理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百四十一話 二つの決着

 アーチャーが撤退の合図を出す少し前。闘技場から少し離れた場所で、もう一組の男が戦いを繰り広げていた。

 

 

「ウオラァァァッ!!!!」

 

「ヌウウオオォォッ!!!」

 

 

 それはゴールデンなるバーサーカーと、竜の騎士であった。

バーサーカーは手に持った黄金でメカメカしい鉞を、竜の騎士は自慢の真魔剛竜剣を握りしめ、攻撃を行った。その二つがぶつかりあうことで、そのつどすさまじい衝撃が周囲を襲っていた。

 

 

「なんつーパワーだ! やっぱコイツァまともじゃねぇな……」

 

「我が竜の騎士の力に拮抗すべき力を持つとは……」

 

 

 バーサーカーは自分と同等かそれ以上の力を持つ竜の騎士に、とんでもない相手だと感じていた。

サーヴァントとして現界し制限があるとは言え、自分は自分だから強いと自負するバーサーカー。それが強敵だと認めるほどに、竜の騎士の力は絶大であった。

 

 しかし、竜の騎士もまた、目の前のサングラスの男の強さに驚いていた。

竜の騎士は”ダイの大冒険”において、驚異的な存在だ。竜の神、悪魔の神、人の神が生み出した調停者だ。

 

 それほどのパワーをもってしても、目の前の男をいまだ倒せずにいる。むしろ、それに対抗しうる力すら持っている。これは明らかに尋常ではないと感じていた。

 

 

「だが……、”ギガブレイク”!!!」

 

「またそれか! 吹き飛べ必殺ッ!!! ”黄金衝撃(ゴールデンスパーク)”!!!」

 

 

 ならば、もう一度最大の技を使うまでだ。

竜の騎士は剣を天に掲げ、巨大な雷を纏わせた。そして、高く飛翔した後、すさまじい速度で急降下し、その技名を高々と叫んだのだ。

 

 それを見たバーサーカーも、その技に対応すべく、奥の手を解き放った。

グリップを軽く振り回すと、数発の薬きょうが弾ける音が発生し、それが終わると竜の騎士の雷と同等の、すさまじい雷撃が鉞に発生したのだ。その雷とともに、力いっぱいに竜の騎士へと目がけて黄金の鉞を振り上げ、その宝具の真名を叫んだ。

 

 

「ヌウウウ……、またしても……!」

 

「防げてるっちゃ防げてるが……、このまま防ぎ続けることはできねぇ……!」

 

 

 ギガブレイクと黄金衝撃(ゴールデンスパーク)が衝突し、再び巨大な閃光と衝撃が上空で巻き起こった。だが、それでも両者の攻撃は相殺され、再び戦いは平行線になってしまった。

 

 竜の騎士は何度もギガブレイクを受け止められたことを見て、剣の柄をギリギリと音が出るほどに握り締めていた。何せギガブレイクは最大の奥義とも言える必殺の技。それが何度も受け止められるというのは、異常事態に他ならないからだ。

 

 また、バーサーカーはこのままでは自分が不利だと、焦りを感じた様子を見せていた。

今は防げてはいるが、何度も防げるような技ではないと考えていたのだ。

 

 何故なら、黄金衝撃(ゴールデンスパーク)黄金喰い(ゴールデンイーター)に装填されているカートリッジを必要とする。その数は一度の発動につき三つ。総数は十五発なので、最大五発しか撃つことができない。なので、二度も使った現在は、残り三発のみ。つまり、三発しかギガブレイクを受け止めきれないということになるのだ。

 

 

「……ならばどちらかが力尽きるまで、戦うのみだ!!」

 

「上等だ!!」

 

 

 しかし、それならどちらかが倒れるまで戦えば、決着はつくだろう。

竜の騎士はそう叫び、バーサーカーもかかって来いと挑発した。

 

 

「ぐっ!? 何だと!?」

 

「何だ!?」

 

 

 その時、突如として竜の騎士へと、その背後から鋭い剣での斬撃が襲った。

竜の騎士はハッとして回避するも、左腕にダメージを負ったようで、その部分が赤く血塗れていた。

 

 バーサーカーもそれを見て、何が起こったのかと凝視していた。

何せあの竜の騎士が血を見せるほどだ。何かすさまじい攻撃を受けたはずだと考えたのである。

 

 

「貴様……一体……!」

 

「やはり、貴殿には我が剣の攻撃はよく通るようだな……」

 

 

 竜の騎士はさっと距離を取りそこを見ると、黒い鎧の騎士が一人、そこに立っていた。

いや、今の今までそんなヤツはいなかった。いったいどこから出てきたのだろうか。竜の騎士は小さく驚きつつ、その男を睨んだ。

 

 それ以外にも、自分の体をたやすく傷つけたことにも驚きがあった。

何故なら竜の騎士は常に竜闘気(ドラゴニックオーラ)によって護られているからだ。これがある限りただの剣での攻撃では、傷など付けられるはずが無いのだ。それも踏まえて竜の騎士は、その黒い騎士へと問いを投げた。

 

 

 だが、黒い騎士の男はその問いには答えず、握り締めた剣の効力を実感したことを語っていた。

そう、この黒い騎士こそ、転生者のランスローだった。

 

 ランスローの貰った特典はFate/zeroのバーサーカーの能力、つまりランスロットの能力だ。そして、二つ目に選んだ特典は、そのランスロットのクラスをバーサーカーからセイバーにすることだ。

 

 つまり、ランスローは本来バーサーカーであったサーヴァント・ランスロットの力を、セイバー・ランスロットとして操ることが可能なのだ。また、そんな回りくどいことをしたのは、彼が転生する時に”セイバークラスのランスロット”を知ることができなかったからであった。

 

 

 ランスローはランスロットの持つ宝具の一つ、己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グローリー)を用いて一般人へ変身し、竜の騎士の男へと静かに近づいた。

 

 そこでその宝具を解き、今度は無毀なる湖光(アロンダイト)を使い、竜の騎士へと攻撃したのである。

無毀なる湖光(アロンダイト)己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グローリー)と、もう一つの宝具、騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)を封じなければ使用できない。故に、それを使う直前に、変装を解かねばならなかったのだ。

 

 さらに、無毀なる湖光(アロンダイト)は竜属性の相手に特攻を持つ。そのため、竜の騎士の竜闘気(ドラゴニックオーラ)に護られた体に傷をつけることができたのだ。

 

 

「……まさか竜殺しの剣か……」

 

「ご名答、貴殿の持つ力は脅威、ここで倒れてもらう」

 

 

 竜の騎士は自分の体をたやすく傷つけたことを考え、その剣が竜を殺すことに特化したものであると判断した。

竜を殺した逸話のある剣は数多く存在するからだ。

 

 ランスローはそれに対して、その通りだとはっきり言った。

そして、竜の騎士を倒すという意思を、ここではっきり示したのである。

 

 ……ランスローは現在、フェイトの従者である。

フェイトがここへ来たということは、当然このランスローもついて来た。そこで竜の騎士の存在を知ったランスローは、自らそれを討伐することを志願し、ここへ参上したのだ。

 

 実際はフェイトも竜の騎士にリベンジを挑みたいと、多少そんな考えはあった。

それでもこの新オスティアで暴れる”完全なる世界に属する転生者”が多かったため、そちらを優先したのだ。また、当然それ以外の三人の従者もやってきているが、危険を避けるように指示してあった。

 

 

「おーアンタ、よくわからねぇが、アンタもコイツの敵ってことでオーケー?」

 

