理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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もうすぐ二日目が終わる


七十二話 親

 辺りは暗くなり、月明かりが照らす時間となったころ。麻帆良祭ではパレードが開かれていた。闇の染まった空を、パレードの行列で照らされていたのだ。そのパレードをアスナはメトゥーナトと眺め、今日の疲れを吹き飛ばしていた。メトゥーナトもそのパレードを見て、よく出来てると考えていたのである。

 

 

「思った以上によく出来ているな。なかなか見ごたえがあるというものだ」

 

「本当、気合はいってるわね」

 

 

 このパレード、とてもよく出来ており、すばらしいと呼べるものだった。そんなパレードを眺め、二人はのんびりしていたのだ。だが、そこでメトゥーナトの携帯電話が鳴り響き、パレードの音にまぎれたのである。

 

 

「おっと、すまない。部下からのようだ。少し席をはずすがいいか?」

 

「それじゃ、しょうがないわね。私はあっちで待ってるから、いってらっしゃい」

 

「すまない。すぐに戻る」

 

 

 その着信はメトゥーナトの部下からだった。特に大きなことは今のところ起こってないはずなので、定期連絡だろうとメトゥーナトは思ったようだ。そこで席をはずすことをアスナへ伝えると、アスナはモアイのモニュメントがある場所で待機していると言ったのだ。それを聞いたメトゥーナトはアスナへ謝罪を入れ、メトゥーナトは人気のない場所へと移動していったのである。また、メトゥーナトを待つアスナを発見したものがいた。それはあやかだったのだ。

 

 

「あら、アスナさん。ここで何をしているので?」

 

「いいんちょこそ、どうしたの?」

 

 

 アスナは特にあやかから文句を言われず、純粋に何でここに居るのかをたずねられていた。それはアスナがしっかりと、この日を空けていたからだ。そしてアスナも、あやかへ同じ質問をしていたのだ。まさかここで会うなんて、思っていなかったからである。

 

 

「こちらは客人をお呼びしての晩餐会ですわ。久々に家族で集まって……」

 

 

 と、そこであやかは言葉を切った。なぜならアスナには、血のつながった家族がいないからである。それを考慮して、今の発言はうかつだったと思ったのだ。

 

 

「あ、ごめんなさい。私としたことが……」

 

「別に気にすることないわよ」

 

 

 そこであやかはアスナへと謝っていた。今の言葉、失言だった。配慮不足だったと感じたからだ。だが、アスナはその程度のことを気にするような人ではなかった。

 

 

「むしろ家族で思い出したんだけど、弟さんは元気にしてるの?」

 

「ふふ、元気にしてますわ。私も久々に会うのが楽しみですのよ?」

 

 

 さらにアスナは家族と言う言葉で思い出したのか、あやかの弟のことを尋ねてみたのだ。生まれる前に死にそうだと、あれだけ騒いだ弟なのだ。そしてあやかはそのせいか、随分弟を可愛がっている。それをアスナは知っているので、元気なのかと思ったのである。そんなアスナの質問に、あやかは元気にしていると笑顔で答えていた。さらに久々に会えるということで、本当に楽しみにしてる様子だったのだ。

 

 

「いいことじゃない。会えるってことは、いいことね」

 

「そうですわね。そう聞くと、なんだかあの時を思い出しますわ……」

 

 

 その答えにアスナも、会えるのはいいことだと、微笑み返して話したのだ。また、会えるということで、あやかは小学校の頃を思い出していた。それは弟の命が危ういことを知った時、あの無表情で無愛想がデフォルトだった時のアスナが、励ましてくれたことだった。

 

 

「あの時のことは今でも忘れませんわ。そして今でもアスナさん、あなたに感謝してますのよ?」

 

「んー。感謝されることをした覚えがないんだけど……」

 

 

 あの時、祈ろうと言ってくれたアスナに、あやかはとても感謝していた。そして自らを医者と名乗った男性へ、勝手ながら事情を説明してくれたことにも、少し恩をも感じていた。アスナが医者と名乗った男へ説明してくれなければ、きっと弟は生まれてこなかっただろうと思っているからである。

 

 だが、アスナは感謝されることをした覚えがないと、腕を組んで言葉にしていた。アスナもあの時のことは明確に覚えており、自分が何をしたかはっきりわかっていた。しかし、アスナは基本的に自分が悲しいと思うことを、他人にも起こってほしくなかったのだ。だからアスナは祈ろうと言ったし、医者の男に説明をしたのである。

