理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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転生者エリックとは


七十六話 未来の過去

 エリック・ブレインは転生者である。しかし、どこで生まれ、何をしていたかはまったく語られていなかった。そこで今回は、このエリック・ブレインと言う男の話をすることにしよう。

 

 エリック・ブレインは1920年、アメリカのとある町で誕生した。エリックは転生者であり、神から二つの特典を授かって、この世界に生まれたのだ。その特典とはバック・トゥ・ザ・フューチャー(Back.to.The.Future)の登場人物である”エメット・ブラウン博士の頭脳”だった。もう一つは資金稼ぎに黄金律Aと言う、まあ誰もが選ぶ普通の特典であったが。

 

 エリックはその特典どおり、1955年、11月にトイレで頭を打ち”次元転移装置”をひらめく。また、その後愛車にしていたデロリアンを改造し、1985年にてついにタイムマシンを完成させたのだ。ただ、時間移動には膨大な電気を消費し、1.21ジゴワットという電力が必要となる。それを解決すべく、黄金律Aで得ていた資金を使い、エリックは核燃料を手に入れることに成功したのだ。そのため、過激派組織に命を狙われること無く、未来の世界へ移動することが出来たのである。

 

 しかし、このネギま!の世界、たった30年の未来では車が空を飛ぶようなことは無かった。エリックはそれを見てとてもがっかりしたが、ならばさらに先の未来へ行こうと考え、それからさらに遠い未来へと飛んだのだ。そしてようやくデロリアンを単独で飛行させることに成功し、ゴミを原子分解して電気に変換するMr.フュージョンを搭載することが出来た。さらに若返りの手術を行い、肉体年齢を30年ほど若返ることに成功したのだ。エリックはそれでようやく満足し、この世界がどうなっているのかを調べることにしたのである。

 

 

…… …… ……

 

 

 エリックは火星に人が住んで居ることを初めて知ったのは、遠く未来の時代だった。火星進出と言うSFめいたことを聞いたエリックは、すぐさま火星へと向かったのだ。この世界では大規模な地球と火星間の戦争は起きておらず、至って平和であった。ただ、ある程度の小競り合いは存在するらしく、それを制圧する武装組織が存在するようだった。

 

 エリックは火星につくと大層喜んだ。あの赤茶けた星と思っていた火星が、随分人が住めるような環境になっていたからだ。だが、火星の歴史が少し気になり、調べだしたのである。そしてとりあえず火星が安定した時代へとエリックは飛んだのだ。そんな風にその時代から見た過去の火星へ降り立った時、幼いころの超に出会ったのである。

 

 

 超は天才魔法使いのネギの子孫でありならが、魔法を使うことが出来なかった。どんな要因で魔法が使えないのかはわからないが、どういう訳か魔法が使えなかったのだ。科学の進んだ世界にて、魔法など使う必要などあまり無かったが、超はネギの子孫だった。だから魔法が使えないことを許されなかった。

 

 だから強制的に魔法を使える呪紋を、体に刻み付けられるということになってしまった。だが超はそれがたまらなく嫌だった。それを使えば魔法が使えるようになる。しかし、強制的に魔法を使う代償として、痛みを伴うのだ。そんなことをしてまで、魔法を使う必要がどこにあるのか。先祖が凄い魔法使いだからと言って、自分がすごい魔法使いにならなければならないのか。超にそのような考えが頭の中で渦を作り、悩みに悩んで逃げ出したのである。当ても無くただ、逃げるしかなかったのだ。

 

 

 そこで幼い超は周りには何も無い、ただ長く続く道路だけの道を、一人さびしく歩いていた。すると後方から雷が墜落したかのような音が、突如として聞こえたのだ。だが空は青く晴れ晴れとしており、雷など落ちるはずが無かった。超はすぐさま後ろを振り向くと、突然路上が光だした。そしてその光から、一台の車が飛び出してきたのである。すさまじいことに、車がワープしてきたのだ。

 

 その車はすさまじい速度でワープを終えたのか、勢いよく道路へと飛び出していた。しかし、そこで車は急停車し、動くそぶりを見せなくなっていた。停止した車からは白い煙が立ちこめ、周囲は氷らしきものが付着していた。まるで雪山を高速で走ってきたかのように、車体の外装が冷え切っていたのだ。

 

 また、飛んできた一台の車は明らかにこの時代のものではなく、年代モノで今では骨董品レベルの代物だった。それでも周りにはいくつものパーツで改造、補強され、この時代でも通用するような雰囲気が出ていたのだ。する突然その車のドアが機械音と共に上に開き、虹色に輝く派手なバイザーをつけた、白髪の男が出てきたのだ。

 

 

「うおおお!? なんということだ! 見知らぬ少女に見られてしまった!」

 

 

 その白髪の男は、幼い超を見て突然驚きだしたのだ。なぜ男が驚いているのか、幼い超にはわからなかった。だが、変な人だと感じてはいたようだ。そしてその男は頭を抱え、今の現象を見られたことに大きな衝撃を受けていたのである。

 

 そこで幼い超はその車に興味が出ていた。超は元々天才的な頭脳を持っており、この車がなぜ改造されているのか気になったのだ。頭を抱え、どうしたらよいかと独り言を叫ぶ男をスルーし、超はその車内へと身を乗り出していた。すると中も普通の車とは別物となっており、年代をあらわすメーターなどが設置されていたのだ。

 

 超は幼いながらも、その年代が今の年と同じことに気付いた。そして後ろを振り向くと、そこにはYの字型の機械が、定期的に光を発していたのだ。なんと超は、それが何かとてつもない理論から生み出された、先ほどの現象を起こす機械だと言うことに気がついたのだ。車内でそれが何なのかを超が考えているところに、復活した男が声をかけてきたのだ。

 

 

「少女よ、何をしている! これはとても精密な機械でな、勝手にいじられるとひじょーに困るのだが!?」

 

 