「そう思ってもらって結構」

 

 

 そこへ、蚊帳の外のような扱いだったバーサーカーが、そのランスローへとそれを尋ねた。

突然現れ、目の前の竜の騎士を攻撃したのなら、この黒い騎士もあの男の敵なのだろうと思ったのだ。

 

 ランスローもそれに対して、それでいいと答えた。

目の前の竜の騎士は、今の主であるフェイトを窮地に追いやった仇敵。倒すべき相手だからだ。

 

 

「オーケーオーケー! だったらオレの仲間って訳だな!」

 

「さて、それはどうだろうか……」

 

 

 それならば自分の味方同然だと、バーサーカーは笑いながらそう言った。

敵の敵は味、何と言う単純な思考なのだろうか。

 

 それを聞いたランスローも、苦笑しながらも味方とは言いがたいと言う感じだった。

何せ目の前のバーサーカーをランスローは知らない。どんなところの人物なのか、理解していないからだ。

 

 

「まっ、アンタが敵だっつっても、目の前のアイツを倒さねぇことにははじまらねぇ」

 

「ふっ……、確かに」

 

 

 それに、たとえ目の前の黒い騎士が敵でも、今ここで倒すべきは竜の騎士以外ありえない。

アレはかなりヤバイ存在だ。黒い騎士と戦うとすれば、あの竜の騎士がそれを狙ってくるだろう。だったら、黒い騎士もあの竜の騎士の敵だと言うならば、ここは協力すべきだとバーサーカーは考えたのだ。

 

 また、ランスローも同じ考えだった。

あの竜の騎士は本気ではないのを、ランスローは知っていたからだ。本気を出せばこの街もろとも、自分たちを滅ぼす力をあの竜の騎士が持っていることを、ランスローは知っていた。

 

 だから、バーサーカーの言葉に賛同し、漆黒のフルフェイスのヘルムの下で、小さく笑って見せたのである。

 

 

「組むか……。いいだろう、両者まとめて朽ち果てるがいい!!」

 

「来るぜ! あの技が!!」

 

「ならば最大の防御で受けるのみ……!」

 

 

 竜の騎士は二人が結託したのを見て、それでかまわないとした。

そして、ならば両者とも葬るために、上空へと高く飛翔し、再びギガデインを剣に叩き落したのだ。

 

 二人はそれを見て、あの技が来ることを理解した。最大最強の必殺技、ギガブレイクだ。

 

 バーサーカーはやはりあれかと思いながら、すでに防ぐ為に身構えていた。

ランスローも同じく、剣を構えて防御の姿勢をとっていた。

 

 

「ギガ……! グオオオアオアアアアッッ!!!??」

 

 

 竜の騎士は雷と一体化した真魔剛竜剣を握り締めながら、二人に目がけて急降下した。

だが、そこで突如として巨大な爆発が、その竜の騎士を襲った。それは爆発と言うよりも、もはや太陽のような灼熱の炎だった。

 

 竜の騎士はその爆発で、煉獄に叩き落されたと思わせるほどの絶叫をあげていた。

そして、その衝撃で吹き飛ばされ、少し離れた建物と建物の間へと落ちていったのだった。

 

 

「爆発……!?」

 

「いや、こいつはまさか……!!」

 

 

 ランスローは突如として竜の騎士が爆発したことに、驚きの声を漏らした。

ただ、バーサーカーはその正体に気が付き、ハッとして周囲を伺っていた。

 

 

「覇王か!」

 

「やあ、ゴールデン。久々だね」

 

 

 そこでバーサーカーは、一人の男子の姿を見て、その名を叫んだ。

長い黒髪を風で揺らめかせた男子、それこそO.S(オーバーソウル)黒雛で武装した覇王だった。

 

 そう、今の爆発こそ”黒雛”から放たれた”鬼火”だった。

あの竜の騎士の男は強大な存在だ。覇王はここで確実にしとめんとするため、あえて息を殺して潜み、この一撃を入れるチャンスを待っていた。それで今しがた、ようやくそのチャンスを掴んで見せたのである。

 

 そんな覇王はバーサーカーの近くを浮遊しながら、バーサーカーへとにこやかに挨拶していた。

いやはや、久しい顔だ。夏休み前にあったきりだったなあ、と外見はのんきそうな様子だった。

 

 

「貴殿が噂の覇王殿か」

 

「……彼は?」

 

「突然乱入してきた、ヤツと敵対する人物らしい」

 

 

 すると、ランスローがその話に割って入ってきた。

覇王ははじめて見る黒い騎士の男に、誰だろうと考え近くにいたバーサーカーにそれを尋ねた。

それに対してバーサーカーも、実はよくわかってないという様子で、簡潔に答えた。

 

 

「失礼した、私の名はランスロー・レイク。詳しい話は後ほど……」

 

「そうだね。今のヤツ、まだ動けるみたいだ」

 

「”鬼火”が直撃したっつーのに、たいした野郎だ」

 

 

 ランスローは名乗らなかったことに対して無礼と感じ小さく謝り、自己紹介を始めた。

しかし、自分が何者なのかを話す前に、まだすることがあると言う様子を見せていた。

 

 覇王もそれを察知し警戒を解かずに、竜の騎士の落ちた場所を睨んでいた。

先ほどの竜の騎士が、未だ健在であることに気が付いていたのだ。そうだ、あの強大な気配や闘気は衰えてはいない。あの一撃でさえ、とどめとはいかなかったのだ。

 

 バーサーカーも鬼火の威力を理解している。

それを直撃したというのに、生きてましてや動けるなど、とんでもない相手だと改めて実感した様子だった。

 

 

「ぐっぐぐ……。不覚を取ったか……」

 

 

 ただ、流石の竜の騎士も鬼火の直撃を受けて無事ではなかった。

正直言えばかなりボロボロだった。へたり込みながら焼けた痛みを我慢するかのように、苦悶の表情を見せていた。しかも、いたるところが焼け焦げ、未だにプスプスと体から煙が出ているような状況だった。

 

 

「気づくのが一瞬でも遅かったら、死んでいただろうな……」

 

 

 何と言う一撃だろうか。一瞬、その攻撃が来る前に、竜闘気(ドラゴニックオーラ)最大の力で防御できたからこそ、この程度でとどまった。でなければ、消し炭にされていただろう。それほどの攻撃だったと竜の騎士は考えながら、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

「しかし、これほどの相手をするとなると、いよいよ選択せねばならんようだな……」

 

 

 先ほどの攻撃は恐ろしいものだった。この竜の騎士が本気で防御しても、これほどのダメージだったのだ。そのような相手が増援に加わったならば、自分も”本気”を出すしかない。

 

 竜の騎士は本気を出すか否か、迷っていた。

だが、ここでそれを選ばなければ、自分が敗北することも理解していた。故に、どうするか、どうすべきかを思考しながら、静かに浮上したのである。

 

 

「むっ、何と……」

 

「今の攻撃でさえ、原形をとどめているとはね……」

 

「かなりダメージになったみてぇだが、倒すには足りてねぇってか……」

 

 

 浮いてきた竜の騎士を見た三人は、それぞれありえないという顔を見せていた。

あの”鬼火”ですらも、一撃で倒せなかった。本来ならば消滅してもおかしくない威力だと言うのに、五体満足で現れた。

 

 その壮絶な竜闘気(ドラゴニックオーラ)の防御力を目の当たりにした三人は、おぞましさを感じたのだ。神が生み出した調停者の力はこれほどだったとはと。

 

 

