理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百六十八話 旧世界の今、そして今はまだ

 出発前、数多と焔はすでにハルナの飛空艇に乗っており、その甲板のデッキで、話し合っていた。

 

 

「……私が付いて来ることに、何も言わないんだな」

 

「まあな」

 

 

 数多は腕を組みながら外を見つつ、焔の話を聞いていた。

焔は数多の隣で逆の方向を向きながら、目も合わせずに語り掛けていた。

 

 その話の内容とは、焔がこの戦いに参加するということだった。

また、そのことについて数多が、何も言わなかったことに対しての疑問を打ち明けることだった。

 

 

「別に、言わなくたってわかってるんだろ?」

 

「……ああ」

 

「んじゃ、今更言う必要ねぇってことさ」

 

 

 数多は焔がこの戦いの危険度を知った上での参加だということを、最初から理解していた。

だから何も言う必要はないと考え、あえて言葉にしなかった。

 

 焔もそれを聞かれれば、小さく返事を返すだけ。

当然ながら、焔もこの戦いにおいての危険性は、しっかりと認識したつもりだからだ。

 

 

「でもまあ……、兄貴としちゃ、この先危険だろうし、首突っ込んで欲しくはねぇ」

 

「わかってる。……それでも、なんだかんだ言って、あいつら(クラスメイト)のことが心配なんだ」

 

 

 とは言え、数多は義兄として、妹に危険な目にあって欲しくないと願っていた。

確かに焔は決して弱くはない。されど、やはり命の危険があるのならば、今すぐこの船から降りてほしいとも思っているのだ。

 

 その気持ちは焔とて嬉しいし、数多の心中も理解していた。

されど、それ以上に自分の友人たちのことを考えると、どうしても行かなくてはならないと思ってしまうのだ。

 

 

「……へへっ」

 

「わっ、笑うところか!?」

 

 

 すると、その焔から発された意外な言葉に、数多は自然と笑みを漏らした。

焔は突然笑われたことに、怒りながら数多の方を向いてつっこむように叫ぶ。

 

 

「違ぇって。随分と成長したなって思ってなあ」

 

「そうか……?」

 

「ああ、そうさ」

 

 

 数多も焔の方へと向き直し、微笑みながら今の笑った意味を語った。

それは焔の成長が嬉しかったからだった。

 

 と、そう言われた焔であったが、どう成長したのか疑問に思ったようだ。

 

 

「数年前なんか、心配どころか目にもかけなかっただろう?」

 

「……そうだな。数年前なら、どうでもいいと思っただろうな」

 

 

 焔の何が成長したのか。

それは気持ちのゆとりや余裕、心の持ちようだろう。

 

 麻帆良学園へ焔が入りたての時、焔はクラスメイトのノー天気さに嫌気を感じていた。

しかし、それも改善され、今ではクラスメイトを受け入れて、友人だと思えるようになった。

数多はそれがたまらなく嬉しかったのだ。

 

 焔も数多の話を聞いて、確かにそうかもしれないと思った。

今でこそクラスメイトを気にかけているが、前であったら知らぬ顔をしていただろうと。

 

 

「だから、成長したってことだぜ」

 

「……うん」

 

 

 そう、それが成長した証だ。

数多は誇らしげにそれを言うと、焔は少しはにかんだ顔で小さく頷いていた。

 

 

「だから何も言わねぇ。ただ、無茶すんなってだけだ」

 

「……ありがとう、兄さん……」

 

 

 そんな風に成長した焔だからこそ、数多は戦いについてくることに、あえて何も言わなかった。

それでも、最後に一言だけ小さな忠告を入れておいた。

 

 焔も数多の気遣いに、笑みを見せて感謝した。

ならば、全員無事に元の世界へ帰ろうと、焔は意を決するのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 同じように、元紅き翼の4人、ガトウ・クルト・ラカン・高畑が地下物資搬入港にて話し合いをしていた。

 

 

「俺とクルトは部隊を整え、後から行く」

 

「あぁん? 一緒に来ねぇのか?」

 

 

 その話し合いと言うのは、ガトウとクルトはここで一旦別れると言うものだった。

ラカンはガトウの言葉に、一緒に直接乗り込む気だと思っていたと述べる。

 

 

「20年前の再来とあれば、こちらも危険となるだろう」

 

「故に、艦隊の指揮をとるものが必要となるでしょう」

 

「はー、そりゃメンドクセーこって」

 

 

 それもそのはず、20年前の再来となれば召喚魔の類がぞろぞろ現れる可能性もあった。

いや、すでにそれは発生し、この総督府へと襲い掛かった。

 

