居たのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 ビフォア打倒に向けたイベントの準備は順調に進んでいた。ビフォアの計画が動く一時間以上前で、すでに参加者の六割が規定の位置への配置を完了していた。このイベントで一般人たちは、防衛する場所が定められている。それは麻帆良に存在する世界樹前広場だ。そこを占領されてしまえば、ビフォアの思う壺となってしまう。だからそこを防衛し、死守しなければならないのである。そして、一般人の大半はその防衛ラインへと、すでに配置についていたのだった。

 

 その場所にアスナと同じように仮装しており、髪をおろし猫耳和風メイドの姿の刹那が立っていた。まほら武道会でアスナと戦った時と同じ姿である。そんな刹那は計画が順調に行って居ることに安堵しつつも、ビフォアの行動が気になっていた。そのことを刹那はカモミールへと追求してみたのである。

 

 

「カモさん、ビフォアがこの状況を見て、暴走したりとかは……?」

 

「うーむ、それが一番怖いが今んところは静かにしてるみてーだし、そうならないよう祈るばかりだぜ」

 

 

 この現状を知ったビフォアが、焦りを感じて暴れださないか、刹那は少し心配になったのだ。そのことにカモミールも、ありえない話ではないと考え、腕を組んで悩んでいた。だが、今はまだビフォアが何もしてこないことを、祈る以外なかったのだ。

 

 

「だが、ヤツの戦力からしてこの程度で暴れる必要もないだろう。それに暴れるなら最初からそうするだろうしな……。まあそれは無いと思いたいところさ」

 

「では、計画を遅らせてこちらを牽制する可能性は……?」

 

 

 ただ、ビフォアが保有する戦力は強大だ。たとえ一般人が戦えるようになったとしても、この程度でビフォアがあせることなどないはずだ。何せビフォアは自分の計画に自身を持っている感じであり、このぐらいのことは誤差の範囲でしかないと思っているはずだろうと、カモミールは予測していた。

 

 だから暴れるならば最初からするだろうし、麻帆良を破壊しつくしただろうと考えたのである。そこで刹那は、ならばビフォアが自らの計画を遅らせて、こちらの混乱を招こうとしないだろうかと考えたのである。

 

 

「それはねーな」

 

 

 だが、その刹那の問いにカモミールは一言で否定したのだ。その否定意見を、どうしてなのかという表情で、刹那はカモミールを眺めていた。

 

 

「大魔法を世界に行き渡らすために時間的制約がある。一時間以上は遅らせられんハズだ」

 

 

 なぜなら強制認識魔法を世界樹の力で世界に拡散させるならば、タイムリミットが存在するからだ。そのタイミングを逃すことは計画上出来ないはずなので、遅らせることはしないだろうというのがカモミールの考えだった。

 

 

「では、逆に計画を早める可能性は?」

 

「……むっ、確かにそいつは充分あり得るな……!」

 

 

 しかし、それならば計画を早めてくるのではないかと、刹那は逆に考えた。カモミールはそれを聞くと、それならありえなくはないと思い、ならばどうするかを考え始めたのだ。

 

 

「念の為、兄貴や旦那たちに行動に移るようにしてもらった方がいいかもしれねぇな! 連絡を!!」

 

「ハイッ……、む!?」

 

 

 そして、カモミールはそうなっても問題ないように、カギやネギに連絡してすぐに動いてもらおうと考えた。それを刹那へと支持すると、刹那はとっさに携帯電話を取り出して、電話をしようとしたのだ。だが、そこで刹那は異変に気がついたのである。

 

 

「どうした!!?」

 

「電話が通じません!」

 

「何!?」

 

 

 刹那の反応にカモミールがおかしいと感じ、何かあったのかを聞くと、刹那は電話が通じないと話したのだ。すでに電波ジャックが行われ、携帯電話の類がまったく使用出来ないようにされてしまっていたのである。そのことにカモミールは驚き、やられたと悪態をつくしかなかったのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 一方そのころ麻帆良湖、湖岸には人溜まりが出来ていた。ネットの情報で敵が湖から攻めてくることを知った人たちである。このイベントには賞金などがあり、敵を倒すことでポイントを稼ぎ、そのポイントの数で順位を決めることになっていた。だからいち早く敵を倒そうと、多くの人たちが情報を信じ、湖岸へとやってきていたのだ。また、参加者たちは全員ローブと杖などを装備し、後はイベントの開始を待つばかりだった。

 

 

「私たちの防衛ポイント、世界樹広場なのに何で湖に居るの?」

 

「フッフッフッ、ネット情報で敵は湖から攻めてくるって噂が流れているのさ」

 

 

 そこへすでに柿崎美砂、釘宮円、椎名桜子の三人も情報を得てやってきており、ポイント獲得のために精を出していた。本来ならば世界樹前広場を防衛するはずなのだが、敵を多く倒したいがために、出現ポイントとなる湖岸に足を伸ばしていたのだ。

 

 

「バンバンブッ殺して賞金ゲットだよん!」

 

「けど、スタートまで一時間以上暇だよー」

 

 

 賞金ほしさに張り切る桜子の横で、開始時間はまだ先だとあきれている円がいた。だが、そうしているところで、突如湖に異変が起きたのだ。

 

 

「おい! 見ろよ!」

 

「なん……だと……」

 

「うお!?」

 

 

 なんということだろうか。まだイベントの開始時間にもなってないというのに、多数のロボが湖から出現したではないか。そして、ロボの軍団がゾロゾロと縦に並び、上陸するさまは恐ろしいものだった。

