理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百四十三話 作戦会議

 アーチャーの新オスティア襲撃から数時間後。一度解散したネギたちは、ハルナが所有する飛行舟へと集まり、作戦会議を行っていた。

 

 

「ちょっと! あの赤い服の人とか髭のおっさんととやりあったって、本当に大丈夫だった訳!?」

 

「なんとかねー……」

 

「ゴールデンさんに助けてもらわなかったら危なかったね……」

 

 

 和美はこの舟で茶々丸やマタムネとともに待機していたので、街の様子を知らなかった。

なので、ゲートで散々大暴れしていたアーチャーや竜の騎士と戦ったのを聞いて、無事だったのか叫んでいた。

 

 ハルナはそれを聞いて、思い出したかのように一言語った。

いやはや、あの髭のおっさんのこと竜の騎士は、すさまじい殺気を放っていた。それを思い出したら、よくぞ助かったと思い返したのであった。

 

 のどかもその時のことを思い出し、ゴールデンなバーサーカーが助けに入ってくれなければ、最悪死んでいたかもしれないと考え言葉にしていた。

 

 

「俺もアーチャーにボコボコや……。さらに強ーならんとな」

 

「……今回は何とかしのいだにすぎんだろうな」

 

 

 また、小太郎も不意打ちとは言え、アーチャーに簡単に敗北したことを悔やんでいた。

これではダメだ。これ以上に強くなって、アーチャーぐらい倒せるほどになりたいと思っていた。

 

 その近くにいた法も、今回の事件はとりあえず何とかなったと言うような状況だと分析していた。

 

 

「私や楓も突然攻撃されたアルよ」

 

「うむ……」

 

「そっちも!?」

 

 

 さらに、なんと古菲や楓も、転生者の攻撃を受けたと言うのだ。

それもそのはず、”原作”では二人は本来、落下した廃都オスティアでゲートを探す任務を受けていた。

 

 しかし、ここではオスティアは落ちておらず、ゲートも探す必要がなかった。なので、二人は街を散策していたのである。そこへ”完全なる世界”に属する転生者が襲い掛かってきたのだ。

 

 それを聞いたハルナは、まさか二人も襲われていたとはと、少し驚いた様子を見せていた。

 

 

「大抵の相手はさほどでもなかったアル」

 

「しかし、最後に出てきた男……。その男が手ごわかったでござる」

 

「え!? 二人が苦戦したの!?」

 

 

 とは言え、ほとんどの相手は鍛えていない転生者だった。二人にとって、その程度の敵など相手にならなかったようだ。

 

 が、その敵を蹴散らした後、最後に出てきた男が、やけに強かったと楓は話した。

和美は楓が苦戦したと聞いて、冗談ではないかと言うほどに驚いていた。

 

 

「強敵だったアル……」

 

「猫山殿が駆けつけてくれなければ、少々危険な状況でござった」

 

「そこまで……!?」

 

 

 古菲も楓と同じように、その戦いを思い返しながら、その男の強さを語っていた。

楓も戦慄した表情で、直一が助けに入らなければこちらが負けていたと、冷静に分析していた。

 

 この二人が負けそうになる。それを聞いた和美は、その敵がどんなに強かったのだろうかと考えた。

何せ、この二人もかなり強い分類だ。そんな二人がコンビで戦っても勝てなかったという相手に、恐れを抱いた様子だった。

 

 

「直一の野郎、そっちの方に行ってたのかよ」

 

「それは成り行きだ。実際は敵情視察を走りながら行っていたのさ」

 

「そうだったのか……。して、その成果は?」

 

 

 それを少し離れたところにいたカズヤは、直一が助けに入ったのを聞いて、小さく愚痴っていた。

まさか自分たちをほっぽって、少女二人を助けに走り去っていたとはと、軽く冗談交じりに軽蔑した目で直一を見ていた。

 

 だが、直一が二人を助けたのは偶然であり、本来は敵の規模を測っていた。

それを誤解だという様子で、直一は言葉にしていた。

 

 法もなるほどと言う顔で、それに納得した様子だった。

ならば、敵の数や規模などがある程度わかったのだろうと考え、それを直一へ尋ねたのである。

 

 

「大体あの戦いで投入された戦力は60人程度だ」

 

「60人もだと!?」

 

「ああ」

 

 

 直一は法の問いに、素直に答えた。

その答えで明かされた敵の規模は、ざっと60人だったようだ。

 

 法は60人と聞いて、敵の数が多すぎると考えた。

いや、昔は10万もの数を率いていた”完全なる世界”にとって、60人はかなり少ない方ではあるのだが。

 

 

「だが、かく乱や牽制に随分数を使っていたみたいだ。戦いに出ていたのはお前たちが戦った連中ぐらいのようだ」

 

「なるほど……。俺たちに対抗できるほどの強さの相手は、そう多くはないと言う訳か……」

 

「だろうな」

 

 

 されど、60人とは言っても、それが全部強かったり戦える訳ではない。古菲と楓に蹴散らされたりもする程度の相手から、竜の騎士クラスと随分と幅があるようだ。故にか、基本的に戦闘力の少ないものは、かく乱などに回っていたようである。

 

 そして、アーチャーや竜の騎士や防護服(メタルジャケット)の男のような強力な敵だけが、本気で戦いを行った感じであった。

 

 法はそれを直一から聞いて、合点がいったという様子を見せていた。

つまるところ、自分たちのような転生者やネギたちに対抗できる強いものは、決して多くはないということに気が付いたのである。

 

 直一もそれを考えていたようで、法と同じ考えであると一言返事をしていた。

 

 

「だが、敵が一つとは限らん」

 

「それはどういうことだ……?」

 

 

 しかし、直一はそこで、別の真実を述べ始めた。

そう、敵は”完全なる世界”だけではないと言うのだ。

法はそれに対して、冷静にそれを直一へ聞き返した。

 

 

「お前が最初に戦った相手、俺の勘ではあるが、ヤツらはアーチャーとやらとは別の敵だと踏んでいる」

 

「やはりそうか……」

 

 

 直一は法が戦っていた相手、アルター使いの男と黒い甲冑の敵は、”完全なる世界”とは関係がないと考えていた。

法もそれを聞いて、自分もうすうす気が付いていたということを、小さく述べていた。

 