 

 

「素直じゃありませんわね……。ところでアスナさんこそ、オシャレなんてしてどうしたんですの?」

 

「ああ、これ? んー、別になんでもないけど……」

 

「ウソをおっしゃい! 理由もなくオシャレするはずがありませんわ!!」

 

 

 そこでようやくあやかは、アスナへ自分の質問をぶつけたのだ。あのアスナがオシャレしているのだ。疑問に思わないはずがないのである。

 

 そこでアスナはその質問に、理由はないと答えていた。実際は親代わりであるメトゥーナトを安心させるためと言う理由があった。だが、やはり人に話すのは恥ずかしかったので、あえて黙っていることにしたのだ、

 

 そう言うアスナに、流石にそれは無いだろうと、あやかはそう思って叫んでいたのだ。理由なくオシャレなどするはずもない。何せオシャレするのには、何らかの理由があるはずだからだ。ゆえに、なんでもないなんてことは絶対にありえないと、あやかは思ったのである。

 

 

「ハッ! まさか誰とデートを!? ネギ先生……は流石にないでしょうし……」

 

「だから、そういう訳じゃないわよ……」

 

 

 アスナが本当のことをしゃべらないので、あやかは勝手に誰かとデートだと思い込んだようである。そしてあやかは誰が相手なのかを、指を顎に当てて考察し始めたのだ。

 

 まずネギだと考えたが、それはまずありえないと切り捨てた。確かにアスナとネギは仲が悪い訳ではない。しかし、これと言ってすごく良いという訳でもないからだ。

 

 また、そう邪推するあやかに、アスナはまったく違うと、少しあきれながら言葉にしていた。アスナにはデートに誘いたい相手がいないし、誘ってくれるほどの相手もいない、そう思っているからだ。

 

 

「……まさか……、あのリーゼントの東状助さん……ではありませんこと?」

 

「は? ギャグ?」

 

 

 そこであやかはハッとして、まさかあの状助ではないかと勘ぐったのである。それをあやかはハッキリ言うと、なんとアスナは一言で切り捨てたのだった。もっと大きなリアクションがあっても不思議ではない答えだったというのに、一言のみで終わらせたのだ。

 

 

「……そう反応されると、むしろ彼が可愛そうですわ……」

 

「話を振ったのはそっちでしょ……?」

 

 

 その無反応さにあやかは、流石にそれでは状助が可愛そうだと思ったようだ。だからあやかは、可愛そうにと言葉をもらしていたのである。しかしその話を始めたのはあやかだと、悪びれない様子でアスナは言っていた。いや、これはもはやどっちもどっちである。きっと今頃状助は、くしゃみをして鼻水をすすっているに違いないだろう。

 

 

「ま、まあそれは置いといて、本当はどうなんですの?」

 

「別に、いいんちょが考えるようなことじゃないって」

 

 

 そしてあやかは今の話を無かったことにし、本当のことを聞きだそうとしていた。しかし、やはりアスナは本当のことを話さない。特に隠すほどの理由でもないが、やはりちょっと恥ずかしいからだ。だから、とりあえずあやかが邪推するようなことは一切ないとだけ、キッパリ断っておいたのである。

 

 

「それにいいじゃない。たまにはこういうのも」

 

「ふーん? まあ、そういうことにしておいてあげましょう」

 

 

 さらにアスナは、別に自分が普段しないようなオシャレをしても、悪い訳じゃないでしょうと、あやかへ話した。たまには自分だってオシャレの一つや二つすることもある、そういう意味もこめてアスナはそれを言葉にしたのだ。

 

 あやかもそれを言われてしまうと、納得せざるを得なかった。こういう祭りの真っ最中だし、普段しないオシャレぐらいしてもおかしくはないかも、と思ったのだ。それにあやかも、これ以上聞いても話してくれそうにないと判断し、しかたなく本当の理由を諦めたのだった。

 

 

「あっ、私はそろそろ集まりへ戻りますわ」

 

「何か話し込んじゃって悪かったわね」

 

「別にあなたのせいじゃありませんわよ?」

 

 

 そこであやかは随分アスナと長く話していることに気が付き、流石にそろそろ自分も家族の下へ移動しようと思ったのだ。アスナも、あやかを引き止めるようなことをして、悪かったと、ひっそりと謝った。

 

