理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百十四話 幼馴染

 あれだけ空で輝いていた日は傾き始め、周囲はほんのりと紅く染まってきていた。賑わいを見せていた海岸も時間とあって、多くの人たちは姿を消し、閑散としてきていた。そんな夕暮れに近い浜辺から、海に浮かんでいるように見える赤い太陽を眺める、一組の男女がそこにいた。

 

 

「もう日差しが赤くなってら」

 

「時間がたつのも早いですね」

 

 

 夕焼けの日差しで赤くなった海を眺めながら、カギはもうそんな時間かと言っていた。夕映も同じように、気がつけばもう夕方で、時間の流れは早いものだと言葉にした。

 

 

「ん? おい、あれはネギとのどかじゃねーか?!」

 

「本当ですね……」

 

 

 カギはふと浜辺を見渡せば、なんとネギとのどかが仲むつまじそうに歩いているではないか。それを少し驚いた様子で夕映へと伝えれば、夕映もそれに気がつきそれを口に出していた。しかし、何を思ったのかこの二人、とっさに近くの岩場へと身を隠し、ネギとのどかの様子を眺め始めたのだった。

 

 

「で、何で俺ら隠れてんだ……?」

 

「つ、つい条件反射で……」

 

 

 カギは何で隠れる必要があったのだと疑問を口にし、何やってんだ俺ェと思っていた。同じように夕映も隠れてしまい、反射的にやってしまったと後悔の言葉を述べたのだ。そんな二人の後ろからゆっくりと、また一人少女が近寄ってきたのである。

 

 

「何してんの?」

 

「おわっ!? な、なんだアスナか」

 

「いえ、特には何も……」

 

 

 やってきたのはアスナだった。アスナは岩陰に身を潜めるようにするカギと夕映を見て、何しているのかと声をかけた。するとカギがかなり驚いた様子で振り向き、その姿を確認するとほっとした様子を見せていた。夕映はさほど驚いた様子は見せず、アスナの質問に静かに答えた。

 

 

「ん? あそこにいるのはネギ先生と本屋ちゃん? なるほど」

 

「おいおい!? 勝手に納得してんじゃねー!」

 

「別にやましいことは決して!」

 

 

 アスナはそこで二人の見ていたと思われる場所へと視線を向けると、ネギとのどかが仲よさそうにしながら歩いているのが見えた。ああ、なるほど、そう言うことか。アスナは目の前の二人はこれを見ていたのかと思い、静かに頷き納得していた。

 

 だが、カギも夕映もそんな気があった訳ではない。たまたま偶然ネギとのどかを見てしまい、気がつけば岩陰に隠れたに過ぎない。それを弁解しようとカギは口を開くが、既に勝手に納得しているアスナを見て、違うそうじゃないと叫んだのだ。夕映も覗きをしていた訳ではないと、やましいことはしていなかったと弁護を叫んで述べていた。

 

 

「いや、まぁ二人のことが気になるって言う気持ちもわかるから」

 

「だー! ちげー! 何で完全に自己完結してんだよ!」

 

「ま、まあ隠れたということは、やはりやましい気持ちがあったのでしょう……」

 

 

 しかし、そんな二人の言葉もアスナには届かず、むしろ気にしなくてもよいと言う気遣いまでされてしまったではないか。アスナもあの二人がうまくやっているのかは気になっていたので、そう言う気持ちもわかると話したのだ。

 

 いや、そうじゃない、そうじゃないんだ。カギは完全に勘違いしたアスナへと、何度もそう大声で説明した。ただ、夕映は隠れたのだから多少なりにそう言った気持ちがあったのかもしれないと、少し自己を反省していた。

 

 

「でも、あの二人結構いい感じじゃない?」

 

「いやーまったくだ。うらやましい限りだぜ」

 

「のどか、ファイトです!」

 

 

 まあ、目の前の二人が気になるのもしかたないだろう。何故ならネギとのどかは中々どうして良い感じの雰囲気だからだ。それをアスナは二人へ話すと、カギはネギを大層羨んだ。俺もあのぐらいの思いはしてみたいな、甘い空間に浸りたいな、そう思いながら、ネギの方を眺めていた。

 

 夕映は夕映で親友であるのどかを必死で応援していた。あの雰囲気ならキスぐらい出来なくも無いはずだ、頑張れ、行け、負けるなと。とは言え、何に負けるかと言えば、きっとそれはのどか自身なのだろうが。

 

 

「ホント、楽しそうじゃない……!」

 

 

 しかし、そんなのんきな雰囲気の中、突如として知らぬ少女の声が聞こえた。気がつけば赤いツーサイドアップの髪をなびかせた少女が一人、三人が隠れていた岩の上に仁王立ちし、怒りを露にしているではないか。ノースリーブでヘソが出る形の赤っぽい服装に短いスカートの恰好をした、見知らぬ少女がそこに居た。

 

 

「ん? なんか聞き覚えがあるような、ないような声が……。疲れてるのか……?」

 

 

 カギはその少女の声に聞き覚えがあった。が、その声の主などここに居るはずが無いと思い、疲れているのだろうかと思ったようだ。

 

 ……と言うかこのカギ、原作知識があるはずなのだが投げ捨ててしまったがためなのか、主要イベント以外すっかり頭から抜けてしまったみたいである。

 

 

「ネギのヤツ! あんなにデレデレしちゃって!」

 

 

 その少女はネギの名を語りながら、とてつもなくイライラしていた。ネギが他の女の子と遊んでいることが、かなり気に入らない様子だった。

 

 

「だ、誰っ!?」

 

「知らない子がいつの間に……!」

 

「げ、幻覚もか……? いや、違う! こりゃ現実だ!?」

 

 

 アスナは突然現れた謎の少女に驚きの声をだし、夕映もいつこの岩の上に現れたのだろうかとびっくりしていた。しかし、カギはこの少女を知っていた。知っていたが最初は自分の目を疑った。それでも目の前に居る少女は本物で現実だったことに、カギは目玉が飛び出んばかりに仰天したのである。

 

 

「なんでお前がここに!!」

 

「帰るって言ったのに帰ってこないと思ったら、こんなところでイチャイチャして……!」

 

「シカトかよ!」

 

 

 カギは驚きのあまり大声を出し、何故ここに居るのかとその少女に尋ねた。が、少女はカギなど眼中になく、ネギの方に視線が集中し射殺さんと言うほどに睨みつけていたのだ。また、カギは少女が話を聞かなかったことに、無視されたと思ったのかそのことを口から出してつっこんでいた。

 

 

「てっおい! 何をする―――――ッ!?」

 

「当然!」

 

 

 そんな多少のんきにしていたカギだったが、次の瞬間表情を焦りの色に染めたのだ。何故なら少女が突如臨戦態勢を取り、仲良くしているネギとのどかへ突撃しそうになっていたからだ。そこで何をするだー! とカギが叫べば、少女は当然と叫んだ後、恐ろしいことを言い出した。

 

 

「……ネギをぶっ飛ばす!」

 

「やめやめろ!!」

 

「ちょっ! 放しなさいよ!」

 

 

 ネギをぶっ飛ばす。少女はそうはっきりと、怒りと嫉妬が混じった声で言い放った。おい、やめろ! カギはそれを聞いて予想通りだと思いながらも、やらせてはまずいと思い、その少女を羽交い絞めにしたのだ。しかし、少女はまったくもって止まらず、じたばたとカギの腕の中で暴れ、離せと叫んでいた。

 

 

「二人の邪魔しちゃあかんだろ!?」

 

「放せって言ってるでしょ!? このっ!」

 

「ポピーッ!?」

 

「カギ先生!?」

 