 

「とは言え、今すぐどうこうできる問題でもない。正体もある程度は予想つくが、確証はない」

 

「ヤツらの正体とは一体なんだ!?」

 

 

 ただ、それが別の敵だとしても、それをすぐに倒せる訳でもない。

完全なる世界のように、受身での対応をするしかなさそうだと、直一は語った。また、その別の敵の正体についても、予想がついていると述べた。

 

 直一のその言葉に、法は再びそれを尋ねた。

確証はないと言うが、予想が出来ているならば教えて欲しいと。

 

 

「ナッシュ・ハーネス……。まほら武道会で、坂越上人と名乗ったヤツ……。ソイツが裏で糸を引いている可能性がある」

 

「何!? あの男が!?」

 

 

 直一は法の問いに、ゆっくりと口を開き一人の男の名を出した。

それはあのナッシュなる男だった。過去に坂越上人と言う偽名を使っていた、超能力を使う転生者だ。その男が、完全なる世界とは別に行動をしていると、直一は法へ説明した。

 

 法もその名を聞いて、驚きの表情を見せていた。

だと言うのに、多少納得できることでもあった。あの男の目的の一つは”向こう側の扉”だったからだ。故に、自分が狙われているのだろうと、感づいていた。

 

 

「カズヤは一度挑発され、攻撃を受けているらしい」

 

「本当か!?」

 

「ああ、あの野郎は俺にご丁寧にも喧嘩をふっかけてきやがったのさ。だから買ってやるのさ、その喧嘩をな!」

 

 

 そこへさらに直一は、カズヤもすでに襲撃されたと言い出した。

法はバッとカズヤを見てそれを聞けば、しれっとした態度で喧嘩を売ってきたと言うではないか。

カズヤはそれを言い終えると、やる気に満ちた顔を見せ、その喧嘩はしっかり買ったと豪語したのである。

 

 

「おっおい!? 今の初耳だぞ!? 大丈夫だったのかよ!?」

 

「大丈夫だったからここにいるんだろ? 気にすんな」

 

「そ、そうだろうが……」

 

 

 それを聞いていた千雨が、カズヤにそれを問い詰めるように叫んだ。

カズヤはそれを適当な感じに流すようにして、なんとも無かったと話すだけだった。

 

 とは言われたものの、千雨はやはりカズヤが心配だった。

見ない間に右目が普段開かなくなっていたり、右腕もボロボロな状態になっていたからだ。ただ、カズヤがそう言うのであればそれ以上言っても無駄だと思い、すぼまるように言葉を止めてしまったのだった。

 

 

「それにだ、今回の襲撃は始まりにすぎないだろう。今度はさらに戦力を揃えて攻撃してくる可能性すらある」

 

「ハッ! あっちが喧嘩売ってくんなら買うまでだ!」

 

 

 直一はそのまま言葉を続け、今後のことを話しだした。

今回の攻撃こそが始まりであり、続いて攻撃される可能性を考慮するべきだと。

 

 そんな直一の真剣な言葉に、カズヤは普段どおりオラついた態度を見せていた。

向こうから攻めてくるなら、そいつらを叩けばいい。別に難しいことじゃないと言わんばかりに、それを豪語していた。

 

 

「バカ言うな! あんな連中がぞろぞろ襲ってきてみろ! ヤバすぎるだろ!?」

 

「そんときゃ全部ぶっ潰すだけだぜ!」

 

「そのとおりやで!」

 

「お前らなぁ!!」

 

 

 千雨は髭のおっさんのこと竜の騎士みたいなやつらが、一斉にかかってきたらどうしようもないとカズヤへ叫んだ。

しかし、カズヤはそうなったなら、自分の拳で全部殴り飛ばすと言い張るではないか。

さらに小太郎もカズヤに便乗し、敵が襲ってくるなら倒すだけだと同調したのだ。

 

 これには千雨も多少頭を抱え、もう少し考えろと言う様子を見せた。

自分を襲ったあの髭のおっさん以外にも、あのアーチャーとか言うヤツもいるのだ。そいつらが束になってかかってきたら、流石に自分たちも危険であると考えていた。

 

 

「はぁー……、お前らもっと真面目に考えろって」

 

「んなこと、考えてたってはじまらねぇだろ!」

 

「まっ、確かにそうだがな」

 

 

 直一もカズヤと小太郎の気軽さに、大きくため息を吐いた。

そして、そんなことを言ってないで、しっかりと対策を考えろと言葉にした。

 

 だが、カズヤはそれを考えたところで、どうしようもないと暴論を吐いた。

ただ、直一はそんなカズヤの乱暴な言葉に、少なからず当てはまるものもあると思ったようだ。

 

 敵の本拠地は”原作知識”にあるが、こちらから攻撃を仕掛けるには、正直敵の戦力の分析が足りない。

乗り込んで返り討ちということもありえる。

 

 であれば、あちら側からの攻撃を防戦するしかない。

今のところ敵組織を壊滅させるほどの戦力や方法はなかったのである。

 

 

「今後は不意打ちなどに注意していくしかないか」

 

「そうだな……」

 

 

 とりあえずは相手の不意打ちやだまし討ちなどに気をつけ、行動するしかないと法は語った。

直一もそれしかないかと、普段は見せないような真面目な顔で、その言葉を肯定するのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 同じく飛行舟の一室の隅で、状助とアスナが会話していた。

 

 

「いやぁー、何事もなく終わってよかったぜ……」

 

「本当そうね」

 

 

 状助は先ほどの戦いを思い出し、被害がなかったことに安堵した様子を見せていた。

それ以外にも、隣にいるアスナが”完全なる世界”の手に落ちなかったことにも安心していた。

 

 同じくアスナも、自分や仲間が無事であったことを喜んでいた。

もしも、自分が”完全なる世界”に捕まれば、魔法世界を崩壊させる始まりとなってしまうからだ。

 

 

「でもよぉ、これからが大変かもしれねぇ……」

 

「必死になって攻撃してくるかもしれないわね……」

 

 

 とは言え、一度目の襲撃を凌いだに過ぎないということも事実。

今後の攻撃がさらに激化することを、状助は考え不安視していた。

 