 するとあやかは別にアスナのせいで話が長くなった訳ではないと、素直に話した。こうなったのも全部自分のせいであり、アスナへの疑問を聞いている間にこんな時間になったと、あやかは思っていたのだ。

 

 

「そう?」

 

「私が話し込んでしまったのが悪いんですもの」

 

 

 アスナはそうなのだろうかと、疑問の言葉を漏らしていた。あやかはそこでさらに、自分から色々聞いてきたのだからと、アスナへ苦笑して説明したのだ。

 

 

「まあ、私はもう行きますわ! ではまた明日」

 

「うん、また明日ね」

 

 

 しかし、こうしている間にも時間は流れている。あやかは流石にもう行かなければと、少しずつアスナから離れながら、明日会いましょうと別れを告げた。アスナもそれを聞いて、手を高く伸ばしてまた明日会えたならば、と受け答えを元気よくしたのであった。

 

 

「すまない、待たせた……」

 

「別に丁度よかったわ。今いいんちょと話し終わったところだったし」

 

「そうか……」

 

 

 そして、丁度よくあやかがアスナから見えなくなった当たりで、メトゥーナトが戻ってきた。だが、自分が予想していた時間よりも遅れたことで、メトゥーナトはアスナへと一言謝っていたのである。アスナはその謝罪を聞き、むしろ丁度よかったと、表情を緩ませて話したのだ。メトゥーナトはその言葉で、少し安心したようだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 そこは高台のような場所で、まるで砦の頂上のようだった。その場所からは夜の闇と、それを照らす麻帆良を一望することが出来、綺麗な夜景が辺り一面に映し出されていたのだ。人もそれほどいないようで、とても静かで夜風が気持ちの良いところであった。

 

 そんな場所に、メトゥーナトとアスナの姿があった。アスナはその美しい夜景を、嬉しそうに眺めていた。またメトゥーナトは、その喜ぶアスナを見て、固い表情を緩ませていたのである。

 

 

「夜の麻帆良って綺麗ね」

 

「そうだな……」

 

 

 アスナは夜景の光景に、とても感激していた。随分この麻帆良に滞在しているが、いつ見ても美しいと思えるものだったからだ。その横に佇むメトゥーナトも、その美しい夜の麻帆良に、色々思うことがあるようだ。そもそもメトゥーナトがここに居るのは、危険な転生者の対策である。だから、この麻帆良が美しいままであることに、とても喜ばしいことだと思っていたのだ。するとアスナはメトゥーナトの方を改まって向き、なにやら言いたそうな表情をしていた。

 

 

「あの……、来史渡さん……」

 

「どうした? 突然改まって……」

 

 

 アスナは少ししおらしくしており、両手をつなげ、背中に回して何かに戸惑っていてた。妙に照れくさそうにするアスナに、メトゥーナトはどうしたのかと思ったようだ。

 

 

「えっと……、前々から思ってたことがあるの……」

 

「ふむ……?」

 

 

 何か言いたくて仕方のなさそうなアスナは、前々から思っていたことがあると言っていた。それが何なのかわからないメトゥーナトは、疑問に感じてそのアスナを眺めていた。なかなか踏ん切りのつかないアスナは、もごもごと口を動かし、どうしようか迷っていたのである。

 

 

「うー……。ねえ、来史渡さん……。いえ、メトゥーナトさん……」

 

「……なんだ?」

 

 

 アスナは少し頬を染め、モジモジと体を揺らし、銀河来史渡と言う偽名ではなく、真の名であるメトゥーナトと呼んでいた。また、その名を呼ばれたことで、何かを感じたメトゥーナトも、真剣な表情でアスナの方をしっかり向いていたのである。そこで意を決したのか、アスナはスカートのすそを握り締め、その言葉をハッキリと発したのだ。

 

 

「メトゥーナトさん。私はずっと前から、あなたを父と呼びたいと思ってた……」

 

「……アスナ……?」

 

 

 それはメトゥーナトを、父親として接したいという、アスナの強い想いだった。救出してくれてから、ずっと付き添ってくれたメトゥーナト。彼は自分をいつだって見守ってくれていた。悪いことをすればしっかり叱ってくれた、良いことをすれば必ず褒めてくれた。それはまるで、本当の父親のようだと、前からアスナは思っていたのだ。

 