 

 カギはあれほどまでにいい雰囲気の二人の邪魔は流石に悪いと思い、少女を必死で止めようとしていた。だが、少女はそれでも止まる気配はなく、鬱陶しいと思ったのか肘打ちを繰り出した。それがカギのわき腹に刺さり、カギは奇妙な声を出しながら吹き飛ばされて、砂浜の地面へと転がったのである。そんな光景を目撃していた夕映は、たまらずカギの名を叫んで心配した様子を見せてたのだ。

 

 

「ん? カギ?」

 

「久々に会ったつーのに、とんだ挨拶じゃねぇかチクショウ!」

 

「うへ! カギ!? カギに触られた!?」

 

 

 カギ、その名を聞いた少女はそこでふと我に返り、振る向いた。すると尻もちをつき、頭をなでながら体を起こす半裸のカギが居るではないか。少女はカギの姿をしかと見ると、今さっきカギに体を触れられたことを思い出し、嫌悪を感じる態度を見せたのだ。まあ、カギが半裸なのは水着だからであり、海では当然なのだが。

 

 

「……汚されちゃった……」

 

「ちょっと待てよ!? そこまで言うか普通!?」

 

「だってアンタ、キショイんだもん」

 

「グアアアアアアアッ!!?」

 

 

 少女はカギに触られたことがショックだったらしく、よよよと涙しその場にへたりこんだ。カギはそんな少女に、触っただけで大げさすぎる、まるで何かひどいことをしたようじゃないかと、叫んだのだ。そんなカギの声を聞いた少女は今の態度は嘘でしたと言った感じで元気となり、カギに対して気持ち悪いからだと言い出した。カギはそのことが非常にショックだったらしく、大魔法を食らったような声で苦痛の叫びを上げ、再びその場に倒れこんだのだった。

 

 

「あの、この子はカギ先生の知り合いですか?」

 

「お、おう……。コイツはアーニャ、故郷での”俺の知り合い”で”ネギの友人”だ……、グフッ……」

 

「そうなんだ……」

 

「私はそんなヤツの知り合いとも思われたくないけどね」

 

 

 夕映は今の一連の動作で、カギとそこの少女が知り合いなのではないかと考え、それをカギに聞いてみた。するとカギは少女の名を紹介し、ネギの友人だが自分の知り合いだと述べた後、地面に顔をつけてくたばった。

 

 そう、最初からわかりきったことだったが、この少女こそアーニャだったのである。アスナもカギの話を聞き、ネギの友人だと聞き少女の方を見ていた。だが、アーニャはカギの物言いすら不満があったらしく、知り合いだとも思われたくないと、期限悪そうに言い出したのである。

 

 ……()()()()アスナはネギの過去などを見たことがない。そもそもネギとアスナは仮契約自体していない上に、ネギがそう言ったことを見せる必要もなかったから当然だ。なので、ここで初めてアスナはアーニャの顔を見たことになるのである。また、それは夕映も同じことだった。

 

 

「随分な言われようですが、何かあったですか?」

 

「昔の黒歴史を掘り起こさんでくれんか……」

 

「は、はぁ……」

 

 

 何かアーニャと言う少女は、かなりカギに対してヒドイことを言っている。むしろ嫌悪しているように見えた夕映は、それをカギに尋ねて見た。コレほどまでに嫌われてるのは流石におかしい、何かあったのではないかと思ったからだ。

 

 しかし、カギは地面に倒れ伏せた上体で死んだような顔のまま、それは聞かないでくれと夕映に話した。なんとも痛ましいカギを見た夕映は生返事を返し、もうこの話はしないほうがいいと思ったようだ。

 

 ……カギはどうしてこれほどアーニャに嫌われているのかなどすでに察していた。ぶっちゃけ昔の自分を思い返せば、どれほど痛いヤツだったかぐらいわかると言うものだ。それを思えばアーニャにこんな態度をされても仕方がない。むしろ完全に無視されるよりはマシだと思うカギだった。

 

 

「あれ、みなさんどうして……、アーニャ?」

 

「このボケネギ!」

 

「あいたっ!」

 

 

 そうこうしている内に、ネギとのどかがその岩場までやってきて、アスナと夕映を見つけたようだ。また、そこに何故かいるアーニャに、少し驚いた様子を見せた。だが、そんなネギへと間髪居れず、ローキックを放つアーニャ。流石のネギも対応しきれず、それを足に受けて、痛いと声を出したのである。

 

 

「いきなりヒドイじゃないか!」

 

「だって帰ってくるって言って帰ってこないんだもの! こっちから来ちゃったじゃない!」

 

「確かに帰るって手紙に書いたけど、夏休み中としか書いてないよ!」

 

 

 久々に会ったというのにいきなりこの仕打ち。流石のネギも怒りを見せていた。だからネギがその文句を言えば、アーニャもまったく帰ってこないと叫び、逆切れしだしたのである。ネギはそんなことを言うアーニャに、帰るとは言ったがすぐではないと、声を荒げて説明した。

 

 そんなネギにちょっかいを出す少女に、のどかは驚き混乱していた。このネギと親しそうな少女は誰なのだろうかと。まあ、それにしても仲が悪そうと言うよりは、仲がよさそうだったので、大丈夫かな、と思っていた。

 

 

「でっ、そっちの人は?」

 

「ああ、こっちは僕の生徒で……」

 

「宮崎のどかです。よろしくね」

 

 

 だが、今アーニャが気にしているのはそのことだけではない。ネギの横で困惑している内気っぽい少女が、とても気になったのだ。なので、アーニャはネギへ隣の人は誰なのかと、ムッとした態度で聞いてみた。

 

 ネギは尋ねられて、取り合えず自分の生徒で、と前置きしてのどかを紹介しようとした。そこへのどかは自分から前へ出て、笑顔で名乗りだしたのである。

 

 

「あっ、私は綾瀬夕映です」

 

「私は銀河明日菜よ」

 

「ご丁寧にどうも。私はネギと幼馴染のアンナ・ココロウァです!」

 

 

 それにつられて夕映とアスナもアーニャへと、そっと自己紹介をした。アーニャも名乗られたのだから、自分も名乗るのは当然という感じで、微笑みながら元気よく自己紹介したのである。

 

 

「と言う訳で帰るわよ! ネギ!」

 

「え!? な、なんで!?」

 

「何でって、帰るって言ったじゃない!」

 

「だからすぐになんて言ってないって!」

 

 

 しかし、それが終わるとすぐさまアーニャは、ネギの手を引っ張り帰るのだと言い出した。ネギは何で今すぐ帰らねばならないんだと、困った顔でそれを聞いた。するとアーニャは、先ほどと同じく、ネギが帰ると言ったのだから、当然今すぐ帰るのだと叫んでいた。

 

 だが、ネギは今すぐ帰る気などまったくない。確かに手紙には夏休みになったら帰ると書いたが、当然その間の話であって、すぐという訳ではないのだ。ゆえに、腕を引っ張られるのに抵抗しながら、今すぐは帰らないとアーニャに説明したのである。

 

 

「俺は?」

 

「一生帰ってこなくていいから!」

 

「ガアアアアァアァァッ!!!」

 

「カギ先生……」

 

 

 そんなネギとアーニャがもみ合ってるところに、立ち上がったカギが自分はどうなのかをアーニャへ尋ねた。アーニャはとっさに一生帰ってこなくていいと、それに返したのである。まさかそこまで言われるとは思ってたのかなかったのか、カギは再び盛大な叫びとともに、地面に自ら倒れこんで伏せたのである。

そんなカギを見た夕映は少し不憫に思い、声をかけていたのだった。

 

 