 また、状助はこれからの戦いにおいて”原作知識”がまったく通用しなくなることも、危惧していた。何せアスナが敵に捕まらず、こちらにいるのだ。この時点で”原作”から分岐したと考えてよいからだ。

 

 ただ、最初からすでに”原作”とは異なる世界。何とかしていくしかないと、状助は根性を心の中で入れなおすのだった。

 

 アスナも当然それを考えていた。

自分が一度の作戦で手に入らなかったのだから、次はさらに戦力を増して攻撃してくる可能性を考慮したのである。

 

 

「……だけど、何かひっかかるのよね……」

 

「ん? 一体何が?」

 

「アーチャーとか言うあの人の、最後の態度よ」

 

「逃げるように消えてったぐらいしかわからねぇ……」

 

 

 それ以外にも、アスナは何か奇妙な感じを受けていた。

状助がそれを尋ねれば、疑問を感じた様子でアスナがそれに答えた。

 

 アスナが不気味に思った奇妙なこととは、あのアーチャーの最後に見た態度であった。

が、状助は特に気にしたことはなかったようで、わからないと一言述べるだけだった。

 

 

「なんだろう。作戦が失敗したはずなのに、余裕があったようにも見えたわ……」

 

「……確かに思い返してみれば、妙な感じだな……」

 

 

 アスナが気がかりだったのは、アーチャーの余裕があるような態度だった。

本来ならば計画が失敗し、多少なりに焦ってもよいはずだ。なのに、自分を捕まえられなかったというのに、特に気にした様子がなかったからだ。

 

 状助もそれを聞いて、腕を組みながら同意した。

そう言われてみれば、確かに奇妙だ。何か考えがあるのか、それとも別の作戦があるのか。何か嫌な予感を感じざるを得なかった。 

 

 

「まあ、とりあえずは気をつけないとね」

 

「それしかねぇかー……」

 

 

 とは言え、それらを今ここで考えても、答えはでてこない。

敵の内情を知るには、情報があまりにも足りないからだ。

 

 故に、敵の攻撃に備え、気をつけるぐらいしかできないと、アスナは思った。

自分が捕まれば終わりなのを理解しているアスナは、よりいっそう気を引き締めることにしたのである。

 

 アスナがそう言うと、状助もそれしかないとため息をついた。

こちらから攻撃できれば楽だとは思ったが、やはり無茶無謀でもあると考えたからだ。

 

 こうして会話をしていた二人は、仲間の呼び出しを受け移動することにしたのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 アスナと状助が会話している時、甲板にて覇王と木乃香も会話していた。

覇王とゴールデンバーサーカーはランスローの軽い説明を受けた後、とりあえず解散しこちらへと戻ってきたのである。

 

 

「ごめんなはお……。陽をつれてこれへんかった……」

 

「気にしなくていいよ」

 

「せやけど……」

 

 

 木乃香は覇王に、陽をこの場につれて来れなかったことを、落ち込んだ様子で謝っていた。

しっかりと約束したはずだったのに、それが失敗してしまったことに、肩を落としていた。

 

 が、覇王はそんな木乃香へ微笑みを見せながら、一切気にした様子を見せず、一言慰めの言葉を述べていた。

それでも木乃香は納得いかないという様子で、なかなか元気を出せずにいた。

 

 

「昔からアイツは逃げ足が早いからね」

 

「んー、そう言われればそないな気も……」

 

 

 覇王は陽の逃げ足の早さを熟知していた。

何かとやらかしては祖父から説教される前に逃亡する。日常でよく見る陽の姿だった。

 

 木乃香も何度か覇王の家へあがりこんだ時に、その様子を目撃していた。

なので、それを思い出しながら、確かにそうだと考えた。

 

 

「それに、アイツのことだ。また木乃香の前に現れるはずだ」

 

「確かに、いつも再会の言葉を残していなくなっとった」

 

 

 また、覇王は陽が再び木乃香に接近することも理解していた。

あの愚弟は木乃香に執着心があった。何故これほどまでに木乃香に執着するかはわからないが、とにかく執拗に木乃香を狙っていた。

 

 覇王の言葉に、木乃香も陽が毎回言う最後の捨て台詞を思い出していた。

そういえばもう一度会おう、次は自分のものになれ、そう言って退散していくのが陽だったと。

 

 

「アイツは僕の前には絶対に姿を現さない。だから、木乃香が頼りなんだ」

 

「うん、わかっとる」

 

 

 さらに、陽は決して覇王の前に姿を現すこともない。

それは覇王が一番理解していることだ。陽は覇王には決して勝てないことを、完全に把握しているからだ。だというのに、なおも木乃香を諦めないのも、陽なのである。

 

 それ故に、覇王は木乃香に陽の捕獲を頼むしかなかった。

それに木乃香の実力ならば、陽を捕まえてくれることを信じているからだ。

 

 木乃香も覇王が言っていることを、ちゃんと理解していた。

なので、やはり自分が頑張らなければと、奮い立たせられるのだ。

 

 

「……悪いね……。兄弟の問題だというのに、君に任せてしまって……」

 

「そないなことない。ウチ、はおに頼られとるんの嬉しいんやから!」

 

「ふふ……、ありがとう、木乃香」

 

「どーいたしまして!」

 

 

 覇王はそこで、木乃香に面と向かって小さく謝った。

それは兄弟喧嘩に等しいこと、家族間の問題でもあることを、家族以外の人物である木乃香に、それを任せてしてしまったことについてであった。

 

 それでもやはり、木乃香は小さく笑いながら、気にしてないと言うのだ。

 

 木乃香は覇王に頼みごとをされることに、とても嬉しく思っていた。

基本的にシャーマンの師匠でもある覇王は、自分で全て行って完結してしまう。そんな覇王から頼まれるというのは、木乃香にとって何よりも喜ばしいことなのだ。

 

 

 覇王も木乃香の笑顔を見て、今度は笑いながら礼を言った。

そういう風に言ってくれる木乃香に、覇王はとても感謝していたのである。

 

 それに木乃香もとびきりの笑顔で応えて見せた。

覇王から礼を言われることなんて、滅多にないことだからだ。それが本当に心の奥底から、嬉しいと感じていたからだ。

 