 もう100年ほども前のことで、自分の本当の父親など覚えていない。それに、きっと自分を兵器にしてしまうような人間なのだから、どんな理由があったにっせよまともだったとは思えない。だけど、そんな自分を本当の父親のように接し、悩み、必死になってくれたメトゥーナトに、アスナは父と呼びたいと強く願っていたのだった。

 

 それを聞いたメトゥーナトは、時間が停止したかのように、動かなくなっていた。最初は皇帝の命令で、アスナを救出した。全ては皇帝の命令から始まったことだった。さらに大人の都合で、随分アスナを振り回してしまった。だから、どんな理由があれ、そんな風に呼ばれる資格はないと、メトゥーナトは考えていたのだ。

 

 

「……だから、メトゥーナトさん。パパって……呼んでいいか……な?」

 

「……アスナ……」

 

 

 アスナはメトゥーナトに、パパと呼んでいいかと、そう聞いていた。照れた表情で、少し涙ぐんだ瞳でメトゥーナトの顔を覗き、そうしたいと言っていた。それをアスナが言い終えた後、六月の冷たい夜風が、二人を包み込んだのである。

 

 だが、メトゥーナトは、その返答にどうすればよいか迷っていた。

この騎士たる自分が、そう呼ばれて良いのだろうか。呼ばれるに値することをしてきただろうかと、思考の渦に沈んでいた。それはとても嬉しいことだ。しかし、そう呼ばれるなどおこがましいのではないかと、そう思っていたのである。

 

 

「……駄目だ……。わたしは君に、そう呼ばれる資格などない……」

 

「……どうして? 血がつながってないから……? メトゥーナトさんが皇帝陛下の騎士だから……?」

 

 

 そこでメトゥーナトが下した判断は、それは出来ないと言うことだった。やはり自分には、そう呼ばれるに値しないと、メトゥーナトは厳しい判断を下したからだ。それを聞いたアスナは、なぜ駄目なのかを、何度も問いただしていた。血のつながりが無いからなのか、メトゥーナトが皇帝の部下だからなのか、それとも……。アスナはそれを聞くたびに、瞳から大粒の涙をこぼしていた。どうしてなのか、悲しく感じていたのである。そう涙するアスナを見て、メトゥーナトは沈痛な表情をし、正直に答えようと思ったのだ。

 

 

「そうではない。だが全ては皇帝陛下の命からはじまったことだ。それに、君を大人の都合で振り回しているのもわたしだ。だから、君にそう呼ばれる資格は、このわたしにはない……」

 

「……別に、資格とか要らないじゃない……。気に……しすぎよ……」

 

 

 メトゥーナトは、本当に申し訳なさそうに、そのことをアスナへ話した。だが、それを聞いたアスナは、やはり資格とかそういうものは必要ないと、言葉にしていた。そして、メトゥーナトが細かいことを気にしすぎていると、涙を拭きながら話したのだ。

 

 誰かの命令ではじまったなら、魔法無効化を利用された時から、似たような目にあってる。大人の都合で振り回されるなんて、何度も体験したことだった。そんな過去のことに比べたら、今の大人の都合はなんと優しいことだろうか。自由を与えられ、生きる実感を得た。色々貰った。与えられた。だからメトゥーナトが、それを罪だと思う必要などないと、苦しむ必要はないとアスナは本気で思っていたのだ。

 

 

「……本当にメトゥーナトさんは、堅物なんだから……」

 

「う……む……」

 

 

 アスナが昔から思っていたことだが、メトゥーナトはいちいち気負いすぎる。何かと自分を責め、苦しみ悩むのがメトゥーナトの悪い癖だった。まあ、それで少しイジったりしたのも、アスナなのではあるが。だから、もう少しやわらかくなって、気にしないようにすればよいと、そうずっと思ってきていた。また、堅物と言われたメトゥーナトは、返す言葉が思い浮かばないようで、その後何も喋らなくなっていた。

 

 

「……そういうものを含めて、私はあなたをパパと呼びたいと思った。だから……」

 

「……アスナ……」

 

 

 メトゥーナトが何を思い、何を考えて動いていたかなど、アスナは大体わかっていた。また、それでどれだけ悩んでいたか、苦しんでいたかもわかっていた。ゆえに、アスナはそれを全て受け入れてでも、メトゥーナトを父親と呼びたいと思ってきたのだ。

 

