理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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テンプレ72:夕映とのどかに魔法がバレる

テンプレ73:夕映とのどかに魔法使い転職フラグ

カギってヤツの仕業なんだ


三十二話 魔法使い

 カギはとてもイライラしていた。原作が乖離したことを悟ったからだ。だからこそ、ネギに従者を与える必要などないと思った。そして生徒を自分の従者にしてしまおうと思った。そこで誰を先に従者にするか、少し考えることにしたのだ。

 

 

「ネギのやつがのどかを従者にした、なら俺はゆえを従者にすればよい」

 

「兄貴! 手伝うぜー!!」

 

 

 そうだ、ネギがのどかなら、夕映でいいや、そうカギは考えた。なんというひどい結論の出し方だろうか。と、まあそういうことで、早速夕映に会いに行ったのだ。さらに夕映なら魔法のことをチラつかせれば、渋るだろうが従者になってくれると考えたのである。

 

 しかし、夕映を見つけたのはいいが、そこにネギが居た。さらに夕映の隣にのどかも居た。そして、夕映がネギに魔法があるかを聞いていたのだ。こりゃまずいと、カギはさっさと撤退して行った。お前のせいだというのに、ひどい兄である。

 

 

「ネギ先生は、魔法使いですね!?」

 

「え? 違いますよー!?」

 

 

 ネギは夕映の突然の質問に焦った。なぜか自分が魔法使いだと聞かれたからだ。ネギは自分は夕映の前で一切魔法を使ったことが無かった。だからなぜバレたのかがわからなかったのだ。

 

 

「ま、魔法使い!?」

 

「いえ、間違いありません! 兄のカギ先生が、そんな不思議な力を使っていました!」

 

「ええー!? 兄さんが!? な、なんで!?」

 

 

 ネギは今の言葉に驚いた。自分の兄のカギが夕映の前で魔法を使ったらしい。どうしてこうなった。また夕映はカギが魔法使いであれば、その弟のネギも魔法使いだと考えた。だからそれが表に出やすそうなネギに質問したのだ。

 

 そして夕映と一緒に連れてこられたのどかは、何も知らずについてきたので、魔法使いと聞いて驚いていた。というのも、夕映はのどかにも魔法使いのことを知ってほしいのだ。そうでなければ、友人としてフェアではないと考えているからである。

 

 さらにのどかが好きなネギが魔法使いなら、同じく魔法使いになったほうがよいとも考えているのだ。また、ネギを追い詰めるべくさらなる質問を行う夕映であった。

 

 

「さらにのどかが貰ったというカードも、普通じゃ考えられません。あのような専用カード、あの場で簡単に作れるはずがないのです」

 

「え? そ、そういえば確かに……」

 

「う、うーん、どうしよう……」

 

 

 そこで夕映が見せたのは、のどかとネギが仮契約した証でもある、仮契約カードであった。これが簡単に作れないことを見抜いた夕映は、これも魔法の一種だと考えたのだ。これで完全に言い逃れが難しくなったネギは、頭を抱えてしまっていた。

 

 そしてネギはカギに、魔法の隠蔽をしてくれと本気で思うのであった。まあ、ネギは兄のカギが、そういうことも関係ないと思っているのをある程度察していたので、いまさらなのではあるが。だがしかし、理由はどうあれバレてしまった。ネギは別に自分のせいではないのに、本気でオコジョになる覚悟をした。

 

 すると、一人の老人がやってきた。ネギがよく知る老人、人に変化したギガントであった。

 

 

「困っているようだな、ネギ君」

 

「お、お師匠さま!?」

 

「え? お師匠さま!?」

 

「ネギ先生の師匠さん!?」

 

 

 ギガントが麻帆良にやってきたことをネギは驚いた。そしてネギの師匠と聞いた夕映ものどかも驚いていた。またギガントはネギが彼女たちに魔法がバレたことを察して質問をしたのだ。

 

 

「ふむ、このお嬢さんがたに魔法がバレてしまったのかね?」

 

「あ、はい……」

 

 

 ネギは兄のせいではあったが、それを言わず素直に魔法がばれたことを認めたのだ。どの道兄のせいにしても、意味が無いからだ。そのネギの言葉にギガントはどうするかを考えていた。本来なら記憶を少しだけいじってしまうのもよいのだが、この少女たちはどう思うか考えているのだ。