 だからこそ、こちらも戦力を整えて、しかるべき状況に対処できるようにしなければならない。

敵の本拠地の近くであるオスティアにも、被害がでる可能性を考慮しての行動だ。

そう考えたガトウは、クルトを連れて連合艦隊を結成させようとしたのである。

 

 ガトウとクルトの説明に、ラカンはチンプンカンプンみたいな顔をしていた。

自分で殴った方が早いと考えるラカンに、指揮系統だのなんだのはわからなかったのだ。

 

 

「んじゃ、こっちは俺とタカミチで何とかするさ」

 

「お手柔らかにお願いしますよ、ラカンさん」

 

 

 とは言え、後方から大規模な支援を行うと言うのはラカンにも理解できた。

故に、最前線での戦闘は自分とそこの高畑でやれると、二人へ告げた。

 

 ただ、あのラカンと横で戦う羽目になった高畑は、正直緊張していた。

あの出鱈目な強さのラカンについてこれるか、心配になったのである。

いや、師匠であるガトウとも肩を並べるかもしれないと思うだけでも、重く感じてはいるのだが。

 

 

「タカミチ、しくじるなよ……」

 

「そっちこそ、クルト」

 

 

 が、そんな謙遜した言葉を吐き出す高畑へと、しかめっ面で激励じみた言葉を放つクルトがいた。

そんなクルトへと澄ました顔で睨みつけながら、高畑も負けじと返し言葉を言い放つっていた。

 

 

「よし、即座に部隊を整えろ!」

 

「こちらの損害は思ったほどではないようです。すぐに編成できるでしょう」

 

「それは良い情報だ」

 

 

 そして、ラカンと高畑はハルナの飛空艇へ歩き出す。

ガトウとクルトも反対側へと歩き出し、ガトウはクルトへと指示を飛ばす。

クルトも得た情報をガトウへと報告。すぐさま艦隊編成へと乗り出す構えだ。

 

 

「だが……、急がんと魔法世界が危ない……!」

 

「わかっていますよ……」

 

 

 されど、残された時間はもうあまりない。

できる限り素早く艦隊を編成し、防衛に回らなければならない。

 

 気が付けば駆け足で移動するガトウとクルト。

この一刻を争う事態、1秒でも時間が惜しいと、焦燥感に駆り立てられるのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 コレットたちは、敵陣へとともに行くと夕映へと話した。

されど、この世界の真実をのどかから教えてもらった夕映は、それを断った。

 

 何せ造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)の力で、消えてしまう可能性があるからだ。

それ故に、絶対に来てはならないと、理由は語れないがはっきりと拒絶したのだ。

 

 コレットはかなりの落ち込みを見せたが、エイミィは夕映の態度を見て何かあると察し、辞退を言い放った。

夕映も頭を下げて申し訳ないと謝るも、エイミィは彼女の肩に手を乗せ、謝ることはないと慰めたのだ。

 

 彼女たちも非戦闘員が乗るジョニーの船で守護することとなり、夕映と別れの挨拶をしたのであった……。

 

 

 同じく、フェイトとその従者も、それについて揉めていた。

栞・暦・環の三人は、自分たちは戦えると言って、フェイトについて来ようとしたのだ。

 

 彼女たちも皇帝から()()を二つ貰っているので、造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)が通じない。

しかし、その事実を彼女たちは知らない。

 

 故に、フェイトは首を縦に振ることはなかった。

それ以外にも、あちらにはあの竜の騎士ほどの敵が存在するからだ。

 

 アレと戦えば、間違いなく彼女たちを守るなど不可能。

それにアレぐらいの強さの敵が、複数いるかもしれないと考察していた。

だからこそ、彼女たちを危険にさらせないとし、栞の姉の護衛として、別の船に乗ってほしいと説得したのだ。

 

 彼女たちもフェイトの優しさを理解し、渋々ではあるが承諾した。

ただ、何かあれば仮契約カードで呼んで欲しいと、一言いい残した。

フェイトもそれには小さく頷いて、彼女たちを安心させるのであった。

 

 

 エヴァンジェリンも従者である茶々丸に、別の船へと乗り込み守護を言い渡した。

敵陣に行くには危険が大きすぎるからだ。茶々丸とて戦えない訳ではないが、危険に晒したくないと考えたのだ。

 

 茶々丸もマスターの命令には逆らわず、問題ない態度で承諾した。

エヴァンジェリンは少しだけ安心した顔を見せ、彼女が見送る中、ハルナの飛空艇へと入っていったのだった。

 

