理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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突然のクールダウン
いやあ、銀髪君は強敵でしたね


四十三話 三人の男子 騎士と娘

 *三人の男子*

 

 

 ここは麻帆良学園本校男子中等部、3-Aの教室の中。覇王や状助が在籍するクラスである。さて、次の大イベント麻帆良祭である。状助はそう考えて、気がつけば悪魔襲来事件が過ぎて居ることに驚いていた。また、状助はそれならもう麻帆良祭まで安心だと考えていた。だが覇王はのんきにはしていなかった。あの銀髪やメガネ男が存在するからだ。そして、あのメガネの男には仲間が一人は居るはずなのだ。そういう意味では、警戒すべき敵なのは間違えないのである。

 

 そこで覇王がそんなことを考えていると、状助が話しかけてきたようだ。この前の喫茶店爆破事件のことのようだった。

 

 

「よう、おめぇよ~、あの事件知ってるか?」

 

「あの事件?」

 

「喫茶店のテーブルがぶっ飛んだ事件っつ~やつ! なんか色々ヤバい噂が立ってるんだぜ!?」

 

 

 喫茶店爆破事件とは、覇王と神威の戦闘でオープンカフェの外に設置されていたテーブルなどが粉砕された事件のことである。また、不可解な地面のくぼみなどが見つかっており、何らかの手段で爆破されたと噂されているのだ。それを知った状助は、覇王が何か知っていると思い、それを聞いたのだ。

 

 

「ああ、あれか。僕は悪くない」

 

「やっぱおめぇじゃあねぇーかー!!」

 

 

 そして案の定覇王が何かやらかしたらしい。状助はやっぱりかと思ったようだ。だが、本気で覇王は悪くない。喧嘩を売ってきた銀髪が悪いのだ。また、あの銀髪、次にあったら確実にしとめてやる、覇王はそう心に決めているのだ。そこで状助はそんな決意の炎を目に宿す覇王に、あきれた視線を送っていた。

 

 

「確かに僕も居た、しかしああなったのは、僕のせいではない」

 

「あれ直したの俺だぞコラぁ!!」

 

「あ、やっぱりそうだったんだ。次の日に直っていたから、まさかとは思ったんだよ」

 

 

 神威と覇王の戦闘した数時間後に、状助はその喫茶店へと寄ったのである。なんかボロボロになっていたので、とりあえずクレイジー・ダイヤモンドで修復しておいたのだ。なかなか律儀なやつである。

 

 

「別に魔力も気も巫力も使わないんだから、ケチケチする必要ないだろ?」

 

「スタンドパワーを使うんだぜぇ!? まあ気にしてねぇけどよぉ~。何があったんだ?」

 

 

 状助はあの現場はただ事ではないと感じていた。覇王が関わっていると言うのなら、何かでかい事が起きた後だと察していた。そこで覇王は、その日の出来事と銀髪の能力を状助に説明した。それを聞いた状助は、ひっくり返りそうになっていた。銀髪の特典と覇王と木乃香のキスに驚き戸惑ったのだ。というか、そんなにいっぺんに驚く要素を話されて、混乱していたのである。

 

 

「はぁぁぁ!? ニコぽとラカン能力だとおおお!?」

 

「うるさいよ、状助。あまり騒ぐと注目されるじゃないか」

 

「それにこのかを狙って喧嘩売ってきただとお!? クソじゃあねーかー!」

 

 

 ニコぽでこのかを洗脳せんとする銀髪に、状助も頭にきていた。許されるはずがないだろうと思ったのだ。そのとおりである。覇王もさっさと焼き払って、他の生徒にかけられた呪いを解除したいとも考えていた。しかし、状助は銀髪よりも覇王と木乃香の仲のほうが重要のようだった。

 

 

「つ~かおめぇ! このかと付き合ってんのか!?」

 

「やだなあ、状助。付き合ってないよ」

 

「チューまでしといてそりゃね~ぜ~!!」

 

「……状助、少し黙れ」

 

 

 流石にそんなことを騒がれたら、クラスの注目の的になる。しかもここは男子校なのだから、そのような話なんて聞かれたくないのだ。すぐに噂になるぜー、というものだ。そこに三郎もやってきた。状助の声で何を話しているかがわかったからだ。

 

 

「状助君は相変わらずうるさいね。で、覇王君はこのかさんと付き合ったの?」

 