 男はとても焦っていた。何せこの車には重大な秘密が存在するからだ。だが所詮は子供、そんなことはわからないと考えていた。だから焦る理由は別にあったのである。勝手に車内の機械をいじられ、壊されたら困ると考えていたのだ。だから男は幼い超を取り押さえ、車の座席から外へと下ろした。しかし、そこで超はその男に、驚くべきことを言ったのだ。

 

 

「ゴメンナサイ。でもこの車、まさかタイムマシンか何かカナ?」

 

「何だとぉ……!?」

 

 

 超は車内に設置された時間を表示したメーターと、そのYの字の機械を見てそれを考察したのだ。そしてそれは正解だったようで、男は目を見開き口をぽかんと開けていた。また超も、自分で言ったことだが、流石に突拍子過ぎたと思っていたが、その男の表情を見てまさかと感じたようだった。

 

 

「馬鹿な! ただの少女がこうも簡単にコイツの機能が理解でるはずがない! だが現に少女はこの車を”タイムマシン”と呼んだぞ!?」

 

 

 そこで男はまたもや混乱したのか、頭を抱えくるくると道路を回り始めていた。その男のあわてようを見た超は、なんだか面白おかしくなって笑っていた。こんな面白いことは本当に久々だった。天才魔法使いの子孫が魔法が使えないだけで、虐げられてきたからだ。

 

 

「もしやこの少女、所謂天才と言うヤツか!? なんということだ! このような幼い少女が天才などと!」

 

 

 男は幼い超を天才と考え、とりあえずそれなら仕方ないと考えた。そしてこの車がタイムマシンだということがバレたのをどうするかを、考え始めていた。何せタイムマシンは夢とロマンと危険が内包された存在だと男は考えていた。もしも過去で大事を起こせば、時空連続体が破壊されて宇宙が滅びてしまう可能性があると思っていたからだ。だが、そんなことよりも男は、別のことが気になった。こんな幼い少女が、なぜ何も無いこんな場所にいるかということだった。

 

 

「……ところで少女よ、こんなところで何をしている? この近くに家があるようには見えないが?」

 

「……家出したネ……」

 

「家出だと!? なんだ親と喧嘩でもしたのか? そういう不良めいたことは、もう少し大きくなったらすべきではないかね?」

 

 

 男はその疑問を超へ打ち明けると、超は家出したと影をさす表情で答えたのだ。その答えを聞いた男は、家出には年が早すぎると思ったようである。だが、超の家出は男が思ったような、単純なことではなかったのだ。

 

 

「私は魔法が使えないネ……。だから魔法を使うようにするて……」

 

「魔法だと!? 確かに未来においては魔法というものが普及していたが、まさか本当にあるというのか!?」

 

 

 超はさびしそうな表情で、自分の状況をエリックへと話し始めた。こんなことを他人に言っても、苦しみや悲しみなどわかってもらえるはずがないと考えていた。だが、なぜか言わないと気がすまなかった。それほどまでに、今の超は追い詰められていたのだ。

 

 しかしエリックは魔法がこの世界に存在することをあまりわかっていなかった。これよりも未来にて、魔法が普及して誰もが使う存在となっているのは知っていた。だが、それでも科学に生きたエリックに、魔法と言う現象はまったく持って理解出来ないものであり、非現実的だと考えていたのだ。

 

 

「……魔法を知らないのカ?」

 

「いや、知らない訳じゃないが、信じがたいと考えているだけに過ぎんよ。なんせワシは科学者だからな」

 

「そうカ……」

 

 

 超は魔法を知らないと言う男に、少し疑問に感じたようだ。何せこの時代でも、ある程度魔法は知れ渡っていた。だから魔法を知らない人間なんて、どこの田舎の人なのかと思ったのだ。その超の質問に、男は丁寧に答えていた。男は別に魔法を知らない訳ではないのだ、ただ信じられない力だと思っているだけなのである。超もその男の答えに、微妙な表情で納得した様子を見せていた。

 

 

「しかし少女よ、魔法が使えないからと言って、なぜ魔法を使えるようにする必要がある? この時代なら科学的にも大抵のことが出来るはずだろう?」

 

「……それは私のご先祖様がかかわってくるネ……」

 

「なるほど、お家柄の事情と言うワケだな」

 

 

 そこで男は、超の先ほどの言葉に妙な引っ掛かりを覚えたようだ。この時代、別に魔法と言うものが便利だとしても、科学の力でどうにでもなると考えたからだ。だから魔法なんて特に無理して使う必要がないと、男は考えたのである。その男の疑問に、超は自分の家の事情だと話した。自分の先祖のせいで、それが必要だとされていると語ったのだ。男はそれを聞いて、それでは口出ししようがないと、腕を組んで考えていた。

 

 そして、超はその男に自分の今の状態を、ゆっくりと語って聞かせたのだ。先祖がすごい魔法使いで、自分がその祖先に当たることを。魔法が使えないことで、一族としては欠陥だと思われていること。だからこそ、無理をしても魔法を使わせようと、企てられていることを、その男へと話したのだ。するとその男は、腕を握り締め、体を震わせていた。

 

 

「なんということだ! それは余りにもひどすぎるではないか! 魔法とは人の役に立つためのものではなかったのか!?」

 

 

 男はその超の現状に、強い怒りを感じていた。こんな少女に無理をさせて魔法を使わせる必要性がどこにあるのかと。未来において魔法の定義は、人のために役立つものだとされていたことを思い出していた。だが、今のそれは明らかに少女を不幸にするようなものだった。それがたまらなく許せなかったのだ。

 

 

「なんで怒るネ……。オジサンには関係ない話ヨ……?」

 

「関係ないかもしれないが、すでに我々は出会ってしまった! だから関係ないと言うワケでもなかろう?」

 

「……そうかもネ。でもどうしようもないことヨ……」

 

 