 

 状助と三郎も決戦前と言うことで話し合った。

三郎は状助も戦いに出ることを、かなり心配した様子だった。

状助も不安ではあったが、それ以上に三郎を安心させようとしていた。

 

 されど、状助の言葉には自信がなく、むしろ三郎をさらに心配させてしまうばかりだ。

それでも行くと決めたのだからとことん付き合うと言う状助に、三郎は止めることはしなかった。

 

 また、ほんの数分の会話であったが、両者ともみんなと生きて帰る決意をし、それぞれの持ち場へと歩き出したのだった。

 

 そして、クレイグらトレジャーハンター組は、自らこの場所に残ることにした。

何せ防衛となる場所は空飛ぶ船の上。遠距離攻撃ができない戦士であるリーダーのクレイグは、厳しいと考えたのだ。

それに悔しいことではあるが、自分たちでは能力が不足していると言うのもあった。

 

 故に、この場に残って未だに混乱しているであろう上へと上がり、そちらで戦おうと考えたのである。

そこでのどかへと別れの言葉を交わし、付いて行くロビンへと挨拶を済ませ、彼らの船出を見送ったのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 戦えない者、あやか・亜子・アキラ・夏美・まき絵・千雨・和美・ココネ、三郎。

それを守護する者、カズヤ・法・マタムネ・アーニャ・茶々丸・美空・高音・愛衣。

そして、コレット・エイミィ・ベアトリクス・栞・栞の姉・環・暦。

 

 それらはジョニーの駆る船へと乗り込み、彼らの無事を祈りながら帰りを待つことにした。

また、ガトウとクルトは別行動し、艦隊の編成し後を追うことにしたのである。

 

 それ以外にロビンを除くクレイグたちは、新オスティアに残ることにしたのだった。

 

 そして、始まった最終決戦。

彼らの行動で、世界は救われるのだろうか。変えられるのだろうか。

 

 皇帝は何をしているのだろうか。その部下は駆けつけるのだろうか。

 

 造物主の野望が達成されるのだろうか。転生者たちの思惑通りになるのだろうか。

 

 それは誰にもわからないことだ。

今、わかっていることは、その結果があの数時間のうちに決定されるということだ。

 

 

 ――――一方、旧世界の麻帆良では、深刻な異常事態が発生し始めていた。

 

 

……  ……  ……

 

 

 ここは旧世界。夏真っ盛りの日本の麻帆良。

ネギたちが魔法世界へと入って、旧世界の時間として2週間が経過していた。

 

 そこいらじゅうからセミの鳴き声が聞こえ、空は晴天。

まさに日本の夏と言うのにふさわしい気候であった。

 

 そんな中、世界樹前の公園で二人の男女が歩いていた。

それは明石教授とその妻、夕子であった。

 

 

「……心配そうね」

 

「まあね……」

 

 

 明石教授は娘が魔法世界へ行き、ゲートが何者かに破壊されてしまったことについて、大変心配していた。

そんな教授の為に、気分転換の散歩を提案したのが夕子だった。

 

 されど、多少なりと不安で落ち着かない様子の明石教授に、ほんの少し困った様子の夕子であった。

 

 

「でも大丈夫よ。あの子は私たちに似て強いもの」

 

「そうだね……」

 

 

 とは言え、夕子とて自分の娘、裕奈が心配な訳ではない。

ただ、裕奈は見習いとは言え魔法使い。それなりに腕が立つと、親馬鹿ながらに評価している。

 

 ならば、ある程度のことがあっても安心だと、夕子は教授を安心させるかのように語った。

しかし、当然ながら明石教授もそれは理解していた。

 

 

「それでも心配だよ。完全に遮断されてしまって、連絡すら取れないんだから」

 

「確かに……、こちらとの楔を失ったあっちは、もう数か月以上経過してるはずだものね……」

 

 

 されど、やはり何かあったら……、と心配し不安になってしまうものだ。

連絡すらも取れないこの状況じゃ、仕方がないと明石教授は話す。

 

 それもそのはず、旧世界と魔法世界の繋がり(ゲート)が断たれた今、こっちとあっちでは流れている時間のスピードが違うからだ。

魔法世界の流れる時間は、旧世界よりも早くなっており、こちらは2週間程度であるのに対し、あちらはもう数か月経っていることになるのだ。

 

 

「だけど、アルス君が一緒にいるでしょ? なら大丈夫よ」

 

「……ああ……、彼がいるならきっと……」

 

 

 それでも、他に安心する要素はある。

それは友人であるアルスが、傍にいると言うことだ。

 