 二人は集合に呼ばれるまで、そうして笑顔で見つめ合っていたのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 ネギたちは再び作戦会議を行う為、舟の甲板へと集まっていた。アルスやエヴァンジェリンも遅れてここへやってきたようだ。

 

 また、ここでは魔法使いである裕奈も、アルスに連れられてここへとやってきていた。それ以外にも数多と焔も、この作戦に参加するために集まっていた。

 

 

「えー、エヴァンジェリンさんやみなさんとの話し合いの結果、我々”白き翼”は彼ら”完全なる世界”と戦うことになりました」

 

 

 ネギはここで、白き翼のメンバーで相談した結果の発表を行った。

それはアーチャー率いる”完全なる世界”との敵対の表明であった。

 

 

「二ヶ月前のゲートポートの事件で、随分と煮え湯を飲まされたもんね!」

 

「どうせあっちも、素直に私たちを見逃してはくれなさそうだしね」

 

 

 ハルナは彼らと戦うことに、大いに賛成していた。

和美もハルナに便乗し、相手もこちらを逃がしてくれそうにないと言葉にしていた。

 

 

「さっき街が騒がしいと思ったら、大変なことになってたんだね……」

 

「まあな。ただ、お前さんたちには何も無くてよかったぜ」

 

「うん、そうだね」

 

 

 そこで裕名が先ほどの戦いの時のことを思い出し、それを言葉にした。

何やら街で騒動が起きていることは、裕奈もわかっていたようだ。それでもここで喧嘩が起こることは日常茶判事。特に気にすることなく、亜子たちと過ごしていたのである。

 

 そのことを少し気にした様子を見せる裕奈へと、アルスは気にするなと言う感じで声をかけた。

むしろ、裕奈とその友人たちが無事だったことに、アルスは喜びを見せていた。

 

 何せ敵はほとんど転生者だ。

転生者たちが作戦以外にも”原作キャラ”を狙うのではないかと、アルスは少しヒヤヒヤしていた。だが、そのようなことがなくて、安心したのである。

 

 裕奈もアルスにそう言われ、確かにそうだと思った。

だから、一言元気よく返事を返したのであった。

 

 

「とは言え、具体的にどう戦うかは、未だ決まらずだ」

 

「出てきたところをぶっ潰せばいいだけだ!」

 

「貴様、もっと頭を使え……、といいたいところだが、基本的にはそれしかないだろうな……」

 

 

 しかし、戦いとなるならばどう戦えばいいのかと、法は頭を悩ませていた。

そんな法にカズヤは、敵が迫ってきたらその場で倒せばいいと、強気で豪語するではないか。

 

 法はそんなカズヤに作戦ってもんがあるだろと言いたげであったが、こちらから攻められないのならば、それしかないかもしれないとも考えていた。

 

 

「せめて、ヤツらの目的がわかればいいのだが……」

 

「いえ、それならわかるかもしれません」

 

 

 法は敵の目的さえわかれば、まだ戦いようがあると、悩んだ様子で述べた。

この法は転生者ではあるが”原作知識”がないので、まったくもって次の敵の行動が予測できないでいた。

 

 いや、直一やアルスと言った”原作知識のある”転生者も、敵の次の行動を読み取れてはいなかった。

何故なら敵を率いているのが転生者であるアーチャーだからだ。その時点で、原作とはかなり異なってしまっている。

 

 それにあのフェイトも”完全なる世界”から抜け出しているようで、むしろこちら側である可能性が高くなっていた。さらに、アスナも捕まることなくこちらにおり、”原作知識”などまったく当てにならない状況になっていたからだ。

 

 そんな時、のどかがはっきりとそれを言葉にした。

 

 

「のどか! 作戦を成功させたんだね!」

 

「うん。あの人の真名と思考を知ることに成功したと思います」

 

 

 ハルナはそれを聞いて、のどかが作戦を成功させたことを嬉しそうに叫んでいた。

そして、のどかはその作戦の成功にて、アーチャーの真の名と目的を探ることができたかもしれないと述べた。

 

 

「すげーじゃねーか宮崎!」

 

「やるぅ!」

 

 

 それには千雨も和美も褒め称え、でかした! と大きな声を上げていた。

 

 

「では、まず名前の方を……」

 

「赤井弓雄……?」

 

「日本人だなこれ……」

 

「もっとすごい名前だと思ってたけど、案外普通だねぇ」

 

 

 とりあえず、順序としてアーチャーの名前をのどかは教えることにした。

指にはめた魔法具で宙をスッとなぞれば、そこに光で書かれた名前が浮かんだ。

 

 千雨もハルナも、その名前を見てなんか普通だと思った。

これはまるでただの日本人、しかも弓雄とかアーチャーとひねってるだけだとさえ思えた。

 

 

「そして、私のアーティファクト”いどのえにっき”で読み取った、あの人の思考です」

 

「どれどれ……」

 

 

 次にのどかは、アーチャーの心を読んだ時のまま保存してある、いどのえにっきを取り出し、みんなに見せた。

それを千雨やハルナが早速覗き込む形で、それを読み始めていた。

 

 

「え? アーティファクト?! 一体誰と仮契約したの!?」

 

「あー、ゆーなは知らなかったんだっけ。ネギ君とのどかが契約したんだよ」

 

「えー!? ネギ君と!? 何で教えてくれなかったの!」

 

「それはタイミングっていうか……」

 

「お前らなぁ……」

 

 

 裕奈はそのアーティファクトと言う言葉に、大きく反応を見せた。

と言うか、裕奈はのどかが仮契約していることを、今までまったく知らなかったのだ。

 

 それに対してハルナは、そういえばそうだったという感じで、それを簡単に説明した。

すると、裕奈はさらに驚き、むしろ知ってるなら教えてくれても良かったと、文句を飛ばしていた。

 

 ハルナはそれを言うタイミングが無かったと、小さな声でいい訳をしていた。

と言うのも、裕奈はエヴァンジェリンの別荘を知らないので、そう言うことを話す機会や知る機会がなかったのである。

 

 また、近くにいる和美もネギと仮契約し、ハルナもカギと仮契約をしている。ハルナはそのことも含めて、後で教えておこうと考えたようだ。

 