「付き合ってないよ。ある約束をしたからね」

 

「でもこいつよ~、チューしたらしいぜ?」

 

「チュー? どこに?」

 

 

 チュー、キスと言ってもまあどこでもできる。それは頬やデコにもできる。重要なのはしたのかしていないかではない、場所なのである。そこで覇王は面倒だが、騒がないように注意してその部分を話した。別にこのぐらいで、恥ずかしがったり騒ぐような人生を送っていないからだ。だが、状助も三郎も度肝を抜かれた。まさかの唇だったからだ。

 

 

「スタンドも、月までブッ飛ぶこの衝撃ッ!」

 

「あ、それ言うんだ」

 

「覇王君も隅に置けませんなー」

 

 

 そんなことを言っている状助だが、特に羨ましいとは思わなかった。なぜなら元々関わりたくない系転生者で、原作キャラと関わるのは好きではなかったからだ。だが、本人は望んでなかったというのに、関わってしまったのが運の尽きだったらしく、もう半分諦めているのだが。それでも原作キャラと、そういうラブな関係にはなりたくねぇ~なぁ~、と思っているのが状助だ。これだからヘタレだ人畜無害だと思われるのである。また、三郎も特に気にすることは無かった。こいつは外見も中身もイケメンだからだ。そんな状助と三郎を見て、覇王は騒がなかっただけよいかと思った。

 

 

「言っておくけど僕からじゃないよ、木乃香からだよ」

 

「押しが強いんだなあ、確かに押しが強い印象はあったがよぉ~……」

 

「あんなふわふわした娘が、そんなことをするんだ」

 

「するさ。いつだって予想を上回る。それが木乃香だ」

 

 

 京都の時もぶっ飛んでいた。ラスボス召喚する幹部が居るなら、その幹部が召喚する前にラスボスを召喚して倒そうとか、RPGではありえないことを考えたからだ。まあ、それは覇王が居たからこそ出来たことで、覇王ありきの作戦でもあったのだが。しかし、そうさせてしまったのも覇王である。つまりお前が悪い覇王。そこで状助と三郎は、覇王の今の言葉に、本当によく知る仲なんだなあ、と考えていた。

 

 

「おめぇよー、もう付き合っちゃえよ……」

 

「駄目だ。約束してしまったから、それは出来ない」

 

「ところで、その約束ってどういうものなんだね?」

 

 

 状助はもう覇王と木乃香の仲が恋人レベルだと察して、付き合えばいいのにとさえ思っていた。だが覇王は約束したから出来ないと言っていた。そこで、それはなんだ?と、三郎は疑問に思った。同じく状助も、どんな約束をしたのかと思っていたので、その三郎の質問はありがたかった。そこで覇王はその約束を言うと、二人はまたしてもひっくり返りそうになった。その約束とは、覇王と同等のシャーマンになった時に、木乃香と付き合うというものだったからである。

 

 

「おめぇよ~! 無茶言い過ぎじゃあねーかー!! 一ヶ月の修行で柱の男全滅させるより無理ゲーすぎるぜ!!」

 

「無茶というか無理というか、断っているのと同じなんじゃないかそれ!?」

 

「だが木乃香はそれをよしとした。だからこそ、約束になったんだよ」

 

 

 この覇王、約束してしまったからにはしてもらう、そう考えている。だが、並び立てとは言ったが、巫力が同じになれとは一言も言ってない。つまり、技術面で同じぐらいになればいいかなー、なんて最近考えてきていた。ぶっちゃけあの黒雛並の強さを得た木乃香は、逆に色んな意味で恐ろしすぎる。それを状助は想像し、少し怖くなったようだ。

 

 

「でもやっぱ無茶だよねそれ……」

 

「まあ、そのうちなんとかなるさ」

 

「逃げやがった!!」

 

「なんとかなるかなあそれ……」

 

 

 正直言えばなんともならない。無理に等しいだろう。だが覇王は、木乃香が強くなることを楽しみにしていた。自慢の弟子の成長は、とても喜ばしいことだからだ。しかし、そこでふと状助は、先ほど覇王との話に出てきた銀髪のことを思い出したらしい。それを三郎にも話したのだ。

 

 

「そういや、覇王が銀髪のやつがニコぽとか使えるっつってたぜぇ!?」

 