 彼がいるならきっと大丈夫だ。

そう言えるほどの実績と信頼が、アルスにはあった。

 

 

「……ちょっと待って……!?」

 

「どうしたの?」

 

 

 が、そこで突然教授は、会話を止めて何かを注視し始めた。

一体何があったのか、夕子は首をかしげながら、教授にそれを聞いていた。

 

 

「世界樹が……発光している……?」

 

「えっ?」

 

 

 すると、教授の口からとんでもないことがこぼれたではないか。

それは目の前にある世界樹が、何やら光っているということだったのだ。

 

 夕子も少し驚きながらも、確認のために”目”で見てみれば、確かにうっすらと発光していたのだ。

 

 

「……本当! でもなんで……」

 

「向こうで何か起こっている……のか……?」

 

 

 どうなっているのだろうか。

世界樹の発光時期はすでに過ぎている。

次の22年の周期までは、光らないはずだ。

 

 二人とも一瞬混乱しそうになるが、ふと冷静になり原因を考え始めた。

そして、行きついたのが魔法世界で、何かとんでもないことが発生しているのではないか、ということだった。

 

 

「それじゃあ……まさか……、オスティアのゲート……!?」

 

「だけど、あのゲートは20年前、意図的に封鎖されたはず……!」

 

 

 何故なら、この旧世界の麻帆良と魔法世界のオスティアとは、ゲートにてつながっているからだ。

ただ、ゲートは20年前の大戦において封印され、すでに使われていないのだ。

 

 夕子がそれを言い出せば、教授はゲートが封鎖されて動いていないはずだと返す。

されど、完全に封鎖されている訳ではないとしたら、そう考えると辻褄が合ってしまうのだ。

 

 

「それよりもこの発光具合じゃ、夜になったら一般人にも見えてしまうわ!」

 

「! 学園長から連絡が……!」

 

 

 しかし、原因以上に問題なのは、これが夜になると魔法使いではない一般人にも、見えるようになってしまうということだ。

夕子がそれを焦るように言えば、教授のポケットの携帯電話が、突如鳴り響いたのだ。

その発信元こそ、学園長であった。

 

 学園長もすでに世界樹の発光に気が付き、すぐさま明石教授へと魔法先生・生徒の招集を命じた。

そして、何故そうなっているのかを集った魔法先生・生徒らに説明を始めた。

 

 それこそ麻帆良とオスティアを結ぶゲートを隔てて、魔力が漏れているからだ。

さらにそれらを行っているものたちこそ、今回世界11か所のゲートを破壊した犯人。

20年前の再来を狙っているであろう”完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)”の残党だと予想づけた。

 

 このままでは麻帆良もあちらの莫大な魔力の漏れで、何が起こるかわからない状況だ。

そのため、ゲートが存在する図書館島地下の調査、周辺住民の避難、各国魔法支部への連絡、関西呪術協会への説明を要請。

 

 されど急すぎる事件に、誰もが戸惑いを感じざるを得なかった。

さらに相手が20年前に英雄が倒した組織であり、頼りにしている高畑もおらず、混乱はなくとも不安が募る状況であった。

 

 また、学園長は図書館島地下にある、アルビレオがいる場所へと即座に足を踏み入れた。

彼に助力を頼むためだ。そこには関西呪術協会の長、詠春も来ていたので話がスムーズに進んだ。

 

 そして、予想では黄昏の姫御子、アスナが敵につかまったのではないか、と言う話が出た。

何せ20年前の再来ならば、必要なパーツの一つだからだ。

 

 とは言え、元紅き翼の一員であり保護者をしている男、皇帝の剣たるあのメトゥーナトがそんな失態をやらかすはずがない。

であれば、彼女以外に誰か、それができる存在を利用しているのではないか、と言う予想が出てきた。

 

 それ以外にも、学園を防衛する転生者たちにも電流が走った。

とうとうこの時がやってきたか。どうなるのだろうか。彼らにも不安がよぎったのである。

 

 こうして彼らは今後の対策について、どうするのかを話し合うのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 ここはウェールズの山奥の村。ネギの故郷。

その地にやってきていたネギの生徒たちは、魔法世界へ行った(未だに帰らぬ)友人を待ち続けていた。

 

 と、そこへ一つの電話が鳴り響いた。

その電話の持ち主は桜子。そして、電話を鳴らしたのは、なんと音岩昭夫であった。

 

 昭雄は彼女に電話したのは、すぐさま麻帆良へと戻ってくるよう伝えるためだ。

さらに、すでに迎えが行っているというのだ。

 