 そんな二人にアルスは、今はそう言う状況ではないだろうと、小さなため息を漏らしていた。

 

 

「なんつーか、かなりラブリーな感じになってるな……」

 

「それは私の仕様なので……」

 

 

 その二人を無視して、千雨はいどのえにっきを眺めていた。

そこに描かれた絵日記のようなかわいらしい見た目に、奇妙な気分を感じた様子だった。

 

 のどかはその効果は自分が使っているせいだと、小声で述べていた。

 

 

「こりゃええわ。アイツらの動向が丸わかりや!」

 

「オスティアという場所のゲートには手をつけないのか……?」

 

 

 また、日記にはアーチャーが考えていたプランが順序どおりに並んで書かれており、とてもわかりやすかった。

小太郎もそれを見て、敵の動きが全部わかると歓声を出していた。

 

 法もそれを見て、オスティアにあるゲートだけには、攻撃を行わないことに奇妙な感じを受けていた。

アーチャーはこの魔法世界にあるゲートをほとんど攻撃し破壊した。だと言うのに、ここの部分だけを確保するなら、何らかの大きな意味合いがあるのだろうと考えたのだ。

 

 

「黄昏の姫御子……? 誰のことだろう」

 

「むっ……」

 

「それって……」

 

 

 そこで和美はふと、一つの文字が目に入った。

アーチャーの目的の一つに書かれていた、黄昏の姫御子の奪還という文字だ。その黄昏の姫御子とは一体誰なのだろうかと、和美は疑問視し口から漏らしていた。

 

 それを聞いた焔とネギは、その名前に反応して見せた。

焔は元々アスナの正体を知っていたし、ネギはこの前アスナから直接聞いていたからだ。

 

 

「……それ、私のことよ」

 

「え!? うそ!?」

 

 

 アスナはそれを聞いて、数秒間考えた後、自分がその”黄昏の姫御子”であることを明かした。

そのアスナの発言を聞いた誰もが、驚きの声をあげた。

 

 

「そーいえば、そないな感じのこと半年前ぐらいに言っとったなー」

 

「期末試験の時でしたか……。”長く言われていた”と言ってましたね……」

 

「覚えてたんだ……」

 

 

 そこで木乃香は半年前にそんな感じのことを聞いたことを、ふと思い出していた。

刹那も同じくそれを聞いていたので、木乃香の言葉を聞いてそのことを思い出した。

半年前、期末試験の前にて焔が、ポロっと言い出しそうになったことだ。

 

 アスナは二人がそのような些細なことを覚えていたことに、少し驚いていた。

というのも、黄昏の姫御子という名前に、アスナはあまりいい思い出がない。あまりその名前で呼んで欲しくなかったのだ。故に、半年前に焔がそれを言いそうになった時、威圧するように口止めをしたのである。

 

 

「ところで、それはどんな意味が……?」

 

「んー、そうねー……」

 

 

 和美はアスナへと、その”黄昏の姫御子”と言うものが何なのかを尋ねた。

アスナが自分のことだと名乗っているのなら、その本人に聞けばわかると思ったのだ。

 

 質問されたアスナは、再び腕を組んで考え始めた。

それを説明するのならば、自分の過去を全て話すべきではないかと思ったからだ。だが、本当にそれで大丈夫なのか、少し迷いがあったのだ。

 

 

「この際だからみんなに話すわ。私がどんな存在なのかを……」

 

「急に改まってどうしたの……?」

 

「……!」

 

 

 アスナは色々と考え抜き、意を決した様子で仲間たちへとそれを伝えた。

もう隠しておく必要もないだろう。むしろ、狙われているのは自分であり、このまま黙っていれば周りに迷惑がかかる。ならば、全てを話しておいた方がいいと、アスナは考え話すことに決めたのだ。

 

 しかし、ハルナや他の仲間たちは、アスナの決意がわからなかった。

なので、改まったアスナを疑問の目でしか見れなかったのである。

 

 それでもアスナから話を聞いていたネギは、その意味が理解できた。

だからこそ、ネギは驚きの表情で、アスナの話を聞いて見ていた。

 

 

「……いいんですか、アスナさん?」

 

「いいのよ。自分が狙われてるんだから、みんなに教えておく必要があるしね」

 

 

 ネギは、アスナが自分に話してくれたことを、みんなに話すということに、大丈夫なのかとアスナへ尋ねた。

 

 アスナはもはやそれ以外ありえないという様子で、教えることを決意したとネギへ返した。

 

 

「みんな、聞いて! 私はね……」

 

 

 ならばと、アスナは声を張り上げ、みんなの注目を集めた。

そして、少しずつ、”黄昏の姫御子”の意味と、自分の過去を話し始めた。

 

 100年間ほど、幽閉されて生活してきたこと。魔法無効化の能力を無理やり使わされ、兵器として扱われていたこと。その間、ずっと成長が阻害されていたこと。

 

 魔法世界を消す去る為には、自分の能力が必要なこと。それを欲しているのが”完全なる世界”のボスであること。それらを全て、アスナはみんなに話した。

 

 

「アスナにそないな過去があったなんて……」

 

「おっ、重すぎんだろ……、自分で考えた設定とかじゃねーんだよな?」

 

「うん、本当のことよ」

 

 

 アスナの話を聞き終えた誰もが、沈痛な表情を浮かべていた。

木乃香はアスナの過去を聞いて、普段の姿からは想像できなかったと思っていた。

 

 また、千雨はそれを事実と受け止めながらも、受け入れきれないという感じで、アスナへもう一度質問していた。

それが嘘や冗談、ネタならば、笑い話にもなるだろう。だが、それが本当なら、冗談では済まされないと思ったのだ。

 

 だが、アスナはそれをはっきりと肯定した。

嘘偽りなく、事実であると。

 

 

「せやからあの時、アスナはすんごい怒っとったんやね……」

 

「京都駅でのことですか……」

 

 

 ああ、だからあの時、アスナはあんな態度を見せていたのか。

木乃香は修学旅行の京都での事件で、アスナが激怒していたことを思い出していた。

アスナ自身、そういうことに利用されてきたからこそ、自分が何かに利用されることを許せなかったのだと、木乃香はそう思った。

 