 そのアスナの言葉に、メトゥーナトは悩んでいた。だが、それならアスナの好きにさせても良いのではないかと、そう考え始めていた。自分がアスナにしてやれることなど、ほとんどないのだから。そのぐらい許してあげても、良いのではないかと、そう思い始めていた。そして、そう自分が呼ばれてアスナが嬉しいと思うなら、むしろ喜んで引き受けるべきだと、そう答えを導き出したのだ。

 

 

「……わかった……。アスナが好きなように呼ぶといい……」

 

「……メトゥーナト……さん……?」

 

「わたしが君に出来ることは少ない。ならば、そのぐらい自由させてあげないとな……」

 

 

 ならば、アスナが呼びたい好きな呼び名で、呼ばれよう。メトゥーナトはそう、静かに、語りかけるように答えたのだ。その言葉にアスナは少し驚き、涙で赤くなった目を、メトゥーナトに向けていた。そこでメトゥーナトは、自分の今の考えを、アスナへと話した。それは本当に固い言い訳のような、不器用な言葉だった。

 

 

「……本当に固いんだから……。でも、ありがとう……()()……」

 

「……どういたしまして……」

 

 

 そしてアスナは少し涙を目にためながら、満面の笑みでメトゥーナトをパパと呼んだ。さらに、そのままアスナはメトゥーナトに抱きつき、甘え始めたのである。そんなアスナの頭を、メトゥーナトは優しく静かになで、普段はしないようなやわらかい笑みを浮かべていたのだった。

 

 

「……ところで、言いにくいことなのだが、先ほどからこちらを見ているものが居てな……」

 

「……え?」

 

「アスナの友人だろう?」

 

 

 メトゥーナトは、その甘えるアスナに誰かがこちらを見ていると言ったのだ。アスナはそれにハッとして、周りをキョロキョロと眺めていた。そう慌てるアスナに、メトゥーナトは指を指し、そちらの方に居るとアスナへ教えたのである。

 

 

「あ……刹那さんと楓ちゃん……」

 

「恥ずかしいところを見られてしまったな」

 

 

 アスナはその二人に今の光景を見られ、顔を見る見る赤く染めていった。流石にメトゥーナトに抱きつき甘え、あまつさえ頭を撫でられたところを見られたのだ。恥ずかしいなんてもんではないだろう。そう照れてどうにかなりそうなアスナを、メトゥーナトは微笑ましいものを見る目で眺めていた。

 

 刹那は世界樹パトロールが終わったところで、丁度アスナとメトゥーナトが並んで歩いているのを目撃したのだ。そこでアスナとメトゥーナトが、なんだか良い雰囲気だったので、少し気になって覗きに来たのである。また、楓も刹那から頼まれ、その手伝いをしていたようで、刹那についてきた形だったのだ。

 

 

「……もう! 二人とも何してんのよ……!!」

 

「あ、アスナさん……。も、申し訳ありません!」

 

「拙者は刹那についてきただけでござるよ」

 

 

 そしてアスナは刹那と楓の方へと、怒った表情で走って行った。また、そこですかさず刹那が覗いていたことを謝り、楓は今の光景をしみじみと思いながら、しれっと刹那のせいにしていた。そんな三人をメトゥーナトは眺めながら、ほっこりしていたのだった。

 

 そこでメトゥーナトは、そっと仮面を懐から取り出し、それを顔へと持っていき装着した。メトゥーナトは仮面の奥から覗く瞳で、眺めていた二人にプンプンと煙を出して怒るアスナを眺め、ふと昔のことを思い出していたのである。

 

 

 最初、本当に最初見たときは、とても痛々しい状態だった。何とか助けたいと思ったのは、同情だけではなく心の奥底から思ったことだ。皇帝に助けて来いと言われた時は、身震いしたほどだった。あの寂しげに幽閉される、飛べぬ雛を救いたいと、願っていたからだった。

 

 彼女を助けた後、紅き翼と共に旅をした。表情を表に出さぬ少女だったが、内心色々思っていたことだろうと考えていた。その後一人、また一人と散り散りになる紅き翼を見ていた少女が、悲しみに包まれていることもわかっていた。だから悲しむことはないと、何度も励ましたものだと思い出していた。

 

 さらにナギすらも居なくなり、そこでガトウが重傷を負った時、初めて少女は涙を流した。それを見た自分は、嬉しさ半分悔しさ半分と言う複雑な心境だった。そこでガトウを治療したら、ガトウに泣きついていた。まったく、こんな少女を泣かせたガトウは、とても罪な男だと、あの時はそう感じたのだった。

 