「まあまあ、せっかく日本へ来たんだからゆっくりしていけば?」

 

「むっ……?」

 

 

 とは言え、はるばる日本へやってきたのだ。日本にやってきて今すぐ帰るのも、もったいないと言うものだ。とんぼ帰りなんて疲れるだけだし、少しぐらい休んでいけばよいと、アスナは苦笑しながらアーニャへ話しかけた。アーニャもそう言われ、確かにそうかもしれないと考えた。

 

 

「そうだよ、せっかく来たんだからさー」

 

「むむっ……」

 

 

 さらにネギが流れに乗るように、すぐに帰るのはもったいないと話した。久々に会った訳だし、積もる話もあるだろう。のんびりと休みながら、それを話し合ってもよいのではないかとネギは思ったのだ。そうネギに言われ、アーニャはそれも悪くないと思いはじめていた。

 

 

「おいしいご飯も出るみたいだし」

 

「むむむっ……」

 

 

 だが、極めつけにのどかが、宿ではおいしいご飯が出るからそれを食べていけばいいんじゃないかと、アーニャへ優しく話しかけた。アーニャも日本の食事には興味があったらしく、先ほどの二人以上の反応を見せた。そして、まあしょうがないと思いながら、そうすることにしたのである。

 

 

「あのー、カギ先生大丈夫ですか?」

 

「俺の心はボドボドだ……」

 

 

 そんな三人を他所に、夕映は精神的に死に体のカギへ話しかけていた。先ほどからアーニャに散々な言われようだったカギは、完全に精神が追いやられてしまったようだ。だから夕映はカギが心配になり語りかければ、完全に元気をなくし、地面に転がって這い蹲るカギが、もう駄目だと嘆くだけだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 まあ、とりあえずもう日も完全に傾いたので、旅館へと戻ったネギたち。そこへ待ち受けていた3-Aの少女たちはアーニャを見て、当然興味深々だ。そんなことだろうと思ったアスナは、アーニャのことをみんなへと説明していた。また、旅館ということもあり、3-Aの少女たちはすでに浴衣姿となり、リラックスモードであった。

 

 

「ええー!? ネギ先生とカギ先生の幼馴染の女の子!?」

 

 

 あやかを筆頭に、クラスのみんなは説明を聞いて驚いた。何せ突然現れた少女が、なんとネギの幼馴染だったのだ。普通に考えれば驚かない方がおかしいというものだろう。

 

 

「どういうことですの!?」

 

「何か里帰りが遅いから迎えに来た感じだったけど……」

 

 

 とは言え、どうして今、ここにネギの幼馴染が現れたのか、その理由がわからない。だからあやかはそのあたりを詳しく知りたく、アスナへと詰め寄ったのだ。アスナは詰め寄るあやかに苦笑しつつ、ネギを故郷につれて帰るべく迎えに来たと説明したのである。

 

 

「同い年!?」

 

「いーや、ひとつ上だ」

 

「かっ、カギ先生!?」

 

 

 ネギの幼馴染と聞いたハルナも、当然のごとくアーニャに興味を抱いていた。ゆえに、幼馴染とならば同じ年齢なのだろうかと、アスナへ興奮気味に問いかけたのである。しかし、そこで答えたのはアスナではなく第三者であった。

 

 突然別の方向から答えが返ってきたので、ハルナがその方向を見れば、普段通りのラフな恰好をしたカギが、何故かそこに立っているではないか。そう、アーニャのことをこの中で一番知っているのは、ネギを除けばこのカギなのである。

 

 

「カギ君は何でここに? 中に入らないの?」

 

「追い出されたんだよチクショウ!」

 

「あらら……」

 

 

 だが、ハルナには新たな疑問が発生した。カギもネギの兄であり、当然同郷のアーニャとは知り合いなはずだ。むしろ普通に考えれば、ネギと同じく彼女と幼馴染だと考えられるだろう。それなのに、どうしてネギとアーニャが居る部屋に入らず、自分たち3-Aと一緒に居るのだろうか、そうハルナは思ったのだ。

 

 それをカギへと尋ねれば、床に拳をたたきつけながら、悔しそうに追い出されたと叫んだのだ。ぶっちゃけアーニャはカギが嫌いだ。それにネギと二人きりになりたいアーニャは、カギを蹴飛ばし外に投げ出したのである。そんな答えを聞いたハルナも、流石にカギを不憫に思い、どう声をかけようか迷っていた。

 

 

 まあ、そんなカギや3-Aの娘たちに覗かれているなどいざ知らず、アーニャもネギも久々の再会を喜んでいた。いや、と言うよりも、アーニャは出された食事に舌を鳴らし、喜んでいた。

 

 なお、ネギもカギ同様私服姿であり、アーニャもここへ来た時と同じ恰好であった。ただ、アーニャは室内と言うこともあるのか、先ほど来ていた赤い服の下に白いシャツを着たり肩に半袖がついていたりと、少し露出を抑えた恰好となっていた。

 

 

「何これ! すっごいおいしい!」

 

「アーニャ、箸はこうやって使うんだよ」

 

 

 アーニャは目の前に出された天ぷらや寿司などの数々の和食に感激しながら、その味を確かめるように食していた。口に運べば体感したことのない、なんともいえない味が口いっぱいに広がり、ついついおいしいと言葉にするほどだった。

 

 そんなアーニャを見て笑いながら、彼女の箸の使い方がなっていないことを注意し、手本を見せるネギ。アーニャは箸と言うものを使ったことがないのか、フォークをつかむようにして握り締め、料理に刺して使っていたのだ。だが、ネギはしっかりと箸を握り締め、一対の箸でうまくつかむことが出来た。これこそが箸の普通の使い方であり、それをアーニャへ教えていた。

 

 

「わざわざ遠くから来た甲斐があるわねー」

 

「ところで兄さんは?」

 

 

 もぐもぐとうまい食事に手をつけながら、ご機嫌なアーニャ。日本へ来た甲斐があったと言葉にし、ご満喫のご様子だ。そんなアーニャにネギも嬉しそうにしていたが、誰か一人足りない気がした。いや、むしろ事実足りない、兄であるカギがこの場に居ないのだ。それをネギはアーニャへと、ひっそりと尋ねたのである。

 

 

「外? 何で?」

 

「アイツの顔を見てたら、せっかくのご飯がまずくなるじゃない!」

 

「えー!? 兄さんと僕とじゃほとんど変わらないよ!?」

 

「全然違うわよ!」

 

 

 するとアーニャは箸を動かし天ぷらを口にほおばりつつ、その質問は聞かれたくなかったと言う不満そうな表情で、指でチョイチョイとふすまをさした。それはすなわち、カギは外に居ると言うことだった。ネギはそれを理解したので、ならば何故カギが外にいるのかと、再びアーニャへ尋ねたのだ。

 

 アーニャはまたも気分が悪くなるような質問を聞いて、少しイラついた声を上げてその答えをハッキリ話した。カギの顔など見たくない、そんなものを見ながら飯など食えないと、叫んだのだ。

 

 ネギはそこで思ったのは、自分とカギとでさほど顔の形に差はないのではないかということだった。双子として生まれたネギとカギは、当然のごとくそっくりだ。カギは髪を逆立てているからこそネギと差別化されているだけで、髪型を同じにしたら見分けが付かないほどである。なので、カギの顔で飯がまずくなるなら、自分も同じなのではないかと思い、それをアーニャへ言ってみた。

 

 それを聞いたアーニャは叫ぶような声で、まったく違うと言葉にした。カギが大嫌いでネギが好きなアーニャには、まったくもって別の顔に見えるのである。まあ、実際カギは変態ゆえに、多少なりにネギより変な顔をすることが多いせいもあるのだが。