「ニコぽ!? そんな能力あったの!?」

 

 

 三郎もニコぽと聞いて驚いた。しかしそんな能力があったとは思っていなかったようだ。そんな特典選ぶやつって一体どういう思考しているのかと、三郎でさえ疑問に思ったようである。

 

 

「あったみてぇだぜ?覇王がしっかり確認したみてぇだしよぉ~」

 

「そうなのか、だったら状助君も気をつけたほうがいいんじゃないかな?」

 

「んん~? どういうことだァ?」

 

 

 今の三郎の言葉に、状助は疑問を感じていた。ニコぽは異性にかかる呪いだ。木乃香に好かれている覇王ならわかるが、誰も彼女が居ないこの自分に、一体何の意味があるというのか。そんなまったくわかっていない状助を、少しバカだと考えながら三郎はそれを状助に説明した。

 

 

「だって、状助君はアスナさんやあやかさんの友人なんだろう? 付き合って無くても友人がそうなったらいやだろう?」

 

「グレート、そうだったぜ……」

 

「状助は微妙に抜けてるから仕方が無いね」

 

 

 失念していた。別に付き合って無くても、友人がそんな銀髪に惚れたら困る。というか本気で銀髪を倒しにいくだろう。相手がどんな能力を持とうとも、絶対にその友人を助け出そうとするだろう。状助はそう考えた。むしろそんなグレートにおかしなやつに惚れさせられたら、何をされるかもわからんのだ。当然の考えである。

 

 

「そんなクサレ脳みその野郎、二人に何かしたら許す訳ねぇだろ!!」

 

「そう思うだろう? だから気をつけたほうがいいと思うんだ」

 

「まあでも、僕らが気をつけても意味が無いんだけどね」

 

「ま、まあそうなんだけどさあ……」

 

 

 彼女たちが気をつけなければ意味が無い。まあそれも当然だ。そして自分たちが監視出来る訳でもない。つまり、自分たちではどうすることも出来ないのだ。だが、幸いアスナは木乃香から、それをある程度聞いているので、多分大丈夫だろう。まあ、アスナ自身、あの神威に声をかけられて逃げたほどなので、きっと大丈夫だろう。そこで覇王は木乃香がそれをアスナに伝えたことを状助に言うと、深いため息をついて安心していた。

 

 

「そうか~、まあ、アイツなら銀髪オッドアイの時点でドン引きだろうしなあ……」

 

「魔法世界のお姫様なのにかい?」

 

「自分がオッドアイなのに?」

 

 

 ひどい言われようである。近くにアスナが居たら、殴られていること必須だ。覇王は魔法世界のお姫様とか言うすごい立場で、普通ドン引きだろと思っていた。また、三郎もアスナには何度か会っているので、彼女もオッドアイだろと考えたのだ。そんな意見を状助は聞いて、知られたらヤバいッと考え青ざめていた。だが、そこで覇王はさらに不吉な情報を、状助と三郎に話し始めた。

 

 

「まあ、気をつけるべきはそれ以外も居るけど」

 

「最近本当に治安が悪いねぇ……」

 

「やれやれすぎるぜ……」

 

 

 とりあえず覇王は、銀髪以外にもメガネ男のことも二人に話した。その話を聞いて状助は頭がぱーぷりんと称し、三郎はアンチ悪系かよと嘆いていた。そして、どんどん雲行きが怪しくなるこの麻帆良で、どうやって生き抜くかを考える二人だった。

 

 

――― ――― ――― ――― ―――

 

 

 *騎士と娘*

 

 

 麻帆良祭が始まる二週間ほど前のこと。そういえばこの辺りで、アスナがタカミチに告白したいと考える時期だ。しかし、このアスナはタカミチにまったく興味がない。一応古い友人、または元担任の教師程度には考えているが、それ以上の感情はないのだ。あの少年は随分と老け込んだなあ、といつも思っているだけである。

 

 だが、そこで使われる年齢詐称薬は、普通に登場した。また、登場時間が一週間ほど早かったらしい。なぜかと言うと、あのカギが早々に用意させていたからだ。しかし、カギはせっかく用意したのにも関わらず、それをネギに全部渡てしまったのだ。

 