 

 

「ネギ先生のお師匠様ということは、つまり魔法の師匠ですよね!?」

 

「え、そ、そうです……」

 

 

 普通なら師匠と言ってもなんの師匠かはわからない。だが夕映はこの白髪の老人がネギの魔法使いとしての師匠だということに気がついたようだ。なかなか鋭い少女である。

 

 

「ネギ先生の師匠さん、私は綾瀬夕映と言います! 私に魔法を教えてください!! お願いします!」

 

「あ、私は宮崎のどかです……」

 

「丁寧な自己紹介ありがとう。ワシはギガント・ハードポイズンと言う。言われたとおり、ネギ君の魔法の師匠をさせてもらっておる。して、綾瀬君と言ったか、君はどうして魔法が知りたいのかな?」

 

 

 魔法、それは素敵なものだ。ファンタジーな力だ。カギがあの時使った火の矢が、夕映にはとても魅力的に感じたのだ。自分もできるなら使ってみたい。単純に子供心から来る好奇心であった。さらにそういう知識も知りたいと純粋に考えたのだ。それを勉強にも生かしてほしいものである。

 

 

「私は知識がほしいのです。魔法というものがあるなら、是非知りたいのです」

 

「ほう、しかし魔法でなくても、世の中には知らぬことはある。魔法のことを忘れて、生活するべきではないかな?」

 

 

 ギガントは一般人のこの夕映に魔法を教えることを渋っていた。魔法使いとして当然である。魔法は隠蔽されるもので、一般人に教えてよいものではないからだ。

 

 

「ですがもう知ってしまいました。だからもっとよく知りたいのです!」

 

「ふむ、お嬢さんは頑固のようだ……。さて、魔法は隠蔽されておる。それは普通の人が使えないからだ」

 

「隠蔽されていたのですか!? カギ先生は平気で使っていたからてっきり……」

 

「うむ、そうだ。カギ君はまあ、そういうところが甘い少年だからな……」

 

 

 カギは色々甘い少年だった。ギガントはあまりカギとは接点を持たなかった。だがやはりこうなったかと考えていた。そもそも、ギガントはカギを転生者だとわかっていた。だが能力を見せて暴れるようなことはしていなかったので、とりあえず保留にしてきたのだ。

 

 そしてそのカギが、やはりというか、まあ当然のように彼女に魔法をバラしてしまったようだ。またここで、夕映は魔法が隠蔽されていたのをはじめて知ったようだった。

 

 

「本来なら魔法は隠蔽されるものだ。さて、綾瀬君、君はどこまで魔法使いの事を知っているのかな?」

 

「はい、この麻帆良自体が魔法使いが築いた都市だと考えています。そう考えれば図書館島などの不思議なことも説明が付くのです!」

 

 

 夕映はカギの不思議な力を見た時から、ずっと考えていた。あの力はなんなのか。どうして使えるのか。そもそもその力を持っているのはカギだけなのだろうかと。さらに図書館島の地底図書館での出来事を考え、魔法使いは数多く存在する。そしてその魔法使いが、この街を作ったと結論付けたのだ。

 

 

「すごいなあ。ゆえはそこまでわかるんだ……」

 

「お、お師匠さま……」

 

「ふむふむ、なかなか鋭いお嬢さんだ」

 

 

 その鋭い指摘に、ギガントも驚きどうしようかと考えた。のどかも友人としてとてもすごいと思っていた。ここまで頭が回るなんて、思っても見なかったからだ。また、元々一般人だった夕映が、ここまでの情報を手探りで考え出したことに、とても感心していた。そこでさらに夕映は続ける。

 

 

「さらに学園長も魔法使いだと考えています。そして私たちが知らないだけで、実は多くの魔法使いがこの麻帆良に居ると思います!」

 

「そ、そんなことまで!?」

 

「そこまでとは……。どうしたものか」

 

 

 いやはや学園長が魔法使いだということもわかるとは、これにはネギもギガントも驚いていた。いや、確かに見た目人間じゃない学園長だ。魔法使いと言われても不思議ではないのであるが。しかし、一般人が魔法を知った場合の対処は存在する。つまり、普通なら夕映やのどかは、そのような対処を行わなくてはならない存在である。その対処とは記憶の消去なのだ。