 

 

「あんなヤツの顔、見たくないしー」

 

「どうしてそんなに兄さんを嫌うの?」

 

「どうしてって、顔がスケベだし……」

 

「そ、そうなのかなぁ……」

 

 

 それ以上に嫌いなカギのツラなど見たくも無いというのがアーニャの率直な意見だった。しかし、ネギにはアーニャが何故カギを嫌うのか、その理由がわからなかった。だからそれを聞いてみれば、アーニャはカギの顔がスケベで変態的で生理的に受け付けないと説明したのだ。だが、ネギにはカギがスケベなのかどうか理解していなかったので、よくわからないという顔をするだけだった。

 

 

 その二人のやり取りを覗いてほほえましく思う3-Aの少女たちとオマケのカギ。そんなところでアーニャのカギに対しての暴言の数々を聞いたハルナや夕映は、少し哀れに思ったのかその本人の顔を見た。

 

 

「ああ言われてるけど?」

 

「今日のお前らの会話で重々承知だよチクショウ!」

 

「やはり昔からそうだったんですね……」

 

 

 そして、あんなこと言われてるけど文句はないのかと、ハルナはカギに聞いてみた。するとカギは非常に悔しそうな顔をしながらひざまづき、床を殴りながら叫んだのだ。そんなことは言われなくても、今日のハルナと夕映の話で理解できたと。

 

 そう、カギは昼間での二人の会話で、最初に会った時の自分の印象を聞いていた。それはかなり悲惨なもので、顔がスケベでむっつりでませたガキ、というものだった。つまり、昔からそんな顔でアーニャを見ていたなら、あれほど言われてしまっても仕方ないとカギは思い、過去の自分を悔やんだのである。

 

 また、夕映も昔からそんな感じだったんじゃないかと思っていたようで、呆れた顔をしていた。と言うか、そんなに小さい頃からスケベだったとか、ちょっと引くわー、と言う感じであった。

 

 

 まあ、扉の外でそうこうしている人たちをよそに、室内でのネギとアーニャの会話はいまだ弾んでいた。アーニャはふと、魔法使いの修行のことを思い出し、それをネギへと尋ねようと思った。

 

 

「そんなことより、そっちの修行はどうなのよ?」

 

「特に問題なく順調だよ?」

 

 

 アーニャが修行のことをネギへ聞けば、特に問題はないとネギは何も思わず言葉にした。ネギの修行は麻帆良で先生をすることであり、今のところ大きな問題を感じてはいなかった。まあ、確かに修行とは関係ない部分で、いろいろと問題が発生してはいたのだが。

 

 

「本当かしら?」

 

「嘘じゃないよー!」

 

「……まあ、それならいいけど……」

 

 

 しかし、アーニャはネギの言葉が少し信用できなかった。アーニャにとってのネギは、1歳年下の手のかかる男の子で、まだ独り立ちなんて出来るはずもないというのが印象だった。そのため、少し挑発的に本当なのかと聞いてしまったのである。

 

 流石にそう言われたネギは黙っておらず、嘘ではないと大きく叫んだ。それを聞いたアーニャは、少し考えて問題ないならいいか、と思い引き下がるようにそれを言葉にし、ネギの修行が順調なのは百歩譲って信じるとした。

 

 ……ネギは一応自分の兄弟子であり、あのギガントから指導を受けているのだ。こんなところで躓くのなら、師の面を汚すことになるだろう。それはネギにとってもよくないことであり、当然そんぐらいわかっていると、アーニャは思ったからだ。

 

 

「ちなみに私は順調よ?」

 

「どんな風に?」

 

「まー、最初は大変だったけど、今じゃ街の人たちと仲良くなったし」

 

 

 そんなことよりも、自分も順調で問題なく修行できていると自慢げに話すアーニャ。むしろ、自分が順調に修行出来ていることを、ネギに話したくて仕方がなかった様子である。

 

 とは言え、順調とは一体どう順調なのだろうか。ネギはそう思ったので、とりあえずそれをアーニャへ聞いてみたのだ。すると、昔を思い出すかのように、アーニャは自分の修行について語りだした。最初は大変だったが、今では街の住人とよい関係を築けたと。

 

 

「リージェント通り裏の占い師アーニャと言えば、もー結構有名なんだから!」

 

「へー」

 

 

 アーニャはさらに、リージェント通り裏では知らない人がいないほど、有名な占い師になったと豪語して見せた。まあ、その台詞の後に、一部で、とつけていたので、知る人ぞ知る、ぐらいなのだろう。ネギもそんなアーニャの話に、それはすごいなー、と思いながら、少し喜ばしそうに小さく返事をしていた。

 

 

「でも、ネギが順調だったとしても、あのカギはダメダメなんでしょ?」

 

「兄さんも最初はちょっと危なっかしかったけど……、今は全然大丈夫だよ!」

 

「えー? まったく信じらんない……」

 

 

 だが、そこでアーニャはネギの修行がうまくいっていたとしても、カギの修行がうまくいっているとは思えなかった。何せあのカギ、チャランポランでスケベで変態で、魔法学校でもさほど真面目に授業を受けてはいなかった。それでもネギと同じように主席で卒業できたのが、アーニャはいまだに信じられないのである。

 

 あのカギは一応特典を貰った転生者。魔法学校で習う魔法程度ならば、簡単に扱えたようだ。ただ、それ以外の部分はあまりよいとは言えなかったが、一応ネギと首席で卒業できるようには頑張ったのだろう。

 

 そうアーニャがカギを疑う中、ネギは問題ないと説明していた。確かに最初は無茶ばかりやらかし、先生とも紳士とも思えぬ行動ばかりが目立っていた。それも最近は落ち着いており、先生としてやれてきていたので、ネギも安心し始めていたのだ。

 

 それをネギがアーニャへ話すと、嘘にしか聞こえないと言葉にし、疑いのまなざしを向けるアーニャがいた。ネギは一応カギを兄として見ており、多少なりに敬いの心があるのをアーニャは知っていた。ゆえに、ある程度贔屓目で話しているのではないかと思ったのである。

 

 

「クッ……。弟のフォローが目にしみるぜ……」

 

「ネギ君優しいなあー」

 

「常に兄に気を使うなんて、さすがネギ先生ですわ!」

 

 

 扉一枚はさんだ廊下では、カギがまたもやうなだれながら、目に涙をにじませてそれを右腕で擦っていた。あのネギが自分を擁護してくれていることに、少し感涙したのだ。ハルナもそのネギの兄思いの優しさに関心し、あやかはネギに惚れ直したような様子で感激の言葉を叫んでいた。

 

 

「あっ、そういえば、4月ごろのことなんだけど、お師様が来てくれたわよ?」

 

「アーニャのところにもお師匠さまが?」

 

「にも? つまりネギんとこにも来たってこと?」

 

「うん、少し前までこっちに滞在してたんだ」

 

 

 まあ、廊下で騒いでいる人たちなど知らぬアーニャとネギは、話題を変えて別のことを話し出した。それは二人の師であるギガントのことだ。アーニャはギガントが4月ごろに顔を見せてくれたことを、少し自慢するかのようにネギへ語りかけたのである。

 

 だが、ネギのところへもギガントはやってきていた。なので、アーニャのところへも顔を見せたのか、と思いそれを口にした。それを聞いたアーニャは、まさかネギのところへもギガントがやってきていたのかと考え、尋ねて見た。すると、ネギは少し前までギガントが麻帆良に滞在していたことを静かに話した。

 

 

「なっ!? ずるい! なんでそれを教えてくんなかったのよ!?」

 