 迎えがすでにこっちへ向かっている。

急な話に混乱する桜子であったが、外から何やら音が聞こえてきた。

 

 桜子は何事かと思い外の野原に出てみれば、草原を波紋のように揺らす強風とともに、ロータージャイロが回転する音が鳴り響いた。

また、誰もが音につられてやってきたのか、友人たちもぞろぞろと草原へと足を延ばしてきたのである。

 

 そして、誰もが空を見れば、驚くべき光景が彼女たちを待っていた。

なんと、ヘリコプターが何台も空で滞空しているではないか。

 

 また、そのヘリから一人の大柄な老人がロープを伝って下りてきて、彼女たちを見渡した。

 

 

「うむ、みな元気そうじゃな。迎えに来たぞ」

 

 

 それこそあの状助の担任教師、ジョゼフ・ジョーテスだった。

このヘリ集団こそ、スピードワゴン財団のものだった。そう、彼女たちを迎えに来たのは、彼だったのだ。

 

 

…… …… ……

 

 

 場所を戻してここは魔法世界、ウェスペルタティア王国。

 

 その王国の浮遊島群を取り囲む、光のドームを一望できる程の距離の上空を、ハルナの飛空艇がオスティアへ向けて飛行していた。

 

 

 ――――静かだった。

先ほどの敵の襲撃とは打って変わって、とても静かだった。

 

 外を見ればウェスペルタティア王国の首都オスティアの中心へと、魔力(ひかり)がどんどん集まっており、浮遊大陸ウェスペルタティアを白い光が包み込んでいた。

それだけならば幻想的で美しい光景ではあるが、終始の光と知れば絶望の方が上回るだろう。

 

 そして、その光景と静けさに誰もが息をのんだ。

これから起こることは、誰も忘れないだろう。そう誰もが思いながら、静寂の空の中で時間が来るのを待っていた。

 

 とは言え、目的地まではまだ距離がある。

彼らは警戒しながらも、作戦会議を行うことにしたようだ。

 

 ただ、飛空艇の中では狭い。

なんといってもこの飛空艇一台に全員が集まり、さらに原作チームだけでなく転生者たちやラカンや高畑、フェイトなどが増えているのだ。

なので、エヴァンジェリンが持っていた魔法球の内部で会議を行うことにしたのである。

 

 彼らはオスティアや墓守り人の宮殿や周囲の状態が映し出された映像を見ながら、作戦を練っていた。

 

 

「さて、この先どうするんっスかねぇ」

 

「出たとこ勝負しかないだろうなあ」

 

「まっ、そうするっきゃねぇわな。俺は二度目になるがな!」

 

 

 状助は”原作知識”で先のこと思い出しながら、その通りにはいかんだろうと考えていた。

その状助の言葉に直一も、明日は明日の風が吹く、という様子で行き当たりばったりな意見しかないようだ。

 

 ラカンも基本的に考えるのが苦手で、それしかないと言い切る。

ただし、ラカンがあの敵の本拠地に乗り込むのは二度目だ。

 

 

「乗り込むのはいいが、どうやって乗り込むんでしょう」

 

「相手とて、そう簡単には乗り込ませてはくれないと思います」

 

 

 そこへ高畑が敵陣へと攻めるのは当然として、どこからどうやって攻めればよいか、と話題を振った。

ネギも乗り込むにせよ、簡単に侵入を許すような相手ではないだろう、と意見を出す。

 

 

「だが、今は敵の襲撃もねぇ。狙うなら今しかねぇ」

 

「ああ、先手を打った方がいい。何より速さこそが最大の攻撃にもなる」

 

 

 ただ、今は敵の気配もなく、穏やかな状態が続いている。

この好機を逃す手はないと、アルスは今すぐにでも乗り込む構えを見せた。

直一もその意見には賛成だ。速攻で敵陣へ乗り込み速攻で倒す。シンプルだが最速こそが最高だ。

 

 

()()アーチャーとやら、どっか穴はねぇのか?」

 

「フム……」

 

 

 そこでアルスは敵であったアーチャーへと、意見を求めた。

敵だったのだから、あの墓守り人の宮殿への侵入ルートを知っているだろうと考えたのだ。

 

 が、アーチャーはそれを聞かれれば、腕を組んで考え出すだけだった。

 

 

「もはや私は奴らに捨てられた身、奴らがどう動くかは未知数だ」

 

「つかえねぇなあ……」

 

「すまないね。所詮は裏切り者だ」

 

 

