理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百七十九話 嵐の中心点は

 

 

 

 アスナは急にネギと小太郎が消え、戸惑った様子を見せていた。

 

 

「何……、これはどうなってんの!?」

 

 

 突然敵らしき男に襲われたら、気が付けば二人が消えていたのだ。

まったく理解できない状況に、アスナは混乱したのである。

 

 

「あんた、いったい何をしたの!? 二人はどこへやったのよ!?」

 

「……教えるわけないだろう?」

 

 

 また、急にネギと小太郎が消えたのを見て、目の前の男が二人をどこかへ移動したとアスナは考えた。

 

 そんな怒りに任せたアスナの問いを、涼しい風のように流す敵対するなぞの男。

何をやったかなんて教えるわけがないのだ。自分の能力をわざわざひけらかすアホな真似などしないのだ。

 

 

「『保険』は必要だ。観念してもらおうか」

 

「そうは問屋が卸さないわよ!」

 

 

 さらに、男は保険と言葉にした。

つまるところ、すでに『本命』が存在し、アスナを『予備』にするということだ。

 

 が、アスナとて簡単につかまる気などさらさらない。

瞬時にかんかの気を練り、ハマノツルギで男へと切りかかった。

 

 

「ハアッ!」

 

「D・4・Cッ!!」

 

 

 アスナは思いきりハマノツルギを、上段から叩きつけるように振り下ろす。

 

 男は振り下ろされるハマノツルギを見ながら、また一言『能力名』らしき言葉を述べる。

 

 

「えっ!? 消えた!?」

 

 

 そして、ハマノツルギが男に直撃した、と思ったその瞬間、再び驚くべきことが起こった。

なんと、捉えたはずの男が、目の前から姿を消したのだ。

 

 

「……」

 

「ハッ!?」

 

 

 また、消えた場所から少し離れた場所から、男がヌッと生えてきた。

その手には拳銃が握られており、アスナへと向けて静かに発砲したのだ。

 

 アスナは男の気配を察知し、振り向けば、すでに男が拳銃の引き金を引いた後だった。

 

 

「ぐっ!?」

 

「寸前でかわしたか。勘のいい女だ」

 

 

 とは言え、咸卦法を用いた咸卦の気で強化してるアスナは、即座に判断して後ろへと飛び込み弾丸を回避。

ギリギリのスレスレであったが、弾丸は命中することなく、そのまま遠くへ来ていった。

 

 男は今のタイミングでの射撃を回避されるとは思ってなかったようで、少しだけ驚いた様子を見せていた。

 

 

「何がどうなってんの……?」

 

 

 アスナはこの状況がまったくもって理解できなかった。

攻撃したら男が消え、別のところから現れて攻撃してきた。

何が何だかわからないと、驚きの表情を見せることしかできなかった。

 

 

「こんの……!」

 

「D・4・C」

 

 

 それでも、ただ混乱しているだけでは敵を倒すことはできない。

アスナは再び別の場所から現れた男へと、ハマノツルギを振り下ろす。

 

 が、男はまたまたその言葉を口にすれば、ハマノツルギに接触したとたん、その場から消えていった。

 

 

「また消えたっ!?」

 

 

 再び男が消えたのを見たアスナは、すぐさま周囲をうかがった。

 

 さっきも消えた後に別の場所から現れた。

また同じように別の場所から攻撃してくることを予見し、警戒したのだ。

 

 

「くっ!!?」

 

 

 その予想は当たったようで、再び男が少し離れた場所から現れ、拳銃を発砲してきた。

アスナは放たれた弾丸をハマノツルギでガードし、一歩後ろに下がる。

 

 

「ただ闇雲に攻撃するだけじゃ、ダメみたいね……」

 

 

 もう二度ほど同じことを繰り返している。

 

 ハマノツルギを振り下ろせば消える。

妙な感じを察したアスナは、ただただハマノツルギを振り下ろすだけではだめだと理解した。

 

 

「ふん。無駄なあがきはやめておけッ! 小娘ッ!」

 

「なんの!!」

 

 

 されど、男は未だ余裕の表情で、アスナへと無駄だと言う。

自分の能力の謎が解けないかぎり、アドバンテージは崩れないことを知っているからだ。

 

 男は再び拳銃を発砲するが、アスナはそれを簡単に回避し、瞬動にて一瞬にして間合いを詰める。

 

 

「よけた……!?」

 

 

 アスナは今度はハマノツルギを横なぎに振るえば、男は体をそらして回避に専念したのだ。

 

 先ほどから回避なんてしなかった男が回避したのを見て、アスナは驚いた。

そして、その違いに何かあると、少しずつ察してきたのだ。

 

 

「くらえ! D・4・Cッ!!」

 

「ヤバっ! ……このっ!」

 

 

 だが、男も反撃として『能力名』を叫べば、見えざる何かがアスナを襲ったではないか。

アスナは目には見えない謎の力を察したのか、それを回避して再びハマノツルギを男へと振り下ろした。

 

 

「消えた……!」

 

 

 すると、男はまたしても消えた。

 

 

「さっきから同じパターンで消えてる……。何か法則があるってこと……?」

 

 