 超はなぜ、この白髪の男が怒っているのか理解出来なかった。関係の無い赤の他人で、別に男が困ることなんて何一つ無いからだ。しかし男はこう言った。出会ったからには関係が無いと切り捨てられるものではないと。つまりすでに出会い話したのだから、関係ないはずがないと言うことだった。そう言ってくれるこの男に、少し嬉しく感じた超だが、現状を何とかする手はなく、どうしようもないことだと諦めていたのだ。

 

 

「ならば少女よ、ワシと未来へ行かないか? この車をタイムマシンとわかったのだ。ワシは君に興味が出てきた」

 

「……未来に行ても、何か変わる訳がないネ……」

 

 

 なんと男は、超に未来へ行こうと誘い出した。それは超がその車をタイムマシンだと判断した明晰な頭脳に興味が出たからだ。本来ならばあってはならないことだと男は考えたが、ここで少女を捨ててしまうのも心苦しいものがあったのだ。だが超は、未来に行ったところでどうしようもないと考えていた。この現状を打破することなど、未来に逃げても出来ないと考えていたのだ。

 

 

「何を言う! 未来において魔法はごくありふれた存在だった! きっと君の魔法が使えない症状も治せるかもしれないし、別の手で魔法が使えるようになるかもしれんのだぞ!?」

 

「……本当にそうカ?」

 

「ああ、そうだとも! 少女よ、ワシと未来へ行こう! そして明るい未来を手にしようじゃないか!」

 

 

 男は未来で魔法が普及しているのをこの目で確認してきた。それでも魔法と言う存在を認知しなかったのは、ある種の現実逃避だったのだろう。そして魔法が普及した未来ならば、超の魔法が使えないと言う状態を何とか出来るかもしれないと、男は考えたのだ。

 

 超もその未来のことを聞いて、少し元気が出てきたようだ。未来に行けば何とかなるかもしれないと、少しだけ期待し始めていたのだ。そこで男は、未来へ行って魔法を使えるようにして、この暗い現状を打破し、明るい未来をつかもうと、超へ笑顔で語りかけていた。

 

 

「わかたヨ。一緒に未来へ行くネ」

 

「そうか! ならば行くとしよう!」

 

 

 超はそれなら未来に行くと、心を決めたようだった。また、それを男へ言うと、男も嬉しそうに車の方へと移動して、座席へ座ろうとしていた。だが、そこで男は一度停止して、なにやら思い出していたのだ。

 

 

「おっとそうだった、すっかり忘れていたことがあった!」

 

「何カ?」

 

 

 男は突然超へと振り向き、忘れていたことを思い出したと話し出した。一体何を忘れたのだろうかと、超も疑問に感じて首をかしげていた。その男が忘れたことは、些細なことであったが、とても重要なことだった。

 

 

「ワシの名はエリック・ブレイン。ただの科学者だよ。よろしく頼むぞ、少女よ」

 

「私は少女と言う名前じゃないヨ。超、超鈴音ネ。よろしく、ドク・ブレイン」

 

 

 その男はやはりエリックだった。そしてエリックが忘れていたことは、自己紹介だったのだ。エリックが自ら名乗りあげると、超も同じく自己紹介をしたのである。そこで今度こそエリックは車へと乗り込み、なにやら機械をいじりだしたのだ。

 

 

「さあこちらへ来なさい。ワシはまずここから50年後の未来へ行こうと思う」

 

「本当に未来へ行けるのカ?」

 

 

 エリックは座席の中央に設置されたスイッチを入れ、年代が表示されたメーターを変更し始めた。そして今から50年後の未来へと、移動しようと超へと話したのだ。超は本当に未来へいけるのか、少しだけ不安になっていた。だが、エリックは自信満々に、行けると豪語したのだ。

 

 

「ああ、行けるとも! そして君を魔法使いにして、ここへ帰ってきて一泡吹かせようじゃないか!」

 

 

 そこでエリックは、未来で超が魔法使いとなり、一度この時代へ戻ると言っていた。それは超を無理やり魔法使いにしようとした親族に、一泡吹かせると言うことだった。超を魔法使いにしたかった連中が、魔法使いになって帰ってきた超を見たらどんな顔をするか、とても楽しみだと考えたのだ。

 

 また超も、それを聞いてなんだかわくわくしてきたようだ。自分が本当に魔法が使えるようになるかわからないが、そうなればどんなに面白いことになるだろうかと、期待が膨らんできたのである。

 

 

「ならば行くぞ! 少しゆれるからしっかりつかまっているんだぞ!」

 

「わかったネ」

 

 

 エリックが発進の合図を出すと、突如車体が揺れ始めた。それを感じて超が外を見ると、なんと車が宙に浮き始めていたのだ。まさか車まで空を飛ぶとは思って居なかった超は、驚いた表情で再びエリックの顔を見たのである。エリックは超が自分の顔を見ていることに気がついたのか、超の方を振り向き面白おかしく笑って見せたのだ。

 

 

「驚いたか?! これは未来で使われている技術でな、未来ではこれが当たり前なのだよ!」

 

「……これなら確かに魔法いらないネ……」

 

「超もそう思うだろう? 科学はワシら科学者が挑戦し続ければ、出来ないことなど何も無いということだ!」

 

 

 超はエリックの話を聞いて、こんなことが出来る世の中になれば魔法なんて不要なのではと思い始めていた。そう考えて難しい表情をする超へ、エリックは持論を語り始めていた。それは優れた科学者が挑戦の心を忘れなければ、いつか必ず出来なかったことも出来るようになるというものだった。超はそのエリックの言葉に、とても関心すると同時に大きな衝撃を受けていた。必要なのは諦めずに挑戦し続けることなのだろうと、超はそう思ったのである。

 

 

「しっかりつかまれ! 時速140キロに達したとき、時間の壁を越える現象が起こるぞ!」

 

「ウム……」

 

 