 刹那も木乃香の言葉を聞いて、ピンときたようだ。

京都の事件で敵が行おうとしたこと、それは木乃香の魔力を利用して大鬼神を復活させ操ることだった。

それに対して本気で怒りを見せたアスナを、刹那も忘れてはいなかった。

 

 

「あのっ、エヴァンジェリンさん、今アスナさんが言ったことは本当なんですか!?」

 

「事実だ。何なら自分のアーティファクトで見てみればいい」

 

「……いえ、今の答えだけで充分です……」

 

 

 また、のどかはアスナの今の説明の真偽を確かめるべく、エヴァンジェリンへと尋ねた。

すると、エヴァンジェリンもそれを真実だと述べ、疑うのなら”いどのえにっき”でアスナの心を読んでみればよいと話したのである。

 

 のどかはそのエヴァンジェリンの物言いと態度で、それが本当のことだと理解した。

理解してしまった。なので、もうそれ以上尋ねることもなく、アーティファクトを使う必要もないとし、俯くのであった。

 

 

「ちょっとー! みんなしんみりしすぎよ!!」

 

「だけどさー……」

 

「しない方が無理だって!」

 

 

 誰もがアスナの過去を聞いて、俯いたり悲しんだりと悲痛な様子を見せていた。

それを見かねたアスナは、大声で大げさすぎると苦笑しながら言い放った。しかし、内心それを全て信じてもらえたことに、大きく喜んでいたのも事実であった。

 

 とは言え、そう本人がそう言っても、納得できない部分はある。

アスナが受けてきた仕打ちの数々は、やはり彼女たちには辛いものだった。

 

 

「あー、もう! 私はもう気にしてないんだから、みんなも気にしないでいいのよ!」

 

「でも……」

 

 

 すでに重苦しい空気に包まれたこの場を、なんとかしようとアスナは元気を振りまいた。

そんな過去なんて、すでになんとも思っていない。そんなものよりも、ずっと大切なものを手に入れたから。だからこそ、誰もが自分の過去を知って気を落とす必要はないとアスナは叫ぶのだ。

 

 それでも、納得いかない様子を見せる仲間たち。

あんなことを教えられ、気にするなと言われても気にしない方が難しかった。

 

 また、転生者である覇王や法たちは、彼女たちを遠くで眺めていた。

とは言え、法とカズヤは”原作知識”がない。法は彼女たちのように苦に思い、渋い顔を見せていた。ただ、カズヤはアスナが気にしていないと言ったので、そこまで思いつめた様子は見せていなかった。

 

 それに対して覇王と状助、それにアルスは”原作知識”がある転生者だ。

覇王は”原作知識”がほとんど磨耗してしまっていたが、状助からある程度教えてもらっていたこともあり、アスナの過去を知っていた。故に、特に大きく驚いたりすることはなかった。

 

 そのため、アルスは腕を組んで、彼女たちの言葉に耳を傾け、覇王も静かに彼女たちを眺めていた。

状助も同じくただただ、”原作”と違う流れを感じながら、自分の過去をさらけ出したアスナを見ているだけだった。が、それぞれ思うことはあるようで、決してなんでもないという感じではなかった。

 

 

「アスナの言うとおりだよ。今はそれよりも、敵の情報を得るのが先だって」

 

「それに、アスナさんは僕たちが危険な目にあう可能性を考え、今のことを話してくれたはずです」

 

 

 そんな空気の中、和美がアスナに便乗し、落ち込むよりも話を進めた方がいいと言葉にした。

それに続いてネギも、アスナが今語ったことは、空気を重くしたいからではなかったはずだと述べたのだ。

 

 

「そうよ。みんなをしんみりさせたり同情してもらうためじゃない。今後のことを考えて、今のことを話したんだからね!」

 

「……そうだね……! ショックを受けてる場合じゃないね」

 

「……まあ、本人がそう言ってる訳でもあるしな」

 

 

 アスナもそこではっきりと、ネギが言いたかったことを自分で言った。

誰かに同情されたり慰めたりしてもらいたかった訳ではない。それはもう済んだこと、とっくに終わったことだからだ。

 

 このことをアスナが説明したのはあくまで、自分が仲間を巻き込むかもしれないということと、今後敵がどういう行動をとるか予測するためだ。

 

 ハルナはそれを聞いて、確かにそうだと納得し、少し元気を出したようだ。

千雨も同じように、当の本人がそこまで言っているのだから、むしろ失礼だと思い頭を上げた。

 

 他の仲間たちも、それぞれアスナの言葉で元気を取り戻していった。

そうだ、一番ショックなのはアスナ自身だ。自分たちがここで落ち込んでいても、先に進まないと考え陰鬱な雰囲気を振り払ったのだ。

 

 

「つまり、連中がアスナ殿をもう一度捕まえに来る可能性はかなり高いでござるな」

 

「間違いなく、狙って来るだろうね」

 

「そこは注意していくしかありませんね」

 

 

 楓は話を戻すように、敵が今後アスナを狙うことは間違いないだろうと言葉にした。

そこで裕奈も加わり、同意する言葉を一言述べた。

 

 ネギも自分たちでは守備に回るぐらいしかできそうにないと考え、敵の次なる攻撃に備えるしかないと話していた。

 

 

「なーに、エヴァちゃんが傍にいれば大丈夫よ!」

 

「勝手に人を頼るな!」

 

「護ってくれないの?」

 

 

 そこでアスナはエヴァンジェリンが近くに護衛してくれれば、問題ないと笑顔で言った。

確かにエヴァンジェリンほどの実力者が傍にいれば、安全なのは間違いないだろう。

 

 だが、エヴァンジェリンはそんなアスナを突き放すように、そう叫ぶのだった。

その言葉を聞いたアスナはエヴァンジェリンへと、少しぶりっこした感じでそれを言った。

 

 

「護ってやるほど弱くないだろうが……」

 

「それでも、ちょっとピンチだったんだけどね……」

 

「貴様ほどのものがピンチにだと?」

 

 

 エヴァンジェリンはアスナの態度に、呆れた顔で護る必要がないとため息を吐きながら述べた。

とは言え、先ほどの戦いでアスナは窮地に陥った。

 