 しかし、アスナとて何度も男が消える場面を目撃し、それにはパターンがあることに気が付き始めていた。

 

 

「っ! そこっ!!」

 

「なにっ!?」

 

 

 故に、注意深く周囲を観察していれば、少し離れた場所から男が現れたではないか。

 

 アスナはすぐさまそこへ瞬動を用いて移動し、横なぎにハマノツルギを振りぬいたのだ。

 

 男は出てきたところを出待ちされたような状態となり、咄嗟に回避することもかなわず、その一撃をその身に受けたのであった。

 

 

「うぐうぅ!?」

 

「当たった……!」

 

 

 横なぎに振りぬかれたハマノツルギは、男の胸を横一文字に切り裂き、男はその衝撃で軽く吹っ飛んだ。

 

 ここで初めて自分の攻撃が命中したのに驚いたアスナだったが、当てれることを理解して喜びの顔を見せた。

 

 

「くっ……!」

 

「逃がすもんですか!」

 

 

 男は今の一撃を受け、不利を感じたのか逃走を図りだした。

だが、アスナは逃がす気などさらさらなく、後ろから瞬動で追いかけ、再びハマノツルギを横なぎにぶん回す。

 

 

「はぁっ!!」

 

「ガハァ!?」

 

 

 アスナが思い切りハマノツルギを薙ぎ払えば、男の背にも横一文字の傷を増やした。

 

 男は今の一撃で痛みによるうめき声をあげると、地面にごろごろと転がり動けなくなった様子を見せたのである。

 

 

「観念してもらうわよ!」

 

「ハァ……ハァ……。まっ、まさか……、これほど強いとは……予想外だ……」

 

 

 すかさずアスナは、前のめりに倒れた男の顔の前へと立ち、自分の勝利だと勝ち誇った。

 

 男もアスナの顔を見上げながら、こんな馬鹿なと言う表情を見せていた。

この男も転生者であり、原作知識が存在する。

 

 まさか、あのアスナがこれほどまでに脅威になっているとはわからず、予想以上のアスナの強さに度肝を抜かれたようだった。

 

 

「だが、お前は俺の能力の”謎”を解かぬ限り、()()()()()()()()()

 

「だったら教えてもらおうじゃない」

 

「言うわけないだろう、小娘風情が」

 

 

 されど、男はこの程度で負けたなどと思っていない。

むしろ、まだまだ自分が有利であることを理解し、この程度じゃ負けてないぞと自信たっぷりに宣言する。

 

 男が能力の謎のことを言えば、アスナはならば今すぐそれをしゃべってもらうと言葉にする。

だが、当然男は能力の謎をしゃべる訳がないと、アスナへ向かって吐き捨てる。

 

 

「むしろ、俺はお前のことは色々知っているぞ。知られたくないような秘密もな」

 

「はあ……? 何よそれ……!?」

 

 

 さらに、男はアスナの秘密を知っていると言い出したではないか。

それも、他人に知られたくないような内容の、と。

 

 それを聞いたアスナは、はったりだと考えながらも、少しビビった様子でそれを聞く。

 

 

「クックックッ、お前さぁ、…………その齢で、………………()()()()()んだって……なァ?」

 

「なっ、何がよ……!?」

 

 

 すると、男は小さくクツクツと笑いながら、静かに口を開いた。

その内容とは、アスナの年齢で、まあ実年齢100歳以上だが、肉体年齢的には15歳ぐらいで、()()()()()と言うではないか。

 

 それを聞いたアスナは、大きく反応し「嘘、冗談でしょ?」と言う顔でさらに詳しく聞き出そうと問いを言葉にする。

 

 

「そりゃぁ……、お股の……アレの……、んっんっ」

 

「っっっ~~~~~~!!!!」

 

 

 男はアスナにそう言われ、ニタニタと笑いながらその事実を口に出した。

それはすなわち、その、アレだ。がっつりと原作の漫画に描かれていた事実のことだ。

つまり、そう、アスナがパ〇パ〇と言う事実だ。

 

 それを聞いたアスナは、耳まで顔を真っ赤にし、言葉にならないような悲鳴を上げた。

 

 そりゃそうだろう。

クラスメイトぐらいしか知らないような女性としての秘密を、知らない男に知られていたのだ。

恥ずかしくて死にそうにもなるだろう。

 

 

「こんのオォォッ!!!」

 

 

 故に、アスナは恥ずかしさを怒りに変えて、ハマノツルギを男へと振り下ろした。

 

 

「そうだ。それでいい」

 

 

 だが、それこそが男の狙いだ。

あえて挑発めいたことをしゃべり、アスナを激高させるのが目的だったのだ。

 

 

「D・4・C」

 

 

 さらに、激高してハマノツルギを振り下ろさせるのが目的だった。

振り下ろされれば、()()()()()()()()()()()()

 

 

「っ!? またしても消えた!?」

 

 

 そして、ハマノツルギは石畳へと衝突し、突き刺さった。

しかし、そこには先ほど倒れていた男の姿が忽然として消えたのである。

またしても、またしても消えたのだ。

 

 

「横に振れば当たったけれど……、今、真下に振り下ろしたら消える……」

 

 