 その後は旧世界を旅し、色んな場所を少女に見せてきた。さまざまな自然現象や自然が織り成す美しい世界を、狭い世界に居た少女に見せてやりたかった。そして皇帝の命により、この麻帆良で生活するようになって、少女は少しずつ色々なものを集めていった。

 

 ゆえに今のアスナが居る。ああやって友人に叫び、そして笑うアスナが居る。そう、メトゥーナトは思い出しながら考えていた。また、時間が立つのは早いものだと、しみじみと思っていたのだ。だが、そんなところへ一人の男性がやって来ていた。それはあのアルビレオだったのだ。

 

 

「おや、とうとうパパと呼ばれるまでになりましたか。うらやましいものですね……」

 

「……クウネルか……、勝手に羨ましがるがいい……」

 

 

 そこでアルビレオは、メトゥーナトがパパと呼ばれたことを羨ましがっていた。あんな美少女、しかも魔法世界のお姫様からパパだなどと、とうとう堕ちる所まで堕ちたかと、アルビレオは思い笑みを浮かべていたのである。メトゥーナトは、どうせどこかで一部始終を見ていたのだろうと思ったのか、少し機嫌悪そうに、答えていたのである。

 

 

「ええ、とても羨ましく思います。あの固い騎士で剣一筋だったあなたが、よもやそこまでの偉業をなしえるとは、と……」

 

「……半分以上皮肉にしか聞こえないが……」

 

 

 さらにアルビレオは、普段の笑みを浮かべ、挑発的な発言を繰り広げていた。父親と呼ばれたことを偉業と言い、メトゥーナトをからかっていたのである。だが、メトゥーナトもある程度アルビレオの扱いに慣れている。だからこそ、皮肉ばかり言ってるなあ、と思う程度でしかなかったのだ。

 

 

「……タカミチには挨拶してやったのか?」

 

「先ほど会いましたよ。と言うよりも大会で何度も見合わせて居たはずなんですがね……」

 

「バレないように注意していたんじゃないのか……?」

 

 

 そこでメトゥーナトは、アルビレオにタカミチにも挨拶したのかと、冷めた視線で語りかけていた。アルビレオも一応タカミチに接触し、多少話はしたようだ。しかし、その前にまほら武道会でニアミスしていたので、気がつかれなかったと話したのだ。それを聞いたメトゥーナトは、アルビレオが正体をばらさない工夫をしてたのではと思ったようだ。

 

 

「いえ、何もしてませんよ。ただ、タカミチ君はあの時は、ネギ君に御執心だったようで、私など眼中になかったようです」

 

「そうか……」

 

 

 アルビレオは特に自分を隠そうとはしていなかった。だがタカミチはネギの方に気が集中してしまっていたので、アルビレオには気がつかなかったらしい。メトゥーナトも、一言つぶやいただけで、それ以上は言わなかった。しかし、流石にそりゃねーだろ、と内心思っていたりもしていたのである。

 

 

「まあ、途中で気がついていたみたいでしたが、彼も忙しかったようでしてね。会話が出来たのがつい先ほどになってしまったと言うことです」

 

「ふむ、確かに今回の騒動で、あわただしい様子だったな」

 

 

 仮面の奥から微妙な表情をするメトゥーナトに、アルビレオは気がついたようだ。そこでアルビレオはタカミチのフォローへと回っていた。と言うのも、流石に重力魔法をバンバン使ったり、坂越上人へ攻撃を仕掛けたのだから、その時気がつかない方がおかしいのである。ただ、タカミチは自分に気がついていたが、忙しくて会話できなかったとアルビレオはメトゥーナトへ話したのだ。メトゥーナトもその話を聞いて、上人やビフォアの件でなにやら騒がしくなってきていると感じていたようだ。

 

 

「……ところで()()()()は……?」

 

「今のところ変化はありません。ずっと()()()()()ですよ……」

 

「……そうか、わかった……」

 

 

 メトゥーナトは、タカミチの話を終えると、真剣な表情でアルビレオに質問していた。その彼と言うのが何ものなのかはわからないが、それの状態を聞いていたのだ。アルビレオもその彼には、今のところ変化はなく、眠ったままだと話したのである。その答えに、メトゥーナトは満足したのか、腕を組みながら頷いていた。また、その会話の後、闇に染まった天の下、明るく光る麻帆良を背に、二人の男は佇むのみであった。

 

 




麻帆良祭二日目の夜は更けていく

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