 

 

「なっ、なんゃ!?」

 

「おおお……」

 

「ちょっ! 何コレーッ!?」

 

 

 その三人もロボの集団を見て、流石に驚きを隠せなかったようだ。何せ大量のロボ軍団が湖から上陸してきたのだ。当然だろう。さらにその数、推定4000を超えるものだった。相手に転生者がいるのだから、数を増やしてかかるのは当然のことだろう。

 

 

「オイオイオイオイッ!?」

 

「こっこんなスゲーなんて聞いてねーぞ!?」

 

「それにまだ開始時間じゃ……?!」

 

 

 また、彼女たち以外の参加者も、この急な事態に戸惑いを隠せないでいた。開始時間でもないのに、突然敵が現れたのだから驚かないほうが無理だろう。また、そのロボの軍団に圧巻され、これほどの相手だとは思っていないものも多かった。

 

 

「ついに始まったか……」

 

「微妙に敵の姿違くね?」

 

「その程度誤差の範囲だ!」

 

 

 しかし、そこで余裕の表情をしながら、武器を構えるものたちがいた。それは転生者たちである。転生者には”原作知識”を持つものも多くいる。その知識と現在の状況を照らし合わせ、ついに麻帆良祭最大のイベントが開始されたことを思い出していたのだ。さらにはこの原作のイベントだけは麻帆良に住んでいれば避けられないと考え、とりあえず戦うことにした転生者も多く居たのである。ただ、彼らが知る敵とは少し違う姿のようで、そのあたりに戸惑いを感じるものもいた。

 

 

「君は行方不明になっていた、マッ○じゃないか!」

 

「確かに似てる! なんでェー!?」

 

「こっちにはメタルク○ラっぽいのもいるぞ!!?」

 

 

 ロボの中には明らかに前世でよく見た姿まで存在したようだ。転生者たちは、そのロボの姿にまさか超の仲間に転生者がいるのでは?と考えた。だが、ここでの敵は超ではなく、転生者本人であり、その考えはあたらずとも遠からずといったところだった。

 

 

「クソー! 敵にも転生者とはやるじゃねーか!」

 

「だが、これじゃどんな攻撃してくるかわからねぇーぞ!!」

 

 

 また、そのロボの姿に戦慄した転生者たちは、そのロボがどんな攻撃をしてくるか恐れていた。本来ならば人体に影響のない”脱げビーム”を撃ってくるはずだが、このロボは本気で殺しにくるかもしれないと思ったからだ。そう考える転生者たちの中で、そんなことなどどうでもよいと我先にと攻撃するものが現れた。

 

 

「ヒャアッ! 我慢できねー! ゼロだ!!」

 

「お前ぇー!?」

 

 

 突然叫びだし、敵へと一直線に駆け出す男が一人。誰かがやめろといおうとしたが、すでに遅かった。その男もやはり転生者のようで、イベント用の武器を構えてロボの集団へと切り込んでいったのだ。

 

 

「ギャースッ!?」

 

「ヤツは犠牲になったのだ……。我々の犠牲にな……」

 

「言っとる場合かーっ!?」

 

 

 しかし、その男は悲しいかな、マックっぽいロボのビームを直撃してしまったのだ。それを見ていた転生者たちは、とりあえずアホだったと思うしかなかったのである。それにしてもこの転生者たち、結構ノリがよい。

 

 

「うおーっ!?」

 

「キャー!」

 

 

 さらに他のロボも攻撃を開始し、他の参加者へとビームを放っていた。その攻撃に直撃を受け、煙の中へと消えてく多くの参加者たちを、誰もが見ていることしか出来なかった。

 

 

「ビームだーッ!?」

 

「し……死んだ!?」

 

 

 また、ビームを見た桜子はそれに驚き、ビームなんて本当にあったんだと思っていた。さらに美砂はビームを受けた人たちが、死んでしまったのだろうかと疑問に思ったようである。

 

 

「うげっ!?」

 

 

 なんと円の横へロボがスーッとやってきて、円は目標として捕らえられてしまったのである。それに円が気づいた時には遅く、すぐさまビーム攻撃を受けてしまったのだ。

 

 

「キャーッ」

 

「円ー!?」

 

 

 悲鳴を上げてビームを受ける円を見て、二人は彼女の名を叫ぶしかなかった。だが、煙が晴れるとそこには元気な円の姿があったのだ。ただ、服はすべて消滅し、パンツ一枚のみとなった姿だった。

 

 

「ぬ、脱げビーム……!?」

 

「なんて恐ろしい攻撃……!!?」

 

「ちょっとー!?」

 

 

 なんということだろうか。このロボ軍団の攻撃方法もやはり脱げビームだったのである。それを受けた参加者の女性たちは大声で悲鳴をあげ、恥ずかしそうに身を隠していた。男性たちはそれを見て、喜ぶものや鼻血を出すものが続出したのだった。そこで参加者たちに武器とローブを失ったものは、すぐにエリアから退出するようアナウンスがされたのだった。

 

 また、転生者たちもそれを見て、とても悲しいようなうれしいような気持ちとなり、ガッカリしながらも安心していた。これでロボの攻撃に殺傷能力がないとわかった転生者たちは、水を得た魚のように攻撃を開始したのである。いやはやなんとげんきんなやつらだろうか。それでも戦力となってくれるだけ、マシなのかもしれない。

 

 

 


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