 いや、その生命の全てを使い防御すれば、大陸を消し飛ばすとも言われる”黒の核晶(コア)”の爆発すらも防ぐのが竜の騎士だ。確かに最大の力をもって防御すれば防げないことなどないと、転生者たるランスローと覇王は思ったのだった。

 

 そこで覇王が再び鬼火を放たなかったのは、高度が足りなかったからだ。

竜の騎士はすでに鬼火を受けそれを理解した。だからあまり高く飛ばず、建造物の近くまでしか浮いていなかったのだ。そのせいで覇王は鬼火を撃つことができなかった。あの位置で撃てば、街にも多大な被害が出るからだ。

 

 

「……」

 

 

 また、竜の騎士も額に光る紋章の輝きをよりいっそう増しながら、考えあぐねいていた。

三人をにらみつけた後、街の周囲を眺めながら、どうするか悩んでいた。

 

 ここで”本気”を出さなければ、間違いなくあの三人には勝てないだろう。

先ほどの負傷がなくとも、苦戦は強いられること間違いなしだ。この今の状態では、まず負ける。それを竜の騎士は確信していた。

 

 だからこそ、ここで”本気”を出さなければならないと考えた。

しかし、ここで”本気”を出せばどうなるだろうか。街は滅び去り廃墟と化すだろう。周囲の人々は吹き飛び、死に絶えるだろう。

 

 竜の騎士が”本気”になるということは、そういうことだからだ。戦う為のマシーンとなることだからだ。周囲のことなど気にすることなく、敵を殲滅するだけの破壊兵器となるのだから。

 

 だが、この街には人々の生活がある。息遣いがある。活気がある。

祭りだからか、小さな子供をつれた家族の姿があった。互いを支えあうように歩くカップルの姿があった。友人と並んで面白おかしく祭りを楽しむ男たちの姿もあった。

 

 色んな人たちが和気藹々と楽しそうにしながら、街を賑わせていた。楽しそうに過ごす人々が、竜の騎士の目に入り込んできた。

 

 故に、竜の騎士は迷っていた。それほどの被害を出してまで、掴まなければならない勝利とはなんだと。全てを滅ぼしてまで得た勝利など、むなしいだけではないだろうかと。

 

 それらが頭の中をぐるぐると回っていた。どうする、どうする、どうする。本気を出すか? このまま戦うか? 竜の騎士は決断を迫られていた。

 

 

「来るか……。”本気”が……」

 

「可能性はある……、そしてそうなれば……」

 

 

 ランスローは竜の騎士の静けさを見て、本気を出すのだと考えた。

覇王もそれを考慮し、もしそうなれば最悪の事態になると想定した。

 

 

「……!」

 

「光!?」

 

「何かの爆発か……!?」

 

 

 だが、そこで一つの光が、その空を覆いつくした。

そこにいた誰もが、それに気が付き驚いた。いったい何が起きたのかと、その光が放たれた方向を見た。

 

 

「……今回はお前たちの勝ちだ……」

 

 

 竜の騎士はその光が撤退の合図であることを理解した。

そうか、撤退か。そう思った竜の騎士は、安堵した様子を見せた。本気を出さずに済んだことを、心から喜んだ。撤退であれば仕方が無い、今回は自分の負けを素直に認め、惨めに逃げ帰るとしよう。

 

 竜の騎士はそう考え、三人へとそれを告げた。

そして、ルーラの魔法を使い、その場から姿を消したのであった。

 

 

「退いた……?」

 

「みたいだ。いや、退いてくれた方がこちらとしてもありがたいけど」

 

「ああ……、ここでさらに戦えば、街に被害がでちまうからな……」

 

 

 空へと消え去った竜の騎士を見て、ランスローはあの竜の騎士が素直に逃げたことに驚き、疑問するような声を出していた。

 

 覇王もそれを見て、竜の騎士が去ったことに安堵をしていた。

また、その理由を代弁するかのように、バーサーカーもため息を吐きながらそれを述べたのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 竜の騎士との戦いは、竜の騎士の逃亡で幕を閉じた。しかし、他にも戦いがあったことを忘れてはいけない。そう、この金髪碧眼の男、アルス・ホールドの戦いだ。

 

 

「うおおらぁっ!」

 

「はっ!」

 

 

 アルスは自ら編み出した術具融合”スターランサー”をすばやく振り回し、対峙する青いローブの少女へと攻撃した。だが、青いローブの少女はそれをひらりとかわし、軽くあしらっていた。

 

 

「……ふふふ、なかなか面白いじゃない、あなた……」

 

「褒めるなよ。調子に乗っちまうだろう!」

 

「いいわ、そう言うの、いいわ!」

 

 

 ただ、アルスのなかなかの攻撃の冴えに、青いローブの少女は笑って褒めた。

それが皮肉なのかは別として、目の前のアルスが思ったよりもできる相手だったからだ。

 

 アルスも皮肉に感じながらも、あえて笑ってそう言った。

その態度に青いローブの少女は、ますます気に入ったという感じで、さらに嬉しそうな表情を見せたのだった。

 

 

「そらよ! 光の13矢”!!!」

 

「あたらないわ!」

 

 

 そんなやり取りをしながらも、戦いはさらに苛烈さを増していくばかりだ。

アルスは無詠唱でとっさに、けん制の為の魔法の射手を放った。

 

 当然それは青いローブの少女にはあたらない。少し体勢を変化させただけで、簡単にかわされてしまった。

 

 

「あまいぜ! オラァ!」

 

「ふん!」

 

 

 そこへアルスは再びスターランサーを構え、青いローブの少女へと突いた。

それでも青いローブの少女はそのまま右足でスターランサーを蹴り上げ、その攻撃を防いだのだ。

 

 

「その武器、中々すごいじゃない」

 

「そりゃそうだ。お前を倒す為に編み出したんだからな!」

 

「そんなに私に入れ込むとやけどするわよ?」

 

「上等!」

 

 

 アルスは防がれたのを見て、すかさず後退した。

青いローブの少女も同じように、少し距離を置くようにして離れた。

 

 そこで青いローブの少女は、アルスが作り出したスターランサーの性能を認め、それを微笑みながら述べた。

 

  アルスもそれに対し、当たり前だと鼻を鳴らした。

そうだ、この武器は青いローブの少女を倒すために、アルスが開発したものだ。驚かれなくては困る、そんな態度だった。

 

 

「なら、私を捕まえてみなさい? ほらほらほらほら!」

 

「ちぃ、やっぱお前さんの特典、ヤバすぎんじゃねぇのか!?」

 

「ええ、ヤバい特典を選んだもの。当然でしょう?」

 

 

 すると青いローブの少女は、さらに加速して攻撃の鋭さを増していった。

そして、すさまじい速度で連続的に蹴りを放ったのだ。

 

 アルスはそれにたまらず後ろへ下がり、青いローブの少女の特典のことを、愚痴るように吐き出した。

なんという特典だろうか。予想でしかないが、これは明らかに危険極まりないものだ。凶悪だと。

 

 青いローブの少女はそれに対して、当然と笑って述べた。

その特典を選んだのは自分だし、その特典のすさまじさを理解して選んだからだ。

 

 

「さて、ウォーミングアップはこれくらいにして、そろそろ加速して行くわよ!」

 

「やっぱ本気じゃなかったって訳かよ! だと思ってたぜ!」

 

「当たり前でしょう! さあ、醜く汚く踊りなさい!!」

 

 