「な、なんで!?」

 

「むー……。まあ、こっちにも顔を出してくれたし、許してあげる」

 

「別に悪いことしてないと思うんだけど……」

 

 

 するとアーニャは突然怒り出し、ずるいと叫びだしたではないか。アーニャはネギがこの前までギガントに魔法などを教えてもらったのではないかと考え、それをずるいと思ったのだ。また、尊敬する師であるギガントに自分より長い時間一緒にいたということも、とても羨ましかったというのもあった。

 

 ただ、ネギは突然ずるいと言われても、困るばかりだった。何でするいのか、あまりよくわからないからだ。そんなネギを睨みながら顔を膨らませるアーニャだったが、自分のところにも顔を見せてくれたギガントのことを考え、ネギを許すことにした。しかし、ネギは何一つ悪いことはしていないので、何を許してくれたのかさえ理解できずにいたのであった。

 

 

「それで、お師様はどこへ?」

 

「用事があるって言って自分の故郷へ戻ったよ」

 

「そう……」

 

 

 そこでアーニャはふと、最近までギガントがネギの近くに居たと聞き、ならば今はどこへ行ったのかと疑問に思った。それをネギへと尋ねてみれば、ネギはギガントは用事のため故郷へと帰ったと話した。アーニャは故郷へ帰ってしまった師匠を思い、少し残念そうな顔をしていた。まだこの近くに居るのであれば、会いに行けるかもしれないと思っていたからだ。

 

 

「ところでお師様の故郷ってどこなのかしら……」

 

「そういえば僕も教えてもらってないなあ」

 

「お師様ってそう言うところは教えてくれなかったわね……」

 

「そうだね」

 

 

 また、アーニャはギガントの故郷と聞いて、どこがその故郷なのかと考えた。ネギも同じく今まであまり考えたことがなかったが、一体ギガントどこへ帰っていったのかと思ったようだ。

 

 何せギガントは”故郷へ帰る”とは言ったものの、”どこが故郷か”は二人に話してなかったのだ。確かにギガントは自分の住んでいる場所や国のことなどは、一切話してはくれなかったと、アーニャは思い出すかのように言葉にしていた。同じようにネギもそのことを思い出し、ギガントはどんな場所へ帰ったのかと少し考えてみたのだった。

 

 

「でも、いずれ教えてくれるでしょ?」

 

「うん、僕もそう思うよ」

 

「なら、気にすることなんてないじゃない!」

 

「それに、教えてほしいって言えば教えてくれるだろうしね」

 

 

 そのことに疑問を感じた二人だったが、いつかは教えてくれるだろうとアーニャは思い、それをネギに話した。ネギも同じ考えだったようで、微笑んでアーニャの言葉を肯定していた。

 

 それなら気にすることはないし、深く考える必要もない。アーニャはそう思って元気を出し、渋い顔を笑顔に戻してそのことを叫んだ。それにネギも教えて欲しいと頼めばきっと教えてくれるはずだと、アーニャに話していた。いつだってギガントは質問はしっかり答えてくれた。だから住んでいる場所を聞けば、必ず教えてくれるとネギは思ったのである。

 

 

 そうやって師匠談義する二人を見て、癒される3ーAの少女たち。流石は幼馴染同士で仲がいいなーと、お姉さん目線で見守っていたのだ。

 

 

「それにしてもお二人とも、結構仲がよさそうですわね……」

 

「それだけじゃないと思うよ?」

 

「何ですって!?」

 

 

 あやかも周りと同じように、仲がよくてすばらしいと思っていた。そんな時、突如としてハルナが、それだけではないはずだと、メガネを吊り上げながら言い出したのだ。あやかはハルナの突然の意見に驚き、それは一体どういうことだと声を荒げて尋ねていた。

 

 

「ネギ君の態度を見て気づかないの?」

 

「何を……?」

 

 

 あやかにそう尋ねられたハルナは、ネギの態度を見て何も思わないのかと聞き返した。しかし、あやかはそれが何なのかわからなかったようで、またしても何がなんだかと首をかしげて尋ね返していた。

 

 

「あの子と話してるネギ君はかなりくだけてる。つまり気を許してる。しかもタメ口!」

 

 

 ハルナはわからないと言う顔をする3-Aのクラスメイトに、説明するかのようにそれを語りだした。ネギはアーニャと会話している時、とてもくだけた感じで接していると。しかも、タメ口で会話しているのは非常に珍しい光景だと話した。

 

 

「あのネギ君がタメ口をきくのは私の知るところ、兄のカギ君とコタロー君のみ」

 

 

 それだけではない。ネギがタメ口を聞く相手は、自分が知る人物ではカギや同世代の小太郎ぐらいで、それ以外は敬語を使うとハルナは説明した。

 

 

「3-Aのみんなには例外なく敬語なのよ」

 

 

 さらに、ネギは3-Aのクラスメイトに対しては絶対に敬語で話し、タメ口を聞いたことはないとハルナは熱演した。

 

 

「つまり……、今気がついたけど、ネギ君には3-Aクラスメイトに対して心の壁がある!」

 

「心の壁!?」

 

 

 そのことを考えれば、ネギと3-Aのクラスメイトの間には心の壁があるのではないかと、ハルナは結論を豪語したのだ。心の壁、つまりネギは3-Aのクラスメイトを心の底からは信用していない可能性があるということだ。そのことに驚き、心の壁と復唱する3-Aの少女たち。このハルナの仮説には驚かざるを得なかったようだ。

 

 

「……それはねーよ」

 

「カギ君!?」

 

 

 だが、そのハルナの仮説に異議を唱えるものが居た。それはネギの兄であるカギだ。先ほどは床に倒れてうなだれていたカギだったが、なぜか今度は両手をズボンのポケットにつっこみ廊下の壁に寄りかかり、カッコつけるような態度でありえないと言い出したのだ。ハルナはその言葉に驚き、ハッとした顔でカギの方を向いていた。また、同じように3-Aの少女たちも、カギに注目したのである。

 

 

「いやまあ、確かに多少はあんだろうけど、アイツそういうとこかてーからさ」

 

「ふむふむ……」

 

「つか、会ってまだ半年ぐらいのお前らと、幼馴染で何年も顔合わせてるアイツと比べる方がおかしな話ってもんだぜ?」

 

「むむ……、言われてみれば……」

 

 

 カギは多少の心の壁はあるだろうと言いながらも、それ以上にネギは頭でっかちで礼儀正しすぎるところがあると話した。ハルナを含める3-Aの少女たちはそんなカギの話に、なるほど、と思いながらも静かに耳を傾けていた。

 

 ネギは基本的に礼儀ただしく、年上に対しては絶対に敬語で話す。それはあのタカミチにも言えることであり、年上への敬いの気持ちの表現でもある。さらに、ネギは先生としてこの麻帆良に来ているので、そう言った態度を普段から崩さぬよう努めているという部分もあった。だから3-Aのクラスの人たちには、いつも敬語で話すと言う癖があるのだ。

 

 また、出会って半年の3-Aのクラスのみんなと、幼馴染で何年も一緒に居たアーニャと比べるのはおかしいと、カギは語った。たった半年しか出会ってない数十人のお姉さんと、少ししか年が違わない上に同じ学校に通ったアーニャでは、違いがあるのは当然だからだ。

 

 カギはそれを説明すると、ハルナもカギの言うとおりではないかと唸りながら考えた。そりゃ長年お互いを知る中と、出会って半年の自分たちとは態度が違うのも仕方ないだろう。ネギの態度があまりに珍しかったがために、結論を急ぎすぎたと思い、ハルナは反省していた。

 

 