 それを見たアスナは、男が消えるメカニズムを察し始めた。

横に当てれば消えないが、真下に当てると消えるということに。

 

 

「それから、ずっと違和感を感じてたけど……、ここは静かすぎるわ……」

 

 

 他にも、ようやく落ち着いたら別のことも気になり始めた。

何故ならば、()()()()()()()()()()()()

 

 

 下ではエヴァンジェリンたちが戦い、近くでも他の仲間が戦っている。

派手に戦闘してるはずなので、多少なりとてそういう音が聞こえてきてもいいはずなのだ。

 

 だというのに、この場所は無音に等しい。

まるでさっきの男と自分以外、人がいないような、そんな状況だと感づき始めていた。

 

 

「……ふん、()()()()()()。ずいぶんと正解に近づいたじゃあないか」

 

「なんですって!?」

 

 

 そこへ男が再びどこからともなく現れ、よくやるなと言う顔で、謎が解け始めたことを言いだす。

 

 アスナはその男の言葉に反応し、声を大きくして叫ぶ。

やはりこの違和感は間違っていなかった、これこそ謎を解く鍵なのだと。

 

 

「だが、その程度じゃあ、お前はここから帰れない」

 

「さっきから()()()()なんて、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!」

 

 

 しかしだ、未だ謎は全て解き明かされた訳ではない。

全ての謎が解明できなければ、この場から()()()()()()()()()、と言うように男は語る。

 

 その男の言葉に、アスナはさらに察したようだ。

帰るとか帰らないとか言っている。この場所がまるで自分がいた場所とは違うみたいに言うことに、違和感を覚えたのだ。

 

 

「そうだ。ここは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

「なっ……どういうこと……!?」

 

「それは自分で考えるのだな。まあ、俺はお前を逃がす気はないが」

 

 

 男はそれをあたりだと述べ、正解を口に出す。

そうだ、この場所は本来の場所ではなく、厳密には()()()()()()()()()()()なのだと。

 

 アスナはその答えに、一体何を言っているのかと混乱した顔を見せた。

当然である。急に隣の別の世界、などと言われても、すぐに理解できるはずがないからだ。

 

 男は混乱するアスナへと、そこまで教えるわけないだろ、と捨てるように吐く。

自分は敵であり、謎をすべて語るなんて馬鹿な真似などするはずがないのだから。

 

 

「…………だからネギたちが消えたように見えたのね!?」

 

「わかってきたじゃあないか」

 

 

 が、混乱した頭を整理したアスナは、この状況を理解した。

隣の別の世界、並行世界へと()()()()()移動したからこそ、近くにいたはずのネギや小太郎が消えたように錯覚したのだと。

 

 男は理解の早いアスナを見て、ほう、と言う顔を見せた。

原作のアスナはあまり頭が良い方ではなく、むしろおバカだ。

原作のままならばたぶん理解できてないはずだろう。

 

 されど、目の前のアスナはそれを今の言葉だけで正解へとつなげた。

すなわち、目の前にいるアスナは、原作とは違っておバカではないということを、男も理解したのである。

 

 

「それに…………、あんたの傷、いつの間にか治ってる……!?」

 

「そういうことだ。さっさと諦めたほうがいいぞ」

 

 

 さらに、アスナは別のことにも気が付いた。

先ほど攻撃してダメージを与えた男が、気が付けば無傷になっていたからだ。

服も何もかも綺麗さっぱり元に戻っていたからだ。

 

 男はそのこともあえて言わず、むしろ自分の肉体は再生するような感じの態度で、アスナを諦めさせようと言葉にする。

 

 

「だとしても、諦める訳がないでしょ! 謎を解いてネギたちのところへ帰るんだから……!」

 

「無駄なあがきを……」

 

 

 しかしだ、その程度で諦めるほど、アスナは折れちゃいない。

この程度で折れるほど、精神やわじゃない。

 

 アスナはまだまだ元気という態度で、みんなのところへ帰ると宣言し、諦めていないことを男へと示す。

 

 いやはや、ここで折れてれば楽なものを、と男は憎々しげにアスナを睨む。

ここで止まっていれば疲れはしないというのに、なんともあきらめの悪いことかと。

 

 こうして、二人の戦いは、まさに再開という様子で再び始まったのである。

 

 

…… …… ……

 

 

 一方、アスナが消えた場所では、ネギ&小太郎と『フェイト』が戦っていた。

 

 

「どうした? 君はその程度だったのかい?」

 

 

 『フェイト』は当然強かった。

地属性の魔法に体術、どちらも一流どころか超一流。

しかも、曼荼羅のような障壁が攻撃を阻み、防御も完璧だ。

 

 そんな『フェイト』に押される二人は、その強さに戦慄を覚えた。

 

 

「やっぱり強い……!」

 

「ああ……、思っていたとおりや」

 

 

 とんでもなく強い。予想通りだ。

小太郎もネギも、多少の傷を作りながら、『フェイト』を見ながら距離を取る。

 

 横で共闘していたフェイトを見ていた時から、それはわかっていたことだ。

石の魔法は恐ろしく卓越しており、あれを受ける側になったら、と二人とも少しだけ考えたことがあったからだ。

 

 

「…………失望したよ。もはや君なんかにこだわる必要はない」

 

 

 そんな距離を取りながら何もしてこない二人に、『フェイト』はがっかりしたと言い出した。

なんと言う弱さだろうか。これが自分が期待していた好敵手の姿か?