 青いローブの少女はそれを言い終えると、ランナーがスタートダッシュするかのような体制をとり始めた。

また、なんということだろうか、今までの戦いは本気ではなかったと言い出したのだ。

 

 しかし、アルスはそれにうすうす気づいていた。

目の前の少女の特典が自分の予想通りならば、あの程度が本気なはずがないと思っていたからだ。

 

 そして、青いローブの少女はその言葉を言い終えると、瞬間的なスタートダッシュとともに、アルスへ攻撃を始めたのだ。

 

 

「ぐおっ! 速い……!」

 

「ふっ! ふっ! ふっ!!」

 

「クソッ! 防ぐので精一杯だ……!」

 

 

 その攻撃速度やいなや、豹すらも亀に見えるに等しい速度であった。

しかも、急なターンでさえ速度が落ちず、連続的にその鋭い(やり)がアルスを掠めるのだ。

 

 ただ、掠めているだけにとどまっているのは、アルスが必死に回避しているからだ。動いてなければこの時点で、串刺しの蜂の巣になっていただろう。それほどの猛攻だった。

 

 それでもアルスとて防御に徹するしかなかった。

防御で攻撃を防がなければ、たちまちやられてしまうほどの、すさまじい連撃。攻撃したくてもできないと言うが、今のアルスの状況だった。

 

 

「あはははははっ! さっきまでの威勢はどうしたのかしら? ほらほら!!」

 

「ぐおおっ!? なんつー……!」

 

 

 アルスの動きが鈍くなったのを見た青いローブの少女は、大きく笑いながら何度も何度も攻め立てた。

アルスはそう笑われても、言い返すことができないぐらい追い詰められていた。小さくより強固に変化させた障壁を使い攻撃を防ぐか、ギリギリで攻撃をかわすことに忙しいからだ。

 

 

「遅い! 遅すぎるわ! なんという遅さなのかしら!!」

 

「ちっくしょう! だが、見切れない訳じゃねぇ……」

 

 

 青いローブの少女は、スピードを落とすことなく何度もアルスへ攻撃を繰り出す。

音を切る速さでの高速機動で、アルスへと突きを放つ。アルスの動けない状況に笑いながら、何度も執拗に穿つ。

 

 それでも未だ無傷なのがアルスだった。

青いローブの少女の攻撃を何とか見切り、その攻撃が来る位置を察知して防いでいたからだ。故に、苦戦をしいられてはいるが、精神的には多少余裕があったのだ。

 

 

「そう? ならもっと加速するだけよ!!」

 

「なっ、何!? ぐううおおお!?」

 

 

 しかし、そこにさらに絶望的な言葉が、アルスへと届いた。

なんと青いローブの少女は、今以上に加速すると言い出したのだ。

 

 さらに、それが言葉だけではないことが、その瞬間確定した。

アルスはその言葉を聞いた後、目に見えない何かに瞬間的に切り刻まれた。もはや防御と回避が追いつかないほどの、暴風のような猛攻だった。

 

 

「あはは! そこ!」

 

「ガッ!? うぐっ……」

 

 

 目にも留まらぬ青いローブの少女の攻撃に、アルスはたじたじだった。

致命傷は受けてはいないが、それでも小さな傷が徐々に増えてきていた。

 

 アルスは何とかこの場を挽回しようとするも、少女の動きにまったくついていけなかった。これこそが彼女の本気、本当の実力だということを、改めて実感させられたのであった。

 

 だが、アルスにも限界がある。何度もこの速度での攻撃に耐えられるはずがない。だから、幾多の負傷により、一瞬だけだが体がぐらついてしまったのだ。

 

 それを青いローブの少女は見逃してはいなかった。そのバランスを崩したアルスへと、すかさず鋭い攻撃を放ったのだ。

 

 アルスはそれに対応し、防御をしようとしたが、一瞬遅かった。

少女の攻撃をモロに食らってしまったのだ。

 

 

「ぐっ……、しまった……脚を……」

 

「それでも動けないでしょう? じっとしてなさい。すぐには終わらせないけれども!」

 

 

 しかも、その場所は太ももだった。アルスは太ももに大きな風穴を開け、そこから真っ赤な血が噴出したのだ。

これによりアルスの機動力はかなり低下したと言えよう。アルスはそれを考え、やられたと心の奥底から後悔した。

 

 むしろ、青いローブの少女も、当然それを狙って攻撃したのだ。

そして、青いローブの少女は、サディスティックな笑みを浮かべ、さらに痛めつけると宣言した。

 

 

「はっ……」

 

「何を笑って……?」

 

「別に、動けなくとも戦いようはあるさ……!」

 

 

 アルスは絶体絶命のピンチとなってしまった。傷の痛みで嫌な汗が額を濡らし、流血で地面を真紅に染め上げていく。それでもなお、アルスは笑っていた。苦痛に歪んではいるが、それでも表情は笑っていた。

 

 青いローブの少女は、そのアルスがどうして笑っているのか理解できなかった。

何せもはやとどめをさされるだけの状態。完全に敗北寸前だ。そんなアルスが笑うなど、絶望で頭がおかしくなったとしか思えなかったのだ。

 

 だが、アルスは自暴自棄となって笑っている訳ではない。

逆転の一手があるからこそ笑っているのだ。自分がまだ勝てると確信しているからこそ、笑うのだ。

 

 

「へえ? どうするの?」

 

「こうするんだよ!」

 

 

 青いローブの少女は、アルスのその挑発めいた言葉に、逆に挑発するように尋ねた。

すると、アルスは握っていたスターランサーを5つの槍に分離させたのだ。

 

 

「槍が分離?」

 

「ただ分離しただけだと思うなよ! 食らえ!!」

 

「へえ、自在に飛び回らせることができるってワケ。で、それで?」

 

 

 青いローブの少女は、それをつまらなそうに眺めていた。

たかだか槍が五つに分解されただけで、何ができるだろうか。自分の速度に対応できないのに、意味があるはずがないと、そう思っていた。

 

 それでもアルスはそんな少女を無視して、その少女へと五つの槍を飛ばしたのだ。

この分離したスターランサーは、アルスの意思のままに操ることができる、所謂ビットみたいなものだ。

 

 ……このスターランサーは正面から見れば星の形になっている。

そして、分裂して飛ばすことで流星のごとく敵を攻撃する。故に、スターランサーと名づけられたのだった。

 

 

 青いローブの少女も、その槍を回避して見せるも、その槍が方向を変えたのを見て、そのタネを理解した。

とは言え、自分の速度に対応できるかは別。追ってこようが回避できるなら問題ないと、まるで気にする様子など見せなかった。

 

 

「はっ! 随分な言い草だな! 後で泣きを見るぜ?」

 

「そう? じゃあやってみなさい? ただし、泣きを見るのはあなたの方だけれど!」

 

 

 アルスは少女の態度に、後悔することになると渋く笑ってそう言った。

舐めているのも今の内だ。むしろ、油断してくれればチャンスも増えると、内心ほくそ笑んでいたのだ。

 

 そんなアルスに、やはりどうでもいいと言う様子で少女は言葉を発する。

その程度の攻撃にやられるほど弱くは無い。無駄なあがきをしたと嘆くのは、アルスの方になると宣言したのだ。

 

 

「あはははは、確かにすごいわね!」

 

「だろ? 俺の最高傑作だからな!」

 

「本当にあなた、楽しいわ!」

 

 

 すると、五つに分かれたスターランサーは、追跡と先回りを行い、少女を追い詰めようとすばやく動く。

少女が前に出れば、そこへ槍が飛び交い動きを殺ごうとする。少女が後ろに下がれば、死角から襲い掛かる。

 