「流石ネギ君のお兄さんだねー。そう言うところもお見通しって訳ね!」

 

「そりゃ10年兄貴やってりゃ、見えねーところも見えてくるってもんよぉ!」

 

 

 そんなネギ博士のように振舞うカギに、ハルナは流石はネギの兄だと褒め称えた。そう褒められたカギはテンションを上げながら、ニヤけた顔で兄貴なんだから当然だと豪語したではないか。このカギ、褒められるとすぐに調子に乗ってしまう癖があるようだ。

 

 

「ですがカギ先生は結構私たちに対してタメ口ですよね……?」

 

「そういえばそうだね? 何でだろう?」

 

「グッ!? そっ、そりゃ生徒との距離を短くしようと必死で……」

 

 

 しかし、そこですかさず夕映のツッコミがカギの胸に刺さった。ネギが普段から敬語だというのに、逆にカギは自分たちへ常にタメ口だ。一体どうしてこんなに差があるのかと、夕映は疑問を口にしたのだ。ハルナもそういえばそうだったと思い、腕を組んで考えていた。

 

 カギは夕映のツッコミに思わずたじろぎつつ、冷や汗をかきながら必死に言い訳をしだした。自分がタメ口なのは教師と生徒の距離を縮め、間柄を良くするためだとか説明していた。

 

 ただ、実際はカギは転生者であり、生前は40年ほど生きていたおっさんである。さらにこの世界に転生してはや10年も経っているので、合計50年生きているとカギは考えていた。だから3-Aの少女たちが、自分より年上だとあまり思えず、そう言う態度になってしまっていたのである。

 

 

「まあ、別に気にしてないからいいですけど……」

 

「確かにネギ君みたいに固すぎても困るけど、カギ君みたいにくだけすぎても駄目かもねぇ」

 

「まあまあ、別にいいではありませんか。むしろネギ先生にタメ口をきいてほしいぐらいですわ!」

 

「いいんちょはブレないわねぇ……」

 

 

 しかし、3-Aはその程度のことを気にするような少女の集まりではなかった。夕映もつっこんでは見たが、別に大きく気にしている訳ではなかったのだ。カギが少し生意気な態度の方が、むしろ年齢にあっているとさえも思えていた。

 

 ハルナも同じ意見だったようだが、カギほどくだけすぎるのもどうなんだろうかと思ったようだ。それでもネギほど礼儀正しすぎても、少し困るかなーとも思っていた。

 

 だが、そんなことなどどうでもいいとばかりに、あやかはネギにタメ口を聞いて欲しいと、うっとりした様子で言い出した。ネギの自然な態度があれなのならば、そうしてもらいたいと思ったのである。いや、何と言うかあやかはいつもこの調子だと、横でアスナが呆れていたのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 先ほどの騒ぎが過ぎ、とりあえず落ち着いた3-Aの少女たち。一時はネギの幼馴染の登場でテンションがあがったようだが、今はある程度下がったようだ。そして、落ち着いたところで温泉があることを思い出した夕映とのどかの二人は、その露天風呂へと一足先にやってきていた。

 

 

「突然の出来事で驚きでしたね……」

 

「まさかネギ先生の幼馴染が現れるなんて……」

 

 

 二人は温泉に肩までつかりながら、リラックスしつつ先ほどの出来事を思い返していた。いやはや、突然のことだったので驚いた。こんなところにネギの幼馴染が登場するなど、予想できるはずもない。そう夕映が話すと、のどかも同じようにネギの幼馴染には驚いたと語っていた。

 

 

「しかも、随分仲がよさそうでした。流石は幼馴染と言った所です」

 

「うん、本当に仲よしって感じだったね」

 

 

 夕映はネギとアーニャの会話の様子を見て、とても仲がよいと思った。幼馴染であるならばあれが普通というか、当然なのかもしれないが、結構いい感じだったと思ったのだ。のどかもあの二人はなんだかんだ言って仲がよく、微笑ましいと思っていた。

 

 

「むしろのどかは危機感を覚えるべきです! このままではマズイですよ!?」

 

「えっ!?」

 

 

 が、そこへ夕映はそんなのんきにしているのどかへ、突如発破をかけるようなことを叫びだした。突然の夕映の変貌に、のどかは驚きの声を上げるのが精一杯だった。

 

 

「ネギ先生も随分親しい感じでした。幼馴染だから当然と言えば当然ですが、あれほど親しく話すネギ先生は見たことありません!」

 

「た、確かに……」

 

 

 あのアーニャという子は非常にネギと親しかった。幼馴染であるならば、そのぐらいでもいいと思える。ただ、あれほど親しい感じで会話するネギは見たことがないと、夕映はのどかへ語った。のどかも思い返せばそうかもしれないと、少し焦った様子を見せていた。

 

 

「もしかしたらネギ先生があの子に惚れてる可能性だって十分あるですよ!?」

 

「う、うん……」

 

 

 あれほど親しくするネギのことだ。アーニャと言う子に気があってもおかしくはないと、夕映は思った。だからこそ、のどかがネギと付き合いたいと思うならば、もっと危機感を感じるべきだと、夕映はのどかへ訴えかけていたのだ。

 

 だが、ここに来てまさかの強敵が現れるなど、のどかも思っていなかった。()()()()ネギに本気で恋をしているのは、今のところのどかだけだった。しかし、幼馴染と言う強敵が現れたことで、状況が変わってきたのだ。のどかとて、これは少しマズイと思ったが、あのアーニャと言う子が悪い子には見えなかったので、ちょっとのんきしてしまったのである。

 

 

 そうやってネギにどう気を引くかを作戦会議していた二人だったが、ここにもう一人客人が現れた。それはのどかのライバルになる可能性があると今話していた、アーニャ本人だったのだ。

 

 

「これが露天風呂ね!」

 

 

 アーニャは当然日本の露天風呂というのは初めてだ。ゆえに、はじめて見る日本の露天風呂というものに目を輝かせながら、珍しいものを見るように入ってきたのだ。

 

 

「あっ、アーニャちゃん」

 

「どっどうもです」

 

「あら、先客がいたのね」

 

 

 今噂していたアーニャがいきなり目の前に現れ、夕映とのどかは驚いた。何せこんな話を本人に聞かれたら、どうなることかわからないだろう。アーニャの様子を見れば、ネギに対して少なからず好意を寄せているのは明らかだからだ。それが恋愛的なものでなくとも、あの年頃ならば大きく反応するのは間違えない。だから、二人は今の話を聞かれなかったか考え、慌てていたのだ。

 

 ただ、そんなことを知らないアーニャは、特に気にする様子もなく先客がいたことだけに気を取られていた。いや、気を取られていたのはそこだけではなかったようだ。

 

 

「じー……」

 

「? 何か……?」

 

「なんでもない!」

 

「うん……?」

 

 

 アーニャは夕映とのどかの、何かを確認するかのように目を細めて凝視していた。不審に思った夕映は何をしているのかと尋ねれば、アーニャはハッとした顔でなんでもないと大声を出した。そんなアーニャの謎の行動に、のどかも首をひねるだけであった。

 

 と言うのもこのアーニャ、自分の胸の大きさにコンプレックスを抱いている。そのため、胸が大きい女性に対して敵意を燃やす癖があった。だから夕映とのどかの胸を見て、小さかったことに安堵していたのである。しかし、アーニャはまだ11歳であり、これから色々大きくなる年齢だ。今気にしても仕方がないと言うものなのだが、本人はそれに気がついていないのか、背伸びしたいのかはわからない。

 

 まあ、実際はネギが胸のでかいお姉さんが好みなのではないかと思っており、自分の不甲斐なさ(ペッタンコ)に悲しんでいるという部分もあるのだろうが。

 