 そして、アーチャーが出した結論は、わからない、だった。

というのも、本来指揮をしていたのは自分だったが、今は他の誰かがやっていることだろう。

目星はついているのだが、それが何をどうするのか未知数だった。

 

 されど、アーチャーに少し期待していたアルスは、つかえん、と一言で切り捨てた。

それを聞いたアーチャーは、ふっと笑って流しながら、自分の今の現状を皮肉のように言い放つだけだった。

 

 

「裏切り者と言えば、僕もそうなる」

 

「フェイト……!」

 

 

 しかし、その”裏切り者”という言葉に反応するものが、もう一人いた。

それこそフェイトだ。

 

 アーチャーも急に声を出してきたフェイトへと振り返り、フェイトの名をこぼしていた。

 

 

「……なぁー、大丈夫なんっスかぁ!?」

 

「大丈夫ですよ。我が主君はあなたが思っているような人ではありませんので」

 

「そ、そうっスかねぇ……」

 

 

 ただ、状助は”原作知識”でついつい物事を考えてしまうので、フェイトを信用しきれないでいた。

そんな状助へと、安心させようと優しい声で説明をする男、剣のことランスローがあった。

 

 されど、やはり信用しきれないのか、微妙に引きつった笑みを見せる状助。

やっぱり”原作知識”なんて半端に持ってるのは辛い、と改めて思うのだった。

 

 

「墓守り人の宮殿へと侵入したいのであれば、最もの警備薄い真下を目指すといい」

 

「そこから侵入するのが一番敵に見つかりにくい、と言うことですね?」

 

「そういうことになる」

 

 

 それよりもフェイトは話を淡々と進めていく。

そして、墓守り人の宮殿への侵入経路を説明し始めたのだ。

 

 それは宮殿の最下層。

細く長い構造で内部が螺旋階段になっている場所だった。

ここは敵の守備もほぼなく、侵入に適した場所であるとのことだった。

 

 ネギはそれを確認のために聞くと、フェイトは静かに頷いて肯定した。

ここが一番安全に侵入できる場所。それ以外はないと。

 

 

「それと、見ればわかるけど周囲には大規模な魔力で形成された、積層魔法障壁がある」

 

「それじゃ、どうすれば侵入できるんだ?」

 

 

 だが、問題はこれ一つだけではない。

もう一つ解決しなければならない問題があった。

 

 それは宮殿やオスティア周囲を取り囲む、巨大積層魔法障壁のことだ。

これは魔法世界全体から収集された魔力によって作り出された、超巨大なバリアだ。

これを何とかしなければ、侵入することなど不可能だった。

 

 フェイトの説明に、このバリアの突破はどうするのかをアルスが問う。

 

 

「力づくで突破するか?」

 

「あの障壁は連合の主力艦隊の主砲すら通さない、強力なものだよ」

 

「そりゃ俺でもちーっとばかし骨が折れそうだな」

 

「無理とは言わないんだね」

 

 

 そこでラカンはこれに対して、無理やり突破することを提案しだした。

流石にそれは無茶がすぎると、フェイトは却下同然のことを述べた。

 

 何せ、主力艦隊の主砲ですら全く効果がないほどの強力な障壁。

これを無理やり突破するなど、不可能と言っていいからだ。

 

 が、ラカンはなんと、それでも自分なら何とかできるようなことを言い出したではないか。なんというバグっぷりだろうか。

フェイトも半ば無表情ながら呆れた顔で、でたらめな奴だと思いながらそれを言うのだった。

 

 

「別に道がない訳ではないよ。一点だけ突破できる場所がある」

 

「どこだ?」

 

 

 それはそれとして、この障壁を突破できる唯一の場所があることをフェイトは語り始めた。

アルスはそれが一体どこなのかを、フェイトへと聞く。

 

 

「真上の中央に、台風の目のような場所がある。そこから侵入できるはずだよ」

 

「なるほどねぇ」

 

 

 フェイトは静かに魔法障壁が表示された部分の中央上空を指さした。

その場所こそ障壁の天辺であり、抜け道となっている場所だった。

 

 誰もがフェイトの言葉に納得した様子で、小さく頷いていた。

アルスも多少は”原作知識”があるものの、こういった細かい部分は抜け落ちてしまっているので、助かると感謝していた。

 

 

「それ以上の情報は、流石にない」

 

「まっ、それじゃその後はなるようにしかならねぇ……って訳だ」

 

「それしかないですね」

 

 

 ただ、フェイトも数年間、ほとんどあちらに戻ったことがない。

なので、それ以上の知識はないと、きっぱりと言い切った。

 