 されど、青いローブの少女にはその攻撃が届かない。

飛び交う蜂のごとく動き回り、ひらりと揺らめく蝶のように舞い、五つの槍を回避していた。

 

 むしろ、少女はその攻撃に対して、大そう喜んで感心していた。

確かにすばらしい攻撃だ。自分の位置を先読みし、確実に命中させんと狙ってくる。これほどの攻撃ができる相手は、目の前の男以外知らないと。

 

 アルスはそんな少女の言葉に、笑いながら答えていた。

とは言え、これでも少女にまったく攻撃があたらないことに戦慄し、少女の強さをさらに実感していた。

 

 並みの相手ならば、この攻撃は避けられないはずだ。

それなのに、少女はスピードをあまり落とさないどころか、完全に見切って回避している。少女の特典は本当に恐ろしい。自分の特典で倒すことは難しいと、アルスが思うほどであった。

 

 その少女はと言うと、本当に心から嬉しそうに、攻撃を回避していた。

むしろ、回避のみに専念し、攻撃を避けることを楽しんでいるというような状況だった。

 

 

「でも、あなたは無防備じゃないかしら?」

 

「確かめてみな」

 

「ええ! ご期待に応えてね!!」

 

 

 とは言え、ずっと攻撃を回避している訳にもいかない。

そう考えたローブの少女は、楽しい回避時間を終わらせ、とどめを刺そうと動き出した。

 

 今のアルスは片足を怪我し、まともに動くことができない。

五つの槍は縦横無尽に飛び回っているが、アルス本人はまったく動いてないのだ。

そこへ槍と槍の隙間にアルスへの道ができたのを見た少女は、そこへ特攻をかけたのだ。

 

 

「!? もう一つ!?」

 

「甘かったな?」

 

「だけど、その程度で私の猛攻を防げるとでも?」

 

 

 だが、それはアルスの罠だ。少女がそうするよう仕向けたのだ。

アルスはもう一つ、新たにスターランサーを作り出し、少女の特攻を防いでいた。

それにって少女の動きが一度止まり、スピードを殺すことに成功したのである。

 

 ただ、たった一度の攻撃を防いだだけであり、少女が再び攻撃を加速させれば、また先ほどと同じ状況に陥ってしまうだろう。

少女はそれを考えながら、再び加速する準備に移ろうとした。

 

 

「別に、……防ぐ必要はもうないからな」

 

「何……? 幻覚……!?」

 

 

 しかし、アルスはすでにもう一つ、手を打っていた。

アルスがその一言を述べ終えると、少女の目の前のアルスがスッと消えて、少し離れた場所にアルスが現れたではないか。

青いローブの少女は、今のが幻覚であることに気が付いた。

 

 

「なっ!? これは……、まさか結界!?」

 

「おうよ。お前さんを縛り上げるための、強力なやつさ!」

 

 

 少女を襲ったのはそれだけではなかった。

五つに分離したスターランサーが少女を中心に、五芳星を描くように地面に突き刺さると、強力な結界が発生したのだ。

少女はこれに少し驚き、してやられたと思った。

 

 また、アルスはその結界こそ、少女を完全に封じる為のものだと説明した。

凶悪な特典を持つ少女を封じるには、並みの結界では不可能だ。故に、五つのスターランサーを触媒にし、ありったけの魔力を込めた結界を作り出したのである。

 

 

「ぐっ……! この程度で……!」

 

「まだ動けるよな? だと思ったよ。だからこうするだけだ! ほらよ!!」

 

 

 とは言え、少女の特典は想像以上に恐ろしいものだ。

結界に封じられたというのに、未だ体が動く様子だった。これでは結界を破られ、外に出られてしまうだろう。

 

 アルスはそんなことも当然予想していた。

なので、もう一つ作り出したスターランサーを使い、二重に結界を張ったのだ。

 

 

「ぐああ……!」

 

「流石に苦しいか? まっ、しょうがねぇよな」

 

「この……程度……で……!」

 

 

 青いローブの少女はたまらず悲鳴を上げ、その場に膝をついて座り込んだ。

もはや立ち上がることさえできず、必死に体を起こそうとしても、まったく言うことを聞かない様子だった。

 

 アルスはそんな少女に、ようやく大人しくなったか、という態度を見せていた。

が、油断はしていない。少女の特典は強大だ、何が起こるかわからない。故に、隙を見せることはなかった。

 

 ただ、少女はもう立つ力もない様子だ。

それでもアルスを睨みつけ、立ち上がろうと脚に力を込めていた。目の前の男を倒そうと、あがきもがくのだった。

 

 

「そんでもって、風の精霊23人! 魔法の射手! ”戒めの風矢!”」

 

「なっ! うう!?」

 

 

 そこへアルスはもう一つ魔法を使った。

それは風属性で束縛用の魔法の射手だった。これを23も放ち、少女の体をがんじがらめに封じたのだ。

 

 無慈悲なるさらなる拘束で、少女はもう動けなかった。

二重結界での強力な重圧と、両手両足を束縛されたことで、完全に沈静化してしまったのである。

 

 

「……ふぅ、これでお前さんの身動きは封じたはずだぜ」

 

「くっ……、放しなさい……!」

 

「そいつは無理な相談だ」

 

 

 これでようやく安全だと、額をぬぐってため息を吐くアルス。

それを少女は膝をつきうなだれながら、それでも顔を上げてアルスを睨みつけ、開放を命じた。

だが、ようやく捕らえた相手を逃がすはずもない。アルスはそれを無理の一言で片付けた。

 

 

「さて、どうするかね。ここは無難に武装解除を使っておくか?」

 

「……!」

 

 

 そこでアルスは次を考えた。このまま縛りっぱなしで放置する訳にもいかない。

されとて開放すれば再び戦いになる。ここはとりあえずベタだが、武装解除しておこうと考えた。流石の少女も武装解除されれば、戦う気などおきなくなるだろうと思ったのである。

 

 青いローブの少女はその言葉を聞いて、いっきに顔色を青く変え、焦った様子を見せたのだ。

 

 

「やっ、やめなさい!! そんなことをしたら、絶対に殺す!!」

 

「ふーむ、しかし、このままにしておくという訳にもいかんしな」

 

 

 先ほどの余裕はもはやなく、焦りに彩られた表情で少女はうろたえながら、武装解除をやめるよう訴えた。

それだけは絶対にいやだ、やめないと許さない。まるで癇癪を起こした子供のように、叫びだしたのだ。

 

 とは言っても、やはりこのままにはできない。

アルスはそれならどうするべきかと、やはり武装解除しかないかと、頭を悩ませていた。

 

 

「調子に乗らないで……! こんな拘束なんて、簡単に……!! ぐうう……!」

 

「その結界は対幻想種……、いや、竜種用レベルでな、お前さんの特典だろうと簡単には抜け出せない」

 

 

 そんなアルスの態度に、怒りを露にする少女。

何としてでもこの拘束と結界を打ち破り、自由になろうと力を込める。それでもやはり、二重の結界と拘束を解くことはできなかった。

 

 何せ、この結界は幻想種、竜種を完全に無力化できるほどのものだ。

確かに目の前の少女がいくらすさまじい特典であろうと、これほどの結界を破るには時間がかかるというものだ。

 

 

「それにお前さんは、その特典の原典どおりの強さを発揮してはいないはずだ……」

 

「っ……!」

 

「やっぱな」

 

 