 

 しかも奥の手すら使ってこないナメた真似をしている。

本当に失望しかない。こんな情けない()など見たくもなかった。

 

 

「何勝手なこと言ってんねん! まだまだやで!」

 

「うん、その通りだ」

 

 

 そんな『フェイト』の言い草に、腹立たしいと言う態度で小太郎は叫ぶ。

勝手に失望して勝手に終わらせるなと。

 

 ネギもまた、自分たちは負けてない、これからだと言葉を投げつける。

 

 

「口では何とでも言える。消えてもらおうか」

 

 

 が、『フェイト』はもうこの勝負は決まったと感じていた。

もはや彼らに勝ち目などなく、自分の勝利は揺るがないと。

故に、もはや仕事の処理として、彼らを叩き潰すことにした。

 

 

「そういえばどうしたんだい? 例の闇の魔法(マギア・エレベア)は」

 

「……? 何のことです!?」

 

 

 ただ、『フェイト』にはどうしても聞いておきたい疑問があった。

それはネギがさっきからずっと闇の魔法(マギア・エレベア)を一切使っていないことだ。

 

 だが、それを質問されたネギは、意味が分からないと言う顔を見せた。

 

 闇の魔法(マギア・エレベア)なら聞いたことがある。

ラカンが教えてくれたことだ。

 

 あのエヴァンジェリンが自分用に編み出した強化魔法。

魔法を固定して自らの体に取り込む魔法だと言う。

 

 しかし、その代償は大きく、吸血鬼ではないものが使えば、闇に魅入られるとも言う。

故に、その魔法はラカンも教えてくれなかった。むしろ教えたら殺されるとまで言っていた。

 

 だから、ネギはその魔法を知っていても使ったことがないし、修得したことなどない。

その上フェイトの前でも、そんな魔法使ってないし、話したことさえないはずだ。

 

 そのため、ネギはその質問の意味を、本当に理解できない。

なんでその名前が今、この場で出たことさえ、まったくもってわからないのだ。

 

 

「? …………君の功夫(しゅぎょう)の成果だったのではないのか?」

 

「……?」

 

 

 わからない、と言う顔で困惑するネギを見て、むしろ『フェイト』もわからないと言う顔を見せた。

あの魔法はネギの修行の成果であり、()()()()()()()()使()()()()()()()()なはずだ。

 

 それを未だに見せないというのは、『フェイト』にとっては理解不可能なことだったのである。

 

 それでも、ネギもそんなこと言われたってわからない。

修行の成果? そんな魔法習得してないし、使いこなす訓練すらしていない。

まったくもってわからない。何を言われているのかと、逆に疑問を浮かべるばかりだ。

 

 

「まあいい。そうやって余裕をかましているのなら、そのまま消えてもらうだけだ」

 

 

 『フェイト』は今のネギの態度で、完全に気持ちが冷めていた。

自分にすら奥の手を見せず、ナメた態度を続ける好敵手にもうどうでもよいと感じ、義務的に処理すると宣言した。

 

 

「さっきから話がかみ合わへんぞ?」

 

「うん。やっぱり変だ」

 

 

 そんな『フェイト』に小太郎も、妙だな、と思った。

最初からすでに思っていたことだが、今の会話のかみ合わなさで、完全におかしいと理解したのだ。

 

 小太郎もネギの修業を真横で見てきた。

ネギがそんな魔法を習得したことも、訓練していたこともないのは百も承知。

だからこそ、変なのだ。

 

 しかも、目の前の『フェイト』が、それを知っているのもおかしな話だ。

何せフェイトには確かにネギの()()()()()は見せたことがある。

ここに来るときにだって使った。

 

 されど、その成果を見せただけで、いつどこで何のために習得したかは話したことなんてなかった。

それをまるで知っているかのように話されるのは、ネギも違和感しか覚えなかったのだ。

 

 

「しっかし、どないすりゃあいつの牙城を崩せるんか?」

 

「……」

 

 

 とは言うものの、目の前にいる『フェイト』はとてつもない強敵。

彼を倒す必要がある状況で、あの強敵をどうやったら倒せるか、小太郎は考えあぐねいていた。

 

 ネギもこの状況をどうにかしなければならないと、考えを巡らせていた。

はっきり言ってしまえば、今目の前の『フェイト』を相手にしている余裕はない。

 

 最後の鍵(グランドマスターキー)を探し出し、ゲットしなければならないからだ。

そのために『フェイト』を退けるのであって、倒すことなど目的ではないのだ。

 

 

「ちょっとゴメン」

 

「ん? どないした?」

 

 

 そこで、何かを思いついたネギは、ふと小太郎の左側へ移動し、右肩肩に手を乗せて顔を近づけ、こっそりと謝る。

小太郎は一体なんだとネギの方を向けば、何やら小声で話しかけてきたではないか。

 

 

「準備期間が欲しい。30秒でいい。彼を抑えて」

 