 そのことをエヴァンジェリンに話すと、まさかと言う顔でアスナを見て、何があったのだろうかと考えそれを口から漏らした。

 

 

「魔法無効化を敵に利用されちゃってね……。状助がいなかったらヤバかったわ……」

 

「魔法無効化を利用されただと……?」

 

「ええ、他者に魔法無効化を移す魔法具を使われたのよ」

 

 

 アスナはどうして自分が危機に陥ったかを、エヴァンジェリンに苦笑しながら説明した。

アスナがピンチになったのは、敵がアスナが持つ魔法無効化能力を利用したからだ。

 

 エヴァンジェリンはそれを聞いて、多少驚いた様子でアスナへ聞き返していた。

その問いにアスナは、そういう効果のある魔法具を使われたとさらに説明をしたのだった。

 

 

「ふむ……、魔法無効化を利用されるとなれば、確かに危険だな……」

 

「でしょ?」

 

 

 アスナの説明を聞き終えたエヴァンジェリンは、なるほどと思った。

そして、そのようなことが次にある可能性を考えると、アスナを一人にしておくとはやはり危険だと考えた。

そう言うエヴァンジェリンへ、アスナも護って欲しいという感じで、一言返事を返した。

 

 

「……まあ、それなら私も傍についていた方がいいだろうな」

 

「ありがとう! 期待してるわ!」

 

「フン……。っていうか抱きつくな! 暑苦しい!!」

 

 

 エヴァンジェリンはそれならば仕方ないと、アスナの護衛を行うことにした。

敵が同じ作戦を使うかは別として、そのような不安要素は排除すべきだと思ったからだ。

 

 アスナはエヴァンジェリンが護ってくれると言ったことに、非常に嬉しく思い元気よく大きな笑顔でお礼を述べた。さらに、嬉しさのあまりエヴァンジェリンに抱きついたのである。

 

 エヴァンジェリンは素直ではない様子で鼻を鳴らしていたが、抱きつかれてうっとおしいという態度で叫んだ。

 

 

「いいじゃない! 減るもんじゃないし!」

 

「汗で水分が減るわ!」

 

 

 アスナは抱きつかれて鬱陶しがるエヴァンジェリンに、抱きついたっていいじゃないかと笑いながら語った。

だが、エヴァンジェリンは心底迷惑そうに、アスナへと皮肉を返していたのであった。

 

 

「……よし、気を取り直して、次のページに行ってみよう!」

 

「はい、では……」

 

 

 何と言うか、アスナとエヴァンジェリンのやり取りを見た仲間たちは、色々と問題ないと考えた。

なので、そこで裕奈は次のページがあるのを見て、それを見ようと提案した。

 

 のどかもその提案を呑み、いどのえにっきの次のページをゆっくりと開いたのである。

 

 

「……20年前の事件……?」

 

「戦争と紅き翼の活躍……」

 

 

 すると、そこには20年前に魔法世界で大きな戦争が起こったことが記されていた。

詳細こそ省かれているものの、紅き翼がその戦争に大きく関わっていたということが、しっかりと書かれていた。

 

 ただ、アーチャーは20年前の戦いに参加していたという訳ではない。アーチャーもその大戦後に生まれた転生者だからだ。故に、その内容はアーチャーが持つ”原作知識”が書かれていたのである。

 

 誰もがその記事を見て、この世界で少し昔にそのようなことがあった事実に驚いていた。

また、紅き翼とはすなわち、ネギの父親であるナギがリーダーをしていたチームの名だ。つまり、20年前の戦いでネギの父親が活躍していたということを、ここの誰もが知ることとなったのである。

 

 

「紅き翼……、ということは、やはり父さんが関わっていたってことですか……?」

 

「ん? ああ、そうだな」

 

「ラカンさんがさっき話したフェイトという人のこと、父さんのこと、もしかして20年前から繋がっていたと……」

 

 

 ネギもやはりと言う感じで、いどのえにっきを眺めていた。

そこでそれを少々離れた場所から話を聞いていたラカンへ尋ねると、肯定する言葉が小さく出された。

 

 その言葉はネギの思ったとおりだった。

あれを考え、20年前から因縁めいたものが存在するのだと、はっきりと理解したようだった。

 

 

「ふむ……。そうだな、ここまで知られちゃしょうがねぇ」

 

 

 ラカンはネギが色々察したのを見て、ならばと重い腰をゆっくり上げた。

 

 

「特別に俺様が教えてやる! さっきも教えるっつっちまったしな!」

 

「おおー!」

 

 

 そして、ラカンは過去に何があったかを話すと言い出した。

それはつまり、20年前に自分が体感してきたことを教えるということだ。

 

 それに誰もが喜びの声を上げていた。

20年前の戦いを経験した本人からそれを聞けるのならば、有力な情報なのは間違いないからだ。

 

 

「ふっふっふっ、こんなこともあろうかと! 特性自主規制映画を作製しておいた!」

 

「映画ー!?」

 

「さーて、こいつをセットして、映像スタートだ!」

 

 

 と、そこでラカンは懐から、なんと一つのフィルムを取り出した。

そのフィルムはラカンが自前で作成した、過去にまつわることが載った映画だというではないか。これは記憶を映画化したものであり、体験談を映像化したものと言える代物なのだ。

 

 誰もがそれを映画と聞いて、不思議な顔をしていた。

が、そんなことなどラカンはスルーし、どこからともなく出てきた映写機でフィルムを写し始めたのである。

 

 

「何これ! 本格的!?」

 

「メッチャ作りこんでるアル!」

 

 

 すると、映りこんだのは巨大な文字をライトアップするという、なんとも見慣れた感じの映像とBGMだった。

とは言え、そんなパクリかオマージュかわからない映像ではあるが、誰もが興奮する程度には作りこんであったようだ。

 

 

「ラカンさんが中央なの!?」

 

「デカすぎ!!」

 

「主人公はネギの親父じゃねーのかよ!?」

 

「るせー! 黙って見んかー!」

 

 

 そして、デカデカとタイトルが映ると、そこには紅き翼の面々が映ったではないか。

が、なんと言うか、ラカンが一番目立つ中央におり、主役は自分だだと主張していたのである。

 