 エリックは飛行する車を加速させ、ぐんぐんスピードを上げていった。またエリックは、140キロに達したとき、時間の移動が行われることを、超へと話したのだ。それを聞いた超は、あまり言葉が出なかった。とても気分が高潮し、何を言っていいのかわからなかったのだ。この古ぼけた車には、夢やロマンが詰まっている。さらにそれを現実に体感できることを、すごく楽しく感じていたのだ。そしてエリックが飛行した車を最大まで加速させ、140キロへ到達すると、周りに光が帯び始め、その瞬間別の時間帯へと移動したのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 結果から言おう。超は未来の技術でも、魔法を使うことが出来なかった。何せこのような症例は珍しく、未来の技術でも治療の方法があまり進んでいなかったのだ。だから超とエリックは、渋々と元の時代へ戻り、途方にくれるしかなかったのである。そんな帰路の中、超は暗く落ち込み、すすり泣いてしまったのである。

 

 

「……超よ、すまなかったな。ワシが期待させたばかりに、このようなことになってしまって……」

 

「うっ……、ドクのせいじゃないヨ……。元々私はそうなる運命だただけネ……」

 

 

 エリックは涙する超を見て、とても後悔していた。未来なら出来るだろうと思ったことが、出来なかったからだ。さらに、それで超を期待させてしまい、逆に落ち込ませてしまったからである。超も未来ですら魔法が使えなかったことにショックを受け、呪紋を施されることを運命と思うしかなくなっていたのだった。

 

 そして元の時代へと戻ったエリックは、重い足取りで超を家まで届けるしかないと考えていた。しかし、やはりこのまま届けるのもエリックにはつらいことであり、車を停車させて少し悩んでいたのである。

 

 

「超、今から君を家族の下へ届けようと思うのだが……」

 

「……それしかないネ……。このままだとドクは少女を誘拐した変人になってしまうからネ……」

 

 

 エリックは超へ、家まで送ることを悲しげに話しだした。何と言う不甲斐なさだろうか、何のためにタイムマシンを作ったのだろうか。エリックは自らの無力さにうちひしがるしか無かったのだ。そのエリックの言葉に、超も元気なく答えていたが、自ら帰る意思を見せていたのである。

 

 

「……このまま連れて行ってくれとは言わんのだな……」

 

「……どこへ逃げても同じヨ……。ならありのままを受け入れるだけネ……」

 

 

 エリックは超が、そのまま連れ出してほしいと頼むのではないかと思っていた。だが、超はそれをしなかった。このまま逃げても意味などなく、ここで逃げれば逃げるだけの人生になると思っていたからである。それでも、それでも家に帰るのは、超にとってとてもつらいことだった。

 

 しかし、そこへ一人の少女がエリックが乗る車を眺めていた。それは金髪が美しい、肌が白い少女だった。服装は白いゴスロリドレスを纏い、お姫様のような姿の少女だったのだ。

 

 

「……また少女か。この車が珍しいのかね?」

 

「これはすまない。なかなか奇妙なものを発見したんでな。いまどきこのような骨董品など、なかなかお目にかかれないものだったものでね……」

 

 

 エリックはその少女に、扉を開いて話しかけた。すると少女は面白いものを見たので、ついついじろじろと見てしまったと謝ってきたのである。確かにこの時代では、この車自体が骨董品と言われても仕方の無い年代モノだ。珍しいと感じるのも当然なのだ。

 

 

「しかし、また少女と言ったが、その少女とはそこの少女か?」

 

「まあそういうことになる。しかし、またしても少女にこの車を見られるとは、何かあるのか……?!」

 

 

 その少女は、またと言う言葉に、助手席に座る超のほうを見て、最初の少女とはこの娘のことかと思ったようだ。そこでエリックは二度も少女にこのタイムマシンを見られたことに、何か運命めいたものを感じざるを得なかった。すると少女は、この白髪の男性が人攫いなのかと、ほんの少しだけ疑ってみたのである。

 

 

「なあ貴様、もしかして少女を攫う誘拐犯ではないよな?」

 

「何を言うか! そのようなことは決してしとらんぞ!」

 

 

 少女は本気で人攫いだと思った訳ではないが、ちょっと面白そうなのでからかってみたのである。そうとは知らないエリックは、本気で冗談ではないと思い、叫んで反論していたのだ。また、それを聞いた超も、扉を開けて外へ出てきて、その少女へ文句を言いに出たのだ。

 

 

「違うネ! ドクは人攫いなんか……では……?」

 

「超よ! そこで何で疑問系になるんだ!!?」

 

 

 超はその少女の姿を見て、何かを思い出そうとしていたのだ。だから言葉を途中でやめて、続けなかったのである。だが、それをエリックは誤解したのか、そこで言葉を止めては自分がまるで人攫いのようではないかと、少し怒って叫んだのだ。しかし、超はエリックの叫びが聞こえなかったようで、その少女のことを思い出し、目を見開き驚いていたのだ。

 

 

「あ、アナタは確か……、金の教授……!?」

 

「んん? こんな少女にも私の名が知れ渡って居るのか……」

 

「どうした超? キンの教授とは一体?」

 

 

 超は金髪の少女の姿を見て、それが金の教授と呼ばれるものだということを思い出したようだった。金の教授、つまり、それはエヴァンジェリンのことだった。エヴァンジェリンはこの未来でも有名らしく、非常に名が知れ渡っていたのだ。実際、魔法世界などで子供に言い聞かせる際、大きくなるなら金の教授のようになれ、と言うほどなのである。

 

 

「ドク、この人は魔法世界でも有名な治癒師にして、偉大なる魔法使い、エヴァンジェリンサンネ……!」

 

「何!? それは本当か!?」

 

「おや、そこのジイさんは私のことを知らないのか。面白いことだな」

 

 

 エリックはエヴァンジェリンが有名なのを知らないので、慌てて超がそれを教えていた。また、エヴァンジェリンは幼い超が自分のことを知っていて、老けた男の方が知らないことに、少し面白い現象だと感じていたのである。そして、それを聞いたエリックは、とりあえず今の態度が失礼だったと感じ、謝罪を交えて自己紹介をしたのだ。

 

 

「それは大変失礼した。私の名はエリック・ブレイン。科学者だ」

 