「30秒でええんか?」

 

「うん」

 

 

 そして、ネギは小太郎へと、準備のために時間が欲しいと願い出る。

小太郎は30秒と聞いて、その程度でいいのかとニヤリと笑って聞き返せば、こくりとうなずくネギがいた。

 

 

「作戦会議なんてやってる暇はないよ」

 

 

 だが、そんな悠長にしている暇はない。

作戦を立てているのを察した『フェイト』が、攻撃に転じてきたからだ。

 

 

「頼んだよ!」

 

「任せとき!」

 

 

 ネギは小太郎の肩に乗せていた手に信頼を乗せ、彼の背中を押す。

小太郎もその信頼に応えるかのように、黒い気を膨れ上がらせ、『フェイト』へと急接近していった。

 

 

「犬上小太郎か」

 

「残念そうな顔しおって!」

 

「心底残念だよ」

 

 

 『フェイト』は小太郎が相手と察し、あからさまに気を落とすような態度を見せる。

 

 そんな『フェイト』に対して小太郎も、非常に腹立たしいという言葉を拳に乗せて投げる。

 

 が、『フェイト』はその通りと言う様子で、その拳を避けて、自分の拳を小太郎の顔へと狙いを定めて伸ばす。

 

 

「その余裕の表情、歪ませたるわ!」

 

「やれるもんならだが」

 

 

 涼しい顔して見下しやがって。

ネギにご執心なのは何となくわかっていたが、こうも舐められっぱなしってのも癪だ。

 

 そのすました顔を変えてやる。

小太郎はそう宣言し、『フェイト』の拳を顔をそらしてかわし、気をさらに高めて拳を『フェイト』へ再び伸ばす。

 

 されど、『フェイト』はそれを知っていたかのように回避し、逆に左拳を小太郎の腹へとぶつけたのだ。

 

 

「ぐっ!? がっ!!?」

 

「その程度かい? 威勢だけなのかい?」

 

「はっ! ナメんなや!」

 

 

 一発だけでは『フェイト』の猛攻は終わらない。

さらに伸ばした右手を振り、小太郎の顔面にぶち当てる。

そして、少しよろめいた小太郎へと、直接体をぶつけて衝撃を与え、吹き飛ばしたのである。

 

 小太郎は苦悶の声を出しながら転がり、それを『フェイト』はつまらなそうな目で眺めながら見下したことを言う。

 

 だが、小太郎は両手を地面につけて飛び上がり、態勢を一瞬にして立て直す。

さらに、『フェイト』へ挑発仕返すと同時に、『フェイト』と肉薄するほどの距離まで、瞬動で移動したのだ。

 

 

「……!」

 

 

 今の小太郎の動作に、『フェイト』は一瞬目を奪われた。

あのネギを意識から外してしまうほどに、驚きを感じたからだ。

 

 先ほど与えた一撃は、あの程度でとどまるような軽いものではなかった。

あんなに素早く態勢を立て直し、即座に攻撃へと転じられるようなダメージではなかったはずなのだ。

 

 

「ハァッ!」

 

「なっ、くっ!?」

 

 

 それなのに、一瞬で距離を詰めてきた小太郎に、『フェイト』は驚いた。

その隙をチャンスと考えた小太郎は、強靭な気をまとった拳を『フェイト』へと叩き込む。

 

 『フェイト』は顔面への攻撃は避けれたが、二撃目の体を狙った攻撃は避けれず食らってしまう。

拳が腹部にめり込み、『フェイト』は表情を歪ませながら、数メートル後ろへと吹き飛ばされたのである。

 

 

「よぉやく驚いた顔を見せてくれおったなぁ?」

 

「…………流石に侮りすぎたか……?」

 

 

 『フェイト』の涼し気な顔が苦痛で歪んだのを見て、小太郎は溜飲が下がったとニヤりと笑う。

 

 そんな小太郎を睨みながらも『フェイト』は、相手の力量を図れなかったと、少し悔しがる様子を見せていた。

 

 

「それに、傷が勝手に癒えているのは……」

 

「こっそりネギがかけてくれた魔法や」

 

「なに?」

 

 

 だが、小太郎を観察していた『フェイト』は、別のことにも気が付いた。

先ほど見舞ってやった顔面につけた傷が、気が付けば消えていたのだ。

 

 小太郎はただの人間ではなく、半分が狗の妖怪だ。

それでもこんな超回復能力は持っていないはずだ。であれば、何故これほどまでに回復が早いのかと、『フェイト』は驚いたのだ。

 

 その答えを、小太郎が教えてくれた。

簡単だ。ネギの魔法だ。ネギが回復の魔法をかけたのだ。

ただの回復魔法ではないぞ。かけた瞬間から持続する傷を癒す魔法、リジェネートだ。

 

 『フェイト』はそれにも驚いた。

ネギが小太郎に回復魔法をかける素振りなど、一度だって見せていないからだ。

 

 そう、『フェイト』は知らないのだ。リジェネートの魔法が存在することを。

ネギがその魔法の使い手であることを。

 

 

 また、その魔法をいつ小太郎にかけたかと言うと、ネギは小太郎と作戦を立てる時、そっと小太郎の肩に手を乗せた時だ。

その時にこっそりと、リジェネートの魔法を付与していたのだ。

 