 

 

「本来ならば魔法を知ってしまったものは、その記憶を消される。だがそれは嫌であろう?」

 

「そんなこと絶対に嫌です!」

 

「私も魔法とかよくわかってないんですけど、記憶が消えるのは嫌です……」

 

 

 一般人が魔法を知った場合、その魔法の記憶を消すのが普通である。つまり、本来ならば彼女たちは魔法により魔法の記憶のみを取り除かれるのである。夕映はそれを断固拒否した。とても大きな声で、嫌だと言ったのだ。その隣に立つのどかも、記憶が消されるのは嫌だとポツリとつぶやいていた。そこで、ギガントはこの賢い少女をどうしようか考えていた。

 

 

「お師匠さま、ならどうするつもりなんですか?」

 

「そうだな、学園長に話して見るとしよう。彼こそがこの学園の責任者。学園長の賛否で決めるとしよう」

 

 

 ここの学園長は関東魔法協会の理事でもある。そこでもし、学園長が許可を出すならば、夕映たちに魔法のことを教えてもよいとギガントは考えた。それに、これほど聡明な夕映ならば、魔法を教えても大丈夫だと思った。むしろ、教えてみたいとまで、思ったのである。

 

 

「では、ついて参いられよ」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

「あ、よ、よろしくお願いします」

 

「お師匠さま~!?」

 

「まあ、まだ魔法を教えると決まった訳ではない。そう畏まらずについて来なさい」

 

 

 とりあえず、今すぐ記憶を消されなくて済んだと思った夕映とのどかは少し元気を取り戻し、そのギガントの後を追うように学園長室へと移動した。またギガントも一応学園長に挨拶もしなければならないと思っていたので、丁度よいと考えた。

 

 そのギガントの横でネギは、どうなるかハラハラして気が気ではなかった。そしてハラハラするネギの隣で、のどかはネギと一緒だと考え顔を赤くしていた。そんな二人をよそに、夕映は魔法使いになれるかも知れないと思い、悠々と学園長室へ歩くのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 ここは麻帆良学園女子中等部の学園長室。多少広く作られたこの部屋に、ギガントと三人がやってきたのである。学園長は何事かと思い、話が来るのを静かに待っていた。

 

 

「お久しぶりですな、近衛近右衛門殿。今日からこの麻帆良に滞在することになりましたので、挨拶に参った」

 

 

 ギガントは皇帝の命により、今日から麻帆良に滞在することになったようである。原作が始まり、色々厄介ごとが増える可能性があったためだ。実際ある程度厄介ごとが発生したが、大事ということはまだ発生していない。

 

 というのも、実際は原作が始まり、魔法世界から麻帆良に移動する転生者が多かった。だが夜の警備などをしている魔法先生や魔法生徒に捕獲されていた。さらには同じく夜の警備をする転生者によって押さえ込まれたり、メトゥーナトやその部下に捕えられたりもしていた。だからこそ、そこまで大事になってはいないのだ。しかし、この先どうなるかがわからないので、とりあえずギガントも、この麻帆良へとやってきたのである。

 

 

「おお、おぬしはギガント殿、久しいのう。して、その挨拶だけでは無いようじゃな。どうされましたかな?」

 

 

 学園長はギガントの後ろに立つ二人の少女をチラリと見た。そして意図を察しがよいようで、ギガントにそう質問していた。

 

 

「いえ、現在教師として修行をなさっているカギ君が、なにやら生徒に魔法を知られてしまったようでしてな」

 

「ふむふむ、それは大変じゃな。つまりその対処を、このワシに相談しに来たというワケかの?」

 

 

 そしてギガントも、カギが魔法を生徒にバラしたと説明した。そこで学園長はそのことでギガントが相談しに来たと考えていた。

 

 

「察しの通り、そこの綾瀬君がそれを知ってしまったらしいのだよ。さらにそこから、この麻帆良が魔法使いの街であることも、考察したようでな」

 

「なるほどのぉー、なんとまあ賢い子ではないか。と言うことは、彼女の今後について、ワシと相談したいということじゃな?」

 