 また、アルスは一つ、少女の弱点を見極めていた。

それは少女が特典を100%生かせていないというものだった。

 

 

 ……この青いローブの少女の特典、それは”Fate/EXTRA CCCのメルトリリス”の能力だ。

複数の女神(ハイ・サーヴァント)を融合した存在(アルターエゴ)で、他者を溶かし吸収し、自分の力に代える能力(スキル)を持つ、すさまじいキャラクターだ。

 

 ただ、Fate/EXTRA CCCは月の内部の電子世界での話である。つまり、データとして存在するものの能力を、現実世界で使用するには大きな制限がかかったのだ。

 

 おもに、他者の吸収するスキル、オールドレインがそれだ。

メルトリリスは他者を吸収することで、レベルをあげることができた。しかし、現実世界において、レベルと言う数値は存在しない。データ内であるからこそ、その数値が存在するのだから当然だ。

 

 故に、他者を吸収してもレベルと言う目に見える強さを得ることができなかった。確かに身体能力の向上やステータスの上昇はするものの、レベルであがるように強くはなれなかった。

 

 当然、その大元である、本来最大の特徴であるイデス、メルトウィルスも大きく機能していない。

相手を溶かす(ウィルス)こそ機能してはいるようだが、完全ではないようだった。特に溶かした相手をウィルスにリデザインする能力がほとんど機能してないのだ。

 

 何故なら、やはりこの”現実世界”において”バーチャル世界”でのウィルスを使用することが不可能だったからだ。そのため、溶かして吸収すること以外、使用できない大きな制限がかけられてしまっていたのだ。

 

 

 それを補う為に、もう一つの特典を選んだ。それは”吸収した能力(スキル)の付与、改造”だった。

メルトリリスは元々吸収したものを、経験値(レベルアップ)としてしか扱えなかった。それを何とかするために、この特典を選んだのだ。

 

 だが、それにも大きな制約を設けられた。スタンドなどの固有スキルは吸収しても使用できないというものだ。

これにより基本的に吸収して使用できるスキルは”Fate”に登場する汎用スキルばかりに限られてしまったのである。それ以外であれば、せいぜい気を操る力や、魔力を操る力程度のものにとどまってしまっていた。

 

 とは言え、それでも強力なのには違いない。

のだが、Fateの能力を持つ転生者、またはサーヴァントぐらいにしか役に立たなくなってしまった。だからこそ、転生者が多く集う組織に属し、こっそりと能力を奪い取ろうと考えたのだ。

 

 しかし、基本的に転生者が貰う特典は似たよりったりだった。故にあまりうまくいかず、偏ったスキルぐらいしか吸収できなかったり、使えないスキルばかり揃ったりとあまり大きな成果は得られなかった。

 

 さらに吸収したからと言って、いきなり実戦で使えるようにはならなかった。この転生のルールにおいて、鍛えなければ本来の性能が引き出せないというものがある。それが吸収したスキルにも適応されていたからだ。それは当然でもあった。吸収したスキルもまた、他者が選んだ特典だからだ。

 

 そのため、その吸収したスキルを一々鍛えなくてはならなくなった。ドレインした経験値(ポイント)をつぎ込んだり、使いながら慣れなければならないと言う面倒な状況になってしまったのだ。

 

 それと、他者を命がなくなるまで搾り取ることをしなかったのも、かなり大きかった。

彼女は生前は普通の人間。殺傷ごとなど縁のない人間だった。そんな人間がいきなり人を殺せるはずもなく、吸収するにせよ命を奪わなかった。そのせいで吸収が中途半端になってしまい、思ったほどパワーアップできなかった。

 

 

 少女はそれを理解していたので、それが表情となって表れた。

アルスは少女のハッとした顔を見て、自分が思ったとおりだったと改めて確信したのだ。

 

 

「んじゃ、武装解除をさせてもらうか」

 

「まっ! 待って!! それだけはダメ! 絶対!!」

 

 

 とまあ、そんな訳でと、アルスは武装解除を使おうとした。

少女はそれに対して、抗議するかのようにやめてくれと大きく叫んだ。

 

 

「……やっぱイヤ?」

 

「当たり前でしょう!!」

 

 

 アルスは少女の本当に嫌そうな態度を見かね、そう尋ねた。

少女も当然だと言う様子で、それをはっきり言葉にしたのだ。

 

 

「んー……、んじゃ、お前さんがおとなしくするっつーんなら、やめてやってもいいぜ?」

 

「……は?」

 

 

 アルスはそこで少し考え、突如としてありえないことを言い出した。

青いローブの少女はそれを聞いて、一瞬聞き間違えではないかと言う様子で、数秒間固まった。

 

 

「どういう意味かしら、それ……」

 

「武装解除はしない、結界を解いてやるって言ったんだ。まっ、その風の矢の拘束は流石に消さないが」

 

 

 少女は本当に聞き間違えてないか、確かめるようにそれをアルスへ聞いた。

アルスはそれに対して、しっかりと返事を返した。武装解除はやらないし結界も解くと。そう確かに言ったのだ。

 

 

「どっ、どうして……! 甘すぎるんじゃない!?」

 

「まあ、確かに甘いな。チョコレートのように甘いな。自覚してるって」

 

「じゃあなんで!!?」

 

 

 青いローブの少女は、意味がわからないという顔を見せていた。

当たり前だ。せっかく捕獲した敵を、みすみす逃がすことになりかねないようなことを、進んでするなんておかしいだけだからだ。故に、普通ではない、甘すぎると叫んだのである。

 

 アルスも当然、そんなことは承知だった。

自分の判断がいかに愚かで、甘いものだと自覚していた。

 

 だからこそ、少女には理解不能だった。

わかっているというのなら、する必要がないはずだ。どうしてそうしよう言い出したのか、再び大きく叫び問い詰めた。

 

 

「……いやね。お前さんは特典のせいか、そんなナリだろ? そんな見た目の少女を脱がすってのは心が痛むってもんよ」

 

「なっ、何を言ってるの……?」

 

 

 アルスはそこでため息を吐きながら、とりあえず自分が考えたことを説明し始めた。

と言うのも、青いローブの少女は、その通称のとおり見た目少し幼いスレンダーな少女である。メルトリリスの特典を選んだ彼女は、メルトリリスに姿かたちがそっくりの美少女だ。

 

 そんな少女を無理やり武装解除で脱がすのには、アルスとていささか抵抗があった。

遠くから見ればただの変態。犯罪者みたいだからだ。

 

 それにアルスは娘を持つ一児の父親。娘よりも少し大きいかぐらいの少女を脱がすなど、したくないことであった。まあ、それ以上にそんなことを娘に知られ、距離を置かれるのも辛いと感じているのであるが。

 

 だが、青いローブの少女は、その答えに満足いかなかった様子だった。

むしろ、さらによく分からないと言う様子で、驚いた顔を見せていた。

 

 

「普通、脱がしたがるものじゃないの? あいつらみたいに!!」

 

「あいつら? 仲間の転生者のことか?」

 

「そうよ! あいつらはいつだって、そればかり狙ってきた!! 最低のクズどもよ!」

 

 

 どうしてそんな態度を少女が見せたのか。それは他の転生者たちを見てのことだった。

 

 他の転生者たちは、下心丸出しで自分の前に現れることが多かった。隙あらば武装解除しようとするものも、少なからず存在したほどだ。

 

 アルスはそれを聞いて、そのあいつらとは転生者のことかと考えた。

まあ、普通に考えるのならば、それしかないと言うものだが。

 