 

「んでもって、お望み通り今度はネギが相手してくれるで?」

 

「っ!?」

 

 

 こうしているうちに、小太郎がネギから言われた「30秒」が経過した。

これでようやく『フェイト』の真打の登場ってわけだ、と小太郎は笑っていた。

 

 すると、とてつもない魔力の槍が『フェイト』を襲った。

それも一瞬にしてだ。

 

 『フェイト』は障壁にてガードしたが、障壁は粉々に砕け散り、その槍を腕でとっさに掴み防御。

 

 そして、その槍の持ち主を見れば、待ち望んでいた相手が自分を睨みつけてながら、光り輝く槍を握りしめていたのである。

 

 

「ぐっ!? これは……!?」

 

「”術具融合、術式武装・改。最果ての光壁”」

 

 

 こんな魔法は知らない。

『フェイト』はかなり困惑した様子を見せた。

 

 なんだというのだこの魔法は。

ネギが使ってくるのは闇の魔法(マギア・エレベア)ではなかったのか。

その準備のための時間稼ぎではなかったのか。

 

 それに、魔装兵具と呼ばれる反物質かした魔法なら存在するし、知っている。

しかし、その魔法には似ているが、明らかに別物だった。

ならば、この魔法は一体何だというのか。

 

 そう混乱する『フェイト』が無意識に漏らした言葉に、ネギは律義に答えた。

これこそが自分が誇る最大の技、完成した「最果ての光壁」。

 

 ネギの身長の二倍ほどある巨大な光の槍。

純白に輝くランスであり、”千の雷”・”雷の暴風”・”障壁破壊”・”強化障壁”などの魔法が複合・融合された、多目的突撃槍。

 

 その融合させた魔法の数を考えれば、繊細で精密な作業が求められているのは明らかで、故に準備するのに30秒かかった。

 

 

「いきます!」

 

「それはいったい……!?」

 

 

 ネギは掴まれた穂先を振り上げ、『フェイト』の手を払いのける。

そして、距離を少しとった後、再び穂先を『フェイト』へ向け、攻撃の宣言を高らかに行ったのだ。

 

 対して『フェイト』は、未だに混乱した様子だった。

闇の魔法(マギア・エレベア)を使わず、その知らない魔法を使うネギ。

その姿とその魔法の疑問が頭を駆け巡り、何が起こっているのかと戸惑うばかりだったのだ。

 

 

…… …… ……

 

 

 誰もが戦っている嵐の外、いまだに静かな場所があった。

この魔法世界を無に帰する儀式、その中央。つまり、光の渦の中央だ。

 

 何重にも重なった円形の筒の中央に、一人の意識を失った少女が浮かされていた。

赤茶けた長い髪を持つ、白い肌を持った小さな少女。

 

 それこそが彼ら完全なる世界の奥の手。彼女こそがこの世界を消滅させる鍵の一つであった。

 

 

「世界が終わるのか、残るのか」

 

 

 その少女を、この世界の生末と重ねるかのように眺める一人の男がいた。

青年ぐらいの年齢の姿、白く短い髪を持った男だった。

 

 

「もうすぐそれがわかる時がくる」

 

 

 この戦いの結末がわかるのは、もう数時間後ぐらいであることを、男はよく知っていた。

 

 

「この『最後の鍵(グランドマスターキー)』を、果たして彼らは奪えるのかどうか……」

 

 

 そして、自分が持つこの最後の鍵(グランドマスターキー)が、誰の手に委ねられるのかを考えていた。

 

 この鍵を持つ者こそが、この戦いを制するものとなる。

消えるか残るかは、これを得たもの次第であると、男は静かに独り言をつぶやく。

 

 

「だがまあ、苦戦しているようだから、まだまだかかりそうではあるかな」

 

 

 とはいえ、この世界の崩壊を阻止せんとするものどもは、未だに戦っている。

この場所にすら辿り着けぬ彼らは、本当に世界を救えるのか、見ものだと男は笑う。

 

 

「――――雑魚狩りは飽きるものだな」

 

 

 そんな時、ふと急に自分の声以外の声が聞こえてきた。

それは男の声だ。太くはないが細くもない、そんな声が聞こえてきた。

 

 男はその声の方へと、瞬時に魔法を放つ。

暗黒に旋風、闇の吹雪だ。

 

 が、声が聞こえた場所に魔法を撃ったと言うのに、そこには人の姿形がどこにもなかったのである。

 

 

「時間停止か」

 

 

 男はふと、別の場所に気配を感じ、そちらに視線だけを送れば、何者かが自分の背後から少し離れた場所に立っていたのだ。

 

 また、男はこの感覚を察して、ぽつりと背後の男へ聞こえるようにこぼす。

 

 

「ほう、理解したか」

 

「勘が当たって何よりだ」

 

 

 背後の男、それこそディオであった。

ディオは雑魚の転生者をあらかた潰した後、この場に現れたのである。

 

 また、ディオはこの一回の時間停止で能力がバレたことに、関心の声を出した。

瞬間移動などの能力も存在するのであれば、そちらを取るだろうと思っていたからだ。

 