「これは丁寧にどうも。私はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。そこの少女が言うように、金の教授とも呼ばれているよ」

 

 

 エヴァンジェリンも丁寧に挨拶するエリックに、面白い男だと思っていた。さらに謝罪と紹介を受けたエヴァンジェリンは、それならと自己紹介をしたのである。そこでエリックは、超が言うに偉大なる魔法使いらしいので、それなら超のことをエヴァンジェリンに話してみようと思ったのだ。

 

 

「つかぬことをお尋ねしますが、この少女、超と言うのですが、魔法を使うことが出来ないようなのです。なにとぞお力添えをお願いできますでしょうか?」

 

「ほう、魔法が使えない体質か。フフ……、少しばかし懐かしいな」

 

 

 エヴァンジェリンは超が魔法が使えないと聞いて、少しだけ昔のことを思い出していた。それはあのタカミチのことだ。ただ、タカミチとは大きく接点が無かったので、あの無精ひげのおっさん、魔法使えないヤツだったな程度のものだったが。

 

 それでも魔法が使えないと聞けば、やはりあのタカミチを思い出すようであった。そして、それならどうしたものかとエヴァンジェリンは腕を組んで考え始めたのである。

 

 

「ドク! 失礼ネ! 金の教授は魔法の世界で有名ヨ!? 恐れ多いネ!!」

 

「だが有名なほど魔法に精通しているのだろう!? それなら君のことも何かわかるかも知れないではないか!」

 

「そ、それもそうだガ……」

 

 

 腕を組んで考えるエヴァンジェリンをよそに、超はエリックに失礼なことをするなと窘めていた。魔法世界ではすこぶる有名なエヴァンジェリンに、そのようなことを頼むなど失礼すぎると超は思ったのだ。

 

 だが、有名な魔法使いで教授と呼ばれているならば、超のことも何かわかると思ったと、エリックは超へ言って聞かせたのである。超もそれを言われると弱かったらしく、一瞬で勢いを失って黙ってしまったのだった。

 

 

「そうだな、ならこれを使って魔法を使ってみろ。魔法のコードは、”アクセルシューター”だ」

 

「こ、この機械仕掛けの杖デスカ……? わ、わかりましタ……」

 

 

 そこでエヴァンジェリンが考えから戻ったようで、一つの杖を超へと渡した。それはあのデバイスと呼ばれた杖で、エヴァンジェリンが愛用していたS2Uと呼ばれたものだった。そえを受け取った超は、エヴァンジェリンの言われたとおり、その呪文を唱えたのだ。

 

 

「”アクセルシューター”!」

 

 

 すると超のすぐ手前に、桃色の魔法弾が一つ浮かび上がったではないか。それはまさしく魔法であった。それを見た超はとても驚き、それが嘘ではないか確かめるように、何度も目をこすっていた。また、エリックも驚いた様子を見せ、慌ててどういうことかエヴァンジェリンへ聞いたのである。

 

 

「ミス・エヴァンジェリン。これはどういうことなのでしょうか?」

 

「その杖は特殊でな。なにやら魔法を機械的に解釈して動かしているようなのさ」

 

「機械的に? つまり呪文をプログラムか何かで変換しているというワケか!?」

 

 

 エヴァンジェリンはその杖のことを、超の方を見ながらエリックへと説明した。だが、実際エヴァンジェリンはその杖のことを全て知るワケではないので、知っている範囲で話したのだ。その説明を聞いたエリックは、機械的に解釈と言う言葉を考え、術をプログラムで作動させているのではないかと睨んだのである。

 

 

「こ、これは魔法……?」

 

「そうだ、魔法だ。最も、普通の魔法使いが使う魔法とは、別物だが」

 

 

 超はその桃色の弾が魔法だと、信じられずに居た。自分はずっと魔法が使えず、苦労してきたのだ。そう簡単に魔法が使えるワケが無いと思って居るのである。しかし、そこへエヴァンジェリンはそれが魔法だと超へと教えた。そして、それが普通の魔法ではないことも、同時に話していたのである。

 

 

「ああ、その魔法は攻撃魔法だが、魔力ダメージのみを与えるよう設定されているので、外傷にはならないようだ」

 

「そ、そんなことも出来るのカ……!?」

 

「だから普通の魔法ではないと言っただろう?」

 

 

 エヴァンジェリンは次に、その魔法についてのことを超に教えていた。その魔法が傷を負わせるのではなく、魔力でのダメージでショックを与えるということを、超に聞かせたのだ。超はそれを聞いて驚き、今度は少しずつ興奮してきていたのだ。何せこんな魔法は見たことが無い上に、自分が魔法を使えたことを実感し始めていたのだ。そう感じない方がおかしいのである。

 

 

「そうだな、その杖は貴様にやろう」

 

「え……!?」

 

「それはもう、私には不要だ。別にそれが無くても、別のものがあるからな」

 

 

 なんとエヴァンジェリンは、興奮して嬉しそうに魔法を動かす超に、その杖をやると言ったのだ。それには超も驚き、エヴァンジェリンの方へと向きなおしていた。エリックも、このような杖を渡してもよいのかと、少し驚きエヴァンジェリンを見ていたのである。しかし、エヴァンジェリンにはもう、あの杖は不要だった。エヴァンジェリンはあの杖とは別に、新たなデバイスを手に入れた様子だったのだ。

 

 

「ほ、本当にいいのデスカ!?」

 

「ああ、いいぞ。それを楽しそうに使う貴様を見たら、それは貴様に使わせた方がよさそうだと思ってな」

 

「ミス・エヴァンジェリン。本当によろしいので……?」

 

 

 超はエヴァンジェリンがその杖を本気でくれるのか、尋ねていた。こんな謎につつまれた杖を、簡単に見知らぬ自分に渡しても良いのか、不安になったのだ。だが、エヴァンジェリンはその杖を喜んで使う超を見て、その杖を操るなら超の方が良いと考えたのである。また、そこでエリックも、本当にその杖を超に渡してもよいのかエヴァンジェリンへ聞いたのだった。