 というのも、カギには王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)があり、その中には肉体変化の薬が入っているのだ。だから年齢詐称薬など、不要だったのである。そのことをカギはうっかり忘れており、年齢詐称薬を用意してから、その薬の存在を思い出したのだ。そういう訳でカギはネギに年齢詐称薬を全部くれてやり、それをネギはアスナと木乃香に少し渡しのである。

 

 

「で、その見た目でわたしのところへ来たのか……」

 

「懐かしいでしょ? どうどう?」

 

「ああ、とても懐かしい。あのころの君は、とてもクールだった……」

 

 

 で、年齢詐称薬で小さくなったアスナが、その姿でメトゥーナトへ会いに、自分の家へ帰って来ていた。なんという嫌がらせ。実際は随分と長く幼い姿をしていたアスナは、それを懐かしんでいるだけなのだが。しかし、黄昏の姫御子という二つ名を黒歴史にしているわりに、見た目のことは黒歴史ではないらしい。そして、長かった少女の姿をメトゥーナトにも見せに来ていたのだ。

 

 

「今も十分クールよ? ただヘンタイが絡むとヒートアップするけど」

 

「変態が多い世の中だな、困ったものだ」

 

「困ったものよ、ヘンタイばかりで……」

 

 

 アスナがよく戦う相手は基本変態だった。アスナが小学生の頃に戦ったあの槍使いも、最近戦った無敵のうそだろ承太郎も変態だったのである。かれこれ変態とよく戦うアスナは、次もまた変態と戦うのかと思うと気が重いのである。まあ、それとは関係なく、アスナはなつかしの少女形態を楽しんでいた。

 

 

「……うーん。小さくなるって思った以上に不便ねえ、高い場所に手が届かないし」

 

「そういうものだ。だから元に戻っておいで」

 

 

 とは言うのもの、小さくなったことでの弊害もアスナは感じていた。小さくなったので歩幅も小さくなり、移動しにくい。それだけではなく、手も小さくなっており高い場所に届かないのだ。そう言葉にするアスナへメトゥーナトは、小さいと不便なのは当然だから元の姿に戻ってきなさいと話したのである。

 

 

「そうね……。まあ結構楽しんだから戻ってくるわね」

 

「今度は大きくなって来るということはないだろうな?」

 

「流石にないわ、だって大きな服がないもの。じゃ行ってくる」

 

 

 そうメトゥーナトに言われたアスナは、もう充分楽しんだので、戻ってこようと考えた。ただ、そこでメトゥーナトは、今度は元の姿よりも成長した姿で出てこないだろうかと、心配になってそれを話した。アスナも流石にあうサイズの服もないし、出来そうにないのでやらないと説明していた。

 

 そして、なつかしのロリボディーを堪能したアスナは、戻るために自分の部屋へと走っていった。その自分の部屋に走るという行為にも、アスナは懐かしさを感じていた。なにせ小学生のころは、この姿でずっとこの廊下を通って自室へと戻っていたのだから。そして、自分の成長を感じていたのである。そこで一歩一歩、それを実感するように、ゆっくりと部屋へ戻って行った。

 

 

「懐かしいわねえ、この姿でこの廊下を歩く。あの時は……」

 

 

 そういえばあの時は、何をしてただろうか。アスナはそれを少し考えた。委員長とファイトドーム(超エキサイティング)してたり、何か色々な賭けをしていた気がしたのを思い出した。そこで、さほど今と差が無かったのかと考え、あまり成長していないと思えたようだ。

 

 だが、体は成長しているからまあいいや、ともアスナは思いながら、懐かしさに浸っていた。そしてアスナは年齢詐称薬を使って元の姿に戻り、着替えてメトゥーナトの居る場所へと戻ってきた。

 

 

「うん、やっぱり普段の姿のほうが過ごしやすいわ」

 

「それは当然だ。成長するということは、そういうことなのだからな」

 

 

 元の姿に戻ったアスナは、今の姿が一番だと言葉にした。それは今の姿こそが自然体であり、当然のことなのだが。そしてメトゥーナトも、それこそが普通なのだと言っていた。成長すれば大きくなる、それはどの生物にも言えることだ。それが普通なのだと。

 

 

「成長、したんだね私……」

 

「うむ、もうあの時の小さなアスナではないのは間違いない」

 

「そうね……。実は小さい時、あのままだったらどうしようって、少し悩んでたのよね」

 

 

 そこでアスナは成長と言う言葉を聞き、自分の体をまじまじと見て少し感激していた。メトゥーナトもアスナのその言葉に反応し、もう小さいアスナではなくなったと、しみじみと語っていた。

 

 また、何せアスナはずっとずっと小さい姿のままだった。メトゥーナトに助けられた後も、ずっと小さいままだったので、このまま小さかったらどうしようかと、少し悩んでいた時があったのだ。

 

 

「確かにわたしも大丈夫だろうかと思ったこともあったが、今の姿を見て安心しているよ」

 

「そうだったの……。でも、成長できた……」

 

「そうだ、大きくなったな。アスナ」

 

 

 メトゥーナトもそのことを少し心配していたようだったが、今のアスナを見てそれは杞憂だったと思ったのだ。そして、アスナはその言葉を聞きながら、自分の成長を感じ取っていた。気がつけばここまで背が伸びたし、女性らしい部分も出てきたと、改めて喜びを実感していたのである。アスナが成長を喜んでいるところに、メトゥーナトも良くぞ成長したと、暖かい言葉を送ったのだ。

 

 

「フフ、ありがとう。来史渡さん」

 

「礼を言われることは言ってないと思うが?」

 

「だって、ここまで大きくなれたのも、来史渡さんのおかげだもの」

 

「……そういってもらえると、親代わりをしてきた身としては、うれしいというものだ」

 

 

 アスナはそこで満面の笑みを浮かべ、メトゥーナトへとありがとうの言葉を送った。メトゥーナトは特に礼を言われることはしていないし言っていないと思ったので、どうしたのだろうかと考えたようだ。

 

 そう不思議そうにするメトゥーナトへ、アスナはその理由を述べた。それは今までずっと自分の側で、成長させてくれたことへの感謝の気持ちだったのだと。そのアスナの話しに、メトゥーナトはとても感激していた。が、それを表に出さず、そういってもらえると嬉しいとだけ言葉にしていた。

 

 

「親代わりと言うより、もう親みたいなものだと思ってるけど……」

 

「……わたしは君の親にはなれんよ……」

 

「……そう……かな……」

 

 

 ただ、アスナは親代わりという言葉に、少し残念な気持ちを感じていた。むしろ親代わりなどではなく、本当の親のように思っているからだ。しかしメトゥーナトは、自分にその資格は無いと語り、親代わりでも充分だと話したのだ。それに、メトゥーナトはアスナに大人の事情で振り回してしまっていることに引け目を感じていた。何せアスナが麻帆良で学生をするのも、その大人の事情というものだからだ。

 

 だが、アスナにはそんなことは関係ない。アスナは自分を育ててくれたメトゥーナトを、親として接したいと思っていたのだ。それでもメトゥーナトはそれをさせまいとしていた。ゆえにアスナはそれを聞いて、少ししゅんとした表情を見せた。本当にメトゥーナトを親だと思いたいのに、メトゥーナトがそうさせてくれないからだ。

 

 

「あっ、そうだ! 来史渡さん。今度麻帆良祭あるけど、一緒にどう?」

 

「ふむ、アスナからのお誘いか。まあ問題はないだろう。日程を考えて一緒に歩いてみるとしよう」

 

「よかった。忙しくて断られるかと思ってたから」

 

 

 それでも、アスナはその落ち込んだ表情をすぐさま笑顔へと変え、メトゥーナトへ麻帆良祭を一緒に回ろうと誘った。

 

 メトゥーナトはアスナの誘いなので、出来る限り参加したいと考えたのだ。また、麻帆良祭は”原作イベント”である。転生者がさらにやってくる恐れがあった。だからメトゥーナトは、イベントの中を練り歩くのだから問題はないと考え、一緒に麻帆良祭を過ごすことを良しとしたのだ。

 

 アスナもメトゥーナトが忙しいのではないかと考えていたので、よかったと思っていた。

 

 

「詳しい日程は後日考えるとしよう」

 

「そうね、今度また連絡するわ。今日は帰るから、じゃね!」

 

「おや、もう帰るのか。まあまた来ればいい、ここは君の家だからな」

 

 

 メトゥーナトは帰り支度をするアスナに、そう一言残した。そして、明日も学校なので、アスナはそのまま寮へと帰っていった。そこで寮へと帰るアスナを見送り、まあ元気になったことだと考えるメトゥーナトは、かなり爺くさかった。

 

 


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