 男はそれをなんとなくで察したと述べる。

気配が瞬時に、全くの時間差もなく移動した。

それこそつまり、時間停止して動いたのではないかと。

 

 

「お前がここへ来たということは、裏切ったと言う訳だな?」

 

「裏切ったなどと…………、最初から仲間になったつもりなどないがな」

 

「そういうことか」

 

 

 そして、男はこのディオというやつが、完全なる世界に所属していたのを思い出し、裏切ったのだろうと語りかけた。

 

 されど、ディオは裏切った気などまったくない。

最初から味方するつもりなどなく、仲間になった事実すらないと笑いながら語るだけだ。

 

 男もそれを言われたが、逆に納得した様子を見せた。

確かに今の”完全なる世界”はチンピラの集まりみたいなもんだと、男も多少思うところがあったらしい。

 

 

「ああ、そうだ。自分が動くのであれば、一つ先に言わせてもらいたい」

 

「何?」

 

 

 ただ、男は戦うのであれば、最初に言葉にしたいものがあると、ディオへと述べる。

 

 ディオはそれは何なのかと思ったが、あえてそれを阻止しようと動くことはなかった。

 

 

「造物主の使徒、(セプテムム)。闇のアーウェルンクスを拝命」

 

「やはりそうだったか」

 

 

 そして、男はディオに、まるで学友になるかのように自己紹介を静かに言葉にした。

 

 ――――男の名は(セプテムム)

造物主の使徒と名乗り、自らを闇のアーウェルンクスと称した。

 

 本来1~6番しか存在しないはずのアーウェルンクスシリーズの七番目。

 

 ディオはその紹介で、一瞬にして目の前の男、セプテムムが何者であるかを理解した。

 

 そう、このセプテムムこそ、ディオと同じく転生者である。

 

 

「グッ!?」

 

「私はね、全てのアーウェルンクスの性能を上回る性能を”()()()()()()”存在だ」

 

 

 と、セプテムムが紹介を終えた瞬間、ディオの目の前から姿を消したかと思えば、すでに目の前へと迫ってきていた。

さらにセプテムムは掌底を行い、ディオの腹にそれを命中させ、後方へと思いっきり吹き飛ばしたのだ。

 

 時間停止などではない、超スピードでの動き。

ディオもたまらず目を見開き驚きながら、吹き飛ばされていた。

 

 これはまずいとディオは考え、時間を止めて体勢を立て直す。

すると、セプテムムはディオの方へとすぐさま向き直し、自分がどんな力を持っているのかを語り始めた。

 

 

「色々なパラメーターを最大にした”セクンドゥム”すらも上回るほどの、……ね」

 

 

 このセプテムムの得た転生特典、それはアーウェルンクスシリーズを超える力を持ったアーウェルンクスになることだ。

そして、もう一つは自分の自由意思を砕かれないこと。

 

 つまり、造物主の使徒としての使命を受け入れることなく、その力を得たのだ。

 

 

「時間停止…………、しかし時間停止中は魔法を使えないと見た。相性悪いようだな」

 

「……時間停止中は自分以外は全て停止する。精霊も呼応させることが出来んのだから当然だ」

 

 

 そう語りながら、すでに闇の吹雪をディオへと向けていたセプテムム。

しかし、ディオは時間停止を用いて、その魔法を簡単に回避して見せる。

 

 ただ、セプテムムは時間停止の欠点を一つ見抜いた。

それは時間停止中に魔法を使うことができないというものだ。

 

 ディオもそれは理解していた。

何せ魔法とは自分の魔力以外にも外部の精霊を操る必要があるからだ。

精霊が働かなければ魔法を動かすことはできない。

 

 つまり、自分だけが動ける止まった時の中では、魔法は使えないのだ。

 

 

「しかし……!」

 

「っ!」

 

 

 されど、それでも使い方はあるのも、ディオは理解している。

それをとっさに見せれば、突如死角から出現した魔法の射手1001矢に、セプテムムは襲われたのである。

 

 セプテムムはその魔法に驚きながらも、何重にも張り巡らされている障壁にて防御。

だが、畳みかけるかのように、別の方向から雷の暴風がセプテムムへと襲い掛かった。

 

 

「詠唱を完成させ、時間停止を利用することは可能という訳だ」

 

「なるほどな」

 

 

 時間停止中は詠唱をしたところで、魔法を使うことはできない。

しかし、詠唱を終えて発動する前に時間を止め、移動した後に発動させることは可能だった。

 

 今のディオの動きを見てセプテムムは、それを理解した。

それは確かに脅威であるな、と。

 

 

「しかし、この程度ではお前を倒すのはかなわんだろう」

 

 

 とは言え、相手は造物主の使途であるアーウェルンクス、それもそれらを超えた力を持つ存在。

小手先の技程度では倒すなど到底不可能だと考え、ディオは切り札を切ることにした。

 

 

「闇の吹雪×2、術式固定、掌握! ”夜天頂”」

 

 

 ディオはすでに詠唱を終え、その魔法を解き放つ。

いや、放たれはしない。両手でその魔法を握りしめ、掌握するからだ。

 