 それには誰もが苦情を投げた。

ネギの父親であるナギが主役ではなかったのか。

ラカンがでかすぎてナギが映らない。そんな子供のような苦情だった。

 

 ラカンはそんな苦情を一言で片付け、静かに見ろと叫ぶだけであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 そのラカンが用意した映像には、ラカンとナギの初めての出会いが映し出された。また、当時の紅き翼の面子、ナギを筆頭にその師匠である少年の姿をしたゼクト。今と姿を変えぬアルビレオ、若かりしころの詠春、そして、この世界ではもう一人仲間としているメトゥーナトが映像に現れた。

 

 さらに、その映像の内容はと言うと、紅き翼を倒せと依頼されたラカンから始まり、詠春がラカンのスケベな戦法で負け、ラカンとナギが激闘。その激闘の末に友情が芽生えたシーンで、一旦終了というものだった。

 

 

「と、その後もなんだかんだ色々あったが……、何か知らんが俺もやつらの仲間になってた」

 

 

 映像が終わったところで、ラカンはとりあえず補足を入れ始めた。

その後何度か戦ったりと色々あったが、最終的には紅き翼に自分も入ったと言うことだった。

 

 

「で、それとさっきの話とどうつながりが?」

 

「ただネギ君のお父さんとラカンさんが戦っただけじゃん!」

 

「なあに、この先が長ぇんだ。多少省くが教えてやるって」

 

 

 だが、誰もが疑問に思ったことがあった。

それは先ほどの会話と今の映像がまったく関係ないことだった。

 

 今の映像は単にラカンとナギの出会いでしかなかった。

20年前の戦争のことや、フェイトのことなどまったく出てこなかったのである。

 

 誰もがそれに文句を言うと、ラカンはしっかり続きがあると述べた。

この先の話こそが本題で、今のは軽いジャブみたいなものだと。

 

 

「ラカンさん、本当に父さんのライバルだったんですね」

 

「でも、ウチの父様はダメダメやったなー」

 

「わかりづらかったけど、かなりすごいのよ?」

 

「ああ、剣技についちゃヤツが最強だぜ? まあ、似たようなもんにメトがいたがな」

 

 

 ネギは今の映像を見て、ラカンは本当にナギのライバルであったことに感動していた。

また、木乃香は自分の父親が情けなく敗退したのを見て、ちょっと格好悪いと思ったようだ。

 

 しかし、アスナはすかさず詠春へのフォローに回った。

映像ではあまり活躍できていなかったが、本来詠春の剣術は他の紅き翼と引けを取らないほどのすさまじさであると。

 

 ラカンもアスナの話に乗るように、剣の扱いでは最強だったと話した。

剣での技の冴えで詠春に右に出るものはいなかったと。ただ、似たような戦い方をするものに、あのメトゥーナトもいたと最後に小さくこぼしていた。

 

 

「あれ、そういえばあの仮面の人って……」

 

「うん、私の父親代わりをしてくれてた人よ」

 

 

 それを聞いた和美は仮面の人がアスナの保護者だったことを、ふと思い出して口から漏らした。

アスナはそれに反応し、そのとおりだと短く説明したのである。

 

 

「そうだったんだ……」

 

「わりと身近な人が、まさかラカンさんの仲間だったなんて……」

 

「次々に新事実が明らかになっていくな……」

 

 

 周囲の仲間たちは話を聞いて、嘘だろ、という様子を見せていた。

彼女たちは中学になって同じクラスメイトだ。ある程度アスナの保護者であるメトゥーナトのことを知っていた。とは言え、()()()では仮面をつけていることはなかったので、声と雰囲気が似ている程度しか感じていなかった。

 

 だが、アスナがそれをはっきり言ったので、誰もが驚きの声を出していた。

ハルナものどかも自分たちが住んでいる近くに、紅き翼のメンバーでラカンの仲間がいることに驚愕していたのである。

 

 千雨もなんというか知りたくもないような事実が次々に解明されて行くのを、ただただ呆れた顔で受け入れるしかなかった。

 

 とは言うものの、近くに住んでいるというのなら、図書館島の地下にいるアルビレオも似たようなものだ。しかし、やはり近所に住んでいる友人の保護者、という部分が一番のポイントだったがために、誰もが驚いていたのだ。

 

 まあ、アスナが”普通の人間”ではないことがわかった時点で、その部分も察することもできなくはないはずではあるが。

何せ()()()()の住人でしかもお姫様のアスナだ。その保護者をしている時点で、当然普通じゃないのは目に見えているからだ。

 

 

「あの、先ほどの映像の中で”黄昏の姫御子”と出てましたが……」

 

「ん? ああ……」

 

 

 また、刹那は映像の中でアルビレオが言った言葉、”黄昏の姫御子”に反応した。

その単語だけであって、その姿が無かったことに、刹那はそれを()()に聞いたのである。

 

 アスナはそれを聞いて、あの時はどうだったかを少しだけ思い出した。

 

 

「あの時はね、まあさっき話したとおり軟禁状態だったのよ」

 

「し、失礼しました……!」

 

「だからいいってばー!」

 

 

 アスナはその問いに対して、その時はまだオスティアの塔に幽閉され、魔法無効化を利用されていたことを、少し濁して答えた。

 

 刹那はそれを聞いてハッとして、すぐさま頭を下げて謝った。

何と言うことだろうか、浅慮な質問であった。つらい思い出だろうそのことを無理に思い出させてしまったと、刹那は思い今の問いを後悔したのだ。

 

 が、アスナはそんな刹那に、気にしていないと苦笑して言った。

そんな昔のことなんて、今更どうでもよいことだからだ。

 

 

 そんな様子をラカンは、なるほどと言う顔でフと笑いながら眺めていた。

お姫様は随分とよい友人に囲まれ、それを育んできたようだ。これなら自分が心配したりする必要はなさそうだ、そう思いながら次の映像の準備を始めた。

 

 

「さて、再び昔話の続き行ってみるか」

 

 

 そして、ラカンは早々に次の映像を流す準備を終えたので、次に進むと宣言した。

これからが本番。これからが本編。長い長い昔話の始まりだと、そう言う様子で続きを見せると言ったのだった。

 

 


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