 

 

「私はクドいのは好きじゃない。私がいいと言ったんだから、ありがたく貰ってくれ」

 

「……アリガトウ、エヴァンジェリンサン……」

 

「ワシからも礼を言わせて貰おう。ありがとう、ミス・エヴァンジェリン」

 

 

 そして超はエヴァンジェリンから杖を貰い、その内部に記録されている魔法を練習した。エヴァンジェリンもある程度、その魔法を超に教え、また静かに旅に出たようだった。

 

 超はそのエヴァンジェリンから貰った杖で、ひたすら魔法を練習した。魔法が使えなかった超にとって、この杖で魔法が使えることはとても嬉しいことだった。エリックも、喜んで魔法を練習する超を見て、頬を緩ませていたのである。

 

 

…… …… ……

 

 

 超はすでにデバイスと呼ばれた杖で魔法が使えるようになっていた。魔法が使えないと言われた超が、突然魔法を使い出したのだ。誰もが驚いたことだろう。そして誰もが文句を言わなくなり、超はようやく自由の身となったのだ。

 

 

 自由になった超は、エリックと共に色々な時代へ渡ったりしていた。そこでまた、色々な冒険があったのだが、ここでは割愛させていただこう。

 

 また、自分も同じように時間を移動するタイムマシンを作りたいと考えるようになった。それはエリックが編み出した理論を使うのではなく、別の理論で作りたいというものだった。だから超は、魔法と化学が混じったタイムマシンの開発に着手したのだ。

 

 そして数年の研究の末、完成させたのが懐中時計型航時機であるカシオペアだったのだ。ただ、そのタイムマシンには欠点があり、数秒や数時間程度ならば、多く魔力を持つ人間に限定されるが移動することが出来る。

 

 しかし、数日や年単位の時間転移には、当然のごとく膨大な魔力を必要としていたのだ。そのため普通の状態では、うまく機能させることが出来ないという欠点があったのだ。まあ、エリックが作った初期のタイムマシンも、膨大な電力が必要と言う欠点があったのだが。そこまで似せる必要は無いだろうと、エリックも面白半分に考えていたのだ。

 

 

…… …… ……

 

 

 カシオペアが完成して喜んで居たのもつかの間、そこで事件が発生した。なんと厳重に保管していたカシオペアが盗み出されたのだ。その犯人はしっかりと変装をしており、誰が誰だかわからなかった。だから犯人を特定するのではなく、その時間に飛んで阻止しようと超とエリックは考えたのだ。そして、その犯人の前に立ちはだかり、戦う姿勢を見せたのである。

 

 

「カシオペアを盗んでどうする気ネ……。使い方なんか知らないダロ?」

 

「……」

 

「一体何が目的なんだ!?」

 

 

 その犯人となる謎の人物は、全身黒尽くめだった。その犯人と対峙する超とエリック。超は使い方もわからずに、どうしてカシオペアを盗むのか気になったのである。そのことを犯人に問い詰めるが、その黒ずくめの犯人は反応すら示さず、黙ったままだった。ゆえに超はこの謎の人物がカシオペアを盗むことを知っていたので、先手で攻撃を仕掛けたのだ。

 

 

「とりあえず様子見ヨ!」

 

「……」

 

 

 超は全身黒の人物へ、平手打ちを放った。それは綺麗に黒の人物の腹部へと入った。そう、入ったはずだったのだ。しかし、その人物は平然としており、なんとも無い様子を見せていたのだ。

 

 

「……!? ど、どうなってるネ!?」

 

「どうした超!?」

 

 

 超は綺麗に決まったはずの平手が、まるで聞いてない様子の人物に驚いていた。そこでエリックも、一体何がどうなっているのかを、超へと聞いていたのだ。だが、そこでその黒の人物は、超を跳ね除けエリックへと吹き飛ばしたのである。

 

 

「アウッ!?」

 

「なっ!? ドワァ!?」

 

 

 なんとその人物は、手を跳ね除けるという行動だけで、超を数メートルも吹き飛ばしたのだ。そしてエリックと衝突し、動けなくなってしまったのである。エリックもまた、今の衝撃でなかなか立ち上がれず、必死にもがいていたのだ。

 

 

「一体何があった!?」

 

「わ、わからない……。命中したのに手ごたえがまるでなかたヨ……。それと今の力も……」

 

 

 何とか体制を建て直したエリックは、超に何が起こったかを再び聞いていた。明らかに超が普通ではない様子だったからだ。そこで超は、先ほどの現象についてエリックに話したのだ。それは超にもわからない不可思議なものだった。まるで手ごたえが無いという謎の現象だったのだ。

 

 

「しかし、こうしてはいられんぞ! 早く奴を追わなければ!」

 

「そうネ……!」

 

 

 だが、こうしているうちに犯人なる人物は、カシオペア奪取に移動していた。超もエリックも急いでその人物の後を追うことにしたのだ。そして何とか追いついた超とエリックは、再びその真っ黒の人物と対峙したのである。

 

 

「今度は逃がさないネ!」

 

「アレを使うのか! それなら大丈夫かもしれんぞ!」

 

 

 超は一本の杖を取り出し、その人物の後ろで構えていた。その杖は機械的なもので、やはりデバイスと呼ばれるものだった。そこで超は、その人物へと捕獲の魔法を使ったのである。

 

 

「”バインド”!」

 

 

 それは光の縄で相手を縛る魔法だった。その光の縄が犯人なる人物に巻きつき、全身を拘束したのだ。これで犯人を捕らえたと一息つく超とエリックだったが、なんとその人物はバインドをたやすく千切ったのだ。

 

 

「そ、そんな……!?」

 

「あのがんじがらめの拘束をたやすく抜けただと!?」

 

 