 それは闇の吹雪、それも両手にひとつづつ。

それらを掌握し、自らの肉体に取り込む。これぞ闇の魔法。

 

 肉体は魔法に彩られ闇に染まり、冷気の暴風が吹き荒れる。

髪の色も黄金から白銀に近くなり、空気中の水分が凍りだして雪となってふぶく。

 

 そして、ディオはこの魔法に夜天頂と名付け、高らかに宣言した。

 

 

闇の魔法(マギア・エレベア)ってやつか」

 

 

 セプテムムはとてつもない冷気を肌で感じながら、すました顔でディオを見ていた。

別に、特に珍しくもない、という様子であり、全くもって気にすることすらしなかった。

 

 

「だが、それなら()()()()()()()

 

 

 何故驚きすらしないのか。それは単純な理由だ。

このセプテムムもその闇の魔法が使えるからだ。

 

 

「奈落の業火、こおるせかい、術式固定、”掌握”」

 

 

 そして、このセプテムムも詠唱をすでに終え、奈落の業火とこおるせかいの二つの魔法を同時に掌握。

 

 

「”氷炎絶滅”」

 

「別の二つの魔法を同時に掌握だと……!?」

 

 

 セプテムムはこの魔法を”氷炎絶滅”と呼んだ。

肉体は青白い輝きを放ちながらも、ゆらゆらと陽炎が舞う。

 

 ディオはその状態を見て、目を見開いた。

まさか別々の魔法を両方同時に掌握し、融合させたからだ。

それも相反する炎と氷の魔法だったからだ。

 

 

「驚くところはそこじゃない」

 

 

 されど、セプテムムはそこがメインではないと語る。

すると、おもむろに片手に炎、片手に氷の魔法を出し混ぜ合わせ、片腕を伸ばし弓を弾くポーズを取り出したのだ。

また、その弓を引いた形にスパークが発生し、ディオへと狙いを定めているではないか。

 

 

「――――”極大消滅呪文(メドローア)”ッ!」

 

「なっ!? ウオオォォッッ!?」

 

 

 そして、それを叫びながら解き放った。

その名を極大消滅呪文(メドローア)と――――。

 

 ――――極大消滅呪文(メドローア)、ダイの大冒険に出てきた魔法。

炎のメラ系の呪文と氷のヒャド系の呪文を均等に保ち、融合することで完成する、メラとヒャドの極大呪文。

 

 その力は命中したものをすべて消し飛ばし、消滅させる一撃必殺の呪文。

 

 だが、セプテムムはメラやヒャドを使った訳ではない。

それらを真似て、疑似的に極大消滅呪文(メドローア)を再現しただけにすぎない。

が、再現されているだけあって、その破壊力は同等であり、触れたものを消滅させる恐るべき魔法だったのだ。

 

 そう、この魔法があるからこその”氷炎絶滅”。

氷と炎の力にて、絶対に滅ぼす魔法。

 

 

 極太のレーザーとなって向かってくる眩い輝きと名前にディオは戦慄し、咄嗟に時間を止めて回避に専念した。

その名は直撃すれば不死の吸血鬼となった自分すらも、完全に消滅させて殺せる魔法だからだ。

 

 

「時間を止めて避けたか。だが、避けきれなかったようだな」

 

「ウグッウゥ……」

 

 

 セプテムムはディオが時間を止めて回避したのをすぐさま察した。

されど、完全に回避できる余裕はなかったディオは、左腕を上腕の下からごっそりと持っていかれてしまっていた。

 

 

「まさか……、まさかメドローアとは…………」

 

「魔法方式がドラクエとは違うのだから、まあ本来はできんだろうが」

 

 

 なんということだ。

このディオは真祖の吸血鬼の力を得た。それは不死身の力だ。

だが、それをも滅ぼすほどの力、しかもメドローアなどと言うものが出されるなど、思ってもみなかった。

 

 とは言え、セプテムムも単純にメドローアを再現できるなどと思ってはいなかった。

何せ”ドラクエ”の魔法とは違うのだから、単純に真似すればできるというものではない。

 

 

「氷の魔法と炎の魔法を取り込んだこの姿ならば、ご覧のとおり可能という訳だ」

 

 

 故に、闇の魔法で氷と炎の魔法と融合し、それを成しえるために研究し、練習を重ね、調整した。

そして、完成したのが先ほど見せた極大消滅呪文(メドローア)だったのだ。

 

 

「さあ、どうする? まだ戦うのかい?」

 

「ふん、このディオに後退はないッ!」

 

 

 セプテムムは余裕の表情でディオへと問う。

この力を使う自分とまだ戦う余裕はあるのかと。

 

 そんな愚問にディオは、即座に引くという選択は存在しないと叫ぶ。

 

 

「吹っ飛んだ腕も再生したようだな」

 

「――――行くぞッ!」

 

 

 また、セプテムムがしゃべっているうちに、すでに失ったディオの左腕が再生し、元通りになっていた。

セプテムムはディオを確実に倒すのであれば、やはり全身すべてをメドローアで消滅させる必要があることを再確認した。

 

 そう余裕をこいているセプテムムへと、ディオは叫びながら時間を止めて攻撃に移るのであった。

 

 

 

 


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