 ラカンもそれ以上は求める様子は見せず、ならばやるしかないと気合を入れるだけだった。

高畑もこれだけの情報があれば十分という顔で、後はできる限りのことをしようと言う意見であった。

 

 

「――――ふと思ったんだが、そこのお嬢さんは何もんだ?」

 

「そういえば、まだ自己紹介してませんでしたね」

 

 

 しかし、そこでふと、ラカンがさっきから気になっていたことを口に出した。

それこそ気が付けばこの船に乗っていた、()()()()()()()()()()を名乗る女性のことだ。

 

 彼女はそれを聞かれると、自分のことをまだ話していなかったのを思い出し、改めて名乗った。

 

 

「私は……、()()()アーチャー、ロビンフッドのマスター。名前はナビス」

 

()()()だと?」

 

 

 彼女の名前はナビスと言った。当然、転生者でもある。

背丈はさほど大きくはなく、体系はスレンダーで凹凸があまり大きくない女性。

透き通った白い肌に、髪は青っぽい銀色で、腰の高さまで美しく伸ばしていた。

 

 服装は魔法使いっぽいローブで、その下にはシャツとぴっちりとしたジーパンという組み合わせ。

ハーフリムのオーバル型の眼鏡をかけ、ところどころに魔法の媒体となる装飾をつけており、銀の腕輪や指輪が目立つ。

 

 しかし、そんな彼女が枠組みとして語っている部分は、()()()アーチャー、ロビンのマスター、ということだけだ。

 

 そこで、()()()と言われたラカンは、疑問に思った。

何が”現在の”なのか、ということだ。まるで以前は違うような言い方だった。

 

 

「はい。彼のマスターは20年前の戦いで……」

 

「……」

 

 

 それもそのはず、ロビンのマスターは20年前の大戦において、今向かっている場所で命を失っていたのである。

ロビンもその話を腕を組んで聞き、フードで顔を隠して俯きながら当時を思い出していた。

 

 

「ああ、そうだったな……。あの髭爺はあん時……」

 

「……惜しい人を亡くしたものです……」

 

 

 ラカンも20年前、ロビンのマスターがあの戦いにて倒れたのを思い出していた。

高畑もあの人を失った悲しみを思い出し、しんみりした顔を見せた。

 

 

「やっぱ、そういうことって訳か……。いや、予想はできていたが……」

 

 

 そして、横から聞いていたバーサーカーも、やはりという顔を見せていた。

この場にマスターがいないのだから、もしや、とは思っていたようだ。

されど、やはり人が死んでいるという事実に、サングラス越しに表情を曇らせていた。

 

 

「私がここにいるのは、その元マスターへの贖罪の為です」

 

「……別に、アンタが気にすることじゃないっしょ……? ありゃどうしようもなかった訳ですからね」

 

「そう言われましても、私が納得できないのです」

 

 

 また、現在のマスターであるナビスは、ロビンの元マスターへの罪滅ぼしをするために現れたと言う。

それを聞いたロビンは、そんなことは必要ないとばかりに彼女へと話しかけた。

 

 されど、彼女は納得できないと、静かに言葉にする。

過程はどうあれ、結果的に彼のマスターを死なせたのは自分だと、そう常に自責の念に駆られているのだ。

 

 

「まったく、随分と意固地なこった」

 

「理解しているつもりです」

 

「そりゃご立派なもんで」

 

 

 ここまで頑なに意見を曲げないとは、なんとも生きづらい性格している。

そう思いながらも、ロビンは悪くはないと思った。

 

 ただ、そんなことを背負うのは自分だけでいい。

彼女には彼女の人生があり幸せがあるのだから、気にする必要はないとロビンは常々思っていた。

 

 しかし、それを口にする訳ではなく、ついつい皮肉っぽいことを言い放ってしまうロビン。

とは言え、ナビスも自分が意地っ張りなのも、ロビンの性格も理解しているようで、気にはしていない様子であった。

 

 

「だがなあ、あの時のことはアンタのせいでもなんでもねぇ。俺の能力が足りなかっただけだ……」

 

「……それは、……お互い、そうだったのでしょう……」

 

 

 それにロビンは、自分のマスターを死なせた一番の原因は、自分であるとはっきりと言葉にした。

あの時、自分がもっとうまくやれていたら。そう思わずにはいられなかった。

 

 だが、それを言うなら自分もだと、ナビスは言う。

あの戦いで足りなかったのは、一人だけではない。誰もが足りなかったのだと、それ故の結果であると。

 

 

「あーっ! そうか! 思い出したぜ! どっかで見た気がしてたんだが、そうか!」

 

 