 今のその人物の行動に、超もエリックも驚きを隠せなかった。超は何重にもバインドで犯人を縛り、身動き一つ取れないようにしたはずだった。だが犯人は、それをいともたやすく破り、簡単に自由になったのだ。エリックもあれほどのバインドが簡単に破られたのを見て、普通ではまずありえないと考えたようだった。だがそこへ犯人の攻撃が、超とエリックへと襲い掛かったのである。

 

 

「ドワアアァァ!? うおおぉぉぉ!?」

 

「クウッ!?」

 

 

 その攻撃は衝撃波だった。しかしとてつもない範囲の衝撃波であり、超もエリックも避けることが出来なかった。とりあえず超はラウンドシールドの魔法で防御したが、それでも防ぎきれず吹き飛ばされてしまったのだ。なんということだろか。超とエリックは今の一撃で、あっけなく吹き飛ばされ、犯人を逃がしてしまったのである。そして、カシオペアが保管されている場所へ急ぐと、すでに犯人の姿は無く、カシオペアも盗まれた後だったのだ。

 

 

「こ、こんなことガ……」

 

「なんということだ! どうしたということか!」

 

 

 カシオペアを再び盗まれた超は、ひざを突いてショックを受けていた。あんなに簡単に返り討ちにあったのもショックだったが、あっさりとカシオペアを盗まれたことの方がショックだったようだ。また、放心する超の横で、逆に慌てふためき頭を抱えるエリックの姿があった。もはや打つ手はなく、その犯人がどこへ行ったのかさえわからなかったからだ。

 

 

「マサカ、こうもあっけなく妨害を突破されるなんテ……」

 

「犯人め、一体あれを何に使うつもりなんだ……!?」

 

 

 超はまず、今の犯人の異常性に気がつき、驚いたようだ。あのバインドの拘束はかなり厳しくしたはずであり、ああも容易く抜け出せるようにはしていなかった。

さらにあの衝撃波は、自分たちを攻撃する以上に吹き飛ばして視界をふさぐような、そんな方向に重点が置いてあったようにも思えたのだ。

そしてエリックも、カシオペアを利用して何を企んでいるのか、気になっていたようだ。

 

 

「しかし、どうするネ……。ここでカシオペアを盗まれたなら、盗難を防ぐ手はないヨ……」

 

「ならばカシオペアを追跡するしかないが、手がかりが無いのが厳しいか……」

 

 

 エリックはそれならカシオペアと犯人を追うしかないと考えた。しかし、犯人の顔もわからず、カシオペアがどこにあるかもわからなかった。超も同じくどうすればよいか、名案が浮かばずに悩んでいたのである。

 

 

…… …… ……

 

 

そう悩み考えながら、超とエリックは元の時代へ戻り一晩を過ごした。そして、その次の朝、超とエリックは新聞でとんでもない記事を見たのである。

 

 

「超よ、これを見てくれ!」

 

「な、なにヨ!? これは……!?」

 

 

 その朝刊の一面には、地球の麻帆良の荒れた光景が映し出されていた。見出しには”またしても麻帆良、破壊者の巣窟”と書かれていたのである。それはなんと麻帆良の住人が、どこかの街を襲撃したと言う内容だった。

 

 

「バカな! 麻帆良は平和で穏やかな街だったはずだぞ!!」

 

「そうヨ! こんなはずがないネ! そうだ、これが麻帆良の特集の記事ネ!!」

 

 

 麻帆良は未来だと近未来都市となって居るが、いたって穏やかな街だった。こんな荒れ果て、賭博飛び交う高層ビルの群れなどではなかったのだ。そこで超は、麻帆良の特集記事を取り出し、エリックと見たのである。すると、恐ろしい現象が起こり始めたのだ。

 

 

「見ろ、超よ! 我々が見ていたページが、どんどん書き換えられていくぞ……!」

 

「麻帆良特集が、別の特集になてしまたネ……!!!」

 

 

 最初は麻帆良特集だったその記事が、突然別の街の特集に変わっていったのだ。この謎の現象に、エリックはハッとした表情をして、突然立ち上がったのである。

 

 

「まさか、超のカシオペアを使って犯人が麻帆良の歴史を改ざんしたのでは!?」

 

「そ、ソンナ!?」

 

 

 エリックは昨日の犯人が、過去の麻帆良へと赴き歴史を改変したと考えたのだ。超はそれを聞いて大層驚き、それなら何と言うことをしたのかと怒りと後悔の念を感じていたのである。

 

 

「超よ! 麻帆良の歴史が載る本をありったけ集めるんだ! それならばどこで改変されたかを調べる必要がある!」

 

「わかたネ、ドク! 今すぐ用意するヨ!」

 

 

 超はすぐさま麻帆良の歴史に関わる書類を集め、エリックとともに必死に過去の資料を漁っていた。そこで数々の新事実と、驚愕の事件を知ってしまったのだ。まず、麻帆良は2003年までは平和だったと言うことを突き止めたのだ。つまり、2003年までは改変されていないと言う事実を突き止めたのである。

 

 しかし、なぜか2003年の麻帆良で何が起こり、どうしてこのような暗黒の都市となったかは、まったく書かれていなかった。明らかに隠蔽されているとしか思えないことだったのである。

 

 だが、もう一つの事実はあろう事か恐ろしいものだった。なんということだろうか、それは超の先祖であるネギ・スプリングフィールドがオコジョになるという新聞記事だったのだ。

 

 

「こ、これは君の先祖ではないかね?!」

 

「ほ、本当ネ!? しかもオコジョになって刑務所へ!!?」

 

 

 その記事にはネギが屈強の男二人に脇を固められた姿の写真に、英雄の息子オコジョになるという見出しだった。それを見た超は、一瞬何がなんだかわからなくなり、気絶しかけたのである。エリックもこれはマズい事態だと考え、どうにかしなければならないと思い始めていた。

 

 

「超よ! これは予想以上にまずいことになった! 確か君は家系図を持っていただろう? それを見せてくれ!」

 

「わ、わかたヨ……。これが私の家系図ネ……」

 

 