 少女はそれを興奮気味に叫び、肯定した。

自分の知る転生者どもはどうしようもない連中だ。最低なやつらだったと。

 

 

「だから、そんなんだろうと思って、この特典を選んだのだけど……。むしろ、あいつらを煽るだけになってしまったわ……」

 

「はぁ……。難儀だねぇ……」

 

 

 彼女は前世も女性だった。別にその時は男性に対して、そのようなことを考えたことはなかった。

 

 そこへ、ふとしたことで死んで、神が転生させてやると言い出した。それはそれで嬉しかったのも彼女だ。

しかし、神はさらにこう告げた。”転生先には転生者が多くいる”ということを。彼女はそれを聞いて考えたことは、”二次創作でよく用いられる転生者”という存在だった。

 

 転生者はよく、自分勝手で悪役で、最低に書かれていることが多かった。そんな連中だけではないのだが、それがある程度一人歩きしているような感じも受けていた。

 

 だから、転生するのが少し怖くなった。多くいる転生者の中で、何かあったらどうしようかと悩んだ。生きていけるか苦悩した。いや、それ以外の最悪な想像を頭によぎらせ、勝手に恐怖した。

 

 それ故、少女はそうなることを予想していた。予想していたからこそ、この強力無比な特典を選んだ。されど、そのせいでむしろ、さらにそういう目で見られるようになってしまったと言う、皮肉な結果になってしまった。もっと別のものにすべきだったと、少女は後悔していた。

 

 アルスもそれを聞いて、かなり同情していた。

なんというか、確かにろくでもない転生者は多いと聞いていた。だが、まさかそれほどとは思ってなかったらしい。故に、またため息を吐いて、少女に同情するような言葉を投げたのだ。

 

 

「あなただって、本当は私を脱がしたくてしょうがないんでしょう?!」

 

「いや? 別に?」

 

「嘘を言っても無駄よ!」

 

 

 だからこそ、転生者は信用できない。

きっと、目の前の男もスケベなことを考えているに違いない。青いローブの少女は疑念を持ちながら、それをアルスへ問いただした。

 

 しかし、アルスはそんなことなどまったく考えていなかった。

最初に戦った時にボコボコにされたので、リベンジしたかったと思った程度で、その後どうこうしようなんて頭になかった。故に、何も考えてないと言う態度で、一言述べて片付けた。

 

 それでも少女は信用できなかった。

そんなことを言って騙そうとしている、そういう風にしか受け止められなかった。

 

 

「……つーか、こんなところで脱がされりゃ、俺だって恥ずかしいわ!!」

 

「っ!」

 

 

 すると、アルスはそんな少女を見かね、大きな声で自分もそうだと吐き出した。

誰だってこんな一目がある場所で脱がされれば恥ずかしい。当たり前のことだと。

 

 青いローブの少女は、それに一瞬びっくりした顔を見せた。

突然アルスが怒鳴るように叫んだからだろう。彼女ははじめて少女らしい驚いた顔を見せたのだった。

 

 

「自分が嫌だってことを人にやるとか、流石に大人のすることじゃねぇだろ?」

 

「それは、そう……だけど……」

 

 

 と言うよりも、自分がされて嫌なことなど、他人にやることではない。

大人であるならなおさらだ。故に、アルスはそれを少女へと、いつもの態度で述べたのだ。

 

 少女もまた、それを聞いて確かにそうだとは思った。

それでも、それは建前でしかないと考えていた。その当然だと言う事ができないのも、また人間なのだから。

 

 

「……だから、おとなしくしてくれんなら、さっき言ったとおりでかまわねぇ」

 

「……この程度の拘束じゃ、逃げれるわよ……? いえ、後ろから刺すかもしれないわよ……?」

 

 

 アルスはそう言う訳で、もう戦わないと誓うならば多少自由にしていいと言った。

ここに強制契約させる魔法具があればそれを使うのが手っ取り早いのだが、ここにはないのでそれは諦めた。

 

 ただ、強制契約したところで、向こうにはアーチャーがいる。

アーチャーは破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)が使えるので、その契約を解除することができる。なので、この方法はあまり大きな抑止にはならないのだが、今はアルスがそれに気がつくことはなかった。

 

 そこへ少女がそのようなことをすれば、簡単に逃げることができると忠告した。

むしろ、それ以上に再び敵対し、攻撃すると宣言したのだ。

 

 

「後ろから刺すっつーんなら、武装解除もやむなしだな」

 

「……その前にやれる自信ならあるわ……」

 

「……察しのとおり、俺の特典は無詠唱でね。行動せずとも魔法が出せるのさ」

 

 

 ならば、武装解除で応戦するとアルスは返した。

この少女の一番の弱点、それが武装解除だと理解したからこその言葉だった。

 

 だが、少女はアルスを睨みつけ、その前にアルスを倒すことができると強気の姿勢を見せた。

そうだ、瞬間的に加速し、串刺しにしてしまえば全てが終わる。簡単なことだ。そう思っていた。

 

 そんな少女へ、アルスはゆっくりと説明をはじめた。

確かに目に見えない速度での攻撃は脅威だ。しかしながら、自分の特典は無詠唱で魔法を撃つことができる。少女が加速する前に、行動することなく武装解除を放ち、命中させることだってできない訳ではないのだ。

 

 

「故に、お前さんが不審な行動したならば、即座に武装解除をぶち込めるって訳よ」

 

「そんな魔法、当たらなければどうってことないじゃない……!」

 

 

 そう言うことだから、大人しくしておけよ。そうアルスは言いたげに、その説明を終えた。

 

 それでも少女はその程度のことで大人しくなろうとは思わない。

自分の方が早く動ける。魔法なんて当たらなければ問題ない。自分の特典(ちから)を信じて疑わなかった。

 

 

「おう、そうだな。だがその魔法が”俺自身を中心にした範囲”でのものだったら?」

 

「っ……!」

 

 

 ならばともう一つ、アルスは言葉を追加した。

武装解除を自分を中心に拡散させれば、どうなるだろうかということだった。それはつまり、攻撃するするであろう自分へ近づけば武装解除の餌食になるという意味だ。

 

 少女はその意図を理解しハッとした後、くっと悔しそうな顔を見せた。

 

 

「そこでそれを使えば、いくら速くともこちらに攻めて来るんなら、はたして避けきれるかい?」

 

「くっ……」

 

 

 どんなに早かろうが、狙うのが自分であれば必ず近づかなければならない。

そこへ行動なしで武装解除が周囲に放たれれば、少女とて回避など容易ではない。

 

 少女はアルスの作戦を聞いて、ただただ悔しがるだけだった。

結界に縛られながら、アルスを睨むしかなかった。

 

 

「俺は刺されるかもしれんが、お前さんは脱がされて恥ずかしい目にあう。どうだ? ここはとりあえず俺の言うとおりにしてみないか?」

 

「……」

 

 

 ただ、アルスとて無傷でそれを済ませられるとは思っていない。

彼女が本気で自分を攻撃すると言うのなら、武装解除で動きを止めることは不可能だ。例え脚にある具足を吹き飛ばせても、その速度での攻撃は防げない。

 

 しかし、武装解除が命中したら、彼女は恥をかくことになる。

アルスはダメージを負い、少女は辱めを受ける。完全に痛み分けで終わってしまうだろう。

 

 アルスはそれを言うと、少女も少し考える様子を見せた。

ここで目の前の男を倒しても、脱がされては意味が無い。ここで脱がされたって男を倒して帰ればいいだけだが、問題は帰った後にも残っている。

 