 と、その会話を聞いていたラカンは、急に大声を出してハッとした顔を見せたではないか。

 

 

「お嬢さんは、あの時、バーサーカーと呼ばれた男を使役していた女の子か……!」

 

「……そうです」

 

 

 今の会話と昔どこかで見たような顔、それがつながったラカンは、ナビスへと一つの質問をした。

それこそ、20年前にバーサーカーを使役していたマスターではないか、というものだった。

 

 そう、彼女こそ20年前、赤く巨大なバーサーカーのマスターだった、幼き少女だったのだ。

それを聞かれたナビスは、陰った表情で肯定の言葉をつぶやいた。

 

 

「あの時は、大変ご迷惑を……」

 

「別にいいんだよ。そこのロビンの言う通り、しょうがなかった訳なんだからよ」

 

 

 そして、そこでナビスは頭を下げて、深々とお詫びを始めたのである。

が、ラカンとて気にしていることはない。あの時、彼女は敵に洗脳されていたからだ。

 

 だからこそ、許されざるべきはあの時幼かったこの子を操っていた、完全なる世界の連中。

彼女には何の罪もないのだと、ラカンは言い切って見せた。

 

 

「でっ……ですが……!」

 

「そういうことだって()()()()。アンタは気にする必要はねぇんだ」

 

 

 されど、ナビスは納得いかないという顔で、声を上げかけていた。

それを止めたのはロビンだった。ロビンもラカンと同意見であり、彼女に非がないのを理解している。

 

 また、彼女も自分のサーヴァントを失っている。

そこまでして自分を責める必要など、どこにもないのだ。

 

 

「そう……、ねぇんだよ」

 

「アーチャー……」

 

 

 それに今更何を言ったって、元マスターは帰ってこない。

そんな雰囲気で声を出すロビンを見たナビスは、何も言えなくなってしまったのである。

 

 

「……あーっ、大体のことはつかめたんだが、一つ聞いていいか?」

 

「……なんでしょう?」

 

 

 なんというかとてつもなくしんみりとした空気の中、それを割るようにしてバーサーカーが彼女へ質問を出した。

ナビスも突然の質問に、いったい何が聞きたいのか、とバーサーカーへと振り返る。

 

 

「どうやってそこのアーチャーが再契約したんだ……?」

 

 

 バーサーカーが聞きたかったことの一つ。

それは再契約のことだ。何せマスターが死んでなお、ロビンは彼女というマスターを得て現界を保っている。

その方法があるのだろうと気になったのである。

 

 

「再契約は……、アーチャーの元マスターが、死に際に令呪を用いて行いました。そして、余った令呪も私に……」

 

「……そうか。わるかった……、嫌なことを聞いちまって……」

 

 

 ナビスはその質問に、表情を曇らせながらに答えてくれた。

その方法とは、ロビンの元マスターがその命を終える前に令呪で命じ、マスター権限を移したというものだったのだ。

さらに、使い切っていない令呪も、彼女へと渡したと言うではないか。

 

 それを聞いたバーサーカーは、質問が悪かったと感じ、ばつが悪そうに謝罪した。

 

 

「いいんですよ。その過去と向き合い乗り越えるために、ここにいるのですから」

 

「ダンナの遺言でもありますからねぇ。ここは流石にこの状況は野放しにゃできねぇって訳さ」

 

「……そうかい」

 

 

 されど、ナビスはそれに対して、良いと言った。

何故ならその薄暗い過去を乗り越えるべく、ここへやってきたのだから。

過去に囚われるのをやめ、未来に進むために戦いに来たのだから。

 

 ロビンも当然、同じだ。

それ以外にも、いや、それ以上に元マスターの遺言もあった。

20年後同じ戦いがまた起こるだろう。その時、もう一度戦ってほしい、と。

その約束を果たすため、ロビンは再び現れたのだ。

 

 それを聞いたらもはやバーサーカーは何も言えない。

ただ、ふっと微笑みながら、ぶっきらぼうだが確実に繋がっている二人を見ているだけであった。

 

 

…… …… ……

 

 

転生者名:ナビス

種族:人間

性別:女性

原作知識:あり

前世:30代OL

能力:サーヴァント、バーサーカーの使役

特典:Fateのサーヴァントをランダムで呼び出すチケット

   (召喚されたのはFate/EXTRAのバーサーカー、真名は呂布)

   オマケで令呪3画

   超膨大な魔力(神がサーヴァントに直接魔力供給を行うことを知らなかったため)

 

現在はFate/EXTRAの緑のアーチャー、ロビンフッドのマスター

 

 


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