 

「あっ、そうだ。お二人は確か魔法のことは……」

 

「はい、知ってます」

 

 

 とりあえずアーニャも湯船に浸かり、二人の近くへ寄っていった。そこで、ネギから夕映とのどかも魔法を知っていることを聞いていたアーニャは、それについて聞いてみたのだ。夕映は当然魔法を知っている。むしろ魔法使い見習いなので、知っているとアーニャへ答えた。

 

 

「そういえばさっき、お師様って言っていましたね。そのお師様と言うのは、もしかしてギガントさんのことですか?」

 

「お師様をご存知なの……ですか!?」

 

「はい、私たちもその方に魔法を教えてもらったですから」

 

 

 夕映もネギとアーニャの会話に出てきた”お師様”という言葉を思い出し、それについて質問した。ネギの魔法の師匠がギガントであるならば、同じようにアーニャがお師様と呼ぶ人物は同じなのではないかと、夕映は考えたからだ。

 

 アーニャは目の前の夕映が自分の師であるギガントを知っていることに、かなり驚いた様子を見せていた。ネギからはそのあたりについて教えられてなかったアーニャは、夕映は魔法を知っているだけの一般人だと思っていたのだ。それゆえアーニャは少しぎこちない丁寧語で、自分の師を知っているのかと逆に夕映へと尋ねたのである。

 

 ……”原作”でのアーニャは、年上の3-Aの少女たちにでさえ、タメ口を使っていた。だが、()()では少し違うようだ。何故ならあのギガントが、ネギと同じくアーニャにも年上の人を敬うよう教えていたからだ。故にアーニャは少しぎこちなくなってしまってはいるが、年上である夕映に丁寧な言葉を使っていたのである。

 

 夕映はやはりそうだったのかと思いながら、そのアーニャの質問に答えた。自分たちに魔法を教えてくれた人、それがネギやアーニャの師匠である、ギガントだったということを。

 

 

「あっ、そうなると私とあなたたちとは弟……妹弟子ってことに?」

 

「確かに、そうなるです」

 

「やっぱりそうなるわよねー!」

 

 

 アーニャは夕映とのどかがお師様(ギガント)の弟子ならば、二人が自分の妹弟子になるんじゃないかと考えた。夕映もそれを言われ、確かにと思いそれを言えば、アーニャはとても喜びながらやっぱりそうだと言葉にしてはしゃいでいた。

 

 アーニャは元々ネギの妹弟子であり、弟子では一番下だった。そこへ夕映とのどかと言う新しい弟子が増えたことで、自分が姉弟子となったことに、とても喜ばしく思っていたのだ。

 

 

「ところで、どんな魔法を教えてもらったんですか?」

 

「えーと、基本的な火を灯したり水を出したりする魔法から……」

 

「色々な治癒の魔法とか、後ゆえは水の転移とかも教えてもらってたね」

 

「なんか随分レベル高いじゃないの……」

 

 

 あのお師様(ギガント)の弟子となったのなら、ある程度魔法が使えるのではないかとアーニャは考えた。だから、どんな魔法を教えてもらったのかを、二人に聞いたのだ。

 

 夕映は修行のことを思い出しながら、何を教えてもらったかを少しずつ話し出した。基本的な魔法、火や水を出す魔法など、基礎は全て叩き込まれたことを夕映は懐かしむように言葉にしていた。そこにのどかも加わり、数々の治癒の魔法も教わったと話したのである。さらに、夕映が水の転移魔法などさえ使えることを、さらっと口にしていたのだ。

 

 それを聞いたアーニャは、二人のレベルが予想以上に高かったのか、驚くよりも呆れてしまったようだ。自分よりも修行時間が短いはずの二人が、これほどまでに成長しているなど、予想など出来るはずが無かったのだ。

 

 

「それなりの努力はしてきましたからね」

 

「教え方もわかりやすくて優しかったし、魔法が使えるようになったらすぐに上達できたよ」

 

「むー……。さすがはお師様……。一般人(ペーペー)をいとも簡単に平均的な、むしろそれ以上っぽい魔法使いにしちゃうなんて……」

 

 

 ただ、夕映ものどかもその分努力はしてきた。それは魔法だけではなく、学校生活におけることも含まれていた。学校の生活をないがしろにせず、しっかりと良い成績を出すこと。それがギガントは彼女たちを弟子を取るときに約束したことだ。のどかはさほどでもなかったが、夕映にとってはそこそこ辛い課題だった。

 

 何せ夕映は基本的に、自分に興味が無いものはとことん興味が湧かない性格だ。学校の勉強なんてどうでもいいと思っていた夕映は、最初クラスで下から数えるほどの成績だった。そんな夕映がしっかりと学校の勉強をし、テストで赤点を取らなくなったことは、誰もが驚いたことでもある。それは夕映が魔法を覚えるために、頑張ってきた証拠だ。魔法を覚えて魔法使いになることに、真剣に取り組んできた証だ。

 

 はっきり言えば、彼女として考えれば”それなりの努力”では納まらないほどの、苦しい思いをしてきたのだ。が、夕映はそれは別と考え、魔法の修行での意見としてその言葉を述べていた。つまるところ、逆に言えば魔法の修行は本当に楽しいもので、そんな苦すらも感じないほどに充実したものだったである。

 

 のどかもギガントの教え方はとてもすばらしく、覚えやすくてすぐに身に入ったと話した。柔らかい態度で重点をしっかり抑え、一つ一つ丁寧に魔法を教えてくれた。のどかはそれを思い出しながら、おかげで上達が早かったと説明したのだ。

 

 なんということだろうか。この二人は元々一般人であり、魔法使いでもなんでもなかったはずだ。それがどういうことでしょう。匠な業であっという間に魔法使いである。もはや魔法使い見習いなどと言うものではない。普通の魔法使いぐらい、いや、むしろ攻撃魔法以外ならばそれ以上のレベルではないかと、アーニャは考え驚いていた。

 

 だが、驚いたのは二人の魔法使いとしての成長速度だけではない。師匠が教えたからこそ、この二人は今のレベルにまで上り詰めたとも、アーニャは考えていた。いやはや、自分の師匠ながら恐ろしい人だ、ただの一般人が短期間でこれほどになるとはと、アーニャは大きな関心と、少しの呆れを感じていたのだった

 

 

「あの、アーニャちゃんはもう仮契約したパートナーとかいるんですか?」

 

「パク……!? そこまで教わってたの!?」

 

 

 師匠の凄さを再び垣間見たアーニャは、うーむと腕を組んで唸っていた。そんなアーニャにのどかは、気になっていたことをそっと尋ねてみた。それは仮契約のことだ。自分はネギと仮契約をしてパートナーとなっているが、アーニャはどうなのだろうと思ったのだ。

 

 しかし、その質問を聞いたアーニャは、何で突然そんな質問をと言う顔で、かなり驚いた様子を見せた。また、それもお師様(ギガント)から教えてもらったのかと考え、結構進んでいるのかも、と思ったのであった。

 

 

「そっ、そんなのまだしませんって……! パートナー選びは慎重にやらなきゃダメだし……」

 

「ああ……、魔法使いの仮契約はそう言ったものでしたね……」

 

 

 だが、何故仮契約と聞いただけで、これほどまでにアーニャが驚いたか。それは魔法使いにとっての仮契約は、基本的に伴侶を見つけるのと等しいからだ。魔法使いは男女が仮契約をかわし、そのまま恋人になることが多いのだ。それでアーニャがこんなにも驚いていたのである。

 