 組織のアジトには未だたくさんの転生者が、たむろっているだろう。

そこへそんな格好で帰ったらどうなるだろうか。それを考えると正直死んだ方がマシだとさえ、少女は思った。

 

 

「ふぅ……、わかったわ……」

 

「交渉成立で?」

 

「ええ……。ただし、私から情報を得ようと思っても無駄だから」

 

 

 少女は色々と考えた結果、待遇がよさそうなアルスの意見を聞くことにした。

どうせ帰ってもいいことなんてない。自分があの組織にいたのは、能力を吸収するためでしかない。それなら無理をする必要なんて、どこにもないということに気が付いた。

 

 とは言え、目の前の男に負けを認めるというのは悔しいと思った。されど、それで自分の身が護られるなら、それでいいと諦めたのだった。

 

 まあ、それでも誘ってきたアーチャーと言う男には、多少なりに恩があり申し訳ないとも思ったが。

あのアーチャーとか言う男は、むっつりスケベではあったが、悪いやつでもなかった。ある程度自分の意見を尊重してくれたし、生活面でも頼りになった。

 

 故に、面倒でやる気はなかったが、ゲートでの作戦や今回の作戦に参加していた。

一応あのアーチャーの顔を立ててやろうと、ここへ来たことを思い出していたのだ。

 

 

 アルスがそれでいいかと尋ねれば、少女は諦めた様子でそれでいいと述べえた。

ただ、少女は自分から情報を引き出すことはできないと、念を押しておくことにした。

 

 

「別にそこまで考えてなかったが、どうしてだ?」

 

「簡単よ。私は何も教えてもらってないだけ」

 

 

 アルスはそこまで考えていなかったという様子を見せたが、その理由を少女へ聞いた。

少女はそれに一言で答えた。それは少女自身が何も知らないというだけだった。

 

 少女は彼らの行動理念や作戦に無関心だった。

面倒だし興味も無かったので、特に今後のことについても聞いていなかった。

 

 また、アーチャーも少女には何も話さなかった。

多分こうなることを予想していたのだろうとさえ、少女は思った。自分は元々フラフラしていた身。ホーロー虫だった。そんな自分を本気で信じているとも、思えなかったからだ。

 

 

「それに、転生者のあなたなら、聞かずともある程度予想できてるんでしょう?」

 

「まあ、そうだが……」

 

「なら、私への詮索は無意味ね」

 

「ふむ、なるほど」

 

 

 さらに、転生者であるならばこの先のことを”原作知識”で知っているだろう。

であれば、別にそれを自分から引き出す必要なんてないだろうと、少女は思った。確かに”原作”とは随分かけ離れているが、やろうとしていることは同じように見えたからだ。

 

 アルスもそれを聞いて、なるほど確かにと思ったようだ。

原作知識がある転生者ならば、今後のことをある程度予想できるだろう。

 

 少女は故に、どんなに情報を聞きだそうとしても、答えられないとはっきり宣言した。

自分が知る知識も所詮は”原作知識”どまり。アーチャーからの情報はないので、聞いても無駄であると。

 

 

 予想外の方向に進むのであれば情報が欲しいところだが、今の所はその兆しは無い。

なので、無理に情報を引き出す必要もないと感じたのだ。

 

 

「っと、こうしてちゃまずいな! ってうおお!?」

 

「アーチャーの合図ね……」

 

「合図……?」

 

 

 とまあ、アルスは少女の言葉に納得したところで、重大なことを思い出した。

それは他の仲間たちの安否であった。この戦いは”原作”でも大きな分岐点の一つだ。そのため、なんとしてでも仲間の下へ行こうと、急いでいる最中だった。

 

 と、アルスがそれを思い出した時、空を真っ白に染め上げるほどの爆発が起こった。

少女はそれをどうでもよさげに眺めながら、それがアーチャーが発した信号であると小さく言葉にした。

 

 アルスはその意図が読めず、少女にそれを尋ねた。

一体何の合図だろうか、新たな作戦の知らせか何かだろうかと。

 

 

「引き際の合図よ。まっ、私はこんな状態だから、意味のないものになってしまったけれども」

 

「そう言いなさんなって。悪いようにはしないさ」

 

「……どうかしらね……」

 

 

 青いローブの少女は今のでアーチャーたちが撤退して行った事を理解した。

そして、それをもはや興味なさそうに、アルスへと教えたのだった。

 

 アルスはふてくされた態度の少女に、苦笑しながらそれを言った。

いや、確かに縛りっぱなしにしてしまうが、それ以上に扱いを悪くはしないと。

 

 しかし、やはり少女はアルスを信用できないようで、プイっと首をアルスからそらし、すねた態度を見せていた。

 

 

「っっと、いけね! こうしてはいられねぇ! あいつら大丈夫かよ!?」

 

「さぁね……。まあ、アーチャーが退いたのなら、大事にはなってないんじゃないかしらね」

 

「だと良いがな!」

 

 

 アルスは先ほどの光で気がそれたことを思い出し、仲間のところへ行かねばと急ぎだした。

少女はそんなアルスに顔を向きなおし、ちらりと横目でそれを話した。

 

 あのアーチャーが撤退するというのなら、大事にはなってないだろう。

計画が成功したか失敗したはわからないが、問題になるようなことはないはずだと少女は思った。

 

 それに付近からも何か大きな爆発があったり、何かが崩れる音もなかった。それを考えたら、最悪の事態というのはなかったのだろうと少女は考えたのだ。

 

 だが、そんなことさえ興味が湧かない少女とは違い、かなり心配な様子だ。

故に、これからすぐにでもアーチャーが合図を発した場所へと、移動しようと考えた。

 

 

「とりあえず、合流すっかね。ほれ、お前さんも一緒だ」

 

「……はいはい……。ところで、その脚で大丈夫なのかしら?」

 

「あ? あー、痛ぇと思ったあら穴開いてたんだったな」

 

 

 ただ、少女も連れて行く必要がある。

風の魔法で縛った少女を魔法のロープでさらに縛り、それをアルスは右手に持って引っ張った。

 

 少女はもはや諦めた様子でため息を吐きながら、ふと気になることを言葉にした。

それはアルスの怪我だ。少女自身がアルスを攻撃してできた、太ももの大穴だ。未だに血が垂れ少なからず出血しており、痛々しい状態だった。

 

 アルスは今までの戦いで、痛みを忘れていたようだ。

言われてようやくそれを再認識し、痛みを気にし始めたのだった。

 

 

「ちょいと治癒魔法ぶっかけときゃ大丈夫だろ」

 

「……タフなのね」

 

 

 まあ、この程度ならばちょいと治癒の魔法を使えば問題ない。

アルスはそう考え言葉にした後、無詠唱で傷に治癒の魔法をかけて傷をふさいだ。

 

 それを見た少女は、呆れた様子で皮肉なのかわからない言葉を発していた。

なんとまあ、先ほどまでその傷で動くことさえかなわなかったと言うのに、よく言えたものだと。

 

 

「おっし、行くぞ」

 

「はいはい……」

 

 

 そして、傷がふさがったのを見たアルスは、掛け声とともに移動し始めた。

少女もそれに従い、渋々とアルスに引っ張られながら追っていくのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

名前:トリス(青いローブの少女)

種族:人間

性別:女性

原作知識:あり

前世:30代システムエンジニア

能力:他者の吸収による自己強化

特典:Fate/EXTRA CCCに登場するメルトリリスの能力(かなりの制限あり)

   吸収した能力(スキル)の使用および改造(かなりの制限あり)

 

 


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