 超は家系図を持ってきていた。エリックが過去に何かあった時のために、一応持たせたものだった。そしてその家系図を見たエリックと超は、さらに驚嘆していたのである。なんと家系図の半分が、少しずつ消え始めており、白くなってきていたのだ。

 

 

「こ、この現象ハ……!?」

 

「やはりこうなったか! 君の先祖であるネギ・スプリングフィールドの歴史が変われば、君の家系も変化してしまう! 最悪君が生まれなくなると言う可能性も出てくるぞ!」

 

「な、なんてことダ……」

 

 

 エリックは超の祖先であるネギに何かあれば、最悪超が生まれなくなることを察したのだ。それを証明するかのように、家系図の半分が白くなって消えてしまっていた。これは本当にマズイことになったと、エリックは焦りの表情を見せていた。また、超もこうなってしまうとは思っていなかったのか、顔面蒼白となり体をふらつかせていたのである。

 

 

「とりあえず犯人につながる何かを探し、なんとしてでも歴史を正さねばならん!」

 

「そ、そうネ……! ご先祖様に迷惑かけた上に、自分が消えてしまうのはヒジョーに困るネ!」

 

 

 エリックは本気で歴史を正さなければならないと思った。このままでは麻帆良だけではなく、超が消えてしまうかもしれないからだ。超も自分のせいで先祖であるネギに迷惑をかけ、さらに自分が消えてしまうのは許せないと感じたようだ。

 

 さらに自分の命がかかっていると考えると、本気でこの麻帆良をどうにかしなければならないと考えたのだ。そこで100年ほど前に、この麻帆良が突如暗黒街となったことを突き止めることに成功したのだ。しかし、やはり犯人の顔を見ていないのは大きかったのか、今だ誰が犯人なのか突き止められずにいたのである。

 

 

「いつ改ざんされたかは大体わかったが、犯人につながる手がかりがまるで無い……!」

 

「ここまで調べても、誰が犯人なのかわからないなんテ……」

 

 

 この犯人の手がかりとなるのは、実際すでにあった。それは麻帆良の最高責任者こそが、二人が追い求めている犯人だったからだ。だが二人は犯人の顔すらわからない。さらに改ざんされる前の、本来の歴史に存在するはずの麻帆良の最高責任者など、知る由も無かったのだ。だから二人は犯人が誰なのか、まったくわからなかったのである。

 

 

「ならばとりあえず過去の麻帆良へ行き、犯人を捜すしかあるまい」

 

「それしかないカ……。犯人が麻帆良に確実に居るなら、それに越したことはないネ……!」

 

 

 ならば、過去の麻帆良へと戻り、その犯人の手がかりを探すしかないと、超とエリックは考えた。だが、そこである疑問が浮かび上がった。どうやって犯人は、カシオペアで100年以上過去の麻帆良へと飛んだのかということだった。

 

 

「しかし、どうやって犯人はカシオペアでこれほどの時間を遡ったのだ? 確かカシオペアは魔力を使って時間跳躍を実現する装置だったはずだが……?」

 

「そうネ。カシオペアは魔力を使って時間を飛ぶタイムマシンヨ。魔力の量で飛べる時間の幅が変わるネ」

 

 

 懐中時計型航時機カシオペアは、魔力を利用して時間跳躍するタイムマシンだ。魔力の使用量に応じて、飛べる範囲が決まっているのだ。数時間単位の時間跳躍程度なら、魔力の多い人間ならば自らの魔力を利用して飛ぶことが出来る。しかし、年単位の跳躍となると、それ以上の魔力が必要であり、人間一人では到底不可能なことだったのだ。

 

 

「もしかして、今起こっている麻帆良の世界樹の発光現象カ……!」

 

「あの22年周期に訪れる、有名な発光現象か……! 確か今の時期に発生していたが……」

 

 

 魔力が必要なら外部から入手すればよい。超はそれを考えて、使うならば世界樹から発せられる膨大な魔力を使うと考えた。それは22年周期で発生する、世界樹の大発光現象だった。また、それの時期がもう間近に迫ってきており、それを利用するのだろうと考えた。エリックもそれなら間違えないだろうと思ったようだ。

 

 

「とりあえず、過去の麻帆良へ行くとしよう! 話はそれからでも遅くは無いはずだ!」

 

「そうネ! 頼んだヨ、ドク!」

 

「任せておけ!!」

 

 

 そしてエリックはネギが捕まったと記された新聞記事を、超は自分の家系図を握り締め、再びエリックの開発したタイムマシンへと乗り込んだ。何とか犯人を捕まえ、麻帆良を元に度すことを決意し、エリックはタイムマシンを加速させ、時間移動を始めたのだ。

 

 超もまた同じく、自分が作ったタイムマシンでこうなったのなら、決着は自分でつけなければと考えていた。そして、そう二人が考えているうちにタイムマシンは光の渦へと消え、2001年のまだ平和な麻帆良へと飛んだのである。

 

 その後2001年に飛んだ超とエリックは、こっそりと住居を構え、アジトの建造に取り掛かった。また、超はエリックに内緒で麻帆良学園女子中等部に入学したのだ。まあ、エリックにそれがばれて、超は相当叱られたであるが。

 

 こうやって麻帆良になじみながらも、エリックと超はこそこそと犯人であるビフォアを追跡していたのだった。

 

 

 

…… …… ……

 

 

転生者名:エリック・ブレイン

種族:人間

性別:男性

前世:70代の技術者

原作知識:なし

能力:発明

特典:バック・トゥ・ザ・フューチャーのエメット・ブラウンの頭脳

   Fateのスキル、黄金律A

 




超はどうして呪紋を使わないと魔法が使えなかったのだろうか
詠唱が出来ない体質だったとか、精霊を操れない体質だったのか……
どちらにせよ、魔力は超自身のものという設定です

あと、いまさらですが、リリカルなのはのデバイスはリンカーコアが無いと使えないのですが
ネギまの世界にあわせて魔力を精製できる人ならば使えるという解釈です

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