 

 ギガントは夕映が魔法を知っただけではなく、この麻帆良が魔法使いの街だということもつきとめたと学園長に説明した。すると学園長もその夕映の賢明さに驚き、それで自分のところへやってきたと思ったようだ。

 

 

「うむ、そのとおり。いやはや近右衛門殿はなかなかの慧眼をお持ちで」

 

「なに、ただの年寄りじゃよ。しかし本来魔法を知られたものは、記憶を消さねばならん」

 

 

 しかし魔法使いとしての規則はやはり記憶の消去である。学園長も例外に漏れず、そうするべきだと言ってのけた。それがルールである以上、当然のことだからだ。だがそこで、学園長が記憶を消さなければならないとしたことに、夕映は反論にでた。

 

 

「待ってください! このまま記憶を消されてしまうなんて、そんなの嫌です!」

 

「ふむ、しかしそういう定めになっておる。心配することはない、別にすべての記憶を消すわけではないのじゃからの」

 

 

 とは言ってもルールはルール。守らなければならないものである。また、魔法以外の記憶は残るので、別に気にする必要はない、安心したまえと学園長は夕映に優しく答えていた。だが、それでも納得がいかないのが夕映だった。

 

 

「そういうことではないのです! 私は魔法を知りたい、使ってみたいのです!」

 

「つまり魔法使いになりたいというわけかの?」

 

「はい! 私は魔法使いになりたいです!」

 

 

 夕映は本気で魔法が知りたいと言った。どうしても魔法使いになりたいと。この熱意に当てられ、学園長もどうしたものかと考えた。記憶を消して平穏に戻ってほしいというのもあるが、それでは夕映が納得しないだろう。

 

 それにそのカギが先生をしているのだ。どの道同じことがまた起こるだろうと、学園長は考えた。あの地底図書館でゴーレムを動かしていた学園長は、ありゃきっとまたやると思っているのだ。

 

 ――――――と言うか、あの地底図書館での出来事は、成績の悪い生徒達に用意した特別授業のようなものだった。ネギやカギの最終試験の手助けが目的であり、それ以外の思惑はなかったのだ。ただ、一つ誤算だったのは、カギが魔法の隠蔽を怠ったことだ。まさか、魔法学校首席で卒業したカギが、魔法をバラすなど思ってなかったのだ。

 

 そこで、学園長は長い顎髭をなでながら、難しい表情をして、どうするかを考えていた。このまま夕映に魔法を教えてもよいかどうか、判断しかねていたのだ。

 

 

「しかし、一般人が魔法使いになれるという話は聞いたことがないのでのう」

 

「つまり、私は魔法使いになれないのですか!?」

 

 

 魔法は基本的に魔法使いやその子孫が使っている。また、普通の一般人から魔法使いになったものが居たかはわからないが、学園長はそのような情報を聞いたことがなかった。だから夕映が魔法を使いたいと言っても、使えなければ意味がないと言ったのだ。

 

 しかし、基本魔法使いと一般人に大きな差はなく、練習すれば間違いなく一般人でも魔法が使えるようになると、学園長は考えていた。だが、それを言わないのは、夕映に魔法使いになることを諦めさせようと思ったからである。

 

 

「じゃから諦めたほうがよかろうて。無用に他人へ魔法のことを話さなければ、記憶もそのままにしてもよいしの」

 

「……ですが一般人の私でも、練習すれば使えるかもしれません!!」

 

 

 学園長は魔法のことを話さなければ、記憶はそのままにすると言った。だから魔法を諦めて普通の暮らしに戻りなさいと夕映に優しく説いたのだ。なんという破格な条件だろうか。本来なら考えられないことである。

 

 しかし夕映は引き下がらない。絶対に魔法が使いたいと思っているからだ。それに一般人と魔法使いに大きな差があるとは考えていなかった。確かに魔力の量などは違うだろうが、それでも使えるか使えないかという話ではないと夕映は思ったのだ。

 

 

「どうしても諦めてくれぬのか……?」

 

「はい! 私は絶対に魔法を使いたいのです!」

 

 