 ゆえに、アーニャは指をいじって恥ずかしそうな様子で、仮契約の相手は慎重に選ぶ必要があると、小さな声で口にしていたのだ。夕映も魔法使いの仮契約の意味をギガントから教えてもらっていたので、そういえばそうだったと思い出すかのように言葉にした。

 

 ……この話をギガントから聞いた時、のどかは随分と顔を赤くして倒れかけ、夕映はそれに大層喜んだりもしたものだ。まあ、その夕映本人はそのあたりをさほど気にせず、アーティファクトがほしいという理由だけでカギと仮契約を交わした訳なのだが。

 

 

「そ、それよりネギのヤツはどうでしょうね? もしやソチラとしたりなんかしてないですよね?」

 

「えっ!?」

 

「そんなはずないかー、ネギはボケだし」

 

「う……、うん……」

 

 

 アーニャは気を取り直し、それよりもネギはどうなんだろうかと話し出した。ネギはのどかと結構仲よさそうにしていたので、まさかとは思うが仮契約なんぞしてないだろうかと思ったのだ。

 

 のどかはアーニャのその言葉に肩を跳ね上げびっくりしていた。それは実際本当のことであり、カギとパートナーの仲だったからだ。

 

 しかし、アーニャは冗談で言ったらしく、ネギが仮契約なんてするはずないと、笑いながら言葉にしていた。ただ、それは冗談ではなく本当のことなので、のどかはあえて黙っていようと思い、湯船に沈みながら小声で肯定する返事を述べるだけだった。

 

 

「……カギ先生のことは聞かないのですね……」

 

「あんなヤツのことなんて知りたくもないので……!」

 

「そ、そうですか……」

 

 

 そこで夕映はアーニャがネギのことばかり話し、カギのことは一切何も言わないことに気がついた。だからそれを聞いてみれば、カギのことなど知りたくも無いと、首をプイっと逆に向けて少し不機嫌な様子を見せたのだ。夕映はやっぱりと思いながらも、そうですか、と言葉をかけるだけだった。

 

 

 そんな時にもう一人、この露天風呂に姿を現した。それはあの千雨だった。何気に千雨もここへきていたようだ。

 

 

「ん? なんだそのガキは? ……ああ、噂のネギ先生の幼馴染か」

 

 

 千雨はアーニャの騒動をよく知らないので、夕映やのどかの側で語らうアーニャが誰なのかと思ったようだ。だが、そういえばさっき、みんながネギの幼馴染が来ていることを噂していたので、その子がネギの幼馴染なのだろうと察したのである。

 

 

「あれ、昼間はどこにいたのですか?」

 

「ずっと宿にいたよ。海で遊ぶのはしょうにあわねーからな」

 

「それはもったいないような……」

 

 

 夕映は今頃になって登場した千雨に、昼間はどこへ居たのかと不思議そうな顔で聞いてみた。すると、千雨はずっと宿にいたと言い出したではないか。こんなところに来てまで部屋に引きこもりきりとは、流石としか言いようが無い。ただ、千雨は海で遊ぶのがあまり好きではないが、温泉は嫌いじゃないのでアスナたちについてきたのである。

 

 夕映はその千雨の話を聞いて、なんともったいなことをしているんだと思った。せっかく海に来たのだから、少しでもいいから遊べばいいのに、と思ったのである。

 

 また、さらに別の少女が、この露天風呂に顔を出した。千雨と同じくアスナたちとこの場所へやってきた焔だった。

 

 

「む……、その小娘は?」

 

「なんか突然現れたネギ先生の幼馴染だとさ」

 

「先ほど騒がしかったのはそれでか……」

 

 

 焔もアーニャを見て、何か髪型が少し似てるし一体どこのガキなんだろうと、疑問に思った。何せ焔もこの宿についてから、部屋から出ずに椅子に座り寛いでいたからだ。それを周りに尋ねるかのように言葉にすると、千雨がネギの幼馴染だと説明したのだ。焔は先ほどのクラスメイトの騒ぎようは、これが理由だったのかと、ここで初めて理解したようだ。

 

 

 だが、そうしている間にも、3-Aのクラスメイトたちがどんどん露天風呂へやってきた。

 

 

「おっ! 噂のアーニャちゃんじゃん!」

 

「む!?」

 

 

 そしてアーニャを見て元気に挨拶するのは、胸がでかい裕奈だった。裕奈はクラスでも胸が大きいほうなので、それを見たアーニャは何と言う大きさなんだ、と驚き変な声を出していた。

 

 ……裕奈は無詠唱の能力を持つ転生者アルスと、裕奈の母、夕子の友人のドネットの娘であるアネットと友人である。そのアネットはアーニャはネギと同じメルディアナの魔法学校の生徒だ。今はまだ在籍中であり卒業していないが、半年ほど前まではネギやアーニャと一緒に授業を受けていた中だった。そんなアネットの友人である裕奈は、アネットから友人の話を聞いたことがあったが、まさかその友人であるアーニャが目の前にいるとは思っていなかったのである。

 

 

 しかし、やってきたのは当然裕奈だけではない。さらに和美やハルナ、さらには楓や千鶴などのビッグマウンテンだらけの少女たちがやってきて、そのたわわな胸を見せ付けてくるではないか。アーニャはそんな少女たちの胸を目をパチクリさせて見ながら、困惑するばかりだった。

 

 また、最後に入ってきたあやかも胸は先ほどの人たちより小さいが、スタイルも良くてなかなかの体つきだった。一体どうしたらコレほどまでに大きくなるのだろうか。中学生なはずなのに、どうしてこんなにでかいのかと、アーニャは驚きながらも疑問に思ったのである。

 

 

「ねぇねぇ……、お二人のクラスの人たちって、みんな乳でかすぎでは……?!」

 

「そ、そう言われると確かにそうですね……」

 

「うん……」

 

 

 なんだろうこの人たち、胸が大きすぎるではないか。そう思ったアーニャは、その話を夕映とのどかに振ってみた。当然夕映やのどかもそう思っていたので、自分のあまりでっぱりのない胸を見ながら周りがどれだけすごいかを再確認するばかりだった。

 

 

「ぐー、なんて危険な場所なのかしら……!」

 

「危険?!」

 

「そうよ! こんな巨乳だらけの場所は危険よ!」

 

 

 先ほどは驚いていたアーニャだったが、今度は突然危険だと言い出し怒り出したではないか。一体何が危険なのかと夕映はアーニャへ尋ねれば、胸がでかいお姉さんだらけの場所が危険だと叫びだしたのだ。

 

 

「男はあーゆーのに騙されてついてっちゃうんだわ! カギのヤツを見てればわかるわ!」

 

「え? まあ……、カギ先生ならありえなくはないですが……」

 

 

 男というのは胸がでかい女に簡単に騙されてしまう。それはあのカギを見れば一目瞭然だと、アーニャはプリプリ怒りながら語りだした。それはカギだけではなく、ネギも誘惑されてしまわないか心配だという意味でもあった。夕映もカギならば、騙されるかもしれないと思い、間違ってないと静かに頷いていた。

 

 

「……まあ、あなたたちなら仲良くなれそう……」

 

「はぁ……」

 

「どこを見て言ってるんだ……」

 

 

 そして、アーニャは自分の平らな胸を再び見た後、夕映とのどか、さらには焔の育ちきっていない小さな胸を見て、そちらとなら仲良くなれそうだと述べていた。夕映は何を定義して仲良くなれそうだと言ったのかわからなかったので、生返事でそれに答えていた。また、焔はアーニャが自分の胸を見てそう言ったのを理解したので、何故胸を見てそんなことを言うんだと、呆れながら言葉にしていたのだった。

 

 


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