テンプレ83:悪魔、死す
黒一色の格好をしたこの男は、学園祭のステージであるものを待っていた。黒いハット、黒いコートの姿の男だった。そしてこの男、悪魔であった。名はヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマンと言う。ネギの村を襲った悪魔の一人である。
そこでヘルマンは待っていた。部下のスライム三匹を、さらに仲間としてやってきた転生者たちを。そして、それらが連れてくるはずの人質を、魔法無効化するといわれたアスナを。しかし、待てど待てど、誰もやってくる気配が無い。ここに居るのはヘルマン自身が連れてきた、那波千鶴のみであった。だが、そのヘルマンの下へやってきたのは、その待っていた誰でもない二人の少年だった。
…… …… ……
ネギは異様な雰囲気を察して、タカミチの部屋から女子寮へと杖で飛んだ。今回は何か嫌な予感を感じ、杖を持って出たのである。そこで見たものは、この学園の生徒にボコられる少年たちであった。さらに、女子寮から黒い影が飛び出すのを見た。それはへルマンとそれに抱えられる千鶴であった。
その部屋へネギは急ぐと、少年と少女がいた。少女は千鶴のルームメイトの村上夏美である。また、その少年こそ犬上小太郎であった。ここで初めてネギと小太郎は出会ったことになる。とりあえずヘルマンを追うため、二人は協力することにした。そして、そのヘルマンが居る学園祭のステージへと向かったのだ。
…… …… ……
目的のステージへと二人は降り立ち、ヘルマンと対峙していた。ネギと小太郎は人質となったと思われる千鶴を心配しつつ、ヘルマンへ敵意をむき出しにしていた。
「おい、おっさん! ちづる姉ちゃんをどうしたんや!?」
「千鶴さんは一体どこに!?」
「狼男の少年と、魔法使いの少年か」
ヘルマンは人質や仲間ではなく、獲物がやってきたことに驚きつつ、それ以上に喜びを感じていた。ヘルマンの狙いこそ、この魔法使いの少年、ネギなのだから。そこで、人質を解放してほしければ、自分を倒せとその少年二人を挑発したのだ。
「彼女ならそこで寝ているだけだ。さて、彼女を助けたければ、この私を倒すことだ」
そう言われてネギと小太郎がステージの上を見ると、千鶴が縛られて寝かされていたのである。スライムたちが居ない今、水の牢屋が作れないのだ。その姿を見たネギは戦う覚悟を決め、小太郎は怒りに燃えていた。
「どうしても戦わなければならないのなら」
「そーさせてもらうで! おっさん!!」
するとそのヘルマンの言葉で、二人の少年は動いた。小太郎は能力を封印されていないので、狗神を使いながら接近戦を行う。そしてネギは後衛として、風の魔法の射手を放つのだ。だが、この程度ではヘルマンを倒すには足りない。ヘルマンは余裕の表情でその攻撃をいなし、反撃していた。
「なかなかやるではないか。だがその程度で、この私が倒せるとでも?」
「ハッ! おっさんもやるな!」
「千鶴さんは僕の生徒です、絶対に助け出して見せます!」
「そうだ、そうでなくては面白くない!」
”原作”ならばアスナの魔法無効化を利用して、魔法を防御していたヘルマン。だがここにはアスナは居ない。つまり魔法を無効化はできないのである。しかし、そんなことなどお構いなしに、すさまじい力を見せ付けるヘルマンであった。小太郎の体術を力でねじ伏せ、ネギの魔法をパンチでかき消していたのだ。
「甘い、甘いな、この程度では私は倒せんよ?」
「この!」
「”雷の暴風”!!」
すさまじい強さのヘルマンに、果敢に挑みかかる二人の少年。小太郎は分身を使い、ヘルマンの動きを止めるように殴りかかる。さらに狗神を使って攻撃を加えていた。しかし、その攻撃も全てへルマンが放つ高速の拳で吹き飛ばされたのである。
それでも小太郎はさらに分身を増やし、何とか必死に食らいついて居た。そして、そこにネギの放った雷の暴風が飛んできた。すかさずそれを避けるように、分散する小太郎と分身。だが、その魔法すらも、ヘルマンの渾身のパンチによりかき消されたのである。
「だから甘いと言っているのだよ。まったく幻滅させてくれる、ネギ・スプリングフィールド……」
「な、なぜ、僕の名を……」
突然知らぬ男から自分の名を聞かされたネギは、どうして自分の名を知っているのかわからなかった。だからそれに気を取られ戸惑ってしまい、動きを止めてしまったのだ。そこへ動きが止まったネギへ、小太郎は叱咤をしてたのだ。
「何ぼさっとしてんね! はよ魔法を打たんかい!!」
そうネギへ叫ぶと小太郎は、必死にヘルマンへと攻撃を繰り返す。それだけではとどまらず、狗神を利用しながらも、分身で攻撃していた。
しかし、その攻撃すらももろともせずにヘルマンは小太郎へ拳を叩きつける。そして、そこにヘルマンの悪魔アッパーが小太郎の顔面に刺さったのだ。さらに、ヘルマンの悪魔パンチが連続で小太郎に命中し、数メートルも吹き飛ばされてしまったのだ。
そのような状態でさえ、なぜこの男が自分の名を知っているのかわからないネギは、ただ立ち尽くしていたのである。
「お、おい……ネギ! 何しとるんや!!」
ステージの座席へと飛ばされ、全身を打ちつけ前のめりとなった小太郎は、このネギの醜態に怒りの叫びを上げていた。しかし、ネギはそれにも反応しなかった。完全に思考の渦に沈んでしまっていたのだ。そしてネギはこの疑問を解消するべく、ヘルマンへと質問した。
「あ、あなたは一体……!!」
「……その前に私が君へ質問しよう。君は今、何のために戦っているのかね?」
「そ、それは……!?」
このヘルマンもまた、質問に質問を返した。それがきっと流行なのだろう。ヘルマンの質問は単純に、ネギがなぜ戦っているかという質問であった。ネギはどうして戦っているのか、一瞬考えたのである。
「この君の一般人の生徒を助けなければという義務感かね?」
「ぼ、僕が戦うのは……」
「義務感を糧にしても、決して本気になどなれないぞ、実につまらない」
義務感では本気がでない、そうヘルマンは言った。確かにネギは、生徒である千鶴を助けようという意思で戦っていた。だが、それでは自分には届かないと、ヘルマンはネギに言っているのだ。そして、その程度ではつまらないと、失望しているのだ。
しかしだ、しかし、このネギには夢がある。人を助けること、ひいては立派な人となるという壮大な夢があるのだ。だからこそ、ここで負ける訳には行かないのだ。
「そうかもしれません、ですが、僕は人を助けたい。今そこで捕まっている、千鶴さんを助けたい!」
「やはりつまらないぞ、ネギ君。ならば、これならどうかな?」
ネギの答えにまったく納得いかないヘルマンは、自分の真の姿を見せることにした。これならきっと、本気を出してくれると確信していたからだ。ネギはそのヘルマンの姿を見て、思い出したのだ。あの雪の夜のことを。
「あ、あなたは……」
「そうだ、君の村を襲い、村人たちを石化したのはこの……」
そうだ、ネギ君、君の仇だ。敵なのだ。これで本気を出してくれるだろう、ヘルマンはそう思った。だから内心ほくそ笑んでいた。しかし現実は悲しいものであった。
「お師匠さまに潰された、あの悪魔!!」
「は?」
なんという誤算。ヘルマンは完全に滑っていた。あの時、村人を石化したのはこのヘルマンである。そして目の前に現れてネギを襲ったのもヘルマンだ。
だがしかし、あの時ネギの師であるギガントに、あっけなく潰されてしまった。ネギが明確に記憶しているヘルマンは、ギガントの引力魔法で雑巾のように絞られ消えていった姿だったのである。
さらに、ヘルマンは村人が永久石化から復活していることを知らなかったのである。この小さな歪が、このような悲劇を招いたのであった。
「あの時、お師匠さま助けてもらった。だけどずっとそうしてはいられない。ならば僕は、今、あなたを倒します」
「ネギ、やっとやる気になったんかい。ちっとばかし遅いで!」
「なんということだ……」
ショック。ヘルマンにとってこれほどショックなことはない。まさか自分があっけなくやられてしまった、雑魚Aレベルでしかネギの記憶に無いなどと。このヘルマンは自分のプライドを、もはやこれほどまでに破壊されたのは初めてであった。
だからこそ、真の姿で二人を相手にすることにしたのだ。真の絶望をその身へとじかに教え、自らは強者だということを教えてやろう、という意思の表れであった。
「ならば、本気で私の恐怖を味わってもらうぞ!!」
「小太郎君、行くよ!!」
「おう、任せな!!」
本気のヘルマン。原作では本気を見せなかったヘルマンが、ついに本気を出したのである。分身でかく乱しつつ、ヘルマンを追撃する小太郎と、魔法の射手を操りつつ、それに雷の暴風を混ぜるネギ。
しかし、やはり本気のヘルマンは強かった。魔法をかわし、小太郎の分身や狗神を確実に撃破していくのである。そしてネギに悪魔パンチを放ち、その彼を吹き飛ばすヘルマン。なんて強さだ、強すぎる。ネギと小太郎は痛みと共に、そう考えるのであった。
なんてことだろうか、ネギも小太郎も数十分もの防戦を強いられ、その悪魔の拳により疲弊してきていたのだ。だが、二人はこれでも諦めてはいなかった。諦めるわけにはいかなかったのだ。
「ぐっ……なんちゅー強さや……」
「強い……。せめて魔法さえ当てれれば……」
「どうだね、これが私の本気だ。さあ、終わりにするとしよう」
ヘルマンはトドメとして、永久石化を使う気のようだ。その口を開け、ヘルマンの口の奥には徐々に光が集まってきていた。このままでは危ない、そうネギは考えたが体がなかなか動かないのである。だがそこへ、一つの槍がヘルマンの胸に突き刺さった。銀色に輝く槍であった。
「
「な、がは!?」
その一撃で、ヘルマンは永久石化を中断され、光線ではなく血を吐いたのである。ネギと小太郎は、その槍が飛んできた方向を見た。そこには知っている人物が立っていたのだ。そして、その姿に驚いていたのである。まさか、まさかこの少年がネギを助けるなどと誰も思うまい。
「ふん、ギャラリーが少ないのはつまらんが、まあいい。弱き弟のためだ」
「に、兄さん!?」
「な、なんや!? ネギの兄貴かいな!?」
そこに居たのは黄金の鎧を纏うカギの姿であった。ステージの屋根の上にたたずみ、その後ろからは膨大な量の武器が空間から生えていたのだ。そのすさまじい力に、ネギも小太郎も本気で驚いていた。これが転生神から与えられた特典だ。
「ぐっ、まさか……このような伏兵がいるとは……」
「
そう言うとカギの後ろに存在する空間から、無数の武器が発射された。発射されたその全てが、宝具というとんでもないものである。これがカギが貰った特典”
その槍や剣がヘルマンを串刺しにし、もはやヘルマンは虫の息となっていたのである。強すぎる、強すぎる宝具。不意打ちとはいえヘルマンを、こうも簡単に再起不能へと追いやってしまったのだ。そしてヘルマンは大の字となり、無数の宝具が刺さった状態で仰向けに倒れていた。
「悪魔の血で我が至高の宝が汚れてしまったではないか。まあよい、トドメは不出来な弟にくれてやるとしよう」
そうカギは言い残すと、地面に刺さった宝具を消し去り、さっさと退散して行った。というのも”原作”ならもっとギャラリーが居て、注目を浴びれるイベントだったのだ。だが、ここには眠らされて捕まっている千鶴しかおらず、カギはこの悪魔を倒したから、もういいやと思ったのだ。
また、カギは最初からネギたちとヘルマンの戦いを見ていた。しかし、まさかヘルマンが本気で戦うとは思っていなかったのである。このままネギが殺されるのは困る、だからカギは仕方なくヘルマンを倒したのだ。
「に、兄さん!?」
「何なんや……あの力は……」
「ぐふっ……ネギ君の兄か、うかつだった……」
完全にボロボロになったヘルマンは、そのまま元の場所へと帰るのみとなった。カギはネギにトドメを譲ったが、どうせネギはトドメを刺さないと確信していた。とりわけ消し去る必要を感じなかったカギは、そのまま放置しただけなのである。
また、この
そこで小太郎は安全を確認すると、すぐさま千鶴を介抱しに走り、ネギは死にかけて仰向けで倒れこんだヘルマンのすぐ横へとやってきていた。
「君の兄がこれほどとは、思いもよらなかったよ……」
「恥ずかしい話ですが、僕も兄さんの力を知りませんでした」
「そうか……、私はこのまま消えれば、ただ国へ帰るだけだ。君の兄の言うとおり、トドメを刺したまえ、ネギ君」
「……僕はあなたに止めを刺すすべはありません」
このネギは、悪魔への復讐のために魔法を覚えた訳ではなかった。ネギがギガントから教えられ、覚えてきた魔法は人を助けるための魔法だった。攻撃魔法は本当に最後の最後に教えてもらったのである。
さらに永久石化を解除したので、この悪魔に何の恨みも無いのだ。つまり、このヘルマンに止めを刺す術をネギは持っていなかった。いや、最初から必要としていなかったのである。
「そして僕は、いえ僕たちはあなたの永久石化に勝ちました」
「なんと……、どおりで負の感情が見当たらなかった訳だ……」
ネギはこのヘルマンに恨みなど覚えていない。今の行動も全て召喚者の命令で動いているに過ぎないと思っているからだ。そして、ネギの考えるとおりであり、実際へルマンは命令どおりに行動していたに過ぎないのだ。だからネギは静かにヘルマンと会話していたのだ。
「それに、あなたは召喚されて命令されただけなはず、特にあなたに恨みはありません」
「そうか、相当優秀な師がついていたようだな……」
「はい、僕の尊敬する、偉大なる師です」
ネギはギガントを尊敬している。あの師もまた、多くの人を救ってきたのだから。そうなりたいと、そうありたいと思っているのが、今のネギなのだ。このネギの強い意思を持った笑いを見たヘルマンは、謎の満足感と爽快感を味わっていた。この少年はきっと、自分が思う以上の存在になると、確信できたからである。
だが、この会話に邪魔をするものが現れた。それは白く輝く天使だった。しかし、機械のような騎士風の天使だった。その機械天使の握る剣が、ヘルマンへと突き刺さっていたのだ。
「ご!?」
「な、こ、これは!?」
「ぐ、ぐああああああ!?」
そのステージの座席に、いつの間にか白い服を着た長身のメガネの男が立っていた。彼もまた転生者だった。そしてその浄化の剣の光により、ヘルマンは消滅してしまったのだ。これには温厚なネギも、怒りをあらわにしたのである。
また、その近くに居た小太郎も、その天使の姿に驚いていた。ただ、小太郎の横にいた千鶴には天使の姿は見えず、小太郎が何に驚いているのかわからない様子であった。
「大丈夫だったかね? 子供先生」
「あ、あなたは一体何を!?」
「私の名はマルク。そして彼の名は大天使ミカエル。私の持霊だよ」
このメガネの男は自分をマルクと言った。そしてその持霊は大天使ミカエルと呼んだ。天使長にて大天使の称号を持つ天使である。
このメカメカしい天使が、ミカエルと言うらしい。しかし、そのメカメカしさと共に、神々しさすら感じる機械天使に、ネギは驚きを隠せなかった。
するとマルクは、ネギへと近づいてきたのである。そこでネギはなぜ今の悪魔を消し去ったのか、怒りを隠さずにマルクへと質問したのだ。
「ど、どうして今の悪魔を消し去る必要があったんですか!?」
「悪魔は”悪”だからだよ。それにあのままでは、ただ帰してしまうだけだったからだ」
「そんな!!」
なんの罪悪感もなく、悪魔へルマンを消滅させたこの男。そのマルクにネギは、とても怒りを感じていた。確かに悪魔で、悪いやつだったかもしれない。だが、今の会話で、極悪と言うほどではないと感じたからである。
人質として自分の生徒を攫ったことは許せないことだ。しかし、卑劣と呼べるようなことなどせず、近くに居た人質を利用などはしなかった。それどころか正々堂々と戦っていた。
だからこそ、ネギは怒りの叫びを男へと向けるのだ。そこで、怒りに燃えるネギを、マルクは氷のごとく冷たい視線で見ていた。
「やれやれ、君もまさか悪なのか? いや、確かに君は闇の存在。今消してしまっても、問題ないだろう」
「何を言っているんですか!? どうしてこんなことを!!?」
「それは悪だからだよ、あの悪魔は悪だから処断したに過ぎない。君もあの悪魔をかばうなら、それは悪だ。消えてもらおう、ネギ・スプリングフィールド!」
このマルクは”原作知識”でのネギの将来を考えた。あの悪しき吸血鬼エヴァンジェリンに師事され、闇の魔法を習得するということを。さらに、闇の眷属となり人ですら無くなり、闇に堕ちることを思い出していたのだ。だからこそ、この場で始末してしまっても良いとマルクは考えたのだ。
そこでマルクは右手に握る拳銃をネギへと向けた。その瞬間に、マルクが操る機械天使ミカエルが、巨大な剣をネギへと振るったのだ。ネギは疲弊しきっており、避ける力をほとんど残していなかった。さらに小太郎もとっさに動こうとしたが、彼もまた疲弊していてなかなか体が言うことをきかなかったのだ。もはや完全にネギは、絶体絶命となってしまったのだ!
…… …… ……
転生者名:マルク・ビアンコ
種族:人間
性別:男性
原作知識:あり
前世:30代車工場員
巫力:特典により125万ぐらい
特典:シャーマンキングのマルコの能力、オマケで持霊大天使ミカエル
膨大な巫力
本当にヘルマンが死んだかどうかは、謎ということに