 強い意志で魔法を覚えたいと夕映は学園長へと叫んでいた。その瞳からも強い意志を感じるほどであった。そこで学園長は困ってしまった。このままでは話が平行線になってしまう。かといって強制的に記憶を消してしまうのもあまり好ましくない。そこにギガントが学園長にある提案をしたのだ。

 

 

「……近右衛門殿、ワシが彼女に魔法を教えようと思います」

 

「む? どういうことじゃ!?」

 

 

 その提案に近右衛門は驚いた。このギガントは、そのようなことを言うような男ではないと思っていたからだ。だが、このまま話が平行線では埒が明かないと考えたギガントは、とりあえず夕映に魔法を教えようと考えたのだ。その言葉に夕映は反応し、少し笑顔を見せていた。また、ネギもそのギガントの言葉に驚いたようで、目を見開いていた。

 

 

「え? 本当に教えてくれるのですか!?」

 

「まあ待ちなさい」

 

 

 そこへまだ学園長への交渉中だと、ギガントは夕映の方を向きながら、そう語りかけた。そして再び学園長へ向きなおし、ギガントはその理由をゆっくりと話し出した。

 

 

「彼女はきっと、カギ君やネギ君に魔法を教えてくれるように頼むかもしれぬ」

 

「ふむ、ならば記憶を消してしまうしかあるまい」

 

「しかし、カギ君がまたバラせば、いたちごっこになってしまいましょう」

 

 

 記憶を消さずに魔法を覚えたままでは、カギに魔法を教えるように頼むだろう。そしてきっとカギは教えてしまうとギガントは考えた。ならば記憶を消すしかないと学園長はそう言ったのだ。それは当然の処置でもあるからだ。だが、またカギが魔法をバラせば同じことを繰り返すことになると、ギガントは答えたのだ。

 

 

「それに彼女はとても聡明だ。一般人だった彼女は魔法がある可能性を知り、一ヶ月の間にこの都市が魔法使いの街であることまで突き止めてしまった。これは普通の人が真似出来ることではないでしょう」

 

「確かにそうじゃが……」

 

 

 ギガントはこの夕映を高く評価していた。何せ一ヶ月前まではただの一般人だった夕映は、カギの使った不思議な力を魔法と断定し、魔法使いの存在を突き止めたからだ。さらにそこから、この麻帆良が魔法使いの街であることまでも調べたからである。普通の人間には、これほどのことはなかなかできるものではないと、ギガントは考えたのだ。だからこそ、魔法を教えてみようと思ったのだ。

 

 

「近右衛門殿。何かあった時はこのワシが責任を取ろう。それに魔法を教えるに当たって厳しい規則を設けようと考えております。ですから近右衛門殿の許可が頂きたい」

 

「ギガント殿がそこまで言うほどとは……。ならばどのような規則を設けるかを聞いてから判断するとしようかの」

 

 

 ギガントは魔法を教えた時、夕映やその周りに何かあれば自ら責任を負うと言った。それほどの覚悟をしてでも、夕映に魔法を教えるということだ。さらに厳しい規則を設け、それを夕映に守らせると言ったのだ。

 

 そのことに学園長も驚いていた。それほどまでにギガントは、夕映に魔法を教えたいのか思ったからだ。だからそのギガントが言う規則とやらを聞いてから、学園長は判断しようと考えたのだ。

 

 

「一つ、魔法のことは他言無用。二つ、魔法をバラせば記憶を消して元の生活に戻ってもらう。三つ、魔法で問題を起こした場合も同じく、記憶を消して元の生活に戻ってもらう。四つ、その場合ワシ自身が、彼女の代わりに罪を問われる。五つ、本業である学業を怠らせない。これでどうでしょう?」

 

「うーむ、確かにそこまで言うのであれば、許可してもよかろう……」

 

 

 ギガントが口にした規則は、なかなか厳しい規則だった。そして、何かあれば自ら犠牲となると言ったのだ。学園長もそこまでギガントが言うのであればと、許可を出したのだ。だが、その結果にネギは納得いかないようだった。

 

 

「待ってください! お師匠さま、そこまでして夕映さんに魔法を教えたいのですか!?」

 

「それが大人の責任だよ、ネギ君」

 

「で、でも!?」

 

 

 何かあれば責任を全てかぶるというギガントの言葉に、ネギは納得がいかなかった。また、なぜそこまでしてでも夕映に、魔法を教えたいのかわからなかったのだ。だが、ギガントはそれを大人の責任と言ったのだ。そこで、ネギにどうして教えるかを、ギガントはやわらかい口調で説明した。

 

 

「ネギ君、事の発端はカギ君になる。だが彼はまだ君と同じ年齢の少年だ。そして、それをしっかり教育できなかったのは、大人であるワシらの責任なのだよ」

 

「でもそれは兄さんが悪いのであって、お師匠さまが悪いわけじゃ!!」

 

「いや、ワシも悪いのだよ。こうなることを予想しておきながらも、何も出来なかった、いや、何もしなかったのだからな」

 

 

 そうだ、こうなることがわかっていたのに、何もしなかったことに罪がある。ギガントはネギへそう言ったのだ。そして、そうなる前にカギにしっかりと、魔法の隠蔽のことを教育していれば、こんなことにはならなかったとギガントは言ったのだ。だが実際カギは転生者で、年齢なら10歳を超えて居るだろう。しかし、そんなことはギガントには関係のない話しであった。

 

 また、そう言うギガントに、ネギは納得はいかなかったが、何もいえなくなってしまった。そんな中、そこで喜びたいはずの夕映も、ネギと同じ気持ちだった。

 

 

「待ってください!! なぜあなたが、全ての責任を負うような真似をしなければならないのですか!?」

 

「それが大人だからだよ。君に魔法を教えたのがワシなら、その責任もワシが取らなければならん。それが大人の責任なのだからね」

 

「ですが、それではあまりにも……」

 

 

 魔法を教えてもらえる許可が下りた。だけど夕映は何か自分がした時、責任を取るのは自分ではなくギガントとなるのが、どうしても納得できなかったのだ。何か自分が失敗したなら、その責任ぐらい自分で取れる。そもそもそのような事態を引き起こさなければ良い、夕映はそう考えているからこそ納得がいかなかった。

 

 

「自分が何かやった時、記憶を消されるというのなら納得できます! でも、自分が失敗した時、あなたに責任をかぶせるのは納得がいきません! それに、自分が何らかの失敗をしたなら、その責任ぐらいとれます! ですから、全部の責任を取るなんてやめてほしいです!」

 

「駄目だ、君たちは若いんだ。だから、この判断を下したワシが、全て責任を取るよ」

 

 

 夕映が魔法を知りたいという意地があるならば、ギガントにも責任を取るという意地があった。確かに夕映が魔法で何かした時、その彼女が責任を取らないというのはとても甘い判断だ。だが、ギガントはそれを踏まえて、この規則を考えたのだ。しかし、夕映も引き下がらない。自分の失敗は自分で償うと叫んでいたのだ。

 

 

「そんなの絶対におかしいです! 自分の罪ぐらい償えます!! 魔法を教えてもらうのに、そこまでしてもらって平気な顔なんてできません!!」

 

「ならば、自らの罪を償えると? そして、それを踏まえて魔法を知るということかね?」

 

「はい! そうさせてください!」

 

「……ふむ、わかった」

 

 

 ギガントは少し脅すような形で、そのことを夕映に話した。

だが、それでも夕映は強い覚悟でそれを望むと言ったのだ。ギガントもそこまで言うのであればと思い、それでよいと夕映に言ったのだ。

 

 

「ならば訂正しよう、三つ、彼女が魔法で問題を起こした時、魔法使いのルールにより裁いてもらう。これでどうかね?」

 

「それだけではないです! 四つ目も変更してください!!」

 

 

 三つ目は夕映自信が罪に問われるかどうかの規則だ。だが四つ目の同じようにギガントも罪に問われるという規則を変更していない。そこに夕映はツッコんだのである。しかし、ギガントはそれを変更する気はなかった。それが魔法を教えたギガントの責任でもあるからだ。

 

 

「それは出来ない。ワシが教えたのなら、教えたワシも責任を問われるべきだからだ」

 

「そ、そんなこと……」

 

 

 それが大人の責任。教えるものの責任だとギガントは言った。だから夕映もそれ以上言えなかった。それが大人のルールであり、当然のことだったからだ。しかしギガントはそこで学園長の方に目を向けた。それに気がついた学園長も、ギガントに目だけを向けた。それはアイコンタクト。三つ目は先ほど述べたように頼むという意味だった。それを察した学園長は、静かに頷いていた。

 

 

「そうだな、魔法を知ったのは綾瀬君だけではなかったね。そこの宮崎君?」

 

「え? は、はい!」

 

 

 そうだ、先ほど夕映の話を聞き、ここでも話を聞いていたのどかも、魔法を知ってしまったのだ。だからギガントは、のどかも面倒を見ようと考えたのだ。そこで突然呼ばれたのどかは、ゆっくりとギガントの下へ歩いてきたのだ。

 

 

「宮崎君、君も望むなら魔法を教えよう。無論先ほど述べた規則にはしたがってもらうことになるがね」

 

「そ、それは……」

 

 

 そう言われるとのどかは少し困っていた。あの規則を守ることが条件なら、何かあった時自分で罪を償うことになる。だが、それは人として当たり前のことだ。

 

 それにのどかはネギが好きで、ネギが魔法使いならば、自分もそうでありたいと考えていた。だから、その条件を飲んで魔法使いになる道を選んだ。ただ、感情に任せた、その場しのぎの答えではない。はっきりと自分の強い意志で、そうなりたいと考えたのだ。

 

 

「……私も……魔法を習いたいです……!」

 

「そうか、では近右衛門殿。宮崎君の方も、許可をお願いできますかな?」

 

「……よいじゃろう。許可しよう」

 

 

 こうして夕映とのどかは、魔法使いとなれる許可を学園長から貰った。そしてギガントから魔法を教えてもらうことになったのだ。そこで、本来なら喜びたいはずの夕映は、少しモヤモヤした気分だった。

 

 そこでその話を聞いていたネギも、同じ気持ちであった。それはまだ、二人が若いからであり、大きくなればおのずとわかることなのである。だが、今はまだ、そのことがわからないのだった。

 

 

「綾瀬君、そこまで気にすることはないよ。なぜなら君がしっかりと規則を守ってくれればよいだけなのだからね」

 

「そ、そうですね……。わかりました!絶対にその規則を守ってみせます!」

 

 

 ギガントは先ほどの話を気にしすぎている夕映に、そう語りかけた。そしてその話を聞いた夕映も、うじうじ悩んでないで規則を守ればよいと考えたようだ。そこではっきりと規則を守ることを、ギガントに誓ったのである。また、のどかも同じように、心の中でそう誓っていたのだ。そこで同じように悩むネギに、ギガントは話しかけたのだ。

 

 

「ネギ君も気にしないでほしい。君はこれから彼女たちの兄弟子となるのだ、そんな暗い顔では彼女たちに申し訳ないだろう?」

 

「……そうですね。お師匠さまがそう決めたのであれば、僕は何も言いません」

 

「そう言ってくれると助かるよ」

 

 

 ネギはギガントがそう言うのであれば、悩むことはないと考えたようだ。そしてギガントはネギの言葉に、微笑みかけて答えていた。そこで夕映とのどかがギガントの近くへ来て、改まって姿勢を整えて立っていた。

 

 

「ギガントさん、いえ、師匠! 今日からよろしくおねがいします!」

 

「よ、よろしくおねがいします!」

 

 

 そこへ元気よく師匠となったギガントへ挨拶する二人。ようやく元気を取り戻してくれたかとギガントは思っていた。また、その光景を学園長も、顔を緩ませ優しい眼差しで眺めていた。ネギも同様に、微笑みながら夕映とのどかを見ていたのだ。

 

 そしてもう二度と魔法バレが無い様に、ネギは兄に注意しようと考えたのだ。それと同様にギガントも、カギに魔法がバレないように言いつけようと思っていた。学園長も、当然同じであった。

 

 そう三人が考えている中で、いつもの調子を取り戻した夕映とのどかは、仲良く魔法を知れることを喜び、互いによかったと言い合い抱き合っていた。まさにその光景は親友同士であった。

 

 ……その後三人から魔法バラすなと注意されて、機嫌を悪くするカギが